ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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あけましておめでとうございます&お待たせしました、皆様!
本当は去年のうちに投稿したかったけど、間に合わなくて申し訳ない!

今回は“初代”登場の巻です。暇潰し程度で構いませんので楽しんでくれるとありがたいです。
それではどうぞ。


18.オス・カー・オル・クス!!

体が何か暖かで柔らかなものに包まれているのを感じる。随分と懐かしい感触、何度も肌で味わったこれは、ベッドの感触だ。頭と背中を優しく受け止める枕と、体を包む羽毛の感触を感じ、寝惚けているハジメの意識は混乱する。

 

(何、ここ? 迷宮じゃないの……どうして、ベッドに……って、これ何?)

 

覚醒しきっていない意識のまま、自分が何かに抱きついていると理解した。真っ平で、ベッドと違い硬い感触だ。

ボーッと考えもせず、ハジメは手をムニムニと動かす。抱き枕のように包み込んでいる何かは癖になりそうで、触れるだけで愛おしい気持ちになる。目を閉じて顔を埋め、硬い表面に無意識に口付けを行うようになり、夢中になっていると……ゲンの顔が視界の端に入った。

 

(ッ—————!!!?)

 

その瞬間、微睡んでいた意識は一気に覚醒し、慌てて体を起こした。悲鳴を上げなかった点は褒めるべきだろう。

さっきまで抱きついていた硬い何かは、ゲンの体で、自分はゲンの胸板に顔を埋めてキスしていたことを理解する。燃えるような羞恥心がハジメを襲いながら、周囲を見渡した。

純白シーツに豪華な天蓋付きの高級感溢れるベッド。その上でハジメは自分が本物のベッドで横になっていた。

 

「……そうだ。あの後、扉の奥を潜ったら、ここに着いたんだった」

 

意識が覚醒し、記憶も鮮明に思い出されていく。

ヒュドラとの激戦後、番人を倒した褒美を授けるように、奥の扉が勝手に開いたのだ。即座にハジメとユエは新手の敵かと警戒したが、いつまで経っても変化は訪れず、ハジメの感知系技能も魔物の反応がないこともあり、少し経ってから回復したユエと共に扉の奥へ入った。

神水で少しずつ回復し、強靭な肉体と生命力で一命を取り留めているとは言え、ゲンが重症であることに変わりはない。依然危篤状態であり、いつ極光の毒が神水の治癒力を上回ってもおかしくない。一刻も早く回復に専念できる安息地を探す必要があった。

警戒心を緩めず、踏み込んだ扉の先に待ち受けていたのは——反逆者の住処。

広大な空間に住み心地の良さそうな屋敷があり、危険でないことを確認したハジメとユエは、ゲンを運んでベッドに寝かしつけた。神水を飲ませ続け、遂に極光の毒素にゲンの抗体力が勝ったところで、自分達も力尽きた……そして今に至る。

もう一度、ゲンの表情を覗き込むと、通常通り回復した模様で、呑気そうな寝顔を浮かべていた。

 

「良かっ、たっ……兄貴が、生きてくれてっ……兄貴……お兄、ちゃんっ……」

 

ハジメの瞳から涙が溢れ、ベッドのシーツに滲んでいく。あの光の粒子——コズミックエナジーは人体に害はないか不安だったが、触れた自分も無事であることからその心配は杞憂のようだ。

ふと、ゲンを挟んで反対側のシーツの山がもそもそと動いた。

もう一人の姿が見えないことに疑問を抱きながら静かにシーツを剥ぎ取る。

 

「………んぁ……ゲン………ぁう………」

 

案の定、一糸纏わぬ小柄な少女のユエがいた。小さく体を丸めながらゲンの右手を太ももに挟むように抱えて眠っている。

 

「………………」

 

その光景に表情が抜け落ち、ハジメは完全な“無”の表情のまま硬直してしまう。今更だが、ユエは素っ裸であるのに対してハジメは下着姿だった。

無意識にユエはゲンの右手を太ももで挟んだまま、危険な場所に接近させて擦り付ける。

 

「………ゃぅ……そこ……だめぇ………ゲン……んぁぁ………こわれ、ちゃぅ………んちゅぅ」

 

右の指先から何やら水音が鳴り、艶かしそうに喘ぎ声を上げるユエはゲンの腕に寄って、クチュクチュゥ、と男なら誰もが前屈みに陥るような艶かしい口付けを行う(注意:因みに言っておくが、ゲンは一切体を動かしておりません)。

夢の中で何しているか、もしくは見せつけているのか定かではないが、ハジメの中で何かがブチっと切れた。

無言でベッドの上に立ち上がり、Jリーガー顔負けの見事なシュートフォームで、ゲンに当たらないようにユエ(ボール)を蹴り飛ばす。

 

「———地の果てまで飛んでいけ!」

 

「はにゅッ!!?」

 

実に鋭い蹴りで、胸部を蹴り付けられたユエはベッドから転げ落ち、その拍子に千切れた薄いカーテンを伴いながらゴロゴロッと転がり遠ざかる。

再びゲンを見やると、同じく下着は最低限身につけているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()……仕方ないもの、ゲンだって、兄貴だって、男だもの。

のんびり寝ている挙句、寄生虫(ユエ)に体が反応している様を確認し、ハジメの嫉妬が頂点に達し……”纏雷“を発動した。

 

「とっとと起きろぉッ! このバカエロ兄貴がーーーーー!!」

 

バリバリバリバリィッ!! とおびただしい紫電が()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「ぎょばあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!???」

 

 

 

 

一人の男の断末魔が木霊したのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、

 

「ハジメさんや、さっきの電撃、お兄ちゃんに対するモーニングコールにしては刺激が強過ぎないかい? お兄ちゃん危うく永眠に突入するところだったよ」

 

「ん……私達の睡眠の邪魔をしないで、キメラ擬きが」

 

「兄貴の手で自慰していた変態寄生虫は黙っていろ、永遠に」

 

「お前が永遠に黙れ、キメラ擬きが。でも……ゲン、激しかった。これはもう、責任を取ってもらうしか」

 

「ユエ、さん……!? 頬を手に当てて真っ赤になっているけど、俺、何かやった感じ? ……はっ! ま、まさかッ!? ユエが裸でハジメが下着姿、俺がパンツ一丁だったのは、そういう事情があったのかぁッ!? 義妹や年端も行かない風貌の女の子に手を出すなんて、俺は何てことを——」

 

「そんなわけないでしょ、兄貴と私の服がボロボロで汚れていたから寝かす時に脱がしただけよ。そこの寄生虫は唯の露出狂。だから私の兄貴を見て舌舐りするんじゃないわよ、変態寄生虫が」

 

「……ゲンの胸にマーキングしていた恥知らずのキメラ擬きに言われたくない」

 

「なっ! お、起きていたの!? だいたい、恥知らずはそっちでしょ! 裸で兄貴の指を出し入れして自慰していた癖に!!」

 

「私の人生に恥などない。そっちこそ……」

 

「あぁああああッ!! 俺は、俺は何て罪深いことをしてしまったんだ! 妹達に手を出すなんて、俺はどうずれば良いんだァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!?」

 

サイズの合わないカッターシャツを纏い妖美な眼差しを向けるユエ、同じくカッターシャツを羽織って人一倍の警戒心と嫉妬心を顕にするハジメ、勘違いのまま己の罪を数え出すズボンだけでも履いた馬鹿(ゲン)。色々混沌(カオス)と化した会話を交えながら、三人は反逆者の住処らしき屋敷へ足を運んでいる。

周囲の光景は圧倒されるようなものだった。

地下迷宮のはずなのに太陽が浮かんでいる。もちろん本物ではないがユエ曰く、夜になると月みたいになる。

それだけではない。癒しのマイナスイオンに満ちている川、清涼な風を運んでくれる滝、少し離れたところに設置された家庭菜園や家畜小屋(どちらも今は未使用だが)、屋敷内に入るとライオン石像付きの露天風呂まである。お風呂大好き日本人の南雲兄妹はこれに喜び、「丁寧な受付と清掃員がいれば高級ホテルじゃん!!」と思わず叫んでしまうゲン。後に、一定期間ごとに働く清掃用に特化した自立ゴーレムを発見して歓喜するのは余談である。

ハジメの感知系技能を駆使しながら屋敷の奥へ進むが、生き物の気配は一つも感知されず、三階の奥の部屋まで散策し続けた。

部屋の扉を開くと、中央の床には直径七、八メートルの見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が刻まれ、魔法陣の向こう側に豪奢な椅子に座った人影がある。

人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施されたローブを羽織った状態で天に召された様子だ。

 

「いや、明らかに怪しいでしょ? こんなところで死ぬなんて」

 

「……ん、同感。どうする?」

 

「んん〜? あのローブ、どっかで見たことあるよーな、ないよーな。う〜ん……」

 

ハジメやユエもこの骸に疑問を抱いている。ゲンは骸が羽織っているローブを見て何かを思い出そうと悩んでいた。

この骸こそ、反逆者と言われる者の一人なのだろうが、この部屋で苦しんだ様子もなく朽ち果てたその姿は、まるで誰かを待っているようだ。

 

「まぁ、地上への道を調べるためにはこの部屋が鍵なんでしょ。私の錬成も受け付けない書斎と工房の封印もあるし……仕方ない、私が調べるから、そこにいて動かないで。特に兄貴」

 

「何ゆえ名指し!?」

 

心外だと抗議するゲンの言葉を無視して、ハジメは骸へ近寄る。

ハジメが魔法陣の中央に足を踏み入れた瞬間、カッと光が爆ぜ、部屋全体が日光のような輝きで埋め尽くされた。

眩しさに目を瞑るハジメ。直後、何かが頭の中に入り込み、走馬灯のように奈落に落ちてから今まで起こった光景が脳裏を駆け巡る。

魔法陣を発生源とした魔力の光が弱まり、目を開けたハジメの眼前には……どこから湧いて出たのか、見知らぬ黒ローブの青年が立っていた。

咄嗟に身構えるが、青年からは敵意や悪意はおろか、生命の鼓動そのものが感じられず警戒態勢を緩める。よく観察すると、青年が羽織っているローブは後ろの骸と同じものだ。何となくハジメが青年の素性について察すると、おもむろに青年が語り出す。

 

『試練を乗り越え、よく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えば分かるかな?』

 

青年、オスカー・オルクスの姿に、ゲンは「あっ!」と思い出したように声を上げた。

 

「やっぱりそうだ! あのロング髪の根性なしメガネの人だ!」

 

「? ゲン、知っているの……?」

 

「俺もよく分からねえけど、夢の中にこの人が出てきたんだよ。そっかぁ、この人が反逆者だったのかぁ。弟や妹もいるって聞いたから良いお兄さんだろうなぁ〜……待てよ? あの後どうなったんだ!? オスカーさん、弟や妹を救えたのか!? 兄として家族を——」

 

「う・る・さ・い!! あんたの声量でコイツの声が聞こえないじゃないバカ兄貴!!! このメガネの話は後で聞いてあげるから今は黙ってろッ!!」

 

「…………すみません」

 

枯れた草花のように落ち込むゲン。その隣で「よしよし」とあやすユエ。苛立ちを抑えながらハジメは今度こそ青年の話を聞く。

 

『——ない。だが、この場所に辿り着いた者に、世界の真実を知る者として我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい……我々は反逆者であって、反逆者ではないことを』

 

オスカーの話は、ハジメ達が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは全く異なる史実だった。

真実はこうだ——狂った神と、その子孫達の戦いの史伝。

神代の少し後の時代、世界は争いに満ちていた。領土拡大、種族的価値観、支配欲、など数多くの理由で人間、魔人、多くの亜人達が絶えず戦争を続けていた。戦争が長引く一番の要因は“神敵”だから。それぞれの種族、それぞれの国、それぞれの時代で祭っていた神から神託が下され、人々は争いを止めなかったのだ。

だが、その何百年と続く戦争に、終止符を討たんと立ち上がった者達がいた。それが“反逆者”——当時は“解放者”と呼ばれた集団である。

彼ら全員、神代から続く神々の直径の子孫であったという共通点があり、“解放者”のリーダーは偶然にも神々の真意を知ってしまった。神々は人々を救う気など毛頭ない、駒として遊戯のつもりで戦争を促していたのだと。裏で神々が人々を戦争の駒として巧みに操ることに耐えられず、志を同じくする者、大勢の同志を集めたのだ。

 

「あ、そっか! サクヤさんが言っていた“彼等”って、この人達のことだったのか」

 

史実から察するに、ゲンにドライバーを渡したサクヤさんは“解放者”のメンバーの子孫なのだろう。

オスカーの話は続く。

“解放者”の中でも一際目立ち、神々の信徒から“悪魔”と恐れられ、神々からも目障りな天敵と比喩された男がいた。その者こそ“初代フォーゼ”である。

 

『当時、彼は世界で唯一神託に惑わされない体質から、神々に傷を負わせることができる者として“悪魔”と呼ばれていた。でも、我々からすれば仲間であり、同志であり、救世主だった。本当に、惜しい友人を亡くしたよ……ああ、すまない。話を戻そう』

 

初代フォーゼの話をした途端、オスカーは切なそうに表情を暗くするが、すぐに切り替えてその後の顛末を話した。

神々との最終決戦の前に、神々の陰謀によって最終決戦を迎えられず”解放者“の目論見は破綻してしまう。神々は人々の心を巧みに操り、フォーゼを筆頭に”解放者“達こそ世界に破滅をもたらそうとする神敵だと認識させたのだ。その過程にも色々あったが、守るべき人々に力を振るうわけにもいかず、神に仇なした神敵として“反逆者”の汚名を貼られ、“解放者”達や同志は次々と討たれていった。

最後まで残ったのは、先祖返りと言われる強力な力を持った七人と、初代フォーゼだけだった。

世界を敵に回し、最早自分達では神を討つことはできないと悟った彼等は、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにした。それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

壮大な話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

『君が何者で何の目的でここに辿り着いたかは分からない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくはあしき心を見たすためには振るわないで欲しい……話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意思の下にあらんことを』

 

オスカーの記録映像(ホログラム)はスゥッと消えた。同時に、ハジメの脳裏に何かが割り込んでくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法の刷り込みだと理解できたので大人しく耐えた。

痛みが消え魔法陣の光も収まる。ハジメがゆっくり息を吐いていると慌てて寄る兄の姿が視界に入り、違う意味で息を吐く。

 

「大丈夫か、ハジメぇッ!? 何か痛そうだったけど、あのメガネの人に何かされたのか!? それとも、メガネから聞かされた話が怖かったのかッ!? 大丈夫だ! お兄ちゃんがいる限り、神だろうが何だろうが全然へっちゃら——」

 

「うるさい。平気だし、気が散るから少し黙って」

 

「……はい。度々すんません」

 

「それにしても……何か壮大な話を聞いてしまったわね。教会で習ったことが全部、真っ赤な嘘なんて」

 

「……ん……ゲン達は、どうするの?」

 

オスカーから真実を聞かされ、ユエは今後の方針をどうするか尋ねる。

 

「私は別にどうもしないし興味もない。元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう(クソ)なんて迷惑としか思ってないから。この世界がどうなろうが知ったことじゃないわよ。地上に出て帰る方法を探して、故郷に帰るだけよ……兄貴は?」

 

「……言いたいこと全部ハジメに言われちゃって何も浮かんでこない。だが、敢えて言おう! 神はカスであると!」

 

話の流れで何か名言を言った方が良いと暫く考えたゲンだったが何も浮かばず、それっぽいことを宣言して誤魔化す。結果、二人の少女から「それは言わなくても良い」というジト目を頂戴するだけだった。

だが、ゲンもこの世界に未練はない意見は一緒だった。奈落に落ちる前であっても、その意見が変わることはなかっただろう。

しかし、この世界の住人であるユエは? と尋ねようとすると、ユエは首を振って微笑む。

 

「私の居場所は、ゲンの傍……他がどんなに恵まれても、ここしか知らない」

 

ユエは過去、自国のために己の全てを捧げてきたにも関わらず、信頼していた友人や家族に裏切られ、国民の誰一人も助けてくれなかった。三百年間も孤独という牢獄に閉じ込められたユエは、ゲンに救われた。だから、ユエにとって世界とはゲンの隣に立つことだ。

 

「いやぁ……嬉しいことを言ってくれるねぇ。真正面から言われると照れちまうよ」

 

照れ臭そうに顔を赤らめるゲン。ユエと少し良い雰囲気になって気に食わないと感じたハジメはゴホンッ!! と盛大な咳払いをしてから話題を切り替え、ユエの話を強引になかったことにさせる。

 

「そういえば兄貴! あの魔法陣の上に立つと神代魔法を覚えられるみたいよ。アーティファクトも作れちゃうみたい。ほら、兄貴も行ってきて!」

 

「んお? ホントか! するとハジメはその神代魔法とやらを使えるのか! アーティファクトというのは、よく分からんがスゲェなハジメ! よーし、俺も行ってみるぜ!」

 

無料で魔法が覚えられると解釈し、魔法が使えないゲンはウキウキした気分で魔法陣に向かう。その後方で乙女の戦いが行われているとも知らずに。

 

(……せっかくの良い雰囲気だったのに。邪魔するな、キメラ擬き)

(寄生虫が生意気なこと言わないでくれる? 見ているこっちが痛々しいのよ)

 

『ッッ………………………………!!』

 

ユエとハジメはお互いの顔面がぶつかるのではないかという程、近距離で火花を散らしながらメンチの切り合いをする。

一方、ゲンは遊園地のアトラクションに乗る感覚で魔法陣の中央に入った。魔法陣が輝き、ゲンの記憶を駆け巡ろうと頭の中に何かが……一向に入って来ない。

 

「……あれ? 何も感じない。え? これって、もしかして俺は失格ってこと? うそーん!? 俺メッチャ頑張ったのに、脱落なのかぁ!!」

 

ハジメの時のように痛みもなければ何の反応も起こらず、盛大に落ち込むゲンだったが、魔法陣が発動しているなら試練はクリアしたものと判断されているはず。

またオスカーが現れる。だが、今度は様子が違っていた。

 

『この映像記録が流れているということは、この場に“フォーゼ”の力を受け継ぐのに相応しい者が現れたということだね。私はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ』

 

「あ、また出た。ちょっとメガネさ〜ん! 俺だけ何も起こらないんですけどぉ〜! これって壊れていません? ねぇ、黙ってないで何とか言ってくれよぉー!!」

 

記録映像で質問の受け答えができないと説明を受けたにも関わらず、手抜き工事だと抗議の嵐を浴びせるゲン。この場に生前の頃の本人がいれば、誰かを彷彿とさせるウザさで顔に青筋が走っていただろう。

どうやらフォーゼの資格を持つ者が魔法陣に触れると、別の記録映像が流れる仕組みのようだ。

 

『この場所に辿り着いた君に、メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらって——』

 

『おーい、オスカー。俺の出番はまだかー? さっきから準備しているんだけど、そろそろメンドクサくなったぞー。茶菓子の一つでも出せー』

 

『あ、コラ黙っていろ! 今それっぽい雰囲気で話しているんだから、僕が良いと合図を送るまで出てくるな! ……んんッ! すまない、気にしないでくれ。ちょっと近くに見知らぬ阿保がいるだけさ。さて、話は戻すけど、フォーゼの力を継承する君に託すものが——』

 

『オスカー、やっぱり俺が言った方が良いや。後輩へのメッセージは先輩の俺から言った方が良いし……俺も出たいから変わってくれ』

 

『一番最後が主な理由じゃないか! ヤメロこの阿保ォ! お前みたいなマイペースの阿保が初代だとバレたら、後に続く後継者がやる気をなくしてフォーゼの座から降りるかもしれないだろう!? 僕に任せてお前はその辺で大人しくしろぉ!!』

 

『でも、お前……コレ全部録音されているぞ? 多分』

 

『ああ、しまったぁっ!? せっかく貴重な機材から映像記録を錬成したのに!』

 

『まぁまぁ、落ち込むなよ、オスカー。やり直しが効かねぇものはしょうがねぇ。ここは俺に任せな』

 

『誰のせいだと思っているッ!? はぁ〜……分かったよ。どうなっても僕は知らないぞ』

 

虚空に向かって言い争いをするオスカー・オルクス。先程、この世界の史実について語っていた知的な人物と同一人物と思えないほど狼狽えていた。

 

「………………え? 何、今の?」

 

流石のゲンでも、目の前で起こった記録映像に困惑を隠せない様子だ。少なくとも映像の情報から、オスカー・オルクスという人物は生前、知的メガネキャラではなく苦労人キャラだったということが判明した。

溜息を漏らしながら不安そうな様子でオスカーの映像が消え、入れ違いに別の男の映像が現れる。

右頬の上に大きな傷が通り、死んだ魚のような目つきや怠そうな口調から“無気力”という言葉がピッタリな男だ。話の筋から、この男こそ初代フォーゼだろう。

この男が、オスカーやサクヤさんが言っていた救世主(希望)? と、ゲンは怪訝そうな眼差しを向ける。男はおもむろに口を開いた。

 

『試練クリア、おめでとよ………そんじゃ』

 

ズコーッ!! と見ていたハジメとユエもコケそうになる。それに『待て待て待て待てぇッ!!』と怒号をかけたのは、もちろんオスカー。

 

『それだけか!? もっと他に話すことがあるだろう! この世界の真実とか、僕達は何者なのかとか、どういう経緯でこの迷宮を創り出したとか! おめでとうの一言で終わる奴があるかッ!!』

 

『そんなこと言われてもなぁ? そこら辺はお前が全部言ってくれるだろうし、俺が話すことって実質何もねぇんだよぁ〜……やってみて分かったけど、映像記録って超メンドクセーな』

 

『お・ま・え・が! やりたいって言ったから強引に変わったんだろうがぁ! どの口が言っているんだよ!? だから僕は、この阿保の映像を記録するのは嫌だって言ったんだ! こうなるって分かっていたから!』

 

ますますゲン達の中で“苦労人”のレッテルを貼られるオスカー。そんなオスカーから神代魔法を貰ったハジメは、故郷に帰れるため役に立てるのか疑ってしまう。

この初代フォーゼ、二代目フォーゼのゲンに負けないほどルール無用な性格であった。オスカーらしき手に押し出され、渋々と言った様子で初代フォーゼは話を続ける。

 

『メンドクセーな。えーと……俺はノン・ビーリ。お前からすれば先輩だ。まぁ先輩だからって、そう畏まるな。俺みたいにテキトーでいりゃぁ人生は上手くいくもんだ』

 

いや人生舐めんな、と誰もが罵りたくなるほど男はやる気がなさそうだ。傍で「“ノン・ビーリ”……見た目通りね」と呟いたハジメに、同意して頷くユエ。

 

「いや人生舐めんな! それに周囲の奴らのことを考えてやれ! ボケとツッコミだけじゃあ人生は上手くいかねえんだからなぁ!!」

 

男にゲンは激昂するが、質問の受け答えができない映像なのでその行動は無意味であった。因みに「お前が言うな」という視線を背中に向けている二人の少女のことは全く気づかない様子。

ノン・ビーリは頭をボリボリかきながら怠そうに話を進める。

 

『えーと、何だっけなぁ……あぁ、フォーゼに選ばれたから、これからどうするべきなのか聞きたいか?……好きに使えば良いんじゃね? 俺も好き勝手したからなぁ……お前がその力で、オスカーが夢に見たメイドゴーレムハーレムを再現しようが、ナイズみたいに複数の幼女を嫁に貰おうが、メイルさんのようにドS界の女帝になろうが、俺は別に何も言わねぇよ』

 

次々と先程オスカーが話した“解放者”のメンバーのものと思われる情報が入ってくるが、ロクな情報が一つもない。取り敢えず分かったことは、口を滑らせたノンと『ちょ、待!?』と慌てふためくオスカーを含め、“解放者”のメンバーの半分以上がマトモな奴じゃないということだけだった。

ますます神代魔法に不安を覚えるハジメと、神代魔法を習得するのを止めようかと思い始めるユエ。

とっとと話を終わらせたいと表情が語っているノンは再び口を開く。

 

『正直、俺だってこの力を使ってムカつく神や信徒共をぶん殴ったからなぁ〜。世界の命運とか、どーでも良んだよなぁ……だからお前も、そーすれば?』

 

ノン・ビーリは呆気からんと答える。フォーゼとして世界を救えとか、フォーゼとして神々を討て、など言う素振りは微塵もなかった。

守るべき多くの人間に“悪魔”と罵倒されても、この男は世界より仲間(ダチ公)を守りたかった、それだけのためにフォーゼとして戦ったのだ。故にどんな汚名を被せられても気にも留めないのだろう。オスカーがこの男を友人と言った理由を何となくゲン達は理解した。

 

『俺は友達(ダチ)を守るために力を振るった。だから、お前も好き勝手やれ。どうせ俺がどんな事情を言っても、お前からすれば関係ないだろうしなぁ……でも、後悔だけはするなよ? 大事な家族がいるなら、守ってやれ』

 

だらしなく話し続けたノンだったが、この時だけ悲しげな表情を浮かべていた。

 

『オスカー、もう止めて良いぞ。俺からは以上だ』

 

『……本当に良いんだな? ノン』

 

『そろそろメンドクセーし、長々話しても、つまらねぇだけだろ? 俺はこれぐらいで丁度良いや。この後、彼女とデートに行く予定だからな』

 

絶対、最後が主な理由だろ! と叫びそうになるが堪えた自分達を褒め称えるゲン達。ゴソゴソと撤収する作業音が映像記録からはみ出る中、ノンは思い出したように続ける。

 

『あ、言い忘れてた……試練クリアした褒美に、俺からもプレゼントを渡しとくわ。ま、暇潰し程度にこれも使ってみな。使()()()()()()()()()の話だけど……じゃあな』

 

そこで記録映像がプツンと消えた。同時に、ゲンの眼前で何もない虚空から小さな物体が二つ現れ、手元に落ちる。それらは黄金に輝く“10”と刻まれたものと、“20”と刻まれた赤に輝くアストロスイッチ。これが、ノン・ビーリが言っていた試練クリアの褒美なのだろう。

 

「………ん? あれあれ? 結局、俺の神代魔法は?」

 

ゲンを見る限り、神代魔法を覚えた様子は全くなかった。

試しにユエが魔法陣に入ってみると、オスカーの記録映像がまた現れ、色々台無しな雰囲気になりながら神代魔法を覚えた模様。

つまり考えられるとすれば……魔法適正のないゲンは覚えることができない、ということだ。

 

「何でだぁあああああああああああああああ!!?」

 

ファンタジー系が大好物のヲタク男子にとって、この事実は何よりもショックだったのだろう。四つん這いの状態になって軽く闇堕ちしかけているゲンに、神代魔法を難なく習得したハジメとユエが慰める。

 

「元気出しなよ。別に兄貴は魔法が使えなくてもフォーゼの力があるんだから、私達より無敵じゃない」

 

「……ん。この中で一番頼りになる」

 

「え、そう? そーだな! 長々と詠唱を呟くよりも殴って解決する方が俺の性に合うからな!」

 

言葉巧みに煽てられ、あっという間に立ち直るゲン。その隣でオスカーの記録映像微笑みながら何もない空間に話を続けている。実にシュールな光景だった。

 

「取り敢えず、あの死体を片付けよ。ここはもう私達のものだし」

 

ハジメに慈悲はなかった。

 

「ん……畑の肥料になる……」

 

ユエにも慈悲はなかった。

 

「でも大丈夫かな、俺ら祟られないかな? あ、そうだ! つまらないものだけど、王国を出る前、メイドさんに仕立ててもらったハジメのサイズに合わせたメイド服でもお供えしようか——ごぱぁ?!」

 

ゲンは慈悲がない以前に変態だった。というか、ずっと持っていたの、それ?

案の定、殺傷力が抑えられた弾丸を顎に撃ち込まれる。

メイド服と唱えた瞬間、密室で無風のはずなのに隠れメイドフェチのオスカー・オルクスの骸がカタリと項垂れた。その拍子に右手がサムズアップの形になったのは、偶然か、それとも……

 




初代の名前の由来は、そのままです。特に深い理由はありません(笑)

また、回想シーンに登場した時と印象が違いすぎるという意見が出るでしょう。
ズバリお答えしましょう。初代は変身すると性格が変わるんです!
お答えできる情報はこれだけです。

え? 情報量が少なすぎる? え〜い、じゃあ特別にもう一つ!
ミレディの次に解放者のメンバーを困らせたキャラです。以上!

初代の過去は、また次の迷宮で少しずつ明かしていきたいと考えています。暫しお待ちください。

それでは、また次回まで。ありがとうございました!
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