碧色のライバル   作:妖魔夜行@

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レポート:7『ポケモンリーグ』

 ある事情により、レッドはポケモンリーグに挑戦するのが遅くなった。それを終わらせて来てみれば、グリーンがチャンピオンになっているではないか。

 

 初めは驚いたが、予想より遥かに強くなっていたグリーン(ライバル)に、レッドはワクワクしていた。

 一進一退の攻防とはまさにこのことを言うのだろう。

 

「ストライク!5度目の『れんぞくぎり』!」

「シュアッ!」

 

 ストライクの刃がサイドンに迫る。グリーンはサイドンに避けるのではなく受け止めるよう指示を出した。しかしレッドは、受け止められることを想定していた。

 

「そこだ!『はかいこうせん』!」

「シュアアァー!!」

「ゴオオォ!?ゴ…」

 

 『れんぞくぎり』で何度も切りつけられていた場所に『はかいこうせん』を喰らえば、流石のサイドンも耐えきれず戦闘不能になった。

 グリーンはサイドンを戻すとウインディを繰り出してきた。『あまごい』の雨が止んでからウインディを出してくるあたり、徹底していると言っていいだろう。

 

 むしタイプ(ストライク)に有利なほのおタイプ(ウインディ)を出されてしまうとレッドとしては少々苦しい。

 かと言ってウインディに有利を取れるラプラスは既に戦闘不能。もう一度出す訳にはいかない。

 

「『かげぶんしん』で撹乱しながら『れんぞくぎり』!」

「シェア!」

 

 ストライクの体がブレると幾つものストライクがウインディを囲むように現れる。そして一斉にウインディに襲いかかった。

 

 ウインディを甘くみんなよ!

 

 ストライクの刃を躱しながら蹴りで分身を消していく。しかしウインディが最小限の動きで対応しても、隙が生まれてしまう。

 その隙を狙って本物のストライクが『れんぞくぎり』をウインディの背中に喰らわせる。

 

 攻撃を受けて苛立っているのか、ウインディは低く唸る。グリーンが一旦落ち着けと宥めても興奮は覚めない。どうやら『かげぶんしん』と『れんぞくぎり』の間に『ちょうはつ』を組み入れていたらしい。これで暫くの間、ウインディは『こうそくいどう』などの補助技が使えなくなってしまった。

 

 ちっ、せこい技使いやがって…!落ち着けウインディ!

 

「グルルゥ…ガアァ!!」

 

 グリーンの声を聞いてもウインディは落ち着くどころか吠えたてる。興奮冷めやらぬ状態のままストライクに突貫していった。

 

 あ、おい!!くそっ、扇状に範囲を広げて『かえんほうしゃ』!!

 

「ガァアウ!!」

 

 ウインディの口から炎が吐かれる。しかし、グリーンが指示した扇状に広がる炎ではなく、いつもの直線的に放射するものだった。頭に血が上って指示をまともに聞いていないのだ。

 

 もちろんそんな攻撃がストライクに当たるはずもなく、攻撃後の硬直をレッドは見逃さない。

 

「『れんぞくぎり』!」

 

 刃がウインディを切り付ける。切られた痛みで硬直が解け、すぐに距離をとった。今の攻撃で冷静さを取り戻したようだ。それを見てグリーンはホッと一息つく。そしてすぐに集中し、切り替える。

 

 いいかウインディ、『かげぶんしん』で作られた分身には影がない。次にストライクが『かげぶんしん』をしてきたら地面に目を向けて影を見ろ。いいな?

 

「ガウ」

 

 あともうひとつ、『れんぞくぎり』は使用すればするほど威力が上がっていく技だ。さっきのが二回目、次にくらうのが三回目と考えると今のウインディの体力じゃ四回目の『れんぞくぎり』は耐えれない。だから、次で『れんぞくぎり』以外の技を使わせて集中を解かせるんだ。できるな?

 

「ガウ!」

 

 よし、まずは『こうそくいどう』で翻弄するぞ!

 

「ガァウ!」

 

 ウインディが地面を蹴り、目で追うのが難しい速度で部屋中を駆け巡る。壁を蹴り、天井を蹴り、また壁を蹴る。次第に加速していくスピードに、ストライクは目で追い切りなくなっていく。

 そして完璧に背後をとったとグリーンもウインディも確信した瞬間、ウインディが地面を蹴りつけてストライクに迫る。

 

 『すてみタックル』でぶっ飛ばせ!

 

「ガァアアウ!!!」

「っ!後ろだストライク!『れんぞくぎり』!」

「シェア!」

 

 『こうそくいどう』に何とか反応したレッドが指示を出したことで、ギリギリのタイミングでストライクの刃がウインディの牙を受け止める。しかし、加速を加えた超威力の『すてみタックル』を『れんぞくぎり』で押し返すのは厳しい。その証拠にストライクの体が徐々に後退していく。

 

「グルォオ!!」

 

 そしてウインディの力が勝り、ストライクを吹き飛ばした。しかしストライクは倒れることはなく、吹き飛ばされても空中で羽を広げてバランスをとり体勢をたて直す。

 

 『かえんほうしゃ』!

 

「グルガァア!」

「『かげぶんしん』!」

「シャア!」

 

 分身ごと全部燃やしちまえ!!

 

「グガァア!!」

 

 首を振って炎の向きを右に左に振り回す。それにより、ストライクの分身は炎に焼かれ次々と消えていく。遂には全てのストライクをやき尽くした。が、肝心の本体のストライクが見当たらない。

 

 ちっ、どこ行きやがった。

 

 グリーンが目を右、左と向けるが見つからない。ならばと上を見るが、いない。

 

 そうか、下か!ウインディ!!

 

 『かえんほうしゃ』、と口に出す前に、レッドが笑った。

 

「『はかいこうせん』!」

「シャアアア!!」

 

 光線がウインディを飲み込む。天井に叩きつけられたウインディは着地の体制をとることも無く、地面に落ちた。戦闘不能だ。

 

 戻れウインディ。

 

 ボールにウインディを戻して手持ちを確認する。グリーンの残りのポケモンの数はこれで三体、対するレッドは四体残っている。

 

 不味い。

 

 グリーンは焦っていた。初めは自分が有利だったはずなのに、今は逆転されている。このままいけば確実に自分は負けるだろう、そう考えていた。

 

 出てこいフーディン!

 

 「ムウン!」

 

 むしタイプのストライク相手に相性の悪いフーディンを出すのは正直愚策だが、仕方がない。

 

 フーディン!『サイコキネシス』!

 

「ムゥ!」

 

 念動力が空間を支配する。空間が歪み、軋み、古めかしい扉を開くような音を立てながら圧縮される。すると直径30cm程の球体が生まれた。念力で造り出された球体は、周りの空間をねじ曲げながら浮かんでいる。引力を帯びているのか、砂埃や小石などが球体(それ)に吸い寄せられていた。

 

 いくら効果はいまひとつと言っても体力の少ないストライクがあんなものをくらっては一溜りもない。すぐさまレッドは指示を出した。

 

「させるか!『かげぶんしん』から『れんぞくぎり』!!」

「シェアッ!」

 

 ストライクの体がブレると幾つもの分身が生み出される。どのストライクも凶刃をかざしてフーディンに迫ろうとするが、『サイコキネシス』によって地上から攻めたストライクの分身が消されていく。それを見て壁や天井にルートを変え、『サイコキネシス』を突破したストライクが『れんぞくぎり』をフーディンに繰り出す。

 空気を切り裂きながら迫る刃は───突如沈んだ。

 まるで重石でも落とされたように、刃はフーディンを逸れて地面を切りつけた。突然の事に驚きを隠せないストライク、そこに大きな隙が生まれてしまう。

 そしてフーディンが隙をみすみす見逃す訳もなく、保持していた『サイコキネシス』をストライクに撃つ。防御する暇もなく体で受け止めたストライクは数メートル飛ばされると球体が弾けて生まれた衝撃波によって壁まで吹き飛ばされた。

 体力は赤を突っ切って黒に、ストライクは戦闘不能となった。

 

「…よくやった。ありがとうストライク」

 

 ボールに戻ったストライクにそう語りかけるレッド。帽子を被り直すと次のボールに手をかけた。

 

 さあ!こいよ!

 

「いくぞ!!出てこいドードリオ!!」

「グワァ!グワッ!!クォオ!!!」

 

 ボールから出てきたのはドードリオ。ノーマル、ひこうタイプのポケモンだ。3つの首を持っており、その鋭い嘴から繰り出される攻撃はどれも強力だ。嘴に気をつけながら立ち回らなければならない。と言ってもフーディンは遠距離からの攻撃が得意である。

 遠距離のフーディンと近距離のドードリオ、この対決はどちらが先に間合いを制すかによって決まるだろう。

 先手必勝と言わんばかりにグリーンが腕を振った。

 

 フーディン!『10まんボルト』!!

 

「ムゥウ!」

 

 フーディンが両のスプーンをかざせばその間に電撃が発生する。ひこうタイプに効果抜群のでんきタイプの技で一気に優位を持っていくという、作戦とも言えない技選択だった。

 

「空気を蹴って避けろ!『そらをとぶ』!」

「グワグワッ!」

 

 おいおい…なんだそりゃ。

 

 レッドの言葉通り、ドードリオは地面を蹴って宙に跳ぶと更に何も無い空間を蹴りつけて電撃を躱した。

 これはひこうタイプでありながら翼を持たない唯一のポケモンであるドードリオにしかなせない技だ。翼がない代わりに、強靭な脚力を持つこのポケモンは、嘴だけでなく蹴り技も強い。

 故に繰り出される蹴りは、鋼鉄をも砕く。

 

「『メガトンキック』!!」

「クワァ!!」

 

 轟轟と風切り音を鳴らしながら蹴りがフーディンに迫る。

 

「念力で逸らすんだ!」

「ムウン!!」

 

 フーディンの胸元を捉えていた脚が念力で無理やり動かされる。しかしドードリオの3つ首はフーディンを睨みつけていた。

 

「『ドリルくちばし』!」

「クワァ!グワッ!クォ!!」

 

 3つの嘴が重なり合う。首を捻り、回転を加えた嘴がフーディンを捉える。咄嗟にスプーンを盾替わりに突き出すが、意味をなさなかった。

 

「ムゥッ!?」

 

 勢いに押され、フーディンは地面に押さえつけられる。そのまま片足でフーディンの胴体を踏みつけると、もう片方の足を振り上げた。

 

「『メガトン───」

 

 させてたまるかよ!『サイコキネシス』!!

 

「ムウウウン!!」

「グワァ!?」

 

 念動力でドードリオの体を持ち上げる。壁に向かって投げつけるが、やはりひこうタイプ、翼はなくとも空中には強いらしく、空中で一回転することで体制を建て直した。それどころか壁を蹴りつけてまたフーディンに襲いかかってきた。

 3つの嘴が迫る───はずだった。

 

「グワァ!?クォ!?クワッ!?」

「何!?」

 

 弾丸のように迫っていたはずのドードリオの体は、地に堕ちていた。

 

 『じゅうりょく』。

 

 ただ一言、グリーンはそう言った。フーディンに目を向けるとフーディンのスプーンが妖しく輝いているのが分かる。一体何が、と呟くレッドを見てグリーンは話始めた。

 

 今言っただろ。『じゅうりょく』だ。これでひこうタイプのポケモンはもう飛べない。もちろん跳べもしない。ストライクの刃が急に逸れただろ?それもフーディンの『じゅうりょく』だ。今回のは一部だけじゃなく部屋全体に張り巡らせた。もう自慢の脚力の披露はおしまいだ。

 

 薄い笑みを浮かべながら話していたグリーンだが、スゥと息を吸うと目付きが鋭くなる。

 

 言ったろレッド、俺はお前に勝つってな。『10まんボルト』!!

 

「ムン……!」

 

 バチバチと電撃が音を鳴らして弾ける。鞭のようにしなった電撃はドードリオの急所を正確に穿った。効果抜群であるでんきタイプの技、そしてそれを急所に受けてしまったドードリオは崩れ落ち、戦闘不能となった。

 

「ドードリオ!」

 

 さあ、お前の残りの手持ちは2体だ。そのうちの一体はピカチュウ。対する俺の手持ちはフーディンを含めて残り三体。

 降参してもいいんだぜ!

 

「誰がするか、いくぞピカチュウ!!」

「ピカァ!」

 

 ドードリオをボールに戻してピカチュウを繰り出す。ピカチュウは頬の電気袋を放電して威嚇する。ピジョットの『ふきとばし』で戻されてから1回も変わることがなかったので体力は満タンで、スタミナも万全だろう。

 

「ピカチュウ!『でんこうせっか』!」

「ピッカ!」

 

 左右にステップして動きを見切らせないように加速する。フーディンの左側に回り込むと、再び電気袋から電気が漏れる。

 

「『でんじは』!」

「チュウッ!!」

 

 バチィと鞭で打つような音がすると、フーディンの体に異変が起こる。錆び付いたブリキの玩具のようにぎこちない動きをしているのだ。

 

 当たれば100パー、マヒ状態にさせる『でんじは』。そんな技、お前が覚えさせてるとは思ってなかったぜ。

 

 苦々しい顔で舌打ちするグリーン。その顔にはしてやられたという悔しさが滲み出ていた。

 

「俺だって、ポケモンリーグに挑戦して、チャンピオンになるためにここまでやってきたんだ。お前だけが強くなってるはずないだろ?」

 

 そう言ってレッドは不敵に笑う。しかし冷や汗を流しながら言っては説得力も半減だろう。

 二人の会話を挟みながらもピカチュウとフーディンは戦っていた。ピカチュウが電撃を放てば、フーディンが念力で壁を造り防ぐ。逆にフーディンが念力でピカチュウを捕まえようとするが、マヒ状態で体が痺れている今のフーディンでは、トップスピードを維持しているピカチュウを捕らえられないでいた。

 

 ピカチュウが壁や地面をグルグルと駆け回る。けれどフーディンはその速度に目を回すことなく追っている。

 フーディンが念動力でピカチュウが足を踏み出す位置に穴を開けるが、ピカチュウは焦ることなく冷静に判断する。尻尾を使い、足の代わりにすることで走行を続け、『でんこうせっか』の速度を維持する。

 

 いつまでも追いかけっこが続く───はずもなく、レッドが仕掛けにいく。

 

「ピカチュウ!『かげぶんしん』!」

「ピィ!カッ!」

 

 高速で地面を駆けるピカチュウの姿が、20、30と増える。このスピードでこの分身の数だと、どれが分身でどれが本物なのか見分けを付けるのは不可能に近い。

 

 壁や地面を走る音以外に、バチバチと電気が鳴る音がする。それはピカチュウが走った後に帯となって残る。

 

 警戒しろフーディン!なにか来るぞ!

 

 グリーンの言葉を聞いてフーディンが身構える。タイミングを測っているのか、レッドはまだ指示を出さない。

 

 そしてその時がきた。

 

 フーディンの動きが、痺れで一瞬止まったのだ。

 

「今だ!『かみなり』!!」

「ヂュウー!!」

 

 溜めていた電気を解放し、槍のような電撃を放つ。雷は、念力の壁を容易く打ち破りフーディンに降り注いだ。

 でんきタイプの技の中でも最上級の威力を誇る『かみなり』を受けた中でも、フーディンは意識を保っていた。ここを耐え凌げば、次はこちらの番だ。と目が語っていた。

 

 だからこそ、レッドもピカチュウも決して油断しなかった。

 

「たたみかけるんだ!『でんこうせっか』!」

「ビィ、カッ!!」

 

 なっ!?『かみなり』を打ってる状態で『でんこうせっか』だと!?

 

 ピカチュウは雷を放出しながら地を蹴り加速する。フーディンは電撃を受け続けているせいで、まとももに防御もできない状態でいる。

 ピカチュウがフーディンに近づくにつれ、電撃がピカチュウの方へ移っていく。そして、電気を纏う量が段々と増えていく。

 加速が最速に達した時、フーディンに『かみなり』を纏った『でんこうせっか』をくらわせた。

 その威力は凄まじく、『すてみタックル』にも劣らない強さだった。

 

 吹き飛ばされたフーディンは痺れる身体で必死に立ち上がろうとしたが、膝をつき前のめりに倒れた。

 

 戻れフーディン。

 

 ボールに戻してポケモンを労う。残りの手持ちはお互い2匹ずつ。次に出すポケモンは決まっている。

 

 いけっ、ナッシー。

 

「ゲケケケ」

 

 3つの顔を持つ樹木型のポケモン、それがナッシーだ。このナッシーはサイドンと同じくサファリパークで捕まえたタマタマを進化させ、チャンピオンロードで鍛えたポケモンだ。本来なら他のポケモンが手持ちにいたのだが───そのポケモンをポケモンリーグで戦わせるほど、グリーンの心に余裕はなかった。

 

 ピカチュウの進路を塞ぐように『たまなげ』、最初の1発は前方3メートルに、最後の1発はピカチュウの頭上を狙え。

 

「ゲケッケ!」

 

 身体をふるえばナッシーの顔と同じサイズの球体が飛んでいく。ピカチュウが進む右に、左に、前に、玉を飛ばす。まるで詰将棋のように的確にピカチュウの行動範囲を狭めていく。

 そろそろピカチュウでも避けるのが難しくなってきた時、ピカチュウの頭上を掠めるように玉が発射された。

 もちろん当たらない。少し伏せればかわせる1発だ。

 

 『じしん』。

 

「ゲッケ!!」

「ビイッ!!?」

 

 地面に伏せていた故に、衝撃はダイレクトに伝わる。軽いピカチュウの体は浮き上がり、その浮いた先には玉が置かれていた。

 

「ピガッ!」

 

 『たまなげ』を止めさせたとは言ってないぜ!

 

「ピカチュウ!くそ、『たまなげ』か……厄介な技だな」

 

 厄介な技と言わせるのはグリーンの手腕によるものだ。野生のナッシーが攻撃に使う『たまなげ』は目の前にいる相手に向かってバカ正直に玉を投げるだけだが、グリーンのナッシーは違う。どこに投げれば相手が困るのか、またどこに投げると相手は自分の思い通りの場所へ移動するのが自分で思考して『たまなげ』を繰り出す。もともと頭が3つもあるのだ、分割思考による演算などおちゃのこさいさいに決まっている。

 

 どうしたぁ!このまま何もしないんならただ詰んでいくだけだぜ!

 

 その言葉と共に攻撃の激しさが増す。ピカチュウも息を切らし始めた。

 

「くっ!どこか、どこかに弱点があるはず……!」

 

 ナッシーの動作を見逃さないよう、必死に目を動かす。ピカチュウも足を使って玉を避け、尻尾で玉を弾くことで耐え凌いでいる。

 疲労が足に来たのか、ピカチュウが前のめりに転げる。予期せずナッシーの懐に潜り込むことになった。

 不味い、ナッシーには『ふみつけ』や『じしん』がある。足元に近づくのは得策ではない。レッドがすぐに退避するよう指示を出そうとするが、あることに気づく。ナッシーが反応しないのだ。グリーンからも死角になっているのか、技の指示をすることもない。

 このチャンスを逃してたまるかと、すぐに技を言う。

 

「ピカチュウ!『でんじは』!」

「ピッ、カァ!」

「ゲケッ!?」

 

 な、いつの間に…!?

 

 ナッシーには3つの顔がある。しかし、ドードリオのようにそれぞれが自由に動ける首を持っていない。全てが同じ首にくっついているのだ。なので体を動かして見ない限り死角というものが生まれてしまう。そしてさっきは『たまなげ』を繰り出していた最中、当然攻撃と演算に集中しているわけなので足元に目を向ける訳にもいかない。ナッシーの視点から見るといきなりピカチュウが消えたように見えただろう。

 

 マヒ状態になったナッシーの動きは緩慢になる。こうなると今、体力もスタミナも削られたピカチュウよりすばやさは劣るようになる。

 

「ここが正念場だ。ピカチュウ!『かみなり』!」

「ピッカ!ピィィ…ッカアァァ!!」

 

 ピカチュウが繰り出せる最大火力の技。跳んで空中で一回転をして雷撃を放つ。元々巨体なナッシーはそこまですばやさが高いわけでもない、加えて今はマヒ状態だ。避けれるわけもなく、雷は直撃───

 

 『まもる』!!

 

 しなかった。薄い壁がナッシーの体をすっぽりと覆い、雷撃を阻む。弾かれた電が尾を引きながら壁や天井に突き刺さる。

 最大の技(かみなり)を防がれたことにレッドは顔を顰めるが、同時にグリーンも顔を顰めていた。何せこちらも切り札(まもる)を使ってしまったのだから。

 

「くっ…!(勝ちを急ぎすぎた…!)」

 

 ちっ…!(『かみなり』を見て咄嗟に『まもる』を使わせちまった…!)

 

 お互いにポケモンは満身創痍、そして今出しているポケモンを除けば互いに残りの手持ちは一体。ここで先にポケモンを倒された方が不利になるのは明白だ。

 

「(マヒでナッシーの動きは鈍くなっている、相手が攻撃を仕掛けてきてもピカチュウのスピードならかわせるはずだ…つまり)」

 

 (ナッシーはくさタイプ、でんきタイプの『かみなり』を喰らっても一撃は耐えれるが次に『でんこうせっか』を喰らえばアウト…つまり)

 

 次にナッシーの体が痺れで止まれば───

 

「ピカチュウの勝ちだ」

 

 ナッシーの負けだ。

 

 だからその前に───

 

「だからそれまで」

 

 倒しきる!!!

 

「耐えてみせる!!!」


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