レミリア・スカーレットは百合百合暮らしたい   作:名無しのメイド

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終・メイド長の粗菓贈呈記

「ふふ、これで大分配ったわね」

 

 レミリアの命により菓子折りを配る咲夜は幻想郷の人間たちが暮らす人里を訪れて菓子を配っていた。人間たちだけでなく、寺子屋の教師らしい半獣から、人形劇をする魔法使いや偶々里に来ていた白狼天狗まで結構な人数に菓子を渡していた。

 

「あら? なにかしら」

 

 ふと咲夜が目をやると肉屋らしき店に人だかりができていた。どうやら特売セールというやつらしい。

 そうしてのんびり店を眺めていた咲夜であったが──次の瞬間、背後から迫り来る集団に突飛ばされていた。

 

「ぐええっ!?」

「どきなさい!」

「邪魔よ!」

 

 咲夜を突飛ばした集団の正体は、人里の主婦軍団であった。肉屋で特売セールをやっていると聞き近隣の主婦たちがこぞって押し寄せたのである。肉屋の真ん前という邪魔な場所につっ立っていた咲夜がそうなるのは当然の流れであった。そして貧弱な咲夜が戦士と化した奥様方のパワーに耐えられるわけもなく。

 主婦軍団が肉屋に殺到する中でひっそりと倒れ伏す哀れなメイドの姿があった。 

 

 ──死因:主婦パワー

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「酷い目にあったわ」

 

 いつも通り生き返った咲夜はそう一人ごちた。ここ最近の中でも一番酷い死に方だった気がする。奥様パワー恐るべしね、などと珍妙な思考を巡らせていた。

 ふと件の肉屋の方に目をやってみると、客は誰もおらず店主もくつろいでいた。どうやら咲夜が死んでいる間に肉は売り切れてしまったらしい。

 

「ああああ!! 終わってる!?」

 

 突如、誰かの叫びが聞こえて咲夜がそちらを向くと紅白の衣装に身を包んだ巫女らしき少女が、空となった肉屋の商品棚を見て愕然とした表情で立ち尽くしていた。

 

「嘘でしょ……特売の時間から30分しか経ってないじゃない……無くなるのが早すぎるわ……これはもう異変でしょ……」

 

 何やらぶつぶつと呟き始める巫女の少女。特売に間に合わなかったのが余程ショックらしい。

 

「やっぱり初動が不利すぎるんだわ……神社からここまで来るのに時間がかかりすぎるのよ……ああ、私のお肉が……」

「あのー」

 

 絶望的な雰囲気を醸し出す少女がなんだか不憫になってきた咲夜はとりあえず菓子配りも兼ねて声をかけてみる事にした。

 

「ん? 見ない顔ね。どちらさま?」

「私は紅魔館のレミリア・スカーレットお嬢様に仕えるメイド、十六夜咲夜と申します。以後お見知りおきを」

「ど、どうもご丁寧に……私は博麗霊夢。博麗の巫女、妖怪退治の専門家よ。本業は結界の管理だけどね」

「ああ、管理人さんでしたか」

「あーうん、それでいいわ……いや、よくないけど」

 

 あまりの咲夜のマイペースぶりに呆れ顔な霊夢。まぁ、幻想郷の住人は大体こんな感じであるので、彼女からすれば馴れているのだが。

 

「それで何だったかしら?」

「実は今、幻想郷の皆様にお嬢様からのお気持ちとしてお菓子をお配りしておりまして……霊夢さんにも差し上げようかと」

「え!? ホントに!?」

「こちらです」

 

 咲夜が霊夢に菓子折りを手渡すと暫し霊夢の視線が手元の菓子と咲夜を行き来した。

 

「いいのね? すっごい高そうなお菓子だけど」

「お嬢様のお気持ちですので」

「そういう事ならありがたく頂戴するわ! いい人ね、そのレミリアお嬢様って!」

 

 霊夢は感激した。彼女はタダでもらえる物と美味しい物は大好きであった。あっさり会った事もないレミリアへの好感度を上げる。

 

「いやー、得したわ。1つと言わず50個ぐらい欲しいわね」

「そうですか? でしたらどうぞ」

「へ?」

 

 冗談で言ったのに袋ごと更に菓子を手渡され、霊夢は目を丸くする。

 

「え? いいの? こんなにもらっちゃって?」

「欲しいと言われるのでしたら」

「じゃあもらうわ! 後で返せって言っても返さないからね!」

 

 そう言って霊夢は大事に菓子入りの袋を抱えると、空を飛んでその場を後にした。手を振ってそれを見送る咲夜を見下ろしながら、霊夢は考える。

 

「うーん、やっぱり私が博麗の巫女だから好感度を上げておこうって事かしら?」

 

 そう思う霊夢だが、しかし咲夜としては別にそこまで考えていない。単純に50個ぐらい欲しいと言われたので渡しただけであった。基本的に紅魔館の住人はその場の流れで行動しているのである。

 

「……ま、レミリアお嬢様とやらの思惑が何かは知らないけど、難しい事は紫に考えてもらいましょ。私は高級お菓子をゲットして得したんだからそれでいいわよね!」

 

 特売を逃した事などすっかり忘れ、上機嫌に神社に帰還する霊夢であった。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「あらっ、3つ残ってる」

 

 霊夢に殆どの菓子折りを渡した咲夜だったが、懐を調べるとまだ3つ残っていた。しかし辺りはもう暗くなってきている。

 

「うーん、どうしたものかしら……おっ」

 

 飛行する咲夜が地上を見下ろしてみると、屋台らしき物が目に入った。少しだが人影も見える。

 

「丁度いいわ。あそこの方々に配ってしまいましょう」

 

 咲夜が屋台の側に降りると、妖怪の少女が鰻を焼き、その鰻を食べながら女性二人が飲んでいた。

 

「大体ねえ、幻想郷の皆は自由すぎるんです。私だってもっと羽目を外したいですよ、ええ」

「はぁ……四季様もそう思う事があるんですね」

「当たり前じゃないですか、機械じゃあるまいし。毎日毎日、白黒つけるのも飽きてますよ。別に灰色だっていいでしょうに」

「いや、四季様がそれ言ったらダメでしょう!?」

「何ですか、私に意見するんですか? 小町のくせに生意気ですよ」

「あれ、もしかして四季様って酒癖悪い?」

 

 何やら性質の悪い絡み方をしている上司らしき女性と困り顔の部下らしき女性。まぁ、よくある光景である。咲夜はとりあえずその光景をスルーし店主に声をかける。

 

「あの、よろしいでしょうか」

「あら、お客さん?」

「いえ、少し用件がありまして」

 

 そして咲夜はいつもの用に自己紹介を始める。

 

「私、紅魔館のレミリア・スカーレットお嬢様に仕えるメイドの十六夜咲夜と申します。この度はお嬢様からのお気持ちとしてお菓子を配っておりまして」

「へー。随分律儀なこと」

「それで、店主さんにも受け取っていただければと」

「あ、うん」

 

 咲夜はそのまま返答を聞かずに菓子折りを手渡す。こういうのは勢いでそのまま受け取ってもらうのがいいのだ。

 

「そちらのお二人も」

「お、おお? ありがとう?」

「そのお嬢様とやらは中々できた方ではないですか。それに比べてまったく……」

 

 まだ酔いが醒めないのか愚痴を言い続ける女性。部下の女性はやや呆れ顔である。と、そういえば彼女らの名前を聞いていない。

 

「そういえば、皆様のお名前は?」

「あー、私はミスティア・ローレライ。見ての通り屋台をやってる夜雀です」

 

 そう翼をはためかせながら、人当たりの良い笑顔を見せる女将。

 

「私は四季映姫。幻想郷の最高裁判長なんですよ。どうだ、すごいでしょう」

「は、はぁ……」

「気にしないでおくれ。この人、普段はもっと威厳のある方なんだよ」

 

 子供っぽく胸を張る映姫という女性に困惑する咲夜にフォローを入れる部下らしき女性。

 

「あたいは小野塚小町。この四季様の部下の死神だよ。死神って言っても渡し守の方だけどね」

「なるほど、閻魔様と死神ですか」

 

 これまた大物である。咲夜は内心で小躍りした。

 

「メイドさんはうちで飲んでいかないので?」

「あいにく、私達はこの幻想郷に来たばかりでして。こちらの通貨の持ち合わせがないのです」

「あら、残念。じゃあ、お金ができたら是非うちに来て下さいな」

「もちろんです」

 

 女将に礼儀正しく頭を下げ、飛びさって行くメイドの後ろ姿を眺めながら、小町はふと思った。

 

「持ち合わせか……四季様、あたいら結構飲み食いしてますけど、支払いは大丈夫ですよね?」

「あら小町、私の稼ぎがいくらあると思ってるんです? お金ならここにちゃーんと……」

 

 小町の指摘に手を腰にやった映姫であったが、不意にその言葉が途切れる。 

 

「えーと……四季様?」

「……財布、忘れてきたかも」

「えぇ!?」

「いや、今日は結構バタバタしてましたから……」

 

 気まずげにそう漏らす上司に小町は仕方なしにため息を吐いた。

 

「しょうがない。あたいが出しますよ」

「す、すいません小町。帰ったらお金を渡しますので……」

「まぁまぁ、そんな気にしないで下さい。四季様には日頃世話になってますしこのくらいは……」

 

 と、そこで小町の言葉が途切れる。先の映姫と全く同じ動作で。

 

「こ、小町? まさか……」

「すいません四季様。あたいも財布忘れたかも……」

「えええ!?」

「そういや、朝から財布を手に取った覚えがないような……」

 

 焦りを滲ませる二人に、後ろから声がかかる。

 

「お二人とも?」

「「ひぃ!?」」

 

 二人が油のきれたブリキのような動きで背後を振り向くと、そこには包丁を片手にギラついた眼光を放つミスティアの姿があった。

 

「まさか、これだけ飲み食いなさって、持ち合わせがないなんて戯れ言はおっしゃいませんよね?」

「いや、あの……」

 

 下級妖怪とは思えない迫力にたじろぐ二人に対し、ミスティアは包丁をなぶりながら続ける。

 

「たまにいるんですよ、故意かそうでないかはともかく、無銭飲食する輩が。まぁ、うちは商売始めて一度も無払いは許していませんが」

「ち、ちなみに無銭飲食した客は……」

「もちろん、私が()()()()()()

 

 包丁を片手にそう笑うミスティアは控えめに言って怖かった。

 

「それでなくとも、こちとら実力主義の幻想郷で屋台なんてシケた商売やってるわけでして。おかげさまでうちのお客様には妖怪の賢者様やら花妖怪様やら大がつくような妖怪も色々いるのです」

 

 そこまで語ってから、ミスティアはわざとらしくため息を吐く。

 

「そんな方々を相手に商売してる以上、強気でいなきゃいけない訳でして。持ち合わせがないからと言って、『ツケで払いますぅー』なんて舐めた真似をしてもらっては困るんですよね」

「そ、そう言われても……」

 

 たじろぐ二人に「ええ、無い袖は振れませんから」と女将は笑う。

 

「なら、稼いでもらうしかないですよね?」

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 後日。

 

「こんばんは、女将さん」

「あら、メイドさん。そちらがお嬢様ですか?」

「はい。我が紅魔館の当主、レミリアお嬢様であらせられます」

 

 咲夜に紹介されて笑顔で手を振るレミリアを見てミスティアは頷く。そして後ろに声を飛ばす。

 

「ほら、お客様をお待たせするんじゃないわ! ちゃっちゃと動きなさい新入りども!!」

「「す、すいません女将!!」」

「どうですかお嬢様、こちらの屋台は」

「そうね。とても安らげるお店ね(美少女女将と美人店員きたー!)」

 

 その後、閻魔様が働いてる屋台としてますます有名になり、女将も大層機嫌がよかったとか。

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