ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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15.エセ・アル・ラウ・ネ!!

「うーん……何がどうしてこうなったんだろうなぁ?」

 

「……ゲン、ファイト……」

 

「あんたは気楽で良いよね! それよりもユエ! いい加減に兄貴の背中から降りてよ! 交代制で次は私の番でしょ!?」

 

「………だが断る。ここは私だけの特等席」

 

現在フォーゼに変身状態中のゲンは、ユエと大きな荷物を背負いながら草むらの中を爆走している。周囲は百六十七センチメートル以上ある雑草が生い茂り、低身長のユエなら完全に見えなくなるほど高い。背後から迫る何かから猛然と逃走しながら、隣でハジメはゲンの背中で優雅に満喫しているユエに抗議している。

 

「二人の可愛い女の子に囲まれてお兄ちゃん冥利に尽きますなぁー! ……と言いたいところだけど、現在進行形でリアルジュ○シックパークを体験しているから意外に余裕じゃないんだよなぁ。二人共、呑気だねぇ~」

 

『『『『キシャァアアアアアアア!!!』』』』

 

生い茂る雑草を払い除けながら走り続ける理由が、二百体近くの魔物に追われているからだ。

真っ白な巨体の爬虫類を彷彿とさせる魔物、形状は完全にヴェラキラプトルのそれだ。その大群に追われているため、ゲンの言うあの名シーンを数百倍も凶悪にさせたような体験を、今現在味わっている。

何故か、頭に一輪の花を咲かせている点が気になるが……

 

「そう、あれは数時間前の出来事だった……この階層まで降った俺達は一頭のラプトル擬きの魔物に遭遇し、うっかり“本物のラプトルだぁ〜!”と少年の心が湧き上がった俺は我を忘れ、感動を胸に秘めながらラプトルに突進したと同時に頭の花をむしり取ってしまったんだ! しかし奇妙なことにラプトルは、花が取れたのを確認すると嬉しそうに地面をピョンピョン跳ねて、最後に頭を下げて『キシャァァァァ、キシャシャシャシャシャン、キシャシャァアアア(辛たんだったわ草。花に操られるとか、あーし超ウケるんですけどwww)!』と雄叫びを上げると、踵を返して嬉しそうに走り去って行ったのが……全ての始まりだった」

 

「……ゲン? 長々と誰に向けて話しているの?」

 

「今、俺達の状況が呑み込めない読者の皆様に決まっているじゃん!」

 

………作者(こっち)側からすれば色々助かるけど、“読者”とか言わないで。

話は上記の通りである。いつもの暴走したゲンが偶然、花に操られていたラプトルを救い、戦闘になることもなく見逃された。

だが、ほどなくして太い樹木が無数に伸びている場所に出て、そこで同種の魔物の群れに遭遇してしまったのだ。しかも、全てのラプトルの頭に色とりどりの花が咲いていた。

最初に襲いかかった十数頭は返り討ちにしたが、別の通路から三十、四十、六十以上の魔物が押し寄せ、拉致が開かなくなって離脱を開始する。集まり集まって、二百体のラプトルに追いかけ回されて……今に至るわけだ。

 

『キシャァアアアアア!!』

 

真横から別のラプトルが牙を剥き出して飛びかかった。

応戦しようと拳を握り締めると、

 

「“緋槍”」

 

ユエの手から放出された炎は渦を巻いて円錐状の槍形状となり、一直線にラプトルの口内に目掛けて飛翔し、あっさりと貫通。肉を溶かし、血を蒸発させ、一瞬で絶命されたラプトルは地響きを立てながら横に倒れ伏す。

頭の花がポトリと取れ、ラプトルの墓場だと示すように落ちた。

 

「…………」

 

言いたいことが色々あったが、押し黙ってしまうゲン。

補足だが、ゲンは常備フォーゼの姿に変身しているわけではない。魔物の奇襲に遭うなどの非常時を除き、普段は腕と足が片方ずつ欠損している元の姿で過ごしている。戦闘面において不利になるため、食事や睡眠時以外は常に変身しておけば良いのでは? と意見もあったが、ゲン曰く「ずっと変身していると精神が削れる気分」と。その意見もあり、ハジメとユエはゲンのフォローに回ってくれるようになった。

しかし最近では、フォーゼに変身している時でも戦闘では二人の少女が無双することが多い。最初は近接戦しかできないゲンの援護に徹底してくれていたのだが、途中から対抗するように先制攻撃を仕掛け瞬殺しまくるのだ。しかもハジメまで対抗意識を燃やして先制攻撃を真似し始めたせいで、ゲンは全くと言っても良いほど出番がなかった。

一応、前衛として前に出ているが、遠距離に有利かつ強力なハジメの銃火器とユエの魔法の前では、馬鹿力が取り柄の肉弾戦(ステゴロ)も霞んで見える。

まさか、足手纏いの役立たずと、このまま戦力外通告を言われるのでは!? とリストラ間近のリーマンのように内心不安に駆られてしまう。

 

「ここ最近の俺、全く活躍していない役立たずのような気がするんだけど……」

 

「……私、役に立つ……ゲンのパートナーだから」

 

無表情ながら得意げな顔を浮かべるユエは、ハジメに視線を変えると——

 

「…………ふ」

 

ゲンには見えないように、ハジメに嘲笑を浴びせる。

「この自分こそゲンの一番(パートナー)だ」と、宣戦布告を通り越して既に攻撃しているのに等しい行為。眼前で見せつけられたハジメは歯軋りをするほど嫉妬し、すぐ撃ち殺してやろうかと言うようにホルスターに収めているドンナーへと手を伸ばしながらピンポイントでユエに殺気を浴びせる。

 

『キシャァアアアア!!』

 

すると、再びさっきとは逆方向から別の花を咲かせたラプトルが襲いかかってきた。

ユエが掌をラプトルに向け、

ドパンッ!!

ハジメのドンナーから放たれた弾丸は風を突っ切り、ラプトルの額に向かって一直線に飛び出し、そのまま貫通する。一瞬で頭蓋骨ごと生命維持機能を砕かれたラプトルはグルンと眼球を回しながら地面に横倒しになる。転倒の際、再びラプトルの頭上の花が落ちた。

無言で掲げていた手を下げるユエは、ゲンに活躍を見せつける機会を掻っ攫ったハジメに恨めしい視線をぶつける。

ドンナーを回してホルスターに収めたハジメは、ゲンに顔を見られない位置まで行き、ユエと視線を合わせ——

 

「…………はっ」

 

嘲笑を浴びせ返す。

「お前如きに兄貴(ゲン)のパートナーが務まるわけがない、一番はこの私だ」という分かりやすい挑発にビキィッ、とユエの額に青筋が立てられる。

 

「ほら兄貴、勝手に自分をパートナーと思い込んでいる寄生虫は無視して、早く移動するよ。さっさとここを攻略しないといけないから」

 

「………生意気なことを抜かすな、義妹」

 

「おい、義妹と呼んだら殺すって、前にも言ったわよね? 脳まで栄養が行かなかったの? グータラ寄生虫」

 

「……殺ってみろ、チリ一つ残さずこの世から消し去ってやる……キメラ擬きが」

 

『——あぁん!?』

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ったッ!! 何の争いが勃発し出したのかな!? 今俺達の状況を把握できている!? 二人共! 俺なんかのために争いなんて止めてくれ! ……こんな臭いセリフを言う日が訪れるなんてな、人生ってのは何が起こるか分かったもんじゃねぇな——」

 

「———兄貴は黙って」

「———ゲンは黙って」

 

「……はい。すんません調子に乗って」

 

ユエとハジメは殺気をぶつけ合いながら火花を散らし始める。

二人の近くにいるゲンは巻き込まれる形で少女達の殺気をモロに浴びてしまい、女同士の修羅場に男は手出しできないと見守るしか術がない。「雫ちゃんも、こんな気持ちだったのかな……」とポツリと漏らし、再会した時は”いつもお疲れ様です“という労いの言葉をかけてあげようと思った。

彼女達自身も忘れているかもしれないが……絶賛ラプトルの大群に追われている最中である。

ドドドドドドドドドドドドッッ!!!

 

「げぇッ!? 後ろから増援部隊が来た! 鬱陶しい! どうせ来るなら後にしてくれよぉ!! こっちはこっちで色々大変なんだよぉおおおお!!」

 

カプッ、チュー

百体以上の新たなラプトルも加わり、総勢三百体のラプトルに追われる羽目になるゲン達。

カプッ、チュー

しかもプロの狩人のように背の高い草むらに身を潜めながらラプトル達は四方八方から突撃してくる。

カプッ、チュー

ゲン達は今通っている草むらの向こう側に見える迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの穴が空いた洞窟らしき場所へひたすら爆走する。

何故その道を進むのかというと、襲い来る魔物動きに一定の習性を発見したハジメが、ある方向に進むと魔物が過敏に行かせまいとすることに気づいたからだ。

カプッ、チュー

 

「ユエ、いい加減降りて! と言うか、さっきから兄貴の血をちょくちょく吸うのを止めてよ!」

 

「……ゲンの血が美味すぎる……私は悪くない。ゲンの血が熟成の味、美味なのがいけない……魔力も蓄えないと」

 

「だったら別に私の血を飲んでも良いでしょ? 私の血だって魔力を蓄えられるんだから」

 

「……ハジメの血……生臭くて飲めたものじゃない」

 

「嘘を言わないで、お前はまだ私の血を飲んだことないでしょ。それに吸血鬼が生臭いの無理なんて言い訳、通じると思った?」

 

「……キメラは黙っていろ」

 

「殺すぞ……大した働きもしない寄生虫が」

 

こんな状況でも関わらず、インドミナス○ックスも逃げ出すほどの威圧感が滲み出る睨み合いを再び始めるハジメとユエ。近くにいるゲンは完全なるとばっちりだった。

ここは兄貴としてガツンと叱りつけてやる! そう兄貴魂が燃え上がったゲンは説教しようと声を上げ……

 

「はぁーい、いい加減にしようかー二人共! いつも情けないお兄ちゃんだってなぁ、怒る時は怒——」

 

「———黙ってないと死ぬよ、兄貴?」

「———ゲン、黙って……巻き込まれる」

 

「……………はい」

 

………られなかった。少女達の瘴気に当てられ、ションボリするゲン。

 

「何故だ? 何故、長男である俺は二人の争いを止めることができない? タイミングが悪かったのかなぁ? 今ならイケる! って、俺の“お兄たんセンサー”が作動したはずなのに……あ、“お兄たんセンサー”を初めて聞いたという人のために説明しておくが、このセンサーは——へぼぉッ!?」

 

クソの役にも立たないセンサーの説明をする寸前に縦割れに飛び込み、入口の上部に頭が直撃して何やら首がおかしな方向へ傾く。

縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈に感じる狭さ。縦割れの穴に一斉に侵入しようとしたラプトル達はぎゅうぎゅう詰めにされ動けない。一頭のラプトルが鉤爪でこじ開けようとするが、その前にハジメがドンナーで火を噴き飛ばし、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。

 

「ふぅ、これで取り敢えずは大丈夫ね」

 

「痛ぇ、首が……お疲れ様だ、ハジメ。さてと、そろそろユエは降りな」

 

「……や……もっと、だっこ」

 

「我儘を言うんじゃありません! ほら、さっさと自分の足で歩く!」

 

「……むぅ、仕方ない」

 

ゲンの言葉にユエは渋々、ほんと〜うに渋々ながら背から降りる。

錬成で入口を密閉したのを確認し、ゲンの背負っていた大荷物を地面に置くと三人は慎重に洞窟の奥へ進む。

唯一“気配感知”の技能を扱えるハジメを筆頭に警戒を怠らず先に進むと、やがて大きな広間に辿り着く。

広間の中央まで歩いた時、全方位から緑色のシャボン玉のような球体がふよふよと無数に飛んできた。その数は優に百を超え、触っただけで爆発しそうな見た目である。見た目通りの脆さは「何だコレ? ——ぶはぁ!! 爆発したぁ!?」と警戒心の欠片もなく指先で緑球に触れたゲンが実証済みだ。

全方位から撃ち込まれる緑球を、ハジメは十八番(おはこ)の錬成で石壁を作り出し防ぐ。ユエも問題なく、速度と手数に優れた風系の魔法で迎撃する。

 

「びっくりした〜、急にボフッって爆発したんだもの。まさか、コレも敵の攻撃かッ!?」

 

「いや、もっと早く気づけよバカ兄貴」

 

「おのれぇ小癪な! ユエ! 本体はどこにいるか分かるか……ユエ? その猫みたいな顔はどうしたん? 町内イベント睨めっこ大会の優勝者の俺と睨めっこしたいの?」

 

「そんな訳ないでしょ?」とハジメのツッコミを与えつつユエを見る。ゲンの言った通り、ユエの瞳孔は猫のように縦開きになり口をあんぐりと開けている。

ゲンの質問に答えないまま……いつもの表情に戻ったと思えば、ユエの手がゲン達に向いた。

 

「……逃げて……ゲン!」

 

ユエの叫びと共に、手に風が収束し出す。

 

「危ねッ、捕まれハジメ!!」

 

「きゃっ!?」

 

危機管理本能が激しく唸ったゲンは、ハジメの体を抱きしめ、反射神経をフル稼働させて飛び退く。ハジメの口から可愛らしい悲鳴が出たが、あまり追求しないでおこう。決して後が怖いからとか頭に風穴を開けられたくないとか我が身優先の理由じゃありませんですわよ、断じて全然これっぽちも。

ユエの手から放たれた風魔法の刃はゲンのすぐ横を通り過ぎ、背後の岩盤を綺麗に両断する。

 

「ユエ、まさか裏切ったの!?」

 

「いや違う! これは、さっきの緑球か!? きっと誰かに操られているんだ!」

 

そう言いながらゲンはユエの頭の上に咲いた花を指差す。あの執拗に追いかけてきたラプトル達の頭に生えた花と一致する真っ赤な薔薇。

さっき触れちゃったけど大丈夫かなぁ〜、と内心心配しながらゲンはユエの繰り出す風の刃を回避し続ける。腕の中でお姫様抱っこされているハジメが「あ、兄貴っ。おりょ、降ろして」と顔を赤くしている件は、何があっても絶対触れないように! 好奇心に負けじゃダメだから!!

さっきのラプトルと同じ原理なら花を抜いてしまえばユエは解放される、そう考えた二人は花を駆除しようとする。だが、敵もハジメの飛び道具を知っているようで、ユエを使って花を庇う動きをさせた。下手に手を出せばユエの身は無事でいられない、そう強調させるような動きだ。

迂闊に攻めることができない。ゲン達が不利になった途端、首謀者は狙い澄ましたように奥の縦割れの暗闇から現れた。

 

「クソぉ、一体どんな魔物がこんな事態を引き起こしやがった!? 綺麗な花で魔物でも人間でも操れるなんて……もしやこの展開、RPGでお馴染みのアルラウネやドリアード等、植物系の人間形態の魔物が登場するパターンなのでは!? 俺達ヲタクの夢を叶えてくれる美女系の魔物が出てくるのかぁあああああ!!?」

 

『…………』

 

勝手にヲタク魂が燃え上がり、はしゃぎまくるゲンにジト目を向けるハジメとユエ。

そんなことは気にせず、期待に応えるべく姿を現した魔物を目にしたゲンは………死んだ目に一変する。

 

『ギュィイ、イイ』

 

風貌は人間の女のそれだが、神話に登場するような美貌は皆無であり、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしている。なまじ艶かしいプロポーションなだけに、ニタァと醜悪な笑みを浮かべる姿は気持ち悪い。

 

「……ふ、分かっていたさ。薄々予感はあったよ。こんなベタなガッカリを迎える展開になるって。でも、少しでも良いからヲトコ(ヲタクの男の略)の夢を叶えてほしかったよ……ああ、もう帰って良いから、ガッカリ崩壊顔面アルラウネさん」

 

人語も話せないような魔物に言語が通じるはずもないが、明らかに侮辱されたことを察したガッカリ崩壊顔面アルラウネことエセアルラウネ。先程の嘲笑は消え、顔面に幾つもの青筋のような模様を浮かべると『ギュイヤァアアアアアアア!!』と怒号らしき悲鳴を上げ、無数のツルが鞭のようにビュンビュン! とうねりまくる。余計に怒らせてどうするんだよ。

 

「……ごめんなさい……ゲン……」

 

心から悔しそうに歯を食いしばるユエ。吸血鬼特有の鋭い犬歯が唇に刺さり、結ばれた口元から血が滴り落ちる。

手が出せないのを良いことに、エセアルラウネはユエを盾にしながら大量の緑球をゲン達に放つ。

 

「ッ、離れろハジメ!」

 

緑球が衝突する寸前、ゲンはハジメの体を遠くに投げて回避させる。打ち付けられた一個の緑球が潰れると連鎖反応を起こして一斉に緑球の全てが爆発した。

目視できるほど大量の胞子が漂い、影響されるように苦悶の表情になるゲン。その姿にハジメとユエは悲鳴を上げる。

 

「兄貴っ!?」

 

「ゲン……!? お願い、この人だけはっ……!!」

 

ハジメの悲痛そうな叫び、ユエの涙目の懇願に耳を傾けず、新しい玩具(どれい)が手に入ったと歓喜するエセアルラウネは醜悪な笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

「ぐぅうううッ、あッ、頭が割れるぅうううう……も、もうダメだぁああッ! ぐぁああああああああああああああああ!!?」

 

キュポンッ!!

ゲンの唸り声が最大限の苦しみに到達すると同時に大きな音を立てながら………()()()()()()()()()()()

その場にいた皆が「……んん?」と、ゲンの頭の上に聳え立つキノコを怪訝そうに見つめる。無論エセアルラウネも例外ではない。

 

「あれ? 急に体が軽くなった。おーい皆、俺の頭を見てどうしたんだ? ……え? 何故、俺だけ花じゃなくて、キノコォッ!? 秋のキノコ収穫祭!? セルフ制キノコ祭り!? キノ〇オ、パ○スもしくはパ○セクトの末裔ぃ!?」

 

「落ち着いて兄貴、取り敢えず兄貴がキノコ虫の子孫でないことは確かだから。もぉ、心配させないでよ。で……心当たりはあるの?」

 

「い、いや。それが全く……強いて言うなら、来る途中に見かけた、道の端に生えていた赤と青の色が混ざったキノコを食ったぐらいしか」

 

「いや間違いなく原因それだから。どうして何でも勝手に食べるの? 見た目から怪しいじゃない」

 

「すまん。あんまりにも腹が減って……派手な色ほど美味いかな? って、思って」

 

「……子供じゃないんだから……ゲン、もう二度としちゃダメ……」

 

「はーい」

 

『——ギュイイイイィイイイイイイイイイイイ!!!』

 

緊迫した雰囲気をゲンクオリティーで台無しにされ、いつものコメディ満載の空気に変わったが、エセアルラウネの「私を忘れるなぁあああああ!!」と言わんばかりの雄叫びで三人は現在の危機的状況を思い出す。因みにキノコは、普通にもぎ取った。

話は大分逸れたが、ユエのようにゲンの頭にエセアルラウネの花が咲く気配はない。ゲンには胞子の効果がない様子だ。

エセアルラウネの胞子は神経毒の一種であり、“毒耐性”を備えたハジメも効果がないのだが、ゲンの規格外すぎるギャグ体質ほどではない。

エセアルラウネは、この二人に自分の胞子が効かないと悟り、一瞬でも忘れ去られたことに苛立った様子で、ユエに命じて魔法を発動させる。ユエが必死に「やめて!」「ダメぇ!」と悲痛な叫びを上げるが、それが享楽のアクセントだと言わんばかりに嘲笑の醜悪さを増長させた。

風の刃を払い除けながら、この状況を如何に打破すべきか模索していると、ユエが声を上げる。

 

「ゲン! ……私のことは良いから……こいつごと、殺って!」

 

足手纏いになるどころか、ゲンに攻撃してしまうぐらいなら自分ごと倒して欲しい、と覚悟を決めた様子で叫んだ。

そんな意思を込めた紅の瞳が真っ直ぐ、ゲンを見つめる。

 

「ユエの馬鹿野郎! そんなことできるわけがないだろう! 犠牲なんてしなくても済む方法をすぐ探すから黙って待っていろ!! お前は必ず俺が助けて——」

 

「あ、良いの? じゃあ死ね、惨たらしく」

 

『えっ?』

『ギュィッ?』

 

ユエの言葉を聞いた瞬間、少年マンガ主人公のような熱いセリフを言うゲンの言葉を遮り、何の躊躇いもなく銃口を上げるハジメ。その様子にゲンとユエだけでなくエセアルラウネも戸惑った。

ちらりとハジメを見ると、冗談などではなく、真紅の目が本気(マジ)を語っている。

 

「——させるかぁああああああああああああ!!」

 

全ての筋肉と神経をフルに働かせたゲンは、音速を超える速さでユエの元へ走り出し、未だハジメの言葉にポカンとするユエの頭を掴んで力づくで伏せさせる。

———刹那、

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

全弾、一発も残さずハジメは発砲した。

ドンナー六連射の弾丸は、さっきユエの額や心臓があった虚空を通り、その中の一発がユエの頭に生えていた花を撃ち抜き、六発全てがエセアルラウネの頭部や胴体を貫通する。六発の風穴を空けられたエセアルラウネは緑色の体液を撒き散らしながら爆砕された。苦悶と疑問を彷彿とさせる顔のまま地面に倒れ伏し、ビクンビクンと痙攣させながら絶命する。その遺体はハジメの“纏雷”で体液に引火し、炎に包まれて黒炭と化す。

 

「ちょっとハジメさーーーん!? 幾ら何でも躊躇なさすぎやしませんかね!? せめて俺のカッコ良いセリフを全部言わせくれないかなぁ!? ユエ、大丈夫か!? 頭皮とか剥がれてない?」

 

自称ボケ役の立場を忘れてユエの頭頂部を見て安否を確認する。面白くなさそうに「チッ、外した」と小さい愚痴がハジメの口から聞こえたような気がするが、ゲンは耳糞が詰まって聞こえなかったと強引に誤魔化す。

ユエは未だに頭をさすり、ジトッとした目で元凶ハジメを睨みながら歩み寄る。対抗するようにハジメも逆に睨み返した。

 

「……撃った」

 

「ユエが撃って良いって言ったからね」

 

「……躊躇わなかった……軌道が、完全に私……」

 

「狙い撃つ自信はあったけど、撃つ瞬間に手が滑ったのよ。それに問答無用で撃ったら今後のためにならないと配慮してあげたのよ?」

 

「……頭皮、削れた……」

 

「それくらいすぐ再生するから問題ないでしょ?」

 

「……喧嘩売ってる? 魔物の肉しか口にしない女子力ゼロの不健康キメラ」

 

「脳にも栄養が行き届いていない幼児体型のチビ寄生虫如きに喧嘩なんて売るわけないでしょ?」

 

『……………上等、殺す!!!!』

 

ユエは黄金の、ハジメは真紅の魔力を放出しながら火花を散らし、虚空でス○ンドらしき金色の雷龍と紅色の魔王が雷鳴の咆哮や現代兵器を打ちつけ合って大乱闘を起こしている。

その光景を目にしたゲンは昔、友人の女関係で困っていた時期に相談に乗ってくれた父親の言葉を思い出す。

 

 

 

 

———◇父さんと女についての相談◇———

 

 

 

 

『良いか、ゲン? 男に惚れた女ってのはなぁ、時には魔物になっちまうんだぞ? 俺なんか若い頃、隣の席にいた女子に言い寄られた頃、嫉妬した母さんに身の毛がよだつような大変な目に遭って……おい何だよ、その可哀想な人を見る目は? お前はお子ちゃまだから知らないんだよ。女は愛に狂いやすくマジでおっかねぇ——げぇッ、母さん!? ち、違うんだ。これは男同士の語り合いをして、偶々こんな話題に逸れたというか。ちょ、マジすいません。暗い密室でのお仕置きだけは勘弁を! ちょ、ゲンーーー!? お願いお父さんを助けてーーーー!?』

 

 

 

 

———◇父親(母の奴隷)と相談(と言う名のSOS)◇———

 

 

 

 

(お父さん……俺……お父さんの気持ち…今、理解した気がします………)

 

もうこの乱戦を止められないと諦めを悟ったゲンは体育座りする。本気(ガチ)で命を狩る闘志を目に宿しながらドンナーや“緋槍(弾丸サイズ)”の撃ち合いをする少女達を背に向け、静かに現実逃避を開始した。




皆さん、例え空腹でも、ウケ狙いでも、道端に生えているキノコを無闇に口にしてはいけません。キノコの種類によっては命に関わる危険性があります。

間違っても主人公のような馬鹿な行為をしないように!!
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