……いや、ほんとにごめんなさい。執筆が遅いくせに現実が忙しくて時間が得られなかった結果です。
カッコつけて謝罪したことも含めて申し訳ありません。
(カッコつけたセリフを言った時、家族から心配そうな視線を頂戴しました。ハズカシイッス)
前回から引き続き、今回もハジメちゃんメインの回です。最後辺りで主人公が登場します。
暇潰し程度でも楽しんでくれたら幸いです。それでは、どうぞ!!
暗闇に身を潜めつつ周囲を警戒しながら絶好の狩場を捜索する魔物の群れがいた。単体では最弱に当たるため群れで行動する二尾狼だ。
絶好の場を見つけ出すと、近くの岩場に隠れて赤い両眼を輝かせながら、これから訪れるだろう獲物に舌舐りする。
『——グルゥア!?』
しかし、唐突に奇襲される。二尾狼達の足場が粘土のように凹み、地面に溶けるかのように発生した壁が覆い被りながら地中に引きずり込んでいく。
足が固定され身動きとれない二尾狼は何の対応も取れず地面に引き込まれるしかない。やがて最後には、元の平らな地面しか残らなかった。
「これで全部?」
入れ替わるかのように壁が溶けるように穴が開き、中から少女が出てきた。
言わずもがな、ハジメである。しかしクラスメイトや家族がいつも目にしていたオドオドした雰囲気はない。この階層で最強である魔物よりも重圧かつ純粋な殺意が彼女の周囲を漂う。通りすがった下級モンスターは颯爽と逃げ出し、生き埋め状態にされた二尾狼の群れですらハジメの瘴気に当てられて恐れ慄いているほどだ。
飢餓感や恐怖を全て捩じ伏せ、神水を飲むことで魔力を回復させ続け、同時に内に潜む殺意を増長させ続けていた。
———全ては自分達の、兄の敵となるものを全て駆逐するため。
「さて、と……まだ生きてる? まぁ、あれしきの錬成で仕留められるなんて微塵も思ってないけど」
そこから先のことは簡単だった。地中でまだ死なずにいる二尾狼に向けて錬成したドリル状の石器を巻きつけた槍で突き刺していく。地中で動きを制限されたことで身を捩ることもできない二尾狼達は泣き言のように弱々しい遠吠えを上げる。
地中で響く泣き言の声を聞いた瞬間、ハジメの殺意の念が深まった。
「痛い? 当然でしょ? 麻酔なしで刺突されているんだから……でも、兄貴はこれくらいじゃあ悲鳴なんて上げなかったけど?」
『グルァアアアアアアッー!?』
体重を掛けてもっと苦痛を与える。
「兄貴の眼に傷を負わせといて、いざ自分達が痛い思いを知れば泣き叫ぶの……甘えんじゃねえよ、薄汚いクソ野獣共!! 兄貴はこれぐらいのことで助けなんか求めないのに! 兄貴が受けた苦痛を倍にして返してやるから、簡単に死ねるなんて思うなよ!?」
ドスドスッ! と刺し抜きを繰り返して、必要以上に二尾狼に致命傷を与え続ける。体内の組織器官をズタボロに貫かれた二尾狼達は、ハジメの手によって確実に絶命されていく。
「ハァ、ハァッ……あ、食料を探しているんだった。兄貴にも食わせなきゃいけないのに怒りに任せ過ぎでしょ私?」
いつもバカと呼んでいるゲンに大きな態度が取れないと自虐するハジメ。待ちに待った食料だと我慢が利かず、その場で二尾狼達を掘り起こし始める。
「ぐぅうッ、あぁもうマッズイ! どうなっていんのよ!」
二尾狼達の毛皮を引き剥がし終え、飢えを凌ぐ衝動に駆られ咀嚼し始める。
凄まじい獣臭と血の生臭さに涙目になりながら、硬い筋ばかりの肉を顎が外れるぐらい齧り付く。生ゴミを口にした方がまだマシなぐらい想像を絶する最悪な食事だった。
だが、そんなこと知ったことではないと言わんばかりに、腐敗臭が薫る土塗れの生肉を次々と噛み千切り飲み込んでいく。死肉を一心不乱に咀嚼する姿はハイエナにも似ていた。
どれくらいそうやっていたのか、神水を飲料水代わりに使用しながら腹を満たしていく。
「あ? ———あッ、ガァアアアアアアアアア!? か、身体がぁ! あぐァァっ!」
だが、ここで問題発生。
食料にされた二尾狼達の怨念を表すかのように、ハジメは体の内側から全身に渡って激しい痛みに襲われる。その痛みは時間が過ぎれば消えてくれるわけでもなく、時間が経過すればするほど激痛の幅は増すばかりだ。
「アァァッ、がぁああああああッ、グゥぅうううううう………!!」
気が狂いそうになる痛み、内側から“自分でない何か”が侵食していく錯覚。
震える手で懐から試験官型容器を取り出し、容器内を満たしている神水を飲み干す。神水の効果が発揮し痛みが引いていくが、それも束の間。数秒後にさっきよりも激しい痛みが再発する。
「な、何で治らッ、なおッ……がぁああああおおおああああッ!!?」
ハジメの体全体がドクンドクンッ! と脈打ち、節々からミシッ、ベキッ! という音が耳を打つ。
神水の絶大な治癒効果が仇となり、気絶することすらできない。否……気絶なんて絶対しない。
「グゥぅうううッ……ふざ、けるなぁあッ……こんな痛みィイ、兄貴が受けた苦しみに比べレばァァッ………ウざいッ、消えろキえろ消えろ消えロ消えろ消エろ消えろォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーー!!!」
神水を飲み続けて全ての細胞が壊死するのを防ぎ、荒れ狂う激痛の嵐を強靭な精神力でねじ伏せる。激痛と壊死と修復を繰り返し、洞窟中にうめき声を響かせる。
兄貴を残してここで死ぬ? そんな面白味もない筋書きなんて蹴り飛ばしてやる。
この谷底地獄でゲンを独りにさせるわけにはいかない。体の一部が欠如してでも助けてくれた家族にそんな扱いをするなんて許さない。その想いを糧に、頭を何度も地面に打ち付けながら地獄を耐え抜く。
すると、ハジメの体に変化が現れた。
日本人特有の黒髪から色素が抜け落ち白く艶やかになっていく。次いで、骨格がゴリゴリと音を立てながら伸び出し、クラス女子の中では低かった身長が長くなる。更にBカップだった控えめの胸がDへと激化し、腰のくびれが細くなり臀部は大きくなっていき、女性でも羨むような抜群の体型へと変化していく。
筋繊維の一本一本が強靭な耐久力と重量を持つように変わり、全身の筋肉が極限にまで絞り込まれる。肌はシミ・汚れが一切ないほど淡い肌色に染まり、体の内側に薄っすらと赤黒い線が浮き始める。
過去、魔物の肉を食った者は例外なく体の内側からボロボロに砕けて死亡したと記録にある。魔物の魔力などの、変質した魔力は人間にとって致命的であり、人間の体内を、細胞を内側から破壊していくのだ。
しかし、神水と言う秘薬があったからこそ、ハジメは初の魔物の肉を食べても死ぬことのない人間となった。
魔物の肉と神水、嘗てない禁断の組み合わせがハジメの体を転生させた。脆弱な人間の身を捨て化生へと生まれ変わる生誕の儀式。
やがて、二尾狼達の怨念がかき消されたかのように、あれだけ猛攻していた痛みはパッタリと消えた。
ハジメの閉じられていた目が薄っすらと開かれる。焦点の定まらない両瞳は紅く染まり、緑光石なしでも爛々と紅い光を発している。
何度も拳を握ったり開いたりしながら、自分が生きていることを実感し、自分の意思で体を動かせることを確かめると、ゆっくりと起き上がった。
「そーいえば、魔物の肉って人体に毒なんだっけ。アホか私は………それにしても、どうなっているの? 何か妙な感覚だし」
そこにいたのは、どこにでもありふれた少女でもなければ、ただの人間や魔物ごときに泣かされるような儚げな少女でもなかった。
女神にも劣らない麗しい美貌を放ちながら、魔物すら慄かせる威風を放つその姿は“女魔王”という言葉が一番ピッタリだった。
「うわぁ、何この赤黒い線? 我ながら気持ち悪ッ。何か魔物にでもなった気分ね……全然、笑えないわよ。あ、そうだ、ステータスプレートは……」
すっかり存在を忘れていたステータスプレートを求めてポケットを探る。幸いなことに失くしていなかったようだ。
自分の体に起こった異変を調べるためにも確認を取ると……
南雲ハジメ 17歳 女 レベル:8
天職:錬成師
筋力:100
体力:300
耐性:100
敏捷:200
魔力:300
魔耐:300
技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・
「……いや、なんでやねん」
思わず関西弁のツッコミを入れるハジメ。ステータスが総じて急増しており、技能も三つに増えている。しかし、レベルは未だに8にしか到達していない。
「まさかコレ……魔物の肉を食ったせいで? その特性を手に入れたってこと?」
早速ハジメは“魔力操作”や“纏雷”とやらを試してみることに。
集中すると肌上に赤黒い線が薄っすら浮かび上がり、奇妙な感覚と思える魔力の移動が始まった。また、静電気をイメージすると両手の指先から紅い電気がバチバチッと弾ける。
「おぉ〜」と感心した声を口にしながら、その後も放電を繰り返す。二尾狼のように電気を飛ばすことはできないが、体の周囲に纏うか伝わせる程度ならできる。電圧や電流の量は練習次第だ。
“胃酸強化”は文字通りだ。試しに二尾狼から肉を剥ぎ取り口に入れてみるが、十秒……一分……十分……何も起こらない。これで飯を食う度に地獄を味わわなくて済むとハジメは喜んだ。
腹を満たしたハジメは、残った二尾狼の肉を切り分けて石製の容器にある程度入れ、一度本拠地へ戻ることにした。
仇敵とも言える爪熊に勝てる算段がついたのだ。それに、しばし新たな力の習熟に励む必要がある。
忘れていけないのが……あそこにゲンが待っているのだ。
「待っててね兄貴、絶対に兄貴を一人にさせないから。私が兄貴を守っていくから、私が兄貴のできないことをやるから、兄貴の邪魔者はモンスターでも人間でも殺すから……だから、どこにも行かないでよ、兄貴?」
きっと今頃、お腹を空かして心配している。まだ悪夢にうなされているだろうが、生きてさえいれば良い。
この姿を見られ畏怖されようとも、魔物を殺し喰ったなんて知られ侮蔑されようとも、生きてくれれば良い。
それだけで、良いのだ………
———◇———
「そ、んなっ………!!?」
到着した矢先に、ハジメは信じられない、信じたくないものを目にした。魔物の肉を敷き詰めていた容器や神水を含んだ容器を手放してしまい、地面に転がり落ちる。
ハジメが本拠地とした隠れ洞穴の入り口は落石で埋め尽くされ、その周辺は鋭い爪で引っ掻かれたような爪痕がたくさんあり、地面は大量の赤い血で染まっていた。惨状から見て二尾狼、あるいは爪熊、もしかしたら他の魔物の仕業に違いない。
その場にゲンの姿は………どこにもなかった。
遺体すら発見できず、生きているのかさえ分からない。
両膝が崩れ落ち地面に着いたと同時に、ハジメの両目から透き通った涙がポロポロ流れ始める。まるで抜け殻のように、その場に佇んだままだった。
「………だ、れがッ………」
すると肩を震わせながら、風に消されそうなか細い声で呟く。二尾狼を仕留めた時に使用したドリル状の石器を握り締め、無意識に周囲を殺意の重圧で固めていく。
「……誰なんだッ……私からっ、兄貴を、私の全てを奪ったのは! 一体誰だァァッ!? どこのどいつがぁっ、私から兄貴を奪ったぁあああああああーーーーーー!!?」
谷底全体に、怨念とも言える絶叫が響き渡る。
当然そんな大絶叫、暗闇で身体が発達した魔物達が見逃さないわけない。だが、ハジメの声を耳にした魔物達は慌てて一斉に逃げ出した。ある魔物は恥を捨て小さな穴に逃げ込み、脅威が去ってくれるのを震えながら懇願する。不用意に近づけば自分達が殺られると、怯えながら本能が訴えていたのだ。
たった一つの希望を失った。へし折られてしまった。今のハジメはそう思えるほど冷静でいられなかった。
容器から溢れて地面に散らばった二尾狼の肉を見つけ、乱暴に掴むと握っていた石器で何度も突き刺す。十、二十回は超え、肉は穴だらけの薄っぺらい挽肉のように変わっていく。
しかし、ハジメの怒りは止まらない。
この程度では、ハジメの滞りなく湧き上がる憎しみを塗る潰すことなどできなかった。
すっかり使い物にならなくなった肉を放り棄て、辺りに物をぶつけて喚き散らす。今、自分のしていることは無意味だと分かっているが、そんなことを考える余裕もなかった。
「殺ず、殺じでやる!! 絶対に殺じでヤルっ!! 食料になんてしない、ただ苦しみを与え続げて死ぬ直前になったら回復させるのを繰り返して、最後に内臓をえぐって骨を引きずり出して八つ裂きにして殺じてやるっ!! ここにいる蛆虫や畜生共、勝手にこんな訳の分からない世界に連れて来たアイツら全員、地上にいる兄貴を見捨てた奴らも全員ぶっ殺してやる!!! 泣いて謝っても絶対に許さない殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺すッ!!! 兄貴を殺した世界を全部壊して、皆みんなミンナ殺して殺して殺して殺して———」
「———ハジメ?」
「ッ!!」
怒りと憎しみの海に溺れたハジメを掬い上げたのは、たった一声。
その声は、今最も彼女が聞きたかった男の声だ。
間違いない、兄貴だ。そう決め込み勢いよく振り向いた。
そこにいたのは———
「ハジメだろ? ちょっと髪色も変わってイメチェンしたのか? でも可愛いと思うぜ? その、アレだよな! やっぱり白髪紅眼の美少女キャラってイイね! ちょっと厨二臭いけど……って、さっきから動かないで、どうした? おいおい、どうして涙を!? まさか……お前を虐めた奴らがいたのかぁ!? おのれぇえええ!! 出てこい、俺が嬲り殺しにしてくれるわぁああああああーーーーー!!!」
「………兄、貴ッ…………?」
オレンジの複眼、至るところが機械のような部位、そして全体的に白を強調させる全身スーツを着た、ロケットと宇宙服を足して二で割ったような頭……よく分からん姿をしながらデリカシーの欠片もない発言ばかりしていた者がいた。
実はハジメが食料を探しに行った間、ゲンは目を覚まし洞穴から這い出たのだ。
ハジメが目を離したたった数時間、彼の身にとんでもない出来事が起こる。
しかし、それはまた次のお話で………
「その、とんでもない出来事というのは…………俺の腕を喰った爪熊に遭遇して倒したら変な蹴りウサギに、変なベルトを渡されたという話です」
あ、それ言っちゃうんだ!?
次話を盛り上げようとしたのに、もう次回予告の意味とかないやん!!?
後書き(本当の)
最後の最後でいよいよフォーゼ・登・場!!
いやぁ……ようやく出せましたよ。フォーゼファンの皆様お待たせ!! でも『こんなのフォーゼじゃない!』という抗議は勘弁してください!!
主人公、お前今までどこで何していたんじゃゴラァ!? と思った方々は、次話までお待ちを。
P.S.『フォーゼ』の単語が出て来ませんでしたが、次話は必ず出します。