流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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45話 時代の終わり

水希「でもさ、アンタはそれで良いの? リンドヴルムとはそれなりに付き合いはあるんでしょ」

 

唐突に野暮なことを訊きだそうとする水希。

目と鼻などの容姿を表すパーツが無いながらも、クラウンはわずかに表情を曇らせていた。

 

信武「おい水希――!」

クラウン「構わん。……むしろ好都合じゃよ。彼奴(きゃつ)の、生き地獄とも言える生涯に終止符を打てるのなら、言うこと無しじゃ……」

 

しかし、その行動を(たしな)めようとする信武を制して、クラウンは自らの胸の内を吐露し、訊いた本人もバツが悪くなり、詫びを入れようとした。

 

水希「……ごめん。気を使わせて……」

クラウン「謝るくらいなら訊くでない」

 

あるべき居場所と存在意義。その二つを失くしてから復讐を生き甲斐とする姿など……見るに堪えなくて当然のこと。

それを判っていて尋ねるなど以ての外だろう、と悪態をつくのだった。

 

信武「……ところでさ、前から気になってたけど、ユリウスって結局何者なんだ?」

 

一区切りついた所で話題の切り替えも兼ねて尋ねたのだが……水希の口から答えるまでに時間を要した。

 

何しろ部外秘とされている情報だが、日記に名前も記してあるから……そろそろ潮時だろうか。

 

しばしの逡巡(しゅんじゅん)を経て、意を決して語り始めた。

 

水希「……世界中でも類を見ない実績を持つ、名高い科学者。ヨイリーおばあちゃんが生み出した――最初であり、最強のバトルウィザード」

信武「バトル、ウィザード? ……って、ちょっと待て! お前、あのヨイリー博士と面識があんのかよ?!」

 

途切れ気味にその単語を復唱し、意外すぎる人物との交流を知って愕然とする。

製作者であるヨイリー博士に関しては、歴史や科学の教科書にも載る程度に知れ渡っているのだが……肝心の〈ユリウス〉については皆目見当もつかない。

 

そんな信武の反応を見て、無理もないと心中を察して話を進める。

 

水希「そう。バトルウィザードはおろか、トランサーですら世に出回ってない頃の話だよ」

 

一拍を置き、本題に移った。

 

水希「今から13年前……小学一年の夏休みに、とある研究施設に訪れてね、そこでおばあちゃんとユリウスに出会ったの。

面会の理由は、リヴァイアの力を借りて、電波変換して戦える僕の存在を知ったことで、おばあちゃんの興味を引いたんだと思う。

もちろん僕自身も、()()()()()()()レベルの人工生命体だと聞いてから子供心をくすぐられて、面会に応じたの。

 

―――その裏で、他の科学者から実戦データを取られてると知らずにね……」

 

信武 (いつからか他人に無関心だったとはいえ、まだ小さい頃なら、そこまで酷くはなかった。

――とはいえ、そんな水希でさえ好奇心に駆られるなんて、よっぽどなんだろうけどな……)

 

幼少期から共に過ごしたからこそ、知り得なかった過去を聞く上で、水希本人の人となりについて腑に落ちる点が浮かび上がった。

……というのも、水希がまだ()()()()()()()()()()

 

幼かった頃の信武を相手に『オバケみたいなものが見える』と誤魔化したが、実際はビジライザーといった道具無しに、電波世界を肉眼で視認できる力を保有していた。

 

それ故に、リヴァイアやユリウスといった()()()()()()()()()()に惹かれやすいのも、言ってしまえば親近感によるものだと思われる。

 

そのように考察する最中、水希はある能力が使えない事実に内心もどかしく思った様子。

 

―――〈透視(ビジブル)記憶の回帰(レミニセンス)〉。

過去を呼び起こし、条件付きながら相手にも水希の過去を見せることが可能な力。

 

ただ使うにあたって、内容次第で絶望に陥れかねないが、口頭で説明できない部分を補足しやすいメリットもあるにはあるのだ。

 

水希「もう少し、詳しく説明できればいいんだけど………落ち着いた時に良い? ちゃんと話すと約束する」

 

リヴァイアが戻ってくることを信じた上で、過去と向き合う機会を設けたい旨を伝え、信武は首肯し質問を変える。

 

信武「……それじゃあ、そのユリウスとは、レティと何か関係が――――!?」

 

その刹那。不穏な気配を感じてか、質問を中断して水希を押し倒したかと思えば、覆い被さるように庇おうとした。

 

水希「……しのぶ? ―――ッ!?」

 

行動の意図を知る直前に鼓膜を破るほどの音が炸裂して、堪らず目を瞑ってしまう。

それと同時に衝撃波が迫るのだが、事前に信武が身を挺して庇ったおかげか、吹き飛ばされずに耐え忍んだ。

 

クラウン「巻き込まれ損でヤな感じー!」

 

……悪役の退場シーンよろしく、叫び声を上げてふっ飛んでいったクラウンを除けば。

 

 

そうして衝撃波が止んだかと思えば、間髪入れずに地鳴りが発生。

それと同時、盾を持つドクロ兵が独りでに顕現し、傘開くように盾を変形させ、木の枝からの落雪を防ぐ。

 

 

……やがて地鳴りが止む頃。

雪を払い落としてから姿を消すと、水希達は体を起こしてすぐさま戦況把握のために海辺を見渡し……驚愕のあまり絶句してしまう。

 

視線の先にあるのは……苛烈さを増す戦闘によって生じた、加減も容赦もない爪痕。

それに加え、激戦を経てなお息を切らさず、平然とした佇まいで睨み合う両者。

 

推定でも半分以下の実力しか見せていない両者が、全力を発揮しようものなら……まず間違いなく、ニホン全土を中心に地獄と化している事だろう。

 

想像すればするほど、脅威的存在だと再認識させられる。

 

水希「……ねぇ、信武。二人の(もと)へ連れて行ってくれる?」

 

そんなことを考え耽るなか、水希から名指しで呼ばれ、顔色を窺いながら尋ねられたものの……流石の信武も困り顔になってしまっている。

 

信武「……今の惨劇を見て、危険だってことくらい判るだろ」

水希「そうだけど……お願い……」

 

状況を鑑みずに頼み込む水希に、無謀すぎるぞと諭そうとしたのだが……、いつか進路について打ち明けた時と似通った、真剣な眼差しを向けられて口をつぐんでしまう。

 

信武 (……あぁ、この調子じゃ、どうせ言っても聞かなそうだな……)

 

水希が相手だと押しが弱くなる性格を、悪癖だと自覚しているが、腐れ縁であるが故に止めても無駄だと悟り、妥協できる範囲内の提案をした。

 

信武「前線に出られたとしても、退却すべきかは俺が決める。……異論は?」

水希「無い。その辺は任せるよ」

信武「へいへい……」

 

向こう見ずな水希の無茶振りに、なんやかんや応じてしまう自身の甘さに心底呆れながらも、溜め息混じりに了承するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希達が話をまとめる数分前に遡る。

 

 

途轍もないスピードで一面に降り注がれる雹弾を、不快音を発する無数の赤黒い球が応戦する。

 

雹弾は球に引き寄せられるようにして、衝突。――否、触れた一瞬にて粉々に掻き消され、速度を殺さず肉薄。

 

しかし、レティの攻撃が届く前に、凍ったはずの海が螺旋を描くように上昇し………激流に飲まれ、相殺。

 

その流水が六本に枝分かれしたと同時、ドリル状に変化。

旋回させながら追撃として放たれる………だが、レティは眉一つ動かさず、既に軌道を見切ったかのように難なく躱す。

 

よって、明後日の方向に飛来した流水。その内一つは山沿いの崖に激突。

向こうの空が見えるほど大きな風穴を開けたが……その合間に気配が消えた事に勘づいて、口頭で告げず瞬きの(のち)に【透視(ビジブル)】を発動させる。

 

……紅い瞳が、微かに輝きを増した。

 

何故それを扱える? ――リヴァイアを己の()()()と称したならば、先天的に付与された能力だろうから。

 

何より、本来の使用法と逸脱して、()()()()()を使い道としていたから。

いくら天災を打ち消せるとは言えど、迅速に対処するに越したことはない。

 

それもこれも、生まれ育った故郷で護神(まもりがみ)としての役目を全うした所以だからだろう。

 

……ともあれ、用途は言わずもがな、索敵だ。

 

ゲートを介して異空間へ潜んでいるとすれば、視野を全方位に広げることで、どこから来られても対応可能。

 

そう踏んで、次の行動を練ろうとした刹那。

 

レティ「―――はァッ!!」

 

リンドヴルムの背後に回り込み、両手に握り直した軍刀を、雄叫びを上げながら豪快に振り下ろす。

 

その余波で生じる斬撃が、水平線にまで向かうように砂地と海面を割いていく。

そんな現象を〈奇跡〉と喩えるには些か惨いものだ。何しろ地響きが伴っているのだから。

 

紛うことなき怪物同士の争いによって、人気(ひとけ)のない海辺は本来の景観が損なわれるまでに荒れ果ててしまったが……未だ決着がつかない模様である。

 

レティ「チッ……デコイか」

 

その証拠に全く手応えが感じられなかったのか、苛立ちを隠さずに顔を顰めるレティ。

 

リンドヴルム『的が大きいから狙いやすい。……などと思い上がってるようでは話にならんな』

 

大気中に凝集させた霧から姿を現して嫌味ったらしく(なじ)るリンドヴルムを睨みつけ、どのような手法で回避できたのか?

それを理解するために思考を巡らせる。

 

まず、撹乱させる為の(デコイ)として残像を生成した原理だが……恐らく、水希が編み出した〈ミラージュ・ドール〉と酷似している。

 

それも、斬撃が当たる数瞬前にて発動するものだから。

機転を利かせて回避行動を取れる辺り……やはり戦い慣れている。

 

レティ「フン、小賢しい真似を……大人しく殺られてなさいよ老害」

 

不機嫌じみた口調で貶すと、尋常じゃない速度で雹弾が放たれたが、紙一重のところで回避する。

 

レティ「……いくら更年期だからってそこまでする?」

 

リンドヴルム『減らず口の多い羽虫を顔ごと吹き飛ばすつもりだったがな……。やはり腕は鈍っておるか……』

 

レティ「乙女の顔を傷モノにするどころじゃないわね……」

 

至極物騒な返答に苦笑を禁じ得なかったが、途端に真剣な顔付きへと切り替わる。

 

レティ「一つ、訊いてもいいかしら?」

 

リンドヴルム『…………いいだろう』

 

不意に攻撃の手を止めたものだから、怪訝そうに睨まれても仕方のないと内心思い、彼からの了承を得たことで問を投げた。

 

レティ「同胞に恨み辛みがある気持ちは判らなくもないけど、もし仮に復讐を遂げたとして……その後どうするつもり?」

 

リンドヴルム『――支配だ。あの愚王に代わって、我が新たなる王となり、民を統べる。……その為にも、障害となるものを排除するのが先だがな』

 

レティ「そう。その心意気は確かなんでしょうけどね……止めておきなさいよ。今更そんな悪足掻きをしたところで、心が擦り減るだけじゃない」

 

……そんなこと、言われるまでもなく理解している。

恐怖を植え付けての統治こそ、悪足掻きに過ぎないことを。

それを成し遂げたところで、根本的な解決に至るはずも……心の傷が癒えることすらない、と。

 

なら、他にどうしろと言う? 世界の行く末を、指を咥えながら眺めていろとでも?

 

だが一切、忠告に耳を貸すまいと雹弾を放つ。

………かと言って、相殺させられるだけの力を有するレティに攻撃が届くわけでもないが。

 

レティ「かく言う私自身も、生まれて間もない頃から忌避される存在だったからこそ言えるのよ……。

頼んでも無いのに勝手に生み出されて、役割を与えられて、気が狂いそうな程の苦痛から逃れられず……誰にも理解されないまま孤独に生き続けてきたから。

―――でもそれら全てを、割り切るしかなかった。たった、それだけしかできなかった……」

 

表現するには曖昧で、具体的でなかろうと、レティの言葉には重みを感じられる。

一部分だけ違っていたとしても、過去の自分と重ね合わせるだけの苦痛を受けてきている。

 

そう確信めいて、同情の言葉を投げかけた。

 

リンドヴルム『……随分と難儀な生き様だな』

 

レティ「お互い様。……でしょう?」

 

リンドヴルム『そうであろうな。……だが、だからと言って、今更意見を変える気は毛頭無い』

 

レティ「あっそ。なら――」

 

身を竦ませてしまうほどに重苦しい殺気を向けて、告げる。

 

レティ「精々、後悔しなさいな……」

 

勝手な都合で御払い箱にされ追放されようと、望郷の念を捨てきれずにいるのは無理もない。

 

……だが、だからといって、復讐の果てに心の傷が癒えるとは限らない。 ―――成し遂げたとして、空しいだけだ。

 

それを早くに理解し、無駄な足掻きだと悟ったが故に、彼の行いを徹底的に否定する。

 

無論リンドヴルムも、彼女なりの説得を拒絶し続けるのだが……抵抗虚しく、勝敗は呆気なく決した。

 

リンドヴルム『――ぐ、うっ――!』

 

一際強く打たれる鼓動を聴いた瞬間。内臓が灼けるような痛覚と圧迫感を感じて、動きがあからさまに鈍ってしまっていた。

 

レティ (やっと効いたか……。そんな猿芝居で誤魔化そうたって無駄よ。ノイズを浴び続ける悪影響を、その身をもって思い知ったのならね)

 

呻き声を上げて瞠目するリンドヴルムを他所に、レティは勝ち誇ったかのようにほくそ笑む。

 

 

異変の原因は、攻撃する際に放った()()()()

―― 名称、【クリムゾン】。平たく言えばノイズの集合体である。

 

その球体を放つ際にハッキングプログラムを織り交ぜ、耐性の基盤となる【順応化】を消し、加えて【ノイズ侵食促進化】を付与するよう体内を(いじく)った。

……となれば尚更、満足に身動きも取れないことだろう。

 

要するに攻撃はあくまでフェイクであり、先の質問においても、効果が現れるまでの時間稼ぎに過ぎなかった……という訳だ。

 

レティ「数十年振りに目覚めたばかりだもの。無理ないわ。どんなに力を蓄えた所で、()()()()()じゃ勝てる相手に敵う道理がない」

 

リンドヴルム『…………ぅぐ、だが、良いのか? 汝が、我を殺そうものなら……リヴァイアも道連れになるぞ?』

 

レティ「別に問題ないわよ。虚勢を張るなら張るだけ、甚振(いたぶ)り甲斐があるだけだから。

――楽に死なせてあげるほど優しくないのよ。私」

 

嗜虐的な発言をして、それでいて殺す気は毛頭ないと宣う。

 

薄々気づいていたとはいえ、はじめからレティの掌の上で踊らされたことを、改めて理解した。……嫌でも理解させられた。

 

リンドヴルム『〜〜ッ、おのれぇぇえええ!!!』

 

悔恨と厭悪が入り混じった視線を向け、声を荒げながら苦し紛れに高水圧の咆哮を放つが、身軽な動作で躱されてしまい……とうとう戦えるだけの余力は失せ、万策尽きてしまったようだ。

 

レティ「これはあくまで経験則に過ぎないけれど……どんなに辛い出来事に遭遇したとしても、時間が解決してくれることだってある。

だからこそ、行く末を見届けるのだって、別に悪いことじゃないのよ?」

 

リンドヴルム『知ったような、口を、……ぐッ』

 

レティ「……それでもまだ納得できないんだったら、何度でも言ってあげる」

 

軍刀を突きつけた瞬間。

火、水、雷、風の属性を宿した四色の光と、万物をも無に帰す【クリムゾン】。――それら五色のエネルギー弾を展開し、スパークを迸らせながら点と点を結ぶように、円を描いていく。

繋がれて、光度が高まりだした時。各色のエネルギー弾から光線が……軍刀の切先へと流れついて、すべての属性が混ざり合うように凝集させる。

 

殺せば道連れ? だからどうした。それで脅しのつもりなど片腹痛い。

そこまで往生際が悪ければ、こちらも形振り構わず滅してくれようではないか。

 

そう言わんばかりに冷酷な眼差しを向けて、死刑宣告する。

 

レティ「……老害。アンタの時代は終わったのよ」

 

水希「待って!!」

 

直前になって戦場に戻ってきた水希が制止を促す。

 

しかし、既に最大限にまで集まった力を暴発しようものなら――

 

レティ「NFB(ノイズフォースビッグバン)――〈カラミティ・レイ〉」

 

―――聞き入れる以前に判断を誤るな。

 

そう自己暗示を掛けるように、切先に集うエネルギーを躊躇なく放射した。




次回「災厄の日(アポカリプス) 終結」
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