やはり超高校級の妹が希望ヶ峰学園に入学するのはまちがっている。 作:おおもり
もうすぐ9日だけど…
ていうか、これ妹の小町主人公だけど。
「千尋ちゃん…なんで…」
不二咲の死体に、小町は呆然自失となる。
その時、廊下の方から誰かが慌てて走ってくる音がする。誰かが悲鳴とモノクマアナウンスを聞いて駆け付けたのだろう。
「おい、悲鳴が聞こえたが大丈夫………あああああああああッ!? 不二咲くんッ!?」
慌てた様子で入ってきた石丸が不二咲の死体に悲鳴を上げる。
「二人とも…さっきのって?」
未ださっきのショックが抜けきっていない苗木が、十神と小町の方を向いて訊く。
「あ、そっか、前の時は誠君は気絶してたんだっけ…」
「あれは、『死体発見アナウンス』…今回のように三人以上が死体を発見した時に流れて、全員に知らせるらしい。犯人当てを、公平に進めるためのものだそうだ」
十神の説明に、石丸の顔が青ざめる。
「では、先ほどのアナウンスは、不二咲くんのものだったのかッ!?」
「そうだ、しんでいる」
「なっ!?」
冷たく言い放つと神に、石丸は絶句する。
「おい、慌てる前に全員を集めて来い。どうやら、また始まるみたいだからな。命がけの…犯人当てゲームが……」
「りょ、了解した!」
命令された石丸はすぐに出ていく。
全員が集まるのに大して時間はかからず、集まったそれぞれが、彼女を守れなかったことを悔いたり、悲しんだり、慌てたり、妙に冷静だったり、不二咲の死体の状況に驚いたり、反応は様々だった。
「妙だな…」
十神が、壁を見つめながら神妙に呟いた。
「白夜君、妙って…どういうこと?」
「この壁の血文字を見てみろ」
言われて、壁を見た小町はその異様な光景に、一瞬自分の目を疑った。
「え……なに…これ…?」
小町はずっと不二咲の死体に目がいっていて気が付かなかったが、十神に言われて見た壁には、血によってでかでかと『チミドロフィーバー』と書かれていた。
それが不二咲の血で書かれたことは明白で、常人では考えられないような驚喜的な状況に、小町は自分の足が震えるのを感じる。
「これって…たしか、前に十神が話してたやつだよね?」
「…え?」
驚いたように、小町は朝日奈の方を見る。
朝日奈もそれに気づいたのか、ややたどたどしく説明する。
「えっと、小町ちゃんがいない時にね、十神が話してたんだ、『ジェノサイダー翔』って殺人鬼は殺した後に『チミドロフィーバー』って血文字を書き残すって」
小町も、『ジェノサイダー翔』という名前には、聞き覚えがあった。
正体不明の連続殺人鬼で、ネット上では、『ジェノサイダー翔』の名前で有名らしい。
「じゃあ、これってその模倣犯ってこと?」
「もしくは、俺たちの中の誰かが、その『ジェノサイダー翔』なのだろうな」
「そ、そんなことあるわけないよ!」
十神が口にした可能性を、朝日奈は怯えるように否定する。
そこで、セレスが壁の血文字に顔を近づける。
「それにしても、『チミドロフィーバー』とは…びっくりしてしまうほど頭が悪いですわね」
「まぁ、そうだね…って、腐川ちゃん!?」
朝日奈の驚いたような声に、全員が振り向くと、腐川が青ざめた顔をしていた。
「な…な…な…ななななななんで…」
そのまま、腐川は白目をむくと、後ろにバタンと倒れてしまう。
その際、ゴトンッと、かなり不吉な音がしていた。
「や、やばいべ! 今、かなりマズイ音がしてたべ!」
「だ、だいじょうぶなの!?」
全員が腐川に注目する中、彼女は唐突に起き上がる。
しかし、小町は彼女の様子がおかしいことに気が付く。
「と、冬子ちゃん…大丈夫?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。あ、死体! 死体があるぞ! ゲラゲラゲラゲラゲラ!」
不二咲の死体を見ては大笑いする腐川に、石丸はそっと頷く。
「全く大丈夫ではないな! ここは彼女を自室で休ませるべきだ!」
「じゃ、じゃあ、私が連れてくよ!」
朝日奈が腐川を連れて、女子更衣室から出ていく。
「それでは、捜査を始めるとしよう。時間は限られているしな」
十神の言葉に、それぞれ動き始める。
「それでは、前のように兄弟と大神くんが見張りを担当してくれ!」
「おう。わかったぜ、兄弟」
「うむ…。任された」
石丸に指示された二人は、女子更衣室の扉近くに立ち、不二咲の死体付近を見張る。
他にも、霧切は黙々と不二咲の死体を触って調べていく。
苗木は、不二咲の死体の周りの状況や凶器らしいダンベルを調べていた。
そして、小町はというと、不二咲の死体の捜査は苗木と霧切で十分だと判断し、他の何人かと同じように女子更衣室から出てきていた。
「ねえ、盾子ちゃん。ちょっと、気になることがあるからついてきてくれる?」
「え、別にいいけど…どこ行くの?」
「倉庫だよ」
♦
小町は、江ノ島(戦刃)を連れて、一階の倉庫に来ていた。
「小町ちゃん…なんで倉庫に?」
「たぶん、千尋ちゃんは昨日の夜にトレーニングに行ったはず。普通の人はトレーニングルームで運動するときにジャージを使うだろうから、数を確認しようと思って。まぁ、夜中に泳ぎたくなったって可能性もなくはないだろうから、念のためにスクール水着も調べるけど。それで、他の皆にも話を聞いて、もしも千尋ちゃんが持っていってないなら、彼女は誰かに呼び出されたってことになるだろうから…」
「なるほど…それで倉庫に」
感心する江ノ島(戦刃)を尻目に小町は、監視カメラの方を向く。
「ねえ、ちょっと、モノクマ―」
「なにー」
小町が呼びかけると、実に気軽にモノクマが現れる。
「ここのジャージとスクール水着の数のリストってある? 捜査のために使いたいんだけど」
モノクマは悩むような仕草をする。
「捜査のためか~。じゃあ、しょうがないなぁ、リストはダメだけど、二人には特別に教えてあげる。ここのジャージや水着は、それそぞれ、色もサイズも人数分だけ置いてあって、一定以上少なくなったら補充してるんだ」
「そっか、ありがとう」
「それじゃあ、捜査頑張ってねー」
モノクマが去ると、小町と江ノ島(戦刃)はすぐにジャージとスクール水の数を調べる。
「黒のジャージのL一着とYLが二着、白のジャージのMが一着、赤のジャージのYLが五着。青のジャージのSが一着、スクール水着が三着か…」
「あ、このうちの黒のYLは私の。寝巻用とトレーニング用に使ってる」
「そっか、じゃあ、むくろちゃんが持って行った分を除くと、たぶん、水着は葵ちゃんが持って行ってるはずだから、他に水着を持って行った人を捜せばいいのかな?」
「どうだろう…よく使う人なら数着は持ってるかもしれない」
「じゃあ、みんなにどのジャージを持って行ったか訊こうか」
小町と江ノ島(戦刃)は、倉庫を出る。すると、誰かの大声が聞こえた。
「ちょっと、待ってよ十神君!」
苗木が、十神を早足で追いかけていた。
小町は、そんな二人を呼び止める。
「ちょっと、二人とも。何かあったの?」
十神は小町を睨む。
「貴様には関係ない」
「と、十神くん!? えっと、腐川さんの様子がおかしいからって朝日奈さんが言ってたから様子を見に行ってたんだ」
「どうだったの?」
小町が訊くと、十神は興味なさそうにそっぽを向く。
「ふんっ…。いつにもまして妄想の激しいやつだったよ」
「そうなんだ…。あ、そうだ。二人に訊きたいことがあるんだけどいいかな?」
「訊きたいことだと?」
「うん。二人ってジャージか水着は持ってる?」
「俺は安物のジャージなど着ないし、プールには行かん」
「僕も、ジャージも水着もは持ってないかな」
「そっか、ありがとう」
不思議そうな顔で答える二人に、小町はお礼を言って江ノ島(戦刃)と共にその場を後にする。
♦
苗木たちと別れた小町と江ノ島(戦刃)は、腐川の部屋の前に来ていた。
腐川の様子を心配している朝日奈に話を聞くためである。
「え? ジャージと水着?」
キョトンとした顔をする朝日奈に小町は頷く。
「うん。葵ちゃんなら、何着か持って行ってるよね?」
「うん。赤いジャージを何着かとスクール水着を三着持ってるよ」
「そっか、ありがとう。それじゃあ、ついでに冬子ちゃんにも訊いておこうかな」
小町は腐川の部屋のインターホンを押す。
『ピンポーン』
しかし、腐川は一向に出てこなかった。
(………………………………イラッ)
一向に出てこない腐川にイラついた小町は、腐川の部屋のインターホンを無心で押しまくった。
『ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン「う、う、うるさいわよ! む、む、無視してるのがわからないの!」
小町がインターホンを連打していると、部屋から腐川がすごい勢いで飛び出してきた。
「あ、出てきた」
「あ、あ、あれだけうるさくされたら出てくるわよ! な、何なのアンタ!」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。怒ってるなら、ほら、深呼吸深呼吸」
「あ、あ、あ、あんたのせいでしょ!」
「ちょっと、訊きたいんだけどいいかな? 訊いたらすぐにどこかに行くから」
「わ、わかったわよ。何が訊きたいのよ?」
「冬子ちゃんって、ジャージとかスクール水着とかって持ってる?」
「も、持ってないわよ。運動とかしないし」
「あおっか。ありがと、もういいよ」
小町は、そのまま腐川の部屋から去っていった。
♦
他のメンバーに話を聞くために歩き回っていた小町と江ノ島(戦刃)は、玄関ホールで葉隠に遭遇した。
「へ? ジャージ? それなら、俺は白いのを一着持ってるべ」
「そうなんだ。ありがとう、康比呂さん。ところで、こんなところで何してるの?」
「ああ、あれだべ」
そう言って、葉隠は玄関ホールの隅に置いてあるレターケースを指さす。
「あそこに今まで死んだ奴の電子生徒手帳が入ってるらしいべ」
「そうなの?」
「そうだべ。あと、モノクマが言うにゃ、あそこのを借りてって勝手に使うのは違反じゃないらしいべ」
「ってことは、あれを使えば男子でも女子更衣室に入れるってことになるね」
「だな。んじゃ、俺は他を調べてくるべ」
そう言って、葉隠は玄関ホールを出ていく。
「……今回、康比呂さんは犯人じゃなさそうだね」
「え…どうして?」
きょとんとする江ノ島(戦刃)に小町は説明する。
「だって、今のって小町たちに説明する意味ってないよね? 本当だったら、女子更衣室が死体発見現場だから、容疑者は女の子だけって考えるのが普通だろうし。さっきの情報は、みすみす『自分も容疑者の候補になる』って言ってるようなものだもん」
「なるほど…」
「それに、康比呂さんが犯人なら、血でどこかに別の人の名前を書くぐらいしそうだし」
「…たしかに」
「あら? お二人は何をなさっているんですか?」
「ん? セレスちゃん」
かけられた声に振り向くと、そこにはセレスがいた。
「一応、わたくしは他の場所も見て回っているんですが、お二人もそうなんですか?」
セレスの質問に、小町は首を横に振る。
「ううん。小町たちは昨日千尋ちゃんがトレーニングルームに言った理由がトレーニングするためだって情報を確定させるためにみんなに話を聞いて回ってるの」
「話を…ですか?」
「うん。倉庫のジャージとスクール水着の減った数が合わなければ、千尋ちゃんが持って行った可能性があるからね」
「そういえば、わたくしは昨日の夜に不二咲くんに会いました」
「そうなの?」
「ええ。苗木くんにしか教えていない特別な情報ですけど、そういうことなら特別に教えてあげましょう。昨夜、彼女は倉庫でスポーツバッグに青いジャージを入れてました」
「青いジャージ…たしか、Sサイズのがそうじゃなかった?」
江ノ島(戦刃)の確認に、小町は首を捻る。
「そうなんだけど…なんで男物を持っていったんだろう」
小町の疑問に、セレスは訝しむような顔をする。
「……? あのジャージには、男女の種類があったんですか?」
「うん。ジャージのデザインは男女ともに同じだったんだけど、サイズがYS、Sみたいに男女で別れてたんだ」
「昨日は随分急いでいたようでしたし、間違えたのかもしれませんわね」
「うーん、どうなんだろう…。まぁ、今は他の人にも訊いておこっかな」
「そうですか…。では、ここはあなたたちが調べたようですし、わたくしはこれで」
セレスは、さっさと玄関ホールを出ていってしまう。
「じゃあ、小町達も行こっか」
「…うん」
♦
「ああ? ジャージだあ?」
「うん。みんなは持っていってない?」
小町と江ノ島(戦刃)は、死体発見現場の女子更衣室に戻り、そこにいた大和田、大神、霧切、石丸、山田に話を聞いていた。
「なんでジャージなんか…」
「たぶん、千尋ちゃんはトレーニングに来たんだろうけど、それにしてはこの現場ってジャージもないし、水着もなかったからさ。もしかしたら、犯人に呼び出されたって可能性もあるから、それを潰すためにも教えてもらっていいかな?」
「そういうことか。俺は黒いジャージを持ってるぜ」
「我は、トレーニングは実家の道場の道着を着るので、ジャージは持っていない」
「私もジャージは持ってないわね」
「僕も同じだ」
「僕も持っていません! そもそも、僕の体系に合うジャージがあるのか疑問ですがね!」
「誇らしげに言わないでよ…。つまり、この中でジャージを持ってるのは紋土君だけってことだね。あ、ちなみに紋土君がジャージを持っていったのがいつかも聞いていい?」
「ん? 別にいいぜ。俺が持ってったのは、倉庫に入れるようになった日だな。体がなまっちまうといけねえから、トレーニング用にだ」
「そっか。ありがとう」
小町が全員分を聞き終え、それをメモした時、放送を知らせる音が鳴る。
『ピンポンパンポーン! 僕もそろそろ待ち疲れちゃったし、いい加減始めちゃおうか! それじゃあ、オマエラは前と同じように一階にある赤い扉にお入りください!』
「…いよいよだね」
誰に向けたものかわからない小町の独り言に、その場の全員に緊張が走る。
そこにいた全員がゆっくりと、しかし、確かに一歩ずつ進み、一階の赤い扉に入る。
そして、苗木が入ってきた時にモノクマが現れる。
「全員揃ったー? って、あれ? 一人足りないよ」
全員が周りを見る。
「いねーのは、腐川のやつみてーだな」
大和田が呟くと、モノクマは肩を怒らせる。
「あの根暗女! いいもん! ボクがすぐに連れてくるから!」
モノクマが姿を消したすぐ後に、モノクマが腐川を引きずってくる。
「うう…うう…い、嫌だっていってるのに…無理やりこんな…引きずるなんて…」
「これで全員集合っと。じゃあ、正面のエレベーターにとっとと乗って裁判場に行きましょうか! じゃ、ボクは一足先に行って待ってるよ!」
モノクマは腐川の不満もどこ吹く風と、気楽に言って去って行った。
「では、向かうとしようか。不二咲千尋の犯人の正体を暴きにな…」
そう言って、十神は真っ先に乗り込む。
そして、そこから順番に全員がエレベーターに乗り込むと、ゆっくりとエレベーターが動き出す。
エレベーターが下降していく中、小町は考える。
(私が持ってる情報…。これが裁判に役立つ手がかりだといいんだけど…)
エレベーターが唐突に止まった。
エレベーターから降りると、裁判場は前回と内装が変わっていた。
「どう? 模様替えしたの! 新鮮じゃない? ワクワクじゃない?」
「そんなこと言われても、小町困るんだけどなぁ…」
「ふん。どうでもいいだろう。とっと、学級裁判を始めるぞ」
「いいねえ~、十神くん! やる気だねぇ~! 嫌いじゃないよ、そういうの。じゃあ、始めるからさ! オマエラは自分の席に着いてくださーい!」
小町は、前回と同じ席に着く。
そして、再び始まる。
命がけの、学級裁判が。
♦
『学級裁判 開廷!』
モノクマ「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう! 学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できれば、黒だけがおしおき。だけど…もし間違った人物をクロとした場合は…クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす! さてと、じゃあ、まずは…凶器の話からいってみましょうか~!!」
石丸「モノクマファイルに書いてあったが、鈍器のようなものとは一体何だ?」
小町「いや、現場に普通落ちてたよね?」
葉隠「きっと、鉄パイプだべ」
苗木「それは違うよ、葉隠くん。不二咲さんに致命傷を与えた凶器はきっと、現場にあったダンベルだよ。あのダンベルには血痕もついていたし、他に現場に凶器なりそうなものもなかったよね」
霧切「被害者の頭部の傷も、ダンベルの形と一致していたわ。疑う余地はない…間違いないでしょうね」
え…? 傷跡が一致してたって、まさか…
朝日奈「傷跡を調べたの?」
山田「ひー! 気色悪ッ!」
いや、わからなくもないけど言い過ぎでしょ…。
霧切「……………」
十神「では、その続きは俺から話すとしよう。ここからは犯人の話だ。といっても…その犯人はすでに判明しているがな…」
葉隠「なっ!? マジか!?」
十神「不二咲千尋を殺したのは、連続殺人鬼ジェノサイダー翔だ」
朝日奈「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなの…いくらなんでもありえないよ!」
十神「なぜありえない?」
朝日奈「だって、いくらなんでも…。ていうか、根拠がないじゃん」
苗木「ちょっと待って、朝日奈さん。根拠ならあるよ。書庫にジェノサイダー翔の事件をまとめたファイルがあったんだ」
十神「それによると、今回の事件には過去のジェノサイダー翔の犯行との共通点があった」
小町「共通点? ………もしかして、あの血文字のこと?」
十神「そうだ。しかし、今回の事件にはもう一つ共通点があった。そして、それは一般には公開されていないことだ。苗木、教えてやれ」
いや、そこまで言ったならもう自分で言ってよ。
苗木「それって、磔のことだよね?」
葉隠「磔…って、不二咲っちがされてたアレか?」
苗木「うん。でも、その磔に関しては、警察上層部しか知らないらしいんだ」
十神「警察上層部しか知らない情報をなぜ犯人が知っていたか。それは、犯人がジェノサイダー翔だからだ」
大和田「マジ…かよ…ッ!!」
セレス「では、ジェノサイダー翔はわたくしたちの中にいるのですか?」
十神「…腐川冬子だ」
小町「……へ?」
今、なんて?
腐川「え…?」
十神「腐川冬子がジェノサイダー翔の正体だ」
山田「うそーーーーーん!!」
朝日奈「ちょ、ちょっと待ってよ! 腐川ちゃんは血を見ただけで気絶するほど血が苦手なんだよ! 殺人鬼なら、あり得ないでしょ!」
十神「ジェノサイダー翔は、そいつであってそいつじゃない…。それが、今の質問への答えだ」
ジェノサイダー翔は冬子ちゃんであって冬子ちゃんじゃない…どういうこと?
葉隠「なぞなぞか!? 回りくどいべ!」
苗木「たしか、あのファイルにはジェノサイダー翔は“解離性同一障害”…つまり、多重人格の可能性があるって書いてあったんだ」
多重人格? ……もしかして。
小町「千尋ちゃんの死体を見て気絶した後の口調が変わってた冬子ちゃんって…」
十神「ジェノサイダー翔の方の人格だろうな」
石丸「そういえば、様子がおかしかった! 彼女の代名詞である“陰気な口調”が亡くなっていた」
なんで清多夏君はいちいち余計なこと言うかな。
江ノ島(戦刃)「そういえば、口調が変わった後の腐川って、死体の血を見ても気絶しなかったよね?」
大神「たしかに、普段ならまた気絶してもおかしくなかったはずだ」
十神「そういうことだ。つまり、腐川には、血の苦手な人格とそうでない人格が混在しているということだ」
朝日奈「もしかして、腐川ちゃんがずっと部屋に籠っていたのって…」
十神「自分の中にいる殺人鬼が外にでないようにしていたんだろうな」
腐川「ど、ど、ど、どうして…?」
あれ? 今の言い方、まるで…
朝日奈「そうだよ、なんでそんなことまでわかるの!?」
小町「それは違うんじゃないかな?」
朝日奈「違う? 何が違うの?」
小町「今の冬子ちゃんの『どうして』の言い方…もしかして、白夜くんはそこかで冬子ちゃんにジェノサイダー翔の人格について相談されてたんじゃない?」
十神「ほう…よくわかったな」
小町「お兄ちゃん譲りの人間観察術です!」
十神「前にも聞いたが…お前の兄とやら、相当変わったやつのようだな」
小町「まぁ…否定はできないかな」」
霧切「それはまたの機会にしましょう。今は、腐川さんの方が先決よ」
十神「そうだったな。前座は終わりだ。後は、本人から直接聞くとしよう」
冬子ちゃんはビクッとする。
腐川「ほ、本人! そ、そ、そ、そ、それててててててて…!」
冬子ちゃんはバタリと倒れる。
だけど、すぐに飛び起きた。
ジェノ「アタシに代われって事かしらんッ!!」
うわっ! なんか出た!?
ジェノ「あっれ? もしかして、ばれちゃった系!? ま、しゃーないもんね! アタシが“超高校級の殺人鬼”ことジェノサイダー翔! 本名は腐川冬子って、ダセー名前だけどね!!」
小町「えっと、ジェノサイダー翔ちゃん? いきなり本題で悪いんだけど、今あなたが千尋ちゃんを殺した犯人だって話になってるんだけど…」
ジェノ「残念ッ! アタシは殺してないよー!」
大神「そんな言葉を誰が信じると思う」
セレス「アリバイでもあれば、別ですが」
ジェノ「アリバイって、なんかそれっぽい!」
なんか、危機感に欠けるなぁ…この人。
十神「今回の事件と過去のお前の犯行…完全に手口が一致している。諦めろ、犯人はお前だ」
苗木「ちょっと待って、十神君。それは違うよ。今回の事件と過去のジェノサイダー翔の事件は、完全には一致してないよ」
小町「完全に一致してるわけじゃないってことは、どこか違いがあったの?」
苗木「うん。過去のジェノサイダー翔の事件での凶器はみんな鋭利なハサミだったんだ。だけど、今回はダンベルだった。それと、磔に使われてるのも、過去の事件だと凶器と同じハサミだったんだ。だけど、今回の不二咲さんの殺人では、“ロープ上のもの”ってなってたでしょ」
山田「あのー、単純に道具がなくて代用しただけでは?」
一二三君の当然の疑問にジェノサイダー翔ちゃんは不敵に笑う。
ジェノ「じゃじゃじゃじゃーん! アタシっていつでもどこでも殺れるように、持ってるのよねー!」
まさかの、完全装備だった…。
ジェノ「だけどね、まーくん! それだけじゃないでしょ?」
苗木「まーくんって…ボクのこと?」
ジェノ「今回の殺人と過去のアタシの殺人には、決定的な相違点があるの。何かわかるかしら?」
苗木「…………もしかして、不二咲さんは女だから?」
ジェノ「ビンゴ入りましたー!」
小町「えっと…どういうこと?」
苗木「過去のジェノサイダー翔事件では、被害者はみんな男だったんだ」
ジェノ「だって、私は腐女子なんだもん! 根暗人格が毛嫌いしてる、貴腐人コースまっしぐらの腐女子なんだもん! だから、アタシが信念と情熱を持って殺すのは、萌える男子だけ!」
石丸「つまり…萌えないから女である不二咲くんは殺さないということか」
小町「たしかに…自分の犯行じゃないって誤魔化すには中途半端だし、ただ殺すには、ジェノサイダー翔ちゃんの犯行の要点を掴みすぎてるね」
すると、誠君はおもむろに白夜君の方を見やる。
苗木「ねえ、十神君。もしかして、君がやったんじゃないの?」
十神「ほう…。なぜ、俺だと思う?」
苗木「たしか、書庫で言ってたよね? ジェノサイダー翔の事件ファイルと同じものを自分の家で見たって。それに、不二咲さんを磔にするために使われていた道具って、図書室の延長コードだったよね? 十神くんはここのところずっと図書室に入り浸ってたし、なくなってればすぐにわかるはずだよ」
十神「なるほどな。それだけか?」
苗木「考えてみれば、十神くんの行動は捜査中から妙だった。死体を発見する直前、男子更衣室より女子更衣室に先に入ろうとしてた」
十神「それのどこが妙だというんだ? 被害者の不二咲は女だった。だったら、何もおかしいところはないだろう?」
小町「うーん、でも、あの時なら、確かにおかしい気がするね」
山田「そうですか? 隙あらば女子更衣室に入る。男子として、当然の行動ですッ!」
小町「一二三君、ちょっと黙っていてくれないかな?」
山田「ひぃいいいいいいいい!? すみませんでしたぁああああ!!」
朝日奈「それで、なんでおかしいの?」
小町「おかしかったんだよ。小町が十神君に合流して誰が見つかっていないか訊いたら、まだ半分以上いたんだもん。それなのに男子がいきなり女子更衣室に入ろうとするなんておかしいよ。だって、まだ被害者が誰かわかってなかったはずだもん」
石丸「なるほど…。ジェノサイダー翔以外で犯行が実行でき、道具を調達できたのも十神君だけ…となると、犯人は十神くんしかありえない!」
苗木「…………本当に、そうなのかな?」
小町「え? どういうこと?」
ここまで条件がそろってるのに…。
苗木「ねえ、十神君。君は女子更衣室で不二咲さんを殺したの?」
十神「どういう意味だ?」
苗木「いや、もしかしたら、不二咲さんは別の場所で殺された可能性があるかもしれないんだ」
別の場所で殺された可能性? どういうこと?
小町「なんでそう思うの?」
苗木「まず、事件現場の女子更衣室に血の付いたポスターがあったよね? あれって、グラビアアイドルのポスターだったんだ。それで、男子更衣室には、女子に大人気のアイドルグループ『トルネード』のポスターがあったんだ。でも、これっておかしいよね?」
葉隠「普通逆だべ」
苗木「そうなんだ。それに、大神さんが前にプロテインコーヒーをカーペットに落としてシミを作っちゃったって言ってたんだ」
シミ? でも、あれ?
小町「あのカーペットって、血痕以外にシミなんてなかったよね?」
苗木「うん。それで、プロテインコーヒーのシミのついたカーペットが男子更衣室にあったんだ」
小町「えっと…つまり、男子更衣室と女子更衣室のカーペットとポスターが入れ替えられてたって事?」
セレス「ですが、現場が違うとなると、不二咲さんはどうやって男子更衣室に入ったのでしょう?」
葉隠「それなら、簡単だべ! 不二咲っちは、玄関ホールにあった桑田っちの電子生徒手帳を使ったんだ! モノクマが言うにゃ、アレを使うのは校則違反じゃないらしいからな!」
小町「そういえば、玄関ホールのレターケースに犠牲になった二人の電子生徒手帳が入ってるって言ってたね」
苗木「でも、葉隠くんが言ったことはできないと思うよ。ボクはあのケースの中の電子生徒手帳を見たんだけど、電源が入ったのは二つの電子生徒手帳のうち、舞園さんのだけだったんだ」
小町「ってことは、もう一つのは必然的に怜恩君のだから、千尋ちゃんが男子更衣室に入るのは無理そうだね…」
霧切「本当にそうかしら?」
セレス「…どういう意味ですか?」
霧切「男子更衣室には入れた可能性は、まだあるんじゃないかしら」
小町「男子更衣室に入れた可能性って…一体、どんな可能性なの?」
霧切「それを確かめるためにも、一旦学級裁判を中断しましょう」
モノクマ「ちょ、ちょっと待ってよ! 中断なんて、ボクは認めないぞ!」
霧切「学級裁判がもっと盛り上がるわよ?」
モノクマ「そうなの? じゃあ、いいや」
小町「いいんだ…。けっこう、適当だなぁ…」
そして、私たちは響子ちゃんに連れられて、女子更衣室を訪れる。
石丸「今更なんだというのだ! ここは散々調べたぞ!」
霧切「被害者の死体をもう一度じっくり調べてみるといいわ」
小町「それじゃあ…男子に任せるわけにもいかないし、小町がやるよ」
私は千尋ちゃんの体をペタペタと触っていく。
霧切「もっと、隅々まで調べなさい」
え…これいじょうって…ごめん、千尋ちゃん! …って……………嘘。
小町「ええええええええええええええええええええええええ!?」
山田「え!? なに!? どうしたの!?」
小町「うわああああああああああああああああ!!! お、男だああああああああああああああ!!?」
山田「あー、なるほど男の方でしたか。いやー、男の娘とは、本当にありがとうございました……って、えええええええええええええええ!?」
石丸「ほ、本当ぬわぁのかーッ!?」
十神「不二咲が…男…だと…!?」
モノクマ「おやおや? オマエラ知らなかったの? そんなの、最初からわかりきってる事じゃん! 不二咲千尋は男の娘だよーッ!!」
腐川「おのれ、女装とは…萌えやがる! 殺っときゃよかった…!」
モノクマ「これが霧切さんが見せたかったものだったんだね。たしかに、こいつは盛り上がってきましたね! じゃあ、このテンションのまま裁判場に戻って、議論を再開させましょうかー!!」
裁判場に戻った私たちは、再び議論を再開する。
霧切「不二咲くんは男だった。これなら、普通に男子更衣室に入ることができる」
小町「たしかに、それを考えると犯人は『男』ってことになるね」
石丸「桑田くんの電子生徒手帳が壊れている以上、自分の電子生徒手帳を使うしかないからな! やはり、犯人は十神くんだ!」
小町「いや、それはないと思うよ。さすがに、図書室にあったものを入り浸っていた十神君が犯行に使ったにしては、いくらなんでもあからさますぎるよ。真面目に犯行を行ったとは思えないし…たぶん、十神君は早朝に捜索してた時、最初に死体を発見したからあんな偽装工作をしたってところじゃないかな?」
十神「ほう…。そこまで読むか。苗木といい、お前といい…実に面白いぞ。お前の言うとおりだ。俺はたまたま死体を発見したから、あんな偽装工作をしてみただけだ」
石丸「そんな言葉を信じられるわけないだろう!」
小町「だけど、白夜君言ってたよね? 『不二咲千尋』は女だって、アレは演技じゃなくて本気でそう言ってるみたいだったし、何よりさっき千尋君が男だってわかった時に、本気で驚いてたよね? もしも犯人なら、そんなことありえないよ」
朝日奈「じゃあ、真犯人は誰なの?」
大神「誰か。昨夜に不二咲を見たものはいないのか?」
葉隠「そりゃねーべ、どうせ不二咲っちを見たのも、犯人だけだべ…」
あ、そうだ。一人いた。昨日、千尋君にあった人が。
苗木「ちょっと待って、たしかセレスさんは、昨日不二咲くんを見たんだよね?」
セレス「そういえば、そうでした。私は苗木くんと比企谷さん、江ノ島さんにだけこのことを話したんですが、昨夜寄宿舎の倉庫で不二咲くんに会いました。その時、彼はスポーツバッグを持って、ジャージなどを詰め込んでおられました。あの時の彼は相当急いでましたし、恐らく誰かと待ち合わせしていたのかと」
朝日奈「その相手が犯人ってことだよね? 一体誰なんだろう…」
霧切「あら…見当ならついているじゃない」
小町「え? そうなの?」
霧切「比企谷さん、ジャージについて調べたあなたならわかるはずよ。誰が犯人なのか…それじゃあ、セレスさんが見た不二咲くんが持っていたジャージと比企谷さんが調べたジャージの情報を検証をしましょう。そうすれば、犯人が見えてくるはずよ」
私とセレスちゃんの情報が重要って事か…。責任重大だね、頑張らないと。
霧切「それにしても、トレーニングに行こうとしていた彼は、どうしてあんなジャージを選んだのかしら?」
石丸「あんなジャージ? …もしや、犯人が選んだジャージと彼のジャージはお揃いだったのだな!」
でも、彼が、持ってったの青いジャージだから、それはないだろうなぁ。
大和田「だったら、俺のは黒いジャージだし、アイツのは青いジャージだからな。俺は違うな」
…え?
小町「ちょ、ちょっと待って!? 紋土君、なんで千尋君のジャージが青だって知ってるの? 小町もセレスちゃんも、そんなこと一言も言ってないのに…」
十神「おい、セレス! 不二咲が持っていたジャージの色は何色だった!」
セレス「たしかに…青色でした」
小町「小町が盾子ちゃんと調べた時も、青のジャージを持っていったのは、ジャージの減った量から千尋君だけだったんだよ…」
苗木「ねえ、大和田君は、どこで不二咲くんが青いジャージを持ってるって知ったの?」
石丸「きっと、昨夜彼を見たんだ! そうだろ、兄弟!」
大和田「あ、ああ! 昨日の夜にアイツが歩いているのを見たんだ!」
苗木「それはないよ。セレスさんが言ってたんだけど、不二咲くんはセレスさんに会った時にジャージをかばんにしまってるんだよ」
大和田「いや、昨日の夜俺がジャージを選んだ時に、たまたま青いジャージが一つ減ってるのに気付いたんだ…」
小町「紋土君…それは絶対にありえないよ」
石丸「な、なぜありえないと断言できる!」
小町「紋土君がジャージを持っていったのは、倉庫に入れるようになったその日だって、彼自身が証言してたんだよ。それはその時一緒にいた全員が証人だし、何よりジャージが全部で何着あったかを知ってるのって、小町と盾子ちゃんだけなんだよ。そうだよね、モノクマ?」
モノクマ「はい、そのとーりです! 捜査のためにって、特別に二人だけに教えたんだ!」
小町「総数がわからないのに、たった一着が減っていることなんて、気づけるわけないよね?」
大和田「ぐっ…!?」
石丸「待てッ! それだけじゃ、兄弟が犯人というには根拠が弱いだろう! 決定的な証拠を出したまえ!」
霧切「たしかに、これだと根拠が弱いかもしれないわね…」
小町「そんなあっさり…。でも、小町はこれでネタ切れだよ?」
山田「ふっ…どうやら、僕の出番が来たみたいですね!」
苗木「そういえば、山田くん、『犯人に繋がる証拠を見つけた』って言ってたよね?」
山田「でも…やっぱり関係ないかも」
葉隠「急に自信なくすなって…出してみ?」
山田「これです…」
そう言って、一二三君が取り出したのは…
小町「電子生徒手帳?」
江ノ島(戦刃)「もしかして、現場からなくなった、不二咲のやつじゃない?」
山田「たぶんそうだと思うんですが…壊れて電源すらつきませんでした」
小町「怜恩君のといい、結構簡単に壊れるんだね…」
モノクマ「失礼なッ! あれは対ショック耐性があるうえに、完全防水なんだよッ! そう簡単に壊れたりしないのッ!」
……ショック耐性に完全防水、確かにすごいけど、もしかして…
小町「もしかして、この電子生徒手帳って、精密機器だから熱に弱いとか?」
モノクマ「ドキッ!」
山田「やっぱりねッ! この電子生徒手帳はサウナに落ちてましたから、そうだと思ったんですよ!」
苗木「サウナ…!? ねえ、大和田君。君、もしかしてこの間の石丸君との勝負の時に電子生徒手帳が熱に弱いって知ったんじゃない? あの時君は、服を着たままサウナに入っていたから、ポケットとかに電子生徒手帳が入れっぱなしになってたんじゃないかな。だから、不二咲くんの電子生徒手帳は狙って壊すことができたんだ」
石丸「ま、待ちたまえ! それはあくまで推測だろう! そんなものが証拠になるわけ…「じゃあ、試してみる?」…へ?」
小町「だったら、試してみようよ。今の誠君の推理が正しいなら、紋土君の電子生徒手帳って、動かないか怜恩君のを代用してるかのどっちかってことだよね? じゃあ、電子生徒手帳の電源を入れてみて、その時表示される名前が紋土君のものなら、紋土君の電子生徒手帳は壊れてないし、誠君の推理が間違ってたってことになるよね?」
石丸「なら、兄弟! 言ってやりたまえ! おまえたちの推理は間違っていると!」
しかし、紋土君は何も言わない…いや、言えないんだろう。
でも、紋土君は少ししてから、ゆっくりと口を開く。
大和田「その必要はねえよ。そうだよ…オレが…殺したんだよ…」
これって…認めたって事?
『学級裁判 閉廷!』
♦
大和田の自供に石丸が愕然とする。
「きょ、兄弟…何を言ってるんだ…?」
「ここまで来たら…諦めるしかねーだろ。モノクマ…始めてくれよ。投票タイムってやつをよ」
「ラジャー!」
心底楽しそうに言うモノクマに、石丸が慌てる。
「ま、待て…待ってくれ…!」
「嫌です、待ちませんッ! では、お待ちかねの投票タイムを始めます! オマエラ、お手元のスイッチを押してください! さぁて…投票の結果、クロとなるのは誰なのか! その答えは…正解なのか不正解なのか――ッ!?」
前回のように、モノクマメダルがスロットに入れられ、スロットが回る。そして、ゆっくりと大和田のところで止まり、スロットから大量のメダルが出てくる。
それの意味するところは、誰の目からも明らかだった。
「あらら…今回も大正解でしたっ!! そう、不二咲千尋くんを殺したクロは…大和田紋土くんなのでした!」
「………………」
陽気にモノクマが言うも、大和田は何も言わず、俯いた押し黙っていた。
「ちなみに、投票は満場一致とはいきませんでした。石丸くん、自分に入れるなんて、多数決に救われましたね」
「ぼ、僕は信じないぞ…兄弟が人を殺すはずが…」
「すまねえ…」
「な、なぜ謝るッ!! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだ! なぜだなんだ! なぜ、そんなことをしたんだッ!!」
大和田はただつらそうにするだけで、何も答えない。
「では、黙秘権を行使してる大和田くんの代わりに、ボクが説明しましょう。今回の事件には、ある二人の悲しい男の物語があったのです。聞きたくない人は適当に飛ばしてね」
♦
モノクマはゆっくりと語り始める。
「ある少年がいました。
少年の名は、不二咲千尋…
彼は、自分の“弱さ”に、極度のコンプレックスを抱いていました。
『男のクセに…』
幼いころから、そんな言葉を言われ続けた彼は、その弱さを克服できず…逆に、“さらなる弱さ”の中に、自分自身を隠してしまいました。
『女性になりきること』
それが彼の選択した“逃げ道”だったのです。
しかし、いくら女らしい格好をしても、自分の中に根を張ったコンプレックスは、そう簡単には払拭されませんでした。
殻はしょせん空…
彼のコンプレックスは消えるどころか、ますます強くなりました。
そんな時、この“コロシアイ学園生活”で彼は思い知ることになるのです。
しょせん、世界は弱肉強食。強く生きなければ生き抜けない、と…
そして、憎くて愛らしいモノクマから発表された“恥ずかしい思い出”の暴露イベント…
彼の“恥ずかしい思い出”は当然
『男のクセに女の格好をしている』
それは彼にとって、絶対に知られてはいけない秘密でした。
それがバレてしまえば、彼は今まで以上に周りから責め立てられる。
そんな窮地に、彼は激しく絶望する…そう思っていました。
ですが、ウザいことの彼はこのことをきっかけにして、強くなろうとしやがったのです!
そう思い立った彼は、すぐに行動に移すことにしました。
心と体を一から鍛えなおそうと、その日からトレーニングを始めました。
その時、トレーニングをするにあたって、誰かに協力をお願いしようと思いました。
そして、彼が選んだのが…」
「オレってことだろ…!」
「そうですね。『男の約束』のこだわる暴走族ヤローの大和田くんになら、打ち明けても大丈夫だろうと不二咲くんは思いました。大和田くんは不二咲くんにとって、“憧れ”であり、男の象徴としての目標でもあったのです」
そこで、霧切が何かに納得したように頷く。
「じゃあ、大和田くんは約束を守るためにあんなことをしたのね」
「あんなことって…死体を男子更衣室から女子更衣室に移動させたこと?」
「ええ…。恐らく、アレには偽装工作の意味もあったんでしょうけど、彼の秘密をを守りたかったから…という目的もあったんでしょうね。だからこそ、彼の電子生徒手帳を壊したんでしょう?」
「……………」
「なぜだ? 話を聞けば聞くほど、わからないッ!! 君たちには互いに信頼しあっているではないかッ!? なのに…どうしてなんだ…?」
「……………」
「黙秘してる大和田くんの代わりにボクがお答えしましょう! 大和田くんには、どうしてもバラされたくない秘密があったのです。それは、大和田くんは、“自分のお兄さんを殺した”んだよ!!」
「…ッ!!」
大和田はこれまでで、一番つらそうな顔をする。
「大和田くんには、大和田大亜と言うお兄さんがいました。お兄さんは彼が暴走族に入るきっかけであり、荒んだ家庭で育った大和田君にとって、唯一心を許し、尊敬できる人物だったのです。
お兄さんのカリスマによって作られたチームは瞬く間に日本最大のチームとなりました。
ナンバー1のお兄さんとナンバー2の大和田くん。最初のうちはそれでよかったのですが、お兄さんが引退し、大和田くんが二代目を継ぐ時に、お兄さんの偉大さが、大和田くんを重圧となって襲ったのです。
『初戦はナンバー2』、『このチームは兄が一人で作った。弟はオマケだ…』と、チーム内でささやかれる陰口が、毎日のように彼の耳に入りました。
だからこそ、彼はみんなに自分の力を認めさせるためにお兄さんに単車での勝負を挑んだのです。
しかし、そのレース中に、悲劇が起きてしまいました。勝利を焦って、無謀な走りをした大和田くんは、反対車線に飛び出し、正面から来たトラックにぶつかりそうになりました。それをお兄さんは、自分が身代わりになることで助けたのです。
そして、弟の腕に抱かれながら、彼は言いました。
『後は頼んだ。絶対にチームを潰すな。“俺とお前”で作ったチームなんだから。男同士の約束だぞ』と。
大和田くんは、チームの皆には、事故の真相を伏せておくことにしました。
兄との約束を守るため。
チームを分裂させないため。
自分の“弱さ”のせいで兄が死んだとは、口が裂けても言えなかったのです!
そして、その嘘によって、チームは再び一つになりました。
こうして、大和田くんは嘘によって固めた強さで生きていくことになりました。
しかし、この“コロシアイ学園生活”では、いくら強がっても、自分は簡単に死ぬ“弱い存在”だと、思い知らされたのです。
そして、憎らしくも愛らしいモノクマによる暴露イベントでの彼の“恥ずかしい思い出”は、“大和田紋土は自分の兄を殺した”だったのです」
大和田は、自分の罪を告白するように、振り絞るように口を開く。
「もしも、このことが知られたら、チームが潰れちまう。兄貴の死も…オレが背負い込んだ罪悪感も…全部無駄になっちまうんだよ…。だから、暴露のことを聞いた時から、俺の中にもやもやとした不安があって、それがいつの間にか、ガチガチの大きな不安になっちまってたんだ! そんな時だった、アイツに秘密を打ち明けられたのは。アイツの『変わりたい』って言葉が俺の胸に突き刺さった。オレが今までやってきたことが、全部否定された気分だった。…嫉妬だよ。オレは、不二咲の強さに嫉妬したんだ…自分の弱さと向き合おうとする強さに…! ぶっ壊れた…嫉妬だよ……。後のことはよく覚えてねえ。気が付いたら、足元に血まみれのアイツが倒れてて、オレの手には、血の付いたダンベルが握られてた」
「きょ、兄弟…!」
「いつまでたっても、オレが自分の弱さを克服できないせいで、不二咲千尋を殺しちまった! とんでもねーことをしちまった!!」
「アーハッハッハッハッハッハ! オマエラなんてそんなもんなんだよ! たかが過去のために、簡単に仲間を殺す生き物なんだよッ! いつまでたっても外の世界への未練を断ち切れない。そんな奴らのどこが“希望”だっていうんだよ!」
大笑いして言うモノクマを、小町は睨む。
「そうなるように仕向けたくせに…」
「おやおや、比企谷さん、いってくれるね~。でも、もうそろそろ時間だからさ」
モノクマの言葉に、石丸の方がビクッと反応する。
「時間とは、まさか…」
「そう! おしおきの時間です!」
「ま、待ってくれ!」
石丸がモノクマに取りすがるも、モノクマは、まったく相手にしない。
「今回は、超高校級の暴走族である大和田紋土くんのために、スペシャルなおしおきをよういしました!」
「待つんだ、待ってくれ!!」
「では張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
「待てって言ってるじゃないか―――――ッ?」
悲痛な叫びをあげる石丸を申し訳なさそうに見ながら、大和田は呟く。
「すまねぇな兄貴…男同士の約束…守れなかった……」
モノクマが目の前のスイッチをハンマーで叩くと、デフォルメされた大和田がモノクマに連れていかれる映像が流れと共に、その画面の下には、『オオワダくんがクロにきまりました。おしおきをかいしします』という文字が移っていた。
そして、大和田は奥のカーテンから出てきた手錠のついた鎖に捕まり、そのままカーテンの奥へと消えていく。
カーテンの奥には、サーカスのような内装で、大和田が縛りつけられたバイクにモノクマが乗っていて、バイクが球形のケージに突っ込むところだった。
そして、ケージに入る直前にモノクマはバイクから飛び降り、大和田の乗ったバイクがケージに突っ込み、ケージ内をぐるぐる回りながら、どんどん速度を上げていく。
バイクが速度を上げるとともに、ケージの周りで、バチバチと電気が弾ける。そして、その電気がどんどん大きくなり、ついには目が眩むほどになって、光が収まって、ようやく目を開けると、ケージの中には、誰も載っていないバイクだけが残された。
そして、いきなりケージ近くの機会のブザーが鳴り、中から『大和田バター』と書かれた、大きなバターが出てきた。
「……え…あ…嘘……」
バターの意味を悟った小町は、その狂気にうまく言葉が出ない。
他のメンバーも同じなのか、誰も碌に声が出ていなかった。
そんな彼らを尻目に、モノクマは『大和田バター』をホットケーキに塗りたくる。
「死よ優しく笑え…そして、あなたの魂に安らぎよあれ…」
皮肉にしか聞こえないことを言いながら、むしゃむしゃとホットケーキを食べるモノクマの様子に、小町は再び戦慄する。
「………く、狂ってる…」
ここでの命のあまりに軽い扱われ方に、小町は自分自身の気が狂いそうになるほど、自分の心が悲鳴を上げていることに気が付く。
(ねえ…おにいちゃん。私は…私たちは、どうすればいいの?)
そんな問いかけに答えを出してくれる兄はここにはいない。
「きょ、兄弟……うわぁぁぁぁああああああああああ!!」
石丸の悲痛な慟哭が、裁判場に虚しく響いた。
「はっ! あっけない幕切れだな。この“命がけの殺人ゲーム”も、もっと楽しめるといいが」
つまらなそうに言う十神を朝日奈が睨む。
「あんた、仲間が死んだっていうのに、まだそんなこと言ってるの!?」
「当然だ。俺にとってこれはゲームだからな」
小町は、そんな十神を一周まわって冷めた目で見ていた。
「白夜君…」
「なんだ、比企谷。まさか、お前もそこの女のようなことをいうつもりか?」
「別に。そんなことは言わないよ。人と足並みを揃えようとしない人なんて、お兄ちゃんで慣れてるし。でも、『君ごとき』の『ツマラナイ』人間じゃ、どうせ途中で、何もわからなくなるだけだよ」
「…なに? それはどういう意味だ!」
「さあね。自分で考えてよ」
ただの戯言かと思っていた十神は焦るように訊くが、小町は十神から興味をなくしたようにそっぽを向く。
十神は気を取り直したように苗木と小町を見る。
「今回のことで分かった。俺がクロになる時、苗木に一番気を付けた方がよさそうだ。そして、比企谷。兄のことといい、今のといい…お前にも何かありそうだな」
「ふうん。好きにすればいいんじゃないかな」
小町は興味なさげに虚空を見る。
話が一区切りついた時、霧切が口を開く。
「ねえ、モノクマちょっと訊いていいかしら?」
「ん? 何かな? 今結構面白かったのに…」
「なんであなたは毎回あんな大がかりな処刑を行うのかしら?」
「当然だよ。これは全世界、全人類へのおしおきでもあるんだからね!」
「おおげさね…」
呆れたように言う霧切に、モノクマはむっとする。
「おおげさじゃないよ。これは、“すべての希望を絶望に変えるおしおき”なんだよねッ!」
「どういう意味?」
「べっつにー! 意味なんてないよ!」
「ふん。意味などどうでもいいだろ。おい、モノクマ、先に宣言しておく。このコロシアイに俺が勝ち残ったその時には、お前を殺す。これは勝利を宿命づけられた“十神”の名にかけて、だ…」
「かっこいー! まるで主人公だね! ただの雑魚キャラにしておくには、もったいないよ!」
「殺す…絶対にだ…!」
十神が憎々しげにモノクマを睨む。
「もう、そう怒らないでよ。うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!アーハッハッハッハッハ!」
モノクマの高笑いと共に、不二咲千尋と大和田紋土の事件は幕を下ろした。
そんなモノクマを小町はどこかのだれかのような、濁った眼で見つめ続けていた。
♦
学園内のとある場所。
そこには、モノクマとある人物たちがいた。
「いやはや、それにしても、これはいいペースだ。うん、これってすごくいいペースだよ! やっぱり膠着状態になる前に動いてくれた彼女の功績が大きいよね? 一旦加速し始めたら、ジェットコースターと一緒。もう止まらない。恐怖と絶望は、すべてを凌駕するスピードで突き進む…。でも、残念なのは。せっかく連中の中に送り込んだ君たちの活躍の場が、なくなってしまうことなんだよね…。本来なら、口火を切るのは、君の役目だったんだけど…。ま、いっか。君はこのまま学園生活を盛り上げてちょうだい。みんな、それを望んでるんだからね…」
「……………一つ聞いていい?」
「ボクのスリーサイズ以外なら」
「“十七人目の高校生”って…?」
その言葉に、モノクマともう一人の人物がビクンッと震える。
「おっと、それはボクの奥の手だから、いくら仲間同士でも、教えられないよ。にしても、さすが“超高校級の妹”。お兄さんから受ける影響は、ちゃんと心に残ってるみたいだね。うぷぷぷぷ、うぷぷぷぷぷぷ。」
今回は小町が若干壊れました。
そこで、ちょっとした補足情報
この話における“超高校級の妹”とは、九頭竜妹のような才能ではなく。有体に言って、上の兄姉の影響をとても受けやすいもの…と解釈してください。
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