夏の花火大会から付き合い始めた大学生ようちかのお話です。

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わかりてオタクのために10000文字弱したためました、少々長いですが、どうぞ、見納めください。


あの夏の日から

 それは、高校三年生の夏、沼津の花火大会だった。

 この日はAqoursみんなが久しぶりに集まった、2年生のみんなとは毎日顔を合わせてるけど、卒業してしまった年長組とは本当に久しぶりに顔を合わせた、なんだか、久しぶりに会うと少し気まずさなどがこみ上げてきて、なんだかおかしかったのを今でも覚えている。

 それで笑って、前と同じような関係に戻ったのも。

 そして、みんなで祭りを回った、とっても楽しくてワクワクが止まらなくて、私は千歌ちゃんを独占してみんなと来たはずなのにほぼ二人で回った。

 でも、なんだか千歌ちゃんは元気がなくて……なにかあったのかなぁ…?

 

 私の心配事を切り裂くように、スピーカーからアナウンスが流れる。

 

『まもなく、花火大会が開始します』

「わっ!!千歌ちゃん!!花火大会始まっちゃう!!はやくみんなのところに行かないと!!」

 

 場所はきっと鞠莉ちゃんがオハラ家の力で良い場所をとってくれてるはず!!

 そう思って、千歌ちゃんの手を引こうとする。

 しかし、千歌ちゃんはそこから動かなかった。

 静かに俯いて立っている。

 

「……どうしたの、千歌ちゃん…?もしかして……楽しくなかった?」

「ち、ちがく…て!その……えと、えと……うんと…」

 

 千歌ちゃんはそう言うとまた俯いてしまう、本当にどうしたんだろう、そんな俯いてちゃ、いつも元気な千歌ちゃんの顔が台無しだ。

 こりゃ、しっかり聞き出さなきゃいけないでありますな。

 

「ちーかちゃん、本当にどうしたの??」

 

 私は小首を傾げ、千歌ちゃんの顔を覗き込むように見る。

 泣いていた。

 その瞬間、心臓がきゅうっ、となるのを感じた。

 愛おしい。

 この目の前にいる幼馴染の女の子がたまらなく愛おしく感じた。

 そう感じる前に私は千歌ちゃんを抱き寄せていた。

 そして、頭をポンポン、と叩きながら、こう呟く。

 

「全く…どうしたの?このお嬢さんは……この渡辺曜、なんでも聞くであります」

 

 抱き寄せられた胸元で泣いていた千歌ちゃんは少し鼻をすすりながら、こう聞く。

 

「本当?ほんとに本当?変だって思わない?」

「何年一緒にいると思ってるのさ……なにがあっても、私は千歌ちゃんのことを変だ、なんて言わないよ」

「そっか、えへへ……じゃあ…えいっ」

 

 ドッカーン…と大きな音がして、空に丸い花が咲いた。

 しかし、私はそんなことを気にしている暇なんてなかった。

 キスをされた、目の前の女の子に、幼馴染に……千歌ちゃんに。

 私はそんな千歌ちゃんのキスに一生懸命応えるために、しっかりと唇をくっつけ直す。

 そんな一生忘れられない思い出になるであろう時間が過ぎ去る中、後ろでは大きな音と共に花火が上がっては消え……上がっては消えていく、私は初めて儚さ、というものを味わったのだろう、心臓がドキドキして、何度も何度もきゅう…ってなって……本当に、こんな幸せな時間が本当に永遠に続いてしまえばいいんだ、心からそう思った、しかし、そう思うのも悲しく、私達は唇を離す、そして、千歌ちゃんが一歩下がり、はにかみながらこう言う。

 

「私、高海千歌は、渡辺曜ちゃんのことがだいっだいっ!!!だーい好きなんだ!!!!」

 

 その元気な告白に私はこう言い返す。

 

「私のほうがもっと、もーっと!!!大好きだもんね!!!」

「むーそんなこと言うんだ…へーじゃあ私はよーちゃんの好きなところ上げるもんね!!んとね、まず可愛い!!」

「いや、可愛いって…えへへ…そんなそんな……じゃなくて!!私は千歌ちゃんの笑顔が好き!!太陽みたいに笑うその笑顔!!」

「て、照れるじゃん…やめてよ……えっとね、運動神経がいい!!」

「えっ、そこ好きなところって言う!?ちょっとズレてる気が……それで言うなら私は千歌ちゃんのちょっと不器用なところが好き!!」

「んーそれは褒められてるのかな…??でもでも!!!私のほうが……」

 

 結局私と千歌ちゃんは花火の打ち上げが終わるまで花火を無視して、お互いの好きを高めあった。

 この会話を聞いた人はいなかっただろう。

 皆、空に上がる花に夢中だ。

 ある一人を除いて。

 

「まずい、まずいわよ!!何よこれ!!尊すぎるわ!!一向に来ないもんだから探しに来たら何よこれ……あ、待ってインスピレーションがっ!!!あの二人で曲作れるわよ!!!新曲はあの二人のイメージで決定ね!!」

 

 そういう桜内梨子は鼻から流れ落ちそうな血をティッシュで拭き取り、(新刊の同人誌もかけそうな勢いだわ。)と、その場をあとにしたのであった。

 

 

 そして、私、渡辺曜と高海千歌は晴れて付き合うことになったのであります。

 

 そして、その日から約1年がたった。

 

「千歌ちゃ〜ん、今日何講義目??」

「今日は…私は1と5だよ〜」

「げ、1は取ってるけど5じゃなくて6取ってる……お互い暇ができちゃうなぁ、んー私はカフェで暇潰すかなぁ」

「えぇ〜でも千歌今日の5講義出なくても……」

「だーめ、少しでも首を絞めるようなことをしちゃ駄目なんだよ??まぁ放課後どこか行こうよ、最近流行りのタピオカでも…」

「たぴおか!?うんうん!!行く!!今日の講義頑張る!!!」

「よっし、それじゃあ今日の予定は決まり!お互い頑張りましょー!」

「ヨーソロー!!」

「ちょ、それ私のセリフ!!」

 

 へへへ、と笑って玄関から出ていく千歌ちゃんを追って、私は玄関を開ける、今日も幸せな時間に全速前進!!敬礼!!

 

 

 私と千歌ちゃんは今、都会の大学に入学して、二人でルームシェアをしながら大学に通っている、アパートの家賃は、二人が大学に慣れるまで、という期間で私のお母さんと千歌ちゃんのママが出してくれている。

 といっても、ほとんどその条件を母親二人が忘れているため、忘れたままでいてくれたら嬉しいんだけど……。

 しかし、一応お互いにバイトはしている、最初は両立が難しかったけど、今じゃ慣れてしまって、なんともない。

 そして、今日は久しぶりに二人共バイトがオフなのだ、素晴らしい、こんなに素晴らしいことはない、千歌ちゃんと放課後デート、千歌ちゃんと放課後デート、頭の中はもうそれでいっぱいだ。

 講義の話など適当に板書をとっただけで、全く理解などしていないに等しい、そんなことよりもデートなのだ、デート。

 そのことを考えるだけでニヤけが止まらなくなり、必死に抑える。

 もう付き合って1年だが、まだこれの抑え方を私は知らない。

 

 講義が終わって、すぐに千歌ちゃんのもとへと向かう。

 きっと待たせているだろう、急がなければいけない。

 

「千歌ちゃん、待っ…!!」

 

 千歌ちゃんが大学生の男に絡まれていた、まぁ、可愛いからしょうがない、しかし、千歌ちゃんが困っている、これは成敗しなくては。

 

「ねぇ、本当に、ちょっと遊ぶだけじゃん、なぁ?」

「えと、その、本当にやめてください……」

「悪くはしないか……あ?」

 

 私は千歌ちゃんに伸ばした男の手を掴み、睨む。

 

「あの、嫌がってるんでやめたらどうですか?それにこの子は"私の"モノなんで」

「は?なに言って…」

「離れろ」

「はっ、ひぃ…!」

 

 そう、わかりやすく男は怯えるとそそくさとしっぽを巻いて逃げていった。

 

 ふぅ…疲れたであります、低い声を出すのはいつになっても慣れないなぁ。

 

「よーちゃん!!」

 

 その声が聞こえる頃には千歌ちゃんは、私の胸に飛び込んできていた。

 

「怖かった…怖かったよ…よーちゃん…」

「うんうん…怖かったね、大丈夫だよ、千歌ちゃん、大丈夫大丈〜夫」

「うん…」

 

 今日は普通に家に帰ろうか、と私は千歌ちゃんに言って、千歌ちゃんはそれを首を縦にコクコク、と振り、了承する。

 

 はぁ…せっかくのオフが台無しであります…。

 

 心の底からあの男を恨む心があるが、千歌ちゃんが横にいるならいいや、と思い、そんな記憶はさっさと頭から削除する。

 さて、明日は私はバイトだぁ……千歌ちゃんは…オフだったっけ、うーん今日みたいなことがあるかもって思うと、心配だなぁ……。

 って…ダメダメ!!こんなことはもう忘れる!!よし!わすれた!!もう忘れた!!

 と言うだけで消せるなら苦労はしないが、私は消したことにして、千歌ちゃんの手を強く握り返しながら家路についた。

 

 

千歌視点

 

 それじゃあ、行ってくるであります!何かあったらすぐ連絡してね!とよーちゃんは元気に玄関の前に立って敬礼をする。

 

「行ってらっしゃいませ!!我が家の船長!!」

 

 と、私はよーちゃんに言葉を返して、にへらっと笑う。

 その私の笑顔にどこか、ホッとしたような表情を浮かべ、私の頬に素早くキスをする、私がびっくりしているのを面白がっているのか、よーちゃんはニコッと笑い、玄関から飛び出していった。

 

「もう、ほんとに可愛いんだから…よーちゃんは」

 

 私はよーちゃんにキスされた所を少しさすりながらニヤニヤとする。

 自分でも分かるぐらいに、顔は紅潮していた。

 それを見てよーちゃんは笑ったのだろう。

 なんだかそう思うと気恥ずかしくなる。

 

 リビングに戻り、テレビを一人で見る。

 テレビに映っているのは、世間がキャーキャーと黄色い声援を送っているイケメン俳優だ。

 正直こんなイケメンより、よーちゃんの方が何倍もイケメンだし、何百倍も可愛いと私は思う。

 

 昨日のよーちゃん…かっこよかったなぁ……でも、助けられちゃったし……自分の身は自分で守れるようにならないと……。

 

 そう思いたち、私はまず梨子ちゃんに連絡する。

 

 プルルルップルルルッ、という短い連続した電子音が2コールぐらい鳴るとプツっと言うような小さな音とともに声が聞こえる。

 

『ぅん……どうしたの?千歌ちゃん』

「あ、ごめん、起こしちゃったかな…?」

『いや、大丈夫よ、少し昨日夜ふかししちゃっただけだから…』

 

 と、言う梨子ちゃんの言葉の後に小さく呻く善子ちゃんの声が聞こえた。

 あ~……っと思いながら、私はちょっと顔を赤くする。

 まぁ付き合ってるならそれぐらいするよね、うんうん。

 

『……オッホン、ところで何?何かあったの?』

「あ、そうだ、えっとね、ナンパにあったときって梨子ちゃんどうしてる…?善子ちゃんがどうしてるかでも良い」

 

 携帯の奥で梨子ちゃんがふむ…と声を出す。

 そしてこう切り出す。

 

『さてはしつこいナンパにあったわね?大丈夫?乱暴されなかった?』

 

 流石、鋭い。

 

「う、うん、そこはよーちゃんが助けてくれたから」

『流石曜ちゃんね…それで?曜ちゃんが守ってくれるならいいんじゃないの?』

「いつもよーちゃんが近くにいるとは限らないからさ〜」

 

 へへへ〜とニヤつく、昨日のことを思い出すとついニヤけが止まらないくなる。

 その私の様子に梨子ちゃんはやれやれ…というようなため息をつき、こう言う。

 

『なるほどね、まぁいいわ、どんなことから喋ればいいの?』

「まずは断り方…かな」

『えっとね、そもそも私はナンパに合うことが少ないから、あんまりしっかりとは言えないけど……』

「いや、それはないでしょ」

『いや、無いのよね、本当に』

「あ~まぁ梨子ちゃんは高嶺の花ってところあるから…守り硬そうだし」

 

 実際、学校が統廃合されたとき、学校に秘密裏(?)にファンクラブが出来ていたが、誰も告白どころか、近づくことすら恐れ多いというような風な空気があった。

 

『……まぁ否定はしないわ、まず私は相手の方を見ないわね、視線を使って、興味のないことを示すわ』

「それでも食い下がってきたら?」

『んー、睨む?』

「だいぶハードル高いよ…」

『まぁ千歌ちゃんがやったらただ可愛いだけね、ふふっ』

「もうっ!!」

 

 私は梨子ちゃんがからかってきたことに少し照れながらそう言う。

 少し、はにかんでから梨子ちゃんはまた話を始める。

 

『ごめんごめん、えーとね、よっち…善子ちゃんはね、まず堕天使モードになるわね、あとでちょっとその様子の動画送るわ、面白いわよ』

 

 ふふふっ、と笑う梨子ちゃんの後ろで少しガサガサっと音がした。

 善子ちゃんが起きたのだ。

 

『……何…面白がってるのよ!!!』

『きゃっ!!!』

『けーしーてー!!お願い!!けーしーて!!』

『嫌よ、私の思い出なんだもの』

 

 そこからわちゃわちゃ、と面白おかしい会話をするのを聞いて、あ、これあっち側につながるな、と私は勘付き、それじゃあね、と電話を切ろうとする。

 

『あ、うん!またなんかあったら相談してね!!あぁ!もう!そこはだ…め……んっ//』

「はいはい、楽しんで〜」

 

 私は邪魔しないようにそそくさと通話を切る。

 それにしてもあの二人はどこまで行くんだろうか……っていうか善子ちゃんの行動力すごい、昨日学校終わってからすぐに梨子ちゃんの家に行ったのだろうか、すごいなぁ…。

 

「とりあえず、聞いたことメモしとかないとね、えっとメモ帳メモ帳……」

 

 幸い、近くにあったメモ帳とペンを私は手に取り、カリカリと書き込んでいく。

 ついでに二人はお盛ん、とも。

 

「ふぁ〜……眠くなってきちゃった……このまま…寝ちゃおう…」

 

 そうして、私は遅めの二度寝に意識を落としたのであった。

 

 

 

 

曜視点

 

 今日は珍しく早くバイトを上がれたため、昨日飲めなかったタピオカドリンクを帰り道に買って、千歌ちゃんと家で一緒に飲もう、と思った。

 私はミルクティー、千歌ちゃんはカフェオレだ。

 紙袋に入れてもらって、手にさげて、駅に向かう、電車に乗ったとしても、降りるのはすぐ近くの駅だ、問題ないだろう。

 

 いつもは混んでいるが、時間が時間なため混んでいなく、とてもスピーディーに買うことができた、少し上機嫌だ。

 

 歩いていると、頬を汗が伝う。

 

「あっついなぁ……夏だねぇ〜」

 

 そんなことを一人で呟く、えっと、沼津の花火大会はいつだったっけ、今年も多分Aqoursみんなで集まるだろうから……ん〜わがままを言うと、千歌ちゃんと二人きりで今度はしっかりと花火をみたいであります…。

 

 そんなことを考えながらスマホで軽く調べる。

 もう1週間前まで迫っていた、つまりこれは、私と千歌ちゃん、二人が付き合い始めてもうすぐ1年だということを示していた。

 

 う〜んなかなか1年という実感が湧かない…毎日が幸せすぎて時間が流れるのが早すぎる……。

 

 ふへへ、っと変な笑いが出る、そうこうしているうちに、駅に着き、少し電車を待つ。

 数分待つとホームに電車が入ってくる。

 私はそれに乗り込み、空いてるはずのない座席を見てうんざりしながら吊り革に手をかける。

 

 そして、目的地の駅に着いて、ホームに出る。

 あとは歩くだけだ。

 一応紙袋の中を確認する。

 うん、少し結露して水滴が出てるけど、問題ないはず。

 

 早く千歌ちゃんに会いたいためか、無意識的に私は少し早歩きで歩く。

 そして、ものの数分でアパートに到着する。

 慣れた動きで部屋の鍵を開け、ドアを開く。

 

「ただいま〜……ん?」

 

 いつものおかえりの言葉が聞こえないことに少し疑問を覚え、とりあえずタピオカドリンクを冷蔵庫に入れ、リビングのドアを開ける、そこにはソファで体を丸めてちっちゃくなって寝ている千歌ちゃんがいた。

 一瞬天使かと空見したが、しっかりと見つめると千歌ちゃんだった。

 いや千歌ちゃんは紛れもなく、天使なのだが。

 すー…すー…と寝息を立てている千歌ちゃんの前にかがみ、その可愛い頬をつんつん、とする。

 ん…と小さい声を出して私の指を千歌ちゃんは寝ながら握る。

 

 ちょっと……可愛すぎやしないですかね……。

 

 私はどうしてもその目の前にいる可愛すぎる姫をキスで目覚めさせたいという衝動に駆られる。

 

 しかし、やっていいのか……?こんな無防備な女の子に、卑怯ではないだろうか…?

 ええい!面倒くさいことを考えない!!全速前進!!ヨーソロー!

 

 ちゅっ、と短く、その可愛い唇に口づけをする。

 すると、お姫様は瞼をあげ、先程唇に感じた感覚を指で確かめるようにして、急に赤面する。

 

「もー!よーちゃん!!そういうのは起きてるときにしてよ!!」

「ごめんごめん、あまりにも可愛かったもんだからさ……」

「んもぅ!」

 

 私の言葉に、また千歌ちゃんは顔を真っ赤にする、赤みかんだ。

 そして、私は冷蔵庫から2つのカップを取り出してこう言う。

 

「昨日飲めなかったタピオカ!買ってきたから一緒に飲も!!」

「え、やったぁ!!わぁーい!!」

 

 本当にこの反応はちっちゃいときからずっと変わっていない、とても無邪気で、本当にかわいい。

 

 というか、久しぶりのお家デートだ、と思いながらタピオカドリンクを飲む。

 飲み物と一緒に上がってきたタピオカのモチモチとした食感に、あっおいしい…と小さくつぶやく。

 それに反応してか、千歌ちゃんがおいしいね!と笑う、幸せだ、心から買ってきてよかった、と思う。

 

「あ、そうそう、沼津の花火大会、一週間後だよ」

 

 私はぱっと思い出したことを口に出す。

 そのことに千歌ちゃんは少し唖然としたような顔をする。

 

「一週間後って……土曜日?日曜日?」

「んとね…日曜日だっけな」

「ぅあ…まずい…バイトのシフトが……」

「あちゃ〜…どうしようか」

「ち、ちょっと誰かシフト変われないか確認してみる!!」

「頑張れ〜」

 

 そうして千歌ちゃんは寝室に入って行った、寝室からは千歌ちゃんの交渉の声が聞こえる、声色からしてだいぶ交渉は良い方に動いてるようだ。

 

 そして、数分すると、千歌ちゃんが飛び出してきた。

 

「良かった〜変わってもらえたよぉ……」

「いい人で良かったね」

「うん…ほんとにだよ……あ、バイト先にも電話しないといけないんじゃん!!」

 

 そう言うと千歌ちゃんはまた寝へ引っ込んでいった。

 せわしないなぁ、と思いながら私は苦笑いを浮かべる。

 まぁとりあえず良かった良かった、なんとか花火大会には行けそうだ。

 

 また1週間後に楽しみができた、明日からはまた早い一週間がすぎることだろう、そのことに私は心の底からワクワクした。

 

 

〜1週間後〜

 

 

「千歌ちゃ〜ん、準備できた??」

「あぁ…よーちゃん、ちょっと待って!んしょ…んしょ…」

 

 千歌ちゃんが一生懸命髪を結っている、その様子がとても健気でたまらない、私が手伝おうとすると、なぜか怒るのだ、その怒った顔もかわいいけど。

 

 髪を結い終わったようで、千歌ちゃんが出てくる。

 

「どう…かな?」

 

 いや、その小首かしげるの反則っ!!!

 危うく卒倒しそうになった自分をなんとか立て直し、可愛いよ!とサムズアップして答える。

 その私の言葉に千歌ちゃん幸せそうに笑う、それに釣られて私も笑顔になる。

 

 今日は夏らしく二人共浴衣を着て、沼津に向かう。

 千歌ちゃんはみかん色に薄紅色の山茶花の柄が入った着物で、私は水色に赤い菊の花の柄が入ったもの、帯は交換して千歌ちゃんが水色、私がみかん色だ。

 不思議と帯を変えても違和感がなく、なんだかフィットする感覚がある、そのことになんだかたまらなく嬉しさを感じる。

 

 そんな嬉しさに浸っている間に千歌ちゃんは下駄を履いて、玄関で手招きをしていた、あの顔は早く行きたくて行きたくてたまらない顔だ。

 はいはい〜、と返事をして、手を繋いで私達は一緒にアパートを出た。

 

〜千歌視点〜

 

 カラッカラッという音がとても心地良い、まるで歩いてる人みんながリズムを奏でているみたいだ。

 つい一年前までの癖で歌詞を思い浮かべてしまう、乗せる曲はないのに。

 少し、そのことに寂しさを覚える、二年前みんなで見たAqoursの輝き、それがもうもっと昔のことのように感じてしまって、たまらない。

 いつもはもうこんなことは考えないのに、この場所、沼津という場所はどうしてもそういうセンチメンタルな考えを連れてくる。

 それほど、私の沼津や内浦への想いは強かったのだ、と、再確認する。

 

「千歌ちゃん!?どうしたの!?」

 

 横から好きな人の声がする。

 何故かその顔は、とってもビックリしていて……?

 

 ありゃ?なんだこれ。

 

 頬を伝う、一筋の雫。

 それが涙だということに気づくのに数秒かかり、急に流れたことに驚きながら急いでハンカチで拭う。

 

「いや、なんか前のこと思い出しちゃって……なんか涙が出ちゃった」

 

 そう私は包み隠さず話す、こういうときのよーちゃんは嘘だとすぐに気づくのだ、いつもは鈍感なくせに…。

 

「まぁ…そうだよね、最近は帰ってこれてなかったし」 

「うん、なんだかんだ都会に慣れてきたからかな?」

「そうだね、それでちょっと心配な心がなくなったのかも」

 

 そう言うと少しよーちゃんは空を見上げ、考える動作をする。

 そんな姿すらもカッコ可愛くて自然と笑顔が溢れる。

 

 そして私は、そんなよーちゃんの手を引き、みんなとの待ち合わせ場所に向かった。

 

〜曜視点〜

 

 

 千歌ちゃんに手を引かれ、一緒に走る、走ると言っても浴衣のため小走りに近い形だけど。

 なんだかこうしていると、少し前に戻ったようでとても楽しい。

 それにしても、千歌ちゃんが急に涙を流したときは本当にどうしたのかと思った、一瞬私がなにか悪いことをしたかと思ったレベルだ。

 でもそうじゃなくて安心した。

 

 そうして、数分走ると待ち合わせ場所に到着する、そこにはもうみんなが到着して待機していた。

 ルビィちゃんが私達に向かって手を振る、千歌ちゃんはその瞬間ルビィちゃんに向けて全力ダッシュして行った、そしてその後ろでは手を振っている梨子ちゃんの横で善子ちゃんが堕天ポーズ(?)をしていたりしていて、相変わらずだな、と思いながら懐かしさで胸が一杯になるのを感じる、何度かみんなで集まることはあったが、沼津で集まることは少ないためこういう気持ちになるのだ、と思う。

 千歌ちゃんが涙を流したのもわかる気がした。

 そして私は、みんなにこう言う。

 

「遅れたであります!!みんな!こんばんヨーソロー!!」

 

 と。

 その挨拶にみんながいつもの通りの私だ、と微笑みを浮かべながら敬礼を返してくれる。

 

 うん、みんなも変わってない、良いなぁこの感じ、とても安心する。

 千歌ちゃんと二人で居るときとはまた違う安心感だ。

 これもまた幸せなんだなぁ…と感じる。

 

 

「さて、皆さん揃いましたし、そろそろ行きましょうか」

 

 ダイヤちゃんが少し間をおいて、そう言う、みんなそれに同意して移動を始める。

 固まって動いてるように見えて、その実はそれぞれカップルで動いていたりする、しかし、千歌ちゃんはそんなことをお構いなしにみんなに話しかけまくっている。

 横に誰も居ないのが…正直寂しい。

 

「千歌ちゃ〜ん、曜ちゃんが寂しがってるわよぉ〜」

 

 からかうように梨子ちゃんが言う、私が梨子ちゃんに視線を向けると梨子ちゃんは私にウィンクをする。

 

 全く、梨子ちゃんは流石だな。

 

 梨子ちゃんに便乗して私は白々しくこう言う。

 

「あぁ〜千歌ちゃんが横にいないから寂しいなぁ〜」

 

 すると千歌ちゃんが少し慌てて私の横に戻ってくる。

 

「ごめんごめん…つい…」

「いや、いいんだよ、ちょっとからかってみただけだから」

 

 私はそう言って笑いかけて、少し小声で、寂しかったのは本当だけど、と付け加える。

 千歌ちゃんは聞こえなかったのか、子首を傾げる。

 

 全く…一番聞いてほしいところをなんで小声で言ってしまうのか…自分でも変だと思う。

 

 しかし、千歌ちゃんを見ていると、そんなことはどうでもよくなり、私は千歌ちゃんの手を握り、みんなにこう言う。

 

「ちょっと私達、別行動するね!!花火までには合流するから!!」

 

 じゃ、と、手を振ると、千歌ちゃんの手を引いて連れ回す。

 去年と同じような展開でなんだか不思議な気分になる。

 

「ねぇ千歌ちゃん!!去年告白されたのってどこだっけ!?」

「えぇ!?んーと、あそこの階段横…?」

「ぶっぶー!あそこの木の下だよ〜!」

「えぇ…??」

 

 少し移動すると見えてくるのは石階段と大きな木、それを見て千歌ちゃんは頬を膨らませる。

 

「んもぅ!!よーちゃん!!意地悪しないでよ!!本当に間違えたかと思ったじゃん!!」

「ごめんごめん、なんか一周年で舞い上がってるみたい」

「も〜よーちゃんはしょうがないんだから」

 

 千歌ちゃんはそう言うと、ちょっとはにかんで笑う。

 その瞬間風が吹いて、千歌ちゃんの髪を揺らす、綺麗に結われた髪が風になびく、そのワンシーンはまるで映画の切り抜きのようだった。

 

「綺麗だよ、千歌ちゃん」

 

 心からの声が口には出さないつもりがつい口からそんな言葉が出る。

 でも出したとしても慌てることはしない、目の前の女の子とは恋人同士なのだから。

 ちなみに言われた本人は顔を真っ赤にして顔を手で覆っている。

 

「もう…よーちゃん……それは本当に反則だよぉ……」

「えへへっ!照れ顔いただき!!」

 

 私は素早く携帯のカメラを起動し、千歌ちゃんに向けて、写真を撮る。

 

「よ、よーちゃん!!消して!!消してぇ!!」

「やぁだ!私の思い出フォルダに入れるんだもん!!」

「むぅ……」

 

 可愛い、とっても可愛い。

 なんだこの子は……この放っておけない小動物みたいな空気は…。

 その可愛さに私は耐えきれず、千歌ちゃんの肩を掴み、そっと千歌ちゃんの唇にキスをする。

 

「千歌ちゃん、好きだよ」

「うん…私も」

 

 そして、もう一度、唇を合わせ、お互い確認する必要もないほどの、好きを確かめ合う。

 更に愛を深めるように、自分を相手に刻みつけるように。

 そして、唇を離すと、口と口の間に糸が引く。

 なんだか、その糸がこのキスを名残惜しんでいるように感じた。

 

「みんなのところに…戻ろっか」

「うん、えへへ」

 

 私は千歌ちゃんと恋人繋ぎをして、みんなのところに向かった。

 

 

「そろそろかな?」

「まだですわよ、ルビィ、落ち着きなさいな」

「で、でもぉ…」

「か…かわいいお顔ですわねぇええもう、うちの妹わぁ……」

 

 そう、ルビィちゃんをダイヤちゃんが抱きしめて撫でようとすると、ダイヤちゃんが雷に打たれたような動きをして後ろを確認すると、ルビィちゃんの彼女…理亜ちゃんが居た。

 

「理亜ちゃん!!来てたの!?」

「さ、サプライズよ」

「わぁい!!」

 

 そう言ったあと駆け出して、ルビィちゃんは理亜ちゃんを抱きしめる、その仕草はまだ2年前と変わってなかった。

 

 理亜ちゃんが居るということは……聖良さんも居るんじゃ??

 

 そう思って見回していると隣の千歌ちゃんが肩を叩いて、こう言ってきた。

 

「聖良さんは居ないよ、なんか理亜ちゃんが一人で行きたいって言って聞かなかったらしい」

「なるほど〜相当会うのを楽しみにしていたと見えますなぁ」

「遠距離恋愛、いいねぇ〜」

「千歌ちゃんもそういうの憧れる??」

「いーや?私はよーちゃんが近くに居ないと生きられないよ?」

 

 そう言うと千歌ちゃんは私の体に身を任せてくる。

 

 本当に、私の彼女は本当にかわいい。

 

「そういうの…ほんとにズルい」

「えぇ〜?さっき自分でもやったのにぃ〜」

 

 そうして、千歌ちゃんはニヤニヤと私を見る。

 後ろから梨子ちゃんの卒倒する音が聞こえた気がするが、気にしない。

 

 そして、花火大会開始のアナウンスが流れる。

 花火大会が始まる。

 2人で歩き始めた夏のあの日から、1年。

 

 ドッカーン…という音を連れて、空に大きな花が咲く。

 

 その心をも震わすその音は、私達の始まりをもう一度告げるようだった。




どうだったでしょうか、刺さる人はどれだけいたかわかりませんが居てくれたら嬉しいです。
誤字脱字ありましたらぜひお教えください、修正いたします。


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