ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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お・ま・た・せ・しましたぁー!!
試験や実習で書く時間を確保できない毎日でした(泣)

久しぶりの執筆、不安だらけですが、よろしければ楽しんでください!


13.封・印・少・女!!

奈落の底にて、南雲兄妹の再会を果たしてから数日経過しようとしていた。

上へと続く道を探していたが、上に行こうとすればするほど下へ向かってしまうほど複雑な道に悪戦苦闘を強いられる。

その過程で空腹を満たすため魔物の肉を食べ続けたハジメのステータスは驚異的な発展を遂げ、その魔物が保有していた技能や固有魔法を取り込み続け糧にしていく。

道中で見つけた燃焼石、タウル鉱石などの鉱石を集めたハジメは『ドンナー』と命名した小型レールガンを錬成するに至った。

一方、ゲンの方はと言うと………

 

「ブースター・キッーーーーク!!」

「全・力・パーーーンチ!!!」

「海老沿いしながらの、へ〜〜〜ん・しん!!」

 

アホなことをやらないと落ち着かない体質なのか、特撮系ヒーローの如く変身したことに興奮しているのか、フォーゼの姿に変身した状態で馬鹿みたいに調子に乗っている。

シャトルロケットと宇宙服を合わせたような悪ふざけで考えたみたいなデザインの姿だが、瞬時にゲンの欠如した手足を復元し不自由にさせず、背中のブースターを噴出して跳躍力を数倍に上げ、頭突きすれば超硬質鉱物に亀裂を入れられる耐久性や近接格闘に優れた能力などを有している高機能(ハイスペック)スーツだ。

ハジメが精密検査をする過程で、全身を特殊スーツで覆うというより“ある未知のエネルギー”が内側から肉体を強化している。

スーツ自体は開発者の技量に関心を覚えるほどの優秀な性能であるが、ただ何度も言うように、ゲンの奇怪な仕草や言動がそれらを台無しにさせているのだ。

因みに、現在の二人のステータスは以下の通りである。

 



 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:45

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

 



 

四十五階層に到達したハジメのステータスである。あんなに訓練しても上がらなかったレベルが容易くクラスメイトはおろか騎士団を越え、技能の項目が増えまくっている。

他者から見れば異常だと騒ぎ立てるだろうが、()()()()()()()()()()。問題はこっちである。

 



 

南雲ゲン 17歳 男 レベル:コズミック!!

天職:宇宙戦士(フォーゼ)!!

筋力:来た来た来たーーーーー!!

体力:頑張るぞーーーーーー!!

耐性:やってやるぞーーーーー!!

敏捷:気合いじゃーーーーーーーー!!

魔力:こちとら金欠なんじゃーーーーーーーい!!

魔耐:でも、生きてまーーーーーーーーす!!

技能:スイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチオンオフオンオフオンオフオン!!!

 



 

……“ステータス”って何だっけ? と、これを見た誰もが自問自答になる要素しかない。

変身する際、ハジメですら解析不能な未知のエネルギーが身体の表面を纏うのだが、自分のステータスを見たゲンはレベルの欄に記されている“コズミック”という単語から「よし! 『コズミックエナジー』と名付けよう!」と相談もなく勝手に決めたのである。一方ハジメも思いつかなかったので、この議題に関しては特に反論もなく終わったのだが。

 

「あぁ〜、何で出口が見つからないのよ。マジふざけんじゃないわよ、クソ迷宮が。いっそのこと迷宮ごと……」

 

「まぁまぁ落ち着きな、ハジメ。頭をスッキリさせるには何か栄養のあるものを食べるのが一番だぜ。ホレ、これでも食べなさい」

 

地上への道が見つからない時間が長引く。苛立ちが募るハジメを、ゲンは嗜めておつまみ代わりにボリボリ貪り食っていたバジリスクの干し肉を差し出す。つい先ほど襲ってきたのだが、逆に返り討ちに遭ってしまい射殺&撲殺され食料にされてしまった。哀れなり、バジリスク。

ただでさえ魔物の肉は舌が壊れるほどゲキマズだというのに、その食べ残しを干し肉にする義兄の味覚にハジメは正気を疑いながら視線を逸らして無言のお断りをする。

ゲン曰く「味は一週間分の生ゴミを煮詰めたような最悪な味だけど、食感はカリカリベーコンにちょっとだけ似ているぞ?」らしい。

 

「あ、そうだ。兄貴、スイッチを渡してくれる?」

 

「ん? 別に良いけど」

 

いつ敵が現れるか分からない奈落の底で変身に必要なキーとも言えるスイッチを譲渡しろという中々の無茶振りだが、何の躊躇もなく渡すゲン。

 

「でも、そんなもの何に使うの?」

 

「んー。ベルトの構造は複雑でこんなところで復元は難しいけど、このスイッチ自体は構造が単純だから錬成して数を増やす……作って欲しいスイッチとか、希望ある?」

 

「あ! だったらドリルが良い! 漢のロマンと言ったらドリルでしょ! あ、言っとくけど工具用のほっっっそいドリルとか、最新の先が尖ってないとかはナシだからね!? 漢のドリルと言えばゲッ○ー2然り、ギガント○リラー然り、俺のドリルは天を突くんだぁああああああああ!! と言えるようなドリルをご所望します!!」

 

うるさい、ウザい、面倒くさい。三種類の苛立ちしか湧かない注文に「はいはい了解」と慣れた感じ受け流すハジメ。

まずロケットスイッチの構造を分析し、仕組みを把握してから全体のイメージを考えて見様見真似で錬成する。

掘削作業や戦闘においてもドリルは効率が悪く、炸裂弾や高速射出のレールガンがあれば十分なのだ。しかしゲンが使用することを視野に入れ、ハジメは本人の希望に合わせる。

近接格闘だけでなく、大型の魔物にも対抗できるような装備を考え、当てずっぽうなゲンに合わせたスイッチを思考していき、最も硬質な鉱石を素材にスイッチの錬成を開始した。

 

「ハジメったら、ちょっと目を離した隙に大きく立派になって、お兄ちゃん感激だよぉ……この感動を父さん達に伝えられないことが残念だけど。あ、目の奥から汗が流れて何も見えねえや。誰かティッシュ持っていない?」

 

集中しているハジメに置き去りにされたゲンは、可愛いハジメの成長に号泣していた。世間一般から見れば喜ばしい成長を遂げたと言えないが、親バカならぬ兄バカ(シスコン)からすれば嬉しいに違いないのだろう。最も、ハジメが錬成して何かを試作する度に、こんなやり取りが何回もあったため、最初は照れ臭さがあったハジメもスルースキルを覚えたようだ。

しかし、感動ばかりしていては頑張っているハジメに何の貢献もできない! 仕組みや単語は珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)だが、ここは兄貴として助言や意見を挟んでおこう! ……とハジメからすれば、ありがた迷惑しかない精神を奮起する。

頼れる兄貴に、俺はなる!! と希望の一歩を踏み出したところで………地面がボコッ、と音を立てて少し揺れた。

 

「ん? “ボコッ”?」

 

ズモモモッ……と地面に足が呑まれていく。

 

「…………な、な〜んか嫌な予感。今時、落とし穴なんて古典的なトラップ……ないよね?」

 

大正解。次の瞬間、ゲンの足元がなくなった。

 

「ちょ待っ———」

 

一瞬で姿を消してしまうゲン。人ぐらいある大きな穴は音を立てずに静かに埋もれていく。

 

「ふぅ、終わった……兄貴、取り敢えず幾つか錬成したわ。試作機としてスイッチを使って………兄貴?」

 

青・黄・黒の三つのスイッチを作り終え、試作機のテストをしてほしいと振り返るが、そこには誰もいなかった。

 

「………また、すぐ消えた……」

 

またもや、一人置いて行かれたことを自覚するハジメ。

 

「……どうして私が目を離した隙にいなくなるの?」

 

一人にされたと自覚し、ハジメの両肩がみるみる震え出し、

 

「……どうして私の近くでじっとしてくれないの?」

 

試作スイッチを握り締めながら、ダース○イダーも真っ青になるほど暗黒面に突入可能なドス黒い瘴気を全身に纏わせ、

 

「勝手にいなくならないように監禁しないとダメなの? 私だけしか見えなくなるように調教しなきゃダメなの? ねえ、バカ兄貴? 答えてよ、バカ兄貴? ……兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴——」

 

ホントに…………ほんのちょっっっっっっっっとだけ、病み始める。

 

 

 

 

———◇———

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!! なぁああああぜぇえええええええええええええええええぎゃッ!? ぎょッ?! げぼッ! ちょ!? まッ!! ごべェッ!?」

 

ゲンの身体は重力と共にスイッチで開いた大きな落とし穴へ、ズザァアアアアアアアアアアアッ!! と勢いづけながら落ちていく。落とし穴は下へ落下するだけでなく右、左、上、下と様々な方面に落下し続けるため、方向が転換される度に岩にぶつかって、ちょっとした呻き声を上げる。まるで外国のアニメーションのような実に面白い落ち方だ。

 

「——ぁあああああああああああ、そげふッ!?」

 

ようやく落とし穴が終着点を迎え、落下から解放されるが、その代償は地面との激突だった。しかも顔面。衝突の際、首からグキッ! と変な音が鳴った気がした。普通ならその時点で即死である。

 

「うぼぇええええ……せ、世界が回ってるぜぇ……」

 

しかし当の本人は外傷に目立った様子はなく、寧ろ落下しながら転げ回ったせいでリバースしそうになるのを抑えるのに必死である。

落下したことで発生した大量の砂埃をかきわけながら落ちたところを見渡す。そこは光が一つもない暗闇が広がっている空間のようだ。天井から落ちてきたゲンの穴から光が差し込まれ、部屋の全容が照らされて明らかになった。

中は教会の大聖堂で見た大理石のような艶やかな石で出来ていて、灯台を彷彿とさせる何本もの太い柱が規則正しく奥まで並んでいる。

大きく古びた扉があったので、そこから出ようと手をかけようとした時。

 

 

 

「———だれ?」

 

掠れた女の子の弱々しい声が、ゲンの鼓膜を叩く。

慌てて声がした部屋の中央付近を振り向くと、そこには巨大な立方体の石が置いており、光に反射して滑らかな光沢を放っている。如何にも怪しそうな、この奈落の底で明らかにヤバそうな奴を閉じ込めているようなものだ。

 

「え? ………女の子、か?」

 

何より驚いたことが、石から手足が生えていたことだ。

首から下と両手を立方体の中に埋もれたまま顔だけが剥き出しで、オカルト映画に登場する女幽霊を彷彿とする長い金髪が垂れ下がっている。その髪の隙間から月を連想させる紅色の瞳がこちらを除いていた。

外見年齢は十二、三歳ぐらいの、絶世の美少女……それが部屋に差し込まれた光で暴かれた声の正体だった。

天井から誰かが現れたことに紅の瞳の女の子は予想外だったらしく、呆然としたままゲンを見つめている。やがて、ゲンは少女の容態を見つめて……ある結論に至った。

 

「…………あ、“お楽しみ”の途中でした? すいませんね、勝手に押しかけて」

 

立方体型“大人のプール”に浸って堪能している途中、自分(ゲン)が乱入してしまった……という結論に至ったらしい。立方体の石がピンク色で、大人の紳士が通いそうなアレの色に似ているから、そう判断した……馬鹿(ゲン)は思考回路が狂っているのだ。

“お楽しみ”の邪魔する訳にはいかないと思ったゲンは、また日を改めて出直そうと帰ろうとする。

 

「ま、待って……! お願いッ……助けて……!」

 

「なるほどなるほど、そういう設定でプレイを堪能しているんすね。まぁ趣味は人それぞれですから。でもワタクシそういう趣味ないので、お邪魔しますた〜」

 

立ち去ろうとするゲンを、少女は慌てて引き止める。何年も声を出していなかったため掠れていた声だったが、勘違い阿保(ゲン)はそういう設定だと勘違いがヒートアップし、尚も立ち去ろうとする。

少女を気遣ったゲンなりの厚意だったが、少女からすれば見捨てられると思ったらしく必死に呼び止める。

 

「待って……! 私………裏切られただけ!」

 

「いやね、だから俺はそんな趣味はないって…………“裏切られた”?」

 

その単語を不審に思い、踵を返したゲンは怪訝な面持ちになりながら少女の顔を再度見る。よくよく観察すると、少女の綺麗な金髪の髪質がボソボソになって薄汚れている。以前はもっと美しかったのだろうが、肌荒れや痩せこけた頬から随分やつれているのが窺える。

 

(……あ、違うわコレ。封印的なアレだわ、コレ)

 

ようやくここで少女は好きでこんなことをしているのではなく、況してやSMプレイでないことに気付いた。もっと早い段階で気付けや。

ゲンは内心で「うわぁ、やっちまったなー。メッチャ恥っずかしぃ~」と呟きながら少女が埋もれている立方体の方へ近づく。

 

「“裏切られた”って何で? それが、お前がここにいる理由になるのか? 裏切った奴は、どうしてここに封印を? ……もし良かったら、お兄さんに話してみ」

 

先程と態度が百八十度変わって気前の良い兄貴キャラを装いながら少女の眼前に腰掛ける。彼の中には少女に対して『警戒』という文字がないようだ。

本当に戻ってくれると思ってなかったようで、少女は半ば呆然としている。

何も答えない様子にゲンは「おーい、大丈夫? 話したくないなら、また後でここに来るけど?」と気遣った様子で部屋を退出しそうになる。それに少女は我を取り戻し、慌てた口調で封印された経緯を話し始める。

 

「わ、私、先祖返りの吸血鬼……すごい力を持ってる……だから私、国のために頑張った……でも、ある日……家臣の皆が……お前はもう必要ない、って……おじ様……これから自分が王だって……私……それでも良かった……でも、私、すごい力があるから危険だって……でも殺せないから……封印するって……」

 

枯れた喉で懸命に語る少女。ここで嘘をつけば二度と外に出られないと思い、少女は包み隠さず全て話した。

相槌を打ちつつ話を聞きながら、あらゆるジャンルの漫画やゲームに精通しているゲンは納得する。

 

「ん? 待てよ。今の状態で封印されたということは……性欲に染まり切った野郎共が束になって下着も何もかも剥がし素っ裸にさせたということに? そして幼気な少女があられもない姿で手足を固定され、顔が赤面に染まりながら、しかし秘部を隠せず、喘ぎ声を漏らしながら抵抗もできずに乙女の花園を食い散ら——」

 

Warning! Warning! Warning! Waaaaaaaaaaaaaning!!

これ以上はR18規定になるので作者の権限で無理矢理止めさせてもらう! 少女の名誉のために言っておくが正真正銘生粋の“ゔぁーじん”だ!

……話は大分反れてしまったが、ちょいちょい気になる単語があったゲンは、その部分も尋ねる。

 

「その話が本当なら、どっかの国の王女様だったのか……で、その殺せないって何? 吸血鬼の能力的な何か?」

 

「……勝手に治る。怪我してもすぐ治る。首を落とされてもその内治る」

 

「ワオ、それはスゲェ……でも不死というだけで驚異とみなされるものかね。他にもあるのか?」

 

「うん……他にも、魔力、操れる……陣もいらない」

 

それを聞きゲンは「なるほど、パネェな」と一人納得する。この女の子のように魔法適性があれば詠唱や魔法陣を準備する必要もないので、速攻で魔法をバカスカ撃てるだろう。しかも不死身。仮に後者の能力(ふじみ)が絶対的なものでないとしても、少なくともクラスメイトの勇者達すら凌駕するほどの規格外(チート)を発揮するに違いない。

 

「……たすけて………」

 

暗闇の底に何年も閉じ込められ絶望と孤独を味わい続けた。それが今、一本だけ垂らされた蜘蛛の糸が、奇跡が目の前に。

このチャンスを逃さないという感じで少女は必死に懇願する。もう独りになりたくない、と紅の瞳が訴えかけていた。

 

「う〜ん、しかし今は片腕と片足が失って、俺も助けてほしい立場だしなぁ〜……どうしたものか」

 

せめてバックルやスイッチがあれば、と呟く。片腕を組みながら黙って聞いていたゲン。その表情は家出娘と目が合ってしまったような困り果てた顔になっており、見捨てられるのではないかと少女は緊張で心臓が張り裂けそうになる。

唐突にゲンは「お……!」何かを見つけたような顔になると踵を返して少女から離れる。

 

「ま、待ってッ……! 私、何もしてないの……! お願いだからッ……!!」

 

最後に「うッ」と声を出し、言葉ではなく何度も繰り返される咳を上げてしまう少女。久しぶりに声を出したことにより、枯れたのではないかと思われた唾液が分泌されて、咳とともに地面に垂れ落ちていく。

 

「お願、い……もう、ひとりぼっちは、いやぁ……お願い………!!」

 

既に、そこに少年の姿はなかった。

もう終わりだ……

悲観に暮れている少女の耳に、ズズズ……と重い音が聞こえてくる。そして、少女の瞳に再び光が差し込んだ。

 

「ぁ………」

 

眩い光と共にゲンが入ってきたのだ。その手元には大きな棒状の岩が握られ、引き摺りながら地面に線を描く。

ゲンは見捨てたわけじゃなかった。

涙目になっている少女を目にしたゲンは驚きながら謝る。

 

「あれ、勘違いさせちゃった? ゴメンゴメン! 丁度良さそうな武器が見つかったから拾いに行っていたんだ。お詫びと言っちゃアレだけど、何とか出してやるよ。その代わり条件があるけど」

 

「……………う、ん。何でも、聞く」

 

「ここに俺の妹もいるんだ。さっきまで一緒にいたんだけど逸れちゃって。まだ奈落から脱出してないと思うが、一緒に探してほしい」

 

少女はゲンの意図に気づき、何度も顔を縦に振る。交渉成立だ。

 

「言っとくけど俺は力任せしかできないぞ? 怪我しても責めるんじゃねえぞ?」

 

「……うん、大丈夫。私は怪我してもすぐ治る」

 

「上等! ———ドリャァアアアアアアアアアアアアッ!! 割れろぉおおお!! 壊れろぉおおおおお!!! 砕け散れええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

ス○ープラ○ナ顔負けの速度で、立方体に少しでも亀裂を入れようと棒状の岩を何度も叩き込む。途中から残像が残るほど超光速な連打を与え、時折「分身!」と叫びゲンの身体が分裂して同時に違う箇所から責めたり、少女を驚かせたりする。

 

 

 

 

———◇三時間経過◇———

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……これだけやっても、傷一つ付かないとは、何て硬さだ……やるな、お前!」

 

同じ箇所を殴り続ける、もしくは一点集中で殴り続けると試行錯誤を繰り返すが効果はなかった。亀裂どころか傷だって全く付けられず余裕な強固さを示唆するように光沢を放つ。そんな無敵の硬度を誇る檻にゲンは賛辞の言葉を送っている。

 

(………よりにもよって来た人が、こんな馬鹿なんて。もう終わった)

 

少女はさっきとは違う意味で、もう出られる可能性など0だと諦めていた。助けてもらう立場が言っては駄目だけど、殴る以外にもっと方法があるだろ、と内心で突っ込んでばかりの三時間。しかし余計な発言をすれば見捨てられると怯えて言えずにいた。寧ろ、少女は一言くらい指摘して良いと思う。

 

「よし、いくら殴りつけても意味がないことが分かった。次は別のアプローチで攻めてみよう!」

 

今更な判断を降すゲン。それに待ったをかけたのは、少女の方だった。

 

「…………もう、いい。無理しなくても」

 

幾らこの男が頑張ってくれても無駄だと絶望する少女は投げやりな感じになってしまう。きっと、独りぼっちで暗い奈落を彷徨っている妹さんもこんな気持ちなのだろうと思った。

するとゲンは怒り心頭! と言わんばかりの勢いで少女の提案を真っ向から却下する。

 

「バカ野郎、諦めるんじゃねえ!! 三、四時間ぐらい開かないぐらいで何だ!? まだ俺が必死に頑張っているでしょーが!! 言っとくけど、お前を見捨てるなんて選択肢、最初から俺の中にはないぞ?」

 

「……え?」

 

ゲンの“見捨てない”という発言に俯いていた顔を上げる少女。諦めなど一切ないゲンの力強い瞳に、ポツリと零す。

 

「……どうして?」

 

「ん?」

 

「……どうして、私を置いて逃げないの?」

 

見ず知らずの他人を助ける余裕や義理など持ち合わせていないのに。大事な身内を探しているなら尚更だ。戸惑いながら訴える少女を見つめ、ゲンは自分にも言い聞かせるように熱烈に語り出した。

 

「お前を見ると、小さい頃のハジメを思い出すんだよ。まだ小さくて、泣き虫で、誰かがいないと生きていけないような、あの頃の妹を、な……」

 

ゲンの回想に幼稚園児のハジメが映り出す。成長記録カメラを再生するかのように、記憶の中の幼いハジメが成長して小学校に突入する。

よちよち歩きの頃から周囲の女子達に馴染めず、いじめっ子達に弄られて泣かされていた毎日。愛する家族を泣かせる者を許せないゲンは、女だろうが大人だろうが年下だろうが関係なく、ハジメが受けた被害の倍以上の報復を与えて泣かせた。

思春期に突入した頃からハジメは自立する振る舞いをしているが、本当は傍にいないと寂しくて死んじゃう女の子だと、ゲンは昔から分かっている。

 

「お前を置いて行けば、俺達はこの奈落から逃げられるかもしれない。でもな、此処でお前を見捨てることは、俺の中にある妹愛魂(シスコン・ラヴ)を否定することになっちまう。例え変態の烙印を押されたとしても、それだけは御免だ! 座右の銘『妹の笑顔がお兄ちゃんの動力源』! シスコン同盟の会長、南雲ゲン様の肩書きが廃るのさ!! それに、約束は守らなくちゃな」

 

シスコンの人生を誇りに思い、一度決めた約束は何があっても守り通す。それが南雲ゲンと言う(おとこ)のポリシー。相変わらず支離滅裂な言葉を並べているが、真っ直ぐ堂々とした姿は一周回って漢気があって見える。

 

(……何か分からないけど、この人は明らかに変人。でも、それ以上に………かっこいい)

 

シスコン魂の瘴気に当てられ、少女は自分の中から絶望が消え去るのを感じた。やること全てが普通の人とはかけ離れている奇人の言葉が、長年溜め続けた少女の負の感情を強引に掻き消したのだ。

閉じ込められる以前、王族の姫として何人もの人を見てきたが今まで見たことがない人種。しかしそのことに魅力が感じられ、少女の瞳に映るゲンが不思議と輝いて見える。

 

「ん……何だ? このボタン」

 

少女が感動(?)に浸っているところに、唐突に水を差すゲン。

立方体の檻を壊しやすい箇所がないか注意深く観察していると、少女から見えない位置に赤いボタンに気づく。その上に説明文が一緒に記載されていた。

近寄って、その文章を声に出して読み上げると……

 

「え〜と、何々? ……“封印解除ボタン 注意! これを無闇に押すと封印が解かれます。絶対押すな!”か……何ですとっ?」

 

「……えっ?」

 

ゲンだけでなく少女も素っ頓狂な声を上げた。こんな単純な方法があったとは。

否、まさか、そんなはずがない、と言い聞かせる。

 

「お、押してみるか! まさか、ボタン一つで解除される簡単な装置なんて、あり得ないよな! 罠かもしれないしな!」

 

「……う、うん。私もそう思う。もし本当だとしたら、私は惨めになってしまう」

 

苦笑いしながら了承を互いに得て、ポチッと押してみる。

直後、少女の周りの立方体がドロリと溶け出し、少しずつ彼女の枷を解いていくと一系纏わぬ裸体が露わになり文字通り解放された。本当に封印解除ボタンだったようだ。

 

「スゲェ簡単な仕掛けだった。俺の、この三時間強の労力は一体……?」

 

「……こんな…こんなバカらしい簡単な仕掛けに、三百年以上も閉じ込められた私は一体……?」

 

約二名が多大な精神的ショックを受け、地面に膝を付いてorzの体制に陥る。特に少女に至ってはショックの度合いがゲンよりも遥かに高く、奈落の底よりも暗い深淵の悲しみを噴き出している。全裸の少女が包み隠さず四つん這いの体勢になると色々丸見えなのだが……これ以上は追求しないでおこう。

 

「と、取り敢えず、無事に出られたってことで良しとしよう!」

 

「……うん、ありがとう」

 

色んなショックからまだ立ち直れず、されどはっきりと告げる。手に触れて「温かい」と呟く少女に対し「そりゃまぁ、生きているからね」と返事するゲン。

 

「……名前、何?」

 

「俺か? 俺はゲン! 我が妹(マイエンジェル)をこよなく愛するシスコン界の頂点にしてシスコン同盟の初代会長、『シスコン番長』こと南雲ゲンだ!」

 

無駄に長い上に暑苦しい自己紹介を華麗にスルーして「ゲン、ゲン」と繰り返し呟く少女。さも大事なものを心に刻むように。無視されてちょっと泣きそうになるゲン。

その姿に哀れみを感じた少女は名前を答えようとして、思い出すように懇願する。

 

「……名前、付けて」

 

「え? ド忘れ?」

 

「違う……もう、前の名前はいらないだけ……ゲンの付けた名前が良い」

 

「う〜ん、そうは言ってもなぁ。俺ネーミングセンスない方だし……」

 

ゲンは何一つ疑問に思わなかった。前の自分を捨てて新しい自分として生きたいのだ。その第一歩が名前を変えることだろう。

ゲンは少女をイメージする月を捩った名前を次々と連想させる。

 

「それじゃあミステリアスかつ可愛い感じで“金色の月”、略して“ツキちゃん”なんてのは——」

 

「……ごめんなさい。それはない」

 

「そうか……じゃあ強そうな感じで“月光姫(ムーンサルト)”ってのは?」

 

「……それも無理、可愛くない。女の子の名前じゃない」

 

「じゃあ、いっそのこと可愛らしく、大人から子供まで大衆受けするように“セーラーム——」

 

「——却下……可愛くなりそうだけど、その名前を今後行使すれば色んな団体に怒られそうな気がする」

 

「んもう! 俺の付けた名前が良いとか言いながら我儘ばっかり言って! いい加減にしんしゃい!」

 

圧倒的にネーミングセンスが壊滅なゲンに問題しかないと思うのだが。一向に決まらず険しい顔になりながら脳を捻って思考するゲン。

やがて、ある単語を思い出す。

 

「あ…………“ユエ”とか?」

 

「……ユエ? ……ユエ……ユエ……」

 

「ユエっていうのは俺の故郷で月を表すんだ。最初、お前を見た時、長い金髪とか紅い瞳とかが夜に浮かぶ月に見えてな……どう、中々良くね!?」

 

『CCさ○ら』から拝借した美形(だが男だ!)の名前とは口が裂けても言えないゲン。

少女がパチパチと瞬きするが、無表情のまま、どこか嬉しそうに瞳を輝かせる。

 

「……んっ、今日からユエ。ありがとう」

 

「さてと、名前が決まったところで……ユエ。その姿だと風邪を引くから、これを着なさい」

 

そう言いながらワイシャツを脱いで上半身を剥き出しにしたゲンは、少女改めユエに差し出す。反射的に受け取りながら自身の姿を見やるユエは、大事なところも丸見えなのを自覚し、一瞬で真っ赤になりながらゲンのワイシャツを抱き寄せ上目遣いで呟く。

 

「……ゲンのエッチ」

 

「何ィ!? 俺がエッチだとぉ!? 安心しなさい。確かに俺はエロにも興味がある健全な男子高校生だが、シスコン会長の肩書きを背負っているんだ。ユエみたいに年齢が一桁も満たない体型の幼妹にしか見えない幼女に興奮する性癖はないから——ごぼぉおおおッ!!?」

 

「…………バカ」

 

地雷を踏みまくって油断しきった馬鹿(ゲン)の鳩尾を蹴り上げ、ユエはいそいそとワイシャツを羽織りつつ拗ねた表情になる。ユエの身長は百四十センチ位しかない小柄なので袖がブカブカであり、綺麗な手が袖で隠される姿は中年オヤジが興奮しそうな絵面だ。

と、急にゲンが落下してきた穴からドゴォオオオオオオオオオッ!! と爆発音と爆風が吹き荒れた同時に人影が降ってきた。

 

「——兄貴、無事!? 兄貴の気配を探りながら地面を掘り進んでいたら辿り着いたんだけど、一体ここで何があった、の……」

 

白髪赤眼の少女の義妹、ハジメが爆破で穴を広げながらゲンが辿った道筋を突き進み、今再会した。

しかし、タイミングが悪すぎた。ゲンはワイシャツをユエに渡したため上半身が裸であり、密室空間で一緒にいたユエはワイシャツ一枚を着込んだ格好。第三者の視点から見れば“事後”に見えなくもない。

 

「兄貴………その(メス)、誰?」

 

奈落の底で生死を彷徨いながら、倫理や常識を捨てたことで覚醒(?)してしまった義妹(ハジメ)は、女の子がしてはいけない形相になりながら主にユエに鋭い眼光を向ける。瞬時に“敵”だと認識したユエも負けておらず、対抗して紅い眼光をハジメにぶつける。

 

「……私はユエ。お前こそ、どこの誰?」

 

「別にお前に聞いたわけじゃないんだけど? 私は南雲ハジメ。そこにいる男の妹」

 

「……そう。今大事な話の最中。邪魔だから出ていけ」

 

「邪魔はあんたでしょ? 兄貴にベタついていないで私の視界からとっとと失せろ」

 

お互い妙に棘がある言動。少女達の周りの空気が重くなり温度が冷めていくのを素肌で感じるゲン。一触即発に呑み込まれ、下手に発言を誤ると殺られること間違いなしの危険な少女達の間でタジタジになりながら説得を試みる。

 

「あ、あの〜、お二人さん? ど、どうして俺を挟んで睨み合ってるんですかね? 事情は後で説明するから、そのぉ〜……あ、ホラ見て見て! 敵だよ敵! 巨大サソリっぽい敵がいるから集中しよう!!」

 

強引に話題を逸らすように、二人の耳に届くように叫びながら天井を指差す。

と同時に……指差した真上から巨大な影が降ってきた。

咄嗟の判断で、ゲンはメンチを切り合っているハジメとユエを全力で押し出して遠くへ移動させる。直前まで二人がいた場所にズドンッ! と地響きを立てながら巨大な魔物が姿を現す。体長五メートルの四本の長い腕に巨大なハサミ、二本の尻尾の先端には鋭い針、八本の節足を動かすそれはゲンの言う通り“巨大サソリっぽいもの”だ。

 

『ギィイイイイイイイイイイイ!!』

 

声の威圧から今まで遭遇した魔物と比べ物にならない強者の威厳を感じ、全員の額に汗が垂れる。

先ほどまで睨み合っていたハジメとユエも、今は争う場合じゃないと理解し、目の前の敵へ視線を向ける。

 

『——ォオオオオオオオオオ!!』

 

今度は大きな扉の向こうから野太い雄叫びが響き渡ったと思えば、タイミングを合わせたかのように扉を蹴破って二体の巨体が部屋に乱入する。四メートル近くある大剣を背負った一つ目巨人、所謂サイクロプス二体だ。サイクロプス達も巨大サソリと同じく、侵入者であるハジメとゲンを排除しようと敵意を向ける。

ゲンが部屋に入って(と言うより落下)から三時間、部屋の中や扉の向こうから魔物の気配は一切なかった。つまり、この二体の一つ目巨人とサソリ擬きはこの部屋に封印されていたユエを逃さないための(トラップ)なのだろう。

ユエを置き去りにすれば自分達だけは逃げられると、一瞬考えを過ぎったハジメだったが、ゲンの顔を見てそれは無理だと察した。ゲンの中に、虐められて泣いてばかりだった頃の義妹(ハジメ)と姿が重なって見える少女(ユエ)を、兄貴(シスコン)の意地にかけて見捨てるという選択肢などないと、一瞬で理解した。

ゲンの腕にしがみついて魔物達に目もくれず一心に彼だけを見ているユエの姿に殺意を覚えたハジメだったが、肩を揺らしながら「……ハァ、仕方ないわね」と溜息を吐く。ポーチから神水の入った容器を取り出し、有無を言わさずユエの口に「うむぅッ!?」と突っ込んだ。

 

「兄貴、今はこれしか錬成できなかったけど使って。要望通り旧式型ドリルも付けておいたから」

 

「おお! 待ってましたぁ!! 流石、頼りになる自慢の妹だぜ!」

 

ゲンに微調整を終えたスイッチ四個を渡しドンナーを構えるハジメ。

無理に飲ませたハジメに涙目になりながら恨みを込めた視線を向けるユエだったが、体の奥底から活力が戻ってくるのを感じ取り、覚悟を決めた瞳をゲンに向けて頷く。

恐れや迷いなどない、自分達の運命をゲンに委ねると言わんばかりに笑みを漏らした二人の少女を見やり、ゲンの中の「妹と妹っぽい娘を守るぞ!」と言う闘志が燃え上がった。

 

「上等だ、巨人だろうがサソリだろうが、俺の家族を狙う奴は敵だ……行くぜ!」

 

《Rocket》《Launcher》《Drill》《Radar》

 

《3!》《2!》《1!》

 

「変身!!」

 

ベルトの空欄に四つのスイッチを装填し、前方の赤いスイッチを押し鳴らし、掛け声と同時に真横のレバーを押し出す。煙とリングにゲンの体は包まれていき、煙が晴れれば白の戦士が姿を見せる。

 

「宇宙、来たーーーーーーーー!! シスコン同盟初代会長南雲ゲンことフォーゼ! タイマン、晴らしてもらうぜ!!」

 

恥ずかしげもなく堂々とした宣言を合図に、魔物達との死闘が始まる。

 

 

 

 

「足手纏いだけにはならないでよ? チビ」

 

「……それは私のセリフ……不健康女が」

 

そして同時に、女同士の闘いも始まる。こっちがメインになりそうな雰囲気だった。

 




ようやく四つのスイッチが揃いました。長かったなぁ〜、ここまで来るのに。

ユエを封印していた装置は、作者の都合によりコメディ要素が込められた簡単な装置になってしまいました。

封印装置「解せぬ……」
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