今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
「昔話、ちょっとつきおうて貰うわ」
そう言って、木藤が頭に地につけながら…自分の身の上話を語りだした。
精神科医として、そしてスタンド使いとしての心情と信条を語るために…
木藤叡花、彼女の出身は大阪府は石切。
奈良との県境に位置する占いの街…と言う『オカルト』に纏わる土地柄に産まれたせいか、他人の家庭より変わった家に育ったと言って良いだろう。
ひとつは、木藤の一家のほとんどが医師の道に進んだと言う部分だろう。
両親は大学病院に勤める外科医、特に母親は『ゴッドハンド』と言われるぐらいの腕を持つ外科医だ。
バチスタ手術を失敗しないからこの名前がついたと言う。
さらに木藤一家は三人兄妹に育ち、上に兄が二人。そのうち、次兄以外全員が医学部に入っている。
なお、次兄だけは医学部ではなく獣医師の道に進み、獣医学部から畜産関係を中心にした資格試験をメインに勉強しに大学に進学したから医学部を受けなかっただけであり…
広義で言えば全員『医者』と言えるエリート一家に生まれ育ったと言って過言ではない。
そして、当然ながら産まれに受けついだ才覚のみならず、彼女自身も学生時代は遊びもせず勉学に打ち込んだ努力家でもある。
その家族の全てに恥じない様に有名私学から国立大の医学部の方に現役合格する為の努力と言うものは…常人の想像を絶するものがある。
ましてや
そう、木藤一家には『もう一つ』変わったことがある。
『一家全員がスタンド使い』と言う凄まじい血統であることが、だ。
スタンド使いはスタンド使いとしての血統、才覚…こういう遺伝的な『なりやすさ』と言うモノはDNAにも少なからず影響下に有るのだろう。
両親がたまたま『スタンド使い』同士と言うこともあり文字通り『惹かれあい』結婚した、と言うことはそれこそ職場がたまたまかぶっただけの偶然の産物ではあるがそれは兎に角も。
スタンド使い同士の子はまた『スタンド』に目覚めやすい体質と言うこともあり、三人の子は全員またその運命に従う様にそれに目覚め、彼女…木藤叡花も産まれながらに『ファイナル・カウントダウン』と向き合い生きていた。
しかし…彼女だけは、
単刀直入に言えば、『近接パワー型』、もっと言えば暴力的なスタンドに目覚めたのは彼女一人だったのである。
例えば、木藤の父の能力は眼鏡やゴーグルの様に目に装着して『他人の体力を数値化して測定する』能力、母親は手術用手袋と同化する物質同化型の『装着した人の手先の器用さを数倍に強化する』能力…どちらも、じつに外科医の医者らしいスタンドだ。
上の兄は郡体型の妖精の様な見た目をした自動操縦で『薬品を見るとそれに同化して、投薬した相手の体内に潜航し薬品の副作用や有毒性のみを抑える』能力、これもじつに医者に相応しい能力だろう。
下の兄の方は…ちょっとならずグロテスクな見た目の、アメリカのB級映画の悪役宇宙人にでも出てきてもおかしくない二足歩行の怪物型だが、パワーも何もない人畜無害なスタンドだ。
能力も『スタンドに触れた動物と会話できる』などと実に無害と言うか平和極まる能力で、獣医師にしてはこれ程にバッチリな能力も有るまい。
それに対して…まあ、記憶と人体操作と言うならばある意味でそれはそれで医者らしいと言うとらしい能力ではあるが、方向性が完全にマッドな方に向いてる上に他人を破壊するだけのパワーがある『ファイナル・カウントダウン』は
何と言うか、『自分だけが暴力的で仁術の道に相応しくない人間だ』と言外に言われ続けているような引け目を感じており…
さらに言えば、食卓を囲んだり学校生活等の何気ない話題が出たときには、そこには両親や兄弟に何の他意もなかったし愛されていた上に真っ当極まる指摘なのだが、『ファイナル・カウントダウン』を喧嘩に使うな私欲に使うなと
特に中高生時代は、反抗期で親がウザい兄貴がウザい…と言う事以上に、木藤は自分のスタンドがウザくて嫌いだった。
…一心不乱に勉強に打ち込んだのは、そういう部分から目を背けたい一面があったからでもあるだろう。
一方で、兄や両親の事は彼女には真っ当に誇りに思っても居た。
母親は華麗な外科医と言う花形、ましてや大学病院で男社会の派閥が強い世界なのに女だてらに独自の派閥すら率いる重鎮…普通の人ですら憧憬を持つだろうに、医者志望かつ実の親ならば尚のことかも知れない。
それもプレッシャーに感じなかったとは言わないが…少なからず、逆に比較されたがっていた節もある。
『母親の様な立派な外科医になる事』、それが若い頃の木藤の目標だった。
木藤の場合はそこからもう少し進み、大学を卒業する直前までちょっと話が跳ぶのだが…そうした運命のいたずらに翻弄される事には相違なかった。
具体的に言おう、医大を卒業するその直前の話だ。
当時の大学生の友人とは離ればなれになる…地元の病院の実家に帰るなり別な病院に内定が決まるなり、一人は海外留学する者すら居た。
そんな友人達の最後の思い出づくりにと8人でログハウスでキャンプする計画を立てキャンピングカーを借りそこで事件が起きたのだ。
山道の道路をキャンピングカーで運転中、前日にふった雨のせいで…土砂崩れが発生し、木藤ら8人全員が巻き込まれてしまい崩落事故に巻き込まれキャンピングカーごとまっ逆さまに30メートル近く投げ出されてしまった。
結果論から先に言うと…無事だったのは
たまたま後部座席に座っていた木藤が、スタンドで自分を抱えて丸まるように防御できたから、彼女一人こそ落下事故ではむち打ち症状と足の骨折のみで済んだものの。
前面から垂直に落っこちたせいで前に座っていた四人はミンチの様にフロントガラスごとぶっ潰されて即死、残りの三人も首が折れたり割れたガラスが内蔵に突き刺さって死亡して…友人が目の間で無惨にめちゃくちゃな血飛沫をあげて死ぬ、そういうトラウマを抱える事になってしまったのだがそのトラウマは更なる二次被害を木藤に刻み付けた。
『他人の血』を、直視出来なくなったのだ。
そして、『自動車』…特にキャンピングカーを彷彿とさせるワゴン型の車に近付けなくなったのだ。
Case22『罪を背負う者』
「…外科医志望が、『血』に触れんくなって救急車に近付けへんかったら、そんなん何もできんくなるやんか」
木藤は…己の回想を一旦ここで区切り、悲しい口調で言う。
それに対して、守屋がアッと言う声をあげてこう聞いた。
「…『血を流しおった、許容できるラインを越えた』って
「
そう言って、自罰のつもりだったのだが誤解されそうな言葉を無意識に吐いてしまい、病院においての決着時に守屋を余計に傷付けていた事にも謝罪しつつではあるが、そんな木藤をフォローに見せかけてのまぜっかえすかの様にエルは横から口を挟んだ。
「この人の車嫌いと血嫌いは筋金入りで有名だからねぇ…移動も必ず電車と徒歩、しかも車道が近くにある道は出来るだけ通らない。
だから電車の通勤ルートさえわかってたら追跡は楽だったわぁ、守屋さんを狙ってそうだってのは何となく話は整理出来てたから…後は、木藤さんの実家から通勤してる病院を直線上で結んだ範囲プラス守屋さんの実家近辺で『徒歩で移動出来て、車の通りが少ない場所』さえ探せばカブでもすぐ見つけられたわぁ」
そう言うエルにわざと自分で便乗する様に、木藤もこう続ける。
「エルちゃんは、有栖川経由で車の事故でのその辺のトラウマ聞いとるからなぁ。
本気でやるんやったら
だから、向こうが本気やなかったから、うちも本気で殴れへんかった…」
そう、ぼやきながら…回想を再び再開する。
さて、木藤は兎に角も自分のトラウマのせいで…オペが出来なくなった。
開腹や開頭の手術なんてもってのほか、怪我人の怪我の箇所すら直視できず触ることすら出来ない。
更に言えば車にも触れないから救急車にすら近付けなくなってしまい、しまいには病院と言う環境にすら、一時期は一切足を踏み入れる事すら出来なくなったのだ。
どれだけ、友人が死ぬ悪夢や幻覚を見て吐いたり発熱したり…ちょっとした他人の切り傷や擦り傷を見ただけで気絶した事すらあっただろうか。
しまいには引きこもってしまい、投薬すらほとんど効かず睡眠薬自殺すら起こしかけた彼女を見かねた父親が、当時は酪農や畜産関係の勉強でアメリカに行っていた次兄の伝手で『留学』とは名ばかりのカリフォルニアへの傷心旅行と言うか、一度だけでも故郷を離れての半年程度の心を休ませる静養期間でもと言う心遣いである『研修』を手配され…そこで、木藤は『運命』に出会う。
…『運命』と言えど、木藤はパスポートとビザとってのカリフォルニアでの生活は最初の3ヶ月はほぼ酒浸りだった気がすると述懐する。
大して酒に強くない癖にカリフォルニアワインを買い漁っては朝から晩まで呑む日々、ほとんど単なるアル中だ。
酔っても変にテンションが乱高下もしないし酒に呑まれて暴れたりするタイプでも他人に絡むタイプでもなかった分、酔っ払ったところで他人の迷惑にこそならなかったものの…必死になって手にした目標も失って、職も身に入らず趣味もなかった人の酒だけに、なんと言うかはたから見たら別な意味で他人が直視出来ないタイプの哀れな姿ではあった。
とはいえ、前述の通り迷惑はかけてない…逆に言えば、それを止めてくれる人はなかなかいなかった。
それを止めてくれたのは…
「キミ…!!
「あ…うちはもう、24やで…?」
背の低い木藤を見た、通りすがりの勘違いしたスーツの40代ぐらいの白人のハンサムな中年男性であった。
「あー…『日本人ってワスプ(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント、つまりプロテスタント系のキリスト教を信仰する白人系アメリカ人)や黒人から勘違いされやすい』って話はたまに聞くけどなぁ、うちはホレ、パスポートの通りや」
さて、そう呼び止められた木藤はそう言って、パスポートの写真を見せて自分の年齢を提示する。
…童顔なのもそうだが、やはり140センチぐらいの低身長だと小学生ぐらいにアメリカなら尚更勘違いされがちであり、レストランや警察の職質は避けられないのか月2~3回ぐらいはある。
と言うか日本でも飲み会の時に通報されかけた事もあるのだが、まあそれはそうと。
そう言われて、思わず興奮気味にパスポートを凝視した男性は…
スタンドは要は持ち主の精神そのもの、昂り興奮すれば喜怒哀楽どの感情にも敏感に反応するのだから、精密性が低いタイプならば、そういう場面で無意味に召喚だけしてしまう人は居なくはない。
特に…国柄だろうか、アメリカ人は日本人よりも感情が良くも悪くもストレートなせいか、そういうポカをやる人は珍しくはなかった。
しかし…
その視線が『スタンド』に向けられている、そう気付いたその中年男性は驚き混じりな口調でこう言った。
「『コイツ』が…俺のスタンドが見えるのかい?
…って順番が逆か!立派なレディに、さっきはとんだ失礼を…」
そう捲し立てる様に語る中年を尻目に、木藤はこう返す。
「もうええわ…それより、うちは、うちのスタンドはコイツや…『ファイナル・カウントダウン』。
全てを支配する、医者失格の成れの果てに相応しい、人を壊すだけのスタンドや…」
と、死んだ瞳で自分のスタンドを召喚もしながらではあるが木藤は続けた。
自分のスタンド能力が他人の電気信号を自在に操作するスタンドで、優しい能力ばかりの家族と違って破壊者の化身の様でコンプレックスがある事。
崩落事故で血と車に強烈なトラウマを持っており、外科医として医者を続けられなくなった事。
両親と兄が気を使って傷心旅行まで手配してくれたが、自分は情けなく自殺未遂すらおこし今もアル中寸前になっている事。
そういう過去を…全て、急に聞いてほしくなった事。
ましてや自分に価値を当時は感じていなかった木藤からしたら…別にそれを出汁に脅迫されても、慰み物にされても、或いは殺されても仕方ないぐらいに感じていた。
…そこまで思い詰めていた。
しかし、そう話を黙って聞いていた中年は、ただこう称賛する…『素晴らしい』、と。
そしてこう続ける。
「俺がキミと同い年ぐらいの時は…そこまで立派な人間ではなかったよ、少なくとも『自分の価値』を考えて行動する、そしてそこまで悩むぐらい考えて生きてはなかった。
ましてや…使い方次第ならいくらでも悪事に使えそうなそのスタンド能力を悪用しないなんて、なんて立派な人間なんだ!
…親父の口癖でね、素晴らしい何かに出会う日はイコール感謝すべき記念日なのだ、とね。
だから、俺は今日と言う『キミと出会えた記念日』感謝デーを盛大に祝いたい気分だ!!」
そう言って、一人で盛り上がった中年だが、急にテンションが迫真のものに変わるなり、こう続ける。
「だが、一つだけ俺は『感謝』出来ない事もあるね。
キミのスタンド…多分、と言うか当てずっぽうな推理だけど
他人の筋肉を自在に弄れると言う事は、例えばリハビリに苦しむ誰かの手助けになれるかも知れない。
或いは…心を自在に弄れると言う事は、例えば思い出したくない心の傷に苦しむ誰かを癒したりたちなおさせる手助けになれるかも知れない。
…決して、『ファイナル・カウントダウン』とやらは、医術の道に相応しくないスタンドではない!
それを持つことを、それを持って生まれたならばその運命を呪う事は
そう言われ…目を丸くする。
確かに、彼の言う通りだ。
『ファイナル・カウントダウン』が他人を操作できても自身を操作出来ない…と言う部分は確かにその通りだが、それ以上に言い分に非の打ち所がまったく内容に無い。
怒りもなく、侮辱も無く、ただ間違っている事の指摘に加えて木藤自身が目を背け続けていた
怒りでも何でもなく…『恥』と向き合う熱さに震えていた。
木藤は、生まれて初めて、『恥』を知ったのだ。
そして、知ったのだ。
思えば幼い時分から木藤は彼女自身が自分で自分が嫌いだったのだろう…
そういうプレッシャーとコンプレックスが根幹にあって、それが友人を失ったトラウマでPTSDを発症して加速していた。
だからこそ、自分が配られた手札で他人を救える…そんな発想からすら逃げる事の重大さと無責任さの『恥』を、それすら気付かない愚かさを知ろうとしなかった事について、思い至らなかったのだ。
「すまんね…いくら経ってもレディの扱いにゃ慣れん。
俺はこんなだから結婚できねーし、ソープじゃ無いとセックスも出来ない素人童貞なのかも知れんな」
一方で、そうショックを受けてそうな木藤の様子を見て…まあ下ネタなのは中年男性らしいいただけなさだが、彼なりにジョークで気をまぎらわせてやろうとしたのだろうか。
まあ、それは兎も角も…彼は真面目な口調になり話をこう切り出した。
「俺は…総合会社『GYコンツェルン』代表取締役、アルダー・ヴァン・リダン。
キミの出会いに感謝する事を悪用する卑怯な言い方で申し訳無いけど…仮に、もし外科医としてでも無くても医者として生きる決心が心の何処かに残っているなら、別な形で良い。俺に力を貸してくれ」
そう言って…実は彼は彼で忙しいのだろう。
アルダーなる中年は疾風の様にかけていく姿を…と言うか、アルダーと言う男とGY社への恩義は木藤は忘れる事はなかった。
帰国後、心理医療の方を勉強しなおして、木藤が精神科の方に行ったのもGY総合病院に勤務する事になった事もルーツを辿れば其処にある。
自分の『恥』、そして『誇り』。
何れも人間にとってそれが何よりの大事な事なのに…それを見失ったら人は心が死んでしまうのに、人は気付かないうちに見失う。
そう考えた時に、木藤はある意味でトラウマでしかなかった自動車事故での事は最低限は割り切れるようになった。
未だに血は大嫌いだし自動車も見るのも苦手だが…少なくとも、あの事件があってこそ、自分がどう傷付いて自分のその在りかを無くしたか見失ったかと言う部分に向き合うきっかけにはなった。
だが、心を病む
それに向き合う仕事、それを医者として向き合えるようになろう…と。
有栖川と絡むようになったのもだいたいGY総合病院に勤め出したこの時期からだ。
スタンド被害者は柚木町ですら毎年数十件ぐらい搬送される、そして
例えば息子や娘や孫がバラバラ殺人の犠牲者になる、なんてのも普通に起こりうる。
もちろん親や恋人でもペットでも良いが…そういう大事な家族を不本意に喪って、しかも誇りすら粉々に粉砕する様な痛みを味わって、『立ち直れない』人は一定数居た。
スタンドによる凶悪犯罪は証拠すら残らない、つまり証拠不充分で逃げられる事や裁かれない事も日常茶飯事だからこそ尚の事であり…そこでなやんでいた有栖川とたまたま知り合い、そしてカウンセラーと警官と言う立場の違いこそあれど、意気投合して友人となった。
そして、それからしばらくして二人で『ファイナル・カウントダウン』の約定の様な取り決めを交わしたのだ。
もし、
それから3年…木藤が現在、27歳になった今でもその辺の約定はずっと維持していると言う話はエルも有栖川経由から間接的にそこら辺の事情は聞いていた、『ファイナル・カウントダウン』と言う記憶を操るスタンド使いは、別に敵ではない、警察の味方だ…と。
「…せやけど、
木藤はそういう話を終えてから、こう切り出して話を切り替える。
「まあ、例えば『昼ごはんにカレーうどん食った』…程度の些細な記憶やろうと、脳なんて高度なブラックボックスを弄るのはかなりの負担になるんやな、『体』は覚えているのに『頭』ではなかった事になるんやから。
だからか、記憶操作直後から二日ぐらいは、ちょっと記憶が全体的に混濁してまうらしくて…はっきりと脳が再起動するんにかかってまう、
あ…と、完全に話がつながった守屋が血相を変えて木藤に問い詰める。
もしかして、そういう話か、と。
それに向き合い答えるかの様に、木藤は話を続けた。
「…なんでか、アンタのお父さんの体に背中か頭かの打撲があったせいで、あん時は確か外科の新入りの葉爪やったかな、アイツに診てもらったからそこ経由で連絡入れてもうてな…
多分気ぃ利かせたつもりやろうしアイツに悪気はなかったんやろうけど、兎に角『混濁してる最中』は絶対安静って半分偽ってでも
…守屋さん、ほんまごめんなさい!!」
そういうなり、守屋に土下座する木藤の脇から、エルがこう切り出した。
「『A・C』、守屋さんが関わってしまったあのレイプ魔騒ぎ。
私は知った中でなら比較的『立ち直った』側の陸部さんって人ですら、
まして、普通の人は耐えれない…そこの見解は、私も有栖川さんも、きっと木藤さんも同じよぉ。
だけど、スタンド能力の関係で本来ならただのカウンセラーにだけ背負わせて良いような心理的なキャパシティを超えてるわぁ。
私は…本当なら私達も背負わなきゃいけないような『スタンド能力被害者の心のケア』は普段全部丸投げさせてるのに、こう、私はどうしたら良いのか…どう言えば良いのかぁ…」
そう二人して頭を下げるなか…許してやれとまで傲慢な事は私には言えないが、と力強い声が響く。
その声の主は…
「有栖川!なんでそこにおんねん!?」
「有栖川さん、無事だったのぉ?」
意識不明から回復した警官、有栖川紅であった。
「…貴様は、貴様が思う以上にアホだな、木藤よ」
そういうなり、有栖川は話をこう切り出した。
「『スタンド能力の精密性』なんて、
つまりだ、貴様は貴様自身がわかってない…『スタンド被害で傷ついた被害者からトラウマを取り除きたい』なら兎も角も、『友達の記憶を無くしたい』なんて心の底から願うなど、貴様の様な性格の人間が出来るわけ無かろうが。
無駄に高すぎる精密性が仇になったな、
『なにも奪えてなかった』から三時間ぐらいで気絶から立ち直れたのは怪我の光明だが、そこは何でもいい。
恐らく…私を襲った動機はわかる、ソコに居るウェイトレス…確か、守屋さん、だったな」
と、親友に悪態をつきながらではあるが、木藤から守屋に顔を向け直しつつこう語りだす。
「『守屋竜奈と言う女性が行方不明だ、スタンド使いに襲われて行方不明だが、スタンド使いの警官なんて私しか知らないから保護する相談に乗ってくれ』
そういう内容で玄関先で呼びつけられて、ソコで『ファイナル・カウントダウン』で私はぶん殴られたらしいな。
…まあ、どうせ木藤、貴様の事だから記憶も奪うつもりだったろうが何一つ奪えてもなかったと言うかのは想定外にしろ、だ。
守屋と言う女が自分のせいで行方不明になった、そして
そう言われて、エルは合点がいったとばかりにこう感嘆する。
「なるほどねぇ…警察との協力関係を知らない人から見たら『単なる凶悪犯』、事情を知ってる人は『裏切り者』。
どう捉えるにしろ最大の友人兼協力者の記憶を奪ってしまえば警察と木藤さんの繋がりは無くなる、つまり今回の…ひいては、
『木藤叡花の独断』による事件にしてしまうつもりで…木藤さん、本気で全部ひっかぶろうとしてくれたんだぁ」
そう、呆れられるぐらいながらも不器用過ぎるぐらい不器用なやり方を選択して親友を守ろうとした木藤は…
そんな立派なんと違う、とこう返す。
「うちはな…血を見たら、スタンドをしばらく制御しきれんくなる。あのまま無理にスタンドを脳に向けて使ったら守屋さんを廃人にしかねんかったんや。
だから、次善の策としてメモで脅迫して抵抗出来へん様にして、『自宅に籠らせよう』と考えた。
あの御両親は3日もすれば記憶の混濁が無くなって家に帰れる…そうすれば、自然にみんなで再会できて、事情説明と謝罪は落ち着いて出来るやろって踏んでな。
警察の世話になったらそれはそれでかまへん、有栖川にうちが怒られたらすむ話やしアイツなら警察所内で事情説明しきれるやろからな。
…まさか、自宅にも戻らず警察の世話にもならず、行方不明になってまうなんて可能性を考えてなかったんや。
そうなったら、捜査の過程で
…そう思ったら、アイツを何とか捜査線上から切り離す為には、有栖川を騙し討ちするしか思いつかんくて、な…
…最低やり方しかできへん友人で、いや…友人なんて言える資格すら無くて、すまん…」
そう、有栖川に木藤が頭を下げるなかで…あ、とそう言う彼女の台詞を整理してエルが唖然とする。
木藤が暴走した理由と言える行方不明になったのは守屋のスタンドの特性たるステルス能力も有るが、何割かは最悪のタイミングでエルが守屋をエルの邸宅に匿ったからと言う部分もあったようだ。
そこをエルが軽く謝罪するが、それはかまへん、と言いながら木藤はこう続けた。
クランケの家族を傷つけ親友に手をかけた以上、罰は自分で受ける事は当然だとしてもだ。
兎に角、自分のせいでこうなったのだから…行方不明の守屋を保護してあげないと自分が許せない、と。
仮に犯罪者と後ろ指をさされる真似になったとしても、どうにかして事情説明しないと、と。
それで寝る間を惜しんで一人で捜索していたのだ。
「…ごめん…なさい。
…元はと言えば…私が、事情を聞かず病院でいきなり『ステルス・オブ・デイズ』を振り回したから…」
そういう木藤の事情を聞いた守屋はポロポロと木藤をおもんばかって泣き出していた。
それを見た木藤も、号泣しながら逆に謝り倒す。
「あんたは何も悪くない!!悪くないやないか!!泣かんといてくれ…!
うちはな…うちは、あんたみたいな子に苦しんで欲しくなくて、うちみたいな自分の心に自分で潰されそうな人を見るのが二度と嫌で、『心の医者』になろうって思ったのに…それを自分で台無しにしただけのクズや!
そんなんなのに、有栖川もエルちゃんも…守屋さんも、みんなええこしかおらんのに…うちだけが、みんな傷付けただけやのに…
ごめん!…ごめんな…あ、ああ…」
そういって二人が泣きながら謝り倒すのを見て、エルはこう…一言告げる。
これで、一件落着かしらぁ、と。
「いや、一件落着は『これから』…だ。スタンド発動、『ザ・ポリス』!」
と、エルの台詞に対し
それを尻目に、有栖川はこう続けた。
「『ペットボトル爆弾』…だあ?火薬にアルコール燃やしたり、危険物の取締関係や放火関連の法。後…ああ、スタンドで果物ナイフ振り回したって事は、貴様、刃渡り次第では銃刀法違反になるな」
そういった有栖川のキレた台詞に…更に守屋はきょとんとするが、『ザ・ポリス』のスタンドをいやと言うほど知っているエルと木藤は一気に顔が青くなり木藤が思わず助け船を出した。
「わ…悪気ってか、いや、うん…悪気はあるにしろ、別にうちは、うちは気にしてへんからその辺で勘弁したってあげ…」
「だから木藤、貴様はアホなのだぁッ!?」
…と、しかし木藤の助け船を有栖川は一蹴しながらこう続け叫んだ。
「
だけども悪い意味でも信頼出来ると言うか…キレると何するかわからんと言うか、基本こいつ初手が爆弾か爆発物だからいい加減そろそろ戦闘スタイルには説教しなきゃならんと思ったら…まあ今回も案の定だな!?
そろそろ良い機会だし…私のスタンド味わって反省しろ、全く!!」
と、そう怒られて…
有栖川に認めてもらっていた、信頼がまだあった…と言う言葉が確かにあったから。
とはいえ…
「まあ、今回は木藤に責任が有るのと貴様の気持ちを鑑みたら…まあ『逮捕』は無くても『補導』と『反省文作成』あたりが適当だろうな。
さあ、頑張って反省文100枚だぁ!」
そう言いながらずるずる増田を警察所に素手で連行していく有栖川と…
「た、助けてぇぇぇえええ!!?」
「ま、増田さぁん!!?」
「エルちゃぁぁぁぁん!?有栖川、勘弁したげてぇ!!?」
…引きずられていくエルと、悲鳴を上げる二人を見ていると、それが良いことなのかどうかは、ちょっぴりわからない話だった。
増田エル:『ザ・ポリス』で勾留された後に反省文死ぬほど書かされてグロッキー、400字づめ原稿100枚は流石につらかったようだが再起可能
有栖川紅:『ファイナル・カウントダウン』に襲われても実質ノーダメージだった、再起可能
木藤叡花:事情が事情と言う事が有り、エルほどでは無いが反省文をしこたま警察で書かされた様だ、再起可能
守屋竜奈:両親とは二日後に再会できた、エルはもちろん木藤ともあれから友達になったらしく三人で遊ぶ約束もしたらしい、再起可能
To be continued