今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
ーーーさて、話は少し前に遡る。
時系列的には、優姫たち三人が遊びにいったその4時間ほど前の午前8時頃。
朝早くの時間帯に、その女は重い顔をして二人の人と待ち合わせていた。
その『二人と待ち合わせていた女』…それは木藤叡花、『ファイナル・カウントダウン』騒ぎの主犯であり…そして最もあの事件に関して気を揉んで苦しんでいた救世主にスポットを当てよう。
そもそもが、あの事件の『事後処理』から話は始まる。
木藤の行動の動機が事情が事情だった事と、『責任』をもともとの部分まで遡るならば警察側にもそれがあること。
実質的な怪我人が守屋一人ではあるが、彼女が訴えを実質的に取り下げてくれたこと。
この件に関しては何より終始木藤自身が相当反省しており、我欲による『再犯』の可能性が無いと言う事もあり…まあ、減俸処分になったとか警察でのお説教とかはあったものの、無事に医師を続けることは出来たのであるが『埋め合わせ』は最低限必用な訳である。
個人への補填としては迷惑をかけてしまった守屋もエルも、基本的に二人とも性格が非常に優しい故に木藤を思いやってあげた結果として裁定が甘かった事もあり…二人からは嫌みのひとつも言われず許してくれてむしろ木藤の方が気を遣われてしまい、逆に良心の呵責から余計に胃痛に悩む一幕こそあったものの、だ。
そうではなく『公人』として、そこら辺はわりと線引きがカッチリしている親友の有栖川相手だと、変な話するとそういう法治が関わる部分は情を解してはくれるが厳しい部分のある彼女の方が気が楽な相手ではあるし、後述になるが償いとして課せられた裁定も木藤なりに納得できる話が来たのだ。
だからこそ、その真面目さが祟り今にもプレッシャーで吐きそうなぐらいに木藤は緊張している。
胃や腸ががぐるぐるするしキリキリと痛みを上げている、頭も重いし目眩も覚えているだろう。
…『スタンド』の精密性の高い人間と言うのは、妙に神経質だったり繊細な人間も珍しくは無いが、彼女も本質的にはそれに漏れない人物だ。
そのプレッシャーと言うのは先述の『待ち合わせてる人間』…そして、もう少し根幹に遡れば有栖川が課した『罰』によりキリキリと受けているのだ。
case27『GY社のCEO』前編
さて、待ち合わせしている人間は二人。
一人は有栖川だ、先に言っていた様に有栖川に対しての『埋め合わせ』…この場合だと、ある種の司法取引の様なものに当たるのだろうか。
もともと前科の有無は兎も角も有栖川への償いがしたい木藤がにべもなく了承した、まず有栖川と会う約束の根幹はこれに起因する。
そして、その捜査協力要請は意外と早い段階で木藤の耳へ入り、事件概要を纏めるとだいたいこの様になる。
…凡そ二日前に柚木町で起きた変死体を発見した事が発端だ。
死亡したのはGY社の総合商社日本支部の社長、天津弁我(あまつ・べんが)58歳。
死亡推定時刻は午前1時45分から2時辺り、天津はその時間帯の間で自宅のマンションにおいて悶絶し死亡する…こういう事件が起きていた。
司法解剖の結果は『心筋梗塞による突発的におきたショック死』、それ自体はよくある中年の不摂生とかでも起こりうるシチュエーションだろうが
そして…間の悪い事に、警察の箝口令による情報操作や情報制限より先にあるニュース番組のキャスターが生中継でその遺体の異様さを全国ネットで取り上げてしまったからさあ大変と言う状態である。
しかも、ペンキかぶった変死体と言う事もそうだが
なぜ死体にペンキを被せられたのか?
なぜ彼は狙われていたのか?
そもそも本当に『心筋梗塞』なのか?
ネットでは如何にもな情報が飛び交い、しかも死亡推定時刻前後の間にはマンションのセキュリティが落とされていた形跡が発覚したことによりますます混迷を極めている。
優姫の様な木端は兎も角も警察上層部はてんてこ舞いであり…『スタンド』の仕業ではないか、と見抜いていた有栖川もその焦っていた一人ではあった。
そこで、まあ個人的に仲が良いという事もあるが、間接的にGY社と繋がりが無くはない木藤へと繋ぎを取った…ここまではいい。
むしろ木藤自身が協力を持ちかけようかと悩んでいたぐらいだからこそ、わたりに船と言う話になる。
それは良いのだ… 問題は『もう一人』の方。
高級スーツに身をつつみ、渋く彫りが入って髭も生やしているがそれが全く嫌みにならず、手持ちの高級時計やジュラルミン性の高級トランクに革靴にベルトと言う様々なお高い小物も難なく自然に着こなしている50代ぐらいの白人男性ーーーアルダー・ヴァン・リダン。
GY社全体の株主兼、本社のコンチェルンの総合取締役のCEOを務める傑物、かつて木藤を絶望から救ってくれた恩人であり現在では上司の上司のそのまた上司の様な文字通り雲の上の人。
間違っても、あらゆる意味で自分ごときが面会できる様な立場の人間ではない…木藤はそう考えているだけに、ただ会うだけでもプレッシャーに押し潰されそうなのに
「俺を前に…緊張しているのかな?」
アルダーは木藤に対して、木藤へとおもんばかる様な口調でこう口火を切る。
まあ…事実その通りだ、目の前にいる人物がお世辞抜きに天上人だと言うのに緊張しない人間の方が珍しいだろうが、そこは日本人らしい気の遣い方でお気遣い無く…と力無く返す。
それを見て、有栖川が呆れた様な口調でこう横から口を出した。
「おいおい、木藤らしくもない。いつもの関西弁のツッコミはどうした?
そもそも
「お前みたいに肝太くないんやウチはァァァァア!!?ちょっとだーっとれダァホがァ!?」
…と、そんな超絶に憮然とした物言いの有栖川はバックドロップを脳天に決めて黙らせる、なんて一幕はあるが…
有栖川の発言のそれを受けてかの様に、アルダーは同調する様な口調でこう続けるのだ。
「有栖川女史、だったな。
そもそもの発端は我々の不始末にある、そして警察への協力要請を出したのも俺自身だ。そして、キミは今は警察側の人間だろう?
…言わば、キミが堂々としてくれなければ俺の立場が無くなる。キミの為ではなく俺の為に、多少はふてぶてしくしてくれないと逆に困るのだ」
そう泰然自若に言われ…もう根が小市民かつ生真面目な木藤はもう何が正しいんだろうと言う思いで目の前が真っ白になるなか、バックドロップから立ち直った有栖川が埃を払うなり、今度は真面目な口調になりながらこう続けるのである。
「いたた…むう、ひどい目にあったが、それはそうと今回の件のキーは『天津氏の事件』だったな。
どうにも、今回の件に関しては多方面にキナ臭い事件ではあるのだがな、少なくともアルダー氏は事件の概要の一部を知っている事は事実だ。
…開口一番、『スタンド』と言う単語がアルダー氏から出てきた。そして、アルダー氏が知っているスタンド使いは木藤しか居ないと言う事も、だ。
あらゆる意味で
…堪忍してくれぇ!?ウチが何したんやァ!?
木藤は内心、こう絶叫しながらも…それを口に出すことは、ついぞ出来なかったと言う。
To be continued