今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
ギィ…と、エルはドアをスタンドのレディオ・スターを使い開ける。
流石に敵もエルもバカではない、
屋内でのスタンド戦とはとどのつまり罠の張り合いだ、例えば『ワイヤートラップ』の一つや二つ仕込んでいる可能性だってある。
ドアを引いたらワイヤーと連動したピストルかなにかの引き金が引かれてドカン!或いはノブと連動した毒ガスを仕込んだガス管がブシュウ!
この手のブービートラップはいくらでも想定しているエルは、流石に正面から素手で開けるほどは愚かではない。
しかし
だからこそ、それを開けた瞬間にエルは呆れた様に呟いたのだ。
よくも私の大事な家にむけてやってくれたわねぇ、と。
Case41『ゴー!ウエスト!』その④
彼女の眼下に広がるは撒菱のようにちらばった細かい金属片やガラス片。
それが玄関の上がった先から廊下までずっと、それがあたり一面に散らばっている。
『相手のスタンド能力がわからない』という前提で考えてみよう。
そこに、廊下一面にガラス片のようなものが撒き散らされていたらどうなるのだろうか?
そういう想定で相手の能力がわからない立場になって考えた場合、思いつくのはスタンド能力とガラス片のような瓦礫が能力と直結している…そうは考えられないだろうか。
例えば踏むと爆破炎上する、特定の条件下でガラス片が生き物の様に襲ってくる、ガラス片などを破壊したりするとそのヒビが踏んだ相手に跳ね返ってくる…まあ、色々想定するだろう。
だが、少なくとも初見の人間からしたら
まさか相手が無駄なことをする、こういう撹乱の一手をあえてやってくるとは慮外になりやすい。
或いは、この場合ならば無駄とも言い切れない。
よくよく考えれば暴発や不発のリスクも高いワイヤートラップのような手のかかる罠より、適当に砕いた破片をばらまいて上から毒薬でもかけて毒入りの撒菱のような罠をかける方が時間も手間もかからない。
少なくとも、素足で触ってはいけないとか倒れたら毒殺されるというプレッシャーを与える心理的な効果もあるだろう。
なにより確実性や殺傷能力は下がるがそのぶんだけ雑なトラップは『隠れる時間』は取れる。
リーの能力は大前提として本体がみつかるとアウトなピーキーな代物だ、エルたちの前に姿を表したりしたのはJの防御力が高いからに過ぎず単身で戦うならば、そもそも罠を張ってる最中に出くわすリスクが高い手がそもそも取れないのだ。
(と、なると…リーってオジサンは、大した仕掛けは作ってない。
少なくとも凝ったトラップによる波状攻撃とかは、警戒はしなきゃだけど想定のラインはちょっと下げた方が良いわねぇ)
エルはそう内心で言いつつ、靴を履いたままそのガラス片が敷き詰められた自宅の廊下を踏破しつつ一言文句は言うのだ。
日本は土足厳禁なのに、と。
そんなエルは、これみよがしに閉じられているドアを
(あのオジサンが潜むとしたら、あり得る可能性は2つ。
予想は外してない…ハズよぉ、
と、そこで一つ区切りをつけるなりこう続ける。
(例えばだけど、一気に部屋全体を覆う様な毒ガスや爆発や火災に巻き込んで部屋はおろかこの家ごと私を亡き者にする…そういった身も蓋もない手はあのオジサンは取れない。
何故なら『巻き込まれる』から、自分が脱出出来ないトラップを張るタイプの人間では無いし、そんなに相手はバカじゃない。
逆に言えば、罠があるとしたら『対人兵器』レベル以下の殺傷能力のある罠ぐらいしか貼ってないはず…つまり、ここが一つの正念場になり得る、かしらぁ)
そう結論をつけるなり、エルはレディオ・スターを盾にしつつゆっくりと自分の家のリビングのドアを開ける。
すると、チクリとスタンドを通して鋭い痛みがいきなり左肩に襲いかかってきた。
「いっつぅ…って、これは!?」
エルは肩を抑えつつその『犯人』を見ると…それは、投擲ゲームに使うダーツのような矢じりだ。
そして、飛んできたであろう正面方向のカーテンレールを見るとそこには短い筒のようなものが設置されており、エルはなるほどと相手の仕掛けたトリックの内容を看破する。
いわゆる遠隔の射撃装置だろう、そしてそこから発射されるのがダーツだ。
強力なバネか何か、或いは圧縮されたガスでも仕込んだ小型ボンベでも入れている筒から、硝煙や音もなく発射される飛び道具…なるほど、『暗殺』には間違いなく向いている。
それこそ睡眠薬や痺れ薬程度でいい、矢じりの先端に仕込んでおけばエルは動けなくなりリーが直々に出向いて殺すなりなんなりどうとでもなる仕掛けもちゃんと仕込んでいた、彼はそういう手を取ったわけだ。
今回はスタンドでうまいこと防御ができたものの、当たっていたら死が見えていただろう。
そして同時にそれをくらったエル確信した、リーはこの近くにいる、と。
何かしらのセンサーか何かを使っていたとして、そもそもリーが近い位置に居ない限りこの手の手動の遠隔操作トラップを起動する必要性が無いからだ。
「つまり、かくれんぼはもうクライマックスって訳ねぇ」
エルは敢えて道化の様に独り言を吐きながら、自らのスタンドのレディオ・スターを見上げる。
彼女のスタンドはスピードこそ素早く射程距離もかなり長いがパワーも大した事がない以上に精密性が欠けている。
段ボールのようなものを上げ下げしたりナイフを適当に振り回したりできる程度、つまりは思い通りに手足の様に動かして戦うタイプのスタンドでは無いからだ。
それを突き詰めていけば、『防御』に使うタイプのスタンドとして見たらあまり向いていない。
一発や二発目、死ぬ気で動かせば三手目の罠ぐらいは防御できたとしても、たとえばさっきのダーツの様な飛び道具を十も二十も一斉に発射されたら回避する術は無いだろう。
如何にも、こういう時には頼りない。
エルは自らの魔法使いのような見た目をした分身を見てそう思いつつ…しかし十数年来の付き合いの『相棒』と、こういう修羅場程度はくぐって来た。
ならば、いかにもな相手に苦手な戦法を取られた所で、なるようになるしか無いだろう。
少なくとも、エルは『己の弱さ』を知っている以上、逆に言えば『何をされたら一番困るか』を自分で常に自覚しながら戦い続けるスタンド使いなのだ。
であるならば、今更この程度の困難に怖気づく訳が無い。
『勇気』とは『恐怖』を知る事。
ノミから遥かに進化した人間であるエルにとって、それを乗り越えることこそ『試練』。
そして、その第一の『試練』の内容は…
「…!?やってこないと思って
まさか、いきなりわたしの家に火を点けるだなんてぇ!!」
と、そんなエルの絶叫と共にいきなり焦げ臭い匂いと共に一気にエルの奥の部屋とキッチンの方から同時に噴出してくる黒煙。
つまり、閉鎖空間内での『火計』こそが、リーという男がエルに向けて最初に仕掛けてくる『試練』の内容であったのだ。
To be continued