ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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お久し振りです!!
やっと時間が作れた〜〜〜!! 遅くなってすいません!

いよいよハジメちゃん豹変の回です。
ガチのシリアスしかないので、ギャグしか受け付けないという方は読み飛ばしても構いません。

それではどうぞ!!


10.魔・王・産・声!!

ピチョン……ピチョン………

水滴が頬に当たり、口内に流れ込む感触にハジメの意識が徐々に覚醒していった。

 

(……生き、てる……? 助かった…の……?)

 

不思議に思いながらゆっくりと目を開くと、すぐ眼前に両目を閉じているゲンがいた。それはもう、ゲンとハジメの唇が触れそうな程の至近距離だ。

 

「ひゃ————みぎゃッ!?」

 

あまりに吃驚し体を起こそうとするが、ゴツッ! と低い天井に後頭部をぶつけてしまう。

自分の作った穴は縦幅が六十センチぐらいしかなかったことを今更ながら思い出し、錬成して窮屈な穴を広げようと天井に手を伸ばそうと背筋を少し伸ばした。

 

「ッ、お兄ちゃんッ! ………あれ? どうして傷が……?」

 

視界に入るゲンの腕が一本しかないことに気がつき動揺するが、肘から先がない左腕の切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がってることに気がつく。

もしやと思い、耳をゲンの胸に当ててみる。微かだが、苦しそうな呼吸をしていたが……間違いなくゲンは生きている。

 

「……お兄ちゃん………良かったッ……」

 

ゲンが死んでいないことはとても嬉しかったが、その原因が分からない。ハジメも自分の肌に触れると、この奈落の底に落ちて受けた傷がなくなってることに呆然とする。

暗闇で見えないが、この場に明かりがあれば二人の周囲が血の海に染まっていることが分かるだろう。周囲を探るとヌルヌルとした血の感触が返ってくることから、大量出血して気絶してからそれほど時間が経っていないようだ。

にも関わらず、ハジメやゲンの傷が塞がってることに疑問を感じていると、ハジメの頬や口元にピチョンと水滴が落ちてきた。

 

「もしかして……この水のお陰で……?」

 

口に入った瞬間、ハジメの体に少し活力が戻ったのを感じた。

 

「待っててね、お兄ちゃん……すぐ戻るから」

 

苦しそうに呼吸するゲンに配慮しながら、ハジメは両手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行う。

不思議なことに岩の間から滲み出る水を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きないので奥へ進んで行った。

奥へ奥へ錬成を繰り返すと、やがて水源に辿り着く。

 

「これ……は………」

 

ハジメは一瞬、見惚れてしまった。

そこにはバスケットボールぐらい大きな青白く発光する、神秘的で美しい鉱石が鎮座していた。周りの石壁に同化しているように埋まっており下方へ水滴を滴らせている。

徐にその石に触れた途端、体内の鈍痛や(もや)がかかったようだった頭がクリアになり、倦怠感も治まっていく。自分達が生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。

その石は【神結晶】と呼ばれる歴史において最も伝説とされる鉱物であり、その鉱石から流れる液体を【神水】と呼ばれる。飲んだ者はどんな怪我も病も治るとされ、飲み続ける限り寿命も尽きないと言われてることから不死の霊薬とも言われていた。

 

「あッ、そうだ! ……これならお兄ちゃんを……!」

 

ハジメは錬成で神結晶を残さず岩盤から取り外してゲンの元に戻る。

その鉱石から出る発光でゲンの全貌があらわになり、言葉を失った。

右の目蓋には魔物に傷付けられた痛々しい三本の傷が走っている。更に悪いことに右足を爪熊に食い千切られたらしく、足首には削られたような荒々しい断面が肉で盛り上がっている。

幸いな点が生きていることだ。ゲンが持つ底知れない生命力の強さによる所以か、普通の人なら絶対に助からない傷を受けているにも関わらず絶命していない。

しかし、このまま飲ませずに放置すればゲンと言えど死に至るだろう。かと言って、意識もないのに飲むこともできなかった。

 

「お願いッ、死なないで……お兄ちゃんッ………!」

 

なり振り構ってられない。もうどうにでもなれっ! とハジメは恥じらいを捨て去った。

鉱石から滴る神水を指で拭って口に含むと、何の躊躇もなくゲンの唇に押し当て、口内に舌を侵入させて強引に飲ませる。所謂……口付けだ。人生初の。

コクコクと、ハジメの唾液ごと飲んでいく音が聞こえ、ゲンの呼吸が穏やかになっていく。

 

「お兄ちゃん……良かった………」

 

ゲンから口を離し、二人の間に銀色の糸が引かれるのに気づかず、ハジメは安堵の息を漏らした。ようやく生き残れたという事実を再確認でき、ズルズルと壁にもたれ掛かってへたり込んだ。

爪熊はもういないようだが、ハジメは外に脱出しようという気力が湧かない。

敵意や悪意なら再び立ち上がれるかもしれない、また立ち向かえたかもしれない。だが、あの爪熊の目はハジメの精神にトラウマを負わせた。自分達を餌としか認識していない捕食者の目。

それだけならまだしも、頼りっきりだった(ゲン)を死なせかけたことに、ハジメの心は完全に折れてしまった。

 

(誰か……助けて………)

 

奈落の底、ハジメの悲痛な言葉は誰にも届かない……

 

 

 

 

———◇———

 

 

 

 

どれくらい、そこに留まっていただろうか。

現在ハジメは横倒しになり、昏睡状態のゲンを抱き枕のように抱き締めながら身を縮め、胎児のように丸まっていた。

その間、ハジメはほとんど動かず、滴り落ちる神水のみを口にして生きながらえていた。しかし空腹感まで満たしてくれず、死なないだけで壮絶な飢餓感に苦しんでいた。

一方、ゲンはあれから一向に目を覚ましていない。それでも飢餓感、手足を片方ずつ失った幻肢痛を感じているのか、時折ゲンは(うな)されるように苦しむ様子があった。その度にハジメは口移しで神水を飲ませ、ゲンを落ち着かせてきた。

 

(どうして、こんな目に……?)

 

ここ数日間、その疑問ばかりがハジメの頭を過った。

空腹でロクに眠れず、神水を飲む度に頭がクリアになるため、より鮮明に苦痛を感じてしまう。何度も何度も、意識を失うように眠りに落ちては飢餓感に目を覚まし、苦痛から逃れるため神水を再び口に含み……何度も苦痛と覚醒を繰り返してきた。

 

(もう私達、死ぬのかな……でも、こんな苦痛が続くなら……いっそのこと………)

 

いつの間にか、ハジメは神水を飲むのを控えるようになった。それでも、ゲンには一定の間隔で飲ませ続けている。それを考えると自分だけ死ねない。楽になるわけにはいかない。

 

「……お兄、ちゃん……覚えてる……?」

 

気分転換をしたかったのか、ハジメは深い眠りについているゲンに話しかけた。

昔のことだ。

幼少期の頃から自分達は血の繋がった兄妹じゃない、と両親から説明されていた。特に何の前触れもなく。

その話を聞き、確かに全く似ていないと納得したハジメ。顔も性格も全然違うから。

自慢じゃないが昔、義兄(ゲン)は幼稚園内で男女問わずモテていた。それこそ、クラスメイトの勇者である光輝に負けないくらい。対照的に内気だったハジメは男女問わず嫌われ、友達の輪に入れずにいた毎日だった。

……それが原因でハジメは虐められるようになった。

 

「お兄ちゃん……私、知っているよ? お兄ちゃんがいつも皆に怒鳴り散らしていた理由……私を虐めから、守るためだったんだよね……?」

 

それから数日も経たないうちに、慕っていた友達、媚を売っていた女の子も全員、掌を返して腫れ物扱いをするようにゲンから離れていった。

 

「……私が弱かったから、虐められて、良いように玩具にされていたからッ………私のせい、なんでしょ? 全部、全部ッ……!!!」

 

その時、ハジメは思い出してしまった。

召喚された際、愛子先生が反対する中、ゲンはクラスメイトや国に敵意を受けながらも、最初から魔族と戦うことに反発していた。彼はこうなることを予測していたのだろうか。なのにハジメが「やる」と言ってしまったため、ゲンはハジメを守るという名目で引き受けた。

ゲン一人ならベヒモスの攻防で崩れる石橋を渡り切り、無事に逃げることができた。なのにハジメが火球を受けて逃げ遅れたため、ゲンを巻き込んで奈落の底へ落ちてしまった。

爪熊に遭遇して、ハジメを庇うため……ゲンは死にかけている。

全部、全部、全部……(ハジメ)のせいだ。

不安から生まれた罪悪感や後悔に押し潰されそうになり、飢餓感や激痛がなくても気が狂いそうになる。

 

(どうして私が……いや、どうして私を守ってくれたお兄ちゃんが、こんなにも苦しまなくちゃならない………)

 

沸々と、何か暗く澱んだものが湧き上がってきた。

 

(どうして、こんな目に遭ったの……?)

 

それはヘドロのようにへばり付き、

 

(神は、理不尽に私達を誘拐した……)

 

恐怖と苦痛と悲嘆でひび割れた心の隙間に入り込み、

 

(クラスメイトは、私達を裏切った……)

 

少しずつ、

 

(アイツは私を喰おうとして、お兄ちゃんを喰った……)

 

少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、少しずつ、

 

(私は……お兄ちゃんを……死なせかけた……)

 

……ハジメの心の奥深くを侵食していった。

次第に思考が黒く染まっていき、ゆっくりとハジメの中の美しかったものが汚れていく。

無意識に敵を探し求める。激しい飢餓感と薄暗い密室空間、そしてゲンの惨状がハジメの精神を蝕む。暗い感情を増幅させていく。

憤怒と憎悪に心を染めはしない。する意味もないしメリットもない。ゲンと共に生き残るためには、余計な感情など削ぎ落としていかなくてはならない。

 

(私は何を望んでいる?)

(私達の“生”を望んでいる)

 

(それを邪魔するのは誰?)

(邪魔するのは全て“敵”)

 

(“敵”って何?)

(私の邪魔するもの、理不尽を強いる全てよ)

 

(なら、私は何をすべき?)

 

(私は、お兄ちゃんを……()()を……)

 

ハジメの心から憤怒も憎悪も消え失せた。傲慢な神の理不尽さも、クラスメイトの裏切りも、魔物達の敵意も……自分達を守ると言った少女達の笑顔も……兄を救えない自分の無能さも……全てがどうでも良い。

兄と生還を果たすため、これから自分が兄の笑顔を守るため、余計なものなど切り捨てる。

 

(私の敵を、私達の敵を、兄貴(ゲン)の敵を……殺す)

 

ハジメの意思は一つに集約される。

研ぎ澄まされた刃のように、鋭く強く妖しく、使い手すら斬り殺す妖刀のように。

 

(慈悲なんて与えない。優しさなんて要らない……殺す)

 

それは……悪意も憎しみもない、単純な感情。

生存本能が呼び覚まし、生きるために必要だと、純粋な殺意。

 

(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)

 

そして、またの名を………“愛”。

愛おしい兄を死なせないためなら、如何なる手段も取る、美しい感情。

 

「私の敵なら、兄貴の敵なら——殺して喰らってやる」

 

この瞬間、誰よりも知っている内気な少女の人格が、完膚なきまでに消えた。

砕け散った心が一つとなり、闇と絶望、苦痛と本能、愛と乱心で鍛え直され新しい強靭な心となる。

未だ眠りに就いているゲンを安静にし、ハジメは弱り切った体を無理に動かせ、神水を直接口につけて啜った。

 

「神水ばっかりで腹が空いた。まず第一の目標は………復讐(リベンジ)からよ、害獣共」

 

これが後に、“魔王誕生”と、誰もが唱える瞬間となる。




作者からのコメントを一言……ハジメちゃん尊ィイイイイイ!! しかもファースト・キッスを捧げちゃったァアアアアアアアアアッ!! アァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?(←近所迷惑)
豹変っていうか、本性が露わになった感じだよね? ブラコンの素質は元からあっ……(ここから先は血で染まり読めない)

……イテテ。シヌカト、オモッタ
前々から本文にちょっとあったので分かってる方もいると思いますが、ハジメとゲンは血の繋がっていない兄妹です。あ、両親とハジメはちゃんと血が繋がってます。
幼少期の説明に関しては後々、本文で明らかにさせようと考えています。今のところ……
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