今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
…本編に入る前に、少しだけ胸糞が悪い昔話をする。
この話からおよそ5年前。
「連れ子であり別れた前夫にそっくりな顔をしている」…等と言う身勝手極まる理由で、実母から虐待を受けていた当時14歳の少女が居た。
或いは、再婚した新しい父からの性的虐待を拒否した事がきっかけで逆鱗にふれ暴力を受けていた、と言う話もある。
何れにせよ、数年前から母親の再婚と前後して怪我が増えた挙げ句、突如として受験シーズンや人によっては就活のシーズンと言う忙しい中で誰にも相談する事もなく失踪した中学生…と言うのは
しかし事件のこれ以上の詳しい概要は結局、裁判で争った今でも全ての事情は明かされることは無いだろう…
保身に走ろうとし弁護士の言うように少しでも罪を軽くなるように証言する加害者とは違って本来なら嘘偽りなく証言できる被害者の少女が、この時の事を一切語りたがらないのだから、ましてや意識は朦朧としていたようで記憶が混濁した彼女からはそれを全て解き明かす事はできない。
…しかし、ただひとつわかっている『奇跡』もある。
この時彼女は、一週間に渡り一切の食料を渡されず、両手足を縛られ自由に身動きの取れぬ状況だと言うにコップ一杯の水すら与えられなかったと言う。
学校に通っていた頃に両親からつけられていた青アザや出血の跡も
Case4『ホットスタッフ』中編
…さて。
己のスタンド、『スリラー』を召喚した警官の火々里優姫。
彼女のスタンドは、連続殺人犯粕谷の『ホットスタッフ』の攻撃をいなし、反撃した…と言う所から話を再開しよう。
「選びなさい…おとなしく捕まるか、『スリラー』の恐怖を味わうか!!」
優姫の言うように『恐怖』その物を具現化した様な…
狼男の様なヴィジョンに違わず獰猛にして凶暴、それが『スリラー』。
顕れるならば嵐の様に敵を襲い、そして
精密性は『レディオ・スター』に輪をかけて存在しないどころかそもそも優姫が制御しきれているか自体が怪しいが、スピードは瞬間時速100㎞を超えパワーもそれこそヒグマ並みかそれ以上のモノを持つだろう。
遠隔操作型の追跡向きのエルのスタンド『レディオ・スター』とは根本的に違う、完全な近接特化型の、射程距離は3メートル程しかない本物の暴力装置である。
まあ、近付かないと役に立たぬこの手のスタンドはただでさえ敵が押し付けてくる超能力やルールを掻い潜らないと攻撃出来ない都合上意外と弱点は少なくはなく、
粕谷のスタンドも、いわば近接パワー型のスタンドの典型と言える。
彼のスタンド、『ホットスタッフ』は鉄の扉だろうが防弾ガラスだろうが
ましてや能力が強力かつ精密性が非常に高い事と引き換えなのか、行動や操作のスピードもそこまで早くはないために、遠距離での戦闘手段を互いに持たない。
要するに、お互いに接近戦に持ち込まないとスタンドバトルの決着がつかなくなる。
「クソが…迎撃しろォ!『ホットスタッフ』!!」
「抵抗させるんじゃないわよ…潰しなさい!『スリラー』!!」
…とまあ、
どうやら…優姫に手を出すなと不機嫌そうに命令された都合上、少し離れた所から優姫に(スマホを貸しているため)予備のタブレットを介してレディオ・スターでスタンドバトルを視聴しているエルは、見ていてこう感じている。
…これは優姫の勝ちである、と。
そして、スタンドを介してこっそり伝えられた
そんな、優姫と粕谷のバトルはどのようなものかというとだ。
『スリラー』が『ホットスタッフ』ごと粕谷を返り討ちにしてカウンター気味に吹き飛ばし、そんな隙を見逃さない優姫は射程距離から離れない様に全力失踪で追いかけ、スタンドのラッシュを仕掛けに向かう。
「SRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」
このラッシュの時は最早優姫が気合いが入るのかそれともスタンド自身が気合いが入るのかは定かではないが、ともかくも獰猛な餓狼がごとく優姫のスタンド『スリラー』は雄たけびをあげるなり、『ホットスタッフ』を目掛けて爪をあちこちに突き立てる。
首と言わず、胸と言わず、腕と言わず、顔と言わず。
例えるなら、「暴力の突風」。特に場所を狙いを定めずに獲物をやたらめったらにえぐり潰しに行く。
たまらず『ホットスタッフ』は自慢のパワーと精密性で防ごうと努力はするが、ガードをして丸まっているが…
スタンドは、本体の才能であり精神…つまり、スタンドとは
つまりは、本体とスタンドは文字通りの『一心同体』、スタンドを傷つけられたら本体も同じかそれ以上にダメージを受けてしまう。
そして接近戦での戦いと言うものは、要はスピードが命である。
…しかも、
「…『スリラー』!遊びはなしでいくわよ!もっと速く、もっと強く!」
そう叫ぶ優姫に応えるようにラッシュの速度を上げたスタンドの爪を浴びた『ホットスタッフ』はどんどんと小さく弱く鈍くなっていき、逆に『スリラー』はラッシュを仕掛けていくなかでどんどんと巨大で素早く凶暴な姿になっていく…
気付けば、ほんの数秒間で同じぐらいのサイズだったはずのスタンドが、二倍程度には体格差が生まれていく…!
(いてえ!…パワーは俺のスタンドよりはマシって言っても、それでも尋常じゃねー上に…あの婦警のスタンドに殴られる度に、意識が飛びそうに削られる…!それだけじゃない…!俺の『ホットスタッフ』はプラモデルだって組み立てられるぐらいには精密性には自信があるスタンドなのに
粕谷は、『スリラー』に襲われた自身のスタンドのダメージ以上にスタンド自体の異常に苦しんで、たまらず、己のスタンドを引っ込めて…そして、走馬灯の様に時間だけがゆっくり進む様な妙にハッキリとした頭で、優姫のスタンドの
(いや…そうか!
重ねて言うが、スタンドと本体は繋がり一心同体だ。
故に粕谷は、『スリラー』の能力を理解した、言葉ではなく心で理解できたのだ。
…少し話がとぶが、と言うよりは話が冒頭に巻き戻るのだが。
スリラーの能力は…かつて、中学生の頃に両親から虐待を受けていた優姫が、いよいよ以て死にそうになった時に発言したスタンドであった。
幼い頃から怪我や病気の治りが早いと言われていた辺り、彼女は生まれつきのスタンド使いで無意識に発動していた可能性も高いが…とにもかくにも、本格的に自覚したのは、中学3年生の頃だろう。
飯はおろか水も与えられず縛り付けられ押入れの暗闇に閉じ込められ …意識は朦朧とするどころか命を失いかけた彼女が、逆に
その能力は、粕谷の推察通り『生命力』や『精神力』…と言うよりは、もっとおおざっぱに生き物が持つエネルギーその物を対象に爪を介して奪い取る能力と言っても良いだろう。
『スリラー』の前には、全て生き物は等しく狩られる側の存在でしかない。
有栖川が言うように、対スタンドに特化したと言う謳い文句は伊達ではない。
(俺は…死ぬのか……!!?)
粕谷は、『狩られる側』だと理解した。
今まで狩る側としての歪んだ愉悦に浸っていた彼は絶望の表情にそまる。
捕まりたくない、終わりたくない、逃げなきゃ、動け…と、頭に身勝手かつ何の罪もない相手にそれを与えていただろうコイツだけが思ったらいけない様な思考がぐるぐるとその脳内に巡る。
だが、如何に保身に願いを込めようが、ハンターはすぐそこに迫っている。
『スリラー』…恐怖を与えるモノ、己に破滅を与えるモノ。
対抗できるハズの、そして
「…嫌だ」
粕谷は、見苦しく、鼻水足らし失禁しかけ泣きながら叫ぶ。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァア!!!?」
そして吐き気を催す邪悪の精神を持つ小物なりに、その精神が意外な爆発を生んだ。
殴ったのだ、嫌だ嫌だと叫びながら、スタンドを使わないで…本当にただの悪足掻きの様に、素手で優姫のスタンドを殴った。
すると、どうだろう?
「ルァァァァアアアアア!!」だの「ウルワァァァァアア!?」だのと言う、まるで毒餌を喰わされた野生動物の様な悲鳴を上げながら粕谷に殴られた所を胸で抑えのたうち回り、優姫は顔には出している事は無いが殴られた箇所に手を当てながら、痛みに耐えるような苦しいうめき声を見せている。
…そう、これは…偶然。
常に優位に立っていた優姫も、スタンド能力で傍観しているエルも、あるいは粕谷自身が全く予想もしてなかった偶然ではあったのだが。
to be continued