ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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3.勇・者・会・議!!

現在ゲン達は召喚されてから、長いテーブルと椅子がいくつも並べられた部屋へ移動していた。イシュタルがまだ混乱している生徒達に「この様な場所では落ち着くこともできますまい。さ、此方へお掛けになってください」と、落ち着かせるためにセッティングされた場所だ。

入り口から最も遠い場所にイシュタルが腰掛け、その近くから愛子先生、光輝、雫、龍太郎……といった学校の人気者の面々が座っていき、後は適当に座る。

ハジメが最後尾のところに座ると、その隣にゲンがさも当たり前のようにハジメの左隣に座り、それを見た香織は慌ててゲンの左隣に座った。その時、檜山は憎しみを込めた視線をゲンに向けていたが、ゲンが「ん? 何メンチ切ってんだよ……?」と一瞥するだけで大人しくなる。

全員が席に着いたと共に部屋にメイド服の女性が一斉に入って来て、紅茶と思わしきお洒落なカップに注がれた飲み物を配っていく。そのメイド達は全員が全員、男子の夢を具現化したような美少女&美女なメイドばかりだ。殆どの男子達は「この機会を逃す機はないぜ!!」とメイド達をガン見し、その男子達を女子達は北極の気温ぐらい冷たい視線を送って汚物を見るような目に変わっていた。ハジメと香織はゲンの方も見ると……いつになくゲンは真面目な表情でメイド達を見ていた。いや、見ていたというより観察するという表現が近い。いつもボケと変態なことしか考えないゲンにしては珍しいと二人の少女は疑問に思う。

するとゲンは突然、近くに寄ってきたメイドに呼びかける。

 

「あー、キミキミ。ちょっとメイド服を新調してほしいのだけれど?」

 

「は? え~と……サイズが合うかどうか……」

 

どうやらゲンはメイドではなく、メイド服を見ていたようだった。

いきなりの注文にメイドは戸惑いながらも、冷静にゲンの体型を見て、冷徹な視線を向けながら告げる。彼女の中ではゲンは女装趣味の変態と認識した模様。ゲンの言葉でクラスメイトの女子だけでなく、メイド達もゲンを汚物みたいな目で見ていた。

それに気づいたゲンは手を横に振って訂正する。

 

「あー、違う違う。勘違いしているようだが、俺は彼女へプレゼントのため、オーダーメイドを頼みたいだけなんだ。スリーサイズは上から○○◯(自主規制)、○〇〇(閲覧禁止)、●●●(見せられないよ♪)で——」

 

バゴンッ!! と、ゲンが誰かのスリーサイズをピッタシ言い当てた途端、ゲンの頭部に衝撃が伝わる。

 

「な、何で私のスリーサイズを知っているのッ!?」

 

顔を真っ赤にさせながらゲンを睨みつけていたハジメは、近くにいたメイドから拝借したお盆を構えて立っていた。最近ハジメは春も食欲の季節と言い聞かせた結果、若干伸びてしまったウエストもゲンに当てられる。教えてない情報をゲンにバラされて、ハジメは羞恥心の極まりに到達している。

 

「何を言っておるか、ハジメ!? 妹のスリーサイズや体重を把握できてない兄など、この世にいて堪るか!! でも心配すんなハジメ、たとえ二ヶ月前からハジメのウエストが##(バキュン!)ミリ伸びたとしてもお兄たんは全然気にしない! むしろポッチャリ感あった方が健康的で抱き心地も最高に——」

 

「も、もう黙れ! このど変態ーーー!!」

 

「ふぎゃあッ!!?」

 

セクハラ発言に耐えられなかったハジメは、ゲンの頭の上にお盆を振り落とす。演説している途中でバッゴーーーンッ!!! と、部屋中に広まる音をハジメの強烈なお盆スマッシュを喰らい、ゲンの頭は机にめり込む。そのままピクリとも動かない。大理石で出来てハンマーを使ってもヒビ一つ付かない頑丈な机だというのに、頭をめり込まれたゲンの周囲に亀裂が生じ始める。

クラスメイトだけでなくメイド達もハジメに畏怖して誰もが声をかけられない中、落ち着いたハジメが「バカ兄が申し訳ありません。話を続けてください」と頭を下げたところで、呆気に取られていた全員が流れを戻す。

 

「……では、皆様はさぞ混乱していることでしょうから、事情を一から説明する故、まずは私の話を最後まで聞いてくだされ」

 

気を取り直して、イシュタルの話が始まった。それはどこかで読んだことがある実にテンプレなファンタジーな内容だった。

この世界『トータス』は大きく分類して人族、亜人族、魔人族の三つの種族が存在する。

人間族が大陸の北側を、亜人族が東側に位置する広大な樹木にひっそりと、魔人族が南側を住んでおり、何百年もかけて人族と魔人族は戦争を続けている。魔人族の人口数は人族のそれに及ばないものの、個が持つ力が増大らしく、その力の差で人間族に対抗してきた。

保たれていた均衡が、最近になって人族側に不利になった。魔人族が魔物——通常の野生動植物の魔力を取り入れして変容した異形の物——を使役し始めた。この世界の者でも魔物の生態を知るものはおらず、それぞれ強力な種族固有の魔法を扱えるということしか分かってない。

魔法を用いて一体か二体しか操れない人族に対し、魔人族は一人で何十匹の魔物を操れるようになったという。

以上の戦況の傾きから、人族は存続の危機に苛まれる。

 

「貴方方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神にして、聖教会の唯一神、そしてこの世界を創造なされた至上の神。おそらくエヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅びると。それを回避するために貴方方を喚ばれたのです」

 

イシュタルは語る。異世界から来訪した者は例外なくこの世界より上位の力を有し、この世界を救ってくれる英雄になれる素質がある、と。因みにエヒトとやらの神託から教わったそうだが。

 

「そう! 貴方達は『神の使徒』なのです! 貴方方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の元、魔人族打倒に精を出し、我ら人間族を救って頂きたい!」

 

イシュタルは不気味なほど恍惚な笑みを浮かべて、神託を受け取った時の喜びを体で表現していた。

ハジメはその“神の意思”に一切の疑いを見せず嬉々として従う教徒達の不気味な価値観に、言い知れぬ危機感と不安を感じてしまう。

と同時に、ガタンッ! と机を叩いて立ち上がる人物が一人。

 

「ふざけないでください! 要するにこの子達を戦争させようってことじゃないですか! そんなこと許しません! ええ、先生は絶対に許しませんとも! 私達を早く帰してください! きっとご家族も心配しているはずです! 貴方達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

猛然と抗議し、ぷりぷり怒る担任の畑山愛子先生。齢二十五にして百四十センチの低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら抗議する、通称『愛ちゃん』。だがしかし、その庇護欲を掻き立てられる容姿から迫力が全くなく、生徒達からも「あぁ、愛ちゃんがまた頑張っているなぁ……」と和ませるだけだ。

しかしその空気も、イシュタルの言葉で凍りつくことになる。

 

「お気持ちは察しますが……帰せと申されましても、現状貴方方を帰還させることは不可能です」

 

一瞬にして場の空気が静寂に満ちる。重く冷たい空気がのし掛かってきたようで、誰もが何を言っているのか分からない表情でイシュタルを見ていた。

 

「ふ、不可能って……どういうことですか!? 呼べたのなら帰せるはずでしょう!?」

 

真っ先に愛子先生が食ってかかるが、イシュタルの返答は絶望へ誘う最悪な答えだった。

 

「先程申しましたように、貴方方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に、異世界へ干渉するような魔法は使えませんのでな。貴方方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第というわけです」

 

「そ、そんな……」

 

ペタンッ、と愛子先生は脱力したように椅子に腰を落とした。周りの生徒も口々に騒ぎ始めた。

 

「う、嘘だろっ? 帰れないってなんだよ!」

 

「嫌よ! 何でも良いから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねえ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

パニックになる生徒達、その中にハジメも含まれていたが、いくつものラノベやゲームでこういった展開を熟知している故に、予想していたパターンの中で最悪のパターンでなかったため他の生徒より冷静だった。因みに、最悪なパターンは召喚された途端に(ゲン)を殺されて奴隷扱いされるパターンだ。

創作物が好きなハジメでも普通の女の子だ。周囲の不安な雰囲気に当てられて怖くなり、ついゲンの学生服の袖を掴んでしまう。

その肝心のゲンはというと……

 

「Zzzz…………」

 

……爆睡していた。ハジメにお盆クラッシュを喰らって半ば気絶させられたが、途中で意識が回復してイシュタルの話を聞いてみたものの、あまりにもテンプレ要素が多すぎて退屈になり……結果、睡眠状態に陥っていた。

能天気なゲンの姿を目にしたハジメは一瞬にして恐怖の感情から呆れた感情に変わる。涎を垂らしながら、漫画よろしく鼻提灯を膨らます姿を見て「こんな時でもマイペースなお兄ちゃんが羨ましいよ……」と、今だけゲンの能天気さを少し譲ってほしいと思った。まぁ、お陰でハジメの中の恐怖を拭えたのだが。

ゲンから視線を外してイシュタルを見ると、イシュタルは誰もが狼狽える中、口を挟むこともせず静かにその様子を眺めている。しかし、悪意に敏感なハジメにはイシュタルの瞳に、侮蔑の色が潜んでいるように見えた。大方糞爺(イシュタル)は「エヒト様に選ばれておきながら何故喜ばないのか」と思っているのだろう。

パニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルを叩いた。その音に反応した生徒達は、一斉に光輝に注目する。光輝は全員の注目が集まったのを確認し、徐に話し始める。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ……俺は、俺は戦おうと思っている。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実だ。それを知って放っておくなんて、俺にはできない! それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん、どうですか?」

 

先天的に備える“御都合解釈”の持ち主たる光輝は、無駄にあるカリスマ性を発揮する。絶望になっていた生徒達の目に、活気と冷静さを取り戻し始めた。光輝を見る目はキラキラ輝いており、希望を見つけたという表情になっている。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。その女子生徒の中に……()()()()()()()()()()()()()()()()

正直、ハジメは光輝のことが苦手だ。オタクという理由でいつも虐めてくる檜山一派や、いつもウザいくらい変態的に接するシスコンの(ゲン)より、ハジメの言い分を無視して自分が正しいと思っている光輝のことを男子の中で一番苦手な人物と認識していた。なので、こうもカリスマ性を発揮しながら遠回しに無自覚で「皆も戦争に参加しようぜ」的な勧誘を促す姿を見て、良い気持ちがしない。

話は戻すが、光輝はイシュタルと話を続けていた。

 

「俺達には力があるんですよね? ここに来て「ZZZzz……!」がしま……します」

 

「そうですな。ざっと、この世界の者と比べ「ZZZZzzzzz…!!」と考えて……んん、考えて良いでしょうな」

 

「なら大丈夫。俺は戦う。戦って、この世界を「ZZZZZZZzzzzzzzzz!!!」みせるんだ——って、南雲! いい加減にしろぉッ!?」

 

幾度となく会話をいびきで邪魔されて、挙句に光輝は決め台詞をいびきでかき消されてしまい、堪忍袋の尾が切れて、いびきを出した張本人であるゲンに怒鳴る。その大声にゲンはやっと起きて「ファ〜、もう終わった?」と欠伸しながら呑気に呟いていた。

こんな緊迫した状況で寝たこともあるが、光輝の演説を妨害したことで男子女子から侮蔑の視線を向けられる。ハジメは兄が光輝の御都合な演説を邪魔したことに何の罪悪感も抱かなかったが、折角カッコつけようとしたのに邪魔された光輝の姿を見て流石に可哀想と同情した。

 

「ん〜、どこまで進んだぁ? 人類が弱い種族だから永遠の命を手に入れるため生命の実と融合すべく、七つ揃うと願いを叶えてくれる龍が召喚されるボールを集めてくれ……って内容だっけ?」

 

「全然違う!! どこのエ●ァン●リオンとド◯ゴン○ールだよ、そのパクリ満載な話は!? 話を聞いてなかったとか寝惚けていたにも程があるだろっ!」

 

「はいはい、まぁ要するに『全員この世界にいる奴よりバリバリ強いんだから戦争に参加しようぜ! あ、もちろん拒否権はなしな?』的なアレだろ? 分かってるって」

 

「そうとは言ってないだろう!? ハァ……それで君も参加するんだろうね?」

 

光輝の中では既にクラス全員が賛同して戦争に加担するという意見に纏められたと思い込んでいるらしい。

ゲンは欠伸しながら背筋を伸ばし、光輝の問いに答えた。

 

「もちろん……俺は参加しない!!!」

 

『……ハァ!?』

 

「あ、言い間違えた……俺()は参加しない! だよな、ハジメ?」

 

「へっ?」

 

ポン、と肩を叩くゲンを見てハジメは素っ頓狂な声を上げる。完全に予想外の展開である。ゲンが拒否した途端『お前空気読めよ!!』と、生徒全員から非難の視線を向けられ、微量ながらもハジメもその巻き添いを食らう。

 

「南雲! こんな時にふざけている場合じゃないだろ!?」

 

「いや、俺は至って真面目だけど? 大体お前、戦争の『せ』も体験したことない世代なのに、何でそんな自信満々に言えるんだ? アレか、ボケてるのか? 雫ちゃんから『そんなクソダサいセリフを言うなんてどこのゲーム主人公よ、アンター!?』なツッコミ待ちか?」

 

「当たり前のように私をツッコミ要員と認識しないでくれないかしら!? 確かに光輝は人の忠告を聞かない上に自分が正しいと思ってる自意識過剰な困った面があるのは認めるけども!」

 

「し、雫!? いや、そうじゃなくて……俺は考えてこの世界の人達を救いたいと思っているんだ! いつも不真面目な君と違ってね!」

 

「そんで? ボランティア精神が強いのは良いことだけど、何で俺達まで参加しなきゃならないんだ? お前の価値観にケチ入れる気はないけど、俺やハジメまで巻き込まないでくれない? これってタチの悪いイジメだぜ?」

 

「だから! ……俺達はこの世界の人よりもずっと強いんだ。その力を使って困っている人の手を差し伸べる、それが人だろう?」

 

「何なの、その使命感? 異世界アレルギーで頭がどうかしたのか? その価値観を押し付けるなって言っているのよ、俺は? これがボケだったら何の笑いも取れないからな。それに“助ける”って散々言っているけど、ホントに困っているなんて確証があるのか? まだこの世界のことを何にも知らないくせに、もしかしたら人間側の方が迷惑をかけているかもしれないだろ? ……ところで雫ちゃん、“異世界アレルギー”って何だ?」

 

「屁理屈ばかり、君は「こっちのセリフよ! 異世界アレルギーって何なの!? 自分が言った言葉には責任を持ちなさい!!」……し、雫!?」

 

光輝はゲンに「戦いたくないだけだろ!?」と激昂しようとしたが、雫のツッコミにかき消されてしまう。オカン兼ツッコミ要員と化した雫に光輝は慄いて勢いを失う。ゲンのいびきでイケイケな演説を邪魔されたといい、何故か違う意味で『残念イケメン』に見えてしまうのは気のせいではない……

ゲンは雫からのツッコミに満足しながら再び口を開いた。

 

「……まぁ俺はお前が何病を患っているか興味ないけど、俺は見ず知らずの奴のために妹を戦いに参加させたくない。そんだけだなぁ……」

 

光輝はゲンの言い分を理解しようとせず睨みつけていると、ゲンは「それとも……」と眼光が鋭くなる。

 

「お前、俺だけでなくハジメにも戦いに参加しろとかほざくんじゃねぇだろうな? 嫁入り前の妹にもしものことがあったら、テメェどう責任取るつもりだ? 保護者に叩きのめされる覚悟ができて言っているんだろうな? 一丁前にカッコつけて、俺の妹を怪我させるんじゃねえぞ……!」

 

ユラリ、とゲンは立ち上がる。周囲に寒気が迸り、ゲンから発生した雰囲気に当てられ、さっきまで侮蔑の視線を送っていた生徒達は顔が真っ青になる。異世界に連れ去られてすっかり忘れていたが、ゲンは(ハジメ)絡みのことになるとスイッチが入り、相手が老若男女問わず怒り狂うのだ。

ゆっくり、ゆっくりと光輝に歩み寄り、ゲンの怒気に当てられた光輝は動けずにいる。やがて近くに寄り、光輝の襟元を乱暴に掴み上げて威圧をかけた。

 

「良いか? 俺はハジメを馬鹿にする輩と、誰も笑えないタチの悪い冗談が嫌いなんだよ。やったこともないのに『戦って人を救う』なんて冗談、誰もウケないことを言い張るんじゃねえ。人気者アイドルでも殴るぞ……?」

 

光輝は何か反論しようとするが忿怒のゲンに睨まれ、体が震えて何も言えずにいる。

 

「ダ、ダメですよぉ〜! 南雲君! クラスメイト同士で喧嘩はダメですからね!?」

 

愛子先生に窘められ、ゲンは渋々光輝から手を離す。ゲンの手が緩くなったと同時に光輝は背後へ直ちに下がり、尚もゲンを恐れていた。

 

「勇者様方、そろそろよろしいですかな?」

 

イシュタルに呼び出されて、光輝はもう話し合いは無駄だと勝手に結論づける。

 

「……お、俺は戦う! 君に何と言われようとも、俺は必ずやってみせるからな!!」

 

光輝はゲンから逃げるように言い残して部屋を去って行く。光輝の後を追いかけ、顔を青くしたクラスメイト達もゲンから逃げるように部屋から出て行く(香織と雫は申し訳なさそうに二人に頭を下げて行った)。部屋の中には南雲兄妹と愛子先生だけが残った。

 

「うぅ、私はダメダメな先生です。南雲君が言いたかったことを私が伝えていれば変わっていたかもしれないのに……」

 

「大丈夫だって愛ちゃん先生。見た目が幼すぎて幼女がプリプリ怒っている風にしか見えない先生が言ったところでテンプレ勇者が動くわけがないから、結果は同じさ」

 

「はぅ!? な、南雲君が一番酷いですぅ〜!!」

 

慰めようと労いの言葉をかけようとしたゲンだが、デリカシーの欠片もない言葉に、ピューッと泣きながら愛子先生も走り去る。

愛子先生が走った方角を見て「あれれ〜?」と声を上げるゲンを呆れるように見つめてハジメは声をかけた。

 

「お兄ちゃん……」

 

「ん? おう、心配すんな、ハジメ。こんな時こそお兄ちゃんの本領発揮だ。何とかハジメだけでも戦闘から外すように説得してくるからよ。もしダメだとしても拳の話し合いで無理矢理分からせてや——」

 

「ううん、そうじゃない……私も参加する」

 

その瞬間、ゲンは時が止まったように固まった。

やがて普段じゃ見られない真面目な表情になってハジメと対面する。

 

「……本当に、意味を分かって言っているんだな?」

 

「……うん」

 

ハジメは決して光輝のようにこの世界を救おうとは思ってない。元より自分はそんな人柄じゃないと自覚しているからだ。しかし、ここで戦いに参加しないとなると、あの不気味なまでにエヒトとやらに信仰している聖教会達に何をされるか分かったものじゃない。帰り道がない現状では自分の身を守るためにも形だけ参加するのが適切だとハジメは考える。それに皆に着いて行けば、もしかしたら帰る手段も見つかるかもしれない。あながち悪いことばかりでないと考えた。

 

「……後悔しない?」

 

「しない……と思う」

 

戦争に参加するなんて、口だけ言ってもやっぱり自信がない。果たして自分は命を奪うことができるのか、と。

ハジメの曖昧な返答に対してゲンは嫌な顔一つせず、何も言わずに頷いた。

 

「そうか……だったら、俺は何も言わずにお前の傍に居続けるよ。お前にもしものことがあったら俺は父さんと母さんに合わせる顔がないからな」

 

ゲンは戦争に賛成も反対もしなかったが、ハジメが決めたことに反論しようとしなかった。それが(ハジメ)の選択した道だというのなら、それを支えて守り通すことが(ゲン)の役目だと思う。普段はアレだけど、こういう肝心な時にゲンは無自覚で頼りになってくれる。ハジメがゲンを普段『変態兄』と呼んでも、決して嫌いにならないのはこの理由もあった。

 

「お前は俺が絶対に守る。だから……一緒に帰ろうな?」

 

「……うん、お兄ちゃん」

 

元の世界に必ず帰る。

その願いを込めて、南雲兄妹達の間にある絆がより強固された。

 

 

 

 

 

 

「………ところでハジメたん、今の俺ってカッコよくない? この姿に惚れ直して、メイド服を着て『お兄ちゃんだ〜い好き♡』とご奉仕してくれる気になったかい?」

 

「どうして最後の最後でオチに持っていくのかぁ!? 今の一言ですっかり台無しだよ! この変態兄!!」

 

……やっぱり、シスコン(ゲン)はどこまで行ってもシスコン兄であった。そこが地球でも宇宙でも、異世界であっても、だ。

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