今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~   作:たんぺい

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5話 『ホット・スタッフ』後編

「あの娘に、敗北を与えてあげて欲しい」

 

あの時、こっそりとスタンドの念話で聞かされた有栖川からのオーダーを聞いた時は、エルは何処まで驚いただろうか。

 

スタンド能力者同士でのバトルと言うものは、結局の所『如何にルールを押し付けるか』と言う所に帰結する。

『スタンドに、パワーやスピードの差異は有れど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』、平たく言えば王には王としての能力があり料理人には料理人の能力があるだろうが、そもそも概念が違えば比較にもなりはしない。

 

無理やり誰かと誰かのスタンドを、それこそレディオ・スターとスリラーと言うこの話に出てきたスタンド同士で比較しようにも、例えるならマジンガーZとピカチュウを比べてどちらがドカベンの山田太郎の様な野球選手に育つか…と言う訳のわからない質問文とその答えの様な結果になるだけだ。

 

スタンドとは言い換えたら一人の人間の、それに流れる在り処その物の概念でもある。

全く同種の能力でもあるわけ無かろうに、能力が違うと同じステージにすら立てないし、比較しても結果を見てもとんちんかんな設問と答えになってしまう以上、スタンドの比較議論などそれ自体はするだけ無駄でしかない。

 

つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()。スタンド同士でのバトルとは、本質的にはそうしたものでしかないだろう。

王なら政治や交渉の、料理人なら台所での、戦士なら戦場でのステージに引きずり込んだなら、その時点で決着がつく。

 

…ましてや、有栖川はそれをわかっていない人ではない。

有栖川のスタンド『ザ・ポリス』はそうしたスタンドのある種の究極だと、エルは知っているから尚の話だろう。

そもそも、『勝負』とは、如何にその事前の根回しや立ち回りを行うかで決まり、そしてスタンド同士での戦いでは、一度の敗北が死に繋がる。

そうしたロジックを知っている人が頼むオーダーか…と、正直、あの時はエルは有栖川に失望していた。優姫とは別な意味合いで失望していたのだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『敗北』を知ること、『勝利』を知ること。

それを教えさせるなら…確かに、あの殺人犯は良い練習台である。

エルは既に知っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う事を…

 

 

 

Case5『ホット・スタッフ』後編

 

 

 

「スタンドはスタンドでしか倒せない」

そのルールを破るかの様に、粕谷は己の拳で『スリラー』を殴り飛ばしダメージを与える。

 

…完全な、優姫の油断だった。

スリラーのスピードに精神的にあぐらをかいていた上に、優姫は今まで『スリラー』を殴ってくる相手など知りはしなかったからであろう。

 

これは、スタンド能力を自覚して以降、優姫が出会った今までのスタンド使いをスタンドバトルに慣れていたら慣れるだけ引っ掛ってしまう『スリラーの初見殺しの特性』を理解させることなく優姫は退けていたからこその部分も大きいのだが。

しかし、粕谷はスタンドに目覚め日が浅い、故に先入観無しに殴ってしまった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

…さて、話の振り返りはこの辺りにして。

グギャァアと、粕谷に殴られた箇所を押さえながら悲鳴を上げながら苦しみ倒れる『スリラー』は、苦しみ優姫の制御を外れたままコンクリートの壁にまで吹き飛ばされると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして、スタンドはイコール、本体であり…スタンドが受けたダメージはそのまま主たる本体へと跳ね返る。

つまり、本体である優姫にもそのフィードバックが発生して、背中にまるでアレルギーのある食べ物を食わされたかのようなじんましんを発症させながら涙をうかべつつ絶叫する…

 

 

…粕谷は、驚いていた。

 

今まで、己のスタンド『ホット・スタッフ』をまるで赤子のインパラでも狩り殺す獅子かのように制圧する、スタンド殺しの能力のあるパワーとスピードの権化が…それこそ、一般人レベルのパンチ一発でああなるものか、と。

『ホット・スタッフ』は殺傷力に特化した様なスタンドではあるが…感覚で『知って』いる。いくらなんでもスタンドに目覚めたからと言っても俺のパンチ力はあんなに上がらないし、あんな力を付与されてるわけではない。

 

つまり…要するにこれは『スリラー』自体の特性が、影響している。

粕谷は短絡的な頭なりに結論つけた。

そして、その特性を推察する。

 

 

(…もしかして)

 

粕谷はおもむろに、その辺に転がっている小石や砂を右手に握りしめると、『スリラー』に向けて投げつける。

すると、どうだろう。

優姫はヒッと甲高い悲鳴を上げながら、()()()()()()()()()()()()()()()スタンドを引っ込めてしまう。

 

それで…粕谷は確信した。

 

(恐らく…あのスタンド能力は『命を狩る』能力…俺のスタンドだろーが、俺自身だろーが餌にちげーねぇ。

だが、逆にあのスタンド能力は能力の特性上()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。まるで金属に触ったらかぶれる金属アレルギーの人みてーに、言うなればあのスタンドは砂やゴムやコンクリートは触れない「非生命体の固体アレルギー」なのだッ!つまり、それが弱点、『スリラー』のッ!!)

 

 

…そう、粕谷の推察通り。

 

『スリラー』とは、生命エネルギーを狩り吸収する為だけに存在する様なスタンドである。

スタンドに流れるエネルギーだろうが生体に直接的に溢れるエネルギーだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎない。

しかし、その代償としてそれ以外を拒絶する特性も得てしまった。厳密に言えば、能力の関係で吸収したい生体エネルギーを持たない物質から『スリラー』の方が拒絶されると言う弱点も得てしまったのだ。

 

…スタンドバトルに慣れていれば慣れている相手程、()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

遠隔型だろうと近接型だろうと、或いは自動操縦だろうが代わりなく、スタンドと言う強力無比な超能力を秘めている人ほどその力を便りに対処しようとする。

そして、言うなれば経験豊富で格上の相手ほど、初見で『スリラー』の特性に引っ掛る…なにせ、それこそ火を放とうが氷を放とうが、それが100%スタンド由来のパワーによる能力なら爪で吸収できるから「スタンドはスタンドで倒そうとする」定石に呑まれてしまうだろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う発想が出てこないからだ。

 

しかし、種が割れてしまうとしょうもない能力に堕してしまうのは誰しもスタンド使い共通であろう。

優姫もまた、例外ではない。

 

 

(痛い…くぅう…)

 

優姫は、己のスタンドの弱点を久しぶりに味わって泣きそうになりながらも、それ以上に己のスタンドの種が割れた後の対処について思考を巡らせる。

 

(…()()()()()()()()()()、それは良いわ。しかし、私のスタンドのアキレス腱が割れた以上、迂闊にスタンドを出す訳にはいかなくなった…つまり、スタンドのアドバンテージがあるのは『あちら』!)

 

そう、状況を整理するうちに…なんだか、己の周囲が妙な匂いで充満しているかの様な感覚に囚われる。

なんだか、焦げ臭い…と、そう優姫が把握した瞬間…頭に、鈍い衝撃が響く。

 

うげえ!?…と、間抜けな悲鳴をあげふっとばされたのは無理はないだろう。

優姫の頭に、ブロック塀を構成していた鉄筋コンクリートの、しかも超高温な塊が頭骨に直撃したのだから。

その当たりどころが良かったのか悪かったのか、たまたま警帽がクッションとなり優姫は即死はなんとか免れたものの…下手したらそれもあり得る勢いと質量のそれを投げつけたのは、もちろん粕谷だ。

()()()()()()()()()()()()()に溶断できなかったものはない、その斧の能力でブロック塀をバターかなにかを切り分けるかの様に一閃し、その重機より凄まじいパワーで投擲したのである。

 

しかしその不意うちは即死は免れた…免れたがしかし、出血も激しく火傷もおまけで()()()()()()()()()()()()()()である人体の弱点の頭にダメージを受けた優姫は、そのままだと3分も持たず死ぬだろう。

…しかし、即死させられなかったら、優姫はそうそうは死なない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「が…『街路樹』ッ!始末書ものかもだけど、背に腹は変えられないわ…!」

 

そう叫んで、背後に『スリラー』を召喚した優姫は爪をその辺にある街路樹の銀杏の木に突き刺すと…みるみる銀杏の木が枯死するのと引き換えに、優姫の頭の出血も背中のじんましんも全てまたたく間に消え去り、優姫は五体満足でみるみる元気になっていく。

 

『スリラー』による生体エネルギー吸収、それは何もスタンド使いから吸収するだけの能力でもない。

 

元々、この能力は虐待されていた彼女が生き延びるために目覚めた様なスタンドだ。

『食い物』である生命体が近くに有るなら、それが人体の生体エネルギーと同等かそれ以上の存在なら、即死させられない限りある程度は回復可能な能力なのだ。

 

 

「…なるほど、『一発』じゃあ、足りねーかァッ!ならッ!」

 

とはいえ、それで即死はできなかったなら連射すれば良い。

弾はいくらでも産み出せる、ブロック塀でもコンクリートでもガラスでもアスファルトでも。

適当に見繕えば良い、適当な質量を持ったオブジェクトを作り投げつければいい…本来的な使い方ではないが、『ホット・スタッフ』にはそういう使い方もできる。

そういう能力でもあり、それができるパワーと精密さを兼ね備えたスタンドだからだ。

 

「『ホット・スタッフ』ゥ!ブロック塀をぶった切れッ!」

 

そう、己のスタンドに粕谷は命じると、近くにある路上の壁をバラバラに切り裂いていく。

その斧に触れたものは…()()()()_()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様に、また周囲に焼き付くような異臭が漂い出す…

それで、優姫は『ホット・スタッフ』の真価を理解する。

 

「…!?『蒸発』…液状化すらせず…そうか、『ホット・スタッフ』の切っ先に触れたら『沸点』にはね上がるのか!!どんなモノでも『昇華』させる能力ッ!」

 

 

…そう、優姫の推察は正しい。

 

どんな物体にも、必ず沸点と言う概念は存在する。

例えば地球上に最もありふれた気体であり元素の窒素ならマイナス196度。

或いは地球上に最もありふれた液体である水なら100度。

地球上に最もありふれた金属であろう鉄は約2800度と言われている。

 

当然、人の体を構成している水分やたんぱく質だって沸点は存在している。

それだけでなく、金属…分かりやすく言えば、血中の赤血球等と密接に関わる鉄だって体に流れる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

人体発火もその結果だ。

先ほど『ホット・スタッフ』で触れただけで大火傷するぐらいの高温で溶断されたコンクリート片だって、要するには結果論に過ぎない。

仮に、人体がもし窒素や酸素だけで構成された存在ならば、或いは『ホット・スタッフ』による死体は周囲は凍りづけになるかも知れないが…常温で固体や液体で、しかも微量ながら金属でできた物質ともとらえることができるモノを無理やり沸騰させたのだ。

全て塵になる…全て灰にする、そういう結果をもたらした。

 

 

そして、もうひとつ…それは粕谷が発言する。

 

「俺のスタンドが産み出せる弾丸は…いくらでもあるが、果たして、てめえの『スリラー』が吸収できる生体エネルギーのありそうな街路樹は何本ある?或いは…てめえが無差別に通行人でも襲うかよ。

それでも良いぜ、けーさつの癖になァ、人を殺す十字架背負う覚悟でも有るならなッ!」

 

 

そう、やろうと思えば粕谷のスタンドからしたら何でも超高温な弾丸にすることができる。

スタンドの精密性やパワーを加味したら…まあ、10メートルぐらいの距離なら致命傷を与える射程の飛び道具を作成できるだろう。

 

しかも、コンクリート片なり金属片なりを…『スリラー』は触れない、()()()()()()

なぜなら、別に生体エネルギーがあるわけでもなんでもない単なる物体だからだ。

つまり優姫は避け逃げ惑うしかない。

…『ホット・スタッフ』による投擲攻撃の連射速度は如何に遅かろうが『スリラー』の射程よりは長い上に、一発でも今度こそ食らえばお陀仏な飛び道具をいくらでも調達ができる相手に近づく術がない。

 

警官として手持ちにある拳銃で威嚇…これも悪手だろう。

下手に人を呼びつけるような銃声を上げて、一般人を巻き込めば、彼奴は人質をとるか一般人を灰にしつつ目眩まししながら逃げ去るか。

それにそもそも拳銃の弾丸が当たるかも怪しい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ぐらいだ。

ガードさせられるか…最悪、弾丸を打ち返されるかも知れない。

 

粕谷は優姫に絶対に近づくことはない事は互いに理解している。

本来近接型とはいえ、近づかれたらまたあの爪で今度こそバラバラにされることが見に染みてわかっている粕谷が『スリラーの射程内』に入る必要性がないからだ。

即席の飛道具をばらまきながら、逃げながら戦う…ごく単純明快に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…それでも、貴様は…貴様の様な奴は…!」

「吠えてろくそアマ警官がッ!『恐怖する』のはてめえの方だ!」

 

 

それでも立ち向かう優姫、対して無慈悲かつ怒りのままに殺そうとする粕谷。

 

誰の目にもどうなるかがわかるだろうその時に…いきなり、パァンと良い音が響き優姫の頬に熱いものがジンジンと響く。

それは…

 

「私の協力を拒絶しといてぇ…この様なのはちょぉっといただけないわねぇ。

なんと言えば良いかしらねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『レディオ・スター』でやり取りやスタンドバトルの一部始終を観察していた、エル。

彼女がこうのたまいながら優姫に放った、平手打ちだったと言う。

 

 

 

to be continued




『スリラー』
破壊力B
スピードA
射程距離E
持続力E
精密動作性E
成長性B
(A超スゴい、Bスゴい、C普通、D苦手、E超苦手)

ごく単純に、生体エネルギーを喰らうスタンド。火々里優姫と言う女の持つ生存本能や食欲その物の在りかた。
爪で引き裂いた何かから、生体の流れるエネルギーを奪い尽くす能力を持つ。
どんな物体だろうが『生体エネルギー』がある物体、言い換えたら生体エネルギーの分身であるスタンドなどはこのスリラーからみたらかっこうの餌でしかない。
一方、その代償として『生体エネルギーのない物質』を本能的に嫌っており、また生体エネルギーのないただの物質からも拒絶されてしまう特性も存在し、特に金属や鉱物由来の無機物には致命的なアレルギー反応の様な拒絶反応をする。
その本領は上記のそのスタンドの原則からまるでかけ離れている特性にあり、スタンドバトルに慣れてるもの程、その特性と弱点を見抜けなくなってしまう恐怖の能力…だが、種が割れたならわりと簡単に対処や対策自体はできる、相手や条件次第では虚仮威し程度にもならない、至極ピーキーな近接特化のスタンド能力。

名前の元ネタはマイケル・ジャクソンの『スリラー』から。



『ホット・スタッフ』
破壊力 A
スピードC
射程距離D
持続力C
精密動作性A
成長性D
(A超スゴい、Bスゴい、C普通、D苦手、E超苦手)

右手に斧が引っ付いた様な悪魔の様なデザインのスタンド。
その右手の斧の切断面の構成された物質、と言うよりより正確かつ厳密に言えば切断面に存在する物質を構成する元素悉くを沸騰させる特徴を持つ、いわゆる『昇華』させてしまうスタンド能力。
ごく単純かつ殺傷力の高い物質を最も脆い状態に変化させるスタンドであり、『物質』ならば人体だろうと無機物だろうと問答無用で破壊し焼き砕くことが可能な能力と言える。
パワーも抜群であり、精密性もかなりの制度を誇るため応用が効きにくい能力の割にはできることが多いスタンドだろう。
ただし、破壊に関しては最強無敵に近いものの、いわゆる近接型と言う類いのスタンド能力にしてはスピードがやや物足りないのが弱点である他に本体の経験不足からスペックをまだ活かしきれてない事と本体がスタンド能力全てを把握していない事がより大きなアキレス腱と言えるだろう。

元ネタはドナ・テラーの代表曲『ホット・スタッフ』
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