今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~   作:たんぺい

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33話『カーペンターズ』その②

『空気が読めない』

J・ガンドと言う男が世界で最も嫌う言葉である。

 

幼い頃から、施設の職員や学校の教師や同級生や先輩後輩から蔑まれるように言われ続けていた。

その言葉を聞くたびに、彼は怒りに震えて夜も眠れなかっただろう。

…いわゆる言語障害と言うものであろうか。

いわゆる吃音症が近いのかも知れないが、先天的に彼は言語のコミュニケーションを取ることが極端に不得手であった。

 

他人の言葉を聞き取ることは得意だし手紙やメールなどでは幾らでも文章を書けるのに、しゃべるとなると言葉が上手く口に出てこないのだ。

台詞を吐くたびに何度も詰まるような喋り方と言うのも、それはふざけてる訳でも知能に殊更障害が有るわけでもないのだが…どうしても会話だと『一手』遅れてしまう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事から、ある種、孤児と言う生まれも重なり彼を蔑むものは千を下らない数だったろう。

…彼のスタンドは一般人にも『見える』タイプのスタンドであるからこそ、異形としての悲哀すらその身に背負っていたからなおのことかも知れないが。

 

むしろ知性の面での話をしたらIQで言えば125~135程度は叩き出せる天才、手先も器用で人格面でも決して邪悪ではなく義理堅く真面目と、会話能力とスタンド能力以外で言えばむしろ誰からも取っ付きやすそうな好漢であると言うのに…だ。

彼はそのせいで幼い頃から青年期の時分まで荒れていた、白人社会における有色人種がどうの以前の問題で『会話が苦手』と言う特性が、ただそれだけがどれだけ日常生活や就学・就労で彼を苦しめていたか。

リーに出会うまで、その苦しみをわかってくれる他人に出会えなかったからなおのことであろう。

 

そう、彼はただ『他人』と会話で関わる能力が極端に不得手なだけでむしろ空気は読める。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

Case33『カーペンターズ』②

 

 

 

――さて、Jの過去は兎も角もだ。

いきなり轟く爆発音のようなものがエルの庭に響き渡る、と言うシーンから話を再開しよう。

 

その音の正体はと言うと…それは爆弾やそれに類するガス兵器のたぐいではない。

『生物兵器』、そう例えるとしっくりくるか。

それは…

 

「いたた。ち、『着地失敗』…かな、思ったよりスピード出してきたし()()()()()()()()()()()()から奇襲も失敗したな」

 

そう言ってその場でのっそり立ち上がる警官の制服に身を包んだ少女、優姫である。

 

 

それに驚いたのは、兎に角もエルであった。

彼女は思わず優姫に尋ねる、いきなり全体何があったのかをだ。

しかし優姫は『それ』には答えない。何があったのか、それに言葉で答える必要性がなかったからだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

…ただそれだけが『答え』に通じるのである。

 

 

「オルァッ!!いてまえやッ!!」

 

そんな優姫の視線を合図にしてか、いきなり視線を向けた先の塀の方から関西弁の甲高い声が響くなり、高速で無数の礫がJやリーに向かって飛んできた。

そう、その声の正体は木藤その人だ。

 

…『タネ』はただただ単純明快だ。

木の破片やガラス片や石ころ、そう言ったその辺で何処にでもある手近に拾える固いものを『投げる』。

原始時代から続く人類の攻撃方法、ようは飛び道具による牽制をかねた攻撃である。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事を念頭に入れて考えるべきだろう。

 

『ファイナル・カウントダウン』、木藤が操るスタンドの万力をへしゃげさせるようなパワーやフォーミュラーカーも真っ青な腕を振るスピード、何よりもスイス製の高級腕時計のように精密な機械より精密な動作性能。

いずれも『狙ったマトに投げる』と言う能力だけで言うならば、それに対してのスタンドの適正は最高に近い。

基本的に遠距離戦が苦手な木藤が対抗する手段として愛用する戦法のひとつだ。

 

そしてその投擲能力は、何だったら『人間』すらに対してでも応用する事すらできる。

優姫をエルの庭に向かって『投げ入れた』のも、木藤の『ファイナル・カウントダウン』の能力…と言うよりは腕力の賜物であろう。

 

 

…とはいえ、そもそも『近接パワー型』による投擲攻撃など、そもそも基礎の基礎だ。

 

ある程度の精密性のあるパワー型が凶器や固いものを投げたり弾いたりして攻撃するなど、それこそ誰でも思い付く。

かつての、ホットスタッフによる騒ぎにおいて当時目覚めたてだった素人崩れな粕谷ですら思い付くような原始時代の戦いの手段なぞ、百戦錬磨のJやリーが対処が出来ない訳ではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()J()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()以上、その様な攻撃は通用する筈もないのだから。

 

『カーペンターズ』、厳めしく機械的なまるでロボットの様なその姿をいつの間にか身に纏い…

否、J本人の皮膚を媒介にしたそのスタンド能力により一般人にも視認できる様に『変身』した彼の直前で、彼が手をかざすなり木藤が投げ入れていく高速の礫の雨あられは弾かれていく。

その木藤の攻撃『自体』は、ただ無意味な攻撃でしかない。

 

()()()()()()()()()()()()()()

スタンドで幾らでも防衛ができる程度の攻撃と言う事は、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言い換える事すらできるのだから。

 

 

それを以て、優姫は現状起きている事を推理する。

 

(恐らく、あのJと言う男の…彼のスタンド能力は『バリア』、それは多分間違いない)

 

そう言って、内心で一拍置いたなり、さらに能力の概要を整理していく。

 

(バリアと言うよりは『見えない壁』の生成とか、そんな類いとして…能力はそこまで精密ではない、或いは能力的に融通が利かない類いの生成能力かな。

恐らく()()()()()事が指向性を決めるトリガーか、仮にバリアの向く方向を決める事が自由自在だったり円周状や箱状みたいに四方八方を包めるバリアならば、わざわざ『攻撃する方向に向かってバリア発動のトリガーになる』様に分かりやすく手をかざす必要性は無い…か)

 

と、少しでも優姫がその能力を整理していくと、また別な考えが彼女の頭を過っていく。

 

(いや、或いは能力の持続力がほとんど無くて数秒もそのバリアは『持たない』のか?

その線も多いにあり得る、バリアの持続力が何時間どころか数分単位でもある程度長いならトラップとして大量に『見えない壁』を仕掛けたり、そのままバリアとバリアを重ねて相手を押し潰したりして攻撃できそうな…

或いはバリアの生成は一度に一回、まあその可能性もあるかしら。

あのバリアにぶつかった時にスタンドで上手く防御できたけど、よく考えてみたら『スリラーがそのバリアに触って』も平気だったって事は、その能力は無生物によるガラスやアクリルの壁の生成なり召喚じゃなくてスタンドエネルギー由来だからバリアを張ってる間は生命エネルギーを大量に消費するとかその可能性もある、か。

…兎に角、()()()()()()、か)

 

そう内心でごちるなり、優姫は警察らしくホルスターに装備していた拳銃をJとリーと立花の三人に向け…そして()()()()()()()J()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿を見て己の推理した方向が間違っていないと悟る。

 

そう、Jの能力は優姫の推察した通りだ。

『カーペンターズ』、その能力は『窒素を硬質な壁に変化させる能力』である。

自分のスタンドエネルギーを媒介に、窒素を一時的に固める…簡単に言えばそう言った能力になる。

直方体の形状に…容量で言えば、1立方メートルの範囲の空気を手をかざす方向に好きな形に固める、まあそう言った能力になる。

薄く張れば広い範囲を守れるバリアになる、細く固めたらつっかえ棒の様に『押し出す』事で緊急回避のように使ったり敵を攻撃する能力にも応用できる

 

前説で書いたように、Jは『空気を読める男』だ。

それは文字通りの意味で、自分の能力の発動中は窒素の動きを文字通り読み、支配する…正しく空気を操るスタンドなのだから。

…とはいっても、火々里が見極めた様に、持続力が皆無と言う上に固められる窒素は一方向に一度だけで別な方向に能力を発動すると能力が解けると言う推察も間違っては居ないのだが。

 

 

兎に角も、カーペンターズの能力を見極めた事を確信した優姫は、エルに向かってこう叫ぶ、あの三人と戦うぞと。

そのエルの言葉に対して、エルは優姫から視線を外し拒否の姿勢を見せるが…何を思ったか、優姫は彼女に向かっていつかと逆な立場になったかのように平手打ちをかますと、さらに声を荒げ続ける。

 

「『貴女が、立花しずくに何をした』か…私は知っている。

ええ、そうよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()…!

貴女のやった事が、今、あの子が復讐に燃えていることも、貴女が立花しずくに対して負い目と責任に潰されそうになったと言う事実につながっている事も知っているッ!」

 

そう優姫が吠える言葉に対して、エルは力無くこう返す。

 

「…そう、火々里さんは知っているのねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かしらぁ。

私は、責任を…」

「『責任』を感じてるならッ!!死んで『逃げる』なッ!!」

 

そう、エルの言葉を優姫は一蹴する。

そして、こう続ける。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…だからこそ、何の説明もせず立花しずくからッ!!自分の過去からッ!!逃げるなッ!!!

だから、守屋さんも木藤さんもッ!あんたを助けようとしてるんだッ!!

大体、死にたい奴なんて地球上の何処にも本当は居ないハズ…死にたいぐらい苦しいのも、責任を感じてるのもわかるわよッ!!だけど、そんなの本当は一番『無責任』だって事、自分でわかってるでしょうがッ!!!」

 

そんな優姫の慟哭に同調するかの様に、エルの近くでたっていた守屋もこう切り出す。

 

「…私は、火々里巡査さんみたいに貴女がどうしたこうしたって話は聞いてないけど、今の貴女が『無責任』だって意見は同意するわよ。

…そして、今の態度こそ立花ちゃんだけでなくて、私達、何よりも増田さん自身を増田さんが侮辱してる。

…今の貴女は一人じゃない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事、自覚なさいな」

 

 

そう守屋に静かに言われ、火々里に熱く言われ…エルはぶん殴られた様な衝撃を心に受ける。

 

他人がみたら、確かに『茶番劇』にも映るだろう。

少なくとも、リーと立花からしたらそんな感覚なのか、黙って見ていた様だがその表情は怒りのボルテージが上がり続けるだけでしかない。

…これはリーとJ以外、立花ですら『知らぬ事』なのだが()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()と言う事実が拍車をかけている。

 

『ゴー・ウェスト』はタイマンじゃないと機能しない…言い換えたら、他人がぞろぞろ出てきた瞬間に何の役に立つかわからないどうしようもない能力にしかならなくなる。

立花の鉄球も、それこそ投げるだけしか芸がないただの投擲兵器でしかないのに対してスタンド使いを複数人を相手出来るほどの圧力は無い。

要は、リーと立花はJが木藤の牽制攻撃で動けない間、このやり取りに水を指すことすら出来ないのだからなおのことではあるだろうか。

基本的にリーは立花の味方であり、立花はエルに対して復讐心を滾らせているのだからかも知れないが。

 

 

しかし、当のエルからしたら…ストンと、胸のうちに入る言葉だった。

 

確かに、今の自分の態度は…まるで悲劇のヒロイン気取りの無責任な諸行と言われたら、返す言葉が無い。

その通りだからだ。

『償い』はしなければならない…少なくとも、死を以てでも立花へと謝罪をしたいと言う意思は変えようはないとはいえ、なんの説明も無く討たれて死ぬと言うのもそれはそれで筋違いだ。

 

納得は全てに優先するのならば、なおのこと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それはそれで立花と言う少女が前に進めない。

『復讐』は次の『復讐』を生む…その輪廻を断ち切る事は出来ないにしろ、ならばこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言ったある種の矛盾する様な責任感に突き動かされ、エルはうおおおっと、まるで獣の様な怒号をその細身の身体の何処から出ているのかと言わんばかりに空気をビリビリに奮わせながらスックと立ちあがりファイテングポーズを見せてリー達三人組に立ち向かう。

 

そのエルの姿を見て、Jもまた、木藤の攻撃がそろそろ止んだ頃合いと言うこともあってか、悩みながらも、内心で一縷の望みを無責任にも託す様な感情を…火々里や守屋の台詞を聞きながら抱いていたと言う。

 

 

自分達はやはり間違っていて…自分ではしずくちゃんを救えない。相棒ですらしずくちゃんを救えないし、相棒は相棒でトラウマから頑固にあの子を肯定してあの子を味方する事しか頭にない。

 

だから、『敵』だとしても増田エルにこそしずくちゃんと相棒のリーを救ってあげて欲しい、『敵』としてあり続けるしかない自分が願う資格が無いとしても、と…

 

 

To be continued




『カーペンターズ』


破壊力:B
スピード:C(能力の生成スピードはA)
精密動作性:C
持続力:E
成長性:B
射程距離:C


手のひらを始点にして『窒素を固められる』能力。
地球上にもっともありふれた空気に含まれる元素を、バリアのように固めて直方体の形に固定する事が出きる。
その硬度は鉄筋コンクリート並であり生成スピードはコンマ一秒よりも早く、その生成位置を調整する事によりバリアのように壁としてただ出すだけでなく、自分を吹き飛ばすように生成して高速移動を可能にしたり、敵に向けて突き飛ばして押し潰したりする事も出きる応用力が高いバリア生成の能力である。
ただしその能力は一回に発動して固定できる場所は一ヶ所であり、また固める窒素の『中』には何物も入れる事は出来ない能力でもある。
つまり同時に複数の壁を生成して四方八方を無制限に守り攻撃する事や、自分を包むように直方体状のバリアを生成してバリアの内側に入って無敵になるかのような防御を行う事は出来ない。
また、バリアの維持そのものに多大なスタンドエネルギーを欲求されるため長時間の生成はできず、バリアの維持時間そのものはせいぜい3秒も満たない。
また、スタンドヴィジョンは皮膚と同化しており、本気でスタンド能力を解放したら一般人にも視認できる能力でもある。

名前の元ネタはリチャード&カレンの兄妹で70年代を風靡した『カーペンターズ』から
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