今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
…さて、守屋の回想はどこまで話したかと言うと。
ぶん、と風切り音すらなりそうな勢いで剣が揺らぎ、文字通りの不意打ち気味に放たれた初撃をかわされた。
そうしてあわてて間合いを採らんと己がスタンドを盾に飛び退いた女医は酷く驚いてはいたが、直ぐに冷静さを取り戻すような表情に切り替わるとこう口火を切り出すのだ。
「フン…見たところ近接型でも
そう軽口を叩く女医はと言うと、己のスタンドの方に首を向けながら話をこう締めた。
「
『ファイナル・カウントダウン』、コイツは近接型のパワー型、うちもあんたも病院で暴れたら洒落にならへん結果になるやろ。冷静にならんかい!」
そう、警告した女医の言葉を…守屋はうるさいと、一蹴する。
そしてこう心の中で続けてこう返す、なら一撃で仕留めたら何の問題が有るのか、と。
「…『ステルス・オブ・デイズ』、この力で!」
そう叫ぶなり、守屋の姿がじわりと鈍く光ったと一瞬思うなり
病室の中から守屋の姿だけが消え去り、気配のほとんどが消え去ってしまう。
(…このまま、まっすぐ…ゆっくり近づいて、叩く!)
守屋は内心でこう作戦を立てた。
理由は2つある。
まず1つ、これはステルス・オブ・デイズの特性と密接に関係する。
『光』を操り、周囲と同化する。これが彼女の能力だ。
現実世界で言えば、バッタやナナフシのような草木に擬態する昆虫だったり、あるいはギリースーツ等をきこんだスナイパーだと思えば良い。
じっとしていれば、確かに無敵なステルス能力だ…が、逆に言えば
例えば音を立てればあっけなく場所がバレる、何らかのフェロモンか何かを目印に臭いをつけられてもそうだろう。
極論、
あるいは、それこそパワー型でも人型や動物型の様な取っ組み合いになっても勝負できるタイプのスタンドなら話は全然違うのだが、守屋のスタンドは本人が手に持ち振り回さないと当たらないくせに彼女が剣術がパーなせいでスピードも精密動作性も近接型としては最低クラスだ。
もう1つの理由としてはスタンドの推理材料の問題だ。
「初見で姿を消す」スタンドの推理材料が皆無の場合、おおざっぱに考えられるはいくつかある。
例えば周囲の光を操る…と言う『正しい答え』以外にも、例えば一定距離のワープだったり埃や塵の様なサイズにまで縮む身体の極小化だったり、はたまた物質や気体に同化する能力かも知れない。
あるいは壁や天井に張り付く、穴を掘って地中に潜る、と言う可能性も有るかも知れない。
そうなると、それこそ『慣れた』スタンド使いならば真っ先に警戒するのは実は
意外と、真正面と言う選択肢を除外してしまう…少なくとも、逆におろそかになりがちだ。
つまりは、
それで決着がつく。そう信じて。
5メートル…4メートル…じりじりと、守屋は静かにゆっくりと距離をつめる。
3メートル…2メートル…そろそろ、もう射程距離内だ。
一瞬、当たれば地面すら何メートルもえぐるぐらいの威力のあるこのスタンド剣を振り下ろす事に…ホンの一瞬だけは躊躇うが、それでも、両親を救うには
父親の記憶を奪い、今まさに母親の記憶を奪ったらしいのはこの目の前の女医なのだ。
或いは、他の被害者も沢山いるかも知れない。
最初に切り付けた時はただ母親への凶行を見て頭に血がのぼって、と言う感じだったが…冷静になるにつれ、「振り下ろして良いかどうか」と言う躊躇いのような感情も頭に過る。
それでも、少なくともあの女医は対話の余地はない、戦うしかない…ましてや、やらなければ両親の思い出すら奪われてしまうかも知れない。
(…南無三!)
心でそう呟くなり、天に掲げるようにスタンドを持ち上げた守屋は
「ド素人が…うちをナメんなや、ダボが!!」
「…な…なん…で…!?」
守屋は思わず呻く。
仮に、守屋による戦術の予測は出来たとしよう、或いはスタンドによる能力を看破したとしよう。
そうだとしても…あの女医は
『ステルス・オブ・デイズ』の透明になるスタンド能力が発動しなかった訳ではない、何故なら…
「な…何が起きてやがる!?いきなり物音がしたと思ったら、
と、守屋が吹き飛ばされた際の物音で飛び起きたのだろう四人部屋の隣で入院していた若い青年がすっとんきょうな声をあげ、見たままに驚いている。
打たれ弱い守屋が吹き飛ばされた際についスタンド能力が解けた為、はたからみたら
逆に言えば、それまでの守屋は
「なーるほど、要は光学迷彩みたいな能力やな。これでまあ、うちの『ファイナル・カウントダウン』抜きでも追跡できる様にはなったけども。
…タネがわかればそんなもんか、意外とつまらん能力やな」
そして、そうするなりやダッと一気に距離を詰め…ゲシと、スリッパをはいた足で倒れている守屋の首を狙って思い切り蹴飛ばすのだ。
受け身が取れないまま人体急所に強く打撃を受けた守屋は転がりながらぐぇっと声にならない悲鳴を上げのたうち回る。
もともとケンカ慣れしてない上に運動能力もてんで素人、対して…スタンド使いとしても明らかにベテラン故に格上の女医とでは素の戦闘力にも多大な差が出ているだろう。
たった蹴り一発で、再起不能にされかけてしまった。
「おい、ちょっと、先せ…ギャァアアア!!?」
一方、あわててその女医の凶行を咎めようとする青年は、さくっと『ファイナル・カウントダウン』なるスタンドで黙らせつつ。
きびすを返す様にギロリとした視線を件のスタンドすら守屋に向けて威嚇し…当の守屋は、すっかり戦意が殺げ萎縮してしまった。
ほんの蹴りとパンチ一発ずつで、などと書くと情けないかも知れないが…
そもそもが、本体がド素人だ。それもケンカから徹底的に逃げてきた、悪く言えば臆病な。
もともと穏和な気性な上に
ましてや敵のスタンドは近接型…守屋自身もそうだからわかるが、スタンドの中でも特に殺意の塊みたいなものを向けられたなら、それこそ例えるなら出刃包丁や牛刀振り回してくる強盗に殴られたり刃物で切りつけられ傷付けられたようなものだ。
仮に親の仇が相手だろうと、誰がそんな目にあって『戦意が殺げて情けない』と謗れるか。
それでも…両親を傷付け、そして今にも自身を傷付けようとする女医に抵抗しようとスタンドを発現させるが
「『ファイナル・カウントダウン』!!ソイツの剣を足で押さえろや!!」
そういうなり、その『ファイナル・カウントダウン』とやらは全身全霊で剣の中腹あたりを足で踏んづけるように押し潰す。
ただ単に、その女医の狙いは暴れられて単純に切りつけられないようにするために剣を押さえようとしただけだが
「………!!?」
喉を潰されたせいか、声も上げれないまま…まるで内臓を万力でわしづかみにされねじられた様な想像を絶する痛みが守屋に襲いかかってくる。
スタンド像にも皹のような細かい傷が無数に走る度、地獄のような痛みが走り、そしてプライドも戦意もズタズタにされてしまう。
父親の為、母親の為、自分の為、他の誰かの為…そういう意思はすべて文字通り踏み砕かれ、30秒も経たないうちにガクンと彼女はあまりのショックから
それを見て、その女医は…妙な絶叫を上げる。
「アアアアァァァァアア!?
そういって、自分がやったのにはたから聞いたら理不尽極まる台詞を吐く女医を尻目に…守屋は意識を完全に手放した…
…それから、しばらくして。
守屋は
良くわからない、わからないが
そこには、簡潔にこう記されてあった。
1つ:さっき起きた事は三日間は少なくとも忘れる事。
2つ:この事件において詮索しない事。
3つ:これら2つの条件を破るつもりなら、地獄の果てまで追いかけてでも追跡し今度こそ記憶を奪う事。
「…コレって…コレは…『犯人』の…」
そう思い至った守屋は、もう何もかも怖くなり逃げ出そうとした所で、
「…あ、雨…
…そう、実は『ステルス・オブ・デイズ』は雨も苦手としている。
と言うか水が弱点なのだ、油や液体のりのような液体全般は基本的に苦手としている存在だ。
さて、ちょっとした科学の勉強だが光には屈折率、と言うモノがある。
光の屈折、例えば水が入ったコップに強い光線を直線上に当てると光が曲がる。小学校の5年には習う様な理科の基礎だ。
平たく言えば、守屋のスタンドは光を操り背景を映す力だが…まあ、万能ではあるが細かい調整は出来ない。
逆に言えば、それ以外のモノがフィルターとしてあると守屋の姿が丸見えになってしまう。
ガラスや鏡ならギリギリ、ギリギリ騙せるレベルではあるが水のように大きく空気と屈折率が違うモノを通して見たら…分かりやすく言うと、雨が降った状態では守屋自身を中心とした能力発現した部分のみが、もやの様な霞がかかり、風景に対して『ブレ』が発生してしまうのだ。
どうやら何故かわからないが…犯人にはそもそも通じてなかったステルス能力だったが、それでも身を隠し反撃の機会を伺うには優秀な能力故に、例えばその時に仮に晴れていたならば、両親の仇を討つためのアイデアを練ったり誰かに助けを求めるだけのある種の精神的な余裕がありまた違ったのかも知れない。
だが…自身のスタンドを否定するかの様な小雨が強く降りだすにつれ、まるで自身のスタンドに自分が止めを刺されたかのような錯覚すら覚え…完全に心が折れてしまった、べっきりと。
とにかく、『他人』が怖かった。
とにかく、『雨』が怖かった。
とにかく、『病院』が怖かった。
とにかく、『助け』を求める事すら怖かった。
何より、自分が情けなくて嫌だった。
そんな惨めな感情にあかせるように走った、苦しい気持ちを悟られぬ様に走った、家すら怖くなってなるたけ家から離れる様に走った。
そして…あまり通った記憶もない裏道にたどり着き、人気のないガソリンスタンドで雨宿りする事にしたのだ。
不法侵入は承知の上だが…とにかく、落ち着ける場所なんてなかったからだ。
雨音が強くなるにつれパニックになってたのだから、そもそもその手の善悪の判断なんてついてなかろう可能性もあったが、とにかくスタンドを出しっぱなしにした上での隠れ家が欲しかったのである。
しかして、その雨も二時間もしたら止むような小雨でしかない。
雨音が止むにつれ、水溜まりに波紋が立たず静かな表面になるにつれ、無意識なうちに緊張感が切れてしまったのだろう。
朝から見舞いに行ってから、敗北後気絶から目覚めてごはんも水も接種してなきゃそれは尚更だ。
そうしてスタンドが解けた
Case18 『ステルス・オブ・デイズと未知なる脅威』後編
「…私、怖くて、弱い事が情けなくて…」
そう言うと、守屋は感極まりポロポロと泣き出してしまう。
彼女は泣きながらこう続ける。
「…パパも、ママも、助けられなかったのに私どうしたら良いのか分からなくて…でも、誰にも相談できないし友達にもスタンド使いなんて居ないから、巻き込むなんて出来なくて……
…怖かったよぅ…怖かった、痛くて怖くて……そこに『天敵』の雨が降ってきたら、もうどうしたら良いのか分からなくて、何もかも信じられなくなったの…
…増田、さんだっけ、貴女に助けて貰わなかったら、私死んじゃってたかも知れなくて…全部、情けなくて…」
そう言うと、意気消沈して完全に頭をかかえグズっと涙も鼻水も垂れ流しながら嗚咽を上げていた。
…さて。
増田エルは、この手の困っている人には非常に弱い。
もともとが優しすぎる気性だ、クズな女でこそあるが非情ではないからだ。
客観的に見て小悪党程度のゲスではあるが外道ではない…だからこそ、『見捨てる』事は出来ない。
弱った他人を救いたいと願う意思は、それこそ自分が弱い心を救われた側の人間なればこそ強い。
とはいえ、それでも…今回の件に関してボロボロの守屋を「助ける」と速答する事ができなかった。
結論から先に言おう。
今回の事件、実は
むしろ仲が良い…とまでは交流するほどの機会はついぞなかったが、年賀状のやり取り程度は欠かさず行う仲だ。
『ファイナル・カウントダウン』と言う名前を聞いてピンと来た…そして、
それをわかってたエルは内心こう毒づきながら、自分が余計嫌になってきたと言う。
…
To be continued