ありふれた女魔王と宇宙戦士(フォーゼ)   作:福宮タツヒサ

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更新がすっかり遅くなって申し訳ありませんでしたぁー!!
リアルが忙しくなって、色々対処に追われてまして……(汗)
久し振りに執筆したので、こんな文章だっけ〜? って感じで不安ですが、皆様を楽しませるのに必死です。誤字脱字とかあるかもしれませんが、ご了承ください。
……それでは、どうぞ!!


7.迷・宮・探・索!!

翌朝、ゲン達は【オルクス大迷宮】の正面玄関に通じる広場に集められていた。

ハジメやゲンのオタク兄妹は、迷宮の入り口と言えば薄暗い不気味な洞窟をイメージしていたのだが、博物館のように清潔感が保たれた入場ゲートのようだった。おまけに、制服を着た窓口受付嬢らしき女性が迷宮への出入りをチェックしている。端で「モ○ハンかな? モン○ンだよね、コレ」とボケをかましたゲンは放っておこう。

しかし、これは受付でステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握すると言う措置なのであり、ボケ発言を言わせるために設置されたのでは断じてない。

露店などがびっしり敷かれてお祭り騒ぎな入口付近を過ぎ、浅い階層を過ぎ去ると、外の賑やかさとは無縁であるように意外に静かな迷宮の内部を目のあたりにすることになる。

縦横五メートル以上はある通路には明かりもないのに薄っすらと発光しており、松明や灯の魔法具がなくともある程度見えることができる。緑光石と呼ばれる特殊鉱物が多く埋まってるらしく、【オルクス大迷宮】の通路はこの巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ている、と言う説明を聞きながら先を進んでいく。

メルド達の後を付いて行きながらクラスメイト一行は隊列を組んだ状態で進み、最後尾で南雲兄妹は辺りを見渡しながら歩く。何事もなく歩み続けると、七、八メートル高さのドーム状広場に到着した。

と同時に、珍しそうに見渡す一行の前に、壁の至るところの隙間から灰色の毛玉が浮き出てきた。

 

「あれはラットマンと言う魔物だ。光輝達は前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな。各自、準備しておくように! 冷静に対処して行けよ!」

 

ラットマンと言う魔物が結構素早い動きで飛びかかってきた。

灰色の体毛に赤黒い眼が不気味に光る、外見はネズミっぽい魔物だが……二足歩行で上半身がボディビルダー並みにムキムキだった。しかも八つに割れた腹筋と膨れ上がった胸筋を見せつけるかの如く、その部分だけ毛がなく剥き出しである。

最前列にいる光輝一行は(女性陣は頬を引き攣っていたが)訓練通りにラットマンの間合いに入って迎撃する。攻撃隊の光輝、雫、龍太郎が攻撃してる間に、回復役である香織、メガネっ娘の中村恵里(なかむらえり)やロリ元気っ娘の谷口鈴(たにぐちすず)が詠唱を開始する。魔法を発動準備に入った姿は訓練通り何度も行われたフォーメーションである。

光輝は純白に輝く“バスタードソード”と言う聖剣を拘束で振るい、ラットマン数体をまとめて一掃する。その剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つであり、光属性の性質が付与される他、光源に入る敵を弱体化させると同時に使用者の身体能力を自動で強化してくれると言う、“聖なる”とはかけ離れたチート性能を兼ね備えている。

龍太郎もアーティファクトで衝撃波を出すことができ、決して壊れないのだと言う。空手部の経験を生かし、どっしりと構えた状態で見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。

雫はサムライガールらしく“剣士”の天職持ちで抜刀術の要領で刀とシャムシールの中間のような剣を抜き放ち、目にも留まらぬ速さで敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団長ですら感嘆させるほどである。

そんな光景をハジメ達が見惚れていると、詠唱が響き渡った。

 

『暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ、“螺炎”』

 

三人同時に発動させた螺旋状に燃え盛る炎がラットマン達を吸い上げるように焼き尽くす。ラットマンは抵抗できず『キッ———』と言う悲鳴を上げながら灰と変わり果てて絶命する。

 

「あぁ〜、うん、よくやったぞ! 次はお前らにもやってもらうからな、気を引き締めろよ! それとな……訓練だから構わないが、魔石の回収も忘れないでおけよ。明らかにオーバキルだからな?」

 

他の生徒が手を出すこともなく絶滅したことにメルド団長は苦笑いしながら気を抜かないように注意を促す。メルド団長の注意に香織達魔法支援組はやり過ぎた自覚をしながら頬を赤らめる。

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘し、着々と階層を下って行く。

この世界において、現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいが、光輝を筆頭に生徒達は戦闘経験が少ないもののチート持ちなので、割と苦労せず降りることができた。

ここまで、ハジメやゲンは何もしていない。騎士団員が用意してくれた弱った犬型魔物を相手に、独自で考えた錬成の技能を用いて串刺しのやり方で倒した。しかしそれだけであり、どのパーティーにも入れてもらえない状態で騎士団に守られながら待機している状態である。

 

(完全に私って場違いだよね? 何の役にも立ってないのに後ろから付いて来て、これじゃあ完全に寄生型プレイヤーだよぉ……ハァ、どうして皆、こんなにチートなんだろう?)

 

クラスメイトみたいに『私TUEEEEEE!!』な展開ができないことに項垂れている。大して何もできないのに図々しくいることに情けないと自分を卑下してしまう。同じく『無能』扱いされてるゲンも似た心境ではなかろうか?

 

「……あれ? お兄ちゃん?」

 

普段ならハジメの隣で奇行を繰り広げるorウザい言動でハジメを慰めようとするが、それらが苛つかせることにしか繋がらないと言う逆効果を働く。そんなゲンがいないことに気付いた。

大迷宮内で迷子になったのかと思い、いやいや子供じゃないんだからと自問自答しながらキョロキョロ見渡すと、すぐ見つかった……

 

「もぐもぐ……この変な色の麺、焼きそばみたいで美味えなー。こっちの焼きモロコシみたいな野菜も最高だぜ」

 

一行がいる地点から少し離れた薄暗いところで、入り口の露店で売られていた食べ物を食べながらサイズの良い岩に腰掛けていた。最初ゲンは緑色の麺を不気味がっていたが、一度口にしてみると元の世界の焼きそばみたいな味で、今は美味そうに頬張っている。トウモロコシに似た形状の野菜に特製ダレを付けて焼いた焼き野菜にも齧り付いている。

その能天気振りは子供よりも酷かった。「迷宮に来て何食ってんのコイツ?」「遠足気分?」「あとマジで美味そうだな」と、クラスメイトや騎士団から様々な視線を受けても尚、ゲンは食すことを止めなかった。

その様子に白けているハジメだが、ゲンの背後に何かが現れたのに気付いた。

壁の隙間から這い出たそれはラットマン、しかも光輝達が倒した奴よりも巨体な個体。食ってるのに夢中になってるゲンの背後に現れ、ゲンを肉塊に変えようと拳を振り上げる。

間に合わないッ! と思いながらも騎士団が駆け出し、ハジメは叫ぶように声を上げる。

 

「ッ——お兄ちゃん!!!」

 

「ん?」

 

切羽詰まったハジメの声に反応して咄嗟に背後へ振り向くも、既にラットマンの拳はゲンの顔面から数センチの距離まで近づいていた。

次の瞬間、ドゴォッ!! と強烈な打撃音が響き渡る。

殴られた頭部を凹ませながら勢いよく壁に激突して身体が貼り付けられる……()()()()()()()()

まるで蚊を追い払うかのような慌てない素振りで、ほぼノーモーションで裏拳を決め、ラットマンを撃沈させた。ラットマンご自慢の剥き出し腹筋はスコップで抉られたみたいに肋骨ごとペシャンコにされてしまい、壁に埋もれた状態のまま動かなくなった。完全にノックアウトだ。

 

「あ〜びっくりした。てっきりまたゴミ屑檜山達が襲いかかってきたのかと思ったわ〜。ところでハジメちゃん、どったの?」

 

「……………いや別に」

 

「そう? 何かあったら大声で言えば良いからな? あ、ハジメもこれ食うか!? 見た目はともかく、焼きそばみたいで美味えぞ〜?」

 

その様子に「あ、大丈夫そうだな」「俺達の心配はいらないな」と、言葉はもう不要だと誰もが口を閉ざし、騎士団も持ち場へ戻った。

 

「………ゴホン。いいかお前等、気を抜くんじゃねえぞ! いつ何が起こるか分からないからな!」

 

メルド団長に至ってはワザとらしく咳をしながら切り出して、ゲンの一部始終を見なかったことにした。

ハジメは乾いた笑みを浮かべながら、もうどうにでもなれ状態になる。ゲンに差し出された麺を一口食べてみたら本当に美味しかった。

 

(ごめんなさい皆様……うちの兄が『非常識(チート)』と言う言葉が一番ピッタリでした……)

 

モグモグ麺を頬張りながら心の中で謝罪する。散々、皆をチートチートと呼んできたが、それよりも上の存在が自分の兄であることに何処か遠い目をしながら「もっとこの焼きそば擬き、食べたいなぁ…」と思考放棄したハジメであった。

 

 

 

 

———◆———

 

 

 

 

一行はそのまま進み、二十階層に辿り着く。その一番奥まで歩くと、鍾乳洞を彷彿とさせる複雑な地形の部屋を目にする。一行は滑らかなつららに刺々しい壁や足場に横列を組めず、縦列に変更して進んでいく。

 

「擬態してるぞ! 周囲をよく注意しておけ!」

 

先頭を行くメルド団長が立ち止まったと同時に戦闘態勢に入った。その忠告に目を凝らすと、壁の一部がモゾモゾ動いてるのが見えた。その揺らぎが大きくなったかと思えば、褐色の毛色に覆われたゴリラの形態をした魔物達が出現した。カメレオンのような擬態能力を有しているようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろよ!」

 

メルド団長の声が響く中、ロックマウントは光輝達から一歩後退しながら息を大きく吸い出す。

 

『グゥガガガァァアアアアアーーー!!』

 

その直後、部屋中に激しい咆哮が往復する。ロックマウントが持つ固有魔法“威圧の咆哮であり、魔力が付随された雄叫びは相手を麻痺させる効果があり、前衛にとって非常に厄介な技とも言える。

 

「ぐッ!?」

 

「うわッ!?」

 

「きゃあ!?」

 

“威圧の咆哮”をまともに喰らい、硬直してしまう光輝達前衛組。

その怯んだ隙にロックマウントは横飛びに移動し、傍に置かれた岩を持ち上げ、香織達後衛組に向けて見事な砲丸投げのフォームで投げつけた。

香織達はあらかじめ準備されていた魔法陣が施されている杖を向けて迎撃しようとするが、衝撃的な光景に呆気を取られてしまう。

その投げられた岩もロックマウントであり、空中で一回転を決めて両腕を広げながら「か・お・り・た〜〜ん!」と言う幻聴が聞こえそうな雰囲気で香織達に迫った。しかも妙に目が血走りハァハァッと鼻息も荒い、完全にヤバい奴の特徴と一致していた。

その姿に香織達も「ヒィ!」と悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまう。

 

「———大・回・転・キッーーークッ!!」

 

その変態ロックマウントの更に上空で、一人の人影が浮かんだ。「鳥か? 飛行機か? いや違う。あれは……!」と言うノリの良い奴がいたが、無視しておく。

空中で見事な一回転からの飛び蹴りをロックマウントに向ける少年——ゲン。さながら「イ・ナ・○・マ・キッーーク!!」と叫びながら蹴りを繰り出す赤体操服の少女を彷彿とさせる姿だった。香織達に気を取られ背後に気づけなかったロックマウントは背中から凄い衝撃を受けてしまう。香織達の手前で顔から地面に落下し、そのままピクリとも動かなくなった。

 

「あ、ありがとうゲン君」

 

「良いって良いって。女子を襲う変態を前にしたら、男として黙って見ているわけにはいかんからなぁ〜」

 

「お兄ちゃん……“ブーメラン”って言葉知ってる? 普段、私に似たようなことしてるお兄ちゃんが言っても説得力ないから。それと何気に自分は違うみたいな風な口調だけど体育祭の日、私が運動着を着ている時にあのゴリラさんと全く同じ目していたからね? 目撃者の人やお巡りさんに何度も頭下げて警察沙汰にならなかったのは誰のお陰か……忘れてないよね?」

 

ギク! と体が跳ね上がったゲン。因みにその日、ゲンは変態ロックマウントorエロい顔をしたル○ン並の校閲した笑みを浮かべながら「ハジメたんのブルマ姿……ハジメたんのスク水姿……ハジメたんの赤白帽子姿……ふへへへ」とブツブツ呟き、鼻血を漏らしていたらしい。

何処から見ても危ない姿に『ギネス級の危険人物』と認識され、ガチで警察の厄介になりそうだったそうな。

 

「貴様、よくも香織達を……許さない!」

 

ゲンもゲンで問題だったが、今度は別のところで問題が発生した。言わずも分かるが、正義感が詰まった思い込みの激しい勘違い男だ。

気持ち悪くて青ざめているのを死の恐怖を感じたせいだと、盛大な勘違いした光輝。その怒りに呼応するかのように彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ——“天翔閃”!」

 

「あ、コラ、馬鹿者!」

 

呼び止めるメルド団長の声を無視して、光輝は剣道の上段構えから聖剣を一気に振り下ろした。その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、光そのものが斬撃となって放たれる。曲線を描くように相手を逃がすつもりはない斬撃はロックマウントを縦に両断する。断末魔を上げさせる間もなく消滅させ、更には奥の壁を破壊し尽くしたところで止まった。

部屋の壁から砂埃と破片が降り積もる中、光輝は「ふぅ〜」と呼吸を整え、イケメンスマイル(笑)を見せながら香織達へ向ける。未だに魔物に怯えていると勘違いしながら、香織達にもう大丈夫だ! と声をかけようとした直前で、笑顔(額に怒りマークが付属)で迫っていたメルド団長から拳骨を頂戴した。

 

「あいた!?」

 

「こんの馬鹿者! 気持ちは分かるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうするんだ!」

 

メルド団長の叱咤に光輝は「うッ」と声を詰まらせる。光輝を慰めようと駆け寄った時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何だろう? キラキラ光ってる……」

 

香織の言葉に反応し、全員が彼女の方へ目を向けた。

指差す先には、青白く発光する鉱物が開花してるように壁から生えていた。その美しい水晶体の姿に、香織を含んだ女子達はうっとりした表情に変わる。

 

「お〜、あれはグランツ鉱石だな。あれくらいの大きさは珍しい」

 

グランツ鉱石、それは宝石の原石として利用されてるものである。何の効能もないが、その鉱物が放つ煌びやかな輝きが貴族婦人や令嬢に大変人気であり、求婚の時に加工された指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈る事例が多い。

 

「素敵……」

 

メルド団長の簡単な説明を聞いて更にうっとりした表情になり、誰にも気付かれないようにゲンに視線を向ける。その近くで雫が自分を見てるのに気がつくと、頬を赤く染めながら慌てて俯いた。

一方ゲンは、香織の視線に全く気付かず、一人で考え事をしていた。

 

(綺麗だねぇ。あんな綺麗なものをプレゼントされれば相手の女子も喜ぶだろうな……女子ってことはハジメも?)

 

そう、ふと考えてしまう。どっちかと言えばハジメは宝石やアクセサリーの類は好きでも嫌いでもない。が、さっき鉱石を見た際、ハジメも「綺麗」と呟いていたのは、やはり女なら綺麗な宝石を渡されながらプロポーズされたいものだろうか。

ゲンがそう考えている時だ、唐突に動き出す男がその場にいたのは。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

現在、クラスメイトや王国連中から蔑まれている檜山が動き出した。グランツ鉱石を目指し崩れた壁を登って行く。クラスメイトや香織の好感度を少しでも上げるため『女子にプレゼントする良い男』をアピールしようと必死だ。するとメルド団長が慌て止めにかかる。

 

「こら、勝手なことをするな! まだ安全確認もすんでないんだぞ!」

 

しかし檜山は「チ、うっせえな」と舌打ちし、聞こえないふりをして止まらない。

一方、ゲンはと言うと……

 

(それにしても、プロポーズに喜ばれる、かぁ………プロポーズ……指輪……婚約指輪……もし、ハジメも「欲しい!」なんて言ったら……)

 

 

 

 

———☆ゲンさんの妄想世界(ザ・ワールド)☆———

 

『お兄ちゃん、紹介するね……()()()()、ゴスさんで〜す♪』

 

『そうかそうか、ハジメの彼氏………え? かれ、し?』

 

『初めましてお義兄さん、ハジメさんと結婚を全体に交際させてもらってます『ゴス』と言う者でゴス! お見知り置きをでゴス!』

 

『え……? な、何この効果音みたいな人? つーかカレシって何? 『枯れ木』? 『彼死』?』

 

色々ツッコミ所があったが、それどころじゃなかった。愛妹ハジメと人の形をした謎の物体とのバカップル行為を見て、ゲンの思考は機能停止(フリーズ)した。

 

『お義兄さん、ハジメさんを一生大事にします! ハジメさんを僕にくださいでゴス!!』

 

『もうゴスさん! いくら何でもハッキリ言い過ぎでしょ? ……でも、そんな直球過ぎる貴方もス・テ・キ♡』

 

目の前でイチャイチャ光景を繰り広げながら二人はそれぞれ左の薬指を見せびらかす。煌びやかに光るお揃いのグランツ鉱石製の婚約指輪が嵌められていた。

………ゲンはこの時点で、灰になっていた。

 

『それじゃあお義兄さん、ハジメさんを幸せにするでゴスからご安心を!』

 

『そう言うわけだから、もう私に付き纏わないでね、お兄ちゃん……ゴスさん、行こ♪』

 

いつの間にか『ゴス』と名乗る男は黒のタキシード姿、ハジメは見惚れるような純白のウェディングドレス姿に変わる。そのまま黄金のベルが鳴る教会の下で式を挙げ、呼吸が止まったゲンの眼前で二人の距離はゼロになり………

 

 

———★ゲンさんの妄想悪夢世界(ザ・ワールド)終了★———

 

 

 

 

…………、

シスコン爆発までのカウンドダウン、開始。

3!

2!!

1!!!

 

 

 

うわぁあああああアアアあああああ阿あああああああぁぁぁああ亜あああああ嗚呼あああああああ!!!?」

 

「うわッ!? 何々!? いきなりどうしたの!」

 

魂の絶叫、末期癌を告げられた患者の方がまだマシだと思わせる絶望した姿に、その場にいる誰もが慄いた。喉の奥からまるで悪魔の断末魔のような悲鳴を上げ、出血多量にならないか心配になるぐらいの血の涙を目から流す。そんな姿にハジメや香織が慌てて駆け寄る。

両肩を震わせながら、ゲンは地面に転がっていた壁の破片を拾い上げて投擲する。

 

「認めない認めない認めない、こんな未来こんな悪夢……俺は絶対に認めないぞーーーーー!!!」

 

ゲンの放った投石が檜山の頭部に深々と突き刺さり、見せ場を作ろうとした哀れな男は「ほげェ!?」と体勢を崩してしまい地面に落下する。檜山が落下した時、骨と骨が擦り合うような変な音が鳴ったが、それは自業自得と言うか、控え目に言って自業自得と言うか、ハッキリ申し上げれば本人の自業自得なので誰も気に留めない。念のため、三回、言わせてもらった。

勝手な行動して呆気なく散った哀れな男の存在よりも、問題はこっちだ。ゲンの猛攻はそれだけで治らなかった。

 

「何処の馬の骨とも分からん輩に、俺の愛妹ハジメたんを渡して溜まるか! いいや、何処の男だろうともハジメたんと結婚なんて絶対に許しません!! 例え俺の存在をかき消すような実力者が現れたとしても、首だけで“男の象徴”を喰い千切って()()()()()()させたるわッ!!」

 

「お、お兄ちゃん? 一旦、落ち着いて。ね? ほら皆が見てるから……」

 

地獄に住む鬼神の如く、地獄の煉獄よりも血気盛んな勢いでシスコンアピールするゲン。その隣で、ハジメは頭から湯気が出るほど顔を真っ赤にさせながら止めにかかる。檜山なんかよりよっぽど可哀想だ。

 

「そもそもだ! ハジメたんを誑かそうとする、あんな物体があるから悪いんだ! な〜にが求婚に喜ばれる宝石だってェ〜? どんなに綺麗だろうがな、粉々の砂状になっちまえば誰もどんな物体だったのか分からねえんだよォ! 形あるものは全て無に帰るんだよォ!!」

 

「お、お兄ちゃん、ちょっと落ち着いて? あの鉱石を壊しちゃ駄目……って、ホントに駄目だって!? 明らかにヤバいフラグだから! 絶対に侵入者を迎撃しようとするトラップ系の奴だからアレ!!」

 

嫌な予感がして堪らない、一番付き合いが長いハジメは予期して、真っ青になりながら落ち着かせようと制止の声をかける。

しかし、全くの効果なし。その辺に落ちてる野球ボールぐらい大きな石を拾い上げるゲン。すると片足を上げて実に見事な投球フォームを再現した。煌々と青白く輝くグランツ鉱石にロックオンして。

 

「あんな、あんな、あんなハジメたんを惑わせる物体なんてェ……ハジメたんの手に渡る前に、俺がこの手でぶち壊したらァーーーーー!!!」

 

躊躇なく思いっ切り投げた。全員が頭上を見上げながら、真っ直ぐな軌道で石が走り出す光景を見る。グランツ鉱石があった場所を通過したと同時に、その見惚れる輝きを放つ結晶体はパッキャーン!! と粉々に砕け散った。女子達の『ああッ、女の子の夢が!?』と言う悲鳴、男子達の『うわ〜、やりやがったよアイツ』と言う当惑の声と共に、乙女の夢とも言える結晶体が残骸と化してしまった。

 

「団長、トラップです!」

 

「ッ!?」

 

団員の叫ぶような声が響き渡る。

グランツ鉱石の残骸から光が失われたと同時に、鉱石が設置されていた場所を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の魅力に惹かれて触れようとした者へのトラップである。最も、今回はそんな要素は全く必要なかったのだが。恐らく、トラップを仕掛けた者も想定外だろう。

 

「え? ちょ、何々!?」

 

「嘘!! 何なのよォ!?」

 

「オイオイ、俺達、一体どうなるんだよ!?」

 

クラスメイト達がパニックになり慌て出すところで、ようやくゲンが我に返って周囲を見渡す。見るからに悪質なフラグを盛大に立ててしまい、全員を巻き込んでしまったことを自覚しながら、恐る恐る皆の方へ振り向いて口にした。

 

 

 

 

「あれ? ………もしかしなくても俺、やっちゃった系?」

 

何してくれとんじゃあ、この大馬鹿野郎ーーーーー!!!?

 

この場にいる全員の罵倒が一つになった総ツッコミが炸裂され、部屋全体が魔法陣で埋め尽くされながら一人残らず転移される。




皆さん、思ったことを言っても良いんですよ?
「あ、そっち?」と。本来なら檜山がトラップを誘発させる場面ですが、こっちの方が面白そうと思いまして。HAHAHAHA(笑)
………ゴメンなさい、反省してます。
ゲン「俺はハジメたんの“ピー(放送禁止用語)”を守ろうとしただけだ。俺は何も悪くない!」
お前は色んな意味で反省しろ馬鹿野郎!! この後の展開マジでどーすんだよォ!?
ゴホン……さて、中々フォーゼ要素が出てこなくて困ってる作者です。次こそ出てくるかな? なんて思いながら頑張ります!

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