連続と言っている時点で初ではないのですが、既に投稿している作品では初なので、初と言っておきます。
それでは、どうぞご覧下さい。
一応原作沿いになっていますが、はて……結局、この人物は誰だったのでしょうか?
それは言うなれば青天の霹靂。
画面越しのその姿をみて、黒尾は我知らず息を吞んだ。
「……そんなはずはねぇ!」
思わず零したそれは、否定の意を強く含んでいた。
「
時は、その数分前に遡る。
燦々と、まるで夏かと問いかけたくなる程の熱を発する昼前時。
くわっと欠伸を漏らした俺は、不自然に途切れた昨日の事を考えていた。
昼日中、幼い頃に見ていた仮面の化け物とおよそ十年ぶりに会った早々、あの頃の大きなものとはくらべものにならない危険……即ち命の危機に瀕した……筈の俺は、気が付いたら道の真ん中にぼけっと突っ立っていた。
(やべぇ……自分で思い返してみても訳分かんねぇ)
一人で自分のボケにツッコミながら、溜息一つで思考を切り上げた。
若い身空で痴呆など笑えないことこの上ないが、分からないものは悩むだけ無駄である。覚えていないものは仕方がないだろう。
(うんまぁ……命の危険がなさそうならそこまで思い悩むことでもないか)
そう割り切る俺の本日の予定は実のところはほとんど終わっていた。
大学の授業は必須科目と選択科目からなる必要単位数の修得によって成り立つ。本日の時間割は朝一から授業に出ている分、俺の必要単位数分の科目は全て受け終わっていた。
「さて昼飯……学食の方が得か……」
購買か食堂か。
思考を巡らせるでも無く決断を下した俺は、のんびりとした足取りで校内を進む。
入学して一月が経とうとしているだけあり、毎日のように使用している施設の中で迷うことはほとんど無くなっていた。
「くぅーろ、ねぇーこ、ちゃーん?」
最もそれは、俺に限って言える事でも無い。
「もう帰っちゃうの?」
ぽんと、勢いよく肩を叩くのは、入学初日から己の存在を感知した全国大会出場経験のある元バレー部員。
春高では全国出場を果たせなかった故に、個人的には対戦経験は無いが、彼と俺のバレー人生にはある共通点があり……それ故に彼には、一方的に俺の存在を認知されていた。
「そりゃあ、授業は終わりましたし? 昼飯食ったら帰るよ? 俺は」
一度話しかけられた手前、無視をすれば翌日がうるさくなると既に何度か体感している俺は、クルリと背後に視線を向けて、懲りずに俺にちょっかいをかけ続ける同い年の彼を見つめた。
「お前だって授業は終わりだろう? ゲス君」
ツンツンと尖った……昨年までよく共に練習していたミミズクを思いおこさせる髪型をした男は、しかし彼とは髪の色が事なり、赤色だ。
ぎょろりと、見開くと心なし飛び出ているかのような、やや特徴的な目をこちらに向けながら、いつものお決まりのように誘いを向けてくる。
「バレーやらない? 黒猫ちゃん」
サラリと、軽い調子で行われるその誘いは、既にルーティーンと化した決まり文句となっている。
「やんねぇよ。俺はもう止めてんの」
サラリとこちらも同じ調子で返すと、いつも彼は引き下がる。そうしてそのまま所属しているバレーサークルの練習に入るのだろう。そこまでが予定調和の筈だった。しかし。
「うーん……残念。じゃあ、一緒にご飯食べようか?」
おいちょっと待て。
思わず口から出かかった言葉は呑み込んだものの、不審な色は十分に表情に表れていたのだろう。
目の前のゲスモンスターはおかしくてたまらないと言うようにケラケラと笑っている。
笑いが収まるまで待っている義理は無いものの、このまま放置したとしてもこれから向かう先が食堂である以上、追いかけられるのは目に見えている。
(だからって、俺からわざわざ食事をする場所を変えるって言うのもなんか嫌なんだよなぁ)
何故こちらがわざわざ変えなければならないのかと、矜持と呼ぶには小さな拘りが、胸の内に引っかかるのだ。
結果として、いろんな感情が過ぎりながらも、律儀に彼が笑い終わるのを待っていた俺は、連れだって二人、食堂へ向かう。
「つぅか、練習はどうしたよ? お前はサークル入っているんだろうが」
改めて問いかける俺に「今日はお休み~」と、戯けた調子で答える彼が、既にバレー中心生活を止めた俺にこうして話かけ続ける真意は実のところよく分からない。
元より、春高において全国大会へ出場した俺と、出場しなかった彼との接点は、実のところたった一つしか無い。
俺たち二人の高校バレー生活、その最後の試合相手が同じ学校だった。
たったそれだけの縁の筈だ。
(あっちが全国大会まで行った夏のインターハイはこっちが予選落ちしているし……やっぱり試合の経験も無いはずだよなぁ)
如何せん、あちらの高校は全国でも有力視されるほど強豪校だったのだ。
たとえ一年、二年時だとしても、練習試合を組んでいれば、おそらく記憶に残っている筈だが。
とりとめもない会話を続けるゲス男を横目に考えてみるも、やはりこちらとしてはそこまで関心を持たれる心当たりがない。
いっその事本人に問うた方が楽では無いかと考えかけていた所で、視界に入った学生食堂の姿に、自然と口を噤んでしまうのは、良くも悪くもこの場所は人通りがありすぎるせいだろう。
内緒話をする点では利点にはなるが、人目の多い場所では大なり小なり注目を集めやすい。
連れ立つのがこのゲス男となれば尚更だ。
バレーの強豪校ではないこの学校では、そちらの……バレー部員としての知名度はあくまでサークル内で留まっている。それは本人がまだ入学間もなく、大学自体特筆すべき実績も持たないからだろう。
しかし、彼の元来の性格がかなりあくが強いためどちらにせよ、周りからは浮いてしまったのだ。
よく言えば目立つ。悪く言えば奇人変人。
そんなことをつらつらと考えながら注文していると、当然とした顔で傍らに座るゲス男に、自然と顰め面に変わる。
「……ゲス男くん……俺君の琴線に触れるようなこと、何かしたかね?」
思わず神妙な丁寧語になってしまったのは、彼から底知れ無い何かを感じるせいかもしれない。
内心戦々恐々とする俺の心情を知ってか知らずか、ううんと、否定の意を示してから、何かを考え込むように押し黙る。
しかしそれは、数分と続かなかった。
「んー……特に何も」
へらっと、気負いの欠片もない笑みで答えられ、対応する俺は溜息を返すしか無い。
俺と彼の対応は、万事がこのような状態である。
溜息を零す黒尾を横目で眺めながら、ゲス男と呼ばれる彼は、何が面白いのかへらへらと笑う。
その様子に自然と溜息をつくも、対面の人物への効果はどう考えても期待できなかった。
(他人を気にしないのか、打たれ強いのか……)
両方だなと、密かに一人納得する。
そうでなければ全国大会常連校などという重圧に平然と出来る精神など作れないだろう。
自分たちが全国へ出場したのは三年の春高だけであったが、それでも強者との戦いは一試合一試合が緊張の連続であったのである。
中には紙一重であった相手もいたのだから、もう一度同じ相手と戦えと言われれば、今度の勝敗は分からないと言うのが本当のところだ。
(……まぁそれが、面白いところでもあるんだけどねぇ)
ほんの数ヶ月前まで己も闘志を燃やしていた競技に懐かしく思いを馳せれば、当然思いおこすのはその中で競ってきた他校の強者や同校の仲間達であろう。対面の人物の、どこか気の抜けた声に反応してしまったのは、そのせいかもしれない。
「…………あれ? あれって烏野の?」
「……は?」
見ると、食堂の中に設置されている大型テレビ。それが映す東京都内のものと思われるニュース番組で、一枚の写真を背景に、アナウンサーが滔々と内容を読み上げていた。
曰く、屋根の上を走る男性の姿が云々……。
しかし、黒尾もゲス男も、そんな話の内容よりも……その写真に視線を向けていた。
「……ねぇ、黒猫ちゃん……あれってさぁ……」
「……いや、そんなわけねぇ」
恐る恐ると写真を示す男を前に、否定を口にしながらも、黒尾は我知らず震えていた。
「……そんなはずはねぇ!」
否定を断言しながらも、僅かなもしかしてを捨てきれない己がいる。
「
否定しきれない理由は、分かっていた。
黒尾のいう
そこから黒尾がとった行動は、珍しく悪手だった。それは、彼もまた、顔に出さなかっただけで密かに混乱していたのである。
まだしばしの時間があるとは言え、ゴールデンウィークを過ぎればインターハイ予選が都内地方問わず始まる。
既に引退したとはいえ、いや、ここは引退したからこそ、次代もまた、全国で因縁の相手との対決が見たいという思いがあるのだ。
それは勿論、相手も同じ筈である。
(いくら何でもインターハイ予選前の大事な時期に、東京にいるわけ無い。ならばあれは、単なる他人の空似と言うことになるんだが……)
「それにしちゃあ、似てるよねぇ」
タイミング良く、まるで心の裡を読んだかのような掛け合いに、黒尾の眉は自然と寄せられる。
黒尾の表情からその心情を理解したのかニッと笑う顔はどこか自慢げだった。
「どうすんの? これ本当にあの子だったら、今頃烏野、大騒ぎだよねぇ?」
「仕方ねぇな」
一つ溜息をついて、黒尾は覚悟を決めた。
「ちょっと本人にまで繋ぎとるわ」
「えっ?! 黒猫ちゃんあの子と連絡取り合ってんの? 他校の後輩と!?」
「……いや、正確には、連絡とってる本人は俺じゃねぇんだけど」
僅かに言い淀んだのは巻き込もうとしている相手が現役だからだ。
新入生が入り、インターハイ予選が始まるまでの期間は長いようで短い。しかも相手は今年が三学年。最後のインターハイと言って良い。
受験を控え、勉強の方も忙しなくなる学年だが、そこはうまく手を抜くことを幼なじみである黒尾は知っているので、そこまで心配はしていないが、部活において足を引っ張るのだけは御免被りたかった。
しかし、既に卒業している自分では情報の入ってこない部活動のこと。加えて相手は因縁が……交流と言い換えても良いが、あると言っても他校生だ。
詳細を知るには連絡を取るしかないのである。
思い込みとは恐ろしいことで、この時この場にいる二人はそのニュースで取り上げられている人物が、自分たちの知る人物と全く関係の無い第三者……つまり自分たちの単なる思い違いと言う可能性を完全に除外してしまっていた。
「……は?」
かけられた電話に出た、狐爪研磨の応対は、絶対零度を思わせるほど冷ややかな物だった。
その心当たりは黒尾には分からない物だったが、取りあえず一言目の声音から、間違いなく会話の相手が不機嫌であることは明白である。
「クロ、疲れてるの? 卒業して、独り立ちしてから初めてかけてきた個人的な電話の内容がそれってどういう事? クロってそんなに翔陽の事が嫌いだったっけ?」
しかし黒尾が不機嫌の理由を問いかける前に容赦なく降り注いだ疑問という名称を借りた侮蔑の数々。
あからさまでないだけマシと言うべきか、婉曲に言って俺が分からずとも気にする必要がないと思うくらいに俺に体する関心がなくなったのか、どちらがマシであったのだろう。
二の句を告げられぬ俺に遂にはぷつっと電話は音をたててきれた。
あまりの怒濤の言葉の数々に俺が動けなかったのは、まぁ仕方ないと思っていてほしいものだ。
結局、この話の真偽は分からなかった。
しかし、夜が明けたこの日、俺はそれ以上の異常事態を知ってしまう事となる。
「え?……烏野の十番君らしき人が屋根の上を走るニュース?……ないよ? そんなの。どうしたの黒猫ちゃん?」
まさかもう五月病?と、揶揄しながら笑うゲス男に、俺を目を見開いたまま、携帯の中のニュースサイトに目を通した。
昨日の昼間には速報としてでていたその記事は……今は完全な空欄となっていたのである。
果たしてデータも消えるのか……それは「彼ら」の裏工作と言うことで。
多分スクリーンショットでもしていれば残っていたかもしれないですが、それを取った記憶がなければ自然と「変な画像」の一言で消しそうですね。
それではまた。