出番増やさねば…!
漢と漢の戦いは……結果引き分けとなって、帰り際に「浮気なんか許さねーからな!?」とキレられたが……返す言葉も見当たらず、うなだれたまま帰っていく信武を見送ることしか出来ずにいた。
それから2日後の昼。
検査を終えて、無事に退院手続きも済んだのは良いが……リヴァイアが変にソワソワしてるなと思ったら、どうやら受付の反対側にあるパン屋に興味を向いていて、行こうか悩んでいるらしい。
外から見た感じ、店内はイートインスペースを広く設けていて、平日ゆえにまだ空いてそうだから、羽を休めるには持ってこいな気がした。
それだけじゃなく、入口付近に厨房が見える設計だから、手作りにこだわってそうにも見て取れる。……どうりで目が惹かれるわけだ。
水希「……せっかくだし、入ってみる?」
「その言葉待ってましたぁ!」と言いたげに、ぱあっと笑みを咲かせてコクコクと頷くのだが、自分より背丈あるのに子供みたいに目を輝かせちゃって……可愛いやつめ。
そんなわけで付き添うように入店し、リヴァイアが商品を取っていってる間、僕は一足先に壁際のベンチシートに腰掛ける。
無論。あらかじめトランサーを預けており、電子マネー決済の手順も理解してくれてるから、これと言って心配はなかった。
……そうして目を閉じて待つこと数分。段々と足音が近づいたなと思い、目を開けたと同時に種類豊富なパンを乗せたトレーが置かれ、リヴァイアが隣に腰掛けてくる。
リヴァイア「お待たせ。はいこれ、流石に喉が渇いたんじゃねーかと思ってさ」
そう言って、グラスに注がれたアイスカフェオレを差し出すだけじゃなく、トレーを机の真ん中に寄せようとする。
リヴァイア「よかったら一緒に食おうぜ? 元々お前の金だから一人で食うんじゃ気が引けるしな」
水希「別に気にしなくてもいいのに……ありがとね」
気にすんなと言いつつもリヴァイアの厚意に嬉しく思い、ありがたく受け取ったカフェオレをストローで飲んだが、確かに喉が渇いてるせいか……気がつけば半分も飲み進めてしまっていた。
ストローから手を離し、一息ついてパンを手に取ろうとした時。
一口食したサンドイッチ片手にたまげた顔をするリヴァイアへと視線が行った。
リヴァイア「俺さ……実際に買って飲み食いすんの、人生で初めてなんだけど、ちょっと感動したかも……。想像以上に美味いよこれ」
元々宇宙人なだけあるだろうし、キズナ号にいた頃の食事なんて基本フードディスペンサーから出力されたデータだったから、実物を食しての感動ぶりに納得行くし、同時に誇らしく思えた。
人間にとって何気ないことを、これから体感するたびに感動を覚えるリヴァイアの姿が目に浮かび、笑顔が零れたのは言うまでもない。
水希「ねぇ、リヴァイアでさえよければ、なんだけど……」
リヴァイア「ん? どうした?」
水希「家に帰ったらさ、僕が作る手料理……食べて欲しいの。お姉ちゃんが作るご馳走より、味が劣るかもだけど………だめ?」
いざ言うとなると気恥ずかしいものだが、最後まで言い切ったその時。
心の底から喜んでいるリヴァイアに抱き寄せられた。
リヴァイア「ダメなわけねぇって。むしろ、俺の方から頼みたかったくらいだよ。い〜っつもスバルに手料理振る舞ってばかりで、こちとら羨ましかったんだぜ?」
水希「それじゃあ尚更、ガッカリさせないために頑張るから」
リヴァイア「あぁ。期待してるよ。……本当に、俺にとっても最高のパートナーだよ、お前は」
照れくさそうに笑いながら頭を撫でてくれて、相も変わらず優しい手つきにうっとりしていると、ふと妙な問いを投げかけられる。
リヴァイア「でも良いのか? 信武を呼ばなくてよぉ」
水希「そうしたいのは山々だけどさ……二人とも犬猿の仲なのに呼べると思うの?」
リヴァイア「確かに気に食わねぇ恋敵だけどさ、今回くらいは誘ったって文句ねぇよ。なんてったって俺は寛容だからな♪」
水希「嘘つけ」
リヴァイアの冗談には呆れたものだ。どうせ火花散らして睨み合うのが目に浮かぶというのに。
そんなことを内心思った矢先、我ながらハッとして声に出した。
水希「そうだ! レティも誘おうよ! 日頃の感謝を込めてって理由付けしてホームパーティーとか!」
リヴァイア「いいかもな。二人もきっと喜ぶと思うぜ」
ふと思い浮かんだ提案に乗り気な反応をしてくれて、「でしょー!」と自信満々に返して話が弾んだその時だった。
「おいおい、惚気ける暇があんなら待ち合わせ場所変えますって連絡くらい入れろよな……」
呆れじみたツッコミに、またもやハッとして振り向くと、苦笑を浮かべる私服姿のリュウさんがそこにいた――というか、来ると知ってはいたんだよね。
冒頭で言った検査は昨日行われたんだけど、結果は異常無し。翌日に退院しても問題ないだろうと医師にも言われ、お姉ちゃんとおかんだけじゃなく、知り合いの人、そして信武にも報告を入れたの。
……その時リュウさんが〈早めに健康診断を受けようと思って休暇取ったから。終わったら会えるか?〉って訊ねてくるから、OKとだけ返事して今に至るってワケ。
水希「あ、ごめんリュウさん! ていうか、もう健診終わったの?」
飯島「そんなところだ。相席、いいかな?」
水希「もちろん! 座って座って!」
断る理由なんて特に無いし。リヴァイアも、信武の時と違って邪険にはしないから大丈夫だとわかっている。
実際リュウさんは、強面な顔とは裏腹に愛妻家で家族思いな人だからね。
そんでもって相席してくれたけれど、ここテーブル席だから余計に三者面談っぽい構図になっちゃうんだよね。
飯島「お偉方から話は聞いたよ。お前の処遇に関連することすべて。……それと、お前の隣にいるイケメンがリヴァイアだってこともな」
リヴァイア「フフン。イケメンと言われて悪い気はしませんなぁ」
誇らしげに笑むリヴァイアを差し置いて、処遇のことで
水希「僕が戻って来てると知った時点で、裁かれても何らおかしくない状況、だったんだよね……」
飯島「まぁな。お偉方からすれば『青二才ごときが出しゃばっておいて、護衛任務を放棄するなんて言語道断だ』っていう風に見られても仕方ない話だしな」
水希「そうしてまた、色んな人に守ってもらってる……。誰から見ても救いようがないのにね――痛って!」
俯いた瞬間を狙ったかのような、不意打ちのデコピンを食らってしまい、額を押さえている間にリュウさんは溜息をこぼして言った。
飯島「あのな……救いようがないなら、そもそも連れて行こうとも思わないだろ。
それでも同行を許して、一足先に地球へ送り帰そうとしたのは、たとえ何年かかろうと、お前達が簡単に諦めたりしないと確信を持ってるから。――そういう風に、信頼してくれてると考えたこともないのか?」
リュウさんに諭されるなかで“信頼”というワードが出ると思わず面食らうが、言うほど肯定的に捉えたこともないため、即座に首を横に振った。
水希「正直な話。自分に課せられた使命だからとしか、考えてないよ。……そうしたいと、そうすべきだと思ったから、動いたに過ぎないよ……」
飯島「要は……償いのつもりで、か?」
静かに頷いて、話を続ける。
水希「出しゃばってることに変わりないし、間違った選択じゃないって言い切れないけど………もう二度とバッドエンドで終わらせたくなかったから……」
飯島「それでいいじゃねぇか。ごちゃごちゃ考えるより先に動けりゃ、どうとでもなるさ」
水希「うん……」
飯島「今だからこそ言うが……確かに俺達みたいな大人は、お前達を“利用価値のある道具”だと見なしていたよ。
……でも、出会ってから時間が経つにつれて、お前達が育んできた絆に感化された奴だっている。イカれた計画を立てやがった大吾がいい例だ。
だからこそ、計画に携わった連中は皆思ってるはずだ。断念されたとして諦めきれないし、是が非でも成し遂げたいという気概が失せるはずもないんだから
だから前にも言っただろ? 戦ってるのは、お前達だけじゃないって」
水希「おとんにもぶたれたことないのに〜」
飯島「まだ根に持ってんのかよ。ここぞとばかりにおちょくりやがって」
水希「おちょくるも何も、ほんとに痛かったんだからね?」
過去を掘り返されたことに苦笑を浮かべるリュウさんだけど、心中を話すと「そりゃ悪いことしたな」と悪びれのない謝罪が返ってきた。
飯島「なぁ、この後予定はあるか?」
水希「ん〜……あると言っても、お姉ちゃんの家に荷物置くくらいだけど。他はないかな」
飯島「なら、それ食べ終えたら行こうか。ちょっとだけ席を外すよ」
引き止める間もなくリュウさんは退店して、釈然としないままリヴァイアと顔を見合わせるが、
リヴァイア「あんまり待たせるのも悪いし……残ったパンは持ち帰りにした方がいいかもな」
水希「そうだね」
戻ってくる前に店員さんに一声かけ、貰ったレジ袋に未開封のパンを詰めた後、食べかけと飲みかけの物を胃に収めてから退店し、合流すると「もう食い終わったのかよ?!」と目を見開くリュウさんにツッコミを入れられたので、レジ袋を見せたら納得がいった様子。
……そうしてリュウさんの車に同乗し、雑談を交えながら走らせること数十分。
路肩の駐車スペースに停めたと同時にエンジンも停止した。
飯島「着いたぞ」
その一言を聞いてシートベルトを外し、後に続くように降車する。
目的地とされる場所は、都内のビル群に
そんな所に訪れる理由なんて見当もつかないが、先導するリュウさんに続いて中へ入ると、エレベーター付近で待ち構える人影があった。
水希「――天地さん?」
天地「退院おめでとう水希君。……リヴァイア君も、無事で何よりだよ」
リヴァイア「……本当なら、天地さんにそう言ってもらう資格もないけどな……」
天地「まったく、人が心配しているというのに……そうやって卑下する所も水希君とそっくりなんだね」
見知った人物だと知って尚更、リュウさんに付き添う理由は分からずじまいだが、ひとまずは謝罪すべきだろう。
水希「心配かけてばっかでごめん。……正直言うと、もうダメかもって思ってた」
天地「……君達からすれば、生きた心地がしないんだろうけど……今は素直に喜ぶべきだと思うよ。
何しろ、信武君とちゃんと仲直り出来たんだろう?」
水希「そのつもり……だけど、本当の和解は、信武のお父さんを、ちゃんと救出できてこそだと思ってる」
途切れ途切れに答えると、気遣ってくれた天地さんの口から「そうか」と気を落とすような返事が返ってきた。
飯島「それは一旦置いておくとして、だ。……まだ、もう一人いるんじゃないのか?」
“もう一人”が誰なのか、会話の流れからようやく理解する。……というより忘れちゃダメなことなんだ。
水希「――
僕の問に、天地さんは笑みを浮かべながら静かに頷いた。
天地「君と宇田海のことだから、こうでもしないと後々引きずるかもしれないと思ったんだよ」
飯島「そういうコト。……お前の、数少ない友達なんだろ?」
水希「でもさ……ごめんじゃ済まないことをしてきて、今更なんて言えばいいか――ッ!」
分からない。
そう言い切る直前、左肩に手が置かれ、振り向くと、リヴァイアが不安を払拭してくれそうな優しげな微笑みを向けて言った。
リヴァイア「思ったことをそのまんま言えよ。――大丈夫。俺も付いてるから」
その言葉にようやく決心がついてエレベーターに乗るのだが、屋上階まで滞りなく上る最中、二人の見えないところでリヴァイアの手を握ると……強く握り返され、その安心感に包まれながら『いざ深祐さんと面会しても臆するな』と自分に言い聞かせた。
そうして屋上階に着いてエレベーターを降り、外に設置されたアンテナの近くまで歩み進める。
深祐「戻ってくる間にチェックは、済ませ、ましたよ……」
足音に気づいて作業の手を止めた深祐さんが、振り向きざまに目を見開いて驚いた。
深祐「……水希君……?」
……実際、何日も眠ってたし、目覚めてから数日は絶対安静だろうけど、回復が予想以上に早かったから驚かれるのも無理ないと思う。
だからこそ、普段通りに微笑んで答えた。
水希「思う所はあると思うけど、体調ならもう大丈夫だよ。現に歩けるまでに回復したし」
深祐「あぁ……それはいいんだけどさ、なんでここに?」
水希「それを話す前に……、二人っきりにしてもらっても良い?」
天地「あぁ。大丈夫だよ。作業の方は丁度ここで最後だったから」
本題に入る前に確認を取り、天地さんがOKしてくれたところで視線を移すと、リヴァイアは何も語らず頷いてくれた。
そうしてアンテナから離れた所にまで来て、しばらくは屋上からの景色を眺めたままだったけど、長引く沈黙を破ったのは深祐さんだった。
深祐「信武から聞いたよ。仲直り出来たんだってね」
水希「……うん。勝手にブラザーバンドを切ったりして、何年も苦しめてきたのに……それでも、許してくれたの」
深祐「そっか」
傍らで聞いてくれるなか、手すりを握る力を強めながら胸の内を明かし続ける。
水希「でもそれは、深祐さんに対しても同じことだったのに……深祐さんには何の落ち度もないのに……、二人を傷つけておいて、それが正しいことだって言い聞かせて、責任逃れしてた……」
深祐「――――」
水希「それもこれも、自分が望んだことだから。――だからこそ、一生二人の親友であり続けられる資格がなかった……許して貰えるなんて、許して貰おうだなんて、考えもしなかったから……」
深祐「………それでも、判っていたよ。どうしてあの時、僕達を突き放そうとしたのか」
話すたびに段々胸が苦しくなって、言い淀んでしまったのを境に、話し手と聞き手が切り替わるように深祐さんが話かけてきた。
深祐「……たしか、信武には同じ道を進んでほしくなかったんだよね……?
心無い人間からの非難を受けたり、大事な人や物を奪われるような過去を持つ限りは誰も信じられないし……本当に辛い時、頼りたくても頼れないと思う。僕も似たような経験をして来たから、痛い程わかる。
それに……いくら信武が強くても、君が立っている
それを見越して突き放していたことを、理解できてた、はずなのに、キグナスに取り憑かれてから憎悪に駆られて……君一人に怒りをぶつけるのは筋違いなのに、酷いことを沢山――」
水希「違う!」
心底辛そうにして話す深祐さんを、声を荒らげて遮った。
水希「……当然の報いなんだよ。それでいて、信武と口論になった時だって被害者ぶってた。
だってのに……みんな揃って甘すぎるんだよ、どこまでも」
俯いてしまったその時、さっきまでの辛い感情はどこへやら優しげな口調で深祐さんは言った。
深祐「そりゃあ甘くなるよ。不器用なりに、必死に頑張ってる姿を見れば、誰だって甘くなるはずだよ」
「それにね」と付け加えて、続ける。
深祐「僕らからすれば、君はいくつになっても子供のままだから。誰もが君を放っておけないと思うし、簡単に命を捨てそうで危なっかしいと思うから、世話焼いてでも守りたかったんじゃないかな。
特に大吾先輩は、タフそうに見えてその実、君の人生を変えてしまったことに罪悪感を抱えてたよ」
水希「……そうだとしても、強くなりたかったから。だから自分の意志でその
……でも結局、思い上がりに過ぎなかった。弱い頃からずっと変われてなかった……だから、クルーの皆を守れなかった…………だけど、これだけは言わせて」
声を震わせながらも、視界が涙でぼやけながらも、深祐さんと顔を合わせてから発言した。
水希「今度こそ、クルーの皆を助け出すよ。
そしていつか、もう一度
この期に及んで、復縁なんて虫が良すぎる。
そう言えるほどの身勝手な都合を押し付けて、二人に辛い思いをさせたことは、決して許されることじゃない。
それを承知の上で伝えたら、不意に抱きしめられ、耳元で囁くように深祐さんは言った。
深祐「うん。見放されたかと思って、すごく辛かったよ。だからいつか、元通りになれるまで待ってるから。……でも、無理はしすぎないでいいから、焦らずにね」
水希「……うん」
信武に抱きしめられた時とはまた違う温もりを感じて、胸の苦しみが和らいだ気がした。
仲違いした状態から元通りになるまでの流れ作るのって本当に難しいですが、やりがいというか書き甲斐があるからやめられないです。
あと、一部の読者に言いますが、冒頭の浮気についてはアナタのことじゃないので。ホントですよ?(ーωー)
ここまで読んでくださりありがとうございます。
感想、お気に入り登録していただけると創作の励みになりますので、その時はどうぞよろしくお願いします。
次回もお楽しみに。