今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
さて、優姫が見付けた『迷子』。
明らかに誰かを探している、と理解した彼女はと言うと…その顔は、ふにゃんとしたオフの顔から仕事人の真面目な顔へと切り替わる。
警察とは、要は『人探し』のプロでありそれを生業とした公務員だ。
優姫もそこは未熟だが例外ではない、動くべき仕事を前にしたら老若男女問わず…大抵、人は顔つきは変わるものだ。
故に守屋とエルの二人を尻目に駆け出すとその迷子の女の子へと声をかける事にした。何か困っていることはないかと、単刀直入にだ。
そう尋ねられしその少女は驚いた表情を見せ、一瞬ひっくり返りそうになりながらも優姫へあわてて聞き返す、お前こそ何者なのか、何の用かと言う旨をだ。
それに対して、無意識ながらも胸を張りながら優姫はこう返した。
「私は、これでも現役の警官なんだ!なんだっけ…リーとJって方を探しているのよね?
お姉さん、力になれるかも知れない…良かったら、話を聞かせて?」
そう、目線の高さを少女に合わせながら尋ねた優姫をまじまじとその『迷子』が見返すと…
「えーと…その、自分に優しくしてくれる人に失礼かもだけど…
…そう言いたくなるのも無理はない。
仮に、優姫が仕事中で制服を着用しているならばわかるだろうが、ボロボロの高校ジャージに身を包み、髪のセットも適当で化粧もほぼすっぴんなボサボサ頭とまでなれば何が何やらとなるだろう。
少なくとも、『警察官』と言うよりは『自称警察官の不審者』と言われた方がしっくりくる。
身分証の警察手帳…これは基本的に勤務中に持つもので、仕事を離れる場合などは基本的には所轄の警察署に預けているものだ。
つまり身分証明になるものを何も持ってない、そもそも非番だから本来持ち歩く必要性は無いからこその話では有るがこう疑われたら否定が難しくなる。
(…まいったな)
優姫は内心、ほぞを噛むような感じの悪態をつきながら己の『見た目』と言う部分を客観的に見つめ直すきっかけにはなったかも知れない。
少なくとも
まあ、『人間の評価は内面性以上に初見の見た目』と言うどうしようもない部分は、ビジネスの場や公共性の高い場よりプライベートな部分の方が意外とシビアに見られがちと、魂で理解させられた気分にはなりながらではあるが本題としてはそこではない。
ジャージの不審者扱いはこの際どうでもいい、と前置きした上で優姫はこう続けた。
「別に…私が警察官である事は『正しい』んだけど、別に貴女に『間違い』だって思われるのはどーでもいい。
だけど
交番なら、確かこの先の交差点まで行って信号を右行ったらすぐタイヤの修理と交換専門店が有るからそこの裏手に有るわ、人を探しているならそこに行けばいいんじゃない?」
そう、警察官として
警察、交番…と言う単語がスラスラ出る辺り、少なくとも『お人好しのアドバイス』程度には優姫個人の信頼感は回復したのだろうが、逆にそれ以外の部分で余計渋い顔をする。
何故だか、例えば親に嘘をついたのがバレた時のような、或いは例えばガラスを割ってしまった家に頭を下げる時のような…その迷子の少女はそんな顔をしている。
それで
そんな二択のうちの『最悪のパターン』の方を先に想定してしまう自分が嫌になるが、職業病だ。そしてそれは社会人としては誇りに繋がる話であり…とりあえず、懸念を払うために優姫はこう質問を変えて投げ掛けた。
「そのスカート、脱いでくれない?」
「何してんのぉバカァ!!?」
…そして、丁度追い付いたエルに蹴っ飛ばされるのだ…
Case25『三人娘と三人組』後編
「な、なな…なんば言いおっとですかあんたァ!?」
「…落ち着いて、キャラ、キャラ崩れてる」
とまあ、いきなり子供に服を脱げと言い出したジャージの友人に対して興奮しながらツッコミを入れるエルと、追い付いた守屋がエルを落ち着かせる…と言う一幕は有るが、別に優姫は急に変態性欲に目覚めた訳ではない。
そこの旨を最初に断りながら、優姫はこう話を続けたのである。
「あー…ぶっちゃけ、この子迷子だってのに『警察や交番に行きたがらない』。となると、あり得る可能性は2つ。
ひとつは単に警察官って存在が、シミュレーションゲームの命中率70%表記の当たる確率より信頼できねーって顔をしているだけの単なる警官不信な警察所嫌い。もしくは
で、後者だった場合『スカートの中』や『スカートのポケット』は置き引きや万引きの獲物の隠し場所に最適ってだけ、或いは逆にそこの片手に持ってるソフトクリームが買ってきたモノならばスカートとかにレシート突っ込んでる可能性が有るから嫌疑を晴らすのに必要な措置なだけ。
どっちみちただの身体調査ってだけだからやらしい意味は無いわよ」
と、まあ事情はそういう事だ。
カバンの中やコートの袖と言う隠し場所と同じくらいに、実はスカートと言うモノは意外と隠し場所と言うスペースとしては優秀ではある。
案外にズボンに比べてデッドスペースが広く、多少膨らんでいたり変な形に崩れても一見分かりにくい上に
確かに、そこの迷子の少女の履いているスカートはいわゆるロングタイプ、隠していると言う疑いをかけるならカバンやポシェットをぶら下げていない以上それを真っ先に嫌疑をかけるのは仕方ないのかも知れない。
しかし、その少女が言うにはどちらでもないと言う。
別に身体検査したいなら止めないが、と前置きした上でこう返した。
「自分は日本人だけど…探している人は、どっちもアメリカ人なんだ。今は自分も普段はそっちに移住してて、訳あって日本に帰ってきたら、そこでお世話になってる二人とはぐれたんだけどさ。
Jさんに至っては話すのはともかく漢字も読めないぐらい日本に疎いし、中華系のリーさんなら漢字は読めそうだけど土地勘が無いから別な場所探して変に交番に行っても入れ違いになったり逆に離れたりして余計ややこしくなる可能性って低くはないからさぁ…」
と、違法行為云々の関係が無い理由から警察に行きたがらない…と言うか、単に余計なトラブルを避けたいと言う事情から交番に行きたがらない、と察知した全員はと言うと、まずは優姫が謝罪する。
失礼な真似をした、そして変な事を言ってごめんなさい…と。
そして次のように尋ねる、どうやってこの道に辿り着いたかを、だ。
「わかんない…」
…oh、と、まるでアメリカの映画の陽気な黒人枠みたいなリアクションを優姫は内心取りながらではあるが、
まあ、子供に限らず大人でも無意識に歩いていたら良くある事だ。
興味を牽かれる方へと足を向ける、また次の方へと足を運ぶ…と行動するとなると、『最初から今までの足取りを思い出せ』と聞かれたら返答に詰まると言うのは意外とあり得る。
『検分』と言う作業を試しに他人にしてみたら良いだろう、例えば、昨日食べた朝御飯は?と言う内容でも良い。
例えばパンかご飯か、シリアルか…とおおざっぱには答えられても、コーヒーや紅茶のメーカーや砂糖の量だったりおかずの味付けだったりと細かく聞かれるにつれ誰でもあやふやになる。
記憶とはそういうモノだ、意識してない記憶は基本的にすぐ忘れたり都合よく脳内で思い込みにより書き変わるものだ。
そして、人は検分と言う部分で思い出そうとすると、慣れてないと無意識に『本来思い出すべきおおざっぱな』記憶ではなく『あやふやになる細かい』方の記憶から辿ろうとして、余計に来た道すらわからなくなり迷子になりやすい…まあ、方向音痴と言われる類いの人間がやりがちなミスではあろう。
ましてや長く外国に移住してると言うならば、恐らく土地勘が無いから余計である。
となると、質問を少し変えなければいけない、とそう思った矢先に嘴を挟んだのは守屋であった。
探している人と最初にはぐれた場所の、分かりやすい何か思い出せるモノは無いか、と。
「え…と、なんだろう。なんか、薪を背負った変な銅像みたいなのがあったぞ」
「…金次郎広場の目の前の公園!迷子になったのは、そこね!」
その迷子の少女が言う薪を背負った変な銅像…アメリカ暮らしが長いならわからないのは無理はないが、この辺で二宮金次郎像は件の待ち合わせに使った広場の近くにある公園しかない。
それを見て守屋が叫ぶなか、今度はエルが横から口を開いた。
「そして、貴女のその片手に持ってるソフトクリームの溶け具合から見て、逆算したら時間はそんなに経ってない…って事は、ああ、わかったわぁ、ソフトクリーム買ったのは公園の裏手通りの道でやってるホットスナックとかアイスクリーム売ってるあの屋台ねぇ。
で、二人の保護者さんが目を離したすきに小中学生向けのブティックとかオモチャ屋本屋文具屋…興味を引かれそうなあの辺のお店が並んでる裏路地に無意識に迷い混んじゃって、そこではぐれたって所かしらぁ。
道的に、あの裏道真っ直ぐ走って来たらこの辺に出ちゃうし」
と、プロ顔負けの追跡調査の達人であり土地勘がバリバリにあるエルがプロファイリングを簡単に済ませる。
そしてプロファイリングを済ませた以上、探している二人のJとリーと言う男の足取りもある程度掴める。
公園から徒歩…駆け足で探しているとしてもだいたい10分前後で行ける範疇で居る、と言うあたりか。
「となると、後は『特長』…良し、何か、こう二人さんのイメージとか分かりやすく例えるならってモノがあれば教えてくれる?」
そう優姫が最後に尋ねると、ちょっとだけ悩むような表情で無言になった後、迷子の少女はこう口を開き答えた。
「うーん…体型が、こう…トンズラーとボヤッキー?」
なんとなく、良くわかるようなわからない様な、でも凄くわかるなぁ…と言う不思議な例えだ。
優姫は、内心こうツッコミを入れ、守屋はじゃあ貴女はドロンジョ様ね、と悪のりした冗談をかますと言う一幕はあったものの。
…と、それはそうと要するに細い東洋系な男とデカイ筋肉質な男と言う組み合わせで、特にJなる片方は黒人のギリシャ彫刻顔負けのビルダーみたいな体型をしたマッチョと言う事までは確認しつつ金次郎公園まで辿り着いた一行は、そのはぐれたと言う屋台の前まで辿り着く。
そして、そこに辿り着くなりエルは無言でスタンド『レディオ・スター』を展開しながら、一言その迷子の少女に対して『見える』かと聞く。
少女はきょとんとした表情で、何が?と聞き…
スタンドとは精神のエネルギーだ。質量は無く、物理的法則に囚われない。
半径15メートルぐらいと言うのがレディオ・スターの射程距離ではあるが、それは二次元的な平面な物ではなく空中も含めた三次元的な『半径15メートル』だ、つまり上空15メートルとまで飛ばしたら逆に見にくくなるとも…上空5~6メートルぐらいに『打ち上げよう』と思えばいくらでも飛ばせられる。
二階建ての家ぐらいのベランダとだいたい同程度の高さから、物見櫓のように『観察』する事もエルのスタンドは行う事は容易だ。
ましてや晴れている野外で視界も悪くない、ましてやゴリラみたいな2メートルぐらいもあるバスケット選手みたいな体格のマッチョの黒人なんて日本じゃ良くも悪くも目立つ。
「…居た、こっから見て北北西の方向、土産物とか売ってる物産展のお店ねぇ」
エルのその発現に対して、迷子の少女はえっと驚きの声を上げ、一方スタンドの見える守屋と優姫の二人はなるほどと納得した末に、優姫が少女に対してこう耳打ちするのである。
「私は『人探しのプロ』だけど、あの人はそのプロを超える人探しのプロ、獲物を探す猛禽類並にすっごく目が良いんだ。普段は顔とおさんどん以外絶妙に誉めにくいヘタレさんだけどさ。
だから、良かったね!探している人が見つかって、さ」
そう優姫は迷子の少女の頭を優しく撫で、誰がヘタレだとエルが猛抗議し守屋が羽交い締めで押さえる…なんて一幕は有れど、だ。
兎に角も、その探しびとを見付けてすぐ…まあ、5分もしないうちに彼等は合流する。
近づくにつれ見れば見るほど…確かに、リーなる男はやせ形の骨と皮みたいな体型でひげ面でメガネの50代ぐらいの中年。
もう片方のJと言う黒人の30代ぐらいの青年は見れば見るほど感嘆の溜め息の出そうな鍛え上げられた筋肉質のスキンヘッドのあお髭が目立つ男。
ボヤッキーとトンズラーとは、まあいい得て妙だ…と、優姫が思うのも束の間、二人の男たちはまじまじと優姫たちを見て物凄く驚いた表情を見せていた。
しかし、その流れは実に奇妙だと後に優姫は述懐する事になる。
それが、
ずっと駆けずり回りながら探している人が、見知らぬ女をお供にぞろぞろとやって来たら、まあ説教するなり人によってはげんこつが飛ぶだろうとしても、驚いたりするのはごく当たり前な事。
そうではなく、何故か二人の視線は
アメリカ人の知り合いが居て、何か恨みを買っていたのか…?と、優姫は一瞬だけエルを疑うが、それにしては反応が妙だ、
守屋は人が良すぎて警戒なんて全くしていない以上論外だ…と、そう判断した優姫はいつでもスタンドを出せるように内心構えつつ、とりあえずリーとJと言う二人に事情説明する。
この少女が迷子になって居て、三人で探していたのだ、と。
「迷子になったのはリーさんとJさんの方だってば!」
…等と、的外れな訂正が別方向から出るのは残り五人全員無視しつつではあるが、まあそれはそうと。
「あ…あーあーあー、テステステス。
エヘンエヘンッ!!、あー、おいちゃんたちこーんなナリだから警戒しても無理ないかも知れないけど、しずくちゃんはおいちゃんたちの大事な…まあ、この子は里子みたいなもんでーね、今度ははぐれないように言って聞かすちょ。
だから、ここは、とりあえずここはバイナラってね、うん」
そういって、リーなる中年がわざとらしく頭を下げながらヒラヒラと手を振り足早に去ろうとするのを止めるは…しずくちゃん、なる迷子の少女である。
彼女は言う、世話になったのだから、もっときちんとお礼しないとダメだ…と。
そう言われしどろもどろになるJとリーに追い討ちをかけるように、そのしずくちゃんなる少女はこう続けるのだ。
「
そう、彼女は叫び…一同は絶句する。
リーとJは、二の句が告げないような顔になり、守屋と優姫はなにいってんだこの娘と言う表情になる中、エルだけは固い顔になりこう尋ねる。
君は、なんて言う名前だ、と。
「名前…?ああ、自分は立花しずく(たちばな・しずく)!立花でもしずくでも、好きに呼んでくれ親切で優しいおねーさん!」
こう、屈託無い笑顔を
立花…『過去』からは、逃げられないのねぇ…と
To be continued