今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
「…こ、こういう能力だ」
そうJにリーの能力の詳細を聞かされたエルが最初に抱いた感想は、『助かった』という感情唯一つだ。
『あらゆる条件を無視して即死させる』。
極論、リーの能力の『長所』とはこれに尽きる。
もちろんその彼が持つスタンドの短所も凄まじい。
少なくともスタンドバトルに持ち込みさえすればどうとでもなる程度の能力だが、逆に言えば『戦闘』に持ち込ませず『暗殺』のフィールドに持ち込めば彼に能う者も居ない。
彼がJのサポート無しで戦う場合は『逃げる』でもなく、『追う』でもない。
じっとどこかの場所に静かに『潜む』。
そうされるだけで此方からのアクションを一気に阻害されてしまうだろう。
その意味では『屋内』というフィールドこそ彼の真骨頂とも言える、野外でもジャングルの様な場所では脅威と化すがやはりオブジェクトの配置が固定されている上に死角の位置がわかりやすい室内でこそ彼は真価を発揮する。
隠れられる場所があるか否か、この一点でその脅威度は雲泥の差になるのだ。
ただ幸いな事は能力的に『狙撃』が余りに相性が良くない事。
例えば、一方的にどこかの物陰に潜んで鶴瓶うちにする…という手まであるならば、おそらく誰も勝てなくなる。
だが、彼の場合
拳銃や手投げ式の手榴弾程度ならあるいは持ち込んでいるかというと恐らくはイエスだろうが、長距離狙撃用のライフルなどは戦闘スタイル的に持ち込めない上に『どこから攻撃してきたか』がバレたらチェックメイトになりかねないからだ。
Case39『ゴー!ウェスト!』その2
「つまり、『釣り出す』しか無いって事よねぇ」
エルはポツリとこう呟く。
彼女の言うように、彼を攻略するならば『隠れた場所』から引きずり出すしかない。
巣穴に隠れたイシダイでも狙う釣り人のように、効果的に釣り糸を垂らす事が唯一無二の突破手段だろう。
「…これ、もしかしてすぐなんとかなるんじゃない?」
そうエルがつぶやくのに合わせ、守屋がこう返す。
そしてこう続ける。
「…例えば、私達みんなでJさんや立花ちゃんと一緒に増田さんのお家に入って『もう戦わなくていい』って呼びかけたらリーさんだって武装解除して出てくるでしょう?
…そしたらみんなで仲直り、できないの?」
そんな守屋の言動に立花だけがなるほどと頷く中…うーん、という渋い表情で残りのスタンド使いの連中が頭を抱えるのだ。
なんと言うか…発想が若干に頭お花畑なのは事実なのだが、
それがみな分かっては居るからこそ否定し辛いのだが、それは否定しなければならない…という、ある意味薄汚い部分の発送が出てしまう自分達が嫌になりつつという感情を守屋と立花以外の全員が抱えながら、代表してエルがこう答える。
「確かにそれが出来たら苦労しないんだけどぉ…『リーさんは私とJさん以外のスタンド能力を知らない』可能性が高いのよぉ。
下手したら、私の能力すら詳細には知らないかも知れないわぁ。まあ、守屋さんの能力は何度か見せてるから気付かれた可能性は高いけどねえ。
その状況下でJさんや立花さんを連れて歩いたらどうなるか…」
そう区切るエルに割り込むように、木藤はこうしめた。
「
つーか、うちが一瞬でしずくちゃんの身体動けんくする姿は見とるハズやからな、肉体操作の延長でゲームのコントローラーで動かすマリオやリンクみたいにJはんやしずくちゃんの動きを操作する…って思い込まれる公算は低くはあらへん。
つまりこれ…またうちのせいやねんけど、リーはんのお仲間さんと一緒に乗り込んだりお仲間さんにだけ任せる、なんて真似させたら逆に警戒させて引っ込まれたり或いは不意打ちでうちらが攻撃されかねんのや」
そうふたりが言うようにだ。
とどのつまり『スタンドバトル』に慣れているが故の弊害。
未知なる能力、不可思議な敵
スタンドバトルに慣れれば慣れるほど、そういうものに相対すれば相対すほど『敵』に対する警戒は解けなくなる。
仮に『仲間が姿を現した』という状況下であろうが、すでにその仲間が洗脳や操作系の能力にハマっていたり、或いは他人を姿形をコピーしたりする能力や幻影を呼び出す能力による罠すら珍しくはない。
下手したら死体を操る能力か何かで、既に『始末』されている可能性すらある。
そういうモノに慣れれば慣れるほど『甘さ』というものは消え去っていくだろう。
そうであればこそ、だた単純になあなあで最良の結果を受け入れる、という真似だけはできなくなってしまう。
重ねていうが、守屋の発想は決して間違ってはいない。
『肉体での殴り合い、武器をとっての殺し合い』は『話し合う』事より野蛮で愚かではある。
ましてや既に和解しているならばリーの一人相撲でしかないし、早めに話し合う場を作る為に敵味方合わせて停戦を呼びかけるよう提言するのは当たり前な事。
そう、人として当たり前な事を言っているのは守屋ただ一人なのだ。
「ホンネを言うと私は仲間に来て欲しいけど…守屋さんが言った様にできたならそれがきっとベストだろとは思うけど直感でわかるわぁ。
多分、それこそが『悪手』ねぇ。
彼の能力的に、同じ場所に敵が二人以上人が居たならばそれだけでリーさんの能力は無力化出来る…
そうなると、必死でコチラを分断してくる可能性が高いわぁ。それこそ、私の能力も人と組んだり正面決戦より中〜遠距離から逃げたり隠れたりした方が強いからわかるのよぉ。
催涙ガスや爆薬、小型の拳銃、スペツナズナイフ…下手したらBC兵器じみたものを持ち込んででも、必死で抵抗してくる可能性が高いわぁ。
そうなると、私の大事な…お父さんが遺してくれた家も巡査や守屋さん達も、下手したら立花さんやリーさんすら危険な目に合わせるかも知れない、それだけはできない」
そう、周りの人間に向けて宣言するように言う彼女に向けてJはこう申し訳無いような表情で謝罪する。
なにもかも自分たちのせいでこんなややこしい事になったのに、それでも俺たちの事まで考えてくれるだなんて…と。
立花もまた、彼と同じように謝罪するのをエルはイタズラっぽい表情で抑えると。
付け加える様に、エルはこう続けるのだった。
「だから、『釣り出す』為に『エサ』は私自身が行くわぁ。
あの人から見たら私はもう格好のエモノ、それが一人でノコノコ現れたとしたら必ず食い付く。
まあ…確実に怪しまれるでしょうねぇ、それでも食いつかざるを得ない。
複数人ぞろばら居るよりかえってターゲットが一人でウロウロする方が『油断』するのはハンターの心理だものぉ、思考が『狩る』事に集中して『狩られる』事が頭から抜けやすくなる。
それはどんなプロだろうとどうしても人間抜けない本能だものぉ、
…『ターゲットの家』だなんて、ターゲットのテリトリーに乗り込んでる人間だろうと、ね」
そう言うエルの表情は、その瞬間は…角度の関係か闇夜の暗がりに包まれ闇に隠れていたのだが。
その漆黒に包まれた顔から覗く瞳だけは、妖しい光で燃えているようだった。
To be continued