流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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60話 閉ざされていた記憶(かこ)

私には、歳の離れた兄が()()

 

なぜ過去形なんだって?

……とっくの昔に他界しているからよ。

 

交通事故がきっかけで帰らぬ人となってしまい、家に帰るたびに両親は気が沈んでいたそうだけど、その四年後に私を生んだの。

 

両親(ふたり)にとって私という存在は、兄の死を乗り越えるためのきっかけに過ぎないんだと、幼くして悟った。

 

 

自慢気に話すつもりはないけれど、裕福な家庭でありながら、両親は共働きで出張も多いから、家に帰ってくる日なんて……最低でも一年に10日程度。それより下回ることもザラじゃなかった。

 

そんな両親が、ひたすら私に求めること。

……それは、出来が良かったらしい兄に続いて、彼らの望み通りに敷かれたレール(不自由ない人生)を歩むこと。

 

それ以外は何も、望まれてはいなかった。

 

言うには簡単なだけで険しいことだと知りながら、それだけで喜んでもらえるのなら期待に応えたくて、そういう幼心から、一人でずっと一本道のレールを歩み続けてきた。

 

……なのに、要求してくる割に両親は、仕事以外は無関心なの。

むしろ口を開けば「出来て当然のこと」と言われて終わりだから。いくら頑張っても振り向いてはくれなくて、そのたびに絶望に浸っていたわ……。

 

とはいえ、出来損ないのレッテルを貼られたくなくて、彼らの言いなりになってしまう自分が心底憎いし、亡き兄にまで振り回されているようで………何度、生まれてこなきゃよかったと思ったことか………。

 

 

 

だけど、一度だけ。

たった一度でも、愛されていた実感があったことを、()()()()()()()()()()()の。

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ三年生だった頃の冬休み。

 

私はその日、一人で都市部にある図書館に立ち寄った。

 

基本、ゴン太とキザマロの二人といることが多いけど、一人で居たい時は決まって、図書館へ行くことが日課になっていたの。

 

単に寂しさを紛らわすためでもあるし、両親からのプレッシャーから逃れたい心境だからこそ、気が休まるような居場所を欲しかったから。

 

あとは何と言っても、童話や恋愛小説を心置きなく読めることかしら。

 

自室にあるのは大抵、英才教育に向けた教材ばかりで、娯楽と呼べるものなんて全く無いからこそ、誰にも知られない憩いの場となって、両親が不在なのをいいことに図書館に通いつめていた。

なんなら気に入った本を借りて、家でも読んだりしたわ。

 

 

そして、読み終えた本を返却した日の帰り道。

バス停へと歩いていたら、いきなり男の人に誘拐され……気づけば、ランプの灯りだけが頼りの、窓のない空間に閉じ込められたの。

 

手足も縛られて、最低限の飲み食いしか許されないまま何日も……。

 

仕事では常に人の上に立つ両親に(なら)って、クラスメイトを率いる委員長として常に気を張っていた私でも、流石に心細くて泣きそうになったわ。

 

でも、そんな時だった。

 

銃声やら鈍い音が扉越しに聞こえて、その恐怖に堪らず目を塞ぎ、必死に祈るように神様に助けを乞うた。

 

やがて銃声が止んだかと思えば、(きし)むような音を立てながら扉が開いて、

 

(――ころされるッ!!)

 

……そう予感して、声を噛み殺したまま縮こまっていたけれど、

 

「……大丈夫?」

 

嫌な予感とは裏腹に、その人が優しく声をかけてくれたの。

 

恐る恐る扉の方を向くと、月明りに照らされながら私に問いかける人こそが、愛しのロックマン様と同等に尊敬してやまない―――()()()と目が合った。

 

「もしかして、君がルナちゃん?」

ルナ「……だれ……?」

『おい、流石にその姿のままじゃ……』

「……あぁ、たしかに(まず)いよね。――ちょっと目を閉じてくれる? 大丈夫。君を(さら)った連中みたいに襲うわけじゃないから。お願い」

 

彼の言葉に従って目を瞑ったが、ヒールの足音が近づくほど不安が増すなか、縛られた手足が解放されたと同時に「まだ開けちゃダメ」と言われ、ほんの数秒経って「もう開けていいよ」と声をかけられた。

 

「……驚かせちゃってごめんね? さっきは変わった服装だったけど、これが僕の本当の姿なの」

 

いつの間に姿が変わったことに驚く私に、両膝をついて座る水神様は苦笑を浮かべながらそう言って、自ら名乗り出た。

 

水希「僕は星河水希。お外にいる悪い人達はやっつけてきたから、あとは君を助けるだけ。立てそうじゃないなら、おんぶするけど……」

ルナ「ぁ……ぅ、あ……っ」

 

鳴り響く銃声もあって殺されると勘違いするほど、精神的に追い詰められて……どうせ助けは来ないと悲観したわけだけど。

やっとのことで人の温もりに触れて、柄にもなく泣き喚いた私を水神様(水希さん)はそっと優しく抱き締め、頭を撫でてくれたことを、()()()()()()()()()()

 

水希「怖かったよね……辛かったよね……でももう大丈夫だよ。落ち着くまで一緒にいてあげる。君のお母さん、とても心配していたからね」

 

正直、信じられなかった。

死んだ兄に捉われてるママが、私なんかを心配してくれると思えないから。

 

ルナ「……ほん、とうに……?」

水希「うん、本当だよ。だからもう泣かないで。お母さんに会えるまでの間、僕が絶対に守るから」

 

そして同時に……もし兄が生きていたのなら、この人みたいに優しい人だったらいいのになと、叶いもしないことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

なんでかは知らないけど実の所、出会った当時の記憶が封じられたように感じながら、今まで過ごしてきたみたいなの。

 

そうして、復学前の星河くんの家を初めて訪れた日。

一緒にいた水希さんが自己紹介をしたその瞬間、封じられたものが徐々に解けていった感覚がして、容姿も名前も一致する時点で確信を得た。

 

 

 

彼こそが、私の命の恩人だってことに。

 

 

 

 

だが、お礼をしようにも、本人じゃなかった場合も考えてしまい……いざとなると踏み出せず、勇気が持てやしない状態が続いた。

 

 

そんな自分を嫌気が差して「らしくないわね……」なんて吐き捨てて、ベットに突っ伏して悶々とするばかりだったけど……。

 

意気地なしでいるのはもう終わりにしよう。って。

 

ママから転校しろと言い渡された時にようやく決心ついて、今に至るの。

 

 

 

◆◆◆

 

 

ルナ「――覚えている限りのことは、すべて話しました」

 

昼食も兼ねてテラス席へ場所を変えてから、二年前の誘拐事件のことを一通り話してくれたが、ルナちゃんを救ったという話は無論覚えているし、記憶処理が甘いのも想定内だった。

 

何しろただ消すのではなく、トラウマレベルの真実(きおく)改竄(かいざん)するにしても、上書きするための記憶(うそ)を用意できなきゃ効果は薄い。

 

それを承知で取った手段は、透視(ビジブル)でルナちゃんの記憶に介入し、暗示をかけるようにして言霊の陣を使い、記憶を封じた。

何気に初の試みで不安要素しかなかったけど、辛い記憶を抱えたまま生きてほしくない一心で、お節介をしたにすぎなかった。

 

 

 

けど、最後の最後で「いつかまた僕に会えたなら、思い出すかもしれないね」とか余計なこと口走ったとしたら……どう考えても僕のミスです本当にありがとうございました。

 

 

ルナ「今だからこそ言わせてください。……あの時、本当にダメかと思いました。……でも、それでも、アナタに助けられたから今がある……だからどうしても、恩返しをさせてほしいんです。何も返せないまま転校したくないんです!」

 

……どうしてか、昔の自分と酷似していた。

大吾さんに恩返しがしたい一心で、護衛させてほしいと志願した頃の自分に。

 

でも、(それ)(これ)とは別の話。感傷に浸っている場合じゃない。

 

水希「恩返しがしたいって気持ちは理解したけど、あの時のことは単なる気まぐれ。元々、誘拐されたスバルを助け出すついででしかなかったんだよ」

信武「は……?」

ルナ「…………え?」

 

僕の返答に対してルナちゃんと信武は言葉が詰まったようだが、続ける。

 

水希「ここから先の話は、君にとっても心が張り裂けるほどの話だよ。それを聞く覚悟はある?」

ルナ「……わたし、は……」

信武「待てよ」

 

ルナちゃんからの答えを聞く前に、信武が辛抱たまらなさそうにして物申してきた。

 

信武「おい水希。さっきから黙って聞けば、この子に向かってそんな言い方、無神経だと思わねぇのかよ!?」

水希「思ってる。……それでもルナちゃんは、今日まで迷いに迷って、ようやく勇気を振り絞って僕に会いに来てくれた」

 

僕とて考えなしに発言していない。

 

それを信武に伝えると同時にルナちゃんにも、理由もなく助けたわけじゃないと知ってもらうために、説明は必要なのだ。

 

水希「だからこそ、どれだけ残酷な話だろうと、ルナちゃんには真実を知る権利があるんだよ。……違う?」

信武「そりゃあ筋は通ってるけど、だからって――」

ルナ「私なら、大丈夫です。信武さん。お気遣いありがとうございます」

 

信武に感謝を告げて一呼吸入れると、いつもの調子を取り戻したように真っ直ぐな視線を向けてきた。

 

ルナ「水希さん、教えてください。あの時の真実を」

水希「………わかった」

 

……言わずもがな、ルナちゃんは無理を承知で、残酷な内容だと知ってもなお真相を聞こうと覚悟を決めている。

 

ならば僕も、彼女に敬意を持って、嘘偽りなく語るのが筋だ。

 

水希「二年前の誘拐事件にスバルも巻き込まれたけど、君はその時、一人だったでしょ?」

ルナ「……はい」

水希「じゃあなぜスバルと一緒じゃなかったのか。それはね、スバルの他数人は囮で、君だけが本命だったから」

信武「本命って……それじゃあ、まるで」

水希「そう。ルナちゃんを助けてスバル達を見捨てるか。あるいはその逆を選ぶか。トロッコの問題みたいな状況だったの。

……理由は、ルナちゃんの両親に復讐するため」

 

見開いたまま青ざめてしまうルナちゃんに限らず、信武も思わず息を呑んでしまうほど、僕の口から語る真実は残酷他ならない。

 

水希「誘拐犯のリーダーは、白金財閥にかかわる会社に勤めるほど優秀だったらしいけど、ある日クビ宣告をされて、入院生活を送る子供の治療費が(まかな)えずに死なせてしまったらしくてね。

その時点で最初から、ルナちゃんを道連れに死ぬつもりだったみたい」

ルナ「そんな……?!」

 

いくら覚悟を決めたと言えど、ルナちゃんはまだ子供だ。

吐き気を催すほどの真実を聞いて、目に見えて弱り果てる姿は痛ましく、口を押さえて耐えている様子も覗えた。

 

信武「……さすがに、これ以上は危険だろ……」

水希「わかってる。――最後に一つだけ言い忘れたんだけど、誘拐犯のリーダーがクビにされたことと、ルナちゃんのお父さんとは何の関係もない」

ルナ「……え? それって、つまり……?」

水希「人事部長って肩書きを持つ人が、本来クビになる人と間違えて、誘拐犯のリーダーを辞めさせてしまった。

そんな洒落にならないミスを、君の両親のせいだと勘違いしたことで起こった悲劇。むしろ親子そろって被害者に過ぎないんだよ」

 

それを聞いてさっきよりマシであっても、依然としてルナちゃんの顔色は悪いままだった。

 

水希「話は終わり。少し休憩しよう」

ルナ「……その前に、聞かせてください。……どうして、星河くんのついでだとしても、私を助けてくれたんですか?」

水希「お子さんを失った無念はあれど、ルナちゃん達を巻き込んでいい理由にはならない。それだけのことだよ」

 

辛くてもなお質問するルナちゃんに対して嘘偽りなく答え、「それにね」と付け加えて、自嘲するように続けた。

 

水希「こう見えても僕。赤の他人にこれっぽっちも興味ない性格してるけど、――まだ未来のある子供達が、汚い大人のせいで理不尽な目に遭って、その結果人生を狂わされるとなると心が痛むんだよね……自分のことのように思えちゃうから」

 

僕の場合。ユリウスの人生を狂わせてしまった加害者側でもあるから、両方の意味で負い目を感じちゃってるんだよね……。

似たような苦しみを幼くして味わって欲しくないが故に。

 

リヴァイア「そういうことだ。つまり水希は、なんだかんだ言って、見て見ぬ振りが苦手なお人好しなんだよ」

信武「ま、良かれと思って動いても、かえって空回っちまうこともあったけどな」

水希「……二人の言い分は置いとくとして、本当に気まぐれに過ぎないから、そもそも見返りとか恩返しなんて求めてないの。

……でもね。こうやって感謝の気持ちを伝えに来てくれただけでも、充分なんだよ?」

 

いきなりルナちゃんの手を取るのは不躾(ぶしつけ)だろうし……いま自分の顔を鏡で見れないけど、上手く笑えてるかな?

 

ルナ「………本当に、あの時助けてくれたのが、水希さんで良かったです……ありがとう、ございます」

 

その自問に対して、ルナちゃんは涙ぐみながら微笑みかけてくれた。

 




次回。

凶事の前触れ
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