流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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56話 約束事 展望台にて

夕暮れ時。

校門を抜け、持てる全速力で展望台へ向かったが、道中の長い階段を一段飛ばして駆け上がったせいか、前屈みになり肩で息をしていた。

 

スバル「……あれ、いない……?」

ウォーロック『いや、確かにハープの気配がするからミソラもいるはずだぜ』

 

息を整えてようやく周辺を見渡してもミソラの姿が見えず、もしや怒って帰ってしまったのではと不安に駆られながら、展示されている機関車に目をやる。

 

スバル「もしかして……」

 

機関車の裏へ周ろうと、やはりミソラの姿はないが、もしやと思ってビジライザーをかけたその時。ちょうど眼前にいたものだから、思わずギョッとしてしまう。

 

スバル「ミソラちゃん。もしかして、その姿ままずっと待ってたの?」

 

ビジライザーのレンズを通して見える辺り、どうやらまだハープ・ノートの姿のまま変身を解いていないようだ。

 

ミソラ「えへへ。なかなか来ないから脅かそうと思って。それに、スバルくんなら見つけてくれそうかなと思ったんだ♪」

 

悪戯な笑みを向けたミソラはそう言うが、一度目は元マネージャーから撒くための隠れ蓑として使っていたのに、まさかの二度目に隠れんぼをするだなんて。

お茶目も程々にしてほしいところだが、何はともあれ探す手間が省けたことと、ミソラの寛容ぶりを見て一安心する。

 

スバル「まったくもう……それで、話って何なの?」

ミソラ「あぁ、そのことなんだけど、誰かに聞かれたくないから場所移そうよ?」

 

空の方へ指し示したあたりで本日三度目の変身を促していると理解し、他人に話を聞かれたくない点はスバルとて同感であった。

 

 

そうして二人は、空中にあるウェーブロードに座り込んで、お互いにここ数日間どう過ごしてたかを話した。

 

先に切り出したミソラの話は、主に引退ライブ後のこと。

自分を見つめ直そうと様々な国へ旅をして、昨夜帰国したそうだ。

ただ、答えを見出すにはまだ時間が必要だそうで、スバルもそれには賛成だった。

何より、数あるファンの中でも唯一のブラザーとして、彼女の気持ちを誰よりも尊重したいからこそだろう。

 

対してスバルは、ほとんど学校や水希絡みのことに加え、信武という心強い味方が増えたこと。

もちろんレティも例外ではないが、水希とはどんな関係性なのかはまだ知らないということも、知る限りのことを話した。

 

ミソラ「そっか。でも聞いた限りじゃ、悪い人じゃないんだよね?」

スバル「うん。信武さんと一緒に兄ちゃんを助けてくれたから、根っからの悪人なわけないと思うけど」

ハープ「どうだか。正直あまり信用できないけどねぇ」

スバル「どうしてそう言い切れるの?」

ハープ「女の勘よ。ウォーロックも薄々気付いてるんじゃないの? 彼女が私達をも利用しているって」

ウォーロック「………」

 

―――言ってしまえば、この戦いも目的を果たす前段階に過ぎないんだよ。

半分は自分の力でだけど……いつかの僕みたいに迎えに行きたいと願うなら、それに応えてあげるのが兄貴の務めだしね。

 

ウォーロック「さぁ、どうだろうな。利用されているとしても、別に悪いことばかりじゃないと思うぜ」

ハープ「あら、どうしてそう思えたのかしら?」

ウォーロック「正味な話。同胞の奴らよりよっぽど信用できるしな」

ハープ「……否定しようがないけど、こうも面と向かって言われると腹が立つわね」

 

ハープの言い分に心当たりしかないのも、厳密にはレティからではなく、水希に利用される立場に置かれているが、ウォーロック自身それをあまり否定的に捉えなかったのは、レティと水希の二人に少しずつ信頼を寄せている節があるから。

 

 

―――スバルの命は、アンタの持つ()と同等だってことを忘れないで。それが協力を飲む最低条件だから。

 

 

水希の話を要約すると【スバルの命を粗末にしないと約束すれば、こちらもお前を利用こそすれど悪いようにはしないぞ】と言っているようなもの。

 

何よりの証明として、スバルがピンチの時。どんな形でも守ろうとする姿を何度も見ているからこそ、水希の誠意に応えよう(水希に利用されてやろう)という意思が芽生えたということだ。

 

ウォーロック「何しろ、いずれ強大な敵と戦う日が来るだろうし、そのために力をつけても何ら損はないだろ」

 

故にまず、水希が以前言った()()()()()までに、スバルのような子供は特に多くの経験を積ませることが先決だが、あえてその部分は伏せて話した。

おのずと理解する日が訪れるという確信があるからだ。

 

スバル「それに、正直僕も、兄ちゃんや信武さんに負けないくらい強くなって、大切な人を守れるようになれたらって思ってるんだ」

ミソラ「すごいねスバルくんは。それに比べて私は、全然決まってないんだよね。これからどうしたいか……」

スバル「僕だって、たくさん悩んで、迷った末に出した答えだからね」

 

俯きながら自嘲するような言い草になり落ち込むミソラに、スバルも同調しながら続けた。

 

スバル「ミソラちゃんの場合、そんなに答えを急がなくて大丈夫だと思うよ。

復帰を待ち望んでるファンの人達の気持ちを無駄にできないとしても、きっとわかってくれるよ」

ミソラ「……うん。ありがとう。スバルくん」

 

再会するまでの間に見違えるほどたくましくなると思わなかったが、変わらず寄り添ってくれるその優しさに、惚れ直さないわけがなかった。

 

ミソラ「それでね」

 

顔を赤らめながら、スバルに尋ねる。

 

ミソラ「来週の日曜日、空いてる?」

スバル「? 特に決めてないから大丈夫だけど」

ミソラ「じゃあ! もし良かったら、わたしと……その、……」

 

その続きが声に出かかったものの、気恥ずかしさが勝り、スバルに限って無いと信じたいが、もし断られたら………。

 

そういった不安がミソラの脳内を占め、躊躇うこと数十秒。意を決して告白する。

 

ミソラ「一緒に、お買い物、行こう……ッ!」

 

日が沈んでからしばらく、ミソラが言い放った言葉を理解するまで時間を要したが、

 

(……初めて、同い年の女の子から誘われた?……僕が……女の子、から!?)

 

後々スバルもミソラに劣らず、茹だりそうなほどの赤面になる。

 

スバル「……いいの? 僕なんかと?」

ミソラ「なんかじゃない! スバルくんだからいいんだよ!!」

 

相手は、今は一時的に引退したとはいえアイドルだ。

自分なんかが釣り合うわけないと言いたげなスバルに、ミソラはきっぱりと断言した。

 

ミソラ「仲の良い男の子とお出かけするの、スバルくんが最初って決めてたんだから」

 

本当に、僕でいいの?――とか。

 

緊張しすぎてお出かけを楽しむどころじゃなくなりそう。――だとか。

 

脳裏を掠めてくる迷いや躊躇いはとうに消え失せた。

 

 

 

何しろ、彼女の口からここまで言わせたのだ。

 

ここで断れば、応えてやらねば、男が廃る。

 

 

 

 

 

 

 

スバル「……僕でよければ、一緒に」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

もうすっかり暗くなった空の下。

門限はないとしても心配かけまいと、スバルは急ぎ足で家路につく最中だった。

 

ただ、急がねばと焦る半ば、ミソラとお出かけする約束を取り付けてから内心舞い上がっており、

帰りが遅くても許してくれるだろうと、()()()()()()()()

 

戸を開け「ただいま」と挨拶して早々。

 

あかね「おかえり。帰りが遅いなら連絡しなさいよ」

 

両手を後ろで組んでいるあかねと視線が合う。

 

スバル「ごめん母さん。実はさっきまで展望台にいたんだ」

あかね「ふぅん、そうなの。――ところでスバル」

 

見る者を魅了しそうな素敵な笑みを浮かべながら、あかねは手に提げている物を息子に突きつけて問う。

 

あかね「これ、なぁんだ?」

 

何だと問われてもそれは、通学用のカバン……あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして、手ぶらのまま学校に()()()()()……?

 

 

 

 

 

あかね「ようやく理解したみたいね」

スバル「……ッ?!?!」

 

そうと判った瞬間。未だ素敵な笑みを崩さない母から放たれるドス黒いオーラを感じ取ったがゆえに、身も心も凍りつくほどに血の気が引いていく。

 

あかね「ルナちゃんがわざわざ届けに来てくれただけじゃなく、帰りの遅いアンタを気にかけてくれたってのに……どういうつもりかしらねぇ?」

スバル「あ、……いや、その……」

 

身体中の水分が抜かれ干からびそうなほどに、スバルの全身は滝のような汗に塗れてしまい、左腕のトランサーもカタカタと恐怖に震えていた。

 

あかね「なにか申し開きがあるなら聞いてやらなくもないけど?」

スバル「滅相もありませんわお母様……」

 

申し開きと書いて命乞いの間違いではなかろうか。

デートのお誘いで浮かれ気味だったのが一転。顔は真っ青を通り越して真っ白となり、どうしてあの水希ですら恐れ慄くのか……今日この日、身を以て知るスバルであった。

 




次回もお楽しみに。
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