レミリア・スカーレットは百合百合暮らしたい 作:名無しのメイド
パチュリーの転移魔術(実はほぼ小悪魔監修)を発動した紅魔館は、無事に目的の地──幻想郷へと辿り着いていた。
「ここが幻想郷ね。うんうん。美しくて良い所だわ」
紅魔館の当主、レミリア・スカーレットはそう満足げに頷きつつ、本日の朝食の美鈴特製ニンニク増々焼き餃子を食べていた。「健康にはニンニクと日光浴が一番ね」とか内心で呟いていた。
「『蛇』も『教授』も逝ってしまったし、第十二位としてはいささか寂しいと思っていたところよ」
チェスの相手もいなくなって久しい、と吸血鬼はそう語る。とても美少女とお近づきになりたいだけの残念な人物には見えない。
「私はこの幻想郷で交友を広めたい。というわけで咲夜、近隣の住人に私たちの存在を知ってもらう為に菓子折りを配ってきて頂戴」
「畏まりました、お嬢様」
そんなわけで、「引っ越してきたら挨拶回りをするのは社会人として常識」とか考えて、レミリアは自身の側近であるメイド長にそう命じるのであった。
◇ ◇ ◇
メイド長、十六夜咲夜はパーフェクトメイドである。紅魔館の全メイドを統括し、炊事、洗濯、清掃の全てを滞りなくこなすパーフェクトウーマンである。
紅魔館が唯一絶対の主、レミリア・スカーレットの命を速やかに叶えるのが彼女の存在意義であった。彼女は主に言われた通り、空間操作を駆使しつつ大量の菓子折りを懐に収めた。
「よし」
そして咲夜は主の命を果たすべく自室から廊下へと足を踏み出し──
『ズルッ』
──盛大に足を滑らせた。
「へ?」
清掃担当の妖精メイドたちによって丹念にワックスがけされた廊下は非常に滑りやすくなっており──つまるところ、咲夜はそのまますっ転び──
「ぐふぅっ!?」
──派手に後頭部を強打した。打ち所が悪かったのか、頭部から激しく流血しておりピクリとも動かない。
と、そこに数人の妖精メイドが通りかかる。
「ああっ!? メイド長!」
「た……大変だわ! 早く!」
惨劇の現場を目の当たりにした妖精メイドたちは迅速な上司の救助──
「早く掃除しなくちゃ!」
「あーあ、せっかく掃除したのに血だらけだよー」
──ではなく血だらけの廊下の清掃を優先した。血塗れの上司は放置である。
「メイド長ー? 生きてますかー?」
「へんじがない。ただのしかばねのようだ」
「メイド長がまた死んでおられるわ!」
そしてあっさり死亡認定した。文字通りの人でなしである。
「もー、メイド長のうっかりさん。どうせ死ぬならお嬢様の命を果たしてから死ねばよかったのに」
「次のメイド長は上手くやってくれるでしょう」
そんなイカれた会話が展開されていると、咲夜の身体が輝き、みるみるうちに傷が治っていく。しばらくすると咲夜は完全に回復し意識を取り戻そうとしていた。
「……はっ」
「おー、戻ってきた」
「何度見てもメイド長の時間逆行術式はすごいですねぇ」
そう、咲夜の能力は『時間と空間を操る程度の能力』。
任意の空間を無制限に拡張し、自分以外の時を静止させるその凄まじい力はしかし、当人の死すらも覆す規格外の力。
それ即ち、自身限定の時間逆行により死の瞬間となった時から逃れる事による死亡からの完全蘇生。この力がある限り、彼女に外的要因による死は訪れない。
「私としたことが、みっともない姿を見せたわね」
「大丈夫ですかー?」
妖精メイドからの問いかけに咲夜は髪をかきあげながら「安心して」と答える。
「前の私は駄メイドでしたが、今度の私は完璧です!」
咲夜は妖精メイドたちに対してそう力強く宣言すると、今度こそ主の命を果たすべく一歩を踏み出し──
『ズルッ』「えっ」「あっ」
──先ほど流した自身の血に足を取られて再び盛大に転倒した。
「ぐふぅっ!?」
「メ、メイド長ぉーー!?」
再び後頭部を強かに打ち付ける咲夜。絶叫する部下。血に塗れる廊下。
「……ダメみたいですね」
「……次の彼女はうまくやってくれるでしょう」
──パーフェクトメイド十六夜咲夜。彼女は非常に優秀であり、不死身だが、致命的に運が悪く、そして意外とドジであった。
十六夜咲夜
職業:紅魔館のメイド長
能力:時間停止、空間操作、オートリバイブ
HP:1
守備:1
幸運:0