今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
…少し話が飛んでしまうのだが。
リー・ファンという男は漢字で書くと『李・翻』と書ける通り、現在はグリーンカード(外国人の永住資格)を持つアメリカの人間だがその中華風の名前の通り生粋のアメリカ人ではない。
彼は生粋のイギリス人である。
より正確に言えば、彼は今から半世紀以上前の香港出身、と書くとからくりは分かるだろうか。
1997年に返還されるまで正確にはそこはイギリスが直轄として植民地としていた香港は、かなり複雑かつ地域差が特殊過ぎる中国という巨大国家でも当時としては特殊な位置に至る。
『中国でありながらイギリスである』。
経済的な部分ではもちろん、文化的な位置でも不思議で矛盾する奇妙な土地で育まれた文化に慣れ親しんだ彼はいわゆる西側文化に比較的多く触れる事が多かったのだ。
そしてそれに憧れた彼の中でも、若い時分に特に夢中にさせたのがアメリカから逆輸入されたカンフー映画であった。
ヌンチャク片手にバッタバッタと自分と同じような東洋人が銀幕で暴れ周り、人種を問わず喝采を浴びる…その姿に興奮しないアジア人は当時いなかったろうが、リーも例外ではなく。
半ば無理やり両親や祖父母の反対を無視してでも、単身映画スターを夢見て飛び出したというのが彼がアメリカに流れ着いた最初のきっかけではあった。
だが、しかしそうはなかなか上手くはいかなかったというのが悲しいものである。
所謂ハードゲイナーと言えばわかる人はわかるのだろう事例ではあるが。
当時のアジア人としては上背はそこそこあってもアメリカ基準だと平均レベルな上に兎に角も鍛えても肉を食べても筋肉が付き辛い体質だった彼は、映像映えしないという欠陥を抱えていた。
4本ぐらいの映画に所謂エキストラとして中華料理屋の店員や片隅に映る怪しい行商人役で数秒だけ出演したぐらいで、彼は映画の役者としては引退せざるをえなかった。
…·その頃には、いわゆるアクションの流行りも変わりゴリゴリマッチョのビルダー体型の白人が大統領やボディガードに扮して悪を懲らしめるタイプの作劇が流行りいわゆるカンフーブームが終わった事も大きいのたが。
それ以上に、無理にアクション中心のトレーニングを敢行した結果身体を痛め腰をやってしまい限界を感じた事が一番なのだろう…という分析は、まあそこは兎に角も。
役者として大成が叶わなかったリーを見兼ねた当時の映画の若手の助監督の勧めで裏方にADとしてコネ入社させてもらい、映画屋として彼は食っていく道を選ぶことになる。
そちらは…まあ、塞翁が馬ではないが非常に性に合っていたのだろう。
人当たりが良くて根がクソ真面目、それでいて細かい所によく気が付く。
そういう社交的ないわゆるサラリーマン気質な彼は現場からのウケがよく、異邦人であり東洋人である事をエゲツなく馬鹿にされた事こそは数多あれどそちらの道では非常に評価されていた。
それに、何よりリー自身が楽しかったという事もある。
好きだった映画に出る事はついぞ大しては叶わなかったが、好きだった映画を作り続けられる。
望んだ形では無かったのかも知れない…それでも、夢を叶える形の一つの帰結にたどり着けた。
そしてその夢を叶えた先に、
『結婚』、当時27歳に入る直前かそこらに大恋愛の末に彼はリサ・アマーシアという女優と結ばれた。
そんな誰もが羨む美人女優との結婚、その幸福の絶頂…
だが禍福はなんとやらと言うように、不幸の絶頂の先に幸せがある様に、幸福の絶頂の先に不幸が待っていたという…
Case40 『ゴー!ウェスト!』その③
さて、そんなリーの過去の一端は置いとくとして、だ。
エルが家に潜む彼をどう対処するか、というシーンから話は再開する。
馬鹿正直に玄関から入る事は愚かだ…それは間違いない。
逆に考えよう、例えば一軒家に侵入する際に『入口』はどこかというとほぼ限られている。
玄関、窓、煙突、裏口、非常口…まあ思いつく限りだとそのラインだ、家の構造上の関係で当たり前だが出入り口なんて最初から開いている場所以外から出入りするのは物理的に不可能に近い。
壊していいというなら天井や壁から侵入という事もパワー型のスタンドならできなくは無いだろうし、ワープ系の能力やサイズ変化の能力が有るなら話は別だがエルのレディオ・スターにそれは叶わない。
ならば、『どう侵入するか』など数パターン予想されているに決まっているのだ。
変に裏をかこうとしてうろちょろするほうが、かえってドツボにはまるのは自明の理だろう、敵も馬鹿ではないのだ。
地雷でもこっそり周囲に設置されていたら下手したら家に入る前に足が吹き飛ぶとか笑えないジョークになる可能性すらある、そうであるならばいっそ最短距離から突っ込んだほうがかえって安全だという算段でもある。
知れば単純、しかもリーがそも自分からバラしている…これに関しては、コロンブスのたまごというか気が付かないと一生気付けない対策ではあるが。
「『ゴー!ウェスト!』…意訳すると『西遊記』になるけど
確か、コンパスを…こう。うーん、意外と自分の家の東西南北なんてパッと言われたらわからないものねぇ」
と、エルはボヤきながらスマホから登山用にあるコンパス無料アプリを取り出すなり、四方を確認すると『西』を探してそちらに体ごと向ける。
そしてそのまま呟きは続行される。
「西を向いてない人間に人の『運命』に『死の運命を固着』させる…とんでもない能力。
死を決定つけられたものは
何故なら
そう、エルが言うように…『ゴー!ウェスト!』の能力とはそのものズバリ『西を向け!』という能力、『西を向いてない人を殺すためだけの殺意』が形になったスタンドだ。
平たく言えば『運命』に対して攻撃する能力と言い換えてもいいかも知れない。
この能力にハマったが最後、そのスタンド能力で西を向いてない『人間の運命』はそのコンマ一秒も経たぬ間の次の瞬間に死に固定される。
その死因こそリーにはわからない、例えば心臓麻痺だったり家屋やタンスの倒壊で下敷きになるかも知れないしはたまたいきなり隕石が頭部に降ってきて死ぬなんて可能性すら
如何なる実力差が有ろうが、仮に相手が聖人や神だろうが生きているならその場で絶対に殺す…運命という誰にも逆らえないエネルギーの渦を限定的ながら操るとんでもないスタンドなのだ。
もちろん、人の運命なんて本来人智を超えたとんでもないエネルギーを歪ませた上で固着させる、という都合上いくつかの厳しすぎる条件はクリアしないといけない。
まず、そもそもだが
運命という強いエネルギーを操る代償と言われたら当たり前ではあれ、つまりはリーは発動中ずっと西を向いていないと自分自身が真っ先に死んでしまうというデメリットがあるのだ。
次に発動距離は本体を中心に半径1メートル、しかも発動対象は2人以上は指定できないという射程距離の短さとターゲットロックに複数を指定してしまうとスタンドが解除されてしまう。
まあこれも当然と言えば当然、常に本体自身の運命にもスタンドエネルギーを干渉させる特性があるのに他人に更に干渉させるなんて無制限にできるわけが無い。
あのJのピンチの時に彼がマトモに動けなかったのもまあそういう理由だ、要するに複数人が固まって1箇所に存在されると
更に言えば発動中は本体は一歩もその場から動けず、運命を固着させるには10秒間一切1ミリでも本体が動かされたら失敗してしまい3分間のインターバルを挟まないと再度使用不可能という連射性も機動力も皆無な能力でもある。
常にリーはJと行動している理由も基本的にはそういう事だ。
Jのカーペンターズは能力の射程がかなり長い上に拠点防衛や制圧に関しては無敵に近い強力な能力を持つ。
その能力をどんなフィールドでも活かせる『相棒』の有無で、彼が取りうる戦術という形はがらりと変わるのだから。
だが、
それを踏み抜いて乗り越える、その為にも…エルは自ら、ガチャリとドアを開けるのだ…
To be continued
『ゴー!ウェスト!』
パワー:C
スピード:E
精密動作性:D
持続力:E
射程距離:E
成長性:A
カタログスペックは異様に低いものの、その能力にこそ真骨頂がある全身に纏うタイプの装着型のスタンド。
身につけたシャツやジャケットを媒介にした物質融合型で一般人にも視えるので、実は暗殺特化型のスタンドではあるがステルス能力も低いという弱点も兼ね備えている。
だが、そのウリたる能力は『絶対に相手を殺す』という最悪の能力。
死の運命を固着させる事で、どんな吸血鬼だろうが究極の生命体だろうがハマったが最期という形で即死させてしまうのだ。
しかも、死の運命そのものはどんな人間はおろかどんな生物すら持つ運命である以上、それを即死という形に固着させているだけなので
なお、死の運命が定まったら最後、どう相手が死ぬかは誰にもわからない本当に運命任せのスタンドでもあるがそれ故に一度決まれば『必殺』という特性がある。
もちろん、そんな反則的な能力が無制限に扱える訳はなく先述の通りなのだが。
・『死の運命に巻き込める相手は一人まで、そもそも常にスタンドを呼び水として中心にし自分ごと運命を巻き込む能力なので下手したら自爆するだけのスタンドになってしまう』
・『射程距離は1メートル以内、しかも本体は能力発動中は一歩も動けず殴られたり押されたりして一歩でも動かされたりしたら能力が不発になる』
・『能力が完成するまで10秒間かかるのでその間に射程外に相手に逃げられても能力は不発になる』
・『一度でも死を運命づける能力を発動したら、成否に関わらず3分のインターバルは挟まないと連続して発動できない』
と、本編で明かされただけでもこれだけの弱点を抱えてしまっており、ついでに言えば『人間』の運命しか固定出来ないのでカラスや犬猫や木の様な動植物のスタンドが相手だと本当に何にも出来ない特性も兼ね備えてしまっている。
その上でスタンド自体のスペックは下手な遠距離型と比べてすらも貧弱なので適当にスタンドラッシュでも食らったら再起不能も免れないだろう、という非常に難儀なピーキーさも併せ持つ。
総括するとスリラーとは別な意味で『最強であるからこそ最弱』のスタンドとも言えるのかも知れない。
名前の元ネタはヴィレッジピープルの『GoWest』より