ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

17 / 19
いつも投稿が亀並に遅い自分ですが、夜のテンションに乗せられてヒュドラ戦を書き上げることができましたぁ~!!

軽く二万文字を超えてしまい、ヒュドラ戦は前半と後半に分かれています。それでも一万文字はあるので心してください。
また、駄文やガバガバなところもあるかもしれませんが、ご了承ください。

それではどうぞ。


16.七・首・ヒュ・ドラ!!

エセアルラウネ撃破後、ハジメとユエの仲が更に悪化し、壮絶な激闘を遂げた女の争いが勃発したことで洞窟の一部が破壊したという事態に発展。ゲンの説得という名の仲裁もあり、何とか外面だけでも仲直りさせることに成功した。あくまで外面だけど。

再び迷宮攻略に精を出し、二人のスキンシップが以前より激しくなり、また女達の激闘が巻き起こり、ゲンの必死な説得と仲裁もあり……などの苦労の連続が続いた。

ユエと出会ってから随分と日数が経ったのか時間感覚がないため不明だが、暇さえあればゲンに甘えるようにもなったユエ。拠点でゲンの隣に座る時は必ず腕に抱き着き、背後にいる時はマーキングするように背中に顔を擦り付け、それを目にしたハジメにドンナーを発砲された。

決して口には出さないが、装備の点検や補充の作業をしつつ、甘えたい素振りをしながらゲンの近くに必ずいるハジメ。それを察したゲンに頭を撫でられ、頬を赤くしながら「……馬鹿」と言いつつも口元が緩み、それを目撃したユエに“蒼天(小)”を撃たれた。

このように、彼女いない男子なら誰もが眼から血を流して羨ましがられる美少女達の分かりやすいアプローチを、恋愛鈍感スキル保有者のゲンは全く気づかず「はは〜ん、お兄ちゃんに甘えたい年頃だな?」と信じて疑わない。うら若き少女達が銃と魔法で争う主な要因はこの鈍感(ゲン)にあるのではないだろうか。

そして遂に、奈良の底の百階層——その一歩手前の階層に到達する。

百階層の入口前で、いつもより慎重な様子のハジメとユエに、最初からフォーゼの姿で精神統一をするゲン。珍しくボケ発言を言わないことから本気の様子だった。

 

(じせち いゆや げあむん いうん ぱおば とつつろ つろい しんん くぱべぺ し——)

 

…………ドラ○エ復活の呪文だった。これがこの先、功を成すのかは定かではない。おそらく絶対ない。

因みに、今のハジメとゲンのステータスはこうだ。

 



 

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1975

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 



 

 



 

南雲ゲン 17歳 男 レベル:コズミック!!

天職:宇宙戦士(フォーゼ)!!

筋力:来た来た来たーーーーー!!

体力:頑張るぞーーーーーー!!

耐性:やってやるぞーーーーー!!

敏捷:気合いじゃーーーーーーーー!!

魔力:こちとら金欠なんじゃーーーーーーーい!!

魔耐:でも、生きてまーーーーーーーーす!!

技能:スイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチスイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチ・スイッチ・オンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオンオフオン!!!

 



 

ハジメのステータスは、技能を除いた残りの項目は魔物の肉を食べたことで上昇し続けているが、固有魔法はその階層ごとにいる通常の魔物ではもう増えなくなった。

一方ゲンのステータスは……技能の文字数が増えただけで、後は全く変化なし。以上。

準備を終え、階下へと続く階段へ向かい、その階層の光景に三人はつい見惚れてしまう。

無数の巨大な柱に支えられた広大な空間で、直径五メートルはある柱の一本一本に螺旋模様と樹の蔓が巻きついたような彫刻が施されていた。巨大な柱は規則正しく並べられ、天井までは三十メートルありそう。血に飢えた魔物達が巣喰う奈落の最下層とはとても思えず厳粛を感じさせる広間だった。

まるで来訪者を歓迎するように、全ての柱が淡い光を放ち、奥の方へ順次輝き始める。

警戒しながら足を踏み入れるが、特に何も起こらず、ハジメの感知系の技能を頼りに先へ進む。

 

「……これは、また凄いわね。もしかして……」

 

「……反逆者の住処?」

 

「おぉ〜、如何にもラスボスの部屋と言った雰囲気だな。まぁ、東京ドームよりは小っちゃいかな?」

 

余計なことを言ったゲンに触れないでいた少女達は、先に進めば進むほど、この先は明らかにマズいと、本能が告げていた。薄らと額に汗が滴る。

 

「二人共、ここまで来たからには行くしかない、やるしかない、負けられない! もう誰も、俺達を止められない! 全員レッツゴーーー!! ……と、良い感じに盛り上げたので、さっき呟いたことはなかったことにしてくれ」

 

ゲンはいつもの馬鹿さ丸出しの雰囲気で二人を励まし、最後の一言で“良い感じ”を台無しにさせる。だが、ゲンの数少ない長所の一つでもある。

その雰囲気に促され、ハジメとユエも不敵な笑みを浮かべて覚悟を決める。

 

「そうね。ようやくゴールに辿り着いたってことじゃない。最高ね」

 

「……んっ! 何が待ち受けても、もう怖くない」

 

三人揃って、扉の前を目指して最後の柱を超えた。その瞬間……広間全体に異変が生じた。

扉へ進む道を遮るように、ゲン達の前方に三十メートルほどの巨大な魔法陣が現れる。魔物の血肉を彷彿とさせる赤黒い光を放ち、ドクンドクンと脈を打つような音を響かせる。

見覚えがある魔法陣。忘れられない、クラスメイトを窮地に追いやり、ゲンとハジメを奈落の底へ突き落とす原因でもあるベヒモス……それを召喚した魔法陣と瓜二つ。だが、ベヒモスの魔法陣より三倍の大きさがある上により複雑な精密さがある魔法陣だった。

魔法陣は広間全体を包むほどの弾ける光を放った。咄嗟に腕をかざし、目を潰されないようにするゲン達。光が薄まって見えたものは……

体長三十メートル、赤・青・黄・緑・黒・白のカラフルな色違いの皮膚が施された六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の魔物。それは神話に登場する怪物——ヒュドラに酷似している。

 

『クルゥァアアアアン!!!!!!』

 

六対の眼光がゲン達を貫きながら咆哮を上げ、砂埃が巻き起こるほど広間全体を揺らす。雄叫びに含まれた壮絶な殺気で、心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚える。

同時に、赤い頭がガパッと大きな口を開いた。

 

「——来るぞッ! 散開!!」

 

瞬時に気づいたゲンの掛け声と同時にハジメとユエはその場を左右に別れて飛び退く。ゲンはダンッ! と地面を蹴りつけ、遥か頭上へジャンプして攻撃範囲から逃れる。

数秒後、火炎放射が放たれ、先程まで三人が立っていた地点を炎の海で埋め尽くす。威力は火山噴火による自然災害の比ではなく、この地に無断で入り込んだ者は虫一匹だろうと逃さない意志がある。

初っ端から放たれた灼熱の息吹に驚愕しながらも、ロケットを展開させたゲンは飛び、ハジメは“縮地”と“空力”を併用し、ユエも風魔法で宙に浮かんだ状態で反撃を開始する。

ドンナーを取り出したハジメは赤の頭に向けて発砲する。紅い電光を纏いながら電磁加速された弾丸は真っ直ぐ突き進み、狙い違わず赤の頭を吹き飛ばす。

まず一つ仕留めたハジメ対抗し、ユエも氷魔法で生成した弾丸を緑の頭に撃つ。氷の弾丸に緑の頭は吹き飛ばされる。

このまま一気に潰す! と意気込むも束の間。中央に位置する白い頭が不思議な音色を叫び、赤の頭や緑の頭を白い光で包み込む。逆再生したように二つの頭の傷は塞がれ元に戻ってしまう。

その光景に舌打ちするハジメに向け、赤の頭が口を開いて再び炎の息吹を吐き出そうとする。

その直前——赤頭の顎下からドゴォッ! と強い衝撃が迸り、放とうとした口を閉ざす。ロケットの出力を上げて猛スピードで迫ったゲンにアッパーされたのだ。灼熱の息吹は赤頭の口内で暴発し、内側から木端微塵に吹き飛んで自滅する。

だが、すぐさま白い頭が雄叫びと共に回復魔法をかける。

 

『くそ、拉致が開かねぇな。ハジメ、ユエ! 先にあの白頭から狙うぞ!』

 

『言われなくても、そのつもり!』

 

『んっ!』

 

青頭の口から放たれた氷の礫を回避しながら、白頭を狙う。

 

「”緋槍“!」

——ドパンッ!

 

ほぼ同時に発射された紅い閃光と炎の槍が合わさって威力を増しながら白頭に目掛けて飛翔する。

だが、黄の頭が寸前で射線上に割り込み、コブラのように肥大化したと思えば、自ら盾となって受け止める。衝撃と爆炎が巻き起こった後には無傷の黄頭が見下すように悠然としていた。

攻撃だけでなく盾役、おまけに回復役まで揃えた用意周到な、一匹だけでバランスの良いパーティーが組めるヒュドラ。最奥の洞窟に潜むボスの名に恥じぬ怪物に、突破口はないかと探りながらハジメは“焼夷手榴弾”を投げ、ユエも“緋槍”を連発する。

二人の猛攻に盾役の黄頭も耐久力を失い、至るところがボロボロになる。が、白頭がすかさず回復させようと迫る。

 

『クルゥア———アアアァッ!!?』

 

しかし、頭上から回転を加えて威力が倍増したロケットキックをしたゲンに回復を阻止され、白頭は脳震盪を起こし地面に倒れる。

回復役がいなくなった今が好機! ゲンが開いてくれた突破口にハジメとユエは同時攻撃を仕掛けた。

——だが、妖しい眼光を放った黒頭に、その瞳を捉えられる。

 

「———いやぁあああああああああ!!!」

 

攻撃する寸前、ユエは絶望の未来を目にしたような悲鳴を上げた。

 

「!? どうした、ユエ!」

 

「一体何なの!?」

 

突然の出来事に振り返ると、ユエは頭を抱えながら膝が崩れ落ち、涙目のまま錯乱している。下手すれば精神崩壊を起こし再起不能になるかもしれない様子だ。

咄嗟にロケットの出力を上げてユエの元に飛翔するゲンだが、赤と緑の頭が炎弾と風刃の嵐を放って容易に近づけさせない。未だ悪夢に囚われているユエの姿に歯痒い思いを抱きながら、どうしたものかと思考を巡らせる。

だが、敵は考えさせる猶予など与えなかった。蹲って絶叫を上げるユエに青頭が長い首を伸ばし、逃げられない蛙を捕食する蛇のように大きな顎を開いて迫る。

 

「兄貴ッ!! 時間を稼ぐから、兄貴はボケ吸血姫を!」

 

ハジメは懐から“閃光手榴弾”と“音響手榴弾”を取り出し、ゲンやユエに影響がないようヒュドラに向かって投げつける。視界を埋め尽くす眩い閃光と大気が揺れるほどの大音波にヒュドラは怯んだ。ユエの精神を直接攻撃した黒頭も、ユエの体を噛み砕こうとした青頭もたじろぎ、ユエから視線を外す。同時に、黒頭の精神攻撃から解放されたユエはくたりと倒れ込む。

 

「おお、サンキュー! 流石ハジメたん! こんな時こそ頼りになるぜえ!!」

 

ハジメに賛辞を贈りながら感謝しつつ、この隙にロケットの出力を最大限に上げ、ユエの体を掻っ攫って柱の陰に隠れる。

 

「ユエ! おい、しっかりしろ!」

 

「………」

 

ゲンの呼びかけに何の反応も示さず、青褪めた表情で震えが止まらないユエ。神水を飲ませ、ムニィ〜と頬をつねると、空虚に染まっていたユエの瞳に光が宿り始める。

 

「………ゲン?」

 

「ユエ! 気づいたか。大丈夫か? 一体アイツに何されたんだ?」

 

何回も瞬きし、ゲンの顔や腕や体をペタペタ触り出す。そこにゲンがいることを確認するように、やがて、ゲンが傍にいてくれると実感できたのか安堵の息を漏らした。

 

「……良かったっ……見捨てられたと……もう一人は……いやぁ……」

 

「何のことやらサッパリだが、よっぽど怖かったんだな」

 

ユエの様子に困惑しつつも、涙を垂れる姿に察するゲン。胸に埋まりながらユエはポツポツと話した。唐突に強烈な不安感に襲われ、気がつけばゲンに見捨てられて封印されたまま独り置いて行かれる光景が視界に広がったのだと。そこから何も考えられなくなり恐怖に支配されて動けなくなったらしい。

 

「攻撃、盾、回復に加えて、バッドステータス系の精神への魔法攻撃かよ。攻略不可能なクソゲーのラスボスじゃねえか」

 

「……ゲン」

 

悪態を隠さないゲンに、ユエは不安そうに縋りついた。三百年の封印から解放してくれた上に、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血も許諾してくれて、居場所も与えてくれた人物に、見捨てられるというのは想像できないほど恐ろしいのだろう。

すると、ゲンに呼びかける叫び声が耳打つ。

 

「兄貴ッ! まだ!?」

 

「おっと、もう時間だ。ハジメの加勢に行かなくちゃならないから、ユエはここで休ん——」

 

「ッ! ……や、やだっ……行かないで……!」

 

立ち上がろうとするゲンを、ユエは慌てて手を掴んで引き止める。もう、ユエはゲンから離れるなんて考えたくもなかった。お邪魔虫がいるとはいえ、彼の隣が唯一の居場所なのだから。

植え付けられた悪夢は脳裏にこびり付いて離れず、泣きそうな、不安そうな表情でユエは訴える。

 

「……ゲン…………私を……置いていかないで……!」

 

「………ユエ」

 

ゲンは何となく、ユエの見た悪夢から彼女が何をして欲しいのかを察した。今にも壊れそうな華奢な手を両手で包むと、ユエの前にしゃがみ目線を合わせる。首を傾げて何をするのか分からないユエに、ゲンは……

 

「生きるか死ぬかの瀬戸際に、いつまでも寝惚けているじゃねえ!! とっとと起きろーーーーーー!!!」

 

「———はにゅぅッ!?」

 

突然の、大きな落雷に匹敵する大叱咤。

キーーーーーーーン!!! と、ユエの頭の中で反響し続ける。キスまでは行かなくても抱き締めてくれると若干だけ膨らませていたが、予想外すぎる行動にユエの目がくるくる回り出す。

やがて意識が回復し、さっきとは違う意味で泣きそうな顔になるユエ。かけてほしい言葉が違ったことに不満を抱いている様子だ。

若干涙目になりながら非難の視線を向けるユエに気にせず、ゲンは立ち上がる。

 

「目が覚めたみたいだな。ほら、悪い夢はもう終わったから、自分で立ってみなさい」

 

「……え? ……あ………」

 

言われた通りに、自力で立てたことにユエは驚いた。先程までゲンがいないと震えが止まらなかった身体が、いつの間にか平常心を取り戻していたことに気づく。こびり付いていた悪夢が嘘のように根こそぎ取り払われた気分だ。

 

「ショック療法とはいえ、いきなり怒鳴って悪かったな。でも心外だぜ。最初に会った頃、ユエに言ったことを忘れたのか?」

 

その言葉を聞き、ユエは思い出した。封印されていた自分をがむしゃらに解き放とうとして、しかし空回りで諦めていた時、この男は言ってくれたのだ。『お前を見捨てる選択肢などない』と。

 

「アイツを倒して、皆で生き残って、そして地上に出る。そのためには、俺やハジメだけじゃなく、ユエの協力も必要だ。嫌な夢が怖いなら、また俺が叩き起こすからよ——だから、一緒に戦ってくれるか?」

 

未だに呆然と見つめているユエだったが、ゲンに頼られていることを自覚する。無表情を崩し決意に満ちた表情になった。

 

「……んっ! 皆で、一緒に!」

 

「よし、それじゃあ作戦再開だ! ハジメッ!! こっちはもう大丈夫だ!!」

 

もう、今のユエに迷いや恐れなど微塵もない。それを満足そうに確認したゲンはユエと柱の陰から飛び出した。同時に、一人でヒュドラの攻撃を凌いでいるハジメが“念話”で作戦を伝える。

 

『兄貴! さっき渡したスイッチを使ってッ! 私の切り札でアイツにトドメを刺す!』

 

「よっしゃ、分かった! ユエ、ちょっとの間だけで良いから時間を稼いでくれ!!」

 

『……ん! 任せて!』

 

“念話”で作戦の要点を伝えるハジメに従い、“念話”なんて便利な技能が使えないゲンは地声を荒げ、同じく“念話”で応答するユエ。魔法の才が微塵もなき故、原始的な方法でしか意志伝達できないゲンに、心なしかヒュドラは哀れみの視線を送っているようだった。

掌をヒュドラにかざしながらユエは今度こそ反撃開始に出る。

 

「“緋槍”! “砲皇”! “凍雨”!」

 

ドンナーの光速弾丸にも勝る、一瞬にも満たない速度で構築及び撃ち出された燃え盛る炎の槍、真空刃を引き連れた竜巻、針状の氷の雨。一斉にヒュドラに飛びかかる。赤、青、緑の前に黄頭が出しゃばろうとするが、ハジメの作戦の意図に気がついたのか、不動のまま雄叫びを上げて“技能”と“指令”を執行した。

ユエの放った魔法の嵐は三つの頭に多大なダメージを与え、のたうち回らせる。黄頭は近くの柱を変形させて盾を生成することで防いだ模様。

魔法を放った直後、一瞬の隙を突き、黄頭の“指令”を受けた黒頭がユエの眼を捉え、恐慌の精神攻撃魔法をかけた。

再び暗闇へ引き込もうとする不安と恐怖がユエの中で増長される。しかし、暗闇を強引に消し去ってくれたゲンの大声量を思い出す。ゲンの騒音に負ける程度の暗闇なら問題ない、そう考えると可笑しくなり、自然と笑みが溢れる。

 

「……そんな脅し、もう効かない! “緋槍”!! “砲皇”!! “凍雨”!!」

 

湧き上がる高揚感も上乗せするように、威力も数も倍増した魔法を構築し、絶え間なく撃ち続ける。白頭に回復してもらい攻撃を再開する赤頭、青頭、緑頭と、たった一人で渡り合うユエ。その姿は歴戦の姫を彷彿とさせる美しさだった。

 

「日頃から思っているけど、やっぱユエもスゲェな……うし! 俺も負けていられないぜ!!」

 

《Radar On》《Launcher On》

 

一方、ゲンは三つの頭がユエに集中攻撃している間に準備を進める。ランチャースイッチとレーダースイッチを装填し、右足に青いボックス状のミサイルランチャー、左腕に白黒のレドームをそれぞれ展開させた。

この作戦においてゲンの役割は至ってシンプル。それだけに失敗のリスクも非常に高くなってくるため、今回ばかりは慎重に標的をレーダーで捕捉し、持ち前の鋭い勘をフルに駆使して少しでも作戦の成功率に貢献しようと意気込む。

そこへ、ユエに精神攻撃の魔法は効果がないと悟った黒頭は、今度は最大の脅威であるゲンを狙う。

 

「———うぉ?」

 

割り込んで視線を合わせられたゲンの視界が反転し、悪夢を見せられる。

奈落に落ちたばかりの頃、爪熊に腕と足を咬み千切られた激痛が蘇る。以前の光景と違うのは、身を挺して庇った血塗れのゲンを置いて、振り返りもせず一心不乱に背中を見せて逃亡する愛妹(ハジメ)の姿だった……

 

「……おいおい、もっとマシな幻覚を見せろよ。今じゃ捻くれて素直になってくれないけど、家族想いで度胸もある俺の自慢の愛妹(マイエンジェル)が、俺を見捨てるなんてあるわけねえだろうが!! 俺を再起不能にさせたいんなら、ウサミミビキニメイド姿のハジメたんの幻影でも見せろやゴラァーーーーーー!!!」

 

偽物とはいえ、恐慌の魔法にハジメの姿を使われたことにゲンは怒り心頭になる(最後の一言はホントに余計だけど)。ランチャーが装備された足を固定し、一方の足で小石を鋭く蹴りつける。小石は弾丸のように風を切って突き進み、妖しい光を放つ黒頭の眼を削った。苦痛の悲鳴を上げながら黒頭はゲンを視界から外し、血を垂れ流しながら悶え苦しむ。

チャンス到来! 偶発で一頭の戦力を削ったゲンは右足で地面を強く踏みつける。その動作がトリガーと言わんばかりにミサイルランチャーの発射口から五つのミサイルが一斉に飛び出した。限られた鉱石と燃料石で錬成及び装填されたミサイル。弾丸の速度には劣るが、威力はその数倍あり、生き物のようにレーダーの誘導に従って正確に白頭に向かう。

黄頭が白頭を守るようにミサイルの射線上に立ち塞がった。

———ここまで、順調に作戦は進行している。

ドドドドドォオオオオオオン!!!

黄頭が阻止してくるのを想定し、邪魔な盾役を取り除くべく、最初から標的を黄頭に絞った集中爆撃。“金剛”らしき防御を纏っていた黄頭だが、異世界の兵器の知識を積んだ少女に作製された誘導爆破弾の威力は想定外で、その余波だけで吹き飛ばされかける。

荒々しい騒音と爆風が晴れると未だ健在の黄頭がいた。ただし大火傷で黄色の皮膚が薄黒く変色し、皮膚や神経の大部分が剥がれ落ちている。現在進行形で白頭が回復をしているが、修復が追いつかないほど甚大な被害だ。

 

「まと、めて、砕けろッ!」

 

接近し、一気に迫る人影が一つ。ハジメだ。その手中にあるものは通常の対物ライフルの百倍相当の威力を持ち、戦闘に特化したドンナーの十倍の破壊力を有する弾丸を備えた、ハジメの切り札——シュラーゲン。

“纏雷”でシュラーゲンに紅いスパークを纏わせ、銃口からドガンッ! と強烈な炸裂音を伴ってフルメタルジャケット製の赤い弾丸が、バレルにより電磁加速も付与される。レーザー兵器に匹敵する一撃は、周囲の大気を焼き払いながら黄頭に突き進む。

咄嗟に“金剛”を纏った黄頭だったが、回復も間に合わず耐久力が大幅に低下した状態のまま盾になったため、虚しくも背後にいた白頭もろとも貫通してしまう。そのまま背後の壁にぶち当たり、爆砕の振動で階層全体が地震のように激しく揺れる。

揺れが治り、どこまで続くか把握できない奥深い穴と、丸ごと頭部が溶解し消滅した黄頭と白頭()()()二つの首しか残らなかった。

一気に半数の頭を撃破されたことに残った三つの頭は呆然となるが、煙を上げるシュラーゲンから薬莢がガゴンッ!! と地面に落下する音で我に返り、二つの頭を葬った元凶達を睨みつける。

華麗に着地するハジメと豪快に仁王立ちするゲンに攻撃を定めるが、ヒュドラは忘れていた。己が相手にしている厄介な敵はもう一人いることを、その者から視線を逸らしてはならないことを。

 

「“天灼”」

 

静かに告げられた天の裁き。

最強の吸血姫として名を馳せていたユエと敵対したことへの天罰だと言わんばかりに、三つの頭の周囲に六つの放電を帯びた雷球が取り囲むように宙を漂い始める。次の瞬間、放電粒子が結びつき中央で巨大な雷球と化した。

ズガガガガガガガガガガッ!!

巨大な雷球は火花のように弾けるとヒュドラを囲んだ六つの雷球の範囲内で雷撃の嵐を巻き起こす。雷球に囲まれ逃走もできず、轟音と伴う閃光が迸る。

 

『ッッッ———————!!?』

 

たった十秒だが、回復役と盾役も不在のままで最上級魔法に叶うはずもなく、三つの頭は断末魔を上げる間もなく消し炭となっていった。

流石に魔力が枯渇したユエはペタンと座り込み、呼吸が荒くなりながらも、無表情のまま満足そうに、ゲンに向けて親指を立てた。同じくゲンもサムズアップで返したが、それを見たハジメは「後で殺す、あのチビが」とボソッと殺意を滲ませる。

ユエとハジメが睨み合い一触即発の状況になり、そんな二人を何とか落ち着かせようと歩み出すゲン。

だが………彼だけは異変に逸早く気づいた。

 

「ッ!? ハジメッ! ユエッ! まだ終わってねえぞッ!!」

 

ゲンの切羽詰まった声が二人の耳に響き渡る。何事かと困惑するが、その直後に全ての頭が消滅したヒュドラの胴体部位から()()()()()()()()()迫り上がる。白銀に輝く七つ目の頭は、ある一方向に狙いを定めた。

視線の先には——ユエ。

七つ目の頭は予備動作もなく、ハジメのシュラーゲンやゲンのミサイルランチャーなど比較にもならない破壊力を有した極光を放った。

魔力枯渇でユエは動けず、瞬く間に極光とユエの距離が狭まる。

 

「———兄貴! ダメぇえええええええええッ!!」

 

ハジメの布を引き裂く悲鳴が階層全体に響いた。

ユエが極光に消し去られる前に立ち塞がり、その小さな身体を遠方にいるハジメの元へ投げ飛ばしたゲンは白銀頭の極光から逃すことに成功した。しかし、代わりに極光に包み込まれたゲン。ユエやハジメも直撃はしなかったものの、余波により後方へ吹き飛ばされて地面を転がされる。

極光が収まり、全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる寸前に身を挺して助けられた光景を思い出し、ユエは焦りを浮かべながらゲンを探し出す。

 

「……ゲ、ン?」

 

「あに、き……? 嘘っ……こんなの、嘘っ!!?」

 

ゲンは最初に立っていた場所から一切動いていなかった。全身から肉の焼ける腐臭と煙を漂わせながら仁王立ちしている。

ゲンは何も答えないまま、変身が強制解除されると同時に前のめりに倒れ込んだ。

 

「ゲンッ!!」

 

「兄貴ッ!!」

 

二人は新たに現れた七つ目の白銀頭の存在を脳内から捨て去り、一目散に倒れ込んでいるゲンへと駆け寄った。ユエも焦燥と罪の意識に苛まれるまま駆け寄ろうとするが、魔力枯渇で力が入らず足がもつれてしまう。もどかしい気持ちを押し殺して神水を取り出すと一気に飲み干し、少し活力が湧いた体を引きずる。

負担がかからない程度に倒れているゲンの体を仰向けにすると、あまりに酷い惨状でハジメとユエは言葉を失った。身体の各部位が焼け爛れており一部の骨が剥き出し、焼け焦げた服と皮膚が混ざったような箇所も見える。顔も右半分が焼けた上に豆粒程度の礫が深く突き刺さり、右眼球の機能が永久に停止されていた。

 

「早く神水を……!」

 

「うるさいッ、言われなくても分かってる……!!」

 

ユエに急かされ苛立つように返しながらハジメは急いで飲ませようとする。しかし、そんな悠長を敵が与えてくれるはずもなく、直径十センチ程の光弾を無数に撃ち出される。

 

「ハジメ! 早く柱に!」

 

「分かってるてばッ! 一々命令しないで!」

 

ハジメとユエはゲンを抱えると疲労した体に鞭を打ち、柱の陰に身を隠す。柱ごと削るように光弾が次々と撃ち込まれ、ハジメは同時に錬成で柱を修復させていく。だが、修復速度は柱を削る速度に完全に負けている。おそらく一分も保たないだろう。

急いでゲンの傷口に神水を振りかけ、もう一本をむせないように飲ませる。

しかし、止血効果はあったが、傷は一向に修復されなかった。まるで何かに阻害されているかのように修復速度が遅い。

 

「どうして!?」

 

その様にユエはパニックになりながら自分が持っている神水をかき集める。するとハジメは、ある推測を立てた。

 

「もしかして……あの極光には回復を阻害する効果があるの?」

 

その推測は見事に的中していた。先程の極光には肉を溶解させる一種の毒素が含まれていたのだ。普通の生物なら一瞬で生命を絶たれ、跡形もなくドロドロに溶かされる程の危険なもの。

しかし、神水の回復力は凄まじく、溶解速度を完全に上回っており、速度は遅いが治療は進んでいるため死ぬことはないだろうし、魔物も白旗を上げるゲンの強靭な肉体なら、時間をかければ治る()()()

もし、ユエの“蒼天”にもある程度は耐えたサソリ擬きの外殻で作られたシュラーゲンなどを盾代わりにすれば、苦しむ程度で済んだかもしれない。だが、ゲンは自身を肉壁として、身を挺してしまった。フォーゼの鎧を纏っているものの、全身に振りかった大量の毒素は回復阻害だけに止まらず、内蔵にも被害を及んでいるのだ。

回復するのかも怪しい状態では復帰は不可能。しかも立て続けに光弾を放たれ、柱はほとんど瓦解寸前だ。

この事態をどう打破できるか小さく唇を噛むユエの耳に、羽虫のようなか細い声が響き渡る。

 

「……わ、私の…せいだっ……わた、しが……と……」

 

明らかに冷静さを失ったハジメは震える両手でドンナーを構え、ふらふらと死人のように立ち上がった。青白く染まった顔色はますます死人の風貌を引き立てている。

瀕死寸前のゲンを目にして、思い出してしまったのだろう。爪熊に喰い殺されかけた姿と。

あの時と全く同じだ、自分の油断が招いてしまった。

状況と相手がすり替わっただけで、自分の尻拭いを行った兄貴(ゲン)は負けるはずがないのに再び死にかけている。

 

「私が愚図のせいで、私がもっと上手くやらなかったせいで、私が、あにき——おにいちゃんに頼らなくても、強かったら、こんなことにはっ……殺らなきゃ……私が代わりに殺らなきゃっ、私が、おにいちゃんの分まで殺らなきゃっ……!!」

 

誰が見ても不安定な精神に陥っているハジメは自己暗示をかけるように、ひたすら自分への罵言と命令を繰り返し呟く。

手の震えが止まらず、これでは照準が定まらない。それでも、もし一発も当てることができず、ただ無惨にあの怪物に喰い殺されることになったとしても構わない。自分が受けるべきだった代償、この世界で誰よりも味方でいてくれたゲンが代わり背負った苦痛。因果が巡ったのだと、ハジメは結末を決定付けた。

ヒュドラに特攻しようとすると、すぐ隣まで寄ったユエに手を掴まれる。

 

「……何するつもり? 一人で戦って、一人で死ぬ気? カッコつけるな」

 

「お前に……お前に何が分かるのよッ!? 私はもう失いたくないのッ!! アイツを殺さないと、アイツは、アイツ等は、また私から、おにいちゃんを奪うに決まっているっ! 早く殺さなきゃ……そのためなら、私は死んでも——」

 

——構わない。その言葉を言い終わらせる前に、バシンッ! と頬を引っ叩く音が鳴った。

赤く染まった頬に手を添えながらハジメが見たのは、どこか失望や落胆が含まれた冷ややかな視線を送るユエの姿。

 

「……二度とゲンの前で、それを口にしないで」

 

その言葉でハジメの中で荒れ狂っていた焦燥や後悔などの激情が冷めて静かになり、ユエの意図に気づいてバツの悪そうな表情になる。

すぐ傍にいるゲンが望んでいることは自分の命を道連れに敵を消すことなどではない。辛い逆境や困難を協力しながら乗り越え、誰一人欠けることなく全員揃って笑い合いながら生還を果たすことなのだ。体を張ってまで守りたい少女が死んでしまえば、それこそ彼の今までの苦労が無駄に終わってしまい絶望に染まってしまうのだ。

冷静さをいくらか取り戻したハジメの姿を確認し、ユエはやれやれと溜息を吐く。まだ“義姉”と認めてくれない憎たらしい恋敵(ライバル)だが、この地獄を乗り切るため共に行動する“仲間”であることには変わりない。

 

「……頭は冷えた?」

 

「ッ………えぇ。さっきまでみっともなかった自分を殺してやりたくなる程ね」

 

うっかり「おにいちゃん」と呼んでしまった数秒前の自分を恥じながら、震えが止んだ手でドンナーを持ち直し、極光の余波で一部が溶解したシュラーゲンを背負う。

 

「——私は兄貴と一緒に生きて帰る。そのためにアイツを倒す。だから、ユエ、手伝って」

 

「……言われなくても、あれを殺したいのは私も同じ。足を引っ張らないで、ハジメ」

 

柱の陰に隠れるようにゲンを横にさせ、ハジメとユエはお互いの名を呼ぶことで認め合いながらヒュドラの白銀頭の前に出た。白銀頭は待っていたと言わんばかりに攻撃準備に入る。

 

「一応礼は言っておく…………ありがと」

 

「……しょうがない義妹。お前の礼なんていらない」

 

「人の善意を……それと義妹って呼ぶなぁ!」

 

どんな状況下でも変わらない口喧嘩を交わした直後、白銀頭の口から光弾が連射された。第二ラウンドのゴングが鳴った瞬間である。




今回は珍しくシリアス展開(のつもり)です。後半に続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。