リハビリの最中にヘルプシグナルが鳴り、胸騒ぎを感じて発生源に向かった結果。レティが仕組んだと知るまでは憤っていたけれど、敵が本腰入れてアンドロメダの鍵を奪還しに来る頃だと聞いて、ようやく冷静になれた。
確かに、奪還を企てる輩を倒すか、あるいは降参させたりもして、今もなおウォーロックが肌見放さず所持しているままである。
しかし今後、敵単体ではなく複数、もしくは強大な戦力を
建造物の損壊のみならず、最悪の場合は誰かが人質にされるか、戦場にて巻き込まれ損で死ぬ可能性だって否めない。
そういった二次被害は免れにくくなり、取引を無効とされた時点から僕の……いや、間違いなく家族全員の命も危ぶまれるし、大吾さんに代わって保護監査を担う天地さんやリュウさんの立場も悪くなるということだ。
――私が先程述べた“被害者”というのは、地球上の全人類に当てはまる、ということだ。
裁判長のお言葉に対する僕の解釈が間違ってなければ、
【FM星人に憑かれた本人に限らず、巻き込まれた人達も対象であるから、死者は絶対に出すな】と言われてるようなもの。
必ずしも守れるとは限らないが、最善を尽くすことに他ならない。
話は逸れたが、リンドヴルムを除くFM星人の討伐は
・選定の日に向けての戦力確保と育成。
・行方不明とされている
・僕自身の罪を清算させるためのお膳立て。
などといった裏方作業に専念していたがゆえに、今回のレティの行動は、ただ役目を全うしたに過ぎなかった。
特にスバルやミソラちゃんのような子供達は、体力も経験も著しく不足してるしね。
一人でもある程度修羅場を切り抜けられるように基礎的なトレーニングを積んだり、電波変換時に備わっているであろう固有能力を活かした戦法を会得する必要性が大いにあるってわけ。
つまるところレティに「いい加減弟離れしたら?」と呆れられているようなものだった。
……無論わかっている。過保護が過ぎればスバルにとって毒だと。
だけど、せめてものわがままでも、スバルの成長を見届けるくらいはさせてほしいと思う。
水希「……入るよ。スバル」
軽くノックをして部屋に入るが、照明も点いてないため真っ暗で、寝床の方からブツブツと声が聞こえた。
スバル「許してください……許してください……許してください……許して――――――」
リヴァイア「……ありゃあ、かなりの重症だな」
水希「だね……」
お姉ちゃんにみっちり絞られたであろうスバルの様子は、リヴァイアの言う通りだった。
布団に包まりながら膝を抱えて座るスバルの震え具合を顔文字で表すと
枕元に置かれてるトランサーもカタカタと小刻みに揺れ、ウォーロックですらも声が出ずに震え上がっているのが見てとれた。
ただ、本人たちには直接言えまいが、思うところはある。
二人は、まだ運が良い方だ。
こっちは昔から幾度となく、言葉より先に
そうされても仕方ないことをしでかしたのが前提だが。
お姉ちゃんのお気に入りだったCDを踏んづけて壊した時だったり。他数件もあって、お姉ちゃん……いやお姉様の気が触れる行為を無くそうと努力はしてるのよ。
努力してはいるのよ?……空振りしまくってるとしてもね。
……忘れちゃダメだけど思い出したくない過去を一旦頭の片隅に置いて、スバルの隣に座って抱きしめる。
スバル「ッ、兄ちゃん……」
水希「今回ばかりは怒られてもしゃあないし、ウォーロックも巻き込まれ損みたいだけど、ドンマイ」
頭を撫でてあげた。これで少しマシになればいいけど。
スバル「きょう、今日だけでいいから、一緒に寝て……一人じゃ心細すぎる……」
あらま、添い寝してほしいのか……。
ズビズビ鼻を啜りながら頼み込むのは幼い頃にホラー番組観て以来だけど、断る理由はない。むしろスバルなら何歳でもウェルカムよ。
……ただし、
何度も夜這いを仕掛けてきては返り討ちにしたけど、おもっクソ機嫌悪い時はたしかハイドロウィップで尻百叩きの刑に処したっけ? あれは爽快だったなぁ。
また何かの拍子に襲って来ようものなら、喜んで
リヴァイア「俺も一緒にいいか? 一人は嫌だし」
スバル「いいよ……布団、持ってきてね」
スバルの許可を得て、布団を運んでから各々が入浴を済ませた後。
僕を中心に左隣にリヴァイア、右隣はスバルという形で川の字になって寝たのはいいとして……
水希「……なぜ二人して抱きつくのよ?」
天井から見て顔文字だとこんな感じ。
表現するにしてもくどくてごめんね。
スバル→(´・_・( ᄑ_ᄑ;(=ω= )←リヴァイア
リヴァイア「なんだよ、お前だっていつも俺に抱きついたり背中に乗っかったりしてたくせに」
水希「だって、居心地良すぎるのが悪いんだもん」
リヴァイア「お前……もう一回信武に怒られろ」
水希「なんで?」
スバル「僕も怒られた方がいいと思うよ。兄ちゃんの
水希「何を指して言うとるのか分からぬがそっくりそのまま返すぞ、弟よ」
人聞きの悪いことを……スバルだってきっと思うはずだよ。擬人化する前のリヴァイアの背中に乗った時の心地良さ。夏だとひんやりして最高なんだよ?
まぁでも
水希「……にしてもまた、こうやって一緒に過ごせると思わなかったな」
天井を眺めながら呟く。
水希「あまり言うべきじゃないけど、暴走する時点で死を覚悟してたから、生きてるっていう実感が無いんだよね」
スバル「正直僕も、授業中に似たようなこと考えてたよ。兄ちゃんが退院して、またここに戻ってきてくれた時から、穏やかな一日を過ごせることが当たり前じゃないんだなって感じるようになった……」
リヴァイア「それを言うなら俺もだよ。姿形が変わっても、変わらず水希の相棒で居続けられるのが奇跡だと思ってる」
水希「それもこれも、大切な人を失う痛みを知ってるからこそ、なんだろうね……。それを知っていて同じミスを繰り返すもんだから、我ながら救いようがないよ」
自嘲気味に言うと、右腕にしがみつくスバルの力が強まった。
スバル「たしかに、暴走した姿を見て、最初は腰が抜けるほど怖かったよ。……それでも、兄ちゃんがどんな姿であっても僕を守ってくれた。……だから、この前は許すつもりはないって言ったけど、取り消したい」
水希「……無理に許そうとしなくても、その気持ちだけで充分だよ。でも言わせて。ありがとう。
絶対に大吾さんを見つけて、この家に連れ帰ってみせるから」
スバル「父さんのことなら一緒に探させてよ」
水希「もちろん」
もう絶対に間違えない。絶対に失くしたくない。
だからお願い。
大切な人と過ごす幸福をもう少しだけ噛み締めさせて……。
◆◆◆
時刻は22時前。
常日頃から両親が家を開けている白金家にて。
ルナ「――え……転校、ですか……?」
『そうよ。勝手であるのは承知の上で決めたことなの』
トランサーの画面に表記されている【白金ユリコ】。
つまり電話の相手は、ルナの母親だった。
話の大筋はルナの転校にかかわるが、突然なこともありルナとしては受け入れがたいことだが、その思いを汲み取らずにユリコは淡々と話を続けた。
ユリコ『来週から全寮制の女学院へ通えるように編入手続きをするから、貴女も心の準備をしておきなさい』
ルナ「でも……そんな急に言われても……」
ユリコ『まさか忘れたわけじゃないでしょう? 貴女が昔、誘拐された日のことを』
ルナ「っ、……はい」
ユリコ『無理にとは言えないけれど、いずれ判る時が来るわ。私達が貴女の身を案じて決断したということをね』
返答を待たずして通話が途絶えた瞬間。
底知れぬ絶望を感じながら、先程の話が夢であってくれと現実逃避するように、顔を枕に埋めながら眠りについた。
次回はデート当日。各々の朝の支度からお送りします。