今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
___ずっと苦しかった。
立花しずくという少女が、その日は感慨深く一言で今までの10年にも満たない人生を振り返っている。
そしてこう、内心で続けていく。
___お医者さんは、成功率40%しか無いと言っていたが…成功した。
___手術に、運命に、私は勝ったんだ!
___ざまあみろ神様め、私の人生はまだまだ終わらないんだ!
___あんな息をするだけで痛くて苦しくて、悲鳴をあげたくなる人生とはおさらばだ!
そう、自分に向けられた病気との決別宣言を、もう『陸で溺れる』という苦しみからの解放を謳うように内心で小学生レベルな語彙力で吐き捨てながら…最後にこう、願う。
___お母さんに会わせて、お父さんに会いたい。
純粋な、子供らしい願い。
日本から遠く離れ手術はアメリカで執り行い、病原菌やウイルスに留意する必要が有るなら経過観察も慎重にせねばならない。
彼女がまだ9歳という事もそうなのであるが。
腹を切る手術により内蔵を移植して、その内臓自体がどう拒絶反応なり機能が落ちるかもわからずそれを抑える薬なりも呑まなければならず、健康な同世代の少女に比べ遥かに抵抗力が落ちているなら…尚の事、うかつに国外をまたぐ『見舞い』すら両親だからこそ2ヶ月はなかなか術後は許され無いならば彼女がそう願って何がおかしいのだろうか。
遊びたい盛りだ、何にでも興味がある年頃だ。
病気が治り退院したら両親と、デパートでも遊園地でも海でも何にでも行っていっぱい遊びたいと約束だってしたのだからその気持ちは余計だろう。
…しかし、その願いというものは果たされることは無かった。
両親の練炭自殺という、最悪の結果を以て。
そして彼女はアメリカに取り残されたまま、天涯孤独になってしまいその遺書と僅かな遺品だけを受け取る事になったのだ…
Case37『立花しずく』後編
さて、話は現在に戻るのだが。
優姫が「お前のいう復讐は逆恨み、お前の両親が死んだのはある意味お前に原因がある」と立花が伝え、Jもそれには否定しない…という場面に立ち戻ろう。
立花は、Jに食ってかかる。どういう了見なのかと。
今にも立花が彼に殴りかからんとする、その直前。
エルは落ち着いてと少し強い語気でそれを静止するや否や…立花が知らなかった、そして
「最初のきっかけは、私の両親が…お父さんの前妻の妹、ってホントにややこしいわねぇ。
その人に両親が毒殺されて、その実行犯もお母さんに返り討ちにあってぇ…私だけが、たまたま生き延びた。
そして『遺産を受け継いだ』、それが気に食わずそれに目をつけたお父さんのお抱えの弁護士が莫大な遺産に目を付けてろくでもない事を思い付いた…話はそこから始まるのよぉ」
そういった語り出しで話す内容は…あまりに長いので、少し簡潔に要点だけ整理するとこういう『計画』である。
本人が死亡して通帳の凍結された後に残る遺産の分配や土地などの管理というのは遺言書や委任状が無い限り基本的に半分は配偶者が相続して残り半分を子ども(子が死亡・失踪してしまった場合は孫)が人数で等分、親が生きていたりする場合は遺産全体の3分の1から人数ぶんで当分,死亡者本人に対してにおける兄弟などは遺産全体の4分の1から人数で割ると細かく分配する。
が、言ってしまえば増田家の前当主の亜礼は生前兄弟がおらず親や叔父などは全て他界しており、エルの母も半ば天涯孤独の身で日本に流れ着いた人なので…相続人がエル一人しか居ない。
要は『揉めない』。
その結果何が起きるかというと、相続税さえ払えばエル一人が丸儲けになってしまう。
それに不満を抱いたのが、当時小学生で相続のことがわからないエルの遺産管理等を代理人として任されていたその弁護士であった。
エルからしたらその件の弁護士になんの縁もないので、下手したら今回の件が終われば今後は増田家の顧客としての仕事が無くなる可能性はおろか、遺産整理の委任と相続の書類だけ書かされた挙げ句に別な弁護士と契約され下手したら叩き出されてしまう。
それは『旨くない』、ましてや相手は子供で両親を奪われた直後で自暴自棄な心神喪失寸前…それで思い付いたのが最悪過ぎるマッチポンプであった。
…何処で調べたのか、と本気で呆れる口調でエルは語ったが。
前妻のはとこの義理の娘だの、増田家の前の前のそのまた前の当主争いに敗れた兄弟のその子孫だの、血が薄くて『相続する権利がほとんど無い』人間の中でも
簡単に言えば、そのマッチポンプの内容はこの様なものだ。
『私にも遺産相続の権利がある、訴える準備がある!』とまず、その弁護士の下に弁護士自身が声をかけた人間を呼び付けさせて『訴えさせる』。
そして
すると、何が起きるのかというと…『その弁護士の下に増田家の相続に関わる仕事』が舞い込む形になるのだ。
そして増田家から依頼料と手数料を踏んだくれられる…一回一回は、それこそ適正価格としては単に叩き出すだけなんだから5万円にも満たない些細な事ではあるだろう。
たが、
365日毎日5万円払い続ければ1人だけを相手にしてもでも1825万、それが10人相手なら1億8250万…重ねて言うが適当に設定した『適正価格』でここまで膨れ上がる。
ましてやお抱えの弁護士という立場ならそんな数字なんていくらでも少ない回数ですませられ額は無限にインフレさせられるだろう。
茶番のようなマッチポンプに巻き込んだ連中には奪った金から3分の1程度でも流して等分させてしまえばいい。
元の資産が10億以上…土地や美術品なども加味すれば20億近くありそこから5億以上はサクラに巻き込んだ金のない連中に横に流れるのは多少勿体無いがそれでも10億近くはまるまる回収が見込める、増田エルには悪いが子供に数億円という遺産は過ぎた玩具だ…こういう悪意溢れる計画をその弁護士は立てた。
「そ、そんなデタラメを言うな!
お父さん達が、そんな、卑怯な…卑怯な策に参加するものか!!」
そう、立花は反射的声をあげるが…絶叫したのちに、思い至るフシがある。
文字通り、『身に覚えがある』からだ。
それに気が付いた後、彼女は一気に血が青ざめるが…エルは、敢えてそれには気にしないふりをして話を続けるのだ。
「そうねぇ、本ッ当に卑怯な作戦ねぇ。まあ、参加した連中は大概がギャンブル依存症か経営に失敗したクズだからホント許せ無い身勝手な奴等だわぁ。
それでも…貴女のご両親の場合は違う、その双肩には文字通り『貴女の命が乗っていた』。
8000万以上、だったかしらぁ。どうしても一年以内に工面しなくてはいけない事情があったのよねぇ…」
そういってかつて罹っていた難病の手術費の事を持ち出され、立花は心臓に氷の杭をうたれた様な感覚に襲われる。
そう、立花しずくの両親は、どうしても…悪魔に魂を売ってでも、娘を救いたかった。
助ける手立てはある、手術の成功率は低確率でも助かる見込みはある。なのに『金が無い』、これだけが最悪最大の壁。
宝くじや万馬券など普通に考えて当たるわけもない、売れるものなら内臓だって売りたいのにどう売れば良いのかわからない。
ならば…もう、銀行強盗でもしてでも…そう思っていた矢先の出来事だった、その弁護士から声をかけられたのは。
『一人頭で5000万』、ざっと計算してもサクラをやってくれるなら一年以内に振り込んでやると誘われてにべもなく、夫婦で参加した。
増田エルと立花家との関わる経緯はおおよそこういう事になる。
「『増田エルが本気で戦う時は、既に戦いの場にいない』。先輩からそう聞かされたわ」
そう、絶句する立花の前に…エルの会話に割り込むように優姫はいきなりそう語りだす。
そしてこう続ける。
「『レディオ・スター』…恐ろしい能力ね、
人間なんて叩けばホコリが出る、ほしてない布団の様にどんどんと。
例えば、組長の女に手を出したヤクザの鉄砲玉、数千万の脱税を行う大企業、押収した麻薬を売りさばき自分もキメる刑事、匿名を良いことに適当に記事を書いて人を傷つける雑誌ライター…そういった恨みを買ったり後ろ暗い連中の闇を突き止め、脅迫するには本当に恐ろしい。
『誰かがピストルに銃弾を一発込めたなら誰か一人しか殺せない、だけど誰かに誰かがピストルに銃弾を一発込めたという話を教えるだけで国だって滅ぼせる』…情報という凶器を、最も使いこなすスタンドだもの」
そういって、区切りをつけた優姫に答えるように、エルも話を切り出す。
曰く、こんな話だ。
「私達スタンド使いには、こういう『伝説』が裏社会に流れてたりするわぁ。
『暗殺向きのスタンドは暗殺者にならずのし上がり、暗殺に向いてない万能なスタンド使いほど暗殺者として裏方で燻る』…要はこれ、『自分を知れ』って教訓とスタンドの特性の話よぉ。
スタンドは一般人には見えない…言い換えれば、スタンドは見えないナイフみたいな『兇器』を常に携帯してるんだから
だからこそ、変に強力な『スタンド』を持つスタンド使いはそれに頼れば頼るほどその殺傷力の魅力に溺れていき暗殺に向いてないスタンド使いほど暗殺者みたいな道に堕ちていく…そして、自分一人でしか生きられないアウトローになっていき『敵』を作っていく、敵は敵を呼ぶ。
…当時の私が言えた義理じゃないけどねぇ、とにかくあの弁護士野郎にはスタンド使いの『敵』だって当然いたのよぉ」
そういって、エルは何気ない様に言葉を続ける。
まるで他人事のように淡々と…冷徹に。
「そんなスタンド使いの中には、電子機器に走る配線をショートさせるスタンドや鍵を外すスタンド…書類に書かれた文字を書き換えるスタンド使う連中なんかも居たわねぇ。
…例の悪徳弁護士が、私の知らないうちに全財産盗まれて家や自分の持ちビルを火災保険勝手に誰かに解約させれたまま失火して全焼して無一文になったり、アイツの口車に乗った連中も似たような目にあったらしいけどそれこそ知った話じゃない。
それで首を吊った弁護士も、その弁護士の口車に載せられた連中の末路も知った事じゃない。
そのスタンド使いたちだって、恨みをかっていた別口の組織や個人に『消された』らしいけどそれも知った事じゃない…クズに、生きる価値はないわぁ」
そう、遠い目をしながら自嘲気味に、淡々と語るエルは…
最後に、真っ直ぐと、感情をこめ立花を見据えこう締める。
「『復讐』は虚しいものねぇ、昔に有栖川さんから聞いた通り…私は、奪い奪われる復讐者という『私』を再生産してしまったのだから、あの人は正しいわぁ。
ましてや…私みたいなクズは、クズに1度でも堕ちたのなら本当は生きる資格は無いわねぇ。
それでも、私だって間違った事はしたつもりはない。あの弁護士やそれに与した連中も許すつもりはない。
殺したい?金を奪いたい?陵辱したい?…どうぞ、貴女が云うならばご自由に。
私は、火々里巡査や守屋さんや木藤さんにさえあたらないなら、抵抗するつもりだけはハナからないわぁ…さぁ、貴女はどうしたいのかしらぁ?」
そう告げられ…立花は、二の句が告げなくなる。
増田エル、確かに両親を奪った元凶には変わりない。
遺書には、娘への愛と土地や工場を手放し『糸』と『鉄球』しか遺せなかった後悔と、増田エルという少女に対する恨みと恐怖だけが綴られていた。
だから、信じていた。両親を傷付けたのは増田エル、自分の一族の不公平の元凶こそがこの最悪の女のせいなのだ…と。
だが、蓋を開けてみればそもそも両親が詐欺師じみた弁護士の口車にのり増田エルに対して酷いことをしなければ良かった話でしかない。
『奪い返され』地位も名誉も失って、世を儚み自殺する事も無かっただろう。
そして更に言えば…自分が難病にかかり、両親の良心すら追い込まれ藁にもすがる気持ちで大金をすぐ手にしなければならなくなる切迫した事情が無ければ、こんな事は
言ってしまえば、『元凶は立花しずく』という事も両親の愛情が嘘ではなかった事も。
立花の気持ちを組んで一切言い訳せず、誠実に向き合っているエルの姿も。
もっと言えば迷子になった時に見ず知らずの時に『助けてくれた』優しさも…全て、真実なまま、『それでも』と過去の精算と両親を結果的に奪う事になった過去の贖罪の気持ちを元に立ちはだかる彼女に、立花しずくという少女は何もできなくなってしまう。
…そんな立花の姿を見る木藤は、ふいに横から口を挟む。
曰く、こういう事情の話だ。
「エルちゃんは、こんな真似してシャバに居れる理由はただ一つ…『警察に逆らえへん』のや、あの子。
もともとの気質が優しくてそんな悪い人や無いのと、有栖川の尽力と当時刑事未成年だった事と、『レディオ・スター』で政治経済の大物の国内外の秘密をえらい範囲で抜いとるせいで『消したら』逆にどう情報が散逸するかわからんから不都合ってのも有るんやけど…ある種の契約やね。
そういうスタンドか技術に縛られてるんか約束律儀に守ってるんかは知らんけど『無断で国家の目の届く所から離れず、警察・検察その他麻薬取締局などの捜査機構から要請があればどんな時でも必ず協力する』約束に縛られとる、つまり首輪つきなんや。
つまりは司法取引の結果、公的な罪には問われないだけで一生あの子はアホほど金がある代わりに自由があらへん…あのお屋敷は、エルちゃんにとっては大事な遺産であり実家であり、『檻』や。
裁判所とかで罪を問わへん代わりに『スタンド使いを実質飼いならせる』なんて国からしたら、夢のような話や。
それこそスタンド使いなんて普通は国はおろか組織にも属さへん様なアウトロー揃い。
そんなスタンド使いの中でも潰しの効く能力あるやつが手駒になるんやったら多少の違法行為の前歴なんか目ぇつむるやろ。
お上からしたら、一般人がどうなろうがって話やからな…酷い話やけど、誰ちゃ救えへん話やけどな」
そう…有栖川の悪友ならではの暴露できる裏事情すら聞かされ、立花はもうどうしていいかもわからない。
自由も無い、未だに罪に縛られている…それに立花が復讐を謳い断罪する権利は、何処にもない。
そこに向けて、更にJがこう語りだす。
「…お、おでは、おではこんな話言えなかった。
あい、
そし、そしてしずくちゃんがこんな話を聞いたら責任感で、じさ、自殺してもおかしくなかった。
おで、は…知ってた、けど、けど、言えなくて…しゃ、喋るのも一苦労な、おで、おでを拾ってくれた相棒や、あ、相棒を助けてくれたしずくちゃんには、こん、こんなこと…」
そういって、立花側で事情を唯一把握していたが故に伝えられず…それでも、義理堅く優しく、障害がある自分に向き合ってくれたリーや立花の気持ちを組んで彼等へとついてきたJの独白の声。
それに反応するかの様に守屋はふいに待って、と声をかけて。
そして聖母のように優しい顔で彼へ…そして立花とエルにも向けこう語りかけるのだ。
「…『許そう』よ、みんな。
…立花ちゃんが増田さんを許す必要は、増田さんが立花ちゃんのご両親を許す必要は、きっと無い。
…だけど、
…立花ちゃんが絶句してるのも、Jさんが板挟みになってるのも、増田さんが復讐を肯定してるのも、結局は『自分を許してない』からなにかきっかけが欲しいんでしょ?だから、わかりやすく罰が欲しいんでしょ?
…でも、自分を傷つける真似だけは、絶対にダメ!
…それじゃ、復讐を果たしても、自分の心にしたがってもきっと誰も前に進めないから!」
そういって、守屋は何を思ったかエルの背中をポンと推し…エルは体勢を崩して、転びそうになって
…それが、まるでダムに空いた一穴の様に、立花の涙腺を崩壊させた。
ごめんなさい、と。
何度も何度も…何度でも、彼女の口からその言葉だけがエルに向けて滂沱の涙とともに声をあげていく。
こっちこそ、とエルも泣きながら立花の頭を撫でながら彼女へと謝罪の言葉を優しく紡ぐ。
…その様を、Jは半泣きで、完全に安心しきった顔で眺めていた。
そして、その『和解』すらリーは知らないままに居る。
だからこそ、最後に止めるべき男の顔を…Jも立花も、そしてエルも一斉に思い浮かべるのだ…
To be continued