6000字程度となっております。
要素を含むだけで直接的なアンチ・ヘイトをする話ではないです。
未読でも読むことは一応可能だと思います。
原作9巻の中盤に挿入される話を想定してます。
『幸福な王子』
僕が大好きな御伽話だ。
金銀財宝で出来た王子の銅像。その銅像には心が宿っていた。貧しさに苦しむ民の為に自身の体の財宝を南国へ行こうとしていたツバメの力を借りて与えていく。何度も何度も分け与えていった結果王子はただの鉄くずになり、そしてツバメは南国に渡ることが出来ず凍死して、ふたりはゴミとして処理される。
おおまかな筋としてはこれで合っているはずだ。
よくこの話は悲劇や皮肉として引き合いに出される。そんな感想を聞くたびに僕は分かってないなあ、と心の中で呟く。
この話はハッピーエンドなんだ。だって王子は最後まで幸せだったと、そう思うから。
人は本質的に孤独な生き物だと、これまでも語ってきたけれど。
物語1つの見方にだってその性質が現れている。
** 夢の先へ **
誰かさんが当たり前の話を賢しらに語り続けることで目の前の問題を放り投げるようになったのはいつからだろう。
人は本質的に孤独な生き物だ。その言葉は正しいのかもしれない。
でも、そこで止まってしまってはどうにもならない。何も変えられない空虚な言葉だ。
本当は、その後に出てくる
僕らはひとつになれなくて、結局ひとりになってしまうのだろうけど。
どこであろうとひとりじゃなくて、誰かに手を伸ばして
僕は手を伸ばすことには建前を使わず生きていたい。
言葉は不完全で、心すべてが伝わるとは思っていない。
だけど、分かっているだろうからきっと大丈夫。なんてどうしようもなく無責任だと。
世界に流れている曖昧さに身を任せていたら、きっと本物の嘘つきになってしまう。
そう考えるようになったから。
僕は僕がここにいると証明するために。
手は伸ばした。あとは、叫ぶだけ。
「好きだよ」
◇ ◇ ◇
眩暈がした。
世界がゆがみ、世界の揺らぐ感覚があった。
自分がどこに立っているのか、一瞬分からなくなる。居場所の――――――――――
◇ ◇ ◇
「――なーんて、さ」
粉雪がヒラヒラ舞っている太陽が見えない冬の空の下。見慣れた路地の脇で、月子ちゃんから手渡された
48回。これまで僕が死んだ数。呪いによって失われる
何も知らないまま最後に帳尻あわせした世界もあった。隣にいる誰かが思いきり悲しむことを分かっていながら何も言わず命を差し出したり、ある娘に残酷なお願いを託してから死んだこともある。
僕が終わることを
何言ってるのか分からなくなってきた?僕もだ。よし、整理しようか。
問題は大きく分けて3つ存在する。
1.血筋の
2.筒隠つくしが死んだ場合、横寺陽人は
3.筒隠月子は横寺陽人の死を許容しない。
この3つの問題がそれぞれを邪魔している。あっちを立てればこっちが立たずという奴だ。
さらに言えば力関係もはっきりしていて後に行けば行くほど強い。つまり月子ちゃんが最強なのだ。
まずこの回帰を引き起こしているのも彼女だし、少し遠回りにはなるが彼女だけが前の世界の記憶を自発的に取り戻すことが出来る。
誰もが回帰した世界では記憶を失っている。だが1つ例外がある。月子ちゃんが持っているジャポニカ魔王帳だ。魔王帳は筒隠月子が横寺陽人のあらゆる行動を記録したノートだ。このノートだけは回帰の影響を受けないから、これを読んで彼女は記憶を取り戻す。その後に僕の元にやって来てこう言うんだ。
「先輩、大事なお話があります」
そして彼女は僕にも魔王帳を見せてくれる。
今回こそこうだったけど、最初の内は交渉も中々うまくいかなかったそうで互いに譲らないまま回帰を迎えてしまうことが何度もあったそうなのだ。筒隠つくしが死ねば横寺陽人は命を捧げる。
回帰の元凶である月子ちゃんの記憶にも直接的な連続性がなくてよかった。大切な姉と男が死ぬ瞬間を何度も見てしまえば彼女の精神が壊れてしまうだろうから。
僕だって死にたくはない。当たり前だ。だから何度目かの回帰での僕は、誰も死なずに終われる計画を
計画と言えるほど解決する確証も無ければ成功するかも分からない不安定なシロモノだったからそれからもこの
結局、月子ちゃんが折れる形でこの
そこからは千載一遇のチャンスを狙って行動を積み重ねていく。絶対成功するという決意を込めて。
失敗すれば月子ちゃんの元に戻って報告。魔王帳にまた記述が増えて、当然回帰が起きる。
彼女が折れた理由は結局わからずじまいだけど、1つ仮定するなら魔王帳の隅に書かれた「あーちゃんと話す。アドバイスをもらう」が関係しているんだろう
。
あーちゃんとは、小豆梓という名前の女の子だ。彼女は月子ちゃんをつーちゃんと呼ぶ、月子ちゃんの親友。そして僕の理解者でもある。僕たちが
過去のトラウマで自分から追い詰められていく彼女を助けてからずっと色んな時間を共に過ごしてきた。お互いの恋愛観がぶつかった結果月子ちゃんをボコボコにしたこともあった。勿論言葉で、だよ?……なんの擁護にもなってないなこれ。
その後、再起した月子ちゃんとのリベンジマッチで当人達と若干一名のメンタルが焼け野原になったりもしたけれど。
それでも彼女は僕達と一緒にいてくれたんだ。
以前にも月子ちゃんと小豆梓は、リベンジマッチ後のイザコザを僕のいない場所で話し合って解決したことがあった。あれから彼女達は本当の友達になった。今回もそういうことなのだろう。
さて、あらすじはここまで。長くなったけど前に進もうか。僕には立派な足がついているんだから。
◇ ◇ ◇
「どうしたの、横寺?」
「いや、君と少し話がしたいと思ってね。ここに来たんだ」
数日後。
冬に差した暖かい陽に触れながら。彼女は大抵、河原で布製の横断幕をチョキチョキやりながらポップソングを口ずさんでいる。魔王帳では読んだけれど、根本的に記憶が連続していないからどこか新鮮さがあってドキドキするね。
「桜舞い飛ぶ春の空、ツバメ夢見よ恋の味……」
大した意味は無いけれど。僕はあの
僕は彼女と、とりとめもなく話をする。
これまで変わったこと、終わってしまったこと、これから変わること。どこか寂しくて、だけど楽しくて笑ってしまう。
最後、少し、少しだけ出掛けることを伝えると、畳まれた横断幕を持った彼女は
「……ううん。なんでもないの、
花が咲くように笑うんだ。
「つーちゃんと仲良くしてね。遠出するんだったら、お土産買ってきてね!」
軽やかに手を振ってくれるんだ。
もうすっかり陽は落ちて冬の素顔が覗き始めている。雪でも降るのだろうか。天気予報は見忘れたし、魔王帳にも書かれていなかった。
僕は挙げるとも降ろすとも言えない位置に出した手を、軽く振り返して爪先を彼女からアスファルトが敷き詰められた道に向けた。この世界には言葉がなくても伝わってしまうことが多すぎるよ。もしかしたら言葉なんて要らないのかもしれないね。
ここで出来ることは既にやり切った。小豆梓とも話した。負け犬はお家に帰ってご主人様に慰めでもしてもらおうか?
……やめておこう。あんまりにも嬉しくて爆発しちゃいそうだ。
ごめんね、皆。今回もダメそう―――――――――
「待って!!」
「――――――――――え?」
思わず振り返った。
既に勝負は決している。回帰は止まらない。それが現実だ。
だから
さあ、
◇ ◇ ◇
「ねえ、小豆梓――」
「好き」
えっと。
「――ああ、僕も君の」
「一番好きよ、
あの。
「僕が最近幸せになれた大人の情操教育データは」
「吸い込まれそうな目が好き。良く動いて忙しそうな口が好き。いつだって前を向いてしまう顔が好き。私よりちょっぴり大きい手とずっと分厚くて硬い掌が好き。その唇にまた触れたいの」
おい。
「ムッツリなのにそれを隠せてるつもりなところが好き。誰にでも優しくて、それでいて人によって好意の出し方を使い分けてるところも好き。あっ、でもエッチすぎるところはちょっと苦手というか……わたしにだけ向けてほしい、な?」
「――――――――っ」
「あなたと出掛けるときはいつもドキドキしちゃうの。産婦人科に連れていかれたからとかではないのよ?……あのときは普通に怖かったかな。話が逸れちゃった。デートする時あわあわしてるところを見せたくないから大人しくしてるけど本当はとーっても恥ずかしくて。でも、嬉しくて」
いつもの妄想はどうしたんだよ。ブンガクはどこに行った?
「よーくんの頑張っているところが好き。陸上部も実は本気でやってたことも知ってるし、困ってる女の子に後戻りできないくらい深追いして助けようとしてしまうところも好き。どうやったって理解できないところはあって時々怖くなってしまう位にね。やっぱりそういうところもわたしだけに向けてほしいと思ってしまうの。」
「待って」
「待たない。もうそんな
僕は――――
「気づいてる?いや、分かってはいたんでしょうね。でも結局変わらないなら同じよね。よーくんって変態がどうとかいう前に凄く傲慢なのよ。だからいつも自信にあふれた態度だったり道化っぽく振舞えているんだろうけど。黙って救われてろって言われてるみたいで凄く、嫌」
「だとしても!」
「それで救われちゃったし切欠とはいえ好きになっちゃったから文句言える立場じゃないかもだけどね。ありがとう、よーくん」
――――報いを受けている。
「それで?返事を教えて欲しいのだけれど」
「君は、つれていけない」
ああもう、
「それは
「君を傷つけたくないんだよ!!」
「嘘ね。皆、いえわたしはもうずっと傷ついてるよ。よーくんはよーくんが認めた傷つけ方しかしたくないだけよね」
どうして
「わたしはいつだって手を伸ばしてるつもり。もしよーくん達がこの手を掴まなかったとしても、何をやったのか知りたいし精一杯理解しようとしてるの。でも、どこか勘違いされていたみたいなのよね」
「勘違いなんて、そんな」
している。分かってる。僕は彼女が
「それでもっ!」
「わたしは!よーくんが選んだ選択を否定なんかしない!!だけど!それはその選択を心底認めてるわけじゃないの!!私に話してよ!!相談してよ!!痛いの!!苦しいの!!何も良くなってなんかない!!」
――――――――――――ッッ!!
「知らないよ!!どうでもいいよ!!これが一番君が幸せになれるんだ!!」
「ふざけないで!!わたしの幸せを貴方が勝手に決めつけないでよ!!」
「嫌だ!!」
「もう勝手に悟って諦めるタイミングはなくなったの!!相手を気遣うフリだけして去ることも!!お互いが一番傷つかないフリはできないの!!いい加減気づいて!!」
「分かってたから止めようとしたんじゃないか!!こんなことに意味なんて――」
「ある!!わたしが決めた!!」
「――要らないんだよ!!」
「そもそも一番幸せ?傷つかない?なにそれ?そんなに
話題が飛躍した。いや、今更気にすることじゃないなこれは。
クリスマスに家族ぐるみでデートに行った。美術館でデートした。あちらこちらで
僕は僕が幸せになれるようにやっただけ。救いがたい男で笑えてくるね、横寺陽人って奴は。
「…………………………」
「ねえ、どうして?」
小豆梓はどこまでも付き添ってしまうツバメではなくなった。僕も|変態王子であって幸福な王子ではないんだ。
ちょっとばかり不思議なことに巻き込まれた普通の人間達でしかないんだ。
心はグチャグチャでもうどうにもならない。人の話なんて分からない。なら僕は僕の答えを出すだけだ。
「ねえ小豆梓。君は僕達の最大の理解者だ。少なくとも僕は君と一緒にいたい」
でも。
「僕は君といてもドキドキはしない。楽しいだけだ」
「君の裸を想像することはない。綺麗だとは思うけど」
「君にセクハラをしても襲い掛かって無茶苦茶にしたいとは思わない。女体以上に見たことはないんだ」
脳内ですら言わずにいた
「月子といるとドキドキする。なんでもないことでもね」
「月子の裸をいつも想像してる。何度だって見たいし舐めたいよ」
「月子を襲ってしまいたい。逆に襲われたんだけどさ」
「僕は月子が好きだ。月子が隣にいてくれる世界に僕は行きたい。」
「横寺陽人は筒隠月子を選んでここにいる。小豆梓は選んでないよ」
「――――――――――――ッ!!」
破裂音がした。どこか遠い――――いや違う痛い!!ほっぺが熱い!!ジンジンする!!思いきり叩かれてる!!
目の前には、こちらを思いきり睨みながら目尻に大粒の涙をためて鼻から何かが垂れてる女の子がいた。
いつの間にか雪がシンシンと降っている。
「いっ!つつつ……」
「さいってい!!」
「月子の笑顔が奪われる瞬間に遭遇する限り僕はずっと月子の隣に立つと思うよ」
雪降ってることに気づいたらもう寒くてたまらないな。家に帰りたい。
「帰って。もうどこでも好きなところに行っちゃいなさいよ!!」
「そうするよ、寒いからね」
これ以上ここにいたくない。滅茶苦茶寒いからね。
すぐさま踵を返して歩き出した。
「さ……な、ら……………………よー、くん。う、ぅぅぅぅああああああああああ――――――――――――!!」
何も見えないし聞こえない。僕には関係ないことだ。きっとそうじゃなきゃいけないんだ。
なにも終わってなくとも。誰も救われなくても。幸せになれた誰かが見れる
代わりに残ったのは醜くて何かが終わってしまった救われない
この世界も回帰でリセットされて、魔王帳だけが世界を超える。それでもこの
◇所々破れて読めないノートの残骸◇
…………………………。
『先輩が死ぬ結末なんて許さない。それが望みだとしても、捻じ曲げてやる、です』
……………………。
『死んでもいいなんて言ったことなんて一度も言ってないわよ!!』
『結局、あなたはそこどまりじゃないですか。』
………………………………。
『ただ決められた動きをする蟻か何かに見えてるの!?』
……。
『でも、私が一番大切な男の人は陽人くんです』
……。
『……最後はあなたに決定権があるんでしょう?なら、乗ってあげるくらいいいんじゃないかしら。うまくいって皆が笑える世界があったらつーちゃんもよ―くんも嬉しいと思わない?』
『ありがとう、あーちゃん』
『ううん、こちらこそ今日あーちゃんと話してね、色々踏ん切りが尽きそうなの。だから――――――』