独自解釈がありますので、ご了承ください。
心の深層、一歩踏み外せば二度と現実の世界に戻ってくることはない暗い場所で、意識が沈み続ける、一人の男の魂があった。
(——悔しい、なぁ! こんな、ところでッ……寝ている場合じゃねえのにッ!!)
永眠という一生の牢獄へ堕ちていくのを自覚しながら、大切な少女達が自分のために戦っている光景が観えている。
あそこに割り込めない、立ち上がる力さえ湧き上がらない自分が、とても悔しかった。
『がぁッ!!? ——ま……まだまだぁ!! 兄貴の分まで、私がッ!!』
振り回された長い尻尾で白髪の少女が吹っ飛ばされ、岩盤に叩きつけられる光景が見えた。シュラーゲンを砕かれ、叩きつけられた衝撃で片腕を折られても、ドンナーだけは離さないでいる。
『ゲホッ!! ッ——これくらいのことで……“緋槍”ッ!』
金髪の少女が魔法を酷使し過ぎて枯渇し、血を伴った咳をする光景が見えた。口の端にべっとり付いた血を拭き取り、限界など既に過ぎているにも関わらず魔法の準備に取り掛かっている。
誰一人、勝って生還することに諦めていなかった。勝てないと分かっていても、生きる意志を放棄しない。
先程から苦戦している様子を見せられ、どうにか飛び出したい衝動に駆られる。だが間近で“死”が「諦めろ」「お前がいたところで何もできない」「お前達は死ぬ運命だ」「楽になれ」と悪魔のように囁き、更なる闇へ引きずり込んでいく。
(——くっっそッ! 俺は……俺、はッ……!)
心の叫びをかき消すかのように睡魔と倦怠感が襲いかかり、少女達の姿が映っている光景がボヤける。
(俺じゃあ、本当に……どうにもならないのかよッ………?)
己の存在価値に疑問を抱き始めた。
ハジメのように細部まで錬成できるほど器用さと発想力を持ち合わせていない。ユエのように最上級魔法を扱えず一般魔法すら習得できない。香織のように心まで暖かくなる回復魔法を使うことも、雫のように惚れ惚れする見事な剣術を披露することもできない……ついでに、天之河みたいに何かの剣を使えない(これはどうでも良いけど)。後、名前を忘れたけど、クラスメイトの脳筋みたいに身体特化の技能がない。元から必要なかったが、有無の二択なら有に越したことはなかった。
(俺は……何だ? 一体、二人のために……何をしてやれる? ……俺は………俺……は………)
誰もその問いに答えてくれないまま、意識を手放しそうになった………すると、
『———諦めるなぁああああああああああああああああッ!!!』
闇を打ち消す光が差し込むように、雷鳴のような激昂が反響し続け、切り離されかけた意識が覚醒した。
視界が切り替わり、見たこともない光景が映し出される。場所は殺風景な洞窟のようだが、その洞窟には似つかわない巨大なモンスターが中心で暴れ狂う。金髪の活発な少女が宙に浮かんでモンスターを抑えている傍らで、後ろで纏めた黒いロング髪のメガネをかけた青年に叱咤する者がいた。その者は、細部が多少異なるが———紛うことなき、フォーゼ。
『このロング髪の根性なしメガネ野郎!! 簡単に諦めるな! 歯を食いしばってでも立て! 図体のデカい怪物が現れたぐらいで何だ!? 全身が死ぬほど痛いぐらいで、へこたれるんじゃねぇ!! 俺は間に合わなかった! 人生を諦めて、選択を間違えて、気づいた時には
(——そう、だよな。どこの誰かは知らないけど……思い出させてくれて、ありがとよ。俺のシスコン魂を!!)
ゲンは思い出す。
自分は勇者でも魔王でも聖女でもない。フォーゼである以前に一人の男で、お兄ちゃんなのだ。
なら、やるべきことは分かっている。気力と共に体の奥底から湧き上がる力を一気に解放した。迫っていた“死”はかき消され、全身の痛みが嘘のように消えた体が眩い光に包まれていく……!!
《3!》《2!》《1!》
———◇———
「ぐッ……!」
「ハジメッ!?」
永遠に感じるような長く辛いヒュドラとの戦闘の最中、ハジメは全身に押し寄せる苦痛に表情を歪めながら地に膝をつけてしまう。
ヒュドラの白銀頭から放たれる猛毒入りの光弾は、ユエの“自動再生”が追いつかないほど二人の体力を少しずつ奪っていき、ハジメの肉体は限界を迎えてしまったのだ。
当然、ヒュドラにとって絶好の機会であり、逃すはずがなく無数の光弾が放たれる。咄嗟にユエはハジメを守るため前に出て魔法を展開する。
「“砲皇”ッ!!」
真空波の竜巻が光弾を迎え撃ち、軌道をユエ達から逸らしていくが、なけなしの魔力で生み出された竜巻なため数が圧倒的に少ない。
数の差で徐々に竜巻は削られ、一つの光弾がユエの肩を撃ち抜いた。
「あぐぅっ!?」
肩の激痛に伴いユエの肉体も限界を迎え、ガクッと力が抜け落ちたことで真空波の竜巻が消え去った。
『クルゥアアアン!!』
白銀頭が、倒れ伏すハジメとユエに勝利を確信したように叫ぶと、ガバッと顎を開いて極光を放つ。
「ッ——ユエッ!!」
自分の痛みを無視したハジメはユエに抱きつき“縮地”を行い、迫る極光からその場を離脱しようとする。だが、
(ッ、足が……!?)
骨が軋むが全身に伝わると足に力が入らず、“縮地”や“空力”ができなかった。
視界が閃光に満たされ、もう眼前に自分達を消し去ろうとする悪意の込められた光の息吹が迫っていた。避けることができないと悟るが、心だけは負けるものかと白銀頭を睨みつける。
直撃する。死ぬ。守れなかったこと、独り残して先に逝ってしまうことを、ハジメとユエは心の中で謝罪しようとして……
《Rocket On》
刹那———音が鳴り響いた。
突風が吹いたかと思えば、二人の体は横から掻っ攫われるように抱き上げられ、さっきいた地点を焦がしながら極光が通り過ぎていくのを上空から眺めていた。
ゴツゴツしたオレンジ色の片腕、白く逞しい胸。安らぎを与えてくれる、この優しい腕の感触を、ハジメは、ユエは知っている。信じられず、夢なら覚めたくない思いで自分達を支える人物を見上げた。
「………あに、き?」
「……ゲン、なの………?」
その人物は、紛れもなくゲン。というか、世界広しと言えども、こんな三角頭の全身白色の人物なんていないだろう。
「おうとも、ゲンさんよ! 待たせて悪かったな、二人共。俺のために頑張ってくれて、ありがとうよ」
いつもと変わらない、怪我なんて何ともないような声色をかけるゲンの姿に目を見開いていたハジメとユエだったが、やがて耐えきれず涙がポロポロ流れるまま抱きつく。
普通の女の子のように泣いている二人の少女の涙を受け止めながら、下でこちらを凝視しているヒュドラを見やる。
周囲に光弾を浮かべながら、今更お前に何ができると問答無用で放つ。たが、ゲンはロケットや背中のジェットパックを操作するだけで簡単に紙一重で全て躱した。
「……よくも俺の大事な妹達に手を出しやがったな、クソツチノコ。俺が千倍にして返してやるから、遺言の一つや二つは考えておきな」
死に損ないの分際で! と言いたそうに怒り狂うヒュドラは光弾を放ちまくるが、一発も掠らない。
上、下、斜め左、と狙いが分かっているように避け続けながら、地面に着地して二人を降ろす。
ゲンは二人の肩に手を置き、お願いした。
「ハジメ、ユエ、ここから先は俺一人に任せてほしい」
『ッ——!?』
ハジメとユエは驚きを隠せなかった。当然だ、三人がかりで倒せなかった怪物をたった一人で立ち向かうなど最早、自殺行為そのものだ。そんな蛮行、許されるはずもない。
「ふざ、けないでよっ……! アイツは、私だけでも! もう、兄貴の手を貸すわけに、いかないんだからッ……!!」
「んっ……ゲンを、死なせたくないッ……! お願い、ここは私達に任せて、ゲンはッ……」
反論されるのは想定内だった。だが、ゲンはここで退くわけにはいかなかった。
何故なら……自分のために怪我を負った妹達に戦わせるなど、兄貴の名が廃るからだ。この少女達を泣かせるような元凶の一匹や二匹、余裕で倒せられるような技量がなければ、ゲンの描く“兄”の理想図から遠ざかってしまう。
「まぁ、反対する気持ちは分かるぞ。俺はハジメの説教やユエのお叱りには、とことん弱い。そりゃあ驚くほど呆気なく……それがお兄ちゃんの性だ、どこの兄貴だって可愛い妹には敵わない……でも、誰よりも弱いわけじゃねえ」
ひらりひらりと光弾を躱しながら、ゲンは困惑するハジメとユエに真剣な眼差しを向けた。
「俺は可愛い妹の涙なんて見たくねえ。お前達を泣かせるクズ共がいるなら、例え相手が人殺しだろうが強盗だろうがウサギだろうが狼だろうが熊だろうが巨大サソリだろうが、バカでかいツチノコ擬きだろうが——俺が黙らせてやる。だから、不安なら俺の背中を見ろ! 俺はお前達以外の誰にも負けねえ! もう二度と!! お前達以外の誰にも勝ちを譲らせねえッ!!」
勝手な約束事を叩きつけると背中を向け、執拗に狙い撃ちしてくるヒュドラに向き合いながら、自分という“兄”の信念を宣言する。
「見ててくれ、俺はアイツに負けない。勇者でも、モンスターでも、ましてや神だろうが、お前達の敵は俺がぶっ倒す! 俺は!! 世界最強の
両腕を挙げて兄貴魂の雄叫びを上げた瞬間、ゲンを中心に猛烈な勢いで光の粒子が放出され、その広場一面を光で埋め尽くす。まるで惑星……否、銀河が誕生したような神々しい輝きを放ち、光に触れた途端、信じられないことにハジメとユエは苦痛が和らいでいった。まるで光の束にゲンの意志が込められているように、戦い傷ついた少女達の心を癒していくようだ。
相対的に、鬱陶しいほど眩しく不愉快な光の粒子に嫌気がさしたヒュドラの白銀頭。ロケットやドリルの武装を解除し、光弾の軌道を全て見切って最小限の動作だけで避けながら、こちらに迫ってくるゲンに痺れを切らす。
『グルゥォオオオオアアアアアンッ!!!』
肉片の一つも残さず消し去ってやろうと、ゲンを瀕死寸前まで追い込んだ極光を再び放った。先程より極太で熱量や毒素の威力も段違いの光線は真っ直ぐゲンに向かう。
急ブレーキをかけた。だが、極光の軌道上で停止し、その場から離れようとしなかった。後方にハジメとユエがいるため離れるわけにはいかなかった。
「ダメッ……兄貴! 私達のことは良いから、早く逃げてぇッ!?」
必死にハジメが叫ぶが、ゲンは逃げ隠れせず、ロケットやドリルも展開する素振りも見せなかった。
利き足を頭上まで上げ、深呼吸すると力を蓄え始める。すると足に放出された光の粒子が蛍のように集約していく。
視界が閃光に染まって極光に覆い尽くされる寸前——ゲンは思いっきり足を振り下げた。
「超・真空踵落としィイイイーーーーー!!!」
風圧と共に足から繰り出された鋭い衝撃波により、向かった極光は
「………すごい」
壁に衝突したことで広間全体が揺れる中、ユエは目の前で起こった光景に思わず感嘆の声を溢す。圧倒的絶望を一瞬で振り払ったその姿は、まるで遥か
「もしかして、この光……コズミックエナジー?」
ゲンが勝手に呼称したことで定着しているベルトやスイッチの動力源でもあり、フォーゼへの変身を可能にするエネルギーだ。この周囲の光の現象は、極小さい微粒子で形成された光のエネルギーが凝縮され目視で確認できるほど高密度になったことによる現象であった。白銀頭の極光を切り裂いたのも、この光の束が超高速の蹴りに上乗せられて衝撃波と化して前方に飛んだためである。
《Rocket On》《Drill On》
「シスコン番長こと南雲ゲン——またの名をフォーゼ、二度目のタイマン、晴らしてもらうぜぇーーーーー!!!」
即座にロケットとドリルの武装を再び展開し、ゴォオオオオオ!! と突進力を上げながら突っ込む。
一方、ヒュドラの白銀頭は己が放つ最大級の大技をあっさりと看破されたことに驚愕を通り越して放心状態になっていたが、迫り来る敵の姿を捉える。だが、ゲンの体から放出している光の粒子を浴びせられたヒュドラは動きが鈍くなり、懐へゲンの侵入を許してしまう。
「コイツに勝つには今の力じゃ全然足りない。もっと大きな力を蓄えるには……ええい、洒落せえ! どうせ俺が頭を使って上手くいった試しはねえんだ! 敗れ被れ、野となれ山となれ、気力と根性と勘に任せてやらぁ!!」
《Rocket・Drill Limit Break》
ロケットを噴出させながら一気に背後へ周り、距離を詰めたところで激しく回転するドリルの先端を白銀頭の背中に蹴りつける。しかし白銀頭もタダで倒してくれない。身体が硬くなる“金剛”の数百倍の硬度と耐久力になる固有魔法の“超金剛”を瞬時に発動し、背中越しでドリルの先端を受け止めた。
動きを鈍らせても極光や“超金剛”など固有魔力の威力は健在であり、強化された皮膚とドリルが衝突し合い、大量の火花を散らす。ギャリギャリギャリギャリッ!! と掘削音を撒き散らすが、一向にドリルの先端は貫通しなかった。ゲンの予想通り威力が足りないのだ……だが、少しずつ変化が現れ始めた。
回転数を更に増すドリルが周囲の大気を巻き込んで風を生み出し、溶け合うように螺旋の渦となった旋風は竜巻となり、ヒュドラの全身を包んでいく。
針を背中に刺してくる小蝿に苛立ち、地面に倒れることで押し潰してやると、足場に力を入れる白銀頭だったが、
ふと、キィイイイと耳鳴りのような音が辺り一面に響く。音の発生源はゲンでも白銀頭でもない。この広間——の天井から鳴っていた。
ちょうどゲン達がいる地点の天井で、小さな黒い点が浮かんでいる。天井の染みかと思われたが、それは紛れもなく“穴”だった。天井に空いた穴は徐々に広がりを増し、最初は小石サイズだったが、人より大きくなり、やがてヒュドラの巨体を上回る巨大な穴にまで増長した。
「うぉおおおおおおお!! 飛べぇええええええええーーーー!!!」
ゲンの気合いと叫びに呼応するかのように、ロケットの噴出の勢いが増し、ゴォオオオオオオオ!! とヒュドラを穴の奥に押し出していく。
『グゥウウウウウウ!? クルァアアアアアアアアアア!!』
穴の奥底に入れられたところで白銀頭は「いい加減、鬱陶しい!!」と言いたそうに尻尾を背中に打ちつけてゲンを引き剥がし遠くへ弾き飛ばす。
無理矢理入れられたその空間は、白銀頭が見たこともない光景だった。呼吸もできない広大な真空で満たされ、上下左右前後、四方八方どこも奥が見えない暗闇で、数え切れない小さな光点が輝く空間。重力という概念もなく有限という言葉も存在しないと言わしめるほど無限に広がる空間は——正しく宇宙、銀河の星雲であった。
見惚れながらも白銀頭は元いた広場に戻ろうともがくが、地面もなければ掴まるものもなく、己の常識が通じない異次元に弄ばれる。
一方、遠くへ追いやられたゲンは自分のいる空間に戸惑いながらも「うし、ここなら!」と好機と考え、ロケットとドリルの稼働率を加速させ続ける。
(まだだッ……もっと……もっとだッ……!!)
速度と勢いが増すほどヒュドラとの距離が遠去かり、姿や形も見えなくなるが、尚も威力を蓄え続ける。
(もっとだッ! こんなものじゃあ、アイツを倒せない!! もっと、もっと威力をッ!)
緋の彗星、蒼の流星、深緑の惑星を通り抜けるが気にも留めず、加速を緩めず、ゲンはベルトのレバーに手をかける。
「もっとだ! もっと、もっと、もっと——もっとだぁあああああああああああッ!!!」
《LimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimitLimit——Limit Break!》
何度もレバーを押し続けたことで壊れたスピーカーのように鳴り続け、ロケットとドリルの機関部にスパークと火花が飛び交いオーバーヒートを起こすが、ゲンの魂が具現化したかのように威力が格段に増した。土星を彷彿とさせる輪っか状の衛星がついた惑星の周りを旋回することで加速度が更に増長され、光速を超えたゲンはヒュドラの元に戻る。
体の奥底から溢れ出た大量の光、コズミックエナジーは腕と足に纏わり、巨大なロケットとドリルに変貌した。
遥か遠くから、こちらに来るゲンの存在に気づいた白銀頭は身体中に残っている全ての魔力をかき集め、再び“超金剛”を作動させる。
「俺の家族を、泣かせんじゃねえぞぉおおおおおおおお!! 超・ロケットドリル、キィイイッックゥウウウウウーーーーーー!!!」
炎を噴きながら光速回転する巨大ドリルは、あっという間に胴体を貫き、白銀頭の胴体と首を離れ離れにした。
刹那、白銀頭の絶叫が鳴り響き、超新星を思わせる閃光が宇宙空間を照らした。
———◇———
「……ハジメ、ゲンは? ゲンはどこに行ったの?」
「私に聞かないでよ。私だって、何がどうなっているのか分からないんだから」
一方、元の広間に残されたハジメとユエは、文字通り影も形もなく消え去ったヒュドラとゲンを目にして混乱を隠せない。ゲン達が入った穴、もとい異空間へ繋がるワームホールは未だ開いたまま。
「……ねぇ、ハジメ。ゲンは、本当に人間?」
ユエの率直な問いは当然の反応と言えるだろう。巨大な敵を丸ごと次元の彼方に飛ばすなど、ユエの知る限りでは魔法を遥かに凌駕する。魔物の肉に含まれる毒素に元から耐性があり、身体強化の技能なしで低級の魔物を素手で瞬殺する、未知のエネルギーをいとも簡単に使って敵の攻撃を力技で相殺するなど、ハジメの住んでいた世界はもちろん、この世界でも人間の常識を超えている。
正直、驚いていないと言えば嘘になるハジメだったが、
「どうでも良いんじゃない? そんなこと」
「え?」
「兄貴は人間(?)だとしても、誰より喧しく破天荒で、シスコンと自称するバカなのは変わりないじゃない。あの人は私の兄貴——南雲ゲンよ」
「………ん。確かに、もし人外でもゲンはゲン。ゲンのお陰で、私達は救われた」
答えになってない返答に十分満足するユエ。彼女も銀河級のバカを自分の常識の範囲内に当てはめることが無駄だと理解したのだ。この場に本人がいれば「失敬な! 俺は人間じゃぁあああああ!」と講義しまくるだろう。
次の瞬間、
『クルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』
虚空のワームホールから、白銀頭ものらしき断末魔が鳴ると同時に、眩い閃光と爆発音が迸った。向こう側の空間で起こった爆発の余波が伝わり、広間全体が大きく揺れる。
地響きでまともに立つこともできない中、ハジメとユエは見た。閃光と爆炎を掻き分け、ワームホールから飛び出した白い戦士の姿を。
『
ドリルの先端が地面に突き刺さり、数回ほど体が回ってからロケットとドリルが機能停止する。
続けて、ワームホールからボロ雑巾のようなヒュドラの肉体が落下してきた。衝突の際、ドッシーン!! と盛大な地響きを立てた巨体は頭部が欠け、遅れて落ちてきた焼け焦げた白銀頭の頭部が地面に転がる。白銀頭が絶命したことを物語っていた。
直後、ゲンの右腕と左足スパークが走り、ボンッ! と大破する。右腕ロケットの噴出口から黒い煙が上がり、左足ドリルの先端が折れ曲がっていた。これ以上の使用は無理なのは明確だ。
役目は終えたとフォーゼの変身が強制解除される。血だらけで荒い息を吐き、片目をキツく閉じながら、生きているのが不思議なくらい満身創痍だったが、しっかりと立っていたゲンの姿があった。
ハジメとユエを見て、無事なのを確認したゲンはいつものように笑う。
「よ、よぉ。ただいま、ぁ〜……」
そのまま地面に倒れ込むゲンに、二人の少女は慌てて傍に寄る。
何とかゲンの元へ辿り着いたハジメとユエが抱き着いてくる感触を味わいながら、二人の不安そうな表情を目にする。
「動けない、怠い、眠い。働く細胞よりも働き過ぎた。もう
D●O様のような本音を吐き、即座に就寝に突入するゲン。分かりやすく鼻提灯を膨らませながらいびきをかく男の姿に少女達は安堵した。
………だが、その安堵は一瞬で終わりを迎えてしまう。
瓦礫の山から、這いずり回るような大きな物音が鳴り響いたからだ。
「えっ? そんな……!?」
「冗談でしょ!? アイツ、まだ生きて———」
感知系技能から、首を失い絶命したはずのヒュドラの反応がまだ残っていたことに気づいたハジメは、第三ラウンドに入ることに悪態を吐こうとして……口を閉ざす。
確かに、ヒュドラはまだ動いている。ただし、頭部を失った状態で、だ。
ゴキブリやカマキリのように頭部を切断されても、体の節々にある神経節により暫く動くことができる昆虫がいる。それと似たような魔力の神経がヒュドラにも通っているようだ。持って数分の命だが。
ユエは掌から魔法を出して止めを刺そうとすると、ハジメに手で制される。
「お願い。アイツは私に殺らせて……」
「………絶対に外すな、義妹」
「だから義妹って呼ぶな」と言いつつ、真剣な頼みに了承してくれたユエに感謝しながらドンナーを握りしめる。
ふらふらと近づき、這いずり回りながら近寄ってくるヒュドラの眼前まで歩いた。目と鼻の先にいるハジメに敵意を向けるヒュドラだが、頭部がないため極光はおろか光弾も放つことができない。
侵入者への敵意、特にここまで貶めたゲンに殺気を保つのがやっとなのに、ラスボスの役目を全うしようとする姿に、ある意味ハジメは尊敬する。
ヒュドラの姿が、あの時、自分を恐怖のどん底に陥れた爪熊と重なって見えた。思えば爪熊やヒュドラへの恐怖は、隣でゲンが変わらず馬鹿でいてくれたから、いつも通り傍にいてくれたから、恐怖が拭われ乗り越えられた。だからこそ、これ以上の足手纏いは嫌だ。そんな愚行、ゲンの“妹”としてプライドが許さない。
頭部を失ったヒュドラの断面図から、魔力を蓄える臓器や生命維持装置らしきものが発光しているのが覗けた。ハジメはゆっくりと照準を定める。
「私達は、帰りたい……他はどうなっても良い。私達は私達のやり方で、生きて、帰るんだ。だから……邪魔をするなら、私達の糧になれ」
引き金を引いた。撃ち出された弾丸は主人の意思を忠実に実行し、ヒュドラの命綱を粉砕した。
銃声が木霊する。ヒュドラの体は大量の血を地面に流し、大きな巨体は倒れ伏せた。
感知系技能を確認すると、今度こそヒュドラの反応が消えている。今度こそ、ヒュドラを倒したのだ。
最後にヒュドラを倒した技は、TV版のフォーゼがスコーピオン・ゾディアーツを倒した際に使用したものです。また、ヒュドラの極光を割った踵落としはONE PIECEの『嵐脚』のイメージです。
最後に、首がない状態で蠢くヒュドラにトドメを刺したハジメちゃん。一歩前進っていう感じです。
そして独自設定ですが、コズミックステイツにならなくても、シスコンパワーでワープドライブを偶発的に可能にしたゲンさん。多分、もうできないでしょう。
因みに「空間移動ができたのなら元の世界に帰れるのでは?」という意見があるかもしれないので、先に独自設定を説明しておきます。
もし空間移動を自在に扱えるようになっても、今のままワープドライブしても元の世界の座標が定まらないため帰還することはできません。運任せで何度もチャレンジしても一万年はかかってしまうでしょう。
何か分からない設定や疑問点があれば、その都度返答していきます(ネタバレに繋がる内容はお答えできませんので、ご了承ください)
今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m