交通機関を使わず、電波変換して先回りするのも手だったけど、実のところ前日の夜にリヴァイアが「ワガママかもしんないけどさ、バスに乗ってみたいんだけど……ダメ?」と恐る恐る尋ねたの。
その要望に秒で応えて、スバルにも「バス代まとめて払うから一緒に行こうよ」と、僕からの提案に応じてくれて今に至るってわけ。
んで、近くの停留所にて待つこと数分。
予定時刻より2分遅れて到着したバスに乗車して、休日ということもあってか偶然にも空いてたから一番後ろの席に座ろうとしたら……
水希「なんかデジャヴなんだけど……」
リヴァイア「別に減るもんじゃないだろ?」
水希「まぁそりゃそうだけどさ」
なんでか自分の両脇にスバルとリヴァイアが座る構図が、川の字で寝た時と一緒なんだよね。
何なら今、終始ご機嫌なリヴァイアに手を繋がれてるよ。
もう片方の手は今空いてるけど、スバルと信武なら大歓迎かな。
あの変態クソオヤジだったら速攻で川に投げ飛ばす。もちろん顔面から入るようにね♪
スバル「ねぇ、兄ちゃん、リヴァイア」
水希「ん?」
リヴァイア「どうした?」
目的地へ向かう道中。出かける前の素っ気ない態度とは裏腹に、スバルは無邪気に微笑みかけて言った。
スバル「楽しみだね。お互い」
あぁぁ〜何年ぶりだろう。
荒んだ心が浄化されるわぁぁ……(* ̄﹀ ̄)
今日この日を待ち望んでいた僕らも同じように微笑みかけた。
水希「そうだね。でも、なにか困ったことがあったら連絡して。
あってほしくないけど、今更奴らの襲撃に遭わない可能性はないだろうし」
スバル「わかった」
バスに揺られること数分。
他の利用者も途中乗車はすれど、その大多数は目的地が僕たちと同じだったらしい。
僕らも後に続いて、バスの運転席にある決済機にトランサーをかざし、大人二人と子供一人分の料金を支払って降車した。
リヴァイア「ん〜〜、やっと着いたな」
繋いだ手を離して伸びをしながら言う。たしかに何分も座り続けたら体が凝り固まっちゃうしね。
真似するように伸びをした途端、「おーい、水希ー!」と呼びかけてくる信武の声に振り返った。
信武「お待たせ。もしかして水希も今来たとこ?」
水希「………」
信武「お〜い、もしも〜し?」
一瞬固まりはしたが、信武が呼びかけたことで我に返った。
水希「……ッ、ごめん。いつもより見違えるくらいカッコよくて、一瞬言葉が出なかった……」
リヴァイアは顔がイイから白のTシャツとジーンズで事足りるのに、信武は黒のハイネックTシャツとベージュのチノパンで決めてくるから……普段のスポーティな服装とは見違えるほどオシャレになりやがって!
しかも二人共筋肉あるからシンプルめな服でもスタイルの良さでより映えるし!
まったく羨ましいぜコンチキショー!!
信武「えへ、エヘヘ〜♡ ねぇねぇもっと褒めてぇ水希〜♡」
クラウン『お〜い、まぁた顔緩んどるぞー』
信武「エヘヘヘ……♡」
クラウン『駄目じゃコイツもう手遅れじゃ』
頬が緩みきってへニャっと笑う姿、初めて見たかも……。
剣道部主将としての風格や覇気がありつつ知的でクールなイメージがあるのに……それが崩れると甘えん坊になるんだね。
これぞギャップ萌えってやつか?
スバル「……ねぇ、リヴァイア。今の信武さんってさ、おじいちゃんみたいにアブナイ匂いしない?」
リヴァイア「まぁ水希のこと好きな人って基本、何かと拗らせてるからな。俺もその一人なわけだけど」
スバル「やっぱ兄ちゃんって生粋の男タラシなんだね……」
なにさっきからコソコソ人聞き悪い話してくれてんだよ。
スバル、お家帰ったら覚えとけよ?
リヴァイア「にしても、今まで見た中でもダントツにキモすぎるんですけど……」
水希「そう? 僕からすればあのゴミと比べりゃ全然可愛いもんだけどね」
ウォーロック『実の親に容赦ねぇな、相変わらず……』
水希「アイツに対してはこれくらい厳しくすんのが丁度いいの。甘やかしてもロクなことがないんだから」
こんだけ悪態ついてりゃアイツ今頃くしゃみでもしてんじゃね? 知らんけど。
信武「てかさ、スバルも連れてきたのか?」
スバル「あっ……いや、その、僕は兄ちゃん達と別行動で……」
水希「ねぇねぇ聞いてよ信武! スバルにもようやく春が――むぐっ?!」
僕が不甲斐ないばかりにスバルには辛い思いさせてばかりだったけど、そこから少しずつでも成長していく姿を見れるこの喜びを信武にも共有したかったが、言い切る前に口塞がれちゃった。
スバル「人前でそんな大声出さないでよ!」
満更でもないクセに何恥ずかしがってんだか。
信武「……ふうん、なるほどな。スバル、多くは語らねぇ。男を見せて来い」
スバル「大きなお世話です!」
信武にまで茶化されて居心地悪そうなスバルは、そそくさと待ち合わせ場所に向かって行った。
(初デート、上手くいくといいね)
現に不測の事態がないとは言い切れないけど、横槍が入らないことを祈りながらその背中を見送った。
信武「それじゃ、俺達も行くか」
水希「うん!」
信武「そうだ水希、この前の約束だけど」
思い出したかのように信武は言うが、「もちろん忘れてないよ」と返事する。
リヴァイア「てか、その約束って結局のところ何なんだよ?」
その質問が来るとわかっていた僕と信武は顔を見合わせてから「着いてからのお楽しみ」とハモるように答えて、 分からずじまいなまま訝しんでいるリヴァイアを連れて103デパートに足を運んだ。
……その十数分後に、後を付けてくる人影がいるとは露知らず。
「――水希さん、どこにいるのかしら……?」
そうしてまた一人、捜索がてら足を運ぼうとしていた。
◆◆◆
リヴァイア「もしかしてここが、こないだの約束の理由だったりするのか?」
水希「そうだよ。いつまでも大吾さんの服借りっぱなしじゃいられないでしょ?」
場所は変わり、デパート内三階エリアにあるメンズ洋服店。
名の知れたブランドの中でも、XLより上のサイズも取り扱っており、リヴァイアの身長に合うオシャレ着を買い揃えるにはうってつけなワケ。
もちろん普段着とか下着とかも別の店で買う予定だよ。
水希「何しろ、今まで貯めてた貯金を使う時が来たってことよ!」
リヴァイア「だからってそんなに無駄遣いできる訳じゃ……」
水希「無駄じゃありませーん! むしろ必要事項でーす!」
信武「そうそう。そんな遠慮しなくたって、日頃の感謝と詫びを兼ねてると思えば良いじゃねぇかよ」
プレゼントすること自体悪い事じゃないし、普通なら喜んでくれると思ってたけど、さっきから様子が変だな……。
水希「ねぇどうしたの? そんなしんみりとしちゃって」
リヴァイア「いつか夢の中で、小さい頃のお前が言ってくれたんだよ。俺に出逢えたことがお前にとって唯一の誇りで、失くしたくない居場所だって。だからこそ言えるんだよ」
僕を抱き寄せてから、リヴァイアは言った。
リヴァイア「俺は死ぬまでずっと、お前の隣に居続けられるだけでも充分幸せさ。他に何も要らないくらいにな」
水希「リヴァイア……」
信武「だとしても婚姻届は出させねぇぞクソ蛇」
リヴァイア「お前は何を言っているんだ……」
ちょっと待って婚姻届って……どこをどうしたらそんな飛躍した話になるの?!
てか殺気ヤバイって……。ほらぁ! 若い店員さん怖気付いて奥に逃げちゃったじゃん!
リヴァイア「まぁ心配すんなって。少なくとも俺、お前よりも心は広い方だからな」
信武「悪かったな狭量で!」
水希「……二人とも、ケンカしてないで服選ぼうよ」
そんなやり取りを経てようやく服選びに専念でき、さっき奥に逃げてたはずの女性店員の助力もあって、リヴァイアは半ば着せ替え人形のような扱いになっていた。
「青髪のお客様の体格からして、先程のスキニージーンズとTシャツでも充分映えますが、あえてオーバーサイズのシャツとワイドパンツを組み合わせることで、ゆったりとした着心地に加えて脱げば凄いというギャップを際立たせることもできるんですよ〜!!」
加えて下心丸見〜えぇな力説のオマケ付きだ。
確かに。一緒にお風呂入った時に思い知ったが、脱げば男としての敗北感を覚えるほどに凄いことを否定できないのがこの上なく悔しい。
……あれ、おかしいなぁ。目から塩水が溢れて止まらないんだけど……誰か胸貸してくれる? そんで頭撫でて慰めて。心が保ちそうにないから……。
無いものねだりをして余計虚しく思う僕の隣で、信武は何か企んでそうな怪しげな笑みを浮かべながら、試着し終えたリヴァイアにある提案をしだした。
信武「おいクソ蛇。俺とお前、どちらがより上手に水希の服をコーディネートできるか勝負しようじゃねぇか」
リヴァイア「何を言い出すかと思えば……まぁいいぜ。その勝負、受けて立つ」
正しくは、信武からの挑戦状を受け取って勝負するらしい。
水希「あれ、この前そんな約束してたっけ?」
信武「ごめんな。勝負のことは今日まで伏せてたけど、お前との約束はちゃんと果たせるだろ?」
詳しく言うと、リヴァイアの服を一緒に探すついでに、交換条件として信武が僕に似合いそうな服をプレゼントしてくれることになってたの。
でもまさか、リヴァイアを巻き込んでまで勝負すると思わなかったから、ちょっと驚いてる。
水希「なかなかに策士だねぇ」
信武「お前ほどじゃねぇよ」
リヴァイア「水希! ちょっとの間トランサー貸して! コーデのサンプル画像見せて、似たような商品があるか店員に聞きたくて」
膝立ちのまま両手合わせてまで懇願しなくても、リヴァイアなら安心して貸せるんだけどね。
水希「良いけど、無くさないでよ?」
リヴァイア「もち! お前の命だと思って死守するよ!」
信武「ほれ、カゴ持ってきたから、これで目ぼしいものを入れとけ」
リヴァイア「お、サンキュー!」
犬猿の仲だろうとなんだかんだ気の利く信武の行動にリヴァイアも素直に受け取って、男と男の勝負?は本格的に始まろうとするが、その間にトイレに行くと伝えて席を外した。
たとえZ波を浴びて
むしろそういった不便さも名残りだと思えば良いだけのことだし、いざ戦闘となって変身してる時に限って催しちゃうなんてことも無いから、特に気に留めるほどでもなかったりする。
済ませたことで服屋へ戻ろうとした途端、視線を感じて足を止めるが、どれだけ見渡しても誰のものか判らないので、あえて気づかぬフリして誘き寄せることにした。
リヴァイア「――お! 戻ってきたか」
水希「ただいま。その様子じゃ、自信大ありって感じだね」
リヴァイア「そうなんだよ! ……にしても遅かったけど、もしかして腹下したか?」
水希「ううん、そういうのじゃないけど……」
信武「水希。俺達だってそこまで鈍くないんだから、遠慮せずにちゃんと言ってくれよな。お前自分のこと我慢強いと思ってるだろうけど、無理してると顔に出やすいんだから心配で」
水希「本当に大丈夫だから……やっぱ小言幸兵衛じゃん」
信武「悪かったな小言幸兵衛で」
水希「痛い! 謝るから耳引っ張んないでー!」
答えるにしても歯切れ悪かったから、二人に不安を煽ってしまったのは反省すべきところ。
……わかってても言い辛いんだよ。せっかくのお出かけ日和だってのに、楽しめるものも楽しめなくなっちゃうんだから。
ただ、さっきの視線からして
何はともあれ用心に越したことはないが、まずは二人がそれぞれチョイスした服を手に、いざ試着室へ!
信武「先陣は俺からな」
まずは、信武が選別したコーデを着るために一旦仕切りのカーテンを閉める。
程なくして、着替えた自分の姿を鏡で見る。
白地の襟付きTシャツの上にアーガイル柄のニットベストを着て、それに合わせたのはベージュのワイドパンツ。
見た目とは裏腹にパンツはストレッチ素材らしく、シャツと同様に着心地抜群なのは確かだが、
水希「……似合ってる、のかな……?」
自分で見ると服に着られてるように思えてしまい不安で仕方なかったが、意を決してええいままよ!と開けた。
水希「……どう? 似合ってる?」
緊張のあまり動悸が凄まじいまま二人の反応を伺ってみたのに……ねぇ何で二人とも固まってんの?
似合ってないならはっきり言ってよ……。
リヴァイア「……信武。お前のこと青二才とか言っちまってるけど、今回に限って取り消すわ。水希の服選ぶセンス高いな」
信武「当然だ。……それよりも水希、写真撮っていいか? 額縁に飾って一生の宝にしたいんだけどいいよね。ね?」
リヴァイア「じゃあ俺もそうしよーっと♪」
カメラモードにしてまで構えるなんて、二人して大袈裟すぎでしょ?
水希「……ねぇ、他の人に迷惑じゃないの?」
リヴァイア「大丈夫! 事前に許可は得てるから」
信武「ほら、笑ってくれよ。最高の一枚を撮らせてくれって!」
笑いたくても緊張と困惑でいっぱいだから無理だってばよ……。
店員さんに目配せしたらしたで『お気になさらないでください』と言わんばかりの笑顔を見せつけてくれて……どうしてこうなった。
リヴァイア「次は俺だな」
色々と疲れるが、まだ勝負は終わっていない。
今度はリヴァイアが選んでくれた服に、おぼつかないながらも着替える。
……そうしてまた鏡越しに自分の姿を見て、やっぱり着られてるようにしか感じなくて弱ったけど、時間が押しているのでカーテンを開けるほかなかった。
信武「ほう。クソ蛇にしては上出来じゃねぇか」
リヴァイア「だろ! 何しろ負けられねぇ勝負だしな」
信武「フッ、言ってろ」
ちなみにリヴァイアがチョイスした服は、黒地のノースリーブに薄水色のボタンシャツを羽織って、その下は白のハーフパンツという、季節的に夏っぽさを感じさせるコーデだ。
なけなしの自信も失くす一方で、二人は楽しげに語らいながらいつでも撮れるように構えていた。
信武「そんで次は」
リヴァイア「皆まで言うな」
水希「……どちらがより上手に最高の一枚を撮れるか、でしょ?」
乗り気じゃない僕を差し置いて、「そゆこと!」と意気揚々としたハモリ声が返ってきた。
…………もう好きにして。
◆◆◆
リヴァイア「やっぱ良いなぁニンゲンの体って! こうして水希と一緒にお買い物できるからマジ最高!」
水希「喜んでくれて何よりだけど……なんか、どっと疲れた気がする……」
買った服を詰め込んだ紙袋を手に、退店するにしても足取りが重い。
今日一日を楽しむはずなのに、デートはまだ始まったばかりなのに、自分だけ気疲れするなんて思わないから余計しんどくて堪ったもんじゃない。
二人が僕のためにと、似合いそうな服を選んでくれたのは嬉しいけどね。
水希「……ねぇ、信武」
信武「なんだ?」
水希「ひょっとしなくてもさ、また今回の様な勝負を仕掛ける気だったり?」
信武「たまには良いだろ? 振り回される側になんのも」
見てよこの小憎らしい笑みを。
まぁ極端に殴り合ったりしないで平和的な勝負をしてくれるなら良いけどさ……さすがに毎日だったら勘弁だね。
水希「ところで――いつまで付けてくるつもり?」
いい加減見られているのも鬱陶しくなり、痺れを切らして視線を感じた方向へ言葉を投げる。
間を置いて僕らの前に姿を見せたのは、スバルのクラスメイトでありクラス委員長の白金さんだったが、あきらかに様子がおかしい。
水希「……白金さん?」
ルナ「……んで……なんで、もっと早く、思い出せなかったのかしら……お礼を言えないままだったら、私……」
いつもスバルを迎えに来る時のような快活さはどこへやら。
酷く落ち込んでいるというか……うまく言い表せないけど、俯いている今の彼女の様子からして穏やかじゃないと思う。
水希「大丈夫? 具合悪いの?」
僕の問に首を横に振る白金さんだが、トーンが落ちてもはっきり聞き取れる声色で、ゆっくりと語る。
ルナ「そうじゃ、ないんです……。私の思い違いじゃなければ……」
今にも泣きそうなのを堪えるかのような、悲痛な顔を向けて、彼女は言った。
まだ小さかった頃、アナタに救われたんです。――と。
やっぱり、記憶処理はうまく行かなかったか……。
次回はルナちゃんの過去について触れます。