今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~   作:たんぺい

3 / 50
3話『ホットスタッフ』前編

(世の中には、正(・)し(・)く(・)な(・)い(・)事が溢れている。ありふれている。)

 

婦警、火々里優姫(かがり・ゆうき)巡査は常日頃怒っている。

世の中の理不尽に、世の中の『悪』に。

 

…(・)自(・)分(・)も(・)そ(・)う(・)だ(・)っ(・)た(・)。

世の中には人と言う人をなんとも思わず、踏みつけて自分の欲の為の餌や肥料か何かとして弱者を踏み躙る吐(・)き(・)気(・)を(・)催(・)す(・)邪(・)悪(・)の(・)加(・)害(・)者(・)と(・)そ(・)れ(・)の(・)被(・)害(・)者(・)に溢れている。

そして、か(・)つ(・)て(・)は(・)自(・)分(・)は(・)後(・)者(・)。(・)つ(・)ま(・)り(・)は(・)踏(・)み(・)つ(・)け(・)ら(・)れ(・)、(・)食(・)べ(・)ら(・)れ(・)る(・)側(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

それが故に、力を間違っている使い方をする人間と言うものが許せない。

力を持つものは、すべからく正しくないモノを淘汰するべきだ…優姫と言う女性は、ともすれば最(・)も(・)ど(・)す(・)黒(・)い(・)悪(・)に堕ちかねない先鋭的な思想をも抱いている。

 

しかし、彼女は己の考え方を間違っていると感じた事はおろか、己の考え方その物に疑問を抱いた事すら無い。

 

何故ならば…彼(・)女(・)が(・)最(・)も(・)尊(・)敬(・)し(・)て(・)い(・)る(・)女(・)性(・)こ(・)そ(・)、(・)世(・)界(・)一(・)『(・)正(・)し(・)い(・)』(・)と(・)呼(・)べ(・)る(・)才(・)能(・)の(・)持(・)ち(・)主(・)で(・)あ(・)る(・)のだから、当然それを目標にする自分が間違っているハズは無かろう、と。

そう、己が上司たる有栖川警部補を目標にする自分は、と…だ。

 

『ザ・ポリス』の名前の通り、警邏隊や警官その物を体現したそのスタンドとそれのスタンド使い、有栖川虹警部補が初任務で見せた力。

優姫はそれを初めて見た4年前…当時、中学三年生だった彼女は、心に決めたのだ。自分も警察官になろうと。

誰だって初(・)め(・)て(・)見(・)た(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)に(・)憧(・)れ(・)を(・)抱(・)く(・)も(・)の(・)だ(・)、例えば、それこそギャングスターに憧れを抱いた少年はギャングを目指す様なモノであろう。

 

優姫も同じように…否、人として持てる最高の研鑽を、彼女なりに重ねた。

バイトしながら奨学金で成績優秀者として高校に通学し卒業した後、警察学校を目指し、そのまま憧れの人の下で華の刑事課でいきなり直属の部下になった彼女の努力と喜びは想像に難くない。

 

故に有(・)栖(・)川(・)の(・)実(・)態(・)を(・)知(・)り(・)裏(・)切(・)ら(・)れ(・)た(・)と(・)感(・)じ(・)た(・)失(・)望(・)や(・)、(・)そ(・)れ(・)の(・)元(・)凶(・)に(・)向(・)け(・)る(・)怒(・)り(・)は(・)ま(・)た(・)ひ(・)と(・)し(・)お(・)で(・)あ(・)る(・)。

あんな正しくない女とつるんでいたなんて、と…

 

 

 

Case3『ホットスタッフ』前編

 

 

 

「……」

 

さてさて、話の視点は連続焼死体殺人の捜査の場面から再開しよう。

有栖川が『恐怖』ことスリラーとあだ名をつけられたのか、あるいはスタンドそのままかの名前は定かではないものの。

『貸す』と言われのっそりと背後から現れたのは、やや赤みがかったボサボサの長髪を携え、切れ長な瞳をさらに吊り上げながら上記の様な無言の圧力をかけてくる若い婦警である。

 

有栖川がギリギリ二十代とはいえ来年は三十路の妙齢の、切り揃えた黒髪のおかっぱ頭と、並ぶと同じ警官の衣装を着ているのにまるで正反対にしか見えないのが印象的だ。

優姫がエルと同じぐらいかそれよりはやや低い、150㎝前後の身長に対して有栖川が男子顔負けに180㎝はある高身長の八頭身と言うことも拍車をかけている。

…そして、友好度なり好感度と言うものも、まさに正反対な様でエルも流石に困惑してしまう。

 

故にエルの方から、話を切り出した。何かあんたに嫌な事をしたのか、と。

 

 

「…私は、未だに『納得』が出来てませんッ!」

 

その質問を浴びせるなり、答えになっていない答えを何(・)故(・)か(・)有(・)栖(・)川(・)に(・)向(・)け(・)て(・)発(・)し(・)、余計にエルは困惑するが…それを気にしない優姫は、エルに指を突き付けながらこう続ける。

 

「こんな…スタンドを日常的に『正しくない』使い方をする様な女と協力しろだなんてッッ!!いくら殺人犯の捜査だとしても、刑事課の仕事だったとしてもッッ!!有栖川先輩に…いえ、増田エル、貴女も含めてプライドは無いんですかッッ!!」

 

 

こう言われ…エルはなんとなくだが状況を理解した。

要するに覗(・)き(・)や(・)カ(・)ン(・)ニ(・)ン(・)グ(・)の(・)常(・)習(・)犯(・)と(・)捜(・)査(・)す(・)る(・)の(・)は(・)警(・)官(・)と(・)し(・)て(・)如(・)何(・)な(・)も(・)ん(・)か(・)と言う怒りであり、どうも事情を説明してすぐ、納得する暇もなく有栖川が無理矢理協力させようとしている事に怒っている。

 

と言うか、喧々諤々と上司部下との会話とは思えないやり取りをエルは横から聞くに、『現場でいきなりバディを組めだのと言われても困る』だの『利用するされるはお互い様、その上でいきなりお前のためだとか言われて信用できる訳無い』だの『そもそもそんな犯罪者スレスレな悪人と日常的につるんでるなんて知らなかった』だの。

どうやら、有栖川は現場でエルを見かけた際に捜(・)査(・)現(・)場(・)で(・)そ(・)の(・)ま(・)ま(・)エ(・)ル(・)と(・)自(・)分(・)の(・)関(・)係(・)を(・)い(・)き(・)な(・)り(・)明(・)か(・)し(・)た(・)上(・)で(・)捜(・)査(・)に(・)協(・)力(・)し(・)ろ(・)だ(・)の(・)と(・)無(・)茶(・)を(・)申(・)し(・)出(・)た(・)。

 

…まあ、そんな話だろう。

どうやら話を聞くに、有栖川を清廉潔白な純真無垢な警察の鑑だと思い込んでいた様で…だからこそ、有栖川には上司とは思えないぐらい怒っているし、エルとは会(・)話(・)す(・)ら(・)し(・)た(・)く(・)な(・)い(・)。

19歳…まだ十代らしい社会経験の無い青臭い部分が表に出た未熟と言うとそれまでだが、エルがもし優姫の立場ならここまで無礼とはいかずとも、やはり怒っていただろう事を理解するに…何故だかだんだんと、エルも自分の事を棚に上げ有栖川に腹が立ってきた。

 

 

(…有栖川さん、説明苦手な上に強引だからねぇ。そんなんだから東大法学部だかの出身のキャリア組の癖に、万年、警部補から昇進できないのよぉ…)

 

そして、怒り以上に有栖川へと呆れたのは、頭は良いし正義感が強いが口下手故にこうして対人関係でトラブルを起こしては出世や昇進のチャンスを逃す腐れ縁の不器用さではあるのだが。

しかし、そんな有栖川が昇進できるかどうかなんて今は重要な事ではないし、そもそもエルにはどうだって良い話である。

大切な話は、こんな自分を気に入らない、もっと直接的に正しくないとまで言い切った若い婦警とバディを組めと言う事かどうか。

ただそれだけである。

 

 

…さて、正直に語ろうなら、たったこんな数分のやり取りで、エルは正しさと清廉潔白さに固執する優姫の事は非常に苦手になった。

だ(・)が(・)、(・)同(・)時(・)に(・)、(・)エ(・)ル(・)は(・)優(・)姫(・)の(・)事(・)を(・)こ(・)ん(・)な(・)数(・)分(・)の(・)や(・)り(・)取(・)り(・)で(・)そ(・)ん(・)な(・)頑(・)迷(・)さ(・)を(・)非(・)常(・)に(・)気(・)に(・)入(・)っ(・)た(・)事(・)も(・)事(・)実(・)だ(・)。

 

エルはその能力の都合、わりとトラブルに巻き込まれる事はおろか有栖川に頼まれたり逆に有栖川を利用してトラブルへと首を突っ込む事すら少なくは無い。

だからこそ、『正しくない』などと断罪する優姫に興味を持った事は事実だったのだ。

ま(・)し(・)て(・)や(・)、(・)真(・)正(・)面(・)か(・)ら(・)自(・)分(・)を(・)否(・)定(・)し(・)て(・)く(・)る(・)彼(・)女(・)が(・)何(・)よ(・)り(・)気(・)持(・)ち(・)良(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)。

事実、エルは悪人では無いにしろ決して良い人間でもなかった俗物だから、むしろそれはそう言われて…へんな話だが、妙に悪い気はしなかったのだ。

 

内心、自分はもしかしたらマゾヒストなのかも知れない…等と思いつつ、上司に向かってそろそろ無礼極まる言葉を吐く寸前だろう優姫を諌めるため、有栖川に助け船をかける事にした。

 

 

「刑事さん…火々里さんかしらぁ。有栖川刑事は悪くは無いわよぉ。

いつも能力を使って首を突っ込んでいくのは私の方だし、利用してるのはお互い様で…私を一方的に見逃してもらっているだけ。だから、プラマイで言えばもらってばかりなのは私だけなのよぉ」

 

そう、間延びして様な低血圧っぽい口調のままでは有るが、優姫がキレ散らかす様を割って入るのを見るに怒りをエルの方へと向けるのだが。

そんな様にさらに割って入る様に、上司だと言うに部下に頭を下げながら有栖川はこう釈明を加えた。

 

「すまない火々里、そして増田…フォローしてくれてありがとう。だが、説明が足りなかった上に強引過ぎた私の思いつきが発端な以上は私の責任だ。いくら罵られようがこ(・)の(・)件(・)は(・)水(・)に(・)流(・)そ(・)う(・)。

…だが、火(・)々(・)里(・)は(・)い(・)つ(・)か(・)エ(・)ル(・)と(・)組(・)ま(・)そ(・)う(・)と(・)考(・)え(・)て(・)い(・)た(・)事(・)は(・)事(・)実(・)で(・)、(・)こ(・)の(・)決(・)定(・)に(・)貴(・)様(・)達(・)ど(・)ち(・)ら(・)に(・)も(・)水(・)を(・)差(・)す(・)事(・)は(・)許(・)さ(・)な(・)い(・)。足りないモノを補いあう為に」

 

そう上司に頭を下げられて、私に足りないモノなんてないしましてやこんな薄汚い女に学ぶべき所も補われるべき箇所も無い!と言う叫びを…上げるわけにもいかず。

火々里は憮然とした表情で不満を呑み込んで、一方、一番年下の割には妙に大人とは言わずとも達観しているエルが頭を抱えながら苦笑いをする。

そ(・)し(・)て(・)、(・)有(・)栖(・)川(・)は(・)エ(・)ル(・)に(・)向(・)け(・)て(・)、(・)さ(・)ら(・)に(・)オ(・)ー(・)ダ(・)ー(・)を(・)具(・)体(・)的(・)に(・)追(・)加(・)す(・)る(・)の(・)で(・)あ(・)る(・)…

 

 

 

さて、その辺りで午前11時過ぎぐらいの殺人現場によるあれこれの話を終わらせるとしよう。

…すすめるべき話は、さらに35分ほど時間を進めておこう。

 

 

 

(この俺を、バカにしたヤツはだいたい皆殺しにした)。

 

全身黒づくめの連続焼死体殺人事件の殺人者…粕谷弾(かすや・だん)はひそかにほくそ笑む。

 

(先輩に無理矢理勧められた煙草を吸っただけで、退学にしやがった教師…俺をトイレで吸った所をチクったウザい部活の先輩連中…絶叫上げながら焼け死ぬ様は、ざまあなかったぜ)

 

そう言って、己の半身であるスタンドを意味もなく出現させつつ、さらに内心最低な吐き気を催す様な独白を続けていく。

 

(俺をバカにしたヤツは、『ホットスタッフ』で全部燃やし尽くしてやる…!次は、誰が良いかな。俺の絵をバカにした美術の教師、俺の事をみんな見てる前でフッて恥かかせやがったクソアマの2組の星野、さあ…誰から餌食にしてやろうか。なんせ、バットやナイフじゃなくてコイツで焼き殺したら証(・)拠(・)も(・)の(・)こ(・)ら(・)ね(・)ー(・)!!)

 

そう、『スタンド』に目覚めたて特有の万能感に悦に入っている粕谷は、ふと無意味に出していたスタンドを仕舞うなり気づいたのだ。

自(・)分(・)の(・)真(・)後(・)ろ(・)か(・)ら(・)ぴ(・)っ(・)た(・)り(・)つ(・)い(・)て(・)く(・)る(・)視(・)線(・)が(・)存(・)在(・)す(・)る(・)事(・)に(・)、(・)だ(・)。

 

なんなんだ…と思って振り向くと、スマホを片手に握った婦警が、無表情にその画面を見つめながら一人妙に納得する様が映る。

自分は連続殺人者である粕谷はあわてて警官を見て飛び退くものの…思い直す。

そ(・)う(・)だ(・)、(・)今(・)は(・)俺(・)様(・)は(・)無(・)敵(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)か(・)。(・)こ(・)ん(・)な(・)弱(・)そ(・)う(・)な(・)、(・)し(・)か(・)も(・)勤(・)務(・)中(・)に(・)ス(・)マ(・)ホ(・)を(・)弄(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)婦(・)警(・)一(・)人(・)な(・)ん(・)て(・)俺(・)の(・)敵(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)、(・)と(・)。(・)

 

ならば先手必勝…そういきり立つ粕谷は、己のスタンドを呼び出し、叫ぶ。

 

「『ホットスタッフ』!!あのアマを始末しろ!!!」

 

そう叫ぶなり、現れた粕谷のスタンド『ホットスタッフ』は、右手に取り付けられた巨大な斧を、そのスマホをいじっている婦警に振り下ろす!

殺意を込めた、絶対無敵な必殺の斧を…

 

 

 

…(・)だ(・)が(・)、(・)そ(・)の(・)斧(・)は(・)婦(・)警(・)に(・)当(・)た(・)る(・)事(・)は(・)、(・)決(・)し(・)て(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。(・)

 

 

 

  

そのホットスタッフの右手に取り付けられた斧を、ギリギリと擬音がするぐらいの握力を持つ獣の様な左腕一本で容易に止められてしまう。

 

否、左腕一本だけではない。

 

上半身裸のマッシブな狼男の様なヴィジョンが婦警の背後から現れたなり、『ホットスタッフ』の胸を鋭く5本指の爪で切り裂いて粕谷をスタンドごと吹き飛ばすのだ。

そんな驚く粕谷と、さも当然な様な表情でスマホ画面から視線を外し睨み付ける婦警…否、優姫は。

 

「…ッチ!あの『正しくない』女のスタンドが、『正しい』証拠になったなんて…!」

 

そう、舌打ちしながら殺(・)人(・)犯(・)に(・)は(・)歯(・)牙(・)に(・)も(・)か(・)け(・)ず(・)、(・)む(・)し(・)ろ(・)協(・)力(・)者(・)に(・)悪(・)態(・)を(・)つ(・)き(・)な(・)が(・)ら(・)こう吠えるのだ!

 

「ここから先は、私一人でやるわよ!『正しくない』連中よ、正義に恐怖しろ…スリラァァァァア!!」

 

 

to be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。