今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
「単刀直入に言えば、だ…あのクズは『無敵のスタンド使い』だった」
アルダーは歩きながら、有栖川と木藤の二人に向けて開口一番こう切り出す。
そして、こう続ける。
「『イン・ザ・ネイヴィー』、平たく言えば自動操縦かつ常時展開してるスタンドと言う事になるのかな?
素肌に触れた青い部分に一切の『攻撃』を通さない、弾き返したり受け流すと言うよりは…『拒絶』が近いか。
兎に角も攻撃と言う攻撃あらゆる全てを通さない、火達磨にされても凍りづけにされてもコンクリートに固めようとも死にはしない、まあそういう能力だ」
と、ここまでのいきなりの脈絡のない語り口に木藤が困惑するなかで、有栖川が得心したような表情を見せながら手を叩く。
そのままに有栖川は、成る程、と前置きした上でこう返すのだ。
「つまり、
成る程、我々警察もわからない訳だな。
と、木藤にも分かりやすい様にあえて有栖川は大仰に驚きつつ…天津と言う男がなぜペンキを被っていたのかと言う謎を説目し直すと、木藤も
曰く、こう言う事にあたる。
「あー…ちょっと失礼かも知れませんのやけど、ウチもちょっと気になった事が…
そんな『無敵のスタンド』を手に持つ天津社長が、何で亡くなられたんかって部分がわからへんのですが…」
…と、要は天津がなぜ殺されたのか。
より厳密に言えば天津社長をどう『殺した』ら殺せるのか。
ごく当然の疑問であるが…木藤のこうした質問に対して、アルダーはこう切り返した。
case28『GY社のCEO』中編
…さて、アルダーに連れられ歩くこと約20分。
そこは、築35年ぐらいのそれなりな一軒家、と言う所か。
洋風な宅亭、二階建ての庭付きで特に大きな特徴などもない。
家賃の相場としたら、まあ借りるだけなら月15万ぐらい。買いきりなら頭金500万で月10万のローンで20年分割払い程度が相場だろうか。
まあ、それこそ郊外に行けば幾らでもあるサイズとクラスの家であろう。
「…確か、元の持ち主が子供が居ない老齢のご婦人、だったかな。
夫が亡くなられて三回忌を気に一軒家暮らしが広すぎて老人ホームに入居すると言う事で、若い頃に買った家を手放される…と。
土地込みで三千万の見積りだったが、一括払いで私が急遽買わせていただいたモノだ。
登記書にもGY社の弊社の社名ではなく私個人の名義で書かせていただいた、まあ、
と、ここまでアルダーが語りかけたところで、彼がその家にピンポンとチャイムを鳴らす。
すると、いらっしゃいと言うやる気無い女の声があがるなり、がちゃりと家のドアの扉が開かれた。
中から出てきたのは…何だろうか。
黒髪がボサボサの、シャワーにも入って無さそうなベタベタの髪に死んだようなクマを携えた三白眼。
体つきは貧相…と言うよりは『日に浴びてない』感じの痩せぎすな印象を如何にも与えている。
はだ艶自体は非常に綺麗だし猫背ぎみだがそれでも手足も長く背は高いところを察するに、適度に良いものを食べてはいるのだろうが… かえって、不健康な印象を見るものに与えてくる。
いわゆる『引きこもり』の女をイメージで描け、と漫画家やイラストレーターに描かせたらこう返されてきそうな、そういう女だろうか。
そんな引きこもり女は…最初はアルダーの顔を見て穏やかな表情を浮かべるが、パッと有栖川や木藤の方に顔を向けるなり…
「ちょ、ぱ、パパになんかお客さんが来るなんてアタシ聞いてないっての、ちょちょ…ファックファック言ってナイフ縛りFPS10時間耐久ネトゲ配信とかやってバズりそうな企画YouTubeに上げて小遣い稼ぎ中の面して会っちゃダメな人が来てるでしょ!!?
ちょ、ま、今のクソザコ死にかけ徹夜なリアルアタシ見られたら叩かれて炎上するからやめてェェエエ!!?」
と、そう絶叫すると、ピキャヤァアと言う人外の化け物でも見たかのような絶叫を浴びて邸宅内に引き返してしまった。
「あの娘…ウチが診た方がええんかな?アルダー会長、あの人はどちら様なんです?」
そんな女の姿をみて、カウンセラーが本職でもある木藤がこう漏らすのに、アルダーは頭を抱えながらこう告げる。
血縁上は姪の、今は義理の娘のヨーコです、と。
…と、まあ、そんな感じで有栖川と木藤はアルダーの義理の娘のヨーコと言う女性と知り合った訳ではあるが…
それからヨーコはあわせてバタンバタンと何かをひっくり返したりする音を立てたりしながら衣類をひっつかみながらシャワー室に直行する様を一行は横目で見つつ、とりあえずリビングに全員座ると、アルダーは最初はこう告げるのである。
「姪…いや、私の娘のヨーコはね、
そういう状態なんだ、あの娘は『家』と言う概念そのものにとらわれてしまっている」
そう伏し目がちになりながら紅茶を淹れるアルダーに対して、木藤は医師としてこう返す。
何かの感染症、あるいは心理的な恐怖症なのか、と。
そうではない、とアルダーが返すと、有栖川が今度は厳しい口調でこう問い詰める。
何らかの監禁や軟禁の措置なのか、と。
「…其方は、まあある意味ではイエスだ、ノーと言いたいがね。
そういうスタンド能力なのだ、
そう一旦置くと、アルダーは意を決するかのように大きな息を吐きながら、更にこう続ける。
「ビジョンの無いスタンド…と言うのかな、或いは物凄く薄かったり小さい透明な『膜』でも表皮に常に展開しているスタンドなのかも知れないが、兎に角も自動操縦の暴走型スタンドだ。
便宜上、俺達親子はヨーコのこの能力を『カントリー・ロード』と呼んでいる…正しい言い方は、他に有るのかはわからないがね。
それはそうと、『カントリー・ロード』の要訣を平たく言えば
条件は…まあ、私かヨーコの登記で購入した家と家でしかワープできない、他人の家には跳んでいったりはしないのだがな。
それでも最近は場所のコントロール自体は出来るようになってきたが、少なくともスタンド自体はヨーコは一生付き合っていく可能性すら有り得る、まあそういう能力だ」
そう、一区切りをつけるアルダーに対して、有栖川は不躾な事を言ったと謝罪する。
それに対して、有栖川の言動こそもっともだと返すアルダーに、木藤は横から口を挟む。
そんな極端な能力…なんとかならないのか、と。精神科医として、ちょっと黙っていられないから、と。
そういう木藤に対して、アルダーは悲しい口調になりながらこう返す。
ならなかった、と。
そしてこう続けるのだ。
「もともとは姉の娘なのだが…体が弱い人で、なぁ…
ヨーコを産んですぐ体調を崩して、入院して敗血症で5年後にポックリと、な。
義理の兄もタイミングが悪かった、妻や娘を支えようと、働いて働いて…嫁、俺から見たら姉貴が死んだら支えがなくなったせいか過労による心筋梗塞でバタンと、な。
俺がヨーコを引き取ったのもその時期で、そして
…幼心に、『家の外は怖い、家の外に出たら自分の家族はみんな死んでしまう』と言う恐怖心が暴走したのかも知れないが、兎に角、今でも家から脱出不可能な自律制御不可能なワープ能力が発現してしまっている」
そう一拍起きながら、アルダーは更にこう語り出す。
「ヨーコが子供の頃はもうそれは酷かったものだ。
俺が自慢するようで恥ずかしながらではあるが、日本やアメリカのみならずモナコにフランスにトルコに、変り種だとセントクリストファー・ネイビスだったか、じいさんや親父から引き継いだ『別荘』が幾つかある。
或いは俺個人名義で持つ事務所がわりの邸宅をそれこそアジアもアフリカもヨーロッパも問わずいくつも保有している。
目を離したら、気付いたら地球の裏側まで飛んでいく恐怖…カリブ海の海の別荘に居たと報告が上がった思った次の瞬間南アフリカの最南端に飛んでいき、そして一時間後には一瞬でイタリアにワープして次はタイのバンコクにすっ飛んで丸一日近く世界中を行ったり来たりしてアメリカについて私が駆け付けた時には一歩間違えたら手遅れ寸前ぐらいに衰弱しきっていた…
実際にヨーコを引き取った6日ぐらい後に起こした事件だ、小規模な世界旅行と言う名前の神隠し事件ならもっと挙げられるさ。俺の能力がなかったらきっともっと酷くなっていた事だろう。
18歳の頃にようやく、スタンドでワープする場所を任意で選べるようになってきたが、それでも油断するとどこに跳ぶかわからないから一年の大半以上はほぼ引きこもりだよ。
…スタンドに向き合って、制御が出来なかったりスタンドのせいで日常生活や社会生活から弾き出されてしまっている人間こそヨーコに限らないで何れだけ居るか…」
そう、アルダーが言う台詞に対して、人がいい木藤も有栖川も何も言えなくなるなか…うふふ、と玉を転がすような甘い声が響く。
何事かと、全員が声の主に向かって顔を向けると、そこには…何と言う事だろうか。
艶ややかかつ長い黒髪はストレートに整えられており、色白な肌も相まってまるで人形のようである。
メイクも完璧に仕上がっておりチークや口紅の差し色も鮮やか、二重のぱっちりした自前の瞼に長く煌めく付けまつげがバッチリ決まっている。
上品なドレスを違和感なく完璧に身に纏い、長いヒラヒラしたスカートが、モデルのようなピシッとした高身長と長い手足が相まって…まるで、高品質なアンティーク・ドールの様だ。
人形の様に美しいその声の主はこう微笑み返した。
「うふふ…
父上が何か失礼な事を致していたらごめんなさいませ。それと粗相がありましたら遠慮なくわたくしに申し付けください。
では、ごきげんようお二方」
と、笑顔の仮面でにべもなく告げるヨーコに対して…
アルダーと木藤は内心こう突っ込みを入れる。
((玄関先での事、完全になかった事にしてるゥゥゥ!!?))
…と、まあ、要は外面用のヨーコ渾身の変わり身ではあるが、根が常識人な木藤や義理の娘との距離感を微妙に壊したくないアルダーは突っ込みを入れるにしろ声は出せないのだが…
「…ああ、確かに玄関で見た時とは見違えるように生気があるな。
それがキミの言う『クソザコ』ではない姿か、やはり猫背は体に良くないから今のようにピシッとしてる方がいい…と、ああ済まない、君と歳が近い少女と接していて私は説教臭くていけないな。
兎に角、私は有栖川虹だ、こちらこそ初めまして」
…有栖川は残念ながら、空気は読めない。
そして、全力でなかった事に出来なかったヨーコは有栖川の目の前でバタンと倒れ精神的に若干再起不能になりながら、どうせニートの引きこもりで外面しか取り柄が無いですよなどといじけるのをアルダーや木藤が宥める、なんて一幕で話はいったん切るものの。
兎に角、アルダーが言う『スタンドのせいで日常生活から弾き出されてしまっている人間』。
それが話に深く関わっている事は、次回詳しく話すとしよう…
To be continued
『カントリー・ロード』
破壊力:無し
スピード:無し
射程距離:A
持続力:A
精密動作性:D
成長性:C
物凄くシンプルに言うと、『自宅と自宅を繋ぐスタンド』。
ビジョンが無い、またはビジョンが透明なため限りなく見えないと言う類いのスタンドであり、ヨーコが常に展開している暴走型の自動操縦のスタンド。
自宅と自宅と言う範囲は…それこそ普通の人ならば全く意味がわからないような繋ぎかたなのだが、世界一クラスの金持ちであり養父が別荘や事務所を世界中に構えているから大変な範囲に広がっている為、世界中を無意識に飛び回ってしまうテレポートによる事故を何度も何度も引き起こしてしまっている。
また、一度、アルダーが別荘や一部の事務所をすべて会社名義にして『自宅』を一軒にしたところ、自宅から自宅と言う範囲に合わせるかのようにヨーコが玄関のドアに触れた瞬間に数メートルぐらい弾き返されてしまったり窓の外へも一歩も出られなくなったりとそれはそれで日常生活に支障が出てしまったので、コントロールがつくまでは大変だったとのこと。
また、これはアルダーの予想ではあるが…自宅の存在=このスタンドそのものであり、スタンドと本体が密接に関わっている特異な自動操縦なので、もし仮に自宅をすべて手放してしまったり物理的に火災や地震で自宅がすべてなくなってしまったその瞬間に、ヨーコ自身がスタンドとのパラドックスの関係上死んでしまう可能性が高いため幼い頃はもう酷く使い勝手の悪いワープ能力でもあった。
しかし、ある程度のコントロールが効くようになってきた現在では、逆にいくらでもテロや暗殺に利用されかねないと言う自覚を持ったヨーコがネトゲざんまいの引きこもりライフを楽しむために悪用されている、ある種の言い訳みたいになってきた節もある。
使い方次第ではやはり異様に強力かつ、逃走に限って言えばいつでもそれこそ地球の裏側まで一瞬で逃げられる凄まじい能力ではある、あるのだが…
元ネタはジョン・デンバー他数多のアーティストが歌った楽曲『カントリー・ロード』