今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~   作:たんぺい

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35話『ブードゥ・キングダム』

…やられた。

Jはその『ステルス・オブ・デイズ』の刃を受けた時に、単純にそれだけの感想が脳内を巡る。

 

急所だけは避けた、それだけは出来たが致命傷に至らずとも一気に身体から力が抜けていく感覚が襲う。

血が抜ける冷たい感覚、痛みすらわからない程の傷。

そして…流れる走馬灯。

立花しずくと言う少女に出会った頃を思い出さざるをえなかった…

 

 

--それは、二人が立花と出会ったのはおよそ2年ほど前に遡る。

その時は、相棒ことリーの方が致命傷を受けていた。

 

スタンド名は『キャント・テイク・マイ・アイズ・オブ・ユー』…「君の瞳だけしか映らない」、なんてロマンチックな名前には相応しくない能力。

その概要は恐ろしくシンプルだ、『本体が性的魅力を感じた異性の目の前にどこからともなくミサイルを召喚して爆発させる』と言うあまりにも身勝手極まる最低なスタンド。

その能力を生かし、そのスタンド使いは街中で何度もテロ行為を行っていた…それも、ただの自己顕示欲からだ。

 

そのスタンド能力により、被害者の数は死者だけですら54人。

怪我人は骨折などで入院した人間のみに絞っても368人、軽傷者を含めたら1000人以上はくだらない。

個人が行った殺人事件としては最大級クラスのテロといって差し支えないだろう。

 

そのスタンド使いに勝てたのは、ただただ単純に『相性』がJとリーに良かっただけ。

窒素が可燃性の物質ではなくミサイルの爆発自体が通じず、そしてリーのスタンドの射程から逃れられる『本体』ではなかっただけだ。

そのスタンド使いは高齢で足腰が立たずリーの射程に入ったが最後『逃げ足』がなかった事が決め手だった。

 

…そう、スタンド自体は完全に完封した。()()()()使()()()()()()()()()()のだ。

だからこそ、その時は油断してしまったのだろう。

『ミサイルの爆発』、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

地上で戦った事がかえってその事の警戒を忘れてしまったのだ、しかもリーもJも地震の様なものにはあまり慣れてなかった事が災いしてしまい対応も遅れた事も一因だろうが…

兎に角も、彼等はスタンド使いの始末そのものとは無関係に起きた地盤と安普請のビルそのものに受けたダメージによる周囲の崩落事故に巻き込まれてしまい、スタンドの防御が咄嗟に間に合わずリーは瓦礫に呑まれてしまった。

何とかたまたま立ち位置の偶然により無事だったJがその瓦礫に呑まれた様を見て血相を変えリーを救出した時に彼ははどれだけ青ざめたかはわからない。

腹に鉄筋だか瓦礫だかがリーに突き刺さり、即死こそしなかったもののどれだけのダメージであるかは想像にかたくない。

内臓か筋肉かは兎も角も、一刻も早く助けないと間に合わない…丁度、その時だ。

 

「『ブードゥ・キングダム』!!」

 

新手のスタンド使いが相棒が一刻も争う時に、と…Jは反射的に身構えるなか、その声の主は言う。

私が、そのオッサンを助ける!と…

 

 

 

Case35 『ブードゥ・キングダム』

 

 

 

 

「な…J!?」

 

…さて、そんな走馬灯はひとまずも、Jがやられたと悟ったリーが思わず反射的に声を上げる。

『カーペンターズ』の不可視の堅い防御を貫通してなますにされかけてるのだから、それも当然であるが。

 

しかし、『ゴー!ウェスト!』はそんな状況下ではあまり役に立たない。

重ねて言うが、彼のスタンドは決まれば文字通りの必殺にして神でも悪魔でも抗えない最恐の能力…ではあるが、しかしあまりにも扱いと発動タイミングがややこしい上にスタンド能力自体の射程やパワーとスピードがそんなにスペックが高くない為に汎用性はほぼ皆無だ。

『奇襲』か『待ち』のどちらかではないと本当にクソの役にも立たない両極端な特性のスタンドでは、助けにいこうにも行けない。

 

スタンド使いと言うものは、特にベテランのそれになれば成る程に己の『弱み』と言うものは否応なしに理解せざるを得ない。

で、あるからこそ助けに行きたくても助けにいけない。

…或いは、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()人間なのであろうか。

 

「Jさんから離れろ!」

 

甲高い、悲鳴にも似た金切り声を上げながら『鉄球』片手に立花は突進する。

『鉄球』の射程はあまりにも短い、故にリーの庇護から離れてでも自らの足で接近し…

愛する家族代わりの男を守らんと、ただそれだけの意思を持って。

…だが、それが叶う事はなかった。

 

 

「…うちから目を切った時点で、素人さんが勝てるわけ無いやろ。

ましてや数は力や。『ファイナル・カウントダウン』!あの小さい子の手ぇと足を黙らせとけや」

 

『非スタンド使い』ではまず絶対に勝てないとすら言えるスタンド使い、木藤叡花。

いけとし生きる全てのものの電気信号を制圧する事により支配する最後通牒の能力。

いつの間にか塀から地上に降りた彼女は、エルの身を守らんとこっそり近づいていたらしい。

 

「相変わらず、反則的な能力ねぇ…木藤さん」

 

エルもそんな彼女を見て思わず声をかけ、木藤も反射的に振り向き…そして彼女はいきなり嘔吐した。

いきなり何事かとエルや彼女にくっついてきた守屋があわてて近付くのを木藤は平手で静止して、こう続ける。

曰く、血がいっぱい流れてて気分が悪い…と。

 

「…本当に、血が苦手なのね」

 

守屋もそんな木藤の苦しそうな表情を見て思わずそんな声を上げてしまうが…

兎に角も、どうも斬りつけられたJの流血を見ての、反射と言うかトラウマからの胃が逆流した結果だったらしい。

元々、木藤は優しく抱え込みやすくてストレスに極端に弱いのに、ましてや血に多大なトラウマがある人間が護衛に向かうとしたらよくよく考えてみたらこうもなるだろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな人間まで自分の過去のやらかしや弱さのせいで巻き込んで…と、エルは余計に自己嫌悪に苛まれるものの、兎に角も鉄火場で心配するには少し早い。

 

 

「ま、まだ、まだだ…!!」

 

Jは、多大な流血で気絶しかけていたが…そこから覚醒して気力だけで立ち上がる。

スタンドとは、様は気合いと覚悟だ。

頭脳戦がどうこうも大事だが、それでもスタンドとは『精神』なのだから最後は根性論じみた部分こそ大切になるのだ。

刺し違えてでも…仮にスタンドをこれ以上使っては気絶し致命傷になろうとも、『それでも』と動かすだけのエネルギーこそがスタンド戦には重要だ。

 

ましてやJのスタンド『カーペンターズ』と言う能力におけるバリア生成のスピードは拳銃より速くコンピューターの計算より正確だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う『保険』も知っている…後は手をかざすだけ。

Jはそう確信し、兎に角も立花を動けなくした木藤に狙いを定めようと最後の力を振り絞り…

 

「ダメだ、あんたには再起不能になってもらう!」

 

その手は、その能力が届く前に優姫の短い叫びと共に放たれたスタンド『スリラー』によるチョップが後頭部に直撃し、Jは今度こそ完全に気絶してしまった。

 

 

その様を見て…手足を動かす声が出来なくなった立花は、悔しさと焦りから蒼白になりつつも涙目で焦りながらこう絶叫する。

Jさんが、Jさんが死んじゃう…と。

それを受けて、逆に質問するかの様にエルは立花に向かいこう話しかけるのだ。

 

()()()()()()()()()()J()()()()()()()()()()()()のよねぇ」

 

そう、機械的と言うかあえて抑揚もなく語り出すなり、エルはこう続けるのだ。

 

「ずっと…疑問だったわぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってねぇ。

彼等が本当に貴女が大切で溺愛してるだけなら貴女はどこかのセーフハウスなり施設になり預けるはずよねぇ、かといって彼等の貴女に対する愛や優しさには嘘はない…ならば何か有るわぁ。

たかだか、スタンドにも劣るような鉄の塊投げるだけの子を前線に出すなんてとてもとても、()()()()()()()()()()()なんて真似をさせるって美味しいところを譲ろうとしたんならぁ、例えば縛り上げるなり手足を折り砕くなり薬でも嗅がすなりしてから貴女の前に私を突き出させる方がよほど効率的よねぇ」

 

そういって一区切りつけるなり、最後にこう突きつける。

 

「で、そんな真似をせず前線に出させるだけの納得させる理由が有るならばただひとつしかないわぁ。

貴女、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のね」

 

そう宣告された立花は、まるでイタズラがばれた生徒の様に顔を背ける。

それに追随して、いつの間にか嘔吐から立ち直った木藤は…それでも、どこか調子が悪そうな声をしたままに語り出す。

 

「成る程なぁ、なんや黒人の兄ちゃんと細いおっちゃんが『次がある』みたいな脳波ってか電磁波出しとった理由はそれか。

うちに向けての殺気以上にそんな思考しとったんが気になっとったんやけども、確かに回復役さえ確保したんやったらどうとでも戦況を立ち直らせる事も出来る訳や。この子の鉄球もそれなりに射程が有るわけやから戦術の幅もつく訳やしな」

 

そう木藤が説明なり、最後に優姫が代わってこう立花へと告げるのだ。

 

「だけど、もうそれも終わりだ立花ちゃん。

私にはキミの気持ちが…わからないではないわ、でも、これ以上無駄に抵抗するなら此方も貴女を完全に再起不能にする必要性が出てくる。

…私達も、これ以上に貴女たちを傷付ける事もしたくない。

だから、貴女たちはもう『負け』って事を受け入れて?」

 

そう言いながら、立花を優しく抱き起こそうとする優姫に対し、とうの立花は結果が受け入れられずううううと悔しそうな声を情けなく小さく上げながら顔を背ける…と、そんな中。

 

「俺達はァ…まだ、負けた訳じゃない!!」

 

 

そんな今までの飄々としたキャラとは似ても似つかない絶叫を上げたリーの声が響き、()()()()()()()()()()J()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼は何故かエルの屋敷に侵入してバタンとドアを閉じる。

それを見て、リーのスタンド能力を熟知している立花以外があのオッサン何してるんだ!?と言う感想を全員が抱くなか…そんな空気を破るかの様に、守屋は静かに告げる。

 

「…リーだっけ、あのおじさんが何してるのかはわかんないけど、兎に角も今はJって人の安否が先よ。

…助けたいんでしょ、貴女なら助けられるんでしょう?

…私たちだって、このままこの人をほっとくのは本意じゃない、だから…木藤さん」

 

そう言って、話の途中で守屋は木藤に目配せするなり、そんな意を酌んだ木藤も立花にかけた『ファイナル・カウントダウン』の戒めを解く。

そして、それを見届けたなり守屋はこう続けるのだ。

 

「…まずは、貴女のしたいことを、するべき事をしてほしいの。

…その意味できっと、増田さんですら貴女の味方だから、この場にいるみんな」

 

 

そう言われた立花は…言葉ではきっと言い表せない表情をしていたのだろう。

敗北感と、虚無感と、安心感と、使命感の全てが混ざった不思議な泣き顔をしていたが…それをひっくるめて現せる言葉など、日本語にはまだ無いのかも知れないのだから。

 

ただ、わかること。

それは『ブードゥ・キングダム』と細い声で呟くなり取り出したのは、一本の針と薄汚い組糸である声である…

 

 

 

To be continued




『キャント・テイク・マイ・アイズ・オブ・ユー』


パワー:無し(ミサイルの破壊力はA)
スピード:無し(ミサイルのスピードはB)
射程距離:A
持続力:E
精密動作性:D
成長性:C


気に入った異性の目の前にミサイルを呼び出して爆発させるスタンド。
『視界』にさえ本体が対象をおさえてしまえば肉眼で直接的に見る必要性すらなく、例えばテレビやネット中継を介した相手だろうと射程内ならばその人間をミサイルを呼び出してターゲットにする事ができる。
瞳と同化した物質結合型のスタンドであり、スタンド発動時にはその瞳は爬虫類の様に金色になり光彩も特殊なものになる。
スタンドそのものは瞳と同化しただけのものなのでパワーや破壊力は無いが、産み出されるミサイルは軍事的なロケットランチャー以上の破壊力やスピードを誇りその威力は折り紙つきである。
また、射程距離はアメリカ全土…と言う訳でもないが、スタンド自体はパワーと精密性とスピードがないぶんだけ驚異的であり本体を中心にざっと州4~5個ぶんはいれることが可能と言う恐ろしさを持つ。
本体は80過ぎの老人ホームに入居していた老人の女性であり、脅迫状を送り付けてはテレビに映った役者やキャスター等をミサイルに変えてしまうテロを老後の楽しみとしていた。
GY社が運営している老人ホームでその様な最低最悪の非道を行っていなければ、もっと発見が遅れアメリカと言う国家そのものですら揺るがす大事件に成り果てていてもおかしくはなかった。
ちなみに、『恋心とは爆発的なもの』と言う乙女心がそのまま歪んで発露したスタンドでもある。

名前の元ネタはボーイズタウンギャングの『キミの瞳に恋してる』より
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