夕日が沈みかけている頃。
信武とリヴァイアの間を挟むように、屋上のベンチに腰掛けていた。
……これからずっと三人で――厳密にはクラウンも含めて4人なんだけど、固まって行動する時のお決まりになるのだろうか?……なんて、緊張感とかけ離れたことを考えている間にコールが途絶え、画面に【SOUND ONLY】と表示される。
レティ『……珍しいわね、アンタから電話を寄越すなんて』
レティとの連絡は、普段はメールが主だから不思議がられても無理ないが、理由があって屋上にまで来てるわけだし。信武にも聴いてもらうつもりでスピーカーにしているのだ。
水希「まぁ、ちょっと聞きたい事があったからね」
レティ『そう。……それで、何を聞きたいのかしら?』
水希「その前に、いい? ――教えてもらったの。僕が寝ている間、レティが色々と根回ししてくれたことや、取引のこともね。……話を戻すけど、本当にレティが
レティ『だからあの時言ったじゃない。心配しないでって。場所までは言えないけど、今も安全なのは確かよ』
水希「それじゃあ、信武のお父さんも生きてるんだよね……?」
安否について訊ねたら、しばしの沈黙を経てレティは答えた。
レティ『前にも話したと思うけど、FM星人が襲撃したタイミングで私が回収できたのは、
数は覚えてても、名前までは把握しきれてないわ」
ロイドさん。フレインさん。
この3人とはしばらく面識がないが、今もなお無事で、レティが回収しそびれた
たった3人でも見つかれば、少しだけ希望が持てるだろうし……それこそ断念されたとしても、諦めたくない気持ちは誰にでもあるんだから。
その思いと裏腹に、多くの不安が
レティ「……ただ、ニホン人らしき顔立ちで、50代前半っぽい見た目の男性なら、一人だけ心当たりあるわ』
水希「!――それじゃあ……!」
レティ『でも、あえて言わせてもらうけど、私に対してそんな過度に期待されても困るのよ。さっきも言ったように、名前までちゃんと把握できちゃいないんだから。
……それこそ、もし当てがハズレたらアンタ、今まで通りに信武と顔合わせられると思う?』
水希「……それは――ッ!」
淡々とした口調で諭され返す言葉が見つからずにいると、信武が僕の右手を握ってくれた。
そのことに驚いて振り向くと、信武は『心配すんな』って言いたげに笑いかけ、すぐさまレティに返事を返そうとした。
信武「どんな結果でも受け入れる覚悟はできてる。だからもう平気だ。
それに……そもそも保護されてないなら、お節介な誰かさんのことだから、意地でも探しに行こうとするだろ?」
水希「信武……」
レティ『……無論、私も、自分の役目を終えるまでに間に合わせようと3年前から手を打ってるのよ』
水希「え? どうやって?」
レティ『クローンを生み出したの。私と瓜二つのを5000体以上』
水希「……はい?」
そう説明さてれも、今ひとつ理解が及ばない僕に対してレティは、キレ気味に言う。
レティ『だーかーら、保護し損ねた人達を探そうにも、私一人じゃ無理だっつってんの』
水希「ゲート使えるのに?」
レティ『うっさいわね……第一、情報もなしにだだっ広い宇宙を行き来するなんて、私ですら骨が折れることなのよ? そこら辺わかってんの?』
水希「……なんかごめん」
レティ『ったく、ボケてないでしっかりしなさいよね』
まぁ、そうだよね……実際に宇宙の広さを体感した身でもあるから、捜索に関しては“海中に落としたコンタクトレンズを的確に拾い上げるほどに難しいこと”でもある。
それに裁判長との取引で『
リヴァイア「……剛腕オンナが何体も……」
「あたしレティさん。いまアンタの後ろにいるの」
「「「「ッ!!?」」」」」
お分かり頂けただろうか?
ドン引きを禁じ得ずにいるリヴァイアがうっかりと口を滑らせたその時………未だ通話中にもかかわらず、背後からの声を鮮明に聞きとれてしまうという不気味な現象に、ベンチに座り込む僕らも、信武のトランサーに潜んでるクラウンでさえも、ビビり散らかしているのは言うまでもない。
リヴァイア「ヒッ?!――な、なにすんだよ……?!」
そうして背後を振り返る間もなく、レティはリヴァイアの両肩をしっかりと掴み、快活に笑いながら言った。
レティ「あたしレティさん。今からアンタの凝り固まった肩をたぁ〜っぷり揉みほぐしてあげる♪」
リヴァイア「いやマジで勘弁してくださイギャアアアアアアアア――――!?!?」
やがて日が沈む頃。リヴァイアの断末魔がきっと、街中に響いていることでしょう……。
レティ「……で、マッサージの感想聞きたいんだけど?」
リヴァイア「……た、大変不謹慎な発言をしたことを、お詫び申し、あ……、……」
す、座ったまま魂が抜けてる……!!
こういう所を見るとやっぱりレティは……見た目はお姉ちゃん、握力はゴリ――それ以上はいけないと警告が来てそうだからやめとこ〜っと。
クラウン『ケンカ売るにしても無謀が過ぎるじゃろ……』
信武「同感」
レティ「失礼ね。私だって理由なしに暴力振るってんじゃないのよ? ………ねぇ、何で黙ってんの? ちょっと、返事ぐらいしなさいよ」
とてもじゃないけど、今でもレティと目線を合わせられないというか、なんと言うか……気まずいです。
レティ「……これじゃまるで、私が悪者みたいじゃない……」
皆一同黙り込むせいかご機嫌斜めになるレティだったが、気まずい空気を変えようと口を開ける。
水希「慰めの言葉も出なくて悪いけど、レティがここまで支えてくれたことには感謝してる。――してるからこそ、いつか本気で戦い合う時に向けて鍛えるべきだけど……もっと言えば
レティ「そう。それが、私が水希にメテオGの破壊を頼み込んだ理由の一つだったしね。……まぁ、尤も。今の今まで、そういったプログラムの存在に気づけなかったわけだけど」
水希「うん。話すの遅くなってごめん……」
レティ「いいわよ。どうせすぐ聞けそうにないと思ってたし」
謝罪に対して呆れ気味に返答するレティだが、彼女の性格上、僕自身がそれを打ち明けるまで無理な詮索はしなかったから、それに甘えて待たせてしまったこちらに非があるだけの話。
最初こそ胡散臭い女だと思って信用しきれなかったが、味方でいるうちに段々と頼もしく思えて、ようやく……彼女が果たすべき役割に最後まで付き合おうと、今この時を以て決心がついたのだ。
そういった心境をいま、ちゃんと自分の口から告げようとした。
水希「正直、ヨイリーおばあちゃんからはリンドヴルムを抑制するために体内に埋め込んだことしか聞いてないし、所詮は
埋め込まれた場所である胸元に手を当てた。
微かにだが、鼓動とはまた違った波長が全身に張り巡らされていると感じ取れる
普段からそういった実感がないからこそ、リンドヴルムが言ったように『条件を満たした場合に発動する』システムだったそうだ。
そのシステムがあるお陰で、11年間ずっと意図しない暴発がなかったワケだし、ノイズの影響すらなんてことなかった。
もしかしたら、あの
何にせよ、レプリカごときがオリジナルに遠く及ばずとも、可能性に賭けるのも悪くない選択だと思うでしょ?
現にリンドヴルムの力を失った状態だから、戦線復帰に向けて使えるものは使っていきたい所だしね。
レティ「いいの? これからもっとハードな特訓になるわよ?」
水希「ハッ、断われないの知ってるくせに……。そこまで言うならやってやるけど、それまでにちゃんと全員見つけ出しといてよ?」
レティ「当然よ。お偉方と取引成立させたからには必ず成し遂げるし、絶対にアンタを死なせないと約束するわ」
自己犠牲の激しさが玉に
……けど、頼もしいのは、別にレティだけに限った話じゃない。
信武「水希……お前のやってること全部、要らぬお節介だと思ってたけど、それだけ本気だってことをようやく理解できたよ。
だから、その……俺にもできることがあれば、頼ってくれ。今度こそ力になれる気がして、嬉しいしな」
力になれる、か……。
そんなの、ただそばに居てくれるだけでも心強いのに。本当にどこまでも真っ直ぐだね。
水希「色々と我慢させてごめん。……でも、必ず見つけ出すから。それともし、FM星人と和解できそうなら……あまり責めないでほしいの。無理なお願いだって、わかってはいるんだけど……」
信武「……お前に言われたら断れそうにないな。いいぜ、約束する」
信武と同様に、不満と憎悪が抜けきってない。……ないからこそ、こうしてまたエゴを押し付けているのに。
信武は嫌な顔をせず……否。怒りを押し殺すように取り繕った笑みを浮かべながら、無理なお願いを聞き受けようとしてくれた。
……無論。立場が逆なら、自分も決断に迷ってしまうだろうが、信武の頼みであれば聞き入れたいと思ったはずだろうから。
そんな複雑な心境を抱えながらも協力を惜しまない信武に、今一度「ありがとう」と感謝を述べたその瞬間。
気絶していたはずのリヴァイアが不機嫌面で、僕の右肩に手を回したかと思えば、信武から引き剥がすように抱き寄せてきた。
リヴァイア「なぁに良い雰囲気出してんだよ。俺も混ぜろよ」
信武「別に減るもんでもねぇだろ? むしろお前の方が長く付き添ってんだしよ」
水希「そうだよ。だってリヴァイアは最高の
信武「最高の………
何をそんなに狼狽えているのか……信武の心境についてはさておき、リヴァイアとは付き合いが長いからこそ、今さら僕の下から離れるなんて想像がつかないのだ。――なんてことを思っていると、不意にアゴをクイッと持ち上げられ、にこやかに微笑むリヴァイアと向かい合う。
リヴァイア「ねぇ水希、もう一回キスしても良い?」
水希「うぇ?!」
信武「ざっけんなテメェ横取りすんじゃねぇよクソ蛇!!」
リヴァイア「はぁ!? テメェこそ鏡見てから言えや間男野郎!」
信武「ハッ、まだ根に持ってんのかよ。女々しすぎんだろお前……あ〜あ〜まったく、こんな世話の焼けるペットだと飼い主も大変だろうな」
リヴァイア「んだとコラァ!!」
気づけば息をするように口喧嘩し始め、なんならベンチから立ち上がり取っ組み合っている所だ。
というかさ、どっちかって言うと、皆に世話焼かせてるのは僕の方なんだけどね……。
信武「殺んならケリつけたろか? 今ここで」
リヴァイア「ならハンデくれてやるよ、
信武「言ったな? だったらお望み通りにしてやるよ!」
そう言った次の瞬間。信武の身体に光がまとわりついたかと思えば……本当に電波変換しちゃってるよ……。
リヴァイアも軽くストレッチをして殺る気満々だし……。
クラウン『まったく……痴話ゲンカに付き合わされる身にもなって欲しいものじゃ……』
多分これからも傍観者になるだろうし、そこはもう許してくれとしか言えそうになかった。
リヴァイア「言っとくが、俺ぁ水希と違って甘くねぇぞ?」
信武「じゃなきゃ張り合いがないだろ? 後で泣きを見ても後悔すんなよ」
水希「……おっ始める前にちょっと良い? 大丈夫なのリヴァイア? ただでさえ変身してる信武を相手にして……」
実際に手ぶらの状態だから余計不安でしかないけど、逆にリヴァイアは得意げに笑い、ワシワシと僕の頭を撫でながら答えた。
リヴァイア「だいじょーぶ! この身体になってからすこぶる快調だし。簡単に負けはしねぇよ!
それにほら……別に素手で戦うなんて言ってないし!」
水希「いやどっから取り出してんのそれ?!」
いかにも魚を突きそうな
信武「さすがに俺だけ武器持ちじゃ気が引けるしな……まぁ心配すんな。ガチで殺しはしないさ。そうなったらなったで後が怖いしな」
レティ「そうそう。痴話喧嘩も程々にしなさいよ、アンタ達?」
……とまぁ、そんなこんなで、止めても無駄そうな二人の戦いを見守ることにした。
信武「お前なんかに水希を渡してたまるか!!」
リヴァイア「こっちのセリフじゃボケぇ!!」
……といっても今、屋上ではなくウェーブロードに転移しており、それなのになぜか二人の叫び声が聞こえる気がしてならないんですがそれは……。
レティ「ホント、呆れちゃうくらい両手に花よねぇ?」
水希「茶化さないでよ……もう」
空いた所に座り込んだレティにもイジられるが、確かに二人とも、僕なんかじゃ不釣り合いなくらいカッコいいし、実力だって充分あるし、背丈もあって体格も良いし、筋肉付いてるし…………不平等じゃん。
なんだよ格差社会かよ、ふざけんな。
レティ「これから忙しくなるわね。色々と」
内心不満をこぼしていると、レティのおかげで羨んでいる暇なんてないことを嫌でも思い出させてくれた。
水希「そう、かもね……レティの見立てで、次の襲来はいつだと思う?」
レティ「遅かれ早かれ1週間後、ってところかしらね。……実際、今の実力でもFM星人と戦えそう?」
水希「戦えなきゃ、負けてばっかじゃ、面目丸つぶれでしょ」
襲来の予測を立てたレティからの質問に対して、迷いなく答えると、『その意気よ』とでも言いたげに口角を上げだした。
レティ「なら、私が責任持ってアンタを鍛え直すわ。……それとね、思い違いじゃなきゃ、まだリヴァイアにはリンドヴルムの力が若干残ってるはずよ」
水希「え、それホントなの!?」
レティ「そう。だからこそ、まずは実戦で扱えるくらいに感覚を取り戻せるかが課題かしらね」
水希「……そうなんだ。なら尚更、頑張らないとね」
予想とは外れ驚きはしたが……リヴァイアとは表裏一体だったからこそ、その繋がりが途絶えた状態だろうと……力が完全に失われてないのなら、死にものぐるいでも取り戻してやるまでのことだ。
今の自分に足りない物を補うためにも、絶対必要なことだから。
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