海水をも蒸発させ焦土と化すほどのエネルギー量を持った光線が、広範囲に照射される。
レティが無慈悲に放ったそれは、恐らく数億の大群を滅するためにある
故に、範囲内であれば即死は確実。
掠ったとして、火傷どころか部位欠損は免れやしないだろう。
尤も。あくまで
水希「…………え」
閉じきっていた瞼を恐る恐る開け、視界がクリアになる。
そうして、目の前の光景に驚きを隠せず声が出てしまう一方で、声には出さないが信武も、水希と同様に呆気に取られてしまっていた。
それもそうだ。まともに攻撃を受けていれば跡形も残らない筈だが……現に
それこそリンドヴルムが死なば
レティ「言ったでしょう? 楽に殺してあげられるほど優しくないって」
水希「レティ……やりすぎじゃね?」
いつの間に、爪先が海面に触れる寸前まで降下したレティがしたり顔で言いのけた。
おまけにウィンクまでするものだから、いくら責め咎めようと取り付く島がない。
レティ「細かいことはいいの。ほら行きなさい。ケリをつけに」
水希「……うん!」
しかし結果がどうであれ、またとない機会を作ったレティへ謝意を示すように笑みを向け、信武に横抱きにされたままリンドヴルムの元まで近寄る。
水希「信武。少しの間、降ろしてくれる?」
信武「……ホントに立てるのか?」
水希「大丈夫――っと……ごめん」
信武「ったく言わんこっちゃない」
砂地に足を付けた途端よろけてしまう。
どうも見る限りでは、水希の足下はフラついており、一瞬意識も途絶えかけてはいた。……しかし、悟られまいと必死に笑って誤魔化す姿を、信武が見過ごすはずもないが……無茶を承知で対話をする気でいる水希の意思を汲み取るように、呆れながらも体を支え、ようやく本題に入ろうとした。
水希「クラウンから話は聞いたよ。アンタもアンタで、苦労してきたんだね」
リンドヴルム『……この期に及んで、同情のつもりか? ……要らぬわ。小僧一人に憐れまれるなど、我とて一生の恥でしかない』
か細く弱々しい声音で、疎ましそうにして言い放つ。
リンドヴルムの相変わらずな反応に、水希はまったく歯牙にもかけず肯定した。
水希「……そうだね。否定はしないよ。アンタの境遇を聞いてから可哀想な奴だと思ってる。異端であるが故に、孤独を強いられる所とか……ユリウスとそっくり」
リンドヴルム『そうやって、汝は今も昔も変わらず、不憫に思うてから声をかけるのか……?』
水希「さぁ、どうだか。単に仲良くなりたいな〜って、我ながら年相応のことを思ってただけだよ。
だからこそ、もっと早くアンタのことを理解できたなら……僕達、変われたのかな?」
それは、あり得たかも知れぬ【未来】であり、水希の語る理想の一つ。
それは、あり得てほしかった【過去】でもあり、話を聞いていたリンドヴルムも、確かに内心
……しかし、それはもはや、叶いもしない願望となっている。
こうして【
リンドヴルム『………御託はもう良い。本音を言え』
戯言になぞ付き合ってられるか。
そう吐き捨てるリンドヴルムに辟易としながら、水希は「わかった」と前置きをして本音を告げた。
水希「……やっぱり、諦めたくない」
リンドヴルム『だが復讐は諦める、とでも?』
その瞬間。場を凍てつかせる程の殺意を向けるのだが、冷静を装いながらも強張ってしまう信武を他所に、水希は場数を踏んできているだけあって全く臆すことなく正視する。
水希「掌返すようで悪いとは思ってるよ。殺してやりたい気持ちも抜けてないしね。……だからといって、ずっと
それこそ、
リンドヴルム『事が運ぶ寸前で追い返された上に、皆殺しにしてやるとほざきおって何が絆だ……矛盾しておるではないか』
水希「バーカ。んなもん理解してるっつーの」
まるで三年前の惨劇を見透かした上で、水希に物申すリンドヴルム。
内心驚きはしたが、眠る最中に夢見のごとく眺めていたならば、お見通しだと言われること自体想像に難くない。
水希「それでも、立ち向かうしか方法がなかったから……大吾さんの言葉を、願いが現実となる日が来ることを信じて、今まで生きて来られたの。
……でも、アンタは逆。何もかも諦めて、自分が変わろうとすることを放棄してる。……それってさ、虚しいって思わないの?」
この上なく耳障りな綺麗事を並べられた挙句、憐れみの視線を向けられては、流石のリンドヴルムも憤慨してしまう。
リンドヴルム『ならば貴様に何が判る? 思い入れ深き住処を、唯一の居場所を奪われ、あの忌まわしき屑共に厄介者扱いされる苦しみが! 貴様如きに判るか!?』
水希「判らなかったら、理解を示そうとしなければ、とっくの昔にリヴァイアと縁を切ってる」
リンドヴルム『何を、訳の判らんことを……』
狼狽える暇を与えずに、水希は話を続ける。
水希「確かに僕は、アンタと違って居場所を失わずに済んだけど、大抵の人間からやっかみを受けてきて、本当に生きる意味あるのかって、不安になる日は多かった……。だから、アンタの苦痛がわかるから、こうして立ってるの」
置かれた環境が似て非なるものであっても、他者からの非難を受け疎まれ続けてきた境遇が、
水希「……どうせアンタのことだから、全部見てたんでしょ? 最初の暴走から今に至るまで。
過ぎたる力を以て人を傷つける以上に、大切な人を失うのが何より怖くて嫌だから……、一生離れないでってワガママ言って、一緒に強くなろうって誓いを立てたことも。そうでしょ?」
信武「水希……」
不安げに声をかける傍ら、水希は次第に声を荒げながら胸中を明かした。
水希「どんなに凶悪な力を持っても、忌み子として生まれてきたとしても、関係ない!
それくらいに、リヴァイアはかけがえない存在なんだ!!」
だが、いくら共感できるからといって、結局はリヴァイアを返せと強要しているに過ぎず、そのくどさが益々リンドヴルムの不興を買うこととなる。
リンドヴルム『笑止……戯言が過ぎるぞ青二才! そんな綺麗事を吐きおって、我が怒りと憎しみが風化するとでも思うておるのか!?』
水希「思わない。……だから言ったでしょ、どう転ぼうと立ち向かうしかないの。やられたらやり返すし、和解できそうなら善処する。それだけだよ」
先程までの弱り具合から一転して、己の行動理念を一切迷いなく告げる姿勢に、流石のリンドヴルムも困惑し圧倒されてしまう。
リンドヴルム『……なんとも、無茶苦茶ではないか……』
水希「それが僕だから」
……同時に、悟った。
発言に迷いが失せたのは、仲間の存在を認知して、心を持ち直したからであると。
リンドヴルム『………ならば、悔いの残らぬよう精々抗え。そうして、汝の夢が実現しようものなら、我自ら
風景に溶け込むように存在が薄れていく。
かつて護神として崇められ、程なくして忌避されてしまった哀れな怪物は……無念晴らす間もなく、未練を残したまま消滅していった。
水希 (……終わった、んだ……)
虚脱感に襲われ、そのまま眠りにつく直前。
「兄ちゃん!」と、聞き覚えある声に呼ばれ、再度意識を繋ぎ止めた。
声のする方へ向くと、ロックマンに変身したスバルが駆けつけたようだった。
水希「……スバル? どうやって、ここまで?」
スバル「あぁ、それなんだけど……」
『ワシが案内をしたのじゃ』
スバルが説明するより先に登場したクラウンが、妙に誇らしげにして事の次第を簡潔に述べる。
水希「へぇ、戻んの早いね」
クラウン「軽っ! 他に言う事くらいあるじゃろ!? そうじゃろう信武??」
信武「いつもの事じゃん」
クラウン「誠に遺憾じゃボケェェ!!」
変わらず雑な扱いを受けキレ散らかすクラウンを他所に、スバルは水希の無事を知って、心の底から安堵の声が出た。
スバル「本当に、無事でよかった」
水希「うん。来てくれ、て……あり………」
しかし、限界まで保っていた意識を落としてしまい、世界から切り離された今、声や光も届きはしなかった。
◆◆◆
夢を見た。
取り返しのつかない罪を犯した
だがそれは、己の罪を忘れ、償いの意志すら風化させてしまうのではないか。
その恐怖が勝り、然と焼き付けろと自戒するべくして、何度も……何度も何度も、嫌というほど見てきた。
罪を認め、受け容れるということは、それだけに過酷なものだと知って……。
だけど、今回はまったく違うらしい。
まるで闇に飲まれているようだ。
そう呟いてしまいそうなくらい、果てなく黒一色の何もない空間に、自分だけが立っている。
世界から自分という存在が切り離され、幽閉されているような感覚だ。
スバルと言葉を交わしたのが最後。その後の記憶なんて、意識が途絶えているのなら確かめる術もない。
『……死んじゃったのかな……』
ふとそんな思いが過り、声に出してしまう。
信武に勝ちたい思いも加味して早まった結果、無茶な戦い方をした反動が凄まじいのだから。人の身に余る力だということを身に沁みて理解できたが、果たして戦線復帰が可能なのか。
その不安が、心を埋め尽くそうとする。
だけど今、戦える人材が、心強いと感じる味方がいてくれるから夢を託すのも悪くない……のだろうか。
……だとしたら、引き際、なのかな……?
問いに対する答えを待たずに、目を瞑ろうとした。
その時だった。
――諦めんのか? お前らしくもねぇな。
懐かしい声がして思わず目を見開くと、白く発光する人型の――体格差のあるシルエットが2つ、向かう先に存在していて、途端に目頭が熱くなる気がした。
――早くしろよ。みんなが、お前を待ってるぞ。
頬に伝い落ちるモノを拭う暇もなく、一目散に走り出す。
(……そうだよ。やっと変わり始めたのに悲観してどうするよ!―――今度こそ、叶えてやるんだ……大吾さんの、願いを!)
嗚咽で息切れしそうになろうと、今はただひたすら光の射す方へと。
果てもない空間を駆け抜ける最中、二人の他にもう一つのシルエットが顕現する。
――どうか、どうかこの先も、リヴァイアをお願いします。あの子は、貴方が…居……れば……―――
視界が光に包まれていくその時。
語りかけてくる女性の言葉は途切れていき、やがて途絶えた。
……気がつくと見知らぬ天井を眺めていた。
灯りの点かない部屋の窓辺から朝焼けの空がちらつき、徐々に意識を回復させていく。
水希「―――……ここ、は……?」
これが夢なのかは定かではないが、仰向けに寝そべる身体が重く感じる辺り、長い眠りから覚めたのだとようやく理解する。
そして視線を、寝台の隣にある椅子に腰掛けている人影へと向けたら、思わず目を奪われる程のイケメンだと知った。
それこそモデル顔負けな相貌なのだが、それ以上に印象深いものがある。
リンドヴルムの表皮のようなくすんだ青髪に相反して、宝石と見紛うほど澄んでいる翡翠色の
「よう、お目覚めか? お姫サマ」
まるで異世界に住まう王子様かのような美丈夫が、柔和な笑みを浮かべながら僕に訊ねた。