レミリア・スカーレットは百合百合暮らしたい 作:名無しのメイド
「さーて、次は……」
レミリアの命により菓子折りを配る咲夜はチルノたちと別れた後、飛行を続けながら幻想郷の住人を探していた。
「あら、誰かいるわ」
ふと下を見ると、一面の向日葵畑が広がっており、その近くに人影が見えた。早速、菓子折を渡すべくその人物の下に降り立つ。その人物は虫のような触覚が生えた緑髪の少女だった。
「うん? この太陽の畑に人間が来るなんて珍しいわね。どちらさま?」
「こんにちは。私は十六夜咲夜。この度、幻想郷に住まう事になりましたレミリア・スカーレット様に仕えるメイドです」
とりあえずお決まりの自己紹介から入り、妖怪らしき少女の反応を見る。
「へぇ、新しい住人さん? 私はリグル・ナイトバグ。蛍の妖怪よ。まー、一応虫たちのボスみたいなもんかな」
「なるほど……」
さらっと言っているが、虫といえば世界で最も繁栄している種族だ。その虫のボスという事は結構な影響力の持ち主なのでは? これは是非とも友好的になっておかねばなるまい。
「こちら、レミリアお嬢様からのお気持ちです。よければどうぞ」
「へー、ずいぶん律儀なのねそのお嬢様。お、結構おいしそうかも」
どうやら気に入ってもらえたらしい。なかなかの好感触である。
「それにしても綺麗な向日葵畑ですね。これはあなたが?」
「いやいや、違うよ。ここの主は私なんかとはそれこそ格の違う大妖怪だからね」
「あら、そうなのですか。その方はどちらにいらっしゃるのでしょう」
「こちらにいらっしゃるわよ」
「────え?」
背後から声が聞こえて咲夜が振り向くと、そこには凄まじい妖気を放つ女性が立っていた。そう──凄まじい妖気を。
「げふっ……」「えっ」「は?」
そして案の定、吐血して昏倒する咲夜。妖精の力ですらああなのだから、大妖怪の妖気に彼女が耐えられるわけがなかった。
──死因:ショック死
「ちょ、メイドさん息してないんだけど!? え、死んじゃったの……? いや、確かに人間が幽香さんの妖気を直に浴びたらそうなる可能性もあるけどさぁ」
リグルが咲夜の状態をチェックするが彼女は既に息絶えていた。……この後すぐに生き返るのだが。そんな事とは知らないリグルはどうしたものかと頭を抱える。
「うーん、どうしますか幽香さん──」
リグルが件の大妖怪、この太陽の畑の主である風見幽香にそう訪ねる。一方、その幽香は──
「やばいやばいやばいそんなつもりじゃなかったのよ事故なのよでもそんな言い訳通じるわけないやばい私危険妖怪認定されちゃう霊夢に退治されるどうしようどうしようあばばばばば」
「──ってすごくパニクってるぅ!?」
──とてつもなく錯乱していた。それはもう錯乱しまくっていた。
「そ、そうだ……そういえばこの人こういう人だったわ。普段はまさしく大妖怪だからすっかり忘れてた」
幻想郷で一、二を争う実力者であり、肉弾戦ならば鬼をも上回るかもしれない大妖怪、風見幽香はしかし、メンタルの方は凄まじく雑魚いのをリグルは思い出した。
彼女は純粋な力比べは好きでも死闘は大嫌い──というか血を見るのがかなり苦手で、うっかりそこらの野良妖怪とか間違って殺したりするとパニクってしばらく帰ってこないのだ。
「……私にどうしろってのよこの状況」
メイドの死体と錯乱する大妖怪に挟まれ頭を抱えるしかないリグルであった。
◇ ◇ ◇
「はっ……いっけなーい、蘇生蘇生」
本日何度目かの死から舞い戻ってきた咲夜。そんな彼女が目にしたのは──
「私は無実私は潔白私は安全私は善良私は強い私は偉大私は美人」
──何やらぶつぶつと自己暗示し続ける大妖怪であった。面食らった咲夜だが、とりあえず自分が無事な事を伝えようとする。
「いい加減にしろやこの──」
しかし、それより先にリグルの我慢が限界に達した。地面を蹴りバッタの如き跳躍力を発揮して数十メートル飛び上がると、未だに呟き続ける幽香めがけて突進する。
「──お花畑女がぁ!!」「うぐえっ!!???」
跳躍の勢いのままリグルが幽香に蹴りを入れると、明らかに人を蹴った音ではない轟音が響き、冗談のような軌道を描いて幽香が吹っ飛んで行った。
「あー、スッキリした。あれ? メイドさんじゃない。なんだ、生きてたのね」
「え、ええ……まぁ。それよりあのお方は大丈夫ですか? 凄い音がしましたが……」
「んー、多分大丈夫でしょ。あれでも最強クラスの妖怪なんだし」
「は、はぁ……」
明らかに大丈夫な威力ではなかった気がするが、まぁ妖怪の頑強さなら平気なのだろうか。
「まぁ、私はこれで……あぁ、挨拶しそびれましたがよければ先ほどの方にもこちらをお渡し下さい」
「ん、おっけー。預かっとくわ」
「お願いいたします。それでは、リグルさんもお元気で」
そう言って飛び去る咲夜をリグルは菓子折を手に見送った。
「はー、なんか色々あったわね。さて、そろそろ幽香さんも戻ってくるでしょ」
多少荒っぽい事をしたが、幽香ならあの程度どうという事はないはずだ。そう考えて待ち続けるリグルだったが──
「…………来ないわね」
──いくら待っても幽香が戻って来ない。いやいや、なぜに。確かにイラっとして全力攻撃してしまったが、あの程度なら問題ないはず。
「え、なに? もしかして威力高すぎた?」
まさか、あの風見幽香が自分の攻撃で死んでしまったのだろうか。
「そ、そんな……そんな事になったら……」
そうだ、もしもそんな事になったら。
「この私が幻想郷最強の大妖怪になってリグル大勝利じゃない!?」
そう、そうなれば周囲の妖怪や人間も皆自分に平伏すに違いない。
「ふふふふ、この太陽の畑もいただきだわ!」
「へぇー、それで誰がこの風見幽香の代わりにお花を育てるのかしら?」
「えっ……」
油が切れた機械のような動作でリグルが振り向くと、そこには笑顔の風見幽香の姿があった。
「いや、あの……幽香さん、私はほんの冗談でですね……」
「さっきの蹴り、見事だったわよ。私にもできるように練習させて?」
「あ、ハイ、生きててスイマセン」
その後、太陽の畑から時折悲鳴が聞こえたとかそうでないとか。