ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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思いつきで、こんな主人公を書いてしまった……
色々やっちまった感はあるが、後悔はしない。
……不快な思いにさせてしまったらスンマセン。


1.シス・コン・参・上!!

——妹、もしくは姉に起こしてもらう。

朝の枕元に、しっかり者の可愛い女家族に起こしてもらう……という体験を味わったことがあるだろうか?

多くの者はこう答えるだろう……『そんなの幻想に過ぎん!! 実際の姉妹はそこまで構ってくれないんだよォ!!』と。

全くもってその通りである。実際、現実(リアル)の姉や妹とは仲はそんなよくない。一方的に嫌われていたり、互いに嫌っていたりするケースが多い。

世の中そんなものだ。上手くいかない。

……それでも、世のシスコン達は想像を働かせ、期待してしまうのだ。理想的な妹(姉)が欲しい、と。

そんなこんなで、今日もこの男は待っている。

 

(ムフフフフ、今日は待ちに待った月曜日、妹と仲良く登校するという口実ができる日! 我が妹よ、お兄ちゃんは現在進行形で起きチュン待機しているぜぇ〜!!)

 

この男——南雲(なぐも)ゲン——は、ベッドの上で布団に包まった状態で待ち続けていた。

妹から「お兄ちゃん、起きて! 学校に遅れちゃうよ!?」というシチュエーション——略して『起きチュン』——を心待ちしているのだ。

三十分前から起床して、布団の下は既に制服を着込んでいるので、起こす必要はないというのに……

 

(あれ〜? 何か学校が始まる時間ギリギリな気がするけど……まぁハジメが来てないし、気のせいだろ。さぁ、俺の愛して止まないマイ・スウィート・シスター、ハジメたん! 布団に手を掛けた瞬間、お兄ちゃんとの抱擁を決め込もうじゃないか! さぁ、さぁさぁさぁさぁさぁ!!)

 

「——ゲン!! いつまで寝ているの!? 学校に遅れるでしょうが! 早く起きてらっしゃい!」

 

「待ってました、ハジメたん! お兄ちゃんの胸に飛び込んでらっしゃ——って、何だ母さんか……」

 

妹ではなく、母親が登場したことに酷くガッカリして体が項垂れた。

耳までかからない程度の短い黒髪に整った顔。黙っていればそこそこのイケメンに見えるが、言動や性格が災いして全くモテない。と言うか、女子に遠ざけられている。本人はこれと言って全然気にしてないのだが。

 

「あれ? ハジメはどうしたの? 風邪?」

 

「ハジメ? ハジメならとっくに学校に向かったわよ」

 

「……え? えぇええええええええッ!? 置いて行かれたの、俺!? ちょっとハジメー! お兄ちゃんまだベッドにいるよ!? お兄ちゃんを置いたまま登校って、それはないぜぇ!? ハジメーー! マイ・エンジェルーー! カムバッーーーーーク!!!」

 

「朝っぱらからうるさいわよ! 近所迷惑でしょうが!? 良いから早く朝ご飯食べて学校へ行きなさい、このバカ息子!!」

 

バチコーーン!! と、母親のチョップを朝から頂戴するゲン。そして今日も、朝から騒々しいシスコン兄の物語が始まる。

これは、宇宙(クラス)の妹への愛を持つ、シスコン兄が描く物語である。

 

 

 

 

———▲———

 

 

 

 

月曜日。それは一週間で最も憂鬱になる日である。学校に通う中・高学生、会社に勤めるサラリーマン、コンビニのバイトだってこの意見に賛成するだろう。

 

(ハァ……今日から学校か。嫌だなぁ〜)

 

頭の頂にアホ毛が立っているこの少女、南雲ハジメも憂鬱になる。

しかし、この少女は、学校に行くのが面倒というわけではない。学校の居心地が悪いという理由もあったのだが、今日も兄に付き纏われることになるだろうと想像したからである。だから敢えて兄を放っておいて、兄の始末を母親に押し付けて先に学校へ行ったのだが。

いつものように始業のチャイムが鳴る直前までギリギリに登校して教室の扉を開けた。

瞬間、男女問わず教室にいる大半の生徒達に睨みや舌打ちを貰う。無関心ならまだしも、ハジメは同性からも侮蔑の視線を向けられていた。

哀れな子羊なハジメは気にしない素振りで自席へ向かうが、その進路を遮るように、毎度ちょっかいをかける男達が立ち塞がる。

 

「よぉ、キモオタ〜! また徹夜でゲームか? どうせBLゲームでもしてたんだろ?」

 

「うわッ、マジでキモ〜。BLで徹夜とかマジキモいじゃん!」

 

如何にもいじめっ子の雰囲気でゲラゲラ笑い出す男達。檜山大介(ひやまだいすけ)を筆頭に斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ)は飽きもせず、毎日ハジメに絡む男子生徒達だ。ハジメはこの四人を『檜山一派』と呼んでいる。

そして、ハジメはオタクである。別にキモオタと呼ばれるほど身だしなみや言動が酷いわけではない。ただ創作物が好きという普通の女の子だ。

世間一般ではオタクは非難の対象にされるため好意的に見られない。だが、ハジメが大半の生徒、特に男子生徒全員に敵意や侮辱の視線を向けられるのは、別の理由にある。

 

「おはよう、ハジメちゃん! 今日もギリギリだね、もっと早く来ようよ」

 

天真爛漫な笑みを浮かべながらハジメに歩み寄る女子生徒が一人。このクラス、学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外の一人であり、同時に大半の生徒達に恨まれている理由の一つでもある。

白崎香織(しらさきかおり)。腰まで届く艶やかな黒の長髪、少し垂れ気味の優しそうな大きな瞳、薄い桜色の唇の完璧な配置の並んだ美少女。その容姿から学校内で二大女神と言われ、男女問わず絶大な人気を誇っている。

加えて常に笑顔を絶やさず、面倒見も良く責任感も強いため、学年問わず頼られることが多い。それを嫌な顔一つせずに真摯に受け止めることから、高校生とは思えない懐の深さとされる。

そんな彼女は、よくハジメと、ハジメの兄に構うのだ。最も、兄の方に構う比率の方が高いのだが。

ハジメは徹夜のせいで居眠りの多くて不真面目な生徒と思われ(成績は平均点を保っている)、兄は別の理由で問題児と思われており(成績は平均点以上を取っている)、香織は生徒の面倒見の良さから気にかけてると周囲に思われている。

正直、ハジメは彼女が苦手だった。初対面は良い人と思ったが、人目を気にせずニコニコと関わって来られると生徒の妬み嫉妬などの怨念を貰い受けるのだ。

 

「う、うん。おはよう、白崎さん」

 

ハジメが挨拶した瞬間、ブワッ!! と殺気がなだれ込んだ。呑気そうに笑みを浮かべる香織に対して、ハジメは頰が引きつって冷や汗を流す。

もしハジメが香織に匹敵する美貌の持ち主であれば嫉妬や敵意の視線に晒されることはなかったが、ハジメは顔も体型も成績も平々凡々だと自覚している。そして『趣味の合間に人生』を座右の銘としているので、香織に指摘されても生活態度の改善をしようとしない。故にハジメの周りには敵意が飛び交う。

ハジメが何とか会話を切り上げるタイミングを計っていた——その時だ。

 

「ヤッベェ!! 遅刻遅刻遅刻じゃーーー!!?」

 

廊下から、()が吹き荒れた。

途端に、香織とハジメを除いた、クラス中から舌打ちの嵐が飛び交った。

 

「ヨッシャァ!! ギリギリセーフ!!!」

 

『——へぶぅうッ!!?』

 

騒々しい雄叫びを上げながら騒音の発生源は教室の扉にタックルを決める。扉がドッシャーーーン!! と勢いよく外れて床に転倒した際、扉にもたれかかっていた檜山一派は巻き込まれて扉の下敷きになった。

 

「危ねぇ危ねぇ、もう少しで無遅刻無欠席と言う俺の記録に泥を塗るところだったぜ」

 

男は「フゥ〜」と一仕事終えた表情をして額に溜まった汗を裾で拭く。

言わずとも分かるが……この男、南雲ゲン。ハジメに置き去りにされた後、チャイムが鳴るまで残り五分という短い時間の中、バイク並みの速さで学校通路を走り抜けたという、無駄に身体能力が高い。

ついでにこの男の紹介もしよう。

通称『シスコン番長』。名前の由来通り、妹であるハジメを溺愛し、周囲にハジメの魅力を二十四時間延々と休憩なしで延々と語れるぐらい、シスコン愛をアピールする。

普通なら『シスコン』というだけで非難されるものだから、まず普通の人ならシスコンであるのを隠すものだ。ましてや見せびらかすなどしない。だが、この男だけは例外……と言うより異常であった。本人曰く「シスコンの何が悪い!? 俺のハジメへの愛は永久絶対不滅最強無敵じゃいッ!!」と意味不明の言動を叫びながら、シスコンであることを誇りに思っている。

この要因から『変態な変人』『頭の可笑しい馬鹿』『工事現場より喧しい騒音発生源』と、多くの生徒に嫌われたり恐れられたりしている。

それと、めっぽう喧嘩に強い。『番長』の由来はそこから来ている。

以前、ハジメを『キモオタ女』と口にした不良が一人いたのだが、それだけで当時中学三年生のゲンの怒りを買い、その不良が所属しているグループ(総勢八十五人)へ素手で殴り込みに行った。結果、苦戦することなくゲンの圧勝で、不良全員は全治五ヶ月の病院送りになった。その後、不良達は『シスコン』や『ハジメ』という単語を聞くたびに発狂するほど身体中に恐怖を刻み込まれ、そんな不安定な精神で不良活動を続けられるはずもなく、グループは瞬く間に壊滅したという。

規格外過ぎる強さを持つことから「バイクどころかトラックに撥ねられても死なないのではなかろうか?」とか「いや、それ何処の両●○吉だよ? ……ありそうだけど」と噂に尾ひれが付与されていく。中には事実も混ざっているため否定しにくい。

学校だけでなく町内中からある意味恐れられ、『シスコン番長』と唱えるだけで、泣く子も黙るどころか、ヤクザやギャングまでもが泣き叫んで逃げ出す程の影響力がある。

 

「ハジメちゃ〜ん! 俺を起こしに来てよ!? 先に行くとしてもせめて伝言してからにしないと、じゃないと俺だけいつまでも来ないことになるからね!?」

 

「お兄ちゃん。別に来なくても良いのに……むしろ来ないで欲しかった」

 

「ひ、酷い!? ハ……ハジメに嫌われちゃったッ……!? ッ〜〜〜、うぅ〜〜〜!!」

 

それと、皆まで言う必要はないと思うが……もの凄くウザい。妹であるハジメや両親ですら弁護できないほど、非常に騒々しい上にめっちゃウザい性格の持ち主。所謂、残念イケメンを通り越して『残念過ぎるフツメン』であった。

別にハジメは『嫌い』と言ったわけではないのに、ゲンはマジ泣きの号泣をしながら下に倒れた扉をダンダン! と叩く始末……因みにゲンは現在、下に倒れた扉の上にいるため、扉の下敷きになっている檜山一派は上から来る扉の重みとゲンの体重による二重の圧迫感に襲われている。加えて、ゲンが扉を叩く衝撃が伝わるので、かなり息苦しい状況になっている。災難(因果応報)に見えるが、いつもゲンに隠れてハジメを『キモオタ』と罵っていることがバレたら四人全員、全治六ヶ月の病院送りで済まされないのは明確だから、ある意味この程度で済んで幸運だと言えなくもない。そしてこの四人、ゲンにボコられるのが恐ろしくて、ゲン不在時しかハジメにちょっかい出さない。チキンだ。

 

「ゲン君、おはよう! 今日もギリギリだったね」

 

「おっはー、香織ちゃん!」

 

そして、ゲンは変わり身が早い。さっきまでの号泣振りが完全に消え去って元気溌剌に挨拶を決める。打たれ強さ、もとい耐久性もゴキブリ並みであった。

すぐさま立ち直ったゲンは扉の上を歩きながら香織のところまで行き、香織とハイタッチを交わす(下敷きになっている檜山一派は踏まれるたびに「ウゲェッ!?」「痛ッ!」と声を上げていたが、誰にも気に留められない)。

途端に、ブルァアアアッッ!! と、周囲からハジメ以上の殺気がゲンに向けられる。何であんな変人(シスコン)が学校一の美少女と仲が良いのか、クラスの男子生徒達は血の涙を流しながら殺意を覚える。

天然の一面を兼ね備える香織はまだしも、ゲンは殺気を送られていることに気付かずに話を続けていた。ゲンと挨拶しただけで香織は嬉しそうな表情をするので、それがスパイスとなって男子生徒達の怒りを更に倍増させている。

それを横目で見ながら殺意の溜まり場付近にいるハジメは「いい加減に気付いてよぉ!! 私以上の敵意を向けられているのよ、お兄ちゃん!?」と、内心で叫んでいた。

 

「いや、しかし……今日は良い天気だな。香織ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「うん。そうだね! あ、そうだ。時間が空いているなら、放課後、私と———」

 

「こんな快晴こそ、ハジメたんとのデート日和には最適ですなぁ! だろ、ハジメ!? 今日は俺の奢りということで放課後、俺と一緒に映画見にランデブーしないかい!? あ、子供には見せられないチョット大人な内容なやつでもOKよん? お兄たんはハジメがどんな内容の映画を所望しても、我らがマイ・エンジェルのハジメをドン引きなんてしないぜ!」

 

「絶対イヤ。一人で行け、バカ兄」

 

「はぅッ!? ……い、妹からの毒舌はッ……結構効くぜぇッ……ガク」

 

口から血反吐を出して地面に倒れ込むゲン。この毒舌妹に心をテクニカルブレイクされる光景は毎度のことなので、クラスメイトは『ああ、いつもの光景だなぁ……』と、特に疑問に思っていない。

ゲンに放課後、二人だけで遊びに行く約束を取り付けようとした香織だったが、肝心の標的(ゲン)が先にハジメの方を誘ったため、香織は「え、えぅ……」と最後まで言えず、チャンスを逃して失敗に終わる。一番の被害者は、勇気を振り絞っても言う暇すら与えられない彼女なのかもしれない。

そこへ、三人の男女が近寄って来た。

三人のうちの女子生徒は南雲兄妹と仲が良いのだが、問題は残った男子生徒二人である。

 

「おはよう。ハジメさん、毎日大変ね。ゲン君は……まぁ相変わらずね」

 

「香織、また二人の世話を焼いているのか? 全く、香織は本当に優しいな」

 

「フンッ、そんなやる気のない奴に何を言っても無駄だと思うけどなあ」

 

三人の中で唯一挨拶した女子生徒が八重樫雫(やえがししずく)。香織の親友にして、黒髪ポニーテールが特徴のカッコイイ系女子である。

百七十二センチの女子にしては高い身長と剣道で鍛えられた身体、凛とした雰囲気を持つことから現代に蘇った美少女剣士として雑誌の取材を受けることもあり、彼女を『お姉様』と慕う熱狂的な女性ファンが続出するほど人望が厚い。実家が剣道道場なことから、雫自身も剣道においての覇者だ。そして香織と負けず劣らずの二大女神の一角である。

次に、些か臭いセリフを吐きながら香織を呼んだ男は天之河光輝(あまのがわこうき)。名前からしてキラキラネームであり、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の、如何にも勇者な奴。

誰にでも優しく正義感が強く、雫と同じく小学生の頃から八重樫流に通っており、実力は雫と同じ全国クラス。以上の要因からダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、幼馴染である香織や雫とつるむことが多いので大半は気後れして告白に至らない。良い人なんだろうが、悪く言えば思い込みが激しい。無自覚のご都合主義者という非常にタチの悪い人種なので、雫を困らせる行為がしばしばある。

最後に投げやりな発言の男子生徒は坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)。光輝の親友であり体格が熊のようにデカい、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプ。

『努力』や『熱血』という言葉が大好きなので、南雲兄妹のように学校へのやる気を見せない生徒は嫌いである。加えて、何故かゲンにばかり悪態を吐くことが多い。馬鹿な性格でも違う種類だからなのか、現に今も龍太郎はゲンを一瞥して親の仇のような敵意を送る程、一方的に嫌っている。睨まれているゲンは特に気にもしてないので無視しているのだが。

 

「よ、雫ちゃんもおっはー!」

 

「ゲン君、ハジメさんのことが大好きなのは分かるけど、周りの目線も気にしなさいよ? ハジメさんのためにもね」

 

「おう、バッチリだぜ! ハジメたんは俺が守る!」

 

グッと親指を立てるゲンだが、現在進行形で説得力がない。雫は「本当かしら……」と頭を抑える。気軽に話してきたことでゲンはクラス全員に「調子に乗んなよ、ゴラァ!?」と殺意が向けられているが、本人は全然気付いていない。まぁ、いざゲンに鋭い眼光を向けられると全員がビビるので、檜山一派と同じくチキンなのだが。

ゲンは雫と男女の仲とまで発展してないが、香織と同じくらい仲が良い。雫はオカン係兼ツッコミ要員でもあるので、基本ボケ役のゲンからは重宝視される。このことを突かれると雫は激しく否定するが。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河君、坂上君。ハハ、まぁ自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

雫達にハジメも苦笑いしながら挨拶した。同じく「テメェ何勝手に八重樫さんと話しているんだ、アァ!?」的な視線が突き刺さるが、ゲン程の重圧でないので、ハジメはまだマシだと安堵する。

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって、君達に構ってばかりはいられないんだから」

 

「? 何言っているの、光輝君? 私はハジメちゃんと話したいから話しているだけだけど?」

 

一瞬驚いた表情をするけど「え? ……ああ、香織は本当に優しいな」と勝手に解釈する光輝。自分の正しさを疑わない本当に困った性格の男であり、幼馴染である雫の悩みの種の一つである。

 

「———オイ」

 

———ゴォォォ!! と怒気が教室中に行き渡る。ハジメを不真面目な生徒と認識して要らぬ忠告をした光輝にキレたのか、ゲンの周囲から何かしらのオーラがなだれ込む。

途端に先程までハジメに敵意を送っていた全員は「あ、ヤバイ! 地雷踏んじゃった!?」「非常事態に備えろ! 朝からメッチャ面倒臭いことになるぞ!!」と、地震が起きた対処時みたいに慌てふためく。

 

「おうおう、ウチの妹に文句あんのかい、ワレェ?」

 

何処ぞのツッパリみたいに腰を低くした態勢、ズボンに手を突っ込ませながら鋭い眼光で光輝に迫る。ヤクザ映画を見たのか知らないが、巫山戯たように見えても全身から溢れ出す闘気は限りなくモノホン以上で、眼前で睨まれている光輝は何も言えない。

 

「なぁ天之河さんよぉ、俺の妹にちょっかい出すのはいい加減、止めにしようや……昨日俺はなぁ、ハジメと一緒に『金○先生』を見たんじゃけえのぉ」

 

(((だから何だよ!? っていうか『○八先生』かい!!)))

 

「いや、そんなこと言われても……」

 

(ハジメちゃん良いなぁ、ゲン君と一緒に映画見たんだ……私もゲン君の妹役に立候補したら可愛がってくれるのかなぁ?)

 

一人除いてクラス中の意思が一致した。話どころかジャンルが違い過ぎて内容に掠りもしていない。光輝の返答は絶対間違っていない。あと、約一名は意見が違うどころか危ない思考にまで発展している。

その貫禄のままゲンは「『人』という字は支え合ってできているのじゃけぇのぉ〜」と、最早関係ないことをエセ広島弁で語り出す。やがて、映画の感想を語り終えて(特に意味はない)、ゲンは光輝と対峙する。

 

「良いか、よく聞けよ? テンプレ勇者野郎。ハジメはエンジェル……つまり天使なんだよ! 授業中に『お兄ちゃん大好きぃ…』とか涎を垂らしながらお兄ちゃんの夢を見ている姿は世界的美術界のイージス艦級! いや! 芸術そのものを凌駕し、絵なんかじゃ表現できない“美”そのものなんだよ! その美を生産するために必要な工程を止めろとかお前、世界中のシスコン神への冒涜でぶっ殺されるぞ!? こ・の・お・れ・に!!」

 

(((………うん。本気で何を言っているの?)))

 

本当に何を言っているのか分からない……

熱く語るゲンの傍でハジメは「そ、そんなこと言ってないよ!? デマカセだからね!?」と激しく否定する。しかし語り足りないのか、ゲンは教室中に響く音量で続けた。

 

「それからさ、その日は続けて深夜のホラー映画を二人で見たんだけど、その時のハジメたんは『お兄ちゃん、怖いよっ……』と呟いて、そりゃもう可愛かったんだぜ!? 産まれたてのバンビちゃんより勝る愛くるしさを浮かべて俺の手を握って来たもんだから、俺の妹魂が興奮して——」

 

「そ、それ以上口を開くなぁ!! このバカ兄ーーーーーー!!」

 

「え? ……ま、待ちなさいハジメ! 流石に金属バットは不味いって——ギャァアアアアアアアアアア!!?」

 

延々とハジメの自慢話を語ったゲンは、真っ赤な顔をしたハジメに何処から取り出したのか分からない金属バット(釘付き)で滅多打ちにされる。それはもう容赦なく力いっぱい振り下ろされ、教室中にドシャッ!! とかバキッ!! とか、絶対に人体から鳴ってはいけない不快な音がゲンの体から鳴り響く。お茶の間の皆様には、とてもお見せできない光景だ。

殺人未遂? の光景を眼前で見せつけられたクラスメイト全員は顔を真っ青に染まり体が震え出す。光輝一行もドン引きして数歩後退し、香織ですら汗をかいて苦笑いを浮かべる。先程までハジメを罵っていた檜山一派に関しては、顔が真っ青どころか顔面全体が真っ白に染まって教室の隅でガタガタ震えていた。「俺達にも報復が来るのでは……!?」と。

一分後、「ハァ、ハァッ、ゼェ……!」と息を切らしながら、ようやくハジメは動きを止めた。血で赤く染まった金属バットを持つその少女の姿は、先程の話に出たホラー映画に登場する呪い人形や幽霊だって尻尾巻いて逃げ出す迫力がある。

煙が晴れると、あちこちの関節が曲がってはいけない方向へ曲がって、呼吸が虫の息まで低下しているゲンが転がっていた。何か血生臭い悪臭が全身から臭い出し、小蝿が徘徊し始めている。これで生きているのだから、生命の凄さ、いや、南雲ゲンの生命力の強さは不思議なものだ。しかも数分経てば、ギャグ漫画の主人公よろしく、何事もなかったかのようにピンピンしている。

ゲンの自業自得とはいえ、バットを持ったまま荒い呼吸をするハジメを見て、もうその教室内で彼女に敵意を向ける勇者はいない。恐怖に溺れて誰も南雲兄妹に声をかけられない混沌(カオス)と化した中、

 

「はいはーい、ホームルームを始めますよ……って、どうしてこんな静かになっているんですかぁ!? って、南雲君!? 血だらけになって倒れているぅ!? 南雲さんはどうしてそんな危険な物を持っているんですかぁ!? たたたた大変です! 保健室! いや救急車、救急車〜!!」

 

(((先生、ナイスタイミング!!)))

 

現れた癒し系教師、畑山愛子先生の登場に、ゲンとハジメを除いたクラス全員が感謝した。

三分後、正気に戻ったハジメは金属バットをしまい、ゲンも何事もなかったかのように無傷の状態で着席した。因みにゲンが倒した扉はゲンが直したってさ。

数分後、落ち着きを取り戻した愛子によるホームルームが始まった。

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