現実が忙しくて時間がなかったんで……はい、どう言い訳しても私の所作です。ごめんなさい。
では……気を取り直して、前回のあらすじをサラッと!
前回、主人公が阿保をやらかしたせいで巻き添えを食らったクラスメイト+騎士団!
転移した先に待ち受けていたのは、最強クラスのモンスター……ベヒモス!!
話数が二桁も行ってないのに、いきなり絶対絶命!?
どうやってこの状況を切り抜けられる!!!
そして南雲ゲンは主人公として、兄としての威厳を取り戻せるのか!!?
兄の威厳を取り戻せるのか!!!?(2回言った)
ゲホゲホッ、ムセタ……コロナニキヲツケテネェー
……では、どうぞー。(テンション低め)←オイオイ!?
ゲン達が転移された場所は、巨大な石造りの橋の上、その中間だった。ざっと見積もって百メートルはあり、天井も二十メートルの高さ。橋の下は川などなく、何も見えない深淵のような闇が広がっている。正に落ちれば奈落の底と言ったところだ。橋の横幅は十メートルぐらいありそうだが、手すりや縁石すらない。足を滑らせれば掴めるものもなく真っ逆さまに落ちてしまう。
絶体絶命の危機に追い込まれたクラスメイトは泣き叫び、その空間は阿鼻叫喚に染まっている。
その様子に、少し耳を傾けてみると………
「——あの腐れシスコン、マジ許さねえ! 呪詛を丸暗記して呪い殺してやろうかァッ!?」
「チクショオオオオ! もう駄目だァ!! あの馬鹿男の妄想に関わってしまったのが運の尽きだ! 俺達はここで死んでしまうんだぁあああああッ!?」
「いい加減にしなさいよ変態番長!!? 地上に生還する前に、アイツを呪い殺してやるわぁああああ!!」
「誰かぁあああ、対阿保殲滅兵器を用意してぇえええええええええ!! モンスターに殺される前に、アイツを地獄に叩き落してやらぁあああああああああああ!!!!」
「ふふ、ふふふふふッ……ふひッ……………あの愚か者に鉄槌を!! 末代までの祟りをぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
……クラスメイトの大半は
その光景を目にした
「お前達! 今は生き延びることだけを考えろ! あの場所へ急げ!」
メルド団長は、あの阿保に制裁を下したい
その声に便乗し、必死になって階段へ向かおうとするクラスメイト。ハジメもその中にいたが、周囲から『大問題を起こした
その隣で
しかし、生徒達が向かう上り階段の手前に、赤黒い光で描かれた幾多の魔法陣が浮かび上がり、足場を埋め尽くさんばかりの骸骨戦士、トラウムソルジャーが大量に現れる。しかも魔法陣の数は減ることはなく、未だに骸骨の戦士を召喚し続けている。
更に悪いことに、反対側の通路からはもっと大きな、直径十メートル近い魔法陣が不気味に発光し、周辺を赤黒く照らす。
その巨大な魔法陣から現れたのは、これまで生徒達が戦ってきた魔物とは桁外れの巨大な魔物。瞳は赤黒く輝き、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている。体長十メートルはあり四足歩行で標的を狙うその姿は、トリケラトプスに相似した魔物だった。
「まさか………ベヒモス……なのか……!?」
ゲン関連のことを除き、いつも余裕があり、生徒達に安心感をもたらしていたメルドが冷や汗をかいている。その焦燥を隠せない姿に光輝は現れた魔物“ベヒモス”についての詳細を尋ねようとする。
『グルァアアアアアアアアアアア!!』
「ッ!!」
光輝に教える時間すら与えてくれない。ベヒモスは大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。
しかし、お陰でメルドは正気に戻ることができ、矢継ぎに指示を飛ばす。
「アラン! 生徒達を率いてトラムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! お前達は全力で障壁を張れ! 奴の進行を食い止めるぞ! 光輝、お前達も早く階段へ向かえ!」
「そんな! 待ってください、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいな奴が一番ヤバいんでしょう!? だったら俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本物のベヒモスだって言うなら、今のお前達じゃ無理だ! 奴は六十五階層の魔物、嘗て“最強”と謳われていた冒険者をして歯が立たなかった文字通りの化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を守り通す義務があるんだ!」
メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「それでも見捨てられない!」と意思を曲げない光輝。
しかし光輝とメルド団長とのやり取りなどお構いなしに、ベヒモスがその巨体を躍動させ、こちらに突っ込んでくる。
その猛攻を阻止すべく逸早く動き出し、騎士団員の三人が同時に二メートル四方の最高級用紙に書かれた魔法陣を取り出した。
『全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、“聖絶”!!』
紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、更に三人同時の発動。一回だけ、一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶壁が出現した。純白の光を放つ半球状の障壁が中央の生徒達を包み込むように顕現し、ベヒモスの突進を防いだ。
本来なら“トラウムソルジャー”は三十八階層に出現する魔物であり、二十階層の魔物とは比較にもならない力を備える。前方に虎、後方に狼……ならぬ、前方に不気味な骸骨の魔物、後方に恐ろしい巨大な魔物が迫る。生徒達がパニックに陥るのも無理はない。
騎士団員のアランが必死にパニックを抑えようと声を張り上げるが、迫る来る恐怖により耳を傾ける生徒はおらず、誰もが隊列を無視して階段を目指す。
その時、女子生徒の一人が背後から突き飛ばされて転倒してしまう。呻き声を上げ、どうにか顔を上げた時には、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を頭上に上げていた。
「あ……」
そんな一言と共に、彼女の頭部に目掛けて剣が振り下ろされる。
「———とりゃあああああッ!!」
死んだ——女子生徒が感じた瞬間、ゲンが雄叫びと共に横から蹴りを喰らわせ、襲い掛かったトラウムソルジャーの頭蓋骨を橋の外側へ飛ばす。残った骨の体はバランスを崩して奈落の底に落ち、トラウムソルジャーの剣は彼女から逸れるように地面に落ちた。
一方、座り込んで荒い息を吐くハジメは、錬成術で一体のトラウムソルジャーがいる地面を隆起させ、バランスを崩した。更に、トラウムソルジャー達の地面は波打つように隆起が立て続けに起こり、数体は巻き込まれるように谷底へ突き落とされた。
「コラコラ、こんなところで寝転がっていると風邪引くだろ? 年頃の女の子なんだからッ——よっとォ!」
そう言いながら倒れている一体のトラウムソルジャーから剣を取り上げ、トマ○ーク・ブーメラン方式でトラウムソルジャーの大群に投げた。回転を加えられ遠心力によって威力を増しながら剣は突き進み、トラウムソルジャー達は次々と骨の体を砕かれ倒れていく。
「さ、ここは任せて早く行きな。大丈夫大丈夫、冷静に戦えば楽勝なんだから……って、ちょっとちょっと〜! あんた顔が泥だらけじゃな〜い! 女の顔はいつも綺麗にしないとダメよん? ほら、これ貸すから拭いときぃ!」
手を引っ張って女子生徒を立ち上がらせたゲンはそう励ましながらハンカチを持つと、女子生徒の汚れた顔を丁寧に拭いて手渡す。若干オネエ(と言うより大阪のオバハン)口調になった姿に、主人公(一応)の威厳が欠片もない。いや、そもそもシスコン拗らせこの事態を引き起こしたトラブルメーカーに威厳もクソもあるわけがない。
女子生徒は手渡されたハンカチに視線を向けながら呆気に取られ、ポカンとした顔になる。次の瞬間には「………う、うん、ありがとう! ちゃんと洗って返すからね!」と元気に頷いた後、再び駆け出した。
あれならもう大丈夫だろう、と女子生徒の背中を見送った後、ゲンとハジメはベヒモスと戦闘をしている騎士団や光輝達がいる方へ視線を向ける。
「何とかしないと……必要なのは強力なリーダー……道を切り開く火力……」
隣でハジメが呟いた。
突然襲い掛かる恐怖に誰もがパニックを起こし、滅茶苦茶に武器を振り回し、魔法を乱れ撃つ者もいる。騎士団員アランが必死に纏めようと努めているが中々はかどらない。このままでは最悪、死者が出る可能性が大である。
「………ハァ〜ァ〜〜、アイツに頼るのは癪だけど、仕方ねえな」
そうこう考える間に、敵の増援部隊が次々と送られてくる現状。最早、選択の余地もゲン達に与えてくれない。
ハジメの意図を瞬時に理解し、ゲンは心底とても嫌そうに、盛大な溜息を吐きながら頭をかく。
「元の発端は俺だし、尻拭いしますか……」
「カッコ良く言っても駄目だよ、
ハジメに『お兄ちゃん』ではなく、本名を呼ばれた瞬間「Oh Noooooooooooooooooo!?」と、この場にいる誰よりも絶望に満ちた絶叫が洞窟中に響き渡った。
その場にいる全員の心が一つになった。
———△———
ベヒモスは依然として、突進を繰り返して障壁を破壊しようとする。障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が撒き散らされ、石造りの脆い橋が悲鳴を上げた。障壁の全体にも亀裂が生じ始め、メルド団長も障壁の展開に参加しているが、障壁が砕けるのも時間の問題だ。
「くそ、もうもたんぞ! 光輝! お前達も、早く撤退しろ!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけにはいきません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くッ、こんな時に我儘を言ってる場合じゃ……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような顔になる。本来、この狭い空間ではベヒモスの猛攻を回避するのは困難だ。だからこそ、逃げ切るために障壁を張り、押し出されるように撤退するのが最善の術である。その微妙な匙加減は戦闘のベテランであるメルド団長達だからこそ実現できるのであって、経験不足の光輝達には無理難題だ。
今は悠長に話せる状況ではないので、その辺の事情を省き説明しているメルド団長なのだが、光輝曰く“置いていく”ことができないらしく撤退しようとしない。また、自分ならベヒモスをどうにかできると思い込んでいるのか、目の輝きが攻撃色を放ち、自分の力を過信している。
「光輝! 団長さんの言う通りに撤退しましょう!」
「雫! でも……!」
雫はメルド団長の意思を理解し、光輝を嗜めようと腕を掴む。
「へ、光輝の無茶振りは今に始まったことじゃねえだろ? 俺も付き合うぜ!」
「龍太郎……ありがとうな」
しかし脳筋の龍太郎が掛けた言葉で光輝は更にやる気を見せてしまう。
「ああ、もう! ただでさえ
「雫ちゃん……」
色々なストレスを振り払うように苛立ちながら声を上げる雫に、心配そうに声を掛ける香織。尚、誰も『馬鹿男』の部分は訂正しなかった。否、正解なので訂正する必要もない。
その時、一人の女子が光輝達の前に飛び出た。
「天之河さん!」
『ハジメちゃん(さん)!?』
「な、南雲!? どうしてここに!?」
非戦闘員と認定されている
ハジメは光輝に必死の形相を向けてまくし立てる。
「早く撤退してください! 皆のところに! でないと皆が! 早く!」
「ま、待て南雲! いきなり何だ! 大体こんな事態になったのは君の兄さんのせいじゃないか! そんなことよりも、君は兄さんに何もしないように言い聞かせてくれ! ここは俺達に任せて……」
「いい加減にしてッ!!」
ハジメ達など戦力外だと言外に告げて撤退を促そうとする光輝の言葉を遮り、ハジメは見せたがことない乱暴な口調で怒鳴り返す。いつも兄の変態行為に苦笑いしながら物事を受け流す印象と違い、そのギャップに戸惑い光輝は硬直する。
「お兄ちゃんのやることは毎度、裏目になるし、お兄ちゃんのせいで胃が痛くなるのは何度もあったけどッ……いつも自分が正しいと思い込まないで! それに、お兄ちゃんのすることが全部間違いだって、貴方が勝手に決めつけないでよ!! 私、貴方のそういうところ本当に大っ嫌いッ!!」
こんな暴言、光輝ファンクラブに聞かれでもすれば間違いなく袋叩きにされるだろう。だが、もうそんなのどうでも良い。なり振り構っていられないハジメであった。
「——ほら、あれを見て! 皆パニックになってるのが見えないの!? リーダーがいないからだよ!」
ハジメは光輝の胸倉を掴んでクラスメイト達の方へ指差す。
クラスメイト達はトラムソルジャーに囲まれ、訓練で習ったことなど忘れたかのように、がむしゃらに戦っている。効率的に倒せていないから未だに敵の増長を止められずにいた。個人のスペックの高さが辛うじて繋ぎ止めているも、それも時間の問題だ。
「今の皆には一撃で切り抜けられる力が必要なの! 恐怖を吹き飛ばす力が! それができるのはリーダーである天之河さんだけでしょ!? 前ばかり見てないで、ちゃんと後ろも見てよッ!!」
初めてクラスメイトの女子に怒鳴られたことに呆然となりながら、混乱と怒号に陥るクラスメイトを目にする。光輝は頭を冷やし首を縦に振る。
「ああ、分かった。すぐ行く! すみません、メルドさん! 先に——」
「お前達、下がれぇーーーーー!!」
光輝が「離脱します」と言おうとした瞬間、切羽詰まったメルド団長の警告が響き、障壁が遂に砕け散る。
「ッ、【れんせ——!」
咄嗟に危険を察知したハジメが石の壁を錬成するが、暴風雨のように荒れ狂う衝撃波が襲われて簡単に崩れ去る。
ハジメのお陰で多少の威力を相殺させたようだが、今の衝撃でメルド団長や騎士三名が身動き取れずにいた。一方、団長達の背後にいた光輝達も倒れていたが、石壁の効果もあり、すぐ立ち上がる。
「ぐッ……龍太郎、雫。時間を稼げるか?」
光輝が苦し紛れに問う。団長達が倒れてる以上、やれるのは自分達しかいないことを自覚したのか、確かな足取りで前へ出る二人。
「やるしか、ねぇだろ!」
「……何とかしてみるわ!」
拳と刀を構え、ベヒモスへ突貫する。
「香織はメルドさん達の治療を!」
「うん!」
光輝の指示で香織が走り出す。メルド団長の元には既にハジメがいて、戦いの余波が届かないように石壁を作り出している。
光輝は見届けると、今の自分が出せる最大級の技を放つ詠唱を開始する。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ! “神威”!」
詠唱を唱え終え、聖剣から眩い極光が迸った。先程の“天翔閃”と同系統だが威力が桁違いだ。橋の石畳を抉りながらベヒモスへ真っ直ぐ突き進む。
詠唱終了と共に、龍太郎と雫の両名は既に離脱している。この短い時間だけでダメージが大きかったらしく、二人共ボロボロだった。
轟音と共に、聖剣から放たれた光属性の砲撃がベヒモスに直撃した。眩い光が辺りを真っ白に塗り潰し、激しく揺れる橋に大きな亀裂が入っていく。
「ハァハァ……これなら」
「さ、流石にやった、よな?」
「だと、良いけど……」
龍太郎と雫が傍に戻り、光輝は大量の魔力を消費してしまい肩で息をしていた。その背後で治療を終えたのか、メルド団長達が起き上がろうとしている。
徐々に光が収まり、砂埃が吹き払われた。
その先には……無傷のベヒモス。
文字通り切り札を放って残存魔力もほとんど持っていかれたというのに、傷一つすらつけられなかった事実に、光輝はショックを受けて呆然とした。
光輝達を絶望させる暇もなく、低い唸り声を上げ、全身から赤黒い魔力を発しながら、光輝達を射殺そうと睨みつけている。
「ボケッとするな! 逃げろ!」
正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスは光輝達のかなり手前で跳躍した。赤熱化した頭部を下に向け、隕石のように突進する。
咄嗟に光輝達は回避するも、着弾したベヒモスの衝撃波を浴びて吹き飛ぶ。地面を転がり落ちた頃には、満身創痍の状態で倒れていた。
「お前等、動けるか!?」
何とか動けるようになったメルド団長が駆け寄って叫ぶように尋ねるも、光輝達の返事は呻き声だ。メルド団長が受けたように全身が麻痺して動けないのだろう。
『グルァアアアアアアアッ!!』
その直後、ベヒモスが地面に突き刺さった頭部を抜き出した。
頭部を上に掲げると、頭の角がコォオオオオッ、と甲高い音を立てながら両角を赤熱化し、角の間で赤黒い魔力の球体が生成されていく。
「ッ!? 皆、逃げてぇえええええええ!!」
誰が叫んだか分からないが、ベヒモスの意図に気づいたようだ。だが、もう手遅れだった。
悲鳴が耳に入りハジメが身構えた瞬間、角の間の魔力の球体が光線となって、自分達へ一直線に放たれる。その
防壁を張る時間もない。光線に焼かれて絶命する——誰もがそう錯覚した。
「うおりゃああああああああああああああああッ!!」
ベヒモスに負けないぐらいの、凄まじい雄叫びが響き渡った。
人より何倍も巨大な石の破片がハジメ達の前に地面に突き刺さり、ベヒモスが放った光線を防ぐ巨大な盾となる。それは石畳の一部である。その石の破片には、橋から無理矢理剥がした跡が残っている。
赤黒い
スペックが高いクラスメイト達が協力したとしても、巨大な石畳を剥がし、運ぶことすら不可能な術を実行できたのは、もちろんこの男だ。
「お兄ちゃんッ!」
「ゲン君ッ!?」
南雲ゲン——妹のピンチに駆けつけ、ようやく参上。まぁ、元の発端もこの男なのでプラマイゼロなのだが……
『グルゥウウウッ……!!』
先程の
僅かな時間だが、撤退できる時間を稼げるのを見逃さないメルド団長。この地を死地と決め、命を賭けて光輝達を逃そうとゲンの方に駆け寄る。
「助かった、坊主! だけど、ここはもう危険だ! お前も早く退避し……」
「——おっさん、そいつ等を連れて早く撤退してくれ。アイツは俺が足止めしとくから」
『ッ!?』
「お兄ちゃん!? 何を言ってるの!!」
唐突に出されたゲンの提案に誰もが驚愕を隠せず、ハジメも困惑しながら声を上げる。それはつまり、ベヒモスの対応をゲンに任せる間、クラスメイト達に撤退の準備を進めるというのだ。とても単純かつ最も危険な作戦。作戦と呼べるか危うい馬鹿げた提案で、成功率があまりにも低い。
だが不思議と、
「ま、待って、ゲン君! そんなことできないよ! だったら、私もゲン君の傍に……!」
「駄目、香織ちゃんを失った時のリスクが高すぎる。それに、香織ちゃんは香織ちゃんにしかできないことがあるだろ? 雫ちゃん達の傷を治してくれよ」
「で、でも……!」
だからと言って、ゲンを死地へ送らせるなんて真似、香織はできない。
ハジメもまた、同じ気持ちだった。ゲンを失いたくない。
その思いに駆られるようにゲンの意見に反発し、一切引こうとしなかった。
あまり付き合いがないメルド団長も躊躇うが、ベヒモスは既に戦闘準備を整えている。再び頭部が赤熱化を開始し、もう時間がない。
「……坊主、やれるんだな?」
「
自分達より何倍も巨体な強敵にも恐れず、自信満々な眼差しを向けるゲンに、メルド団長は苦笑を漏らす。
「お前だけには命を預けたくなかったが、致し方ない……坊主、頼んだぞ!」
「その代わり、ハジメを頼んだぞ! 丁寧に扱ってくれ! あ、でも変なところ触るんじゃねえぞ!? 少しでもハジメにイヤらしい手付きで触れたら、ベヒモスよりも先に俺が抹殺しに行くかんなッ!?」
『早よ行けッ!!』
鬼のような形相で力説してくるゲンにツッコミを入れる騎士団員とメルド団長。こんな状況でするわけがないだろう。
ゲンの傍に残ろうとするハジメも、香織と雫に連れて行かれるのを確認し、「よし……」とゲンは頷く。ベヒモスの方へ振り向くと、ベヒモスですら目で追いつけない速さで駆け抜ける。
全力で助走しながら拳に力を溜め、ベヒモスに向けて渾身の一撃を打つ。
「と言うわけで、俺が相手だ! 喰ぇええええええええええええええええええ!!!!」
————ゴツンッ!
「……………………か、硬ひッ」
結構、響きの良い音が鳴ったが、皮膚に打ちつけた拳に振動が伝わって若干涙目になるゲン。
『……………』
呻き声一つ発さないままゲンを凝視するベヒモス。その光景を例えるなら、巣にちょっかい出して大雀蜂の大群に針を向けられている悪戯小僧に似ている。最も、その数百倍は危険な状況だが。
静寂な均衡を先に破って口を開いたのは、下手くそな愛想笑いを浮かべたゲンだ。
「……か、格好良いフォルムだよね〜? 恐竜型のモンスターって。いや、俺は恐竜と言ったらティラノ派なんだけども、トリケラも中々強そうだもんな。イカすぜ!」
ほぼ勢いで押し切りながら
『………グルァアアアアアアアアアアア!!!』
もちろん、そんな褒め言葉がモンスターに通じる訳もなく、ベヒモスの視線がゲン一点に集中し襲いかかった。
「ギャアアアアアアアアア!! 俺のギャグ補正が全く効かないいいいいいいいい!? 殺されるぅううううううううう!!?」
その光景を目にした誰もが「逆に何故それが通じると思った?」と呆然とする。良い雰囲気でゲンに任せたメルド団長もポカンとしていた。
ベヒモスの皮膚はタンク車並みの強度を保っているため、外部から受ける打撃系の攻撃に強い。ましてや『ギャグ補正』と言う力(?)を手にしたとしても、拳一発で簡単に倒せるわけがない。現実はそんなに甘くないと言うことだ。
香織に治療してもらい動けるようになったツッコミ兼オカン役の雫が叱りつけるように叫んだ。
「貴方、本当に馬鹿なの!!? ギャグ補正が通じるわけないでしょう!? もう十分頑張ったから貴方も早く撤退して!!」
「それだけは無理だ! 男にはな、時には後に引けない時があるんだよ……『ぶっちゃけ格好付けてました、やっぱ無理っす〜!』なんて言ってバトンタッチしてしまえば、それこそ男としてカッコ悪くね?」
「だったら安心して! この事態を引き起こした事態で貴方の評価はマイナスに等しいから! 過去最低評価の記録を塗り潰して、ある意味格好良いわよ!!」
「え? カッコ良いだと? き、急に言われると照れるじゃねえかッ、雫ちゃん。俺を煽ても何も手に入らないぞ♪ ……って、来たぁああああああああ!!?」
都合の良いところだけしか聞こえない
………すると、本人も目を疑うような事態が起こった。
『グガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』
目の前で踏み殺そうとしていたベヒモスが、文字通り後方へ吹き飛ばされていた。煙を巻き上げ、その巨体さ故に地震を起こして転倒する。
「………ん? あれ? 何で?」
自分の身に何が起こったのか分からないゲン。と、咄嗟にポケットから取り出して握り締めていたものを見た。
「これは、あの時の変な物体………ん? んん〜? こんな色してたっけ? コレ」
ゲンの手元にあるその姿は、ゲンの記憶の中にあるものと大分かけ離れていた。
オレンジ色基調の黒いボタンのような小型スイッチ。注目すべきは、そのスイッチに刻まれている『01』と言う数字。
「よく分からないけど……もしかしてイケる? 俺TUEEEEEEEEのターン到来か!? オッシャァアアアアアア!! 来た来た来た来た来たぜヒャッハーーーーーー!! 覚悟しろやゴラァ! 今まで俺が受けてきた分を百倍にして返し、お前を痛ぶってやるからなぁ!! こんのトリケラトプス擬き野郎ォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
もう色々駄目だ。絶対この後何か起こるであろうフラグを見事に回収しまくったよ、この男……
血気盛んにガンガン殴り迫って反撃するゲン。
『進○の巨人』ならぬ進撃の変態に殴られ続けるベヒモスは憤怒に染まり、案の定、変化が訪れる。体が青黒く変色し、至るところの細部が変形し始める。
『グゥウウウ………グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
「ぎょえええええええええええ!! 第二形態の突入来たぁああああああああああああ!!?」
『アホーーーーー!? 調子に乗るから(よ)!!』
……見事、調子に乗り過ぎて余計なフラグを踏み鳴らした
地を揺るがす程の雄叫びを上げたベヒモスは体をメキメキッ! と骨格同士が擦り合う音を鳴らしながら変化し、巨大な背中から鋭利な背鰭が生え始め、巨大な爪が二倍近く伸びて凶暴さを増す。より凶悪かつ残虐になった第二形態となった瞬間だった。
ゲンの猛攻に相当苛立った様子で「ようも散々やってくれたのう? 倍返しじゃオンドリャアアアアアアアア!!」と言いたげそうに、眼を爛々とギラつかせて突進を仕掛けるベヒモス。荒れ狂う猛攻の手を一切緩めず、勝ち目のないゲンは「おひゃッ!」や「ひょえッ!?」と小さな悲鳴を上げながら逃げ惑うしかない。
だが、ゲンのした行為は決して無駄とも言えない。少なくとも時間稼ぎにはなった。
「もー、手間が掛かるんだから! 【錬成】!!」
騎士団員とメルド団長が呆然とした隙に拘束を抜け出し、ハジメはゲンの元へ走ると、地面に手を当てて錬成を発動させる。
ちょこまか逃げ回るゲンを踏み潰そうと脚を踏み上げる直前、反対側の脚が地面に深く沈み込み、ベヒモスは体勢を崩してしまう。ついでにハジメのアレンジで、その穴を二度目の錬成で固められ塞がれてしまう。
すると今度はハジメも標的にした。先程、光輝やゲンを狙ったように自分に攻撃する者を標的にする習性があるようだ。
ゲンを殺そうと突進を繰り返した攻撃に加え、ハジメに閉じ込められて抜け出そうと暴れてることで、ベヒモスが埋まってる地面の周囲に大きな亀裂が生じるが、地面に手を当てたハジメが錬成して亀裂を直してしまう。
また、まともに動けない状態で死角からゲンが打撃を与えてるため、蚊に付き纏われたようにベヒモスは鬱陶しく感じ気が散ってしまう。
それから僅か一分ぐらい、ベヒモスを閉じ込めることができた。
しかし、ハジメの魔力が底を尽きかけていた。回復薬も既にない。これ以上ベヒモスを抑えるには、ゲンの奮闘だけでは限度があった。
『グルァアアアアアアアアアアア!!!』
地面が砕け散りながらベヒモスが咆哮と共に起き上がった。その眼には、チョロチョロ動き回って撹乱させた
「全員、一斉発射ァアアアアアアアアア!!!」
メルド団長の合図が響き渡った瞬間、ありとあらゆる属性の魔法がベヒモスの元へ飛来した。
クラスメイトがそれぞれ得意な属性の魔法を放ち、それらは流星の如く色とりどりにベヒモスを足止めさせる。トラムソルジャーの方は回復した光輝達が加わったことで大多数を倒したようで、包囲網を突破したところから遠距離攻撃をしているようだ。
ゲンとハジメは「待ってましたぁ!」と言わんばかりに走り出し、頭上を飛び交う魔法の流れ弾に注意しながら階段の方へ目指す。
「———え?」
一瞬、何が起こったのか理解できずにいた。
頭上を駆け抜ける幾つもの魔法の中で、一つの火球が軌道を僅かに変えてゲンの横を通過し……ゲンの背後にいるハジメの方へ向かった。誤差などではない、馬鹿なゲンにも見やすい配置で意図的にハジメの元へ誘導されたものだ。
疑惑、困惑、驚愕がハジメの脳内で凝縮され、火球がモロに腹部に直撃してしまう。愕然を隠せないままハジメの体は後方へ飛ばされ、ゲンから離れてしまう。
その戸惑いの感情はゲンにも伝染し、同じく顔を驚愕へと染め上げた。
「ハジメ!?」
「………ッ、大、丈夫だから……!」
痛みで顔がクシャクシャになりながらも、無理矢理弱々しい笑みを浮かべ、ゲンに見せつけるように笑っていた。痩せ我慢と言っても過言ではない。誰かの所作ではないと思わせたい、心配させたくないと言う想いが込もった、今にも消えそうな笑みだった。
現在、ゲンとハジメとの距離は五メートル程である。ハジメも火傷と殴打からようやく立ち上がり、気管系をやられたのか身体をフラフラさせながらも、少しずつゲンの方へ進もうとする。だが……
『グァガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
すぐさま振り返ると、青黒い魔力を全身から噴き上げ、青白い熱を放ちながら、ベヒモスの眼光がしっかりと
灼熱を帯びた頭部の角をかざしながら、ハジメの地面近くに突き刺す。
その一撃が……橋の崩壊を助長させた。
ベヒモスとの度重なる攻防で石造りの橋は、遂に耐久限界を超えてしまう。
『グウォォアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
傾く石畳に爪でしがみ付こうとするベヒモスの抵抗も虚しく、引っ掛けた箇所すら崩壊しながら奈落へと消えていく。
その巻き添いに、ハジメがしがみ付いていた場所も崩壊し、仰向けになりながら奈落へと落ちていった。
(あ、もう駄目だ………)
自然と、諦めの言葉が頭に浮かんだ。ふと対岸にいるクラスメイト達に視線を向けると、青ざめたり、目や口を手で覆うクラスメイトがいた。メルド団長や騎士団員も悔しそうな表情でハジメを見ている。
受けた火球による痛みで意識が消え行く中、最後に見たものは……
「ハジメーーーーーーーーッ!!!」
視界を埋め尽くすぐらいの大きな何かが飛び込んできた。
その人は、喉が引き裂けそうになるぐらいの雄叫びを上げながら自分の元へ飛び込む、奈落の底なんて恐れもしない
ゲンの必死そうな形相を最後に目にし、ハジメは意識を失った。
———△———
少し前に遡る。
石橋が崩壊を開始する中、驚愕しながらハジメを見る香織と雫を交互に見ながら、ゲンは決意を固める。
「雫ちゃん………ゴメンな、迷惑ばっか掛けて」
「え? ゲン君? 何を……」
向き合った途端、突然のゲンの謝罪。普段の彼からすれば奇怪な言動に雫は困惑してしまう。
その時、胸騒ぎがした。
ここで引き留めなければ取り返しのつかないことになりそうな、そんな嫌な予感がした雫は慌ててゲンを止めようと走り出す。
「……落ち込んで一人ぼっちにならないように、香織ちゃんを頼んだぜ!!」
「ッ! 待ちなさい、ゲン君!!」
まるで死場所へ向かうように、ゲンは笑みを浮かべながら、今にも崩れそうな石橋を駆け抜けていく。
何をするのか察した雫はゲンの手を掴もうと伸ばしたが、指が微かにゲンの手に触れた程度で届かなかった。
「ゲン君!? 駄目ーーーーーーー!!」
背後から響く香織の悲鳴を受け止めながら、助走をつけて速度を上げたゲンは身を投げ出し——崖へ跳び降りた。
落下し続けながら空中で気絶しているハジメをキャッチする。
———△———
奈落の底へ落ち続ける中、ゲンは考え続けた……
何が駄目だったのだろうか? と。
周りから『変人』と揶揄され、家族にすら軽蔑されながらも、自分なりに精一杯、
……だが結果はどうだ? このザマだ。
ハジメを巻き込んだ自分が情けなくなり、兄貴失格の自覚もあった。
「……お兄、ちゃん………」
ふと、ハジメの声が漏れた。意識がハッキリとしていないのか、うわ言だったのか分からないが、ゲンにとってはそれで十分だ。
ハジメが生きてくれている、それだけが今のゲンにとって最高の贈り物だった。
「………大丈夫だからな、ハジメ」
誤ちを正したいと思っても意味がないことぐらい、ゲンも理解している。
時を巻き戻すことができないように、過ぎたことは変えることはできない。この世界で信仰されている神様に祈っても、不可能だ。
だから、せめてハジメだけでも無傷でいられるように。
心に傷がつきませんように、と祈りながら、ハジメの頬に手を添える。
「俺はその……アレだ。こんな危機的状況に陥ってもギャグマンガ要素のキャラは不死身なんだ。ト○とジ○リー然り、ボ○ボロット然り、ところ天○助然り……俺のようなギャグ
そう呟きながら、壁から競り出ている横穴を確認する。穴から地下水が湧き出ており奥まで続いているようだ。
「ハジメは違うだろ? 嫁入り前の娘に傷でも負わせれば、俺は全国の妹ファンに顔向けできないよ。だから情けないお兄ちゃんの、心からのお願いだ……なるべく無傷でいてくれよッ、ハジメ」
遺言のように呟き、ハジメの背を優しく押し出した。
ハジメの体が地下水が流れている横穴に落下し、ウォータースライダーのように流されていくのを確認する。
だが、ゲンは水など一切ない、地の奥底へ真っ逆さまに落下していく……
フフフフ…………!
フハハハハハハハハハッ!!!(何処かの悪代官風の豪快な笑み)
落としてやったぜ! 今後の展開をどうしようと悩ませる原因を作った、あのシスコン番長を!!
……さて、この後の展開どーしよー?(←オイオイ!?)
そんなわけで、前々から予言しました通り、主人公兄妹を奈落の底に落としてやりました。
兄の方は良いとして、ハジメちゃんには悪いことしたなぁ……本当、シスコン兄の方は別にどうでも良いのに。どうせ生還するだろうから、別に変態兄はどうでも良いのになぁ〜……(三回言った)
やっとスイッチを出せましたけど、まだベルトが登場しないよう!
いつになったらベルトが出てくるんだぁあああああ!!?
……と、思われてる皆様、まだ先の話だと思います。
申し訳ありませんが、暫しの間、待ってください。なるべく早く更新できるように頑張りますゆえ。
では次話で会いましょう!!