今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
…我ながら、下らない罠ねぇ。
エルはそう内心自嘲しながら
いわゆる『ペットボトル爆弾』と言うものだ。
一時期、イタズラで流行って問題になった地区も頻発したぐらい質の悪いがしょうもないモノではあるが…作り方のあまりのシンプルさに比較してその凶悪な殺傷力はバカにならない。
ドライアイスが固体から気体に変わるその体積の変化量は約750倍、その圧力の変化による爆発力は条件次第ではコンクリートすら爆砕すると言う実験結果すらある。
要はよいこもわるいこも絶対真似してはいけない、そう言う類いの代物だが…エルは
自分が弱いと言う事はよくわかる。
せいぜい、『レディオ・スター』が正面決戦ではそう役に立つわけではない、あくまでも増田エルと言う存在意義は追跡調査でありそれ以上ではない…エル自身は、自分でそう自分を位置付けている。
少なくとも、それ以上の強さはない事は自身の見立てにまあ間違っては居ないだろう。
だが
スタンド使い同士の戦闘で、『己のスタンド自体が強くない、弱い』と自覚する事自体はそれ自体が強さだろう。
弱さを知ること、それこそは勇気であり、勝利をつかみ取る第一の手だろう。
ならば何をするか、まずやることはスタンドで攻撃しても大したことにならないならば『スタンド以外』による殺傷力のある目眩まし。
具体的には爆弾や銃器などの中~遠距離で攻撃できて、ある程度操作可能性な『脅しの手段や奇襲手段』が望ましい…が、後者はどう手にしたら良いのかと言う部分で言えば、『実家に定期的に警官が出入りする』と言う状態でエアガンの改造に手を出す事すらどれだけのリスクになるかわからないのに…猟銃や拳銃に至っては免許や許可証すら無い人間がどう持てば良いのやら、それこそソコから途方にくれるような手段は現実的な性格のエルは除外する。
まだ、前者の『爆弾』の方が現実的だ。
それこそ、プラスチック爆弾や液体爆弾のようなものがなくても…例えば花火の様に簡単に手に入りそうな類いの火薬や、ガス缶や灯油等の可燃性の空気や液体を含んだものを利用するブービートラップ。
或いは火薬に頼らないでも高圧で時限式に爆発するガスか何かでもいい。今回選んだ手段はそれだった。
しかして、そんな下らないブービートラップでリタイア等はしない。
木藤のスタンド使いとしての経験値、そして『ファイナル・カウントダウン』は甘くないからだ。
エルにとっての『勝利条件』は意外と厳しい、リカバリーできる程度のシナリオ変更なら兎も角もエルからしたら『ただ倒す』事は勝利として認めるつもりもない以上、それで倒れられる方が困る。
その意味でエルは木藤と言う女を信用していた…
Case21『ファイナル・カウントダウン』後編
「クソァッ!?いきなり何するんやぁ!!」
飛び出してきたエルをスタンド『レディオ・スター』ごと『ファイナル・カウントダウン』で弾き飛ばす。
奇襲、強襲…その程度、
意外かも知れないが、スタンド使いが病院で暴れると言う事は年に数回、多い時は月4~5回起きる。
称賛や注目を浴びようと質の悪いスタンド使いが目立つ為に暴れる…と言う事も、まあそう言うテロリストまがいなバカは居ないことはないが、大概はそうでもない。
医療ミスをしなくても、医師と薬剤師と看護師の三位一体が力を尽くしても患者を救えない。
それ自体は可哀想だが、まあ何百何千件と年間病院内で患者を『送って』来たり或いは搬送された時点で手が間に合わなかったりと様々だが
死からは、ましてや病院内でなんてそれは全ての人間は逃げられない。
しかし、残された患者の家族からはどうだろうか。
仮に、医師になんの罪がなく病院になんの非もない事態だろうと『病院が力不足だった』と患者を想う家族や恋人がそちらに逆恨みを向ける事、そんな事自体は良くある事で
或いは全く別な動機で、例えばスタンド使い同士の抗争で敗北したり相討ちしたが生き延び搬送された被害者を追い討とうと病院を探し出して乗り込んでくる人間だってどれだけ存在しただろうか。
老齢だったり病弱だったりした身内をスタンド能力で『自然死』に見せ掛け遺産を搾り取ろうとするクズも居た、進行した認知症や外傷による記憶障害で意識が混濁したスタンド使いが生存本能やプリミティブな欲求のままにスタンドをやたらめたらに振り回すなんてのもしょっちゅうだ。
木藤はスタンド使いとして、それらを全て退けて鎮圧してきた。
守屋が襲った様な状況の様に『出会い頭』と言うのは珍しい類いだが、まあ、ああいう事も無くはない。
医師として、患者を守る衛士として…今さら、そんな称号相応しくないにしろ…その経験値はエルの数倍、守屋など比べ物にならないぐらいのベテラン戦士が
しかし、それ自体はエルも予想済みの事。
エルがやりたかったのは爆発でダメージを与える事ではない。
「視界…いただきましたぁ!」
そう言って、わざとらしくスタンドと共にスマホを掲げながらエルは不敵に笑い…そして、エルの顔と声を確認した木藤は思わず怒号からすっとんきょうな声に変わる。
「あ…ああ!?エルちゃん!?何で!!アンタ何しとんねん!危ないやろ!」
そう言って、襲われた事すら一瞬忘れて素の口調で旧友の再会かの様な口調の心配を聞き
貴女のスタンド…変な視界ねぇ、と。
それを聞いて、木藤は状況を飲み込み…そして、得心するかの様な表情を無言で見せた後、何とも言えない顔でこう語りかけた。
「ああ…エルちゃん、うちが有栖川にやらかした事は言い訳はせえへん、『裁き』は必ず受ける」
そう語る言葉には、確かに
その輝きを木藤は曇らせぬまま、こう続ける。
「キミの目的は有栖川の復讐か?それとも警察に頼まれたんかな、エルちゃん。まあどっちでもかまへんわ、うちが間違っていて、キミは何も…爆発物持ち込むのはアカンけど気持ちは間違ってはおらんからな。
それに…『ザ・ポリス』やったかな、断罪のスタンドのあれが必用やって言うんなら…それでもかまへんよ。
アイツは多分3日もしたら意識がもどるやろ、そん時、有栖川が目覚めたらそれを受けに行くのはうちの当然の報いやろからな。
でも、もうちょい待ってて欲しいねん、それは…」
「『それ』は…『守屋竜菜』、かしらぁ」
そう木藤が言い切る前に、エルは食い気味で遮り…木藤は一気に目を丸くする、何故それを、と言いたげな顔にすらなり絶句する。
そんな木藤を尻目に、名前を知ったのは『偶然』だ、とエルは補足しつつ木藤へとあえて煽るように、芝居がかった言葉を紡ぐのだ。
「
守屋さんに知り合ったのは偶然だけどぉ、スタンド使いはスタンド使いに牽かれ合うとしたら、偶然じゃなくて…『運命』だったのかもねぇ。
そして、運命の命ずるままに貴女の悪逆無道は聞かされた…って、ちょっと仰々しすぎかしらねぇ?
まあ、それはそうと、だいたい何がしたいのか、どういう目的なのかもわかるわぁ」
そう区切り、ふざけた芝居がかった口調から真面目な口調に切り替え、エルはこう続ける。
「初心い人だったわぁ、守屋さん…24歳にしては、あんまりにも、ねぇ。
『だからこそ』貴女は行動して、『だからこそ』手加減してたつもりが事故った…
そんな事に、
ましてや有栖川さんへの復讐だなんて筋違いな事言うわけ無いわぁ…!
…有るのはッ!」
そう言って、『レディオ・スター』を操作しながら、エルは本当にクズみたいな事を叫びながらも突貫する。
「
…そう言うなり、木藤とエルの戦いの幕が開く。
「って、ふざっけんなダァホ!!」
しかし、流石に、八つ当たりで顔面蹴り飛ばされる程には木藤はプライドは安くない。
ましてや、まあ干支が一周するぐらい年下の友人の友人で最低限のつながり程度にとは言っても可愛がってる相手とはいえ、復讐でも依頼でもなんでもないそんなワケわからん理由で殴られては堪らないからだ。
ましてや…なんだか知らないが、確かに『ファイナル・カウントダウン』はエルの指定していた場に、怯えた様な女が居ることを関知している。
つまり
しかして
詐欺かどうか、騙し討ちしたがるかどうかと言う事は木藤のスタンドには『常に筒抜け』だからだ。
…流石にそんな矛盾する様な状況と言うか嘘つきに変な理屈で殴られるのはイヤだろう。
それに、『ファイナル・カウントダウン』は接近戦に強い近接パワー型スタンド。
敵の攻撃をいなすなり弾き返す、正面決戦に限ってならばそう言う手段に長けている。
しかし、エルこそそう言う類いの事実はわかること。
そして…木藤は知らなかった事だろうが、エルは『ヒント』程度には『ファイナル・カウントダウン』の能力を守屋の敗戦の記憶から方向性を推測している以上
「まずは…こうねぇッ!
エルが懐から取り出すは…爆竹だ、それにマッチで火をつけて木藤に向けて投げつける。
パパパパンッと耳障りな轟音と硝煙『だけ』が舞う、別に
しかし、逆に言えば硝煙と爆音だけはあるならば虚仮威しとはいえ『一瞬怯ます』ぐらいにはなる。
ソコから、怯ました木藤の死角からレディオ・スターが殴りかかる…『片手にナイフを持ちながら』。
『レディオ・スター』はパワーが無い、せいぜい薄いベニヤ板を割るのが関の山で操作精度も段ボールを持ち上げられるかどうか。
しかして、『逆に言えばベニヤ板を割るパワー程度にパワーは有る、500グラム程度のモノならばスタンドで握る・離す・振り回す』程度の操作は出来て…スピードだけなら中距離タイプには珍しく近接型に引けをとらない程度にはすばしっこい。
ならば単純明快に、それこそ『レディオ・スター』の片手に果物ナイフかなんかを握らせれば『スタンドの殺傷力』はいくらでも簡単にカバーができる。
人は急所の首やはらわたにでも刃物で刺せば死ぬのだ、少なくとも大怪我は免れない。
ましてや『レディオ・スター』で敵のスタンドや本体の視覚をエルは共有している…言い換えれば
それこそが増田エルの基本的な戦い方だ。
常に視覚を探りながらエル本体がトラップや爆発物で敵の注意を引きながら、或いは注意を向けた方向を逆手に取り隠れながら隙を見て凶器を持たせた『レディオ・スター』を死角から急襲させる。
…しかし…
「『ファイナル・カウントダウン』にそんなシャバい攻撃がぁ!通用するワケ無いやろが!」
そんな『見ていない』攻撃なのに、木藤はまるで『見えている』様に淡々と処理してガードする。
まるで、言葉通り『ファイナル・カウントダウンには死角は無いッ!』と言わんばかりに、死角からのナイフ攻撃を…スピードこそ互いに同程度とはいえ、『ファイナル・カウントダウン』の精密性もパワーも違いすぎるからではあるが難なく捌ききる。
そして
いわゆる『正中線』、人体急所が並ぶ頭の先から股間にかけて垂直に並ぶライン、
そこを目掛けて、派手な動きは一切せずに、肘と膝と踵を用いての高速の打撃で木藤本体に向けて素手のラッシュをぶちこんでいく。
我流ではあるが、その動きはベースはムエタイとキックボクシングだ。
ちょっと空手も混じってるちゃんぽんな感じの、いわゆるK-1系のストライカー系の動きになるか。
しかし、別にエルは軽くムエタイやキックが使えるとは言っても格闘家の誰某に弟子入りしたとかそんな経歴は全く無い。
どういう事情かと言った話ならば、怠惰でプライドが高いエルにそんな行動力はなかったとはいっても
エル自身は『逃げる』選択肢自体は恥とも何とも思っては無いし基本的に普段はそれを選択肢に入れるが、『戦う』選択肢がないとなるとそれはそれでダメだろう。
そこで思い付いたのが、『見とり稽古』だ。
格闘家の道場に通う選手たちに『レディオ・スター』を使い、彼等が『人を攻撃する視点、或いは人から攻撃を受ける視点』を観察し…
そして次に知る、肘や膝は堅い…それで殴れば女の、それも比較的華奢な体格のエルでも、実質的に『骨』自体で殴る様な膝や肘の一撃は当たりどころ次第で大の大人を昏倒させる程度には危険で威力が出る事を知る。
後はそれをひたすら真似するだけ、出来るようになるまでひたすら練習するだけだ。
『教本』は一流な格闘家そのもの、しかも『言葉』ではなく身体の動きや首の動きを視点と共にダイレクトに勝手に教わる…となれば、基礎訓練とかはおろそかな上に所詮は我流の付け焼き刃だから洗練はされてない素人臭さは抜けない型とはいっても『奇襲』に使える程度には使える。
だが
エル本体の奇襲も捌く、徹底的に『急所』を狙うから、逆に防御しやすいと言わんばかりにナイフを構えた『レディオ・スター』の挟み撃ちすら効かぬとばかりに。
それどころか、
それに対して、木藤は勝ち誇った様に告げる。
「
ウチが本気でスタンドで殴れば、腕なら腕の動き、足なら足の動き、心臓なら心臓の動きすら
まさに敵への最後通牒、それが『ファイナル・カウントダウン』やぁ!」
そう、彼女が言うように。
有りとあらゆる生物の『何か』をコントロールして、最悪記憶や動きを奪い取るスタンド。
スタンド使い同士の戦いならば
しかし、そこまでも尚、エルは想定内であった。
ここらから先はもう『危険極まる最後の手段』を使う事になると言う『最悪の想定内』だが。
「だったら、これよぉッ!!『水酸化ナトリウム』でもあびなさぁいッ!『レディオ・スター』、木藤さん本体に薬瓶をかけろぉッ!!」
と、エルがそう叫ぶなり。
「す、水酸化ナトリウムやとぉぉおお!!?」
一方、エルの素手もスタンドのナイフも即席の爆弾も効かず爆竹の爆音すら怯まず捌いていた木藤もこれには面食らう。
肉を溶かし、人を殺す劇薬のひとつ水酸化ナトリウム。
塩酸とセットで小学生には習う薬品のひとつ、酸性の塩酸とアルカリ性の水酸化ナトリウム。
だが、その有害性は雲泥の差と言い切る事が出来る。
塩酸は…胃酸と言う形で人体にも含まれるぐらいには耐性があるが、水酸化ナトリウムの毒性はたんぱく質を犯す性質上、皮膚に触れて洗わず放置するだけでも甚大な被害をもたらし粘膜や血管に直に触れたら大事だ。失明事故すら起きかねない。
それでいて、いわゆる『苛性ソーダ』と言う形で殺菌材や洗浄材・石鹸の材料としても広く普及している
そんなもの、万一でも目に入ったらヤバイと本能的に目を守る木藤に、スタンドのガードが間に合わず『それ』がかかる…が、様子が変だ。
単刀直入に言うと『ぬるぬる』しない。
素肌に水酸化ナトリウムが…と言うか、基本的にアルカリ性の材質の液体が素肌にかかるとぬるぬるする。
先に書いた通りたんぱく質への侵蝕、要は水酸化ナトリウムの溶液には限らずたいていのアルカリ性の液体が皮膚に触れるとそれを溶かしてしまう性質を持つからだ。
しかし『濡れた』感覚は有るのに
濡れた所が…異様に冷たい、そして刺すような独特かつ爽やか過ぎて鼻が痛くなる刺激臭。
医者なら、病院勤めなら、何時も嗅いだことが有るようなにおい…
「お…ま……ちょ、ちょ待てやッ!!」
それの『正体』に気付いて別な意味で蒼白になる木藤を嘲る様に、ケラケラ笑いながらエルはこう返した。
「ぴんぽーん、私はさすがに劇薬の免許無いから苛性ソーダ何て薬局で売ってくれなくてねぇ…買えたのは『これ』が精一杯。
てなわけで、だーいばくはつよぉッ!」
…と、『それの正体』…
つまり、エタノールの溶液が気化したタイミングを見計らって、火のついたマッチを投げつけ引火させる。
それは
「う…うぉおおおおおお!!間に合えやぁ『ファイナル・カウントダウン』!?」
しかし、エルのブラフの内容こそともかくも
1800円の量販店で販売されているレディース向けコートはダメになったモノの、それでもエルは木藤に一撃も加える事も出来てはいなかった。
だが、それこそが、エルの狙いだった。
「えーとぉ…『音』、『匂い』、『熱』…当然、『可視光線』、かしらぁ」
そう、木藤に聞こえる様なエルの独り言に、思わず当の木藤はあんっ?とイラついた口調でチンピラの様に聞き返すが、エルはそれを無視してこう続ける。
「『レディオ・スター』は貴女の『ファイナル・カウントダウン』の視界を見ている…
…守屋さんの『ステルス・オブ・デイズ』を初見で攻略したって話を聞いた時から、記憶を奪うタイプの能力とは聞いていたけどぉ、探知系の能力だとも推測できたわぁ…後は、有りそうな線で
そう言って、区切りを入れてからこう続ける。
「爆竹や簡易なペットボトルの『音』、或いは硝煙の『匂い』が充満しているとしても探知が効く能力だとしたらそれで探知するタイプの能力ではないわぁ。
『動き』とかで自動追跡…みたいな能力だとしても、融通が効きすぎてるわぁ。だからこの可能性も多分無し、記憶操作と何の噛み合いも無いからねぇ。
熱源探知…『サーモスタット』とかはちょっと考えたけどぉ、その割には火薬やエタノールの防御策がごてごて、それなのに、
脳波とかにしては『腕や足』は範囲が広すぎる…有りそうな線は、多分残るは『電気信号』」
筋肉と脳の『電気信号のサイン』がトリガーの能力、つまり生体に関わる電流や電気信号の探知や操作能力でしょう?
そう言って確認を取るエルに対して、ギリギリと歯ぎしりすら聞こえそうな苦虫を噛み潰したような口調でそれで?と聞き返す木藤に、当のエルは推測が合っている確信を抱く。
そう、木藤叡花の『ファイナル・カウントダウン』とは生物に流れるごく微弱かつ繊細な電流、いわゆる『生体電流を探知して操作する能力』である。
生体電流…筋肉の動きの指令、脳の命令、そう言ったモノに密接に関わるものを操作して自在に操れると言う事は、だ。
例えば右手の親指の筋肉の電気信号を指定して『親指だけ一生立てろ』と命令したら命令された相手は
或いは脳に命令して『ある記憶をなかった事にしろ』と電気信号を阻害したら
そして、他人を探知する能力はほぼ結果論と言うか能力の副作用みたいなものだ。
他人が『生体電流の塊』としても扱う能力としての関係で、生体電流があるモノは如何なるステルスすら貫通して支配下に置けるのだ。
また、脳なり筋肉の生体電流の流れかたの差異により『攻撃や防御の意思の高まり』すら関知する事が出来る万能型の近接型スタンド。
そう言った、下手したら本気で取り返しがつかない『最後通牒』…医師としては封印したい戒めにて最終手段の力。
それこそが『ファイナル・カウントダウン』の全てだ。
…それを半ば見切ったからこそ、エルは淡々と
「木藤さん、本気で根っからのいい人ねぇ…
だけど、しなかった…ギリギリまで傷付けない選択肢を取りたくて
そう言われ、今度は木藤がばつの悪そうな顔をしてこう返した。
「うちは…もう、バレとるみたいなもんやから言うけど『殺意』は感じられへんかった…まあ、物理的に『殺意』ですらスタンドで見れるうちにはわかる。
せやから、まあ…殺す気がなかったってんなら、付きおうたるって思ってな…エルちゃんは知らん仲やあらへんし」
そう言って、ちょっと嫌みっぽく、気化させたアルコールで燃やすのはやりすぎや、と注意しつつ。
そのコート代はのしつけて弁償するし最後のあれはやり過ぎたのは反省するから許して、とエルは平謝りしつつ、エルはこう続ける。
「それと…後は、『慣れてる』スタンド使い同士の戦いってのも、ちょっと守屋さんに見せなきゃならないって思ってねぇ。
戦い慣れてるスタンド使い同士の戦いは『だまし合いと何でもありのテロじみた戦い方』にしかならないわぁ。
守屋さんにそんな戦いは、多分耐えられない…あの人は優しすぎる、そして、それ以上に傷付きやすすぎるのよぉ。
…あり得なくは無いわぁ、そしてどうなるか。…『初見』かどうかだけでも全然違うから…」
そう言うエルの懸念に、木藤は漸くエルの本当にやりたかった意図に気が付いて、顔面蒼白になる。
「確実に、あのどんくさいのに容姿のええあの子が巻き込まれたら、徹底的にレイプされて心身ともにぶっ壊される慰み物かスタンド被害の惨殺死体とかスタンドの新しい使い方の試し切りのモルモットの二択やないか…
いや、それでも
と、『ステルス・オブ・デイズの持つ危険』にすらたどり着き、それで幾ら犠牲者が出る可能性があるか。
「だから…私は、貴女を出汁に『練習台』にしたのよぉ。
本当に失礼極まるのは承知の上だけどぉ…有栖川さんや守屋さんの気持ちを考えたら木藤さんの顔面張り倒したいって言い分は、そこはマジでちょっぴり思わなくはなかったけど…私達程度の使い手でも、本当に慣れてるスタンド使い同士でのスタンド戦の被害がどうなるかぐらい、実地研修させるって意図が大きかったのぉ。
そして、病院で戦った時に、貴女に殺意がなかった証明も、乱暴なやり方だけどしたかった…
あの交差点の角でステルス能力で身を隠してもらってるのは本当の話よぉ。うん、それは本当。
『見せて』あげてる…今のやりとりを含めて全部、『聞いて』もらってる…」
そう言ったなり、エルはいきなり土下座の体勢に移ると、木藤にこう謝罪する。
「ごめんなさい、なんて貴女に言えば良いのかわからない…ましてや、偉そうにする資格は無い、私は…私達だけは
後始末全部木藤さんに押し付けたのに、貴女が感じるべき『責任』はッ!本当は…警察と、あの場に居た…私ッ!
なのに、私は貴女にもなんてひどいことを…
本当は、守屋さんも木藤さんにも、有栖川さんにだって会わせる顔なんて無いぐらいズルいし弱いのに、甘えてばかりで…『恥知らずな』…クズだからッ……」
そう言って泣き出しそうな素の表情になりながら…圧し殺していたコンプレックスも少なからず吐き出しながらこう謝罪するエルに対して、木藤もこう土下座には土下座で対抗する様に返す。
「顔を…上げてや…頭下げんとアカンのは、うち一人やッ!
有栖川にスタンド差し向けたんも、守屋さん一家の心を傷付けたんも…うち一人が勝手にやったんや!
あんたは、あんたに出来ることを…しただけやないかッ!助けたい人の為にやれること全部一生懸命考えて、出来ることをやりとげる強さがあるだけやないかッ!!
エルちゃんまだ高校生やのに、背負わんでええことばかり背負わせたんも、うちら大人やのに…
ましてや、結果的に有栖川騙し討ちにした人間に何の価値もあらへん…医者としても、クランケちゃんと救えへんかったもんに、何の意味もあらへん…」
そう言って…より深く、まるでアスファルトをひたいで削るかの様な勢いで、文字通りに出血しながら土下座の姿勢で突っ伏し、最後は涙声になりながらもエルに謝るが…それを、止めるモノがいた。
「…二人とも、よくわからない事でケンカして…そして、謝り合わないで」
守屋である。
エルが最初に言っていた様に、交差点の角で隠れて一部始終を見ていたと言う話は本当だった様だ。
「…今でも、貴女は怖い、『ファイナル・カウントダウン』も」
そう、木藤に視線を向けてこう絞り出すように告げながら…それでも。
彼女は『勇気』を振り絞るように、こうしめた。
「…でも、何か事情があったってのも、私は『理解』したわ。
…そして、エルさんがあんな優しい人が怖い戦い方でわざと戦った事も
…エルさんに『飛び出すな』って言われたから戦いの時は助太刀にいけなかったけど、いまは、もういいんだよね?
…だから教えて?貴女達が、何を知っていて、何を隠してるか…許すも謝るも、私にとってはそれより先に教えて欲しいの。
…やだよ、やだ…ケンカは、やだ…痛いのが怖いのもそうだけど、
そう足は震え怯えながらもこの場にいる誰よりも強く優しい瞳で見られた木藤は目を丸くし…はぁ、と溜め息ひとつつき、見誤ったと一言漏らす。
それを聞き咎めた守屋が木藤に聞き返すなり、今度は木藤がこう返すのだ。
「うちは…改めまして、精神科医の木藤叡花と申します。
あんたは『真実』を知ったらショック受けてまう…
それは『心の医者』として、まず謝罪します。それは、医者として言わせて欲しいんよ。
そして…うちが有栖川に、警察に頼まれた事、精神科医として頼まれてる仕事…」
それは、スタンド被害者へのスタンドでの『救済』、や…
木藤はまず、守屋にこう語りだした…
To be continued
『ファイナル・カウントダウン』
破壊力:B
スピード:B
射程距離:D
持続力:E
精密動作性:A
成長性:C
(A:超スゴい、B:スゴい、C:普通、D:苦手、E:超苦手)
動物や人体に流れる…いわゆる『生体電流』。
その電流自体と生体電流による電気信号を操作して支配下に置くスタンド。
普段は職務上『記憶操作』にのみ限定して操作しているが、その気になれば他人の筋肉や脳の中に流れる電流を阻害したらピクリとも動かせなくなるし、偽の電流を流す事で相手の意思に関係なく相手の行動を操作して操れるスタンドでもある。
また、その電流を操作するスタンド能力の副産物として『ファイナル・カウントダウン』からは生体電流による電気信号を心電図の様に関知する能力もあわせ持ち、その生体電流の発信源さえ探ってしまえば生半可なステルス能力は通用しない。
また、敵の脳内で『今から不意打ちするぞ』とか『今から殴るぞ』と言う反応があれば当然ながら敵の脳内の『電気信号は攻撃的に活性化する』為にスタンドを介して相手の攻撃のタイミングを計る、などの応用で敵の心理状態は常に筒抜けと言う心理戦にすら強い特性を併せ持つ。
『能力自体はシンプル』故に弱点が無いタイプな癖に応用力もかなり高いスタンドで接近戦に、近~中距離型のスタンド使い相手に限ってなり、または室内の様な限定的な空間内の戦闘においては滅法強い特性がある。
ただし、これらの特性はあくまでも『ファイナル・カウントダウンで生体電流の流れる本体を視認できる状態で関知したり、敵本体の脳や筋肉を直接殴った場合』であり、スタンドバトルにおいては、このスタンドで生体電流の無い単なる精神エネルギーの塊のスタンドの方を殴ったところで何の効果も発動せず、スタンドそのものに対する攻防に限って言えば何の能力も無い単なる凡百の近接パワー型に成り下がり…
実は、逃げ足の速い能力者や遠距離型や自動操縦は非常に苦手とした、わりと『スリラー』ほどではないがけっこう得手不得手がピーキーなスタンドでもある。
スタンド名の由来はプログレッシブバンド『ヨーロッパ』のシングル『ファイナル・カウントダウン』から。