「もう次回の下書きも終わったし、投稿なんて楽勝っしょぉ〜!」
現在の作者
「………調子に乗っていた、あの頃の自分を殴りたいッ……!!」
現実がマジで忙しくて執筆する時間が碌に取れませんでした。久しぶりに書いたから、誤字脱字がないか不安っす……
先に宣言します。今回、とても長いです(一万文字数超え)
なので余計に誤字脱字がないか心配です……
そんなこんなで不安要素しかないんですが、暇潰し程度でも良いので楽しんでいってください!
皆様お待たせしましたぁ! いよいよ主人公が、変・身・しまーす!! キョウミネー
それから、ちょっぴり感動(?)シーンもあるよ♪ ホントカナー
———◇———
……世界中から敬われ絶大な信仰心を持つ神。
……その神に仇なす者は“愚者”、“異端児”、“叛逆者”と呼ばれてきた。
『———俺は世界中の
……ある信者は此の者を“史上最悪の悪魔”と忌み嫌い、
『うぉおおおおおおおおおおおッ!!! 宇宙、来たーーーーーーーーーーー!!!!』
……神に反旗を翻す同胞達は彼を“偉大な蛮勇”と称え、
『タイマン、晴らしてもらうぜぇええええええーーーーーーーー!!!!』
……その者は、銀河に騒動をまき散らす隕石の如く天から舞い降り、堂々と神に喧嘩を売った。
———◇———
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお———ッぐは!? イテテテ……あ、夢か」
夢から醒めたと同時に勢いよく体を反り起こした結果、狭い洞穴内で額をぶつけてしまいハッキリ目覚めたゲン。
ヒーローアニメのオープニングに如何にもありそうな夢だと思いながら目を開けようとするが、片方の目が
無理に動かそうとすると三本の傷による瘡蓋から血が噴き出すかもしれない。
「あ〜、もしかして
穴から這い出るなりゲンは「ハジメ!」と声を荒げる。少しすれば経てば戻ってくるかもしれない、なんてことは考えない。
そこら辺にあった長い岩を拾い上げると、松葉杖代わりに歩き出す。左足も足首から先がないため断面の肉がゴツゴツした石の地面に擦り、なかなか歩き辛い。
それでもハジメを探さないという選択肢をせず、必死そうに歩きながら辺りを見渡しまくる。
「うわぁあああああああああ!!? またもやハジメたんと逸れたなんて、うわぁああああああああああああ!! 寂しいぃよおおおああああああああああああああああ!!! ハジメやーーーい! 我が愛しき妹は何処へ———」
そんな彼が最初に目にしたのは………
『キュ? (訳:ん?)』
「ん? あ…………」
……どこかで、見覚えのある蹴りウサギだった。と言うか間違いなく、あの蹴り兎詐欺だ。
まるで元恋人同士がそれぞれ今の恋人を連れ偶然に再会したような気不味い空気が流れ始め、暫し硬直し合う一人と一匹。
やがて………
『キュキュ、キュウッ!!!
(訳:脱兎の如く、逃げるッ!!!)』
「畜生もの凄く残念だ愛妹ハジメじゃなかったけど早速見つけた待ちやがれド腐れウサ公がぁああああああああああああッーーーーーーー!!!」
文字通り逃げ出す蹴りウサギと、松葉杖代わりの岩を放り捨て鬼の形相を浮かべて追いかけ回すゲン。片腕片足でどうやって陸上ランナー並みの脚力を出せるのか不明だが、気力と根性による賜物ということにしておこう。
ゲンが走り去った後、その穴からゲンが流した血の臭いが充満し、二尾狼など鼻が利く血に飢えた魔物達を呼び覚ます。二尾狼を筆頭に、血の臭いが漂う穴に爪や牙を突っ込むと壁を削り始める。その先にある食料らしきものを探し当てる目的だ。
『グルルルルルルッッ……!!』
『グォ!? ギャンッ!?』
だが、それが二尾狼達にとって命取りとも言えた。
血の臭いに酔いしれ気付かぬうちに背後から最上の魔物、爪熊が迫ってきたからだ。しかも間の悪いことに、何処かの誰かに骨ごと鼻を蹴り折られた爪熊はこれ以上にない憤怒を露わにし、眼に映るものを手当たり次第に殴り、斬り刻み、殺してきた。
八つ当たりされた二尾狼達の群れは粉々にされ、骨も残らぬ死骸と成り果て、その場を残酷な血の
穴から血に混じって人間とウサギの足跡があることに爪熊は気付き、嗅いだ覚えのある臭いを辿って二本足で歩き出す。明確な怒りと殺意を胸に抱きながら。
———◇———
「うぉおおおおおおおお! お前には狼共を押し付けられた恨みがあるんだ、絶対ぇ逃さねえぞ!! そのウサミミをプロペラみたいに回して空中へ逃げようとしても無駄だからなーーーーー!?」
『キュー!? キュキィウウイ、キュイーー!! キューキュ! キュキュキーイキュキュ!?
(訳:ええッ!? ボクがそんなことできると思っていたの、恐ッこの人!! つーか“ぷろぺら”って何?! 人間界で流行っているアクセサリー!? 人間の世界超恐ええええええええええッ!!)』
この世界における人間界の名誉のために言っておこう、そんなものは断じて存在しない。少なくとも、この世界に人々を恐怖に陥れるプロペラなんてない………はず。
追いかけ回し、洞穴に刷り込まれ、地面ごと穴を崩落させ掘り起こし、時には見失いかけ、魔物特有の紅い眼ですぐ見破り……悪戦苦闘すること約三十分。
スライディングをしながら伸ばされたゲンの右腕は、地面をひたすら跳ねて逃げ回る蹴りウサギの胴体をようやく捕らえる。
「よっしゃ捕まえた!! さぁ、どう料理してくれようか糞兎ィ!?」
『キュキュ、キュキュウキュィッ!? キュキュキュ! キュ……キュキュキュ! キューキュキュキュゥウウウウウウ!!
(訳:ちょちょちょ、待ちたまえキミィッ!? お互いに無事だったのだから結果良ければ全て良しとしようじゃないか! あの……ホントすいませんでした! 舎弟にも奴隷にも何にでもなりますから、どうか命だけはぁああああああああ!!)』
「よーし、決まったぞ! お前に下す罰は、お前をウサギと認定させる唯一チャームポイントのウサミミを引き千切って顔を丸くさせる刑だ!! ド○えもんのように白っぽい小汚い狸と永遠に間違われるが良いさァ!! ひゃーひゃっひゃっひゃっひゃーーーー!!」
『キューーーーーー、キュキュ〜!! キュィイキュイ! ッキュキュキュきゅうキュキュウキュウ!! キュキュんキュキュウ!?
(訳:イヤァアアアアアアア、ボクのラブリーポイントが消えちゃう〜!! ボクのアイデンティティがマイナスになっちゃうよ!! それだけはご勘弁を! って言うかどんな罰だよオイ!! ドラ○もんって誰!?)』
『グルゥウウウッ……!!』
「んげぇッ!? ………あれ? このパターン前にも味わったような」
『キュ、キュキュ……
(訳;あ、これがデジャヴ現象ってやつか……)』
少しは学習しろやバカ共が、と誰もが罵る状況だろう。
バカ騒ぎのせいで二人のやり取りが周囲に響き渡り、呆気なく魔物に発見されてしまう。その魔物は爪熊、よりにもよってゲンによって鼻をへし折られた、あの時に遭遇した爪熊本人と言う最悪の展開である。隠れ家である洞穴に戻るにしても遠すぎるため、辿り着く前に追いつかれて殺されるのは確実だった。
背水の陣に追い込まれたゲンは腹を括って勝負に出ようとする。
「仕方ねえ。お前は下がっていな、蹴りウサ男くん……奈落のクマさんや、再タイマンと洒落込もうぜ」
『キュ? キュキュキューキュキュ? キューキューキュ? キュキュー? キュキュ……
(訳:え、ボクが言うのも何だけど良いの? で、でも相手はボクみたいなウサちゃんや狼とは比べ物にならないよ? 本当にキミだけで大丈夫なの? 後、ボク一応
爪熊は明らかにゲンの命だけを狙っている故、すぐ傍にいる蹴りウサギに眼中になかった。いざとなれば自分だけ逃げられるという、蹴りウサギからすれば不幸中の幸い。
仲間を蹴落として自分だけが生き残り、生存競争を勝ち抜くやり方は何度もしているはずなのに……ゲンを置き去りにすることに、蹴りウサギは何故か躊躇してしまう。二尾狼の群れを押し付けたことに対する罪悪感かもしれない。
「要らねえって言っただろ? お前がいると邪魔になるだけだ。それに、俺は一度奴と対戦している。既にアイツの攻撃は既に見切っているから問題ない。足りない部分は勘と気力で乗り切れるさ! ………多分」
『キュウ!? キューーーーーーーー!!?
(訳:今“多分”って言った!? 最後の一言で全て台無しだーーーーーーーーー!!)』
『グオアアアアアアアアアッ!!』
蹴りウサギの悲鳴染みたツッコミが死闘開始の合図となった。爪熊は雄叫びを上げながら自慢の長さを調節できる鋭い爪を向け突進する。
蹴り兎詐欺ですら目で追うことができない速度で向かった爪の斬撃を、体を少し反らしただけでゲンは紙一重で躱した。
一瞬だけだが、爪熊と蹴りウサギは呆気に取られてしまう。
「へへん、同じ手は二度と喰らわないぜ。ヘイヘ〜イ、お尻ペンペーン!」
例え魔物相手でも一度見た攻撃手段は二度も通じないと言わんばかりに笑みを浮かべながらゲンは煽りまくり、当ててみろと余裕を見せて手招きする始末。
言語は理解できないが、明らかに挑発されたことを理解した爪熊。そこから先は怒り狂った爪熊の猛攻が始まる。
だが、ゲンから言わせれば、やはり知能は獣と言える雑な攻撃手段だった。一撃一撃は強力でまともに受ければミンチにされる威力を有している。爪熊の攻撃手段は素早い動きで相手を翻弄させ両手の長い爪で瞬時に切り刻む、というところだ。言い換えれば単調な攻撃で何の捻りもないとも言える。拳法家に負けない技や小柄ながら機敏な動きを備えた蹴りウサギの方が、ゲンにとっては遥かに手強い。長い爪の軌道が見えなくても、爪熊が次に狙う地点さえ分かれば避け続けば良い。
口では簡単に言えるこの攻撃手段は実際に真似しようと思っても並の人間はできない。それを容易くこなすゲンの喧嘩は元の世界で『色々ヤヴァいシスコン番長』と恐れられている所以の一つだ。
《Rocket》
避けるのも飽きたゲンは攻撃に移行する。爪熊の前で仁王立ちし、懐から取り出したスイッチを握り締める。
チャンスだ! と言わんばかりに爪熊は動きを止めたゲンに爪の斬撃を繰り出しにかかった。蹴りウサギですら目で追いつけない爪熊の瞬発な攻撃を、ゲンは目で追いながら喰われていない右腕でガードする。
爪熊は馬鹿の浅知恵だと何の疑いもせず、容易に腕を斬り落とされ体に大穴を開けて殺す光景を浮かべる。
腕に触れる直前——ガキンッ! と、爪が弾かれた。
何もなかったはず。爪熊が戸惑いながらゲンの腕を見ると、腕の表面に見えない何かの障壁に遮られ、手元で握っている物体が貫くことができない要因だと理解する。
「——そういやお前、ハジメを泣かせたな?」
ゲンが発した言葉が空気を振動させた瞬間、ブワリッ! と爪熊の背中に冷たい風が迸る。無意識に恐怖を感じ取った爪熊は後退りしてしまい、同時に初めて自分の中で生じた感情に戸惑う。
爪熊はこの階層における最強種、支配者と言っても過言でない。二尾狼や蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故にこの階層で爪熊は無敗であり、他の魔物は恐れ慄き自ら遭遇しようとしない。
だからこそ、目の前で信じられないことが起こった。
今、目の前に迫る“これ”は何だ? 己を前にして何故、背を向けない? ここの支配者である己が殺意を露わにしているのに、何故、己自身が恐怖に身を竦ませているのだ?
あの時だって、そこら辺で彷徨いていた
「俺は家族の元に還すって、約束したんだよ。血の繋がってない俺を“息子”と引き取ってくれた両親のためにも俺は、ハジメを無事に送り届ける義務がある……それなのに、お前が俺を殺しかけたお陰でハジメたんに悪影響を与えてしまったら、どうしてくれるんだぁあああああああああ!!?」
『グォオオオオオオオッ!!?』
怒りを乗せた見えない障壁に覆われた拳に、手の骨格ごと自慢の長い爪を粉砕される爪熊。本能で素早く察知し、相手より素早く回避行動に移したはずなのに避けられない。拳が全く見えなかった、階層最強の名を嘲笑うかのように。
「お前のせいで、アホな俺のせいで、ハジメの心に深い傷を負わせるようなことになったら……俺は両親に顔向けできねぇじゃねーかぁああああーーーーー!!!」
『グルォオオオアアアアアアアアアッ!!?』
今度は見えない障壁の
手と肩で荒れ狂う激痛に悶え苦しみ、嫌でも爪熊は両手の爪を動かせなくなったと自覚する。
否! 爪が駄目ならば牙! 怪力! それで確実に殺してやる! と血気にかられ持ち前の大きな体格でゲンを押し潰そうとする。
「それでよぉ、ハジメがショックのあまり白髪に染まって目が充血したかのように紅くなって体型もスリムになってしまえば……可愛さが倍増してモテモテの女子になるじゃねえかーーーーーーーーーーーー!!!」
『グルルゥッッ!? グルァハァッ……!!』
妙に具体的!? という爪熊の
迫ってきた爪熊に迎え打ち、ドゴォ! バゴォッ!! と凶悪な拳を何度も爪熊の体にゲンはぶち込む。鳩尾や内蔵付近に見えない拳がめり込んだ衝撃で全身を支える骨まで砕かれた爪熊は血反吐を漏らし、生まれて初めて地面に膝をついた。
ここでようやく爪熊は自分の認識が間違っていたと気付く。
目の前にいる男は敵だが、敵は敵でも初めて遭遇した
己は“戦う”のではなく“逃げる”べきだった……そんな恥を晒すぐらいなら潔く死を選んだが。
「ふぅ、言いたいこと言ってスッキリした! ……まぁ、俺はお前に腕や足を喰われたことなんて、ちっとも気にしていないさ。どんなに体が辛くても生きていれば良いこともあると言うからな」
片手で爪熊の顔を掴み、頭上へ持ち上げる。自分の倍以上に大きい魔物を軽々と持ち上げる姿は、見た目に反して到底信じられない光景だ。
「だけどな、ハジメのことになれば話は変わる。お前はハジメを喰おうとしたから俺に鼻を折られ、その怒りを俺にぶつけて俺の手足を喰った……そして、お前は最後に俺の怒りを買った。可愛い妹を泣かせた、俺というお兄ちゃんの怒りを、な」
地面に叩きつけた。と同時に容赦なく———首をあられもない方向へ回した。
『グゲぇオ!? ゲ、ルぅウウウ…ル……ゥ………』
爪熊が最期に見たのは何もかも上下逆さまになった光景。
牙の隙間から血の泡を吐き出し、か細い唸り声を上げた爪熊は最期の瞬間までゲンから視線を逸らそうとせず真っ正面から向かう姿勢のまま絶命した。
腕や足を喰われた怪物を倒した爽快感はなかったが、生き物を殺してしまった虚しさも感じなかった。
もしかしたらゲンと爪熊は、互いに敬意を払っていたのかもしれない。この地獄とも言える奈落の底で、“生存”という権利を獲得するための激闘をすることに。
「お前も生きるためだったんだろう。悪気なんてなかった……でも悪いな。俺は約束したんだ、ハジメと一緒に家に帰るって」
改めて心と向き合い、ゲンは先へ進む決意を新たにする。
その一部始終を、ずっと後方で蹴りウサギは両眼を見開きながら観戦していた。
『キュ、キュ………ッ!?
(訳:す、すごいッ。あの爪熊を倒す人がいるなんてッ………ッ!?)』
信じられないと言う仕草をしている……と、何か乗り移ったように体がフラつき始める。
『———ここはよく頑張ったと、労いの言葉をかけるべきかな?』
「? だ、誰だ!」
性別不明の声が木霊した。
声の発生源はそう遠くない、すぐ近くだ。というか蹴りウサギからだった。
「って、またお前かよ、蹴りウサ公。人の言葉が話せるなら最初から話せば良いのに……んん? お前はさっきのウサ公じゃねえな?」
見た目は何も変換していない憎らしいほど可愛い姿だが、ウサギから発せられる雰囲気で察したゲン。
『警戒するのも無理はないだろう、だが落ち着いて聞いて欲しい。私は君の味方だ、南雲ゲンくん』
「どこの誰だって聞いているんだ! しかも何で俺の名前を知っている!? どうして——」
『君がステータスプレートを落としたから少し拝見させてもらっただけだ。人間の世界では身分を証明するのに大切なものなのだろう? 子供じゃないのだから失くさないように』
「あ……これはどうも、すいません」
いつの間にか失くしていた落とし物を返され、更には幼児みたいに注意されたゲンは勢いを失いヘコヘコ頭を下げる。客観的に見れば、男が小さなウサギに頭を下げている情けない絵面に映る。実際、拾ってくれたのは今現在乗っ取られている蹴り兎詐欺なのだが。
『まずは自己紹介から行こう。如何にも、私はこのウサギ魔物の体を借りて通話している。ここより離れたところに私がいるのだが、その私も世を忍ばすための仮の姿、分身体に過ぎない。そうだな……私のことは“サクヤさん”と呼んでくれ』
「えッ? その名前、何か意味が——」
『特にない。気にしないでくれたまえ。
「あ、ハイ。スンマセン」
小さな図体から何か圧を感じたゲンは押し黙られてしまい、口に出そうだった質問を一気に喉の奥に押し込める。
『さて、用件に入るとしよう。この階層のボスである爪熊を倒した君に、改めて称賛の言葉を送ろう……よく頑張ったね』
「ど、どうも……?」
『褒美として君が望むものを授けよう。今、君が最も望むものは自身の情報ではないかね? 例えば、この迷宮から脱する手段。そして……数時間前に穴蔵から這い出た少女のことを』
「ッ! ハジメを知ってるのか!? それでハジメは無事なのか! いつ! どこに!? どうして!!?」
『少し落ち着きたまえ。ゆっくり答えよう……』
すると物腰の良さそうな蹴りウサギ——サクヤさんはゲンの出す質問に応えてくれる。名前の由来については無言の圧を掛けられ問われなかったので論外。
ハジメは単独で穴の外に出て魔物の肉を摂取したことで外見が豹変しているとのこと。
しかし無事でいることだけは確かだと聞き、ゲンは雄叫びを上げながら歓喜する。尚、その時『
『しかし如何に魔物の力を得たとは言え、この谷底で過去何万人もの強者が命を落とした。生き延びるならまだしも、脱出するとなると君達だけでは心細いだろう……よってこの魔物ウサギの代弁をし、厄介な天敵を倒してくれた君に報酬として、私からこれを授けよう』
ウサギ特有の可愛らしい手(と言うか前足)で操作し始める。何もない空間に魔法陣みたいなものを浮かび上がらせると手(何度も言うが前足)を突っ込む。
国民的人気の何某猫型ロボットがポケットから便利道具を出すような仕草で、魔法陣から取り出した物体をゲンに手渡す。
「……………何すかコレ?」
渡されたものは錆びついた物体。両拳を足したぐらいの大きさ。四つのソケット差し込み口のような箇所があり、レバーのような部品が真横に突き刺さっているように装飾されている。一見ベルトにも見えなくないものだった。
『それ単体では何の価値も示さない。だが、そのバックルを腰に装着したまえ。ズボンのポケットにある“鍵”に加え、君が備えている卓越した勇気と気力があれば……君は神に喧嘩を売ることができる絶大な力を手にすることができるだろう』
「は、はぁ……そっすか……」
勇者気取りのクラスメイトと違い、絶大な力という類には興味を示さないゲンだが、貰えるものはキッチリ貰っておこうと手離そうとしない。
『その力は選ばれた者にしか扱うことができない、この世界を救う鍵なのだ。だから渡す前に、君に確認したい。その力を手に入れた時、君は世界を救うと約束を……』
「え? ヤだよメンド臭いし」
『うむ、そうか。では君に…………は?』
食い気味で断るゲンに大人っぽい雰囲気を出す蹴りウサギの中の人も戸惑いを隠せなかった。
「何で見ず知らずの魔物に変な物体を押し付けられた挙句、世界を救うと約束されなきゃいけないんだ? そのせいで俺達こんな死にかけた状態になったんだから、もう懲り懲りだしな」
『………』
否応なく、自分正直に
しかし、下手に嘘を吐いても、どのみち意味がないと考えたゲンはそのまま想いをぶつける。
「それにな、俺は世界を守ることに興味はない! 俺が守りたいものはハジメだ! ハジメを最初に、家族、友達……そんな身近な人を守りたいんだ! だって皆が生きていることが、俺にとってのかけがえのない世界だからな!!」
『………世界よりも家族、友を優先する、か。“彼”と同じ言葉を口にするのだな』
ウサギの顔だが、ゲンには穏やかに微笑んでいるように見えた。どうやら力を受け取るに値する人間かどうか試したようだが、問題なかったようだ。
『君の言う通りだ。見ず知らずの私が、今日会ったばかりの君に世界の命運を託すなど、勝手過ぎるな。では言い換えよう……無償で受け取ってくれ。そして君の好きなように使ってほしい。それは私にとって希望の象徴であり、君のような少年が使ってこそ価値が上がる』
サクヤさんに『腰に嵌めてみたまえ』と言われ、不良品ではないかと疑いながらも腰に当ててみる。
腰に物体が触れた瞬間、物体は内側から光を漏らし錆が剥がれ落ち、中からクリアパーツに輝くベルトが姿を現した。
ポケットから熱を感じ取り、手を突っ込んで取り出すと入れておいたオレンジ色のスイッチが共鳴を上げるように発光している。
「……よし、やってみるか!」
《Rocket》
四つの挿入口のうち一番の右端にスイッチを差し込むと音声が鳴り響いた。
好奇心旺盛な子供と同じ心境になったゲンは挿入口の手前にある赤いスイッチを次々とオンにする。
《3!》《2!》《1!》
「——変身!! ……って、口から勝手に?」
カウントダウンが鳴り終わると虚空からフラフープ状の機械が煙を上げながら現出し、ゲンの体は機械仕掛けの輪に包まれる。
「うぉおおおおおおっ! 何これ何だこれ!? 宇宙服っぽい!」
煙が晴れると、自分の体が白い全身スーツに包まれていると気づく。頭頂が尖ったロケットのような
左腕や右足の先が喰われて欠如しているというのに、生え変わったように四肢もちゃんとある。
「うぉおおおおおおおお! やったーー! 手が、足が、ちゃんとある! いやっふぅううううううう!! 宇宙来た来た来たーーー!!」
松葉杖なしでも走れることに加え特撮好きが夢に見た変身にゲンは興奮を隠しきれなかった。
『喜んでいるところ悪いが、その手足は模造品に過ぎず、その姿の時しか生えない』
「いやいや、これで十分っすよ! それにこの姿、よくよく見るとイカすデザインだぜ……これでハジメをメロメロにできるかな? いや、この姿がカッコ良すぎて逆に俺だと認識してくれないかも? いや、しかしこの姿をハジメに見せたいが……いやでも……ああ、ハジメたん! お兄ちゃんがカッコ良くなり過ぎたからと言って、そんな目しちゃダ・メ・だ・ぜ?」
『——
「あ、ハイ、スンマセン。黙ります」
ブツブツ自分の世界に突入したことで話が脱線したが、サクヤさんが無言の圧をかけたことでビビったゲンが正気に戻った末、正座をして話は元に戻る。
『んんっ! ……たった今から、君は——“フォーゼ”——二代目と名乗ってくれて構わない。君のように何処までも真っ直ぐな少年の手に渡れば、彼等もきっと喜ぶだろう』
「ふぉー、ぜ? ……その彼等って?」
『……会えば分かる。この迷宮の最下層に行くと良い、そこに君達が求める情報や手段があるはずだ』
「あ、ちょっとまだ聞きたいことがッ……!」
『私も時間が惜しイ、話は以上だ…後は君達ノ行動次第…生きルも死ヌも……運命ハ君達が切り開くノダ……少年少女ヨ、輝け……幸運ヲ……祈ッテ………ル…………』
意味深なことを最後まで言い終えると、充電が切れた電動人形のように首がカクンと下がる。
『キュー? キュキュー?? キュキュ!? キューキュー!?
(訳:あれー? ボクはさっき何を?? って、うわッ!? 熊がいなくなったと思ったら今度はイカみたいな怪人がいる!?)』
「あ、元のウサ公に戻った。俺だよ俺、誰がイカ怪人やねん」
正気に戻った蹴りウサギに経緯を説明するゲン。蹴りウサギは「何言ってんだ、この人?」と疑っていたが、目の前の変な格好を見せられたのでは信じるしかなかった。
『きゅ〜ん……キュキュ、キューキュキュー。きゅ〜♪
(訳:う〜ん……なんだか分からないけど、爪熊もいなくなったことだしボクは帰るよー。じゃ〜ね〜♪)』
「おお、達者でな〜」
爪熊という共通の敵がいなくなった今、二人(一人と一匹)が激突する理由など互いにない。それぞれ帰る場所があるのだ、それぞれの道を信じ健闘し合いながら己が道を進もう。
ゲンは晴れ晴れとした気分で手を振りながら蹴りウサギを見送る。
すれ違い、衝突、逃走、そして報復があったにせよ、共に苦難を乗り越えた友なのだ……………ん? 報復?
「………ああッ!? 色々あってすっかり忘れてたけど、あの糞ウサギにお仕置きするんだった!! っていうか、またしても逃げられたーーーーー!!?」
そう気づくも、既に蹴りウサ公はトンズラしていた。
後に蹴りウサ公はこう語る。
『キューキュキュキュぅ、きゅきゅーキュッッキュキュきゅう。
(訳:あの男はこの奈落である意味メッチャ危険生物だが、とてつもなくバカで助かりました)』と。
———◇———
「………ということがあって、この姿のまま戻ってきたら今に至るというわけだ」
ゲンがこうなった経緯を最初から最後まで聞いたハジメだったが、途中から思考が追いつくことができなかった。
今のハジメでも苦戦するだろう爪熊をたった一人で倒したこと、付き添いの蹴りウサギに憑依した“サクヤさん”と名乗る謎の人物、最も謎に満ちている『フォーゼ』というシステムについて……など、いっぺんに説明されると常人なら理解に苦しむ膨大な情報量。しかし変わらずゲンのバカさ加減に呆れてしまいハジメはそれどころじゃなかった。
一通りのことを話し終えたゲンは、改めてハジメと感動の再会を果たそうと男泣きしながら駆け出す。
「とにかく、ハジメちゃんが無事で何よりだよぉおおおおおおお!! ハジメちゃーーーーーん!! 心細くて傷ついたお兄ちゃんの
「———近寄らないでッ!!」
悲鳴を上げるような声を張り上げて背を見せる。
その悲痛そうな様子に流石のゲンも「ハジ、メ……?」と戸惑い動きを止めた。
「……私はもう、以前の私じゃない……私は生きるために魔物を殺した! 魔物の肉を食った! 魔物の肉を食べて体も化け物染みた! 私はもう、あんたの知る南雲ハジメじゃないの!!」
改めて守りたい人の無事を確認して、急にハジメは怖くなった。
この男に、長年連れ添った家族に、この世界で唯一の味方に拒絶されるのが怖かった。割り切ろうとしても「妹じゃない」と否定されることが、とても怖い。
いっそのこと、最初から自分から拒絶すれば良いと考え出した。
「……ハジメ、俺はな——」
「もう私はあんたのこと“お兄ちゃん”なんて言わないから! もう昔の軟弱な私じゃないから!」
「ハジメ、俺の話を——」
「たった今から私が全部決める! もう、あんたみたいなトラブルを引き起こすだけの疫病神に任せられない! 兄貴なんて大っ嫌いだからっ!!」
「ハジメ、だから俺の——」
「で、でも、ちゃんと元の世界に戻れるよう私が何とかするから……! だから、もうあんたは……兄貴は何もしないで! 私なんかのために死にかけないでよ!! 私が、私が頑張れば良いだけだから——」
「ハジメ、俺の顔を見ろ」
名前を呼ばれただけなのに、何かを語りかけるように聞こえる。大丈夫だよ、と不安を解消させるように。
振り向くと変身を解いたゲンの姿があった。血はとっくに止まっているが、やはり片目の傷跡や片腕片足の欠如が痛々しい。
だが、それらを不幸なんて微塵も思ってないような晴れ晴れとした笑みを浮かべている。
「魔物を食ったから何だ? 体が変わったからどうした? 性格も変わったからって、それがどうした? ……根っこは変わってない。ハジメはハジメ、俺の可愛い自慢の妹さ」
ゲンは今のハジメを否定することは一切しない。並べられた言葉にハジメは困惑するだけだった。
「俺のことは“お兄ちゃん”でも“兄貴”でも、呼びたい方で呼んでくれ。この世界でハジメがしたいことがあるなら、俺は喜んで後押しするさ……でも、俺の前で無理だけはしないでくれよ。俺が悲しくなるから」
「あ……」
気づかされた。どんなに容姿が変わっても、どれほど人から軽蔑されることを犯しても、ゲンは“兄”として“妹”を肯定してくれる。変わらず可愛い妹と言ってくれるのだ。
抱き着く衝動に駆られるハジメだったが、ゲンの方が限界だったらしく我慢が効かなくなって一直線に走った。
眼前まで迫ると抱き締められ、ハジメの顔はゲンの胸に押し付けられる。宝物を手放さないように、ゲンは優しくハジメを抱擁した。
「ゴメンな、心配かけるバカ兄貴で。でも良かった、無事で良かったっ……生きてくれて、ありがとう!」
「……心配ばっか、掛けないでよぉっ……バカっ……バカ兄貴ぃ……兄貴のバカぁあっ……!!」
生存し再会を果たせた喜びを分かち合いながら、兄妹は涙を絶えず流し抱き締める。
悲しくて、一方的な兄妹喧嘩はこれにて終了。家族の再会を祝福してくれるかのように、優しくて甘い時間が暫しの間、奈落の底で流れる。
「はい、これ兄貴のご飯だから」
「おぉ、これが魔物の肉か……!」
腹が減っては戦ができぬ、昔から伝えられた言葉に便乗し食事にありつくことにした南雲兄妹。
食事……言わずとも分かるが魔物の肉である。赤黒い繊維ばかりが併走しているグロい新鮮な生肉、とても食欲がそそられる見た目ではない。
ゲンは見た目より新発見に期待し、新しい玩具を見つめる少年のような顔で眺めていた。
後から壮絶な激痛が襲ってくるのを知っているハジメは神水の補給を忘れず、何も知らないゲンを微笑ましそうに見る。
「元の世界でも叶わなかった俺の願いの一つが、遂に実現できた……
………良かったね、夢が叶って。
お手製っていうか、狩ってきたものを捌いただけの生肉だけどね。
しかし、やはり嬉しさより生肉のゲロ不味さが勝っているのか、ハイテンションだったゲンの顔色が肉を咀嚼する度に悪くなっていく。途中でゴリィッ! とかバリンッ! などの食事する音ではないものまでゲンの口元から聞こえた。
プルプル震えながら大量の汗を流しつつも、兄の意地にかけて
「ん? ……おごぉッ!? な、なんだ!? 急に、体がッ!?」
「来たッ……兄貴! 神水を飲んで!」
やはり例外なく、魔物の肉を食することで体に異変が生じ始めた。体全体が激しく脈を打ち、全身の節々から骨同士を擦るような不快な音が耳を打つ。
すかさずハジメは用意した神水の入った容器を手渡しゲンに飲ませる。
死よりも辛い経験を、これ以上ゲンにさせたくなかったが、生きるためには魔物の肉だろうと何かを食わねばならない。ハジメは悔しさを隠し、ゲンが痛みの嵐を越えられるための助手に専念する。
「ぐうぅッ……おおッ!? おぉあああ!! ……ぐぉおおおあああああああああああああああああああああああああああッ!!!?」
神水の効果で気絶もできず、絶大な治癒能力でモロに痛みを味わうゲン。至るところに骨が擦れる音や脈の鼓動が聞こえ、最後の力を振り絞るかのようにゲンの唸り声が奈落の底に響き渡る。
「…………ふ〜、お腹痛かった」
次に用意した神水が入った容器を落としそうになったハジメ。
痛みが治ったのか「さてと、腹も減ったし残りを食うか。うむ! 味はともかく、一度食うと病みつきになるな!」と急にモリモリ食べるゲン。味への耐性も付いたようだ。
ハジメの時は骨格ごと変わり髪の色素が消え失せたのだが、ゲンの体には何の変化も現れず魔物の肉を食べても変化しない。つまり、元々ゲンの肉体は魔物の毒素にもビクともしない頑丈な構造であることを示す。
(うん。まぁ知っていたけど……兄貴、絶対に人間じゃない……)
我が義兄ながら、クラスメイトの誰よりも
初めてみました! ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)の劇場……略して『ありフォー劇場』!!
本編で語れなかったことや、語りたくても入る余地がなかった小話などをメインにした、所謂アレです。
気紛れで作ったものなので今後、続くかは分かりません。急に止めてしまうなんてこともあり得ますので、そこはご了承ください。