今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
…さて、このややこしい復讐にまつわる話の根幹に纏わる話を中途に挟まなければならないだろう。
立花しずく、生粋の日本人である彼女がなぜアメリカに居たのか。
そして彼女の言う『復讐』とはなんなのか。
何よりも増田エルとの関わりとは。
そのきっかけ程度は、そろそろ語らねばならぬかも知れないだろう。
立花製鉄所。
立花しずくという少女が、かつて育ったそこは小さな製鉄所だ。
小規模な金属加工の町工場であり、しかしその歴史は1898年…つまりは明治の半ばから続く老舗の工房である。
かつて語った様に、そもそもはネアポリスなる小国の工房を任されていたさる技術者が新天地を求めに日本に流れたのが始まりだ。
当時は文明開化という名前の途上国からの急成長の時期にあり、鉄道等の新技術や対外諸国への資金源になる紡績工場の発展や炭鉱所の開拓が盛んに持て囃された時代でもある。
それ等を製作するには何が何でも新技術や最新機器の導入が必要であり…
そういった時勢の波を見分けたその男が、己がネアポリス王国で代々継いだ異様な精度の金属加工の技術を引っさげ国籍すら帰化してまで一旗上げようと来日したのがその年なのだそうだ。
…だが、まあ、何というか所詮は『技術屋』であり『ビジネスマン』には成り得ないという部分はついて回った訳で。
高品質・高精度の部品を
そもそもの初代が立ち上げた経緯からして仕方無いのだが、あまりに社風が職人気質過ぎて造り上げるものそれそのものの品質はずば抜けてる代わりに、同規模の同業他社に比べたらやたらと生産量が少ない事も一因だったらしい。
それが長い目で見るとかえってよかったのかも知れない。
変な拡大路線には乗らないゆえに堅実かつ細々と続く家族経営よりちょっと大きい程度な町工場の延長、そして生産量は心もとなくとも異様に出来が良い金属製品というものは精密機器を欲求する医療やカースポーツ等の世界では重宝される故に需要は欠かすことは無いから少数の社員を養い家族が普通に食っていくレベルの儲けはあったのだ。
『陸で溺れる』。
いきなり話が飛ぶのが申し訳無いのだが、立花しずくが4歳の頃に突如としてかかった奇病は端的に言うとそういうものだ。
平たく言うと遺伝子疾患の横隔膜と肺の異常により突如としてそれらが機能不全に陥る難病であり、いわゆる腹式呼吸において…口や鼻から吸った息を『吐けない』。
つまりは
呼吸器をつけて寝たきり状態で無理やり延命する事は出来ても、せいぜいそんな対処療法では患者に負担がかかり過ぎて保って5年が限度。
そういう難病にかかってしまい、それを完全に治癒する手段は唯一しか存在していなかったという。
それは健康なドナーの横隔膜と肺を移植手術する事。
そしてそのドナー自体は奇跡的にだが立花が8歳の時に…本当に奇跡的に見付かった。
タイムリミットぎりぎりで助かる手段を見つけたその両親の喜びは想像に難くない。
10歳の誕生日を迎えられないと告知された愛娘が助かると、そう言われて喜ばぬ親がどこにいるだろう。
…だが
単刀直入に言おう。
8900万。
立花しずくの命に付けられた値段はそれだった。
完全に保険対象外な難病の手術。
しかもドナーはアメリカに居るのだから手術も担当医もアメリカで行わなければならず、移動すらも特殊な飛行機を自力で手配せねばならぬというならばざっとこの程度は出さねばならぬ。
しかし、そんな大金を街の小さな規模で社員5人安月給で雇うのがせいぜいの工場を経営するレベルの家族が払える訳がない。
貯金を全部切り崩し銀行や馴染みの工場や商店に相談したところで、1500万より高い金を借りる事はざっと考えても不可能だろう。
或いは
土地も工場も全部手放してしまえば、それぐらいの大金を引き換えにする事も出来たのかもしれないだろう。
しかし、彼等の会社には5人の社員が居た。
言い換えれば『5人の社員の人生を背負っていた』のが立花しずくの両親だ。
そんな彼等に対し『うちの家族の為にお前らは明日から路頭に迷え』…なんて素面で言える奴は、それはそれで人面獣心の鬼畜に過ぎる。
そして哀しいかな立花の一家は初代から連綿と、ある意味経営者に必要なそういう部分を持てなかった一族だったのだ。
そこに、悪魔の囁きが彼等を突き動かしたのは直ぐの話だった。『悲劇』はそこから始まった…
Case36『立花しずく』前編
さて、どこまで話したのかというと、またややこしい事この上ないのが申し訳無いが。
立花が取り出すは小汚い糸を取り出し___曰く、『ブードゥ・キングダム』。
それを持ってチクチクと、まるで雑巾を縫うようにJの身体を縫い上げていく。
すると、どうした事だろうか。
縫い上げられた身体からピタリと血が止み、顔色も血の気を失い蒼白なままでは流石にあるがJも意識を取り戻していく。
その有り得ない様を見て、木藤はついこう漏らしてしまう。
「な…なんや、一体!?あの糸は、スタンドなんか!?あり、有り得へんやろ!」
と、もともとは外科医志望だった彼女らしい言だが、事実としてそれはスタンドではない。
そう、立花が返すなり更に続ける。
「これは、自分のご先祖様からの遺品。
もしかしたら本体の人が死んでも残るタイプのスタンドなのかも知れないけど…少なくとも、私が肌見離さず持っても他の人のスタンドは見えなかったから、きっと違う技術なのか、自分は『選ばれなかった』か。
それはそうと、ブードゥーってのは自分が昔見たゾンビ映画から、キングダムはご先祖様がどこそこの王国出身からとっただけで何の意味も無い、さ。
王国から伝わる、死に瀕しかけた人すらゾンビみたいに復活させる技術___くだらない、言葉遊び」
そう、
Jを縫い上げ糸を取り上げた立花は、その『ブードゥ・キングダム』とやらを馬の様な形に折り上げる。
立花曰く、先祖から連綿と続くこの糸を祀る大事な儀式なのだそうだ。『ゾンビ馬を折りあげろ』と。
それになんの意味が有るのかは立花自身にはさっぱりわからない。
それでも、立花というローティーンの少女はそれをとても大事なルーティーンとしている。
先祖、血、そういうものを大事にしている。
それは幼い頃に死にかけて以来、死と言うものや命というものに真摯に向き合う結果かも知れないが。
とにかく価値観が、歳の割にはあまりにも古風なのだ。
「私は…こんな娘から、ご両親を奪ったのねぇ…」
エルは、思わずそう感嘆の声をあげる。
それに対して返す立花は、まるで他人事みたいに…!と怒気をあげるが、単にエル本人は悪気があった訳でも他人事のように言いたかった訳でもなく純粋に立花の純真さに敬意を覚えただけだ。
だが、エルはそれすらも言い訳はせず…次に来るだろう汚い罵倒か鉄拳かを黙って浴びようと無言で手を出さずにいた所で、それを制したのは優姫だ。
そして、こうフォローする。
「多少ならず、毎回毎回と半端に格好もつかない癖にエルさんが気障な言い回しする癖が時に鼻につくのは同意見だけど…誓ってこの人に悪気は、無い。
そもそも、キミの言う『復讐』は半分以上逆恨みなんだ。少なくとも、
エルさん自身が悪事を行った事は事実だから、そこがややこしいんだけど…」
そう言うや否や、立花の怒りの矛先は優姫に向けられる。
なんで、私のお母さん達が死んだ理由が私に有るんだ!と。
あんなに大好きだったのに、あんなに愛してくれたのに、と。
他方、流石にその言い方は不味い、と木藤や守屋はおろかエルですら優姫の発言を咎める中…Jが良く響く渋い声で、相変わらずもどもりながら優しくも、こう発言する。
曰く、こんな話だ。
「あ、あの婦警の、いう、言う事は…まち、間違いじゃ無い。
そも、そもそも、お、
おでが、ちゃ、ちゃんと言わなかったから、あい、相棒と、しず、しずくちゃんに…」
そういって、Jは立花とリーに黙っていた事…悪魔のような『真実』を語りだす。
それを知らぬは、エルの屋敷に潜み聴く事すらできぬ、リーばかりである…
To be continued
『ブードゥ・キングダム』
破壊力なし
スピードなし
精密動作性なし
射程距離なし
持続力A
成長性なし
(A超スゴい、Bスゴい、C普通、D苦手、E超苦手)
そもそもスタンドなのか技術なのかすら曖昧な『糸』。
原作での『ゾンビ馬』の糸であり、あり得ないほどの治癒力を秘めた糸で縫うとたちどころに傷が治り跡も残らず、しかも糸自体すら使いべりもしない。
裂傷に関しては最高級の治癒力を誇り、腹を割かれ腕や足を切り飛ばされようがそれをたちどころに縫い付けて治療するネアポリスが150年以上も旧き時代から遺した秘宝にて立花一族の『形見』。
ただし、裂傷には無類の治癒能力があろうが病気には当然効かない以上、立花しずくのかつての難病には何の意味もなかった。
名前はソウルドアウトが歌った07年版の劇場版ファントムブラッド(ジョジョ一部)の主題歌『ブードゥーキングダム』より