今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
…さて、話を何処まで進めたか…と言うと、レイプ魔騒ぎが収束した後の話をしなければならないだろうか。
神木が暴走しました、倒しました、めでたしめでたし…と、一昔前のアニメならちゃんちゃんとでもSEが付くだろうオチで終わるほど
タイミングだと、まあ陸部青年が退院した前後ぐらいの話になるが…そこで起きた『奇妙な事件』について触れなければなるまい。
少し前置きがくどくなった事は詫びねばならぬが、
Case13 『エルが出会うもの』前編
さて、エルはあの事件以来すっかり落ち込んでた。
自分は役に立たぬ、碌でなしだ…と言う感じの想いに、ある種の自責の念に囚われて居たのだ。
そもそもエルと言う少女はもともとの性格が気位の高いきらいはある。それは妾腹の系譜と謂えど、名家の跡取りだからだろうか。
故に、基本的に鷹揚でかつ余裕ある態度を見せては居るが、そのプライドの高さが悪い方向に一度でも向けば…
一旦傷付いてしまうと立ち直りにくい性分がないまぜになるわ、なんともややこしい事に素の性格が優しい上に困っている人や悲しい人に共感しやすい性分だわと重なり、妙なところでナイーブになってしまう。
一方で、本質的にはまだ親兄弟や教師などの身近な大人へ甘えたい盛りの歳ではあろう…
両親を殺人事件で失った挙げ句親戚たちからはカモにされたトラウマもあり、その対象はほぼ有栖川に向けられている事も事実としてある。
言い換えれば
更に言えば本質的には『レディオ・スター』の能力をある種過信している気があるのかも知れない。
要は「追跡調査にしか役に立たぬ能力」ではあるが、逆に言ってしまうと「追跡調査には自分は絶対に役に立つ」存在だと、ひいては自分自身の存在意義とすら思い込んでいる節があった。
故に、そこら辺の事情を纏めたら…と言う話をすると。
要するに、有栖川に協力する背景には、金目当てと言う部分以上に『自分を有栖川にとって役に立つ存在たりえるか』みたいな自己確立の為の確認の儀式の様な事情があったりする。
逆に言えば、『有栖川にとって役に立たぬなら自己の存在意義は無価値だろう』などと言う恐怖を常に抱えて生活しているに等しい。
前回の事件…『A・C』によるレイプ魔騒ぎの事件において、ほぼ活躍したのは優姫と陸部の二人だった。
エルの能力が無ければヒントが出てこなかったにしろ、根本的にそれ以上の活躍はしていない。
如何に、相性が最悪極まる遠隔自動操縦型とはいえ、だ。結果論ではあるが
「私は…幻滅されたわよねぇ…」
ふと、そんな事を口につく自分の顔を何気無く姿見で見て、余計に自分自身に幻滅する。
涙のひとつでも流れていたら、それは可愛げでもあったかも知れない。
目尻にくまでも携えていたなら、それは分かりやすかったかも知れない。
だがそこに浮かぶのは…死んだ魚の様な目をした何時もの自分のツラだ、それ以上ではない。
精神的に参っていると
…彼女自身の中で、エルはほとんどうつにでもなってきたみたいに考えてしまうぐらいに、たった一度でも捜査の役に立たなかった程度の事に自分で自分を追い込んでしまっていた。
メンタルが弱すぎるだろう、と…他人は言うかも知れない。
少なくとも、健全で五体満足な精神とは程遠いのは事実だが、増田エルと言う女はそもそも両親どころかマトモな親戚すら居ない17歳の少女だ。
優姫は分かりやすく暴力的かつヒステリックに発露していたが、エルは他人の評価が関わる部分のメンタル部分では表面的には分かりにくいだけ。
それ以上ではない、それ以下でもない。
ただ、エル自身…まあ、自分の良くない所ぐらいは自覚している。
感情、感性、気性…と呼ばれる類いのものは、彼女自身が17年も付き合ってきたものだ。
「…補導されなきゃ、良いけどねぇ」
さて、自宅で鬱々としていた彼女は…何を思ったか、こう呟くなり化粧もせず革のジャケットとフルフェイスのヘルメットをひっつかむと玄関口まで飛び出して。
父親の形見の原付のエンジンをふかして国道に繰り出した。
さて…少し脱線になるが。
彼女の原付は、と言われると、実はいわゆる古臭い型のホンダのカブ。
名家なんだから親父ももっと良いのに乗れよ、とエル自身コイツにまたがる度に思わないでもないが、そこら辺は先代の趣味が100%で構成されている。
『実用』と言う必用最低限かつ最大公約数の形の完成形、低排気のバイクに限って言えばカブはそれを満たしている原付のひとつだろう。
そういうプライベートで完結した必用最低限の機構と機動力という部分に魅力を感じていたのがエルの父親であり、そもそも
と言うのも、県境を跨ぐ遠出をしたり、或いはそうでない近場の移動でも仕事で出掛けるとなると…ハイヤーに任せるか、お抱えの運転手が動かすキャデラックやリムジンにでも運転を任せるか。
要するに公用車や社用車と言うものは、ひいては
…とはいえ、生前はロレックスの時計に身を固めアルマーニだかなんだかの高級シャツを着たおっさんがボロくなってきたカブを乗り回す光景は変に映ってはいたそうだとは余談として置いといて。
そして…まあ、そういったエルの親父さんのお気に入りのカブだったりした訳だが。
リムジンだのの高級車はエルの父親の殺人による遺産のゴタゴタで現金に換金され、年齢が年齢のためにエルが買い戻せず手放したが。
一方で10年選手な中古の老朽化したカブなんざ二束三文にも査定が付かず、ナアナアで後回しに後回しにほっとかれた結果として、何故かエルの実家に居座り続ける事になり…
流石に老朽化してるわ数年ほったらかしだわなマシンだったので業者にオーバーホールは頼んだが、エルの愛車として今でも受け継がれてはいる。
そういった両親との少なくなってきた『繋がり』を感じたい…と言うセンチメンタルな感情も抱えながら、エルは夜風にあたり原付バイクを転がすこと。
彼女の数少ない趣味のひとつである。
コンビニに向かうでも良いし、公園に向かうでも良い。
いっそ山や海でも行ってみようか。
或いは市内をぐるぐる回ってそれで終わるか。
それとも、まだ知らない道を探してみようか。
…理性的な彼女らしくない場当たり的な発想のまま、原付の気の向くままに発進する事にする。
そういった
或いはまた別の何かに惹かれ合う存在なのか…
それらの答えは、エルが偶然立ち寄ったガソリンスタンドで、また話は進めるとしよう…
to be continued