レミリア・スカーレットは百合百合暮らしたい   作:名無しのメイド

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八雲紫は平穏が欲しい・裏

(やれやれ、お嬢様のご趣味にも困ったものね)

 

 妖精メイドの中で最も古参の副メイド長は、自らの主を先導しながらそう考えた。事の発端は、門番である紅美鈴が外敵を撃退する為に少々規模の大きい気効弾を放ったことだ。敵の撃退は成ったものの、美鈴の攻撃によって紅魔館の中庭が盛大に破壊され、おまけによりによってレミリアの睡眠も妨害されるという自体になった。

 結果、ここ一週間ほど美鈴はレミリアの命により毎日、妖精メイドによる拷問(くすぐりの刑)にあっている。一日一時間程度、笑い死にしないように休憩を挟みつつ。これはそれほどレミリアが美鈴に対し怒っているから……ではない。レミリアは基本的に部下の失態には寛容で、意図して紅魔館に害を成したのでもなければ大抵のことは軽いお小言程度で済ませるのだ。

 ではなぜ美鈴への責め苦が一週間も続いているのかと言えば、レミリアの趣味が関係している。

 

(お嬢様は美しい女性ならなんでも好きな御人だから……美鈴さんみたいなタイプは特に好みなんでしょうねぇ)

 

 副メイド長はレミリアのことは蝙蝠の羽が生える前から知っており、その性格も嗜好も熟知している。カリスマ的な言い回しと威厳ある態度からわりとみんな誤魔化されているが、レミリアは可愛い女の子を見ると愛でずにはいられないという割とアレな性格の持ち主なのだ。要するに、今回は美鈴の失態にかこつけて彼女に対して悪戯をしたいだけだろう。

 

(まぁ、それを察していない他の子達にしてみればただのお仕置きにしか見えないんだろうけどね)

 

 レミリアは異常に外面を取り繕うのが上手いため、彼女の本性を知っている者はほとんどいない。最も信頼されている咲夜や親友のパチュリーですら知らないだろう。知っているのは、単純に仕えた時間の長い自分を含めたメイド数人と、異様に頭の回る小悪魔。それから実の妹でありレミリアに溺愛されているフランドールぐらいだ。

 

「そろそろ終わりにしてあげるべきかしら」

 

 副メイド長の背後を歩くレミリアがそう呟いた。美鈴へのお仕置きのことだろう。開始してから一週間が経っているし、レミリアとしても満足できたのであろう。

 

「そうでございますね。美鈴さんも反省されたでしょうし、そろそろ──」

 

 解放して差し上げてもよろしいかと、と続けようとした副メイド長の言葉は最後まで続かなかった。レミリアに無礼の無いよう振り返った彼女に妙な光景が目に入ったからだ。

 

(……何、この『スキマ』は?)

 

 ちょうど副メイド長とレミリアが挟むようにして、廊下に妙な亀裂の入った『スキマ』とでも形容すべき空間が出現していたのだ。副メイド長の目線を辿ったレミリアも気が付いたようでそれに目をやってから微笑んだまま首を傾げ、周囲で廊下や花瓶の掃除を行っていた妖精メイド達もそれに気付くと瞬時に掃除を止め『スキマ』を取り囲むようにぐるりと整列した。

 そして、『スキマ』の中から誰かが姿を現した。金色の長い髪を持った見たことのない服装の長身の女性。妖気を感じられることから妖怪であろうとその場の皆が察する。しかし、現れた女性の気配からは少しの動揺が感じられた。

 

(……あぁ、なるほど)

 

 あの『スキマ』は彼女の能力で、何らかの目的があってこの紅魔館の廊下に『スキマ』を開いたのだろう。そしてレミリアほどの妖怪が副メイド長が目をやってから初めて存在に気付いたことから、相当に隠密性の高い能力のようだ。恐らく今まで『スキマ』の存在を察知されたことなど無いのだろう。しかし、今回偶然にも会話の為に振り返った副メイド長が『スキマ』を察知してしまい、瞬時に部下の妖精メイドたちが反応して『スキマ』を包囲した。

 

 これを彼女の視点から見ると、見破られないはずの能力をあっさり看破して完璧に対応され、現れた瞬間いきなり包囲網が形成されているという状況になるわけだ。それはまぁ動揺もするだろう。

 そしてそんな女性はというと、自身を包囲している妖精メイドたちを見回して驚愕したように目を見開いていた。恐らく、妖精メイドたちの練度の高さに驚いたのだろう。そもそも妖精という種族自体がメイドには全く向いていない。そんな妖精が異様に統率の取れた動きで自身を取り囲んでいるのだから驚くのも無理はない。すると、

 

(……おっと? 威圧かしら)

 

 その女性が妖力を周囲に放ったのを感じ、副メイド長は部下の妖精たちを見回した。普通の妖精がこのレベルの妖力に当てられれば気絶かパニックを起こすかだが、あいにく主人の闘争の為に兵士としての役割を与えられることも多い妖精メイドたちは、たかが格上からの威圧程度で怯えるような軟弱さは持ち合わせていない。むしろ何人かは眉を潜め、スカートに潜ませているナイフに手を伸ばしていたりする。

 が、主人であるレミリアが敵として扱っていない相手に攻撃を仕掛けるのもあまりよろしくないので、副メイド長が視線で部下たちに待機の指示を出すと、皆がメイドとしての愛想笑いを浮かべてその場に直立不動の姿勢を取った。

 

 その一連の様子を見てから、ますます謎の女性の焦燥感は強まったようである。一方で、さっきから全く動きの無いレミリアは何をしているのかといえば……。

 

(うーん、あれは内心で相当はしゃいでおられるわね)

 

 外見こそ淑女らしい微笑みから変わっていないが、大きな瞳が爛々と輝いているし、何より、この女性が現れてから普段は抑えているはずの妖力がだだ漏れになっている。テンションが上がると無意識に妖力が溢れ出てしまい、本人の意思と無関係になんか凄そうなオーラを纏うのがレミリアの体質だと副メイド長は知っている。動きが無いのは、自分好みの美女が現れたことで見とれているだけだろう。

 

「私としたことが、礼を失していたわ。皆、お客様におもてなしの準備を」

「「「畏まりました、お嬢様」」」

 

 ようやく起動したレミリアがそう言うと、副メイド長以下メイド一同は即座に頭を下げてその場を辞した。残されたのは、未だ呆然と立ち尽くす謎の女と、それを愉快そうに見つめながら傍に立つ吸血鬼の少女のみ。

 

「咲夜」

「はい」

 

 レミリアに呼びかけられて、先程までいなかったはずのメイド長、十六夜咲夜が音も無く現れる。女性が驚きに目を見開くが、この程度のことはメイド長にとっては朝飯前だ。

 

「お客様をご案内して?」

「畏まりました。お客様、こちらにどうぞ」

 

 恭しく一礼してから、咲夜が女性を先導して歩き出す。完全なる不審者である自分を客人扱いしていることに、レミリアの意図が読めずにますます困惑した気配を強める女性だが、レミリアの内心はというと。

 

(謎のミステリアス美人さんきたあああ! 私の理想通りぃいいいっ!! これはもう運命よねっ!? 絶対逃がさないんだからぁ!)

 

 好みドストライクの美女を前にして完全にテンションがおかしなことになってお花畑な思考回路になっていた。速攻で女性を食堂に通し、咲夜にお茶菓子を出させて対面に座る。

 

「ようこそ紅魔館へ。私はこの館の主でありスカーレット家の現当主、レミリア・スカーレットよ」

 

 レミリアはウキウキしながら優雅に名乗りを上げ、女性は一瞬戸惑いながらも口を開く。

 

「丁重なおもてなしありがとうございますわ。私は八雲紫。この幻想郷の管理をしているしがない妖怪ですわ」

 

 八雲紫と名乗った女性の自己紹介を聞いて、レミリアは思わず手を叩いて笑顔になった。

 

「ほう、あなたが! 幻想郷に移住するにおいていずれご挨拶に伺おうと思っていたのだけれど。私たちのような新参者に対してまさか管理者自ら御足労頂けるとは嬉しい限り」

「いえいえ、幻想郷は誰であろうと受け入れますわ」

 

(なるほど、これがバブみって奴ね!)

 

 謎の納得をするレミリアの脳内では早くも『八雲紫=母性の象徴』という謎の方程式が出来上がっていた。実際、幻想郷の生みの親のようなものなのである意味間違ってはいないのだが。それから紫に移住の理由を訊ねられたので、レミリアは素直に答えた。

 

「この幻想郷でなら友人が作れるのではないかと思ってね」

(美少女の友人がねっ!)

 

 紅魔館による幻想郷の侵略を警戒していた紫はこの答えに安堵して息を吐いた。レミリアの内心が聞こえていたら、それはそれでまた別の意味で心配していたことだろう。

 

「そうだ、賢者殿。あなたは我々が幻想郷に来て初めてのお客様よ。これも何かの縁。どう? 私の友人になってくれない?」

「ええ。是非、お友達にして下さいな」

「そう! では、今から私とあなたは友人よ」

 

 この時、申し出を快諾したことに対してはしゃぐレミリアの姿を見て紫は演技なのか本気なのか測りかねていたのだが……。

 

(綺麗なおねーさんとお友達きたぁーーーー!!)

 ……などと心の中で盛大にガッツポーズを取るレミリアの心中を紫が覗いていたなら、その威厳も何も感じられないあまりの子供っぽさに脱力していただろう。

 かくして、外面だけは完璧な天然大ボケ吸血鬼レミリア・スカーレットは、妖怪の賢者こと八雲紫にすら自身の本質を誤認させる事に成功したのである。そしていかんせんレミリアの実力自体は本物のため、こうした認識が正される事はほぼ無いのであった……。

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