今にも堕ちてくる空の、奇妙な街で ~ジョジョの奇妙な冒険、異伝~ 作:たんぺい
増田エルと言う女は…悪い意味で、大人である。
己のスタンドと言う才能は『金』や『ちやほやしてもらう』為だけに使いたい。
本質的にはそういう思考の持ち主であり、結局の所は警察官の有栖川に協力している理由の半分ぐらいは有栖川個人への恩と同程度にその承認欲求と名誉欲に帰結する。
その強い弱者や他人への理不尽に対する優しさや共感性は、要するにその小汚ない精神に揺蕩う上澄み、料理で言えば灰汁の様なものである。
その辺りは火々里優姫とは対であろう。
『正義』と『悪』、白と黒しかない二色刷りな世界に拘る…悪い意味で子供の様な彼女とは違って、グレーで停滞していると言い切れる、そんな人間性ではある。
他人の欲望をも肯定し、他人に優しい性格だからギリギリ浮き世で真っ当に日のあたる道を歩くことが許されるような…本質的に宵闇渡りの女であろう。
そして、悪いことに『レディオ・スター』はそういう欲求を満たすには最高の能力である。
他人の秘密や能力を暴くにはまさにうってつけ、金と名誉欲と楽したい欲望にまみれた俗物に持たせてはいけない類いのスタンド能力だ。
…その様な小悪党もどきの人間が果たして、それが何故、有栖川と『互い』に『利益』を生むのか。
その説明を…そろそろ明かすときが来ただろう。
『レディオ・スター』と『ザ・ポリス』。
Case 6 『警察官の後始末』前編
どこまで語った話だろうか…
そう、優姫をエルがいきなり平手打ちをかましたあたりから、話は再開する。
そして説教する、我々は既に『勝利』を収めている、と豪語しながら。
呆気にとられる優姫を尻目に、それに噛み付いたのは粕谷だった。
いきなり割り込んできてなんなんだ、と。
エルはそれに対しにらみ返す様な視線を向けながら…左手の指を三本立てながら、こう語り出すのだ。
「あんたの『敗北』する理由は3つねぇ…まず、先に2つ、あんたの下らない便所に流し忘れた糞にも劣るよぉなカスみたいな能力の弱点を教えるわぁ」
そう言って、エルは背後に己のスタンド『レディオ・スター』を召喚して、そのスピードとそれなりにある射程を以て一直線にいきなりスタンドで殴りかかる。
「だれが糞みてーな能力だオラァッ!『迎撃』しろッ『ホット・スタッフ』!」
対する粕谷も己のスタンド『ホット・スタッフ』で防御…否、迎撃に取り掛かる。
如何にスピードが『レディオ・スター』の方が早かろうが、
例えるなら、決められたコースを全力で走るF1カーを見た後で、その辺の公道を走る原付や軽自動車が法定速度ではしる様を見た様なものだ。
速いは速い、だが『ホット・スタッフ』の精密性を以てすれば…別にかわせないスピードでも防御出来ないスピードでもない。
さらに言えば精密性も荒く、せいぜい殴られてもBB弾をエアガンでぶつけられた方がまだ痛いとかその程度のレベルしかない『レディオ・スター』のパンチなぞ、豆鉄砲でユンボを止める様な諸行だ。
「人にえらそーに言っておきながら、あっさり捕まってんじゃねーぞクソアマァッ!」
粕谷は怒り浸透のまま、侮辱された仕返しとばかりに『ホット・スタッフ』でエルの『レディオ・スター』の首根っこを左手一本でのネックハンギングの形で締め上げる。
重機や万力の様なパワーの首締めによるフィードバック、それによりエルの首もとにも凄まじい勢いで喉輪へ跡がつく…否、それだけではないだろう、数秒もたたずにへし折ることだってできる。
スタンドの右手の斧で首や心臓を切り裂くことだってできるかも知れない、いずれにせよ真正面から単騎で挑むなら、『ホット・スタッフ』はかなりの迎撃能力だってある事の証左で、仮に一騎討ちならかなりの対応力を誇る証明だろう。
「そういう、事かッ…!」
そう優姫が得心したかの様に呟くなり、『ホット・スタッフ』はいきなり宙を舞う。
いつの間にか射程内へと再侵入した『スリラー』による爪の一撃、パワー自体は相当な『スリラー』に殴り飛ばされ、粕谷もたまらず宙を1メートルぐらいには舞うだろう。
そんな様を…首閉めから解放され、ゴホゴホと噎せながらも。
エルは淡々と機械的に、『ホット・スタッフ』の弱点を解説する。
「ひどい目にあったけどぉ…要するにそういう事よぉ。『スタンドの能力効果範囲が狭くてスピードが無い』って事はぁ、『一人で複数の相手をとる』条件で対処する能力が、まるで欠けているって事!」
…そう、『ホット・スタッフ』は迎撃能力も攻める能力も、やりようによっては暗殺にも優秀だ。
精密性とパワーと言うシンプルな長所は、西部劇のガンマン同士の決闘やボクサー同士の試合の様な1対1と言うシチュエーションならば、成る程分かりやすく機能する。
ホット・スタッフの蒸発させ切り裂くものに物質相手なら上限はない、意外と応用だって効く。
ただし、
しかも…エルは何を思ったか、いきなり無言でスタンドを再び召喚するなり…
あえて、わざわざ吹き飛ばされた『ホット・スタッフ』を己のスタンドで追いかけるなり
薄く、そこに切り口から血が流れるが、切り口は沸騰しない…燃え上がらない。
触れただけで、すべてを焼き砕く『ホット・スタッフ』の斧に切り裂かれたのに、だ。
驚く粕谷と優姫を尻目に、エルは
「『切り裂かれた切り口を沸騰させる』、ねぇ…じゃあ、聞くけど…スタンドは、『精神のエネルギー』でそれ以上じゃない存在よ?
…そう、エルが語るように、ごく単純なスタンド能力の定義の話だ。
『スタンド』とは『精神のエネルギーであり才能その物』、ならば、視点を変えて思考を進めたら地球上のどこに『精神その物の化身足るスタンド』を『沸騰』させる温度と言う概念が存在するものか。
要するに、物質と結合するタイプのスタンドでも何でもなく、あるいは優姫の『スリラー』の様な特殊な相手ならともかくも、そもそも一般人相手なら無敵な強さを発揮しようが、『スタンドバトル』において『スタンド』その物が天敵と言う『スリラー』とは真逆の
そして…言外にそう突きつけられ、そして自身でも気付かなかった『ホット・スタッフ』自体の欠陥に一瞬だけ呆然とする粕谷を尻目に、エルは
「何より、貴方はそもそも『ザ・ポリス』の発動条件を踏んでしまったわぁ…
貴方には…短絡的な貴方には覿面に突き刺さる、最強最悪無敵な能力がッ!」
そう、エルがのたまうと同時に、反対側の路地からぬっと人影がいきなり現れるなり…
ただ『それだけ』。
ただそれだけの行動で、
to be continued