今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
例えば、君は素晴らしい才能が有るとしたら。
君はその才能で
…スタンド。
人はその
そして、正しい歴史に居るのかはわからない眠れる奴隷たる者が一人。
スタンドの力に真に目覚め、立ち向かう…
-今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で-
Case1 『レディオ・スターと恐怖』(前編)
「…最近は、つまらない番組ばかりよねぇ…」
間延びした声をあげながら、ある少女がテレビのチャンネルをくるくると回す。
そこに流れるは、下らない通販番組のCMなり使い古した情報をさも大げさに流すワイドショー。
後はジジババですら見古した様な時代劇の再放送か幼稚園児や小学校低学年レベルの教育番組。
少なくとも、17歳と1ヶ月の少女が好む様なラインナップではないだろう。
それもそのはず、今は午前10時半。
まあ、民法は特に気合いを入れてない様な番組ばかりしか流してない。
ハードディスクに録画しているドラマやバラエティーなんかも一度や二度は視聴したもので、彼女…名を、増田エルと言う…には、倦怠感に包まれている様な今見ても、余計に精神的な倦怠感が増す気がする。
ゲームや漫画も似たり寄ったりだ、どうにも、ラインナップが中途半端に今の気分に噛み合わない。
まるで噛み合わない1日に放り込まれた様な、エルはそんな気分である。
無論だがこれが正しいとわかる単純明快な打開策の確信はある、外に出たら気分は晴れるだろう。
と言うか今は平日だ、高校生のエルには本来居るべき高校と言う場もある。
断っておくが---増田エルと言う少女は、決して不登校や引きこもりではない。
むしろ、怠惰かつ無気力寄りな俗物極まる性格ではあるが、外に出歩く事や学業に励む事はこれでも最低限はこなすタイプである。
大いなるズルは日常的にしているが…まあこの件とは無関係であるだろう。
少なくとも、創立記念日でも何でもないのに
…そう、事態を解説するには、そもそも彼女の通っている高校とその土地その物を先に説明しなければならないだろう。
この増田エルが通っている柚木町(ゆうぎちょう)は私立の作八高校(さくやこうこう)についての話だ。
柚木町は歴史的に
三年生の男子生徒二名が骨も残さない灰と化し、学生証やカバンが燃え残らなければ誰が誰だかわからないぐらいの惨い焼死体として見つかった事がそもそものきっかけである。
その事件による犯人が見つかるか、少なくともほとぼりが冷めるまで生徒だけの一人あるきを禁じられてしまったのである。
…特に、今は情報が流れる速さも早い。
『アイツが犯人だ』だの『アイツが怪しい』だの、或いは『殺されるヤツが間抜けだった』だの。
下品で最低な憶測がネットの海を流れ、そして周囲の目が厳しく下世話になりつつあるそんな中で、エルはわざわざ外に出ようとは思わない。
エルはどんな相手でも決して負けるつもりは無いし自信はあるが、しかして、『勝利』には向いてない…それを自覚しているからこそ尚更である。
加えて言えば…訳あって彼女は実家の館で独り暮らしだが、金は最低限ある。
飯などカップ麺かレトルトでも宅配に運ばせたら良い、そういうものだ。
故に、つまらなくても外に出たくはない。出れない。
だからエルは絶望と倦怠感と共に、つまらないテレビと向き合うしかなかったのであるが…暇で暇で仕方なかったのか、或いは、テレビ相手にゴロゴロしている自分が嫌になったのかは定かではないが、そのエルが、何気無しにその『才能』を発動する。
「『レディオ・スター』…」
そう、気だるげにエルが呼び出すは…人型の、170㎝程の幻影。
機械的な装飾が全身に散らばり、瞳はゴーグルで隠されたとんがり帽子をかぶっている女性型ロボットの様な『それ』がテレビに触れるなり映像が急に切り替わる。
「あのオッサンのオナニーだの、奥さんからの嫌味だの、娘ちゃんからの反抗期のイヤイヤだの…しょーじきあんまり見たくは無いけどぉ、便利だから辞められないわぁ」
と、そんな事をほざきながら…テレビのチャンネルが砂嵐に切り替わると思いきや、妙な視点からのリアルタイム映像に切り替わる、まさにその時、エルの顔は恐怖に染まるのだ。
それは、テレビから流れる『殺人中継』のせいであった。
そのテレビからは、女性の悲鳴が聞こえるなり、次は男の恐慌状態の絶叫が響き渡る。「な…何なんだ、お前は…!!?」…と言う声が、だ。
そしてテレビに移るは、後退りしながら恐慌状態で『犯人』と向き合う視点。
その視点からは…既に灰となったであろう奥さんの遺体の跡と、今まさに遺体となりつつあるが助けを求めながら手遅れだとわかる娘たる少女の燃え上がる姿。
しかし調度品や家屋には何一つ火の手が上がらないと言う奇妙な焼死体の散乱する現場と言う中で…全身黒ずくめにマスクにサングラスと重装備をした犯人は…手に持った斧を振りかざし、そこで映像は途切れた。
「あ……イヤァァァアアアアァア!!?!」
エルは恐慌のあまり絶叫し…焼死体のあまりの惨い有り様を見てしまった彼女はそのままにぐええと胃の中身を吐き出してしまう。
気持ち悪い。
怖い。
嫌だ。
可哀想。
…そんな気持ちのままに、半泣きになりながら床にぶちまけてしまった。
彼女は人間的には間違いなくクズの類いであるが、一方で人への気持ちの感受性が強い、優しい性格でもあったのだから。
少なくとも、黄金の精神も漆黒の殺意も無いが吐き気を催す邪悪でもない。
まあ、黄金ではないからこそどんなものにも共感できる、卑金属程度の精神ではあっただろう。
…さて、胃の中身を全てぶちまけ落ち着いた彼女は、とりあえず通報をしようとして…躊躇った。
なにをどう警察に言えば良いのだ?
『自分の特殊な才能のおかげで◯◯時に殺人が起きたのを目撃しました』…なんて、誰が信じるのか。
否、
唯一無二の知り合いにして能力を把握している、有栖川警部補がエルに応対してくれる可能性が高くはないからだ。
それこそ、連続焼死事件の犯人、或いは共犯者と誤解される可能性の方が高いだろう。
ましてやエルは現場は見ているが犯人の顔を見ていない。
身長や体格はだいたいわかるが、それこそ175㎝から180㎝ぐらいの男なんて地球上に何人居るのか絞り込める訳がないし、あの映像には車のナンバープレートなりの特定出来そうな情報もわからない。
被害者が担任の地歴科の黒須火虎(くろす・かとら)とその一家な事だと言う事ぐらいだろう、わかる範囲では。
「…そう、そうねぇ…」
エルは、何を思ったか…吐き出した反吐を片付けるなり、父が遺したバイクの鍵を物置から引っ張り出す。
そして、免許をとって以来まともに動かしてなかった原付のエンジンを吹かすなり、危ないであろう屋敷の外に飛び出すようにそれを転がすのだ。
自分にグロ画像を見せ付けた犯人を探すため、恩師と言う程好きではないが別に嫌いでもなかった担任とその一家の仇を取るために…
「…『悲劇』があんたのゴール、よ」
レディオ・スターのヴィジョンを召喚するなり、エルはまず現場となった担任の家に向かう。
そこで、エルは『恐怖』を知るのだ…
to be continued