今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
(私の『レディオ・スター』は追跡調査向きのスタンド…)
原付を転がしながら、背中のヴィジョン…スタンド、『レディオ・スター』に目配せしたエルは内心でこう続ける。
(おそらく、
そう、背中にてバイクに共に股がる彼女のスタンド『レディオ・スター』と犯人のスタンドとの戦闘力の差を鑑みながら、目的地たる現場…黒須の家への足を運ぶ。
(スピードはおそらく私のレディオ・スターの方が上、だけどパワーは…せいぜいベニヤ板を割れるかどうかのレベルの私のスタンドでは決定打には弱すぎるわぁ。少なくとも、能力の特性上
と、そんな他愛ない事は頭に過りつつではあったのだが…しかし、そもそもの彼女にとっての勝利条件はなんだ、と考えてみたらわかる話だろう事がある。
殴り合い、そして倒すなり…或いは、最悪殺す。エルにしてみたらその必要性は一切無い。
『犯人の足取りか正体を突き止める事』、勝利条件はそこにある。
そして、レディオ・スターの能力は、
Case2『レディオ・スターと恐怖』後編
…さて、そんな話はこの辺りで切り上げたい。
話をうだうだとレディオ・スターの話を中途半端に連ねても進まない為に、少しだけ時間を進めよう。
犯人の殺害現場、エルはそこに到着した時にまで、だ。
現場には、keepoutだの危険だのと言うビニールテープによるバリケードと共に、青だか紺だかの作業着や制服を着た警察官がうようよと群がって現場を封鎖している。
マスコミらしい人達もカメラを向けており、近隣のマンションはざわざわとどよめいているだろう。
そしてエルがこの光景を目撃した時に最初に感じた感想は…「一手遅れた」と言うモノだった。
流石に、近隣の住人の通報は早かった様だ。
まあ、それは当然と言うと当然で…人が焼け焦げる様な異臭に家族三人ぶんの絶叫と言う事情がひとつ。
しかもつい最近高校生が同じような手口で焼殺された連続殺人の被害者であり…しかも、いずれ報道はなされるだろう被害者は今度は担任教師と来ているセンセーショナルなモノであるのだ。
騒ぎが大きくなることは、誰にもわかる話であった。
こうなると、困ったことになったのはエルである。
捜査向けのスタンド使いなんて叫んだ所で、誰が信じるか。
と言うか、信じられた方が問題だろう。
種が割れたら何にも出来ないと言う類いのスタンドは山のように存在する。
レディオ・スターもその類いに近い。効果範囲と効果の持続力に関しては他のスタンドを圧倒するモノであり応用力も高いが、一方でスタンドその物のスペックは少々素早いだけでパワーも精密さも人並み未満と言う有り様であり、他人に見せたくは無い。
特にマスコミがうろうろしてカメラや集音機がある場所で、
せめてあの人が居たら…そう、頭に過ったまさにそんな時である。
「貴様か、増田」
エルの目の前に現れたのは、エルより頭2つぐらい高い成人男子顔負けの婦警であり警部補と言うエリート警官の有栖川虹(ありすがわ・こう)と言う女性だ。
先に説明すると
…まあ、エルのスタンドの詳細を何故、有栖川が知っているかと言うと。
レディオ・スターはその能力的に犯罪にも、特に詐欺や脅迫にいくらでも応用できてしまい、実際に一時期エルが荒れていた頃に本格的に吐き気を催す邪悪に道を踏み外しかけた際の事。
その現場をたまたま警官として止めた時に、説教とゲンコツぶちかましたのが縁で妙に付き合いが長くなって以降呼び捨てで呼ばれエルは敬意を持って接する仲になっている…まあ、エルが卑金属程度の精神で安定したのは、彼女の様な尊大ながらも黄金の精神を持つ大人が支えてくれたからと言う話だが。
まあそれはそうと。
話を戻すと、有栖川はエルを見ていぶかしむ、何でここにいる?と。
まさかレディオ・スターの能力で殺人現場を直接目撃した…と伝えたら別な意味で怒られるのはわかっていたエルは、食料の買い出しに向かう途中でたまたま現場に居合わせた、と誤魔化しつつ。
逆にエルこそ有栖川に質問する。何の用なのかをだ。
「…増田、貴様のスタンドは私のスタンドと違って捜査向けの能力だ。と言うか、私の『ザ・ポリス』は捜査はおろか戦闘力も本当に役にたたんからな。その事は貴様だとて知っているだろう?私の場合、相手のスタンドが自動操縦だったりしたら即お陀仏だし射程が短すぎるから捜査にも役に立たない…歯痒いがな」
そう前置きするなり、ビニール袋につつまれた遺留品をひとつ、エルにこっそりと渡す。
中身は髪の毛が一本。
炭となり物言わぬ焼死体と化した黒須一家はB型とO型でありながら、髪の毛の血液型は簡易な調査ながらA型と鑑識が判別している。
つまりこの遺留品の髪は犯人が残した置き土産と言う可能性が高いのだ。
そして有栖川はこう続ける。
「
そう、自身の浅ましさを見透かされたエルはばつの悪い顔をしながらではあるのだが。
しかして、エルからしては渡りになんとやら、早速ビニール袋から遺留品にあたる髪の毛一本を取り出すとレディオ・スターでピンと指先に触れる。
するとどうだろう、待機画面の待ち受けだったはずのスマートフォンに映るのは、
「『此田町(これたちょう)』の…ああ、あの激安が売りのスーパーとコンビニのオーソンがある交差点、か。公園のある方に向かっているのか。やはり近くに潜んでいたか」
そう、柚木町の隣街に存在する町同士の境でうろうろしているだろう
「犯人は、結局絞れるわねぇ…このタイミングで柚木町と此田町の境界線の交差点を移動してるアリバイがない、175㎝ぐらいの痩せがたの男で、昼間からうろちょろしてる仕事や約束に縛られない…フリーターかニートか、せいぜい大学生でしょぉ?もう犯人はわかった様なものじゃないのぉ、なら、後は警察官の有栖川さん達のお仕事だし、私のお仕事はこれで終わりよねぇ?」
…と、簡単なプロファイルも兼ねた捜査は一発で終わらせたが故の当然な疑問だろう。
ここで、『レディオ・スター』の能力の全容を明かすと。
凄く簡単に言えばレディオ・スターで一度生きた人間の身体の一部を触ることで『対象』を指定して発動する能力で、レディオ・スターが触れた人間の視点をスマートフォンやテレビの画面の様な動画を写し出せるデバイスを介して
例えば、担任の教師の視点をスクリーンで共有することで、普段だとエルは
…まあ、そんなズルをしようとして、結果今回はとんでもない殺人現場を目撃する羽目になったのだが…逆に言えば、彼女は自分の能力はせいぜい苦手な科目のテストをカンニングしてなんとか赤点を回避しようとするぐらいにしか悪用するつもりは無い。
エルは有栖川に畏敬と感謝を(最低限かつ歪んだ形ではあるが)持っているからやらないだけで、その気になればより本格的かつ最低な犯罪にいくらでも応用が利くスタンドだ。
それこそ、やろうと思えば大企業の金庫の暗証番号なりセキュリティ会社に厳重に保管された個人情報をパスワードごとばらまくことだってできるだろう。
しかし、才覚は表裏一体だ。
『レディオ・スター』はこの様に犯罪者の追跡調査にだって応用が利く、正義の為にだっていくらでも使い勝手はある能力だろう。
…と、少なくとも追跡調査に対しては条件は満たせさえすれば最強無敵な『レディオ・スター』とはいえ…
スタンド、それその物に証拠能力は無いしそもそもスタンドは一般人には見えずスタンド使い同士にしか知覚が出来ないと言う誓約がある。
「…つまりだ、貴様はいくら犯人を特定可能なプロファイルをしても。私達がいくら怪しい人物を絞り込めても…スタンドに頼っただけの捜査だと証拠不十分で逃げられてしまう。
だから
そう、有栖川は警察官としての限界を嘆きながらではあるのだが。
レディオ・スターその物の証拠能力の弱さ、それを説明した後でこう続けるのである。
「故に、
恐怖(スリラー)の火々里と、な。
そう、女性にしては妙に低く渋い有栖川の声が、エルの耳に妙に残ったのであった…
to be continued
スタンドパラメータ
『レディオ・スター』
破壊力D
スピードB
射程距離C(能力自体の効果範囲はA)
持続力A
精密動作性D
成長性C
(A超スゴい、Bスゴい、C普通、D苦手、E超苦手)
中~遠距離型の『受信』するスタンド。
一度触れた相手や相手の身体の一部の持ち主の視界を、デバイスやスクリーンなど「動画を見れるもの」を介する事で共有して視聴する事ができる、物凄く下世話に言えば「覗き見」に特化した能力を誇る。
知覚範囲はそれこそ一度触れてさえしまえば半径5キロ以上は知覚でき、3日は能力は持続する。
ただし、一度に対象は一人と言う誓約が有るため、レディオ・スターが何らかの形で別な生き物に触れてしまうとロックが外れる状態になる他、『死体』や『無機物』の視界はジャックする事は出来ない。
また、スピードはこの手のスタンドにしては異様にスピードこそあり本体から15~20メートルぐらい離れる事はできるが、パワーはせいぜいベニヤ板を割れるか割れないかかつ精密性も段ボールを持ち運びできるかどうかレベルの雑さしかない。
典型的な『ハマれば強く特定の条件下や特定の勝利条件では無敵に近いが、真正面からパワー型のシンプルなスタンドが一直線にこられるとなにもできない』タイプのスタンドとも言えるだろう。
スタンド名の由来はバグルスの楽曲、『ラジオスターの悲劇』から。