【完結】サメ映画をご存じない!?   作:Wolke

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XXXX エピローグ&ネクストプロローグ

 長い、長い夢を、見ていた気がする。

 

 

       ◇

 

 

「このあとりんりんの家で映画観るんですけど、よかったらみんなで観ませんか?」

 

 はじまりは、あこちゃんの何気ない言葉から。

 

 場所はCiRCLEのスタジオで、Roseliaの練習が終わったときのこと。各々が自分の楽器やシールドを片付けはじめる前に、あこちゃんが友希那さんたちに声をかけたのだ。声をかけられたわたしを除く三人は、三者三様の反応を見せた。

 

「映画? いーじゃんいーじゃん。みんなで観ようよ。そうだ燐子。お菓子とかジュースとか途中で買ってった方がいい?」

 

 いち早く今井さんが反応する。陽だまりのような笑みを浮かべて、あこちゃんの提案に賛同する。

 

「そう、ですね……。用意はしていますが、足りなくなるかもしれません……」

 

「オッケーオッケー☆ じゃあ途中でコンビニでも寄ってから燐子ん家行こっか」

 

 今井さんが取り仕切るように声を出すと、すぐさま「勝手に決めないでください」と氷川さんが今井さんの言葉に待ったをかける。

 

「紗夜はこのあと予定あった?」

 

「あります」

 

「ギター練習以外で?」

 

「……いえ、まあ、ギターの練習ですが───」

 

 セリフを先回りされたことでバツが悪くなったのか、氷川さんは明後日の方向へ顔をそらした。けれど、氷川さんに続くように、友希那さんも声を上げる。

 

「悪いけど、私も遠慮しておくわ。新曲の構想を練りたいの」

 

 予想できていたことではあるが、黙って成り行きを見ていた友希那さんも反対票を投じてしまう。

 

「そうです。映画を観ている暇があるなら、少しでも練習すべきではないですか?」

 

 いつも通りと言えば、いつも通りな光景だった。明確に自分の進むべき道を見据えているからこそ、どこまでも禁欲的に、人によっては自罰的とすら言いかねない練習量をこなしてしまう。そのとても同年代とは思えない精神力の強さには、わたしも見習うべき点が多い。

 

 そんな二人に今井さんは苦笑を浮かべながら応対している。

 

 賛成三で反対二。けれど別に多数決を取っているわけではないのだから、観たい人が勝手に観ればいいだけの話。

 

「えー! 折角なんですからみんなで一緒に観ましょうよー!」

 

 あこちゃんが嘆くように声を出す。

 

 いつもなら、ここで今井さんが「まあまあ」と二人をなだめ、いつの間にか言いくるめていたりするのだが、今日ばかりはいつもと違った。

 

「あ、あの!」

 

 わたしの喉からやや裏返りながらも、大きな声が飛び出したのだ。驚いた、とまでは言わないまでも、物珍しそうな視線がわたしの顔を貫いた。むしろ声量をコントロールできなかったわたし自身がわたしの声に一番驚いていた。不意に注目を集めてしまったことで、かぁっと紅潮しているのが自分でもわかる。

 

「あの……その……えぇっと、ですね───」

 

 先ほどとは打って変わって、今にも消え入りそうな、か細い声しか出てこない。なにか言わなければと焦るほど、捕まえるべき言葉は煙となってわたしの指の間から逃げていく。「あうあう」と言葉にもならない音を垂れ流していると、今井さんがそっとわたしに寄り添ってくる。

 

 ぽん、と今井さんはわたしの肩に手を添えて「大丈夫大丈夫。落ち着いて。ね?」と優しげな声を発した。

 

「は、はい……」

 

 わたしはまたも消え入りそうな声で応じると、心を落ち着けるために深く息を吸って、吐くことを繰り返す。ふとあこちゃんの方を見ると、あこちゃんは胸前で両拳を握り、頑張れ、と自信に溢れた瞳がわたしにエールを送っていた。

 

 友希那さんと氷川さんを見ると、二人とも静かにわたしの言葉を待っていてくれている。焦らなくたっていいことを、わたしはやっと実感できた。慌ただしく動いていた心臓が、少しずつ落ち着きを取り戻す。

 

 そうしてわたしはようやく、つっかえながらではあるものの、先ほどの続きを口にした。

 

「アウトプットの質を高めたいなら、インプットの量を制限すべきではないと思います」

 

 ふむ、と友希那さんはうなずいた。

 

「結局のところ、音楽も絵画も映像作品も、目指している場所は受け手に消えない感動を与えるという一点に尽きると思うんです。完成に至った作品は多くの情熱の上に成り立っているはずですし、媒体に関係なく、その情熱には感化されるべきではないでしょうか?」

 

「その情熱がRoseliaの音楽とは相容れないものだとしても?」

 

「相容れないからこそです。もちろん取り入れるものが多ければ、わたしたちの音楽は広がります。けれど取り入れてはならないものを知ることもまた、わたしたちの音楽を広げると思うんです。完全な無から新しいものを作ったとしても、それは絶対に先駆者がいます。なら、その先駆者の成功と失敗を分析して自分たちの糧にするのが一番賢い方法ではないでしょうか?」

 

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、ということですね。たしかに白金さんの主張には一理あります。映画なら劇中のシーンを盛り上げるという、バンドミュージックとは違うコンセプトで曲が作られていますし、新しい視点というのも必要でしょうしね」

 

「そうね。───わかったわ、燐子。私たちもお邪魔していいかしら?」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 一体何がよろしくなのかは自分でもわからなかったが、ともかくバンドメンバー全員を招くことに成功した。友希那さんも氷川さんも、どちらかと言うと理詰めで動く人なので、得るものがあるとわかればかなりの割り合いで応じてくれるのだ。

 

 そうして話がまとまると、今井さんがからころと笑い声を上げた。

 

「今日のリンコめっちゃ熱いね。なんだろ? 静かに燃えてるっていうの? 目がギラギラしてるっていうか……もうアタシは音楽の話とか関係なく、燐子のオススメが観たくなっちゃった」

 

「そう、でしょうか……? わたしは普通だと思いますけど?」

 

「そうだよリサ姉。りんりんはいつも通りだよ」

 

「うーん? そういうあこもいつもよりギラギラしてる感じがするんだけど───まあいいや。それで、映画って何観るの?」

 

「サメ映画です」

 

「サメ映画だよ」

 

 今井さんの問いかけに、わたしとあこちゃんは声を揃えて答える。

 

 わたしもあこちゃんも特段おかしなことは言っていない。ただ、彼女たちを沼に引きずり込もうと、宇宙の底の底のような深い闇を湛えた瞳でジッと彼女たちを見据えているだけだ。

 

「サメ映画……?」と友希那さんと氷川さんはそれぞれ小首を傾げ、今井さんは「おっと、はやまったか……?」と言いたげに引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

       ◇

 

 

 運命は巡る。二人の因果は螺旋を描く。さながら、DNAの二重螺旋に沿うように。

 

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